今回のケーススタディでