大気・水・環境負荷分野の環境影響評価技術検討会報告書
大気・水・環境負荷分野の環境影響評価技術(III)<環境保全措置・評価・事後調査の進め方>(平成14年10月)

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2 ケーススタディ

1)ケーススタディのねらい

「1 総論」においては、土壌環境・地盤環境の環境影響評価を進めるにあたっての基本的な考え方および調査・予測の手法、さらに環境保全措置、事後調査の進め方等について示した。
本ケーススタディにおいては、総論において示した基本的な考え方を具体的なイメージとしてとらえられるよう、想定の事業として例示した。
なお、本ケーススタディで示したものは、あくまでも考え方を整理するための一助とするものであって、実際の環境影響評価・環境保全措置・事後調査の見本ではないことに留意が必要である。
また、本ケーススタディーで検討する項目や手法および事後調査等は、対象となる事業特性や地域特性を考慮して選定したものである。従って、実際に環境影響評価を行う場合には、事業毎に特性が異なる点を留意して検討項目等を決定することが大切である。

2)ケーススタディの実施方針

ケーススタディは、土壌環境と地盤環境からそれぞれ1例を挙げた。土壌環境のケーススタディは、土壌機能劣化の観点から大規模な面的整備事業を想定した。また、地盤環境のケーススタディは、地下水位の低下に伴う地盤沈下の観点から半地下式道路建設事業を想定した。

[1]土壌環境のケーススタディ(面的整備事業)

《事業概要》

・大規模造成事業(対象区域500ha)

・山地および丘陵斜面を造成し、施設および道路を建設する。

[2]地盤環境のケーススタディ(半地下式道路建設事業)

《事業概要》

・平野部(都市部)におけるバイパス道路の建設事業

・半地下(掘割)式の構造物(L=0.7km)を建設する。

・構造物の建設時には、地下水対策として地下水止水工法(鋼矢板あるいは柱列式ソイルセメント壁)を採用する。

図3-2-1 ケーススタディの流れ

2-1 土壌環境

1)環境影響評価の進め方


(1)事業特性の設定

[1]対象地域

対象地はいわゆる里山地域であり、周辺地域から開発が進み、対象地は既開発地と里山の接点となっている。

[2]事業内容

里山~森林地帯において、複合(住宅・工場)団地のための面開発。

[3]基本条件

対象区域は図3-2-2に示す約500haである。

図3-2-2 対象区域図

(2)地域特性の設定

[1]自然的状況

・水環境の状況

計画地及びその周辺の河川・湖沼の分布は××に示すとおりである。計画地及び周辺を流れる河川は、川幅もせまい小規模の河川である。また、計画地周辺にはため池をはじめ10ヶ所の池が存在している。

・土壌の状況

計画地及びその周辺の土壌の分布状況を○○に示す。これによれば、東部の小起伏~中起伏山地には、乾性褐色森林土壌(黄褐系)や褐色森林土壌(黄褐系)が、また、丘陵地には主として乾性褐色森林土壌(未熟土系)が、更に西部の谷底平野には灰色低地土壌やグライ土壌等が分布している。

・地形及び地質の状況

地形区分はほぼ東半分を山地が占め、西側には丘陵をはさんで二つの平野が分布している。
計画地及びその周辺では、山地から丘陵東部にかけての基盤岩は花崗岩類が優勢に分布し、丘陵地には第三紀鮮新世の分布が見られる。注目される地質としては、「文化財保護法」に基づく国指定天然記念物が存在する。

・動植物の生息・生育の状況

既存の調査結果等によれば、動植物の生息・生育、植生及び生態系の状況、計画地及びその周辺の概況は、△△に示すとおりである。
なお、確認種のうち、「レッドリスト」「○○県レッドリスト」「県保全条例」「指定植物」「県保全調査」「種の保存法」等における注目種選定の観点及び学識経験者等の意見に照らして抽出される注目されるべき動植物種としては、○○に示すものが挙げられる。

[2]社会的状況

・人口及び産業の状況

○○県の人口は○千万人、このうち△市では○千人、×市では○千人である。計画地周辺の人口分布推移を見ると、特に計画地の南西側でベッドタウン化していることがうかがえる。

・環境保全関連法整備の状況

県においては昭和47年に公害防止計画を策定し、総合的に各種の施策の推進に努めている。計画地及びその周辺は、地域公害防止計画の策定地域に含まれる。××に公害防止計画策定地域を示す。

・土地利用の状況

地目別土地利用の状況を見ると、森林面積割合が約60%と大きい。計画地は全域が市街化調整区域及び砂防指定地となっている。また、ほぼ全域が地域森林計画対象民有林となっており、これら民有林の大部分は保安林に指定されている。計画地内の南東部は国定公園の第三種特別地域に指定されており、北西部から南西部にかけての一部は、宅地造成工事規制区域に指定されている。

(3)環境影響評価項目の設定

対象事業の実施による土壌環境への影響を想定する際に、影響要因と環境要素との関連について、マトリックスとともに以下に示すような影響のインパクトフローを用いて検討を行った。
対象事業の工事に係るインパクトフロー及び存在に係るインパクトフローを図3-2-3に、マトリックスを表3-2-1に、それぞれ示した。

図3-2-3 インパクトフロー図

表3-2-1 工事・存在・供用に係る影響マトリックス

注1)表中○印は、影響を受ける恐れがあるものであることを示す。
本ケーススタディでは、主に太枠について示した。

工事による影響については、土工における保水・通水機能の変化や物質収容機能等の変化が想定される。さらに、それに起因する生産性機能や生態系への影響が及ぶことについても考慮した。存在については、土壌生成の基盤としての地形地質が変化することに留意した。土壌汚染については、工事中や供用時に周辺環境に影響を与えるような土壌汚染が発生している可能性及び工事中や供用時の有害物質の使用に伴う土壌汚染発生の可能性について考慮した。

(4)調査・予測手法の検討

[1]調査予測手法検討の流れ

調査予測手法の検討の流れを図3-2-4に示す。調査予測手法の選定にあたっては、先に整理したインパクトフローを踏まえ、事業特性及び地域特性を勘案し、事業の実施による影響要因及び影響が想定される環境要素を設定した上で、適切な予測手法を選定した。

図3-2-4 調査・予測手法の検討の流れ

[2]予測手法の検討

影響予測手法の検討内容を表3-2-2に示す。

表3-2-2 影響予測手法の検討内容(工事の実施)

影響要因 想定される影響と予測手法
○○沢流域の造成 ・想定される影響 
流域を造成することにより、水循環系における地下水位の低下や、造成の際の樹木の伐採により、土壌の逸散・流出、保水・通水機能の低下、乾燥化が生じる可能性がある。 
また、これらに起因して、土壌構造の撹乱、生産性の低下が発生する可能性がある。
・予測手法 
造成計画・土地利用計画等から撹乱・埋没・被覆等により土壌が従来の機能を失う区域を明確にし、事業実施後の土壌の状況を、事業により失われる土壌機能のランク別面積をもって予測した。
道路等構造物の建設 ・想定される影響 
工事対象範囲の土壌中に汚染物質が含まれている場合には、工事により汚染物質が飛散や流出する可能性がある。
・予測手法 
工事対象範囲における現況を把握し、また、有害物質の使用方法・管理手法等あるいは有害物質の使用を回避・最小化するための対策、配慮事項について明らかにすることにより予測を行った。

[3]現地調査手法の検討

予測手法の検討の結果、土壌機能の変化の予測手法として、土壌が持つ現在の機能を失う区域を明確とすること、および現況把握を行うこととしたことから、特に土壌機能および土壌汚染についての詳細な情報が必要と判断された。
これに基づいて、表3-2-3のとおり、現地調査手法の検討を行った。図3-2-5に土壌調査を行った位置を示す。

表3-2-3 現地調査手法の検討内容

調査項目 調査項目と調査内容の検討結果
土壌の状況 土壌型、断面形態、理化学的特性を把握するため、地形・地質、植生の状況に応じて調査区を設定し、土壌断面調査、土壌サンプリングを行い、物理性(粒径組成、三相分布、孔隙組成)、化学性(pH、全炭素、塩基置換容量)の分析を行うとともに、現地踏査、観察により土壌分布を把握した。

これらの調査結果から、計画地における土壌の種類別の分布、土壌層の厚さ等を整理し、環境保全機能の観点から土壌の特性を解析した。

土壌汚染の状況 土壌汚染の状況について、工事による撹乱が想定される地点で土壌試料を採取し、「土壌の汚染に係る環境基準」の項目の分析を行なった。(注:自然由来の土壌汚染の可能性があるため調査を実施した。)

図3-2-5 土壌調査地点位置図

[4]調査結果・予測結果の概要

(ア)現地調査結果の概要

(a)土壌機能

現地調査結果の概要を以下に示す。

図3-2-7 土壌図

・土壌特性から見た土壌の環境保全機能

土壌には生産機能(一般に肥沃度)のほかに、水源を涵養したり汚染物質を浄化するなど様々な環境保全機能が知られているが、ここでは現地調査で得られた土壌特性から、土壌の生産機能、保水機能に絞り、それらの機能を定量的あるいは定性的に示し、現況における土壌の環境保全機能を概略的に把握した。

表3-2-5 生産機能の相対的評価

生産機能(肥沃度) 土壌分類
花崗岩の適潤性黄色系褐色森林土(偏乾亜型)
花崗岩及び未固結堆積物の適潤性黄色系褐色森林土
弱湿性黄色系褐色森林土
乾性黄色系褐色森林土
○○層の適潤性黄色系褐色森林土(偏乾亜型)
○○層の適潤性黄色系褐色森林土
グライ土(疑似グライ土を含む)灰色低地土
受蝕土
未熟土(未熟土(礫質)および(砂質)を含む)
造成土壌

表3-2-6 土壌型別のA層の理化学的性質の平均値

土壌型 A層厚
(cm)
粘土・シルト
含有量(%)
全孔隙量
(%)
全炭素量
(%)
全窒素量
(%)
塩基置換容量
(%)
pH
受蝕土 5 30.9 58.8 1.76 0.065 6.1 4.3
乾性黄色
系褐色森林土
6 33.5 65.2 3.60 0.094 10.5 4.2
適潤性黄色系
褐 色森林土
(偏乾亜型)
11 28.4 69.2 5.19 0.136 14.8 4.4
適潤性黄色
系褐色森林土
12 32.0 67.4 2.96 0.198 17.1 4.4
グライ土 11 30.1 72.5 2.10 0.255 8.5 5.0
未熟土 6 10.1 43.7 0.27 0.047 3.7 5.1

図3-2-8 生産機能の評価結果

図3-2-9 保水機能の評価結果

(b)土壌汚染

既存資料、現地調査結果の概要を以下に示す。いずれも基準以下の値であった。

図3-2-10 既往土壌調査地点

表3-2-7 土壌の汚染に係る環境基準項目の調査結果(既往土壌調査)

表3-2-8 その他の項目(含有量)の調査結果(既往土壌調査)

<

図3-2-11 土壌調査実施地点

表3-2-9 土壌の汚染に係る環境基準項目の土壌調査実施結果(表層**)

