大気・水・環境負荷分野の環境影響評価技術(III)TOPへ戻る
大気・水・環境負荷分野の環境影響評価技術検討会では、環境影響評価の考え方やその技術手法について3か年にかけて検討し、本年度の検討をもってスコーピングから環境保全措置・事後調査までの一連の環境影響評価に係る検討を終えたことになる。
これらの検討を進める過程で、今後の環境影響評価をより良いものとしていくための幾つかの重要な指摘がなされた。以下には、本年度の検討事項である環境保全措置及び事後調査に係る事項のみならず、環境影響評価全般に係る事項についての検討課題について、分野共通の課題と各分野個別の課題とに分けて示す。
【各分野共通の課題】
●複数の環境要素にまたがる環境影響評価の考え方
水環境や土壌環境は、相互に関連するとともに、生態系の重要な構成要素になっているなど、他分野の環境要素と密接な関連を持っている。また大気、騒音、環境負荷などのその他の環境要素についても、その評価や環境保全対策が他の環境要素と関連したり、あるいは他の環境要素とのトレードオフの関係にあることもある。
環境影響評価において、環境要素の相互の関係を扱う考え方は、以下の2つの視点として整理することができ、それぞれについての検討を今後進めていく必要がある。
●事後調査結果の活用
調査、予測、環境保全措置などの環境影響評価技術の向上や、環境保全措置の妥当性検証、客観的な評価には、既に実施された環境影響評価における実績をレビューすることも有効である。
これらの実績を有効に活用するためには、事後調査や環境保全措置の効果等に係るデータや知見の蓄積が重要であり、国や地方公共団体などの公的機関がこれらの情報を集積・活用する仕組みを作ることが必要であると考えられる。
●評価の指標の考え方
本年度の検討の中では、環境影響評価に用いられる指標が必ずしも住民が実感できる指標になっていない場合があることが指摘されており、従来の規制や環境基準に用いられる指標だけでなく、住民の意識・感覚などの新たな視点に基づく指標について検討する必要がある。
●環境影響評価におけるコミュニケーションの促進(分かりやすいアセス)
環境影響評価におけるより良いコミュニケーションのあり方として、環境省は平成14年に「参加型アセスの手引き」をとりまとめたところである。事業者と住民等が相互に積極的に関わり合い、双方向で論点発見型のコミュニケーションを図ることを基本的方向とした参加型アセスの考え方をより進めていくために、環境影響評価の各段階におけるコミュニケーション技法として、方法書や準備書などの環境影響評価に関する図書や説明会等をより分かりやすいものにするための技術(表現のテクニックなど)などに係る検討を進める必要がある。
●累積的、複合的及び広域的な環境影響評価について
これまでの環境影響評価では、主に個別事業の実施段階において、その事業による直接的な環境影響について行われてきたが、一定の地域において複数の事業者が事業を行っている場合等、それら事業の複合的、累積的影響や地域環境全体への広域的な影響等を検討するには一定の限界があり、今後はそれらの限界を乗り越えるための制度のあり方や総合的な環境影響評価手法等について検討する必要があると考えられる。
【大気分野】
●地域総合大気質シミュレーション
大気質の予測においては、各事業の供用後における寄与濃度を事後調査により各々が把握することは困難である。しかし、各事業の寄与濃度を包含したバックグラウンド濃度の事後調査であれば、将来大気質濃度の検証が可能となることから、公的機関により、将来バックグラウンド濃度の推定及びその事後調査を可能とする地域総合大気質シミュレーションが実施されることが望まれる。
【騒音分野】
●基準の確立
騒音分野においては環境基準を始めとする多くの基準が定められているが、複合騒音や在来鉄道振動といった基準のない項目が存在する。環境影響評価において基準を第一に考慮することは、もはや一昔前のものとなったが、統一的な調査・予測・評価の手法に基づき環境への配慮を効果的かつ合理的に進めていくためには、公的な基準の確立が望まれる。
●「音」の新たな分野に関する知見の充実