表3-2-10 その他の項目(含有量)の土壌調査実施結果

(イ)予測結果の概要

予測結果の概要を表3-2-11に示す。

表3-2-11 予測結果の概要

項目 予測結果の概要
土壌の生産機能 計画地の土壌は、全般的に未熟で貧栄養な土壌が広く分布しているため、全国的に見た場合、おしなべて土壌の生産性は低いと考えられるが、計画地全体で相対的に見ると、生産機能が相対的に高い「高」が全体の75%、「中」が34%、「低」が9%を占めている。その分布条件をみると、地質条件を反映して、全般的に花崗岩類母材とした土壌が分布する計画地の東部では生産機能が高く、尾根筋を中心に第三紀砂礫層が分布する西部では生産機能が低い傾向がみられる。
このうち、本事業により直接改変をされる表土は12.8ha(計画地の表土の2.3%)である。土壌の生産機能ランク別の内訳は、生産機能「高」が1.3ha(同0.4%)、「中」が2.8ha(同1.5%)、「低」が8.7ha(同17.8%)となっている。
土壌の保水機能 計画地の土壌は、もともと裸地化していたため表層土壌の浸食が著しく、土壌化の中途段階にある未熟土の土壌が多いのが特徴である。このため、土層も薄く、全面的に見た場合、おしなべて土壌の保水性は低いと考えられるが、計画地全体で相対的にみると、表層土壌の貯水機能が相対的に高い「高」が全体の73%、「中」が18%、「低」が9%を占めている。その分布状況をみると、地質条件を反映して、花崗岩類を母材とした土壌が分布する計画地東部では保水機能が比較的高く、尾根筋を中心に第三紀砂礫層が分布する西部では保水機能が低いなど、生産機能と同様の分布傾向が見られる。
このうち、本事業により直接改変を受ける表土の面積は12.8ha(計画地の2.3%)であり、土壌の保水機能ランク別の内訳は、保水機能「高」が1.5ha(同0.4%)、「中」が2.7ha(同2.8%)、「低」が8.7ha(同17.8%)となっている。
土壌汚染の可能性 既往調査結果及び掘削を伴う土木工事実施予定地の土壌汚染現地調査結果によれば、土壌の汚染に係る環境基準の指定物質はほとんどが定量下限値未満であり、環境基準に十分適合している。
従って、計画地の現況は、土壌汚染が認められなかった。
工事中及び供用時における有害物質の使用に伴う土壌汚染発生の可能性 工事中及び供用時において有害物質の使用が想定される。

表3-2-12 土壌機能への影響予測

  現況面積 現況占有率 直接改変域内の
表土面積
現況に対
する比率
(ha) (%) (ha) (%)
生産
機能
311.1 57 1.3 0.4
187.8 34 2.8 1.5
49.0 9 8.7 17.8
547.9 -- 12.8 2.3
保水
機能
401.0 73 1.5 0.4
97.9 18 2.7 2.8
49.0 9 8.7 17.8
574.9 -- 12.8 2.3

2)環境保全措置および事後調査

(1)環境保全措置

[1]保全方針の設定

(ア)環境保全措置立案の観点

本事業によって種々の環境影響が予測されるが、調査結果および予測結果を踏まえると、「土壌のもつ機能のうち、より重要である生産機能の保全および保水機能の保全」を環境保全上の基本的な考え方とし、環境保全措置を検討した。
土壌汚染の観点では、「有害物質の不適切な取扱による土壌汚染の発生防止」を環境保全上の基本的な考え方とし、環境保全措置を検討した。

(イ)環境保全措置の対象と目標

環境保全措置の対象と、目標を以下のように設定した。

表3-2-13 環境保全措置の対象と目標

環境保全措置の対象 環境保全措置の目標
生産機能 生産機能の高い地域の改変の最小化および流出防止策による土壌流出防止
土工および整地工事による土壌構造の撹乱防止
保水機能 保水機能の高い地域の改変の最小化および流出防止策による土壌流出防止
土工および整地工事による土壌構造の撹乱防止
生態系構成要素機能 直接改変地域の最小化
整地工事や地形改変等による土壌動物の減少防止
土壌生成基盤の劣化防止または最小化
物質収容機能 直接改変地域の最小化および流出防止策による土壌流出防止
不適切な取扱による土壌汚染の発生防止 工事中及び供用時における有害物質の使用に伴う土壌汚染発生の防止

[2]環境保全措置の内容と妥当性の検証

(ア)回避または低減措置

(a)環境保全措置の内容

表3-2-13に示した環境保全措置の目標に対して、影響を回避または低減する具体的な措置を検討した。

表3-2-14 回避または低減措置案の内容(例)

環境保全措置の目標 環境保全措置(回避または低減)
直接改変地域の最小化および流出防止策による土壌流出防止 直接改変地域のうち、相対的に生産機能・保水機能が高い地域の回避措置(ルート変更・縮小等)を検討する。
土工時において土壌流出防止のための低減措置(自然復元型工法)を検討する。
土工および整地工事による土壌構造の撹乱軽減 整地工事において軽減措置(耕作土の移植)を検討する。
整地工事や地形改変等による土壌動物の減少防止 整地工事や地形改変等において、低減措置(掘削土壌の移植・再利用)を検討する。
土壌生成基盤の劣化防止または最小化 土壌劣化の低減措置(土壌の再利用)を検討する。
工事中及び供用時における有害物質の不適切な使用に伴う土壌汚染発生の防止 [1]有害物質を極力使用しない工法等を選択する。
[2]有害物質を使用する場合には、使用・管理マニュアル(事故時の対応も含む)を作成し、管理を徹底する。また、有害物質に係る最新の知見を取り入れ、マニュアルについて適宜見直しを行う。

(b)環境保全措置の妥当性の検討

環境保全措置案による影響の回避または低減措置の効果の検討結果は表3-2-15に示すとおりである。

表3-2-15 環境保全措置の対象などへの回避または低減措置の効果の検討結果

環境保全措置の目標 環境保全措置
直接改変地域の最小化および流出防止策による土壌流出防止 ルート変更等により相対的に高い機能を有する土壌が保全される。
既往事例によれば、土壌流出防止策(自然復元型工法)により、土壌(土砂)流出はある程度軽減できる。
土工および整地工事による土壌構造の撹乱軽減 整地後の耕作土の移植により、土壌構造の撹乱は軽減されるが、軽減効果については、不確実性がある。
整地工事や地形改変等による土壌動物の減少防止 土壌の移植・再利用により、土壌動物の減少は軽減されるもの考えられるが、効果の確認には長期間必要とする。
土壌生成基盤の劣化防止または最小化 一時的な劣化は避けられないものの、埋土種子あるいは掘削土壌の再利用によりある程度回避されるが、効果の確認には長期間必要とする。
工事中及び供用時における不適切な有害物質の使用に伴う土壌汚染発生の防止 有害物質を極力使用しない工法等を選択し、使用する場合には、使用・管理マニュアルを作成し、管理を徹底することによって、土壌汚染発生の防止を図ることができる。また、マニュアルについては、有害物質に係る最新の知見を取り入れ、適宜見直しを行なうことを必要とする。

[3]環境保全措置の実施案

環境保全措置の実施案は表3-2-16に示すとおりである。

表3-2-16 環境保全措置の実施案

措置の分類 回避又は低減措置
内容
[1] ルート変更による相対的に高い機能を有する土壌の保全
[2] 土壌流出防止策(自然復元型工法)による土壌流出の防止
[3] 耕作土の移植による土壌構造の撹乱軽減
[4] 土壌の移植・保存・再利用による土壌動物の保護
[5] 埋土種子等の利用による土壌生態系の回復
[6] 有害物質を極力使用しない工法等の選択による土壌汚染発生の防止
[7] 有害物質の使用・管理マニュアル(事故時の対応も含む)の作成と管理の徹底による土壌汚染発生の防止
実施方法 上記回避または低減措置の実施計画の作成および実施
実施主体 事業者
効果と措置の不確実性の程度
[1] 相対的に高い機能を有する土壌の○%が保存される。
[2] 表面保護により、表土流出は低減が可能である。
[3] 耕作土の移植により、土壌構造の撹乱の軽減となる。
[4] 土壌の再利用により、土壌動物の回帰を補助する。
[5] 有機物供給源の回復により、土壌生態系の遷移・回復の手助けとなる。
[6] 有害物質を極力使用しない工法等の選択により、土壌汚染を発生させない。
[7] 有害物質の使用・管理マニュアル(事故時の対応も含む)の作成と管理の徹底により、土壌汚染は発生しない。
土壌流出防止、耕作土の移植、土壌の移植、埋土種子等の利用などによる、土壌の重要な機能(生産、保水・通水、生物の生息・生育、物質収容)の保全効果は、定量的予測が困難で不確実性が大きいので、達成状況をモニタリングなどで確認していく必要がある。
措置の実施に伴い新たに生じる恐れのある環境影響 特に無し
措置を講じるにも関わらず存在する環境影響(残る影響) 造成により、樹木が伐採されたり急傾斜となった地域では、土壌の流出、土壌構造の撹乱、土壌動物の保護、土壌生態系の回復などの保全効果が少なく、土壌機能(生産、保水、生態系構成要素、物質収容)の劣化に関する影響が残る。

(2)評価

事業に伴う○○沢流域の造成、道路等構造物の建設により、土壌環境が有する重要な機能(生産、保水、生態系構成要素、物質収容)の劣化、有害物質の使用による土壌汚染の発生などの影響が予測されたため、環境保全措置を検討した。
検討の結果、土壌の生産機能については生産機能の高い地域での改変の最小化や土壌の流出防止および整地工事による土壌構造の撹乱防止を、土壌の保水機能については保水機能の高い地域での改変の最小化や土壌の流出防止および整地工事による土壌構造の撹乱防止を、生態系構成要素機能については直接改変地域の最小化、整地工事や地形改変等による土壌動物の減少防止および土壌生成基盤の劣化防止または最小化を、物質収容機能については直接改変地域の最小化および土壌の流出防止を、土壌汚染については有害物質の使用削減および管理徹底を回避または低減措置とした。
土壌の生産機能及び保水機能については、ルート変更により相対的に高い機能を有する土壌の改変を回避できる。また、改変区域においても自然復元型工法による土壌の流出防止及び整地工事による土壌構造の撹乱防止策を実施する。自然復元型工法及び撹乱防止策については、既往事例で十分な効果が確認されていることから、生産機能及び保水機能への影響は最小限にとどめることができると判断した。
生態系構成要素機能は、ルート変更により改変区域を最小限にとどめるとともに、整地工事、改変された土地への耕作土や改変前表層土壌の移植・保存・再利用および埋土種子利用を実施する。整地工事及び埋土種子利用については、時間は要するものの十分な効果が見込めることから、土壌動物の保護や生態系構成要素(生物の生息・生育)機能の回復促進が期待できるものと判断した。
物質収容機能は、ルート変更により相対的に高い機能を有する土壌の改変を回避できる。また、改変区域においても自然復元型工法による土壌の流出防止及び整地工事による土壌構造の撹乱防止策、改変された土地への耕作土や改変前表層土壌の移植・保存・再利用および埋土種子利用を実施する。自然復元型工法及び撹乱防止策については既往事例で十分な効果が確認されていること、時間は要するものの十分な効果が見込めることから、物質収容機能低下を最小限にとどめることができると判断した。
土壌汚染の発生は、有害物質を極力使用しない工法の選択と使用・管理マニュアルの作成と管理の徹底により発生しないものと判断した。
なお、実施する環境保全措置のうち、自然復元型工法による土壌の流出防止、整地工事による土壌構造の撹乱防止及び耕作土や改変前表層土壌の移植・保存・再利用および埋土種子利用については、その効果を定量的に予測することが困難であり、またその効果については土壌環境の持つ回復力を補助・促進するような内容であるため不確実性が大きい。したがって、適切なモニタリングを行ってその回復を十分に検討し、継続的管理を行うことが重要であるとともに、事後調査データの蓄積を図り将来の事業計画や評価・対策に結びつけることが必要である。

(3)事後調査

[1]事後調査実施案

事後調査の実施案は、表3-2-17に示すとおりである。

表3-2-17 事後調査の実施案

内容 回避または低減
環境保全措置の内容
[1] ルート変更による相対的に高い機能を有する土壌の保全[4]土壌の移植・保存・再利用による土壌動物の保護
[2] 土壌流出防止策(自然復元型工法)による土壌流出の防止
[3] 耕作土の移植による土壌構造の撹乱軽減
[5] 埋土種子等の利用による土壌生態系の回復
[6] 有害物質を極力使用しないことと有害物質の徹底した管理による土壌汚染発生の防止
調査項目および調査内容
調査地域内の状況(上のマスの番号に対応)
[2] 土壌流出防止策(表面緑化)による表土緑化状況
[3] 理化学試験による三相分布等
[4] 土壌動物種類数
[5] 植生の回復状況
[6] 土壌汚染発生の有無
([1]については不確実性がほとんど無いことから事後調査は実施しない)
調査範囲 対象地域全域
調査実施時期と期間
各項目ともに四季調査を原則とするが、土壌動物や植生及び土壌汚染については、特性を考慮して適宜実施する。
調査期間はいずれも○年間とするが、回復状況の推移をみつつ適宜判断する。
調査方法 環境影響評価実施段階における現地調査手法に準ずる。
調査結果の取り扱い ・調査結果の公開およびインターネットによる公表注:工事中に実施する事後調査に関しては、事後調査結果によっては速やかに工事に反映できるような結果の公表や対応体制等について検討を行う。
不測の場合の対処方法 不測の事態に陥った原因を調査し、事業が原因と判断される場合には、その影響を回避または低減(場合によっては代償)する環境保全措置を実施する。
実施体制 事業者