「日本の音風景100選」に挙げられるような望ましい音環境の保全や騒音の猛禽類に対する影響の検討といった「音」の新たな分野についての知見の整理・充実が望まれる。
【水環境分野】
●生物の活動に関わる変動等を対象とした事後調査の考え方
富栄養化した湖沼や海域の水質は、生物の活動による変動が大きく、また、水底への懸濁物の堆積などによる底質性状の変化というような長期的な変化が考えられる場合もある。
このような生物の活動や底質性状の変化などの長期的な変化を対象として、事業実施による影響を把握し評価するための事後調査方法の考え方については、現段階では知見が十分ではなく、今後の調査・研究が望まれる。
●水循環系の環境影響評価手法についての調査・研究
本検討においては、地下水を中心に水循環的視点にも留意した検討を行ったが、水循環系そのものを対象とした環境影響評価の手法は現状では確立されているとはいえない状況にあることから、河川や湖沼などの地表水も含めた水循環系を対象にした環境影響評価手法について、調査・研究を進めていく必要がある。
【土壌環境・地盤環境分野】
●土壌環境・地盤環境分野の環境影響評価技術の調査・研究の推進
本検討では、土壌及び地盤の持つ様々な機能や役割について検討を行ったが、土壌環境及び地盤環境を対象とした調査・予測・評価、環境保全措置及び事後調査の手法は、事例も少なく、かならずしも確立されているとは言えない状況にあることから、土壌環境及び地盤環境を対象とした環境影響評価手法について調査・研究を進めていく必要がある。
例えば、土壌機能については、マクロ的な環境の状態を把握するため土壌動物を用いた方法や植生等から土壌環境を評価する手法の検討、また、土壌汚染については、最新の法令等について留意すると共に、自然由来や「リスク」の観点から環境影響についての検討などが必要である。
【環境負荷分野】
●法整備等への対応
温室効果ガスの削減対策の考え方としては、京都議定書において「共同実施(JI)」や「クリーン開発メカニズム(CDM)」などのメカニズムが示されており、これらのメカニズムの活用に必要となる制度の検討が国内外で進められている。環境影響評価における環境保全措置においても、これらの考え方や制度の動向等に対応した検討を行う必要がある。
有害物質については、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)」が施行され、今後、各種の事業体で取り扱う化学物質の排出量や移動量が明確にされ、排出係数などの知見が集積されていくものと考えられる。従ってこれらの整備状況に応じた環境保全措置の立案や評価手法を検討する必要がある。
廃棄物等に係わる国内施策として、「循環型社会形成推進基本法」に定める「循環型社会形成推進基本計画」が策定される予定である。「同基本計画」では排出者責任、拡大生産者責任という基本的な考え方に加え、具体的な数値目標や事業者等の各主体の果たすべき役割等が定められる予定である。これらの整備状況に応じた環境保全措置の立案や評価手法を検討する必要がある。
●個別事業の環境負荷削減への寄与の評価について
環境負荷分野においては、個別道路路線の整備によって構築される道路ネットワークにおいて削減される温室効果ガスや、個別発電所の高機能化によって電力事業全体で削減される温室効果ガス等、個別事業のみで評価した場合にはマイナスの影響を及ぼすものであっても、道路ネットワーク等のシステム全体や地域全体で評価した場合にはプラスの効果が期待できる場合などもある。
したがって、環境負荷分野においてはシステム全体における環境負荷削減に関する積極的評価の考え方や手法を整理し、具体化していく必要がある。
●原単位等の集積について
温室効果ガス・有害物質等の排出係数については、今後、「地球温暖化対策の推進に関する法律」や「PRTR法」に係わる調査において知見が集積されていくものと考えられる。
また、廃棄物発生原単位等は、経済情勢による影響を受けやすく、地域的な差異も大きいため、原単位の選択によっては予測結果と事業実施後(工事中、供用後等)の排出量に差が生じる可能性がある。
したがって、これらの排出係数や原単位等の精度向上のためのデータの蓄積・整理が必要と考えられる。