[2]事後調査報告

事後調査報告例は表3-2-18に示すとおりである。

表3-2-18 事後調査報告(取り壊し終了後○年目)例

環境保全措置
の内容
[1] ルート変更による相対的に高い機能を有する土壌の保全
[2] 土壌流出防止策による土壌流出の防止
[3] 耕作土の移植による土壌構造の撹乱軽減
[4] 土壌の移植・保存・再利用による土壌動物の保護
[5] 埋土種子等の利用による土壌生態系の回復
[6] 有害物質を極力使用しないことと徹底した管理による土壌汚染発生の防止
調査項目 土壌流出防止策(表面緑化)による表土緑化状況 理化学試験による三相分布等 土壌動物種類数(大型土壌動物による「自然の豊かさ」の評価) 植生(有機物供給源)の回復状況 土壌汚染発生状況
効果の確認 緑化を行った面積○m2は、良好な状態が保たれていた。 全空隙量は50~60%程度、塩置換容量は5~10me/100g程度、事業実施前よりは低いものの、事業実施前に戻りつつある。 スコアはA地点では15.3点、B地点では24.3点C地点では12.7点と全体的に低いが、事後調査開始時より徐々に自然の豊かさが戻ってきている傾向にある。 A地点では、1年草・越年草が12科31種、多年草が27科51種、木本28科43種であり、多年草と木本は増加し群落遷移が進んでいる。また、生育状況は木本では3割以上が100cmを越え、植生が回復しつつある No.1、No.2、No、3について使用した有害物質を対象とする土壌汚染調査を行なったが、いずれも基準以下の値であった。
追加措置 特になし 特になし 特になし 特になし 特になし
今後の対応 特になし 特になし 今後も推移を見守ることとする。 植生(有機物供給源)が回復基調に乗ったと推定されるので、以降の調査は隔年調査で問題がないと判断される。 特になし
今後の事後調査計画 追加の継続観測は必要ない。 継続観測 継続観測 継続観測 追加の継続観測は必要ない

2-2 地盤環境

ここでは半地下道路建設工事における、周辺地盤への影響について事例をあげて解説する。周辺地盤への影響として、地下水位の低下に伴う井戸の枯渇等も環境影響評価の項目にはなるが、ここでは水位の低下による地盤沈下について取り上げる。

1)環境影響評価の進め方

(1)事業特性等の設定

[1]対象地域

対象地域は大都市近郊の丘陵縁辺部にあたる平野部であり、宅地開発が急速に進んでいる。

[2]事業内容

事業内容は都市近郊を迂回する○○○○バイパス道路の整備である。
半地下(掘割)式の道路構造物(L=0.7km、道路面GL-10m)を建設する。
構造物の建設時には、地下水対策として鋼矢板による地下水止水工法(鋼矢板あるいは柱列式ソイルセメント壁)を採用する。

[3]基本条件

このケーススタディにおいては、半地下区間の建設工事の実施及び半地下構造物の存在の影響を対象として、調査・予測の作業例を示す。

図3-2-12 事業実施区域とその周辺の広域地形

基盤岩(D層)

図3-2-13 工事及び存在・供用時の模式断面図(止水壁は工事後撤去)

(2)地域特性の設定

ケーススタディの地域特性を以下のように想定した。

[1]自然的条件

(ア)大気環境の状況

気象庁○○地域気象観測所(アメダス)における過去20年間の日降水量および日平均気温の収集・整理による年間降水量は○○mmであり、ソーンスウェイトの式から求めた年間の蒸発散量は△△mmである。
また、月降水量および月実効雨量(降水量―蒸発散量)は××に示すような情況にある。

(イ)水環境の状況

・河川等の状況

事業実施区域の東方約1km付近をS川が南流している。また段丘崖の直下をG川とその支流M沢が同じく南流し、約5km南方でS川に合流している。

・地下水の状況

地形・地質状況から地下水帯水層は不圧地下水である第1帯水層(A層)と被圧地下水である第2帯水層(C層)の2つに区分される。
平野部に位置する既存井戸の多くがC層を取水対象層としている。

A層・C層ともにS川によって形成された堆積層であり、地下水はこれらの堆積層を流動することから、大局的には北から南への地下水流動が想定される。
C層を対象とする井戸で水道法基準を超える鉄が検出された経緯が確認された。

(ウ)土壌・地盤の状況

事業実施区域周辺では、地下水開発に伴う地下水位低下により昭和40年代後半まで地盤沈下が発生していたが、揚水規制に伴って地盤沈下は沈静化した履歴がある。

(エ)地形および地質の状況

地形区分はほぼ東半分を平野が占め、西側には河川を挟んで丘陵地帯がひろがっている。
計画路線およびその周辺の地質は、平野部においては主に粘土層と砂層からなる地層がおよそ20mの厚さで分布し、それ以深には基盤岩の新第三紀鮮新世の□□泥岩層が分布している。
丘陵地にはローム層と段丘礫層の下位に第四紀完新世の△△泥層、○○砂層、さらに新第三紀鮮新世の□□泥岩層が分布している。△△泥層以下の地層は西側へ緩やかに傾斜している。平野部には氾濫原堆積物である砂層が△△泥層を覆っている。

表3-2-19 事業対象地の地質層序表

地層名 略号 概要
盛土層 b 造成盛土、粘性土~砂質土
氾濫原堆積物 A層 砂質土主体、レンズ状に粘性土層を挟む
△△泥層 B層 粘土層を主体とする不透水層分布深度はGL-4~8mで層厚約4m
○○砂層 C層 砂質土主体、層厚約12m
□□泥岩層 D層 新第三紀の泥岩で本地域の基盤岩

(オ)動植物の生息または育成の状況

事業実施区域一帯は住宅地であり、地下水や地表水と密接に関係する水生動植物等は確認されていない。

[2]社会的状況

(ア)人口および産業の状況

○○県の人口は○○○万人、このうち△市では○○万人、隣接の×市では○○万人である。計画地周辺の人口分布の推移を見ると、特に北側でベッドタウン化していることが伺える。この地域は主に住宅地であり、主要な産業は発展していない。

(イ)土地利用の状況

地目別土地利用の状況を見ると、宅地面積割合が約62%と大きい。わずかに点在する畑地で兼業農家による畑作が行われている。計画路線は全域が市街化調整区域及び砂防指定地となっている。

(ウ)地下水・地表水の利用状況

△市における既存資料により以下の状況を把握した。
近年の都市化に伴って上水道が整備されたが、それ以前に各戸で利用されていた井戸水源が残存する。工業用水・農業用水等の許認可を伴う利用は確認されていない。
なお、事業実施区域近傍2km以内の範囲には、上水道水源は存在しない。
また、現地踏査及び有識者等へのヒアリング結果から、地域特性把握の調査の段階で現地調査が必要と判断し、ルート両側500m以内の範囲を対象に地下水利用状況を把握した。この地域では、上水道整備事業が比較的最近行なわれたことから、井戸水源が多数残存しており、井戸水・地下水に対する関心が高い地域といえる。

表3-2-20 事業実施区域周辺における水源の分布と利用状況

水源種別 水源の利用状況(用途)注) 井戸深度・取水帯水層
素堀井戸 6 2 12 3 23 深さ4~6m、第1帯水層
ボーリング井戸 2 4 24 1 31 深さ15~25m、第2帯水層

注)専:井戸だけを利用(上水道未配管)、飲:生活用水として飲用、雑:主に雑用水、
   不:現在は不使用

(エ)環境保全関連法整備の状況

○県においては昭和47年に公害防止計画を策定し、総合的に各種の施策の推進に努めている。計画路線及びその周辺は、○○地域公害防止計画の策定地域に含まれる。○○に公害防止計画策定地域を示す。

(オ)その他

事業実施区域周辺においては、既設の地下構造物等の、周辺の地下水に影響を及ぼす施設・状況は確認されない。

(3)環境影響評価項目の設定

工事による影響要因と環境要素との関連について、マトリックスとともに影響の伝達経路(インパクトフロー)を用いて検討を行った。
対象事業の工事に係る影響フロー及び存在に係る影響フローを図3-2-14に、マトリクスを表3-2-21にそれぞれ示した。

図3-2-14 対象事業の工事ならびに存在・供用に係る環境影響フロー

表3-2-21 影響要因と環境要素の変化とマトリクス

工事による影響としては、地下水止水工事の実施に伴う地下水流動形態の変化や、止水壁撤去時の地下水混合に伴う水質の変化が想定される。地下水流動形態の変化は地下水位や水量の変化をもたらすほか、それに起因して、水利用や土壌水分への影響、地盤沈下の発生、生態系への影響も想定されることを踏まえ、地下水位低下による地盤沈下を環境影響評価項目として選定した。また止水壁撤去に伴う地下水の混合に関しては、地下水の水質変化を環境影響評価項目として選定した。
構造物の存在による影響については、地下水流動形態の変化や水位・水量の変化に起因する地盤沈下の発生を環境影響評価項目として選定した。

(4)調査・予測手法の検討

[1]調査・予測手法検討の流れ

調査・予測手法の検討の流れを図3-2-15に示す。調査・予測手法の選定にあたっては、先に整理した影響フローを踏まえ、事業特性及び地域特性を勘案し、事業の実施による影響要因及び影響が想定される環境要素を設定した上で、適切な予測手法を選定した。

図3-2-15(1) 調査・予測手法の検討の流れ(工事の実施)

図3-2-15(2) 調査・予測手法の検討の流れ(半地下構造物の存在)

[2]予測手法の検討

工事の実施及び半地下構造物の存在による影響予測手法の検討内容を表3-2-22に示す。

表3-2-22 影響予測手法の検討内容(工事の実施、存在)

影響要因 想定される影響と予測手法
地下水止水工事の実施 ○想定される影響
地下水流動が止水壁によって完全に遮断されるため、地下水位や流向の変化が生じる可能性がある。また、地下水位の低下に伴って、地盤沈下が生じる可能性がある。
○予測手法
飽和―不飽和三次元浸透流解析によって地下水流動の変化を予測する。
・第1帯水層および第2帯水層の地下水それぞれを対象に予測を行う。
・地下水流動形態の変化を定量的に予測し、地下水位の変化量として評価する。
・地盤沈下については、上記の浸透流解析結果に基づき、「道路土工要綱」(日本道路協会、1990)の方法による予測を行う。
○浸透流解析及び圧密沈下解析における諸条件の設定
・予測範囲工事の実施による影響を受けない範囲も含めた解析領域を設定する必要があることから、構造物中央から両側500mの範囲を予測範囲とする。
・予測モデル解析領域における要素分割は、工事区間の形状や地質構造を反映することを考慮に入れた上で決定する。
・予測時期地下水位低下に伴う水利用への影響や地盤沈下が想定されることから、事業実施区域において最も地下水位が低下する冬季渇水期を対象とする。
半地下構造物の存在 ○想定される影響
地下水流動が構造物で遮断されることによって、地下水位の変化が生じる可能性がある。また、地下水位の低下に起因した地盤沈下が生じる可能性がある。
○予測手法
飽和―不飽和三次元浸透流解析によって地下水流動の変化を予測する。
・第1帯水層および第2帯水層の地下水それぞれを対象に予測を行う。
・地下水流動形態の変化を定量的に予測し、地下水位の変化量として評価する。
・地盤沈下については、上記の浸透流解析結果に基づき、「道路土工要綱」(日本道路協会、1990)の方法による予測を行う。
○浸透流解析及び圧密沈下解析における諸条件の設定
・予測範囲工事中の予測範囲と同様とした。
・予測モデル工事中の予測モデルと同様とした。
・予測時期工事中の予測時期と同様とした。

[3]現地調査手法の検討

予測手法の検討の結果、地下水流動の変化の予測手法として浸透流解析と圧密沈下解析を選定したことから、特に地質や地下水の状況について詳細な情報が必要と判断された。
これに基づいて、表3-2-23のとおり、現地調査手法の検討を行った。

表3-2-23 現地調査手法の検討内容

調査項目 調査項目と調査内容の検討結果
水理地質構造 ○調査項目の設定根拠
事業実施区域周辺における詳細な地層分布を把握するとともに地下水流動の基礎となる水理地質特性を把握するために実施した。
○調査方法
機械ボーリング及び現場透水試験、室内土質試験(物理試験・力学試験)を実施した。ボーリング完了後は、沖積層・洪積層それぞれの地下水位を計測する観測孔とした。
○調査地点
既存資料による地層分布・地下水分布状況を考慮するとともに、事後調査における地下水観測を想定し、事業区域近傍に設定した。
地下水の流動形態 ○調査項目の設定根拠
各地層の水理特性(水理定数、地下水頭、流動区間の垂直分布や規模、地下水流動方向・流速など)を把握するために実施した。
○調査方法
機械ボーリングにあわせて、現場透水試験を実施した。
○調査地点
「水理地質構造」の項参照。
地下水位の変動 ○調査項目の設定根拠
地下水位の季節変動を含めた把握のために実施した。
○調査方法
調査期間は1年間とし、下記の通り実施した。(地下水継続観測)
月1回の定期観測を基本としたが、代表地点については自記水位計による連続観測を行った。(地下水一斉観測)
地下水位上昇期(夏季)のデータを地域特性把握の調査で把握したことを考慮し、地下水位低下期(冬季)のデータ取得を目的に、全地点の一斉水位測定を実施した。
○調査地点
地下水観測孔、及び地域特性把握の調査で把握された井戸とした。
土質特性 ○調査項目の設定根拠
B層及びC層の土質特性(物理特性、力学特性)を把握するために実施した。
○調査方法
ボーリング孔を利用し、乱さない試料採取による室内土質試験を行った。
○調査地点
事業実施区域を代表する地点とした。

◎:井戸(灰色は連続観測、二重丸は一斉調査)●:ボーリング調査実施地点 
図3-2-16 調査地点位置図

[4]調査結果・予測結果の概要

(ア)現地調査結果の概要

現地調査結果の概要を表3-2-24に示す。

表3-2-24 現地調査結果の概要

調査項目 現地調査結果の概要
水理地質構造 ボーリング調査や現場透水試験結果から、事業区間における水理地質区分と地下水区分は下表のように把握された。
表―○ 事業区間周辺の水理地質区分と地下水区分
地層名 略号 水理地質区分 地下水区分 透水係数
氾濫原堆積物 A層 I [1]不圧地下水 1.0×10-2cm/s
○○粘土層 B層 II 不透水層 1.0×10-6cm/s
△△砂層 C層 III [2]被圧地下水 1.0×10-3cm/s
□□泥岩 D層 不透水層 1.0×10-7cm/s
なお、各層の透水係数は現場透水試験や揚水試験、粒度試験結果を基に検討を行い、上表に示すとおり設定した。
地下水の
流動形態
予測対象時期とした冬季(渇水期)の観測結果を基に、地下水面等高線図を作成した(図-○参照;省略)。
地下水位の変動 地下水継続観測結果を基に、地下水位変化図を作成した(図-○参照;省略)。
土質特性 物理特性:○○○、力学特性:△△△

図3-2-17 事業対象区域の水理地質模式柱状図と事業計画との関係

(イ)予測結果の概要

予測地域ごとの地質条件、地下水の状況及び計画路線の構造・位置などに基づき施工上の対策工を考慮して行った予測結果を表3-2-25および表3-2-26に示す。

表3-2-25 予測結果の概要(工事中)

項目 予測結果の概要
地下水流動形態の変化(地下水位の変化) (第1帯水層)
上流側で最大1.0mの上昇、下流側で最大2.4mの水位低下が発生する。また、0.1m以上の水位変化は、上流側で360m、下流側で500mの範囲にまで広がる。
(第2帯水層)
上流側で最大0.8mの上昇、下流側で最大1.8mの水位低下が発生する。また、0.1m以上の水位変化は、上流側で320m、下流側で480mの範囲にまで広がる。
粘土層の圧密沈下 B層に作用する増加応力は、粘土層の圧密降伏応力以上の値であり、およそ4mmの圧密沈下による地盤沈下が発生すると予測される。

表3-2-26 予測結果の概要(存在・供用後)

項目 予測結果の概要
地下水流動形態の変化(地下水位の変化) (第1帯水層)
上流側で最大0.8mの上昇、下流側で最大1.5mの水位低下が発生する。また、0.1m以上の水位変化は、上流側で240m、下流側で420mの範囲にまで広がる。
(第2帯水層)
上流側・下流側とも、水位変化は生じない。
粘土層の圧密沈下 B層に作用する増加応力は、粘土層の圧密降伏応力以下の値であり、地盤沈下は発生しないと予測される。

2)環境保全措置および事後調査

(1)環境保全措置

[1]保全方針の設定

(ア)環境保全措置立案の観点

本事業によって種々の環境影響が予測されるが、調査結果および予測結果を踏まえると、「地盤沈下により住居、道路、ライフライン等に影響を及ぼさないこと」を環境保全上の基本的な考え方とし、環境保全措置を検討した。

(イ)環境保全措置の対象と目標

環境保全措置の対象と、目標を以下のように設定した。

表3-2-27 環境保全措置の対象と目標

環境保全措置の対象 環境保全措置の目標
地下水位の低下による地盤沈下 地下水位低下の抑制
例)許容最大沈下量(圧密沈下の場合)で2cm以下

注)「宅地防災マニュアルの解説 解説編II」(建設省建設経済局民間宅地指導室監修)

[2]環境保全措置の内容と妥当性の検証

(ア)環境保全措置の内容

表3-2-27に示した環境保全措置の目標に対して、影響を回避または低減する具体的な措置を検討し表3-2-28に示した。

表3-2-28 回避または低減措置案の内容(例)

環境保全措置の目標 環境保全措置(回避または低減)
例)許容最大沈下量(圧密沈下の場合)で2cm以下 計画路線地域のうち、相対的に粘性土が厚い区域や帯水層が発達した区域の回避低減措置を検討する。
分割施工による直接改変地域の最小化

(イ)環境保全措置の妥当性の検討

環境保全措置案による影響の回避または低減措置の効果の検討結果は表3-2-29に示すとおりである。

表3-2-29 環境保全措置の対象などへの回避または低減措置の効果の検討結果

環境保全措置の目標 環境保全措置の効果
工法変更などの回避措置 工法変更等により粘性土に影響を与える地下水帯水層が保全される。
分割施工による直接改変地域の最小化 改変地域の出現は避けられないが、分割や最小とすることにより、地下水流動や他の環境評価項目への影響を低減できる。
帯水層構造の一時的な破壊は避けられないものの、適切な補助工法の採用によりある程度回避できる。効果の確認には長期間を必要とする。

[3]環境保全措置の実施案

環境保全措置の実施案は表3-2-30に示すとおりである。

表3-2-30 環境保全措置の実施案

環境保全措置の分類 回避又は低減措置
内容 [1]工法変更による地下水帯水層の保全
[2]分割施工による直接改変地域の最小化
実施方法 上記回避または低減措置の実施計画の作成および実施
実施主体 事業者
効果と措置の不確実性の程度 [1]工法変更による地下水帯水層の保全効果は、確実性が大きい。
[2]第1帯水層について、原案では最大2.4mの水位低下と予測されたが、○工区に分割して施工することにより、最大○mの低下と予測された。保全措置により影響は十分に低減されたものと判断する。分割施工による水位変化低減の効果は○○道路、○○計画などで予測とほぼ同じであることが確認されており、効果はほぼ確実と考える。
措置の実施に伴い新たに生じる恐れのある環境影響 特に無し
措置を講じるにも関わらず存在する環境影響(残る影響) 特に無し

(2)評価

事業に伴う地下水止水工事、止水壁の撤去引き抜き工事および半地下構造物の存在により、地下水流動形態の変化に伴う第1・第2帯水層の地下水位の変化と地盤沈下の発生が予測されたため、計画路線地域のうち、相対的に粘性土が厚い区域や帯水層が発達した区域では工法変更、分割施工による直接改変地域の最小化を環境保全措置として検討した。
検討の結果、工法変更により地下水帯水層の地下水位低下抑制効果は、確実性が大きく粘性土の圧密沈下に与える影響は低減できるものと判 断した。また、帯水層構造の一時的な破壊による地下水位低下は避けられないものの、既往事例に基づき分割施工による直接改変地域の最小化によりほぼ確実に回避できるものと判断した。
地下構造物の存在・供用後の地下水位の回復については、既往事例により効果は見込まれるが、不確実性を多く有する。このため、事後調査等により時系列データの取得を行い、効果の確認を行うことが必要である。
今回の環境保全措置は、その効果が定量的に予測できない部分もあり、またその効果については、地盤沈下を直接的に抑止するものではない。したがって、適切なモニタリングを行って地盤の変状を十分に把握し継続的管理を行うことが重要であるとともに、将来の事業計画に結びつけるためのデータ蓄積に努めることが必要である。
(3)事後調査

[1]事後調査実施案

事後調査の実施案は、表3-2-31に示すとおりである。

表3-2-31 事後調査の実施案

項目 内容
環境保全措置の内容 [1]工法変更による地下水帯水層の保全
[2]分割施工による直接改変地域の最小化
調査項目および調査内容 調査地域内の状況
・水準測量や目視による地盤変状の確認
・モニタリングによる沈下量と地下水位の変動状況把握
調査範囲 事前調査と同一地点とする。
調査実施時期と期間 ・各項目ともに四季調査を原則とするが、地下水位については、特性を考慮して連続観測を実施する。
・調査期間はいずれも○年間とするが、回復状況の推移をみつつ適宜判断する。
調査方法 事前調査と同一方法とする。
調査結果の取り扱い 調査結果をデータベース化しインターネット等によって公開する。
不測の場合の対処方法 不測の事態に陥った原因を調査し、事業が原因と判断される場合には、その影響を回避または低減(場合によっては原形復旧)する環境保全措置を実施する。
実施体制 事業者

[2]事後調査報告

事後調査報告例は表3-2-32に示すとおりである。

表3-2-32 事後調査報告(供用後○年目)例

環境保全措置
の内容
[1]工法変更による地下水帯水層の保全
[2]分割施工による直接改変地域の最小化
調査項目 目視による地盤変状の確認 水準測量による地盤沈下の確認 地盤沈下観測孔のモニタリングによる沈下量の監視 自記水位観測孔のモニタリングによる地下水位変動状況の把握
効果の確認 事業計画区域から500m以内においては、構造物の抜けあがり、陥没・亀裂の発生などの地盤変状は認められない。 昨年度に引き続き、△地点において○mmの沈下が観測されているが、減少傾向にある。その他の地点は沈下が認められていない。 3箇所の沈下計はすべて有意な変動が認められず、地盤沈下は発生していないと判断される。 A地点では、冬期の渇水により、これまでに無い最低水位を記録したが、併設の沈下計には変動が見られない。
平均水位は工事前の水準に回復している。
追加措置 記録写真の整理 特になし 特になし 特になし
今後の対応 今後も推移を見守ることとする。 地盤沈下の増大傾向は認められないので、以降の調査は隔年調査で問題がないと判断される。 今後も推移を見守ることとする。 今後も推移を見守ることとする。
今後の
事後調査計画
継続監視 継続監視 継続監視 継続監視

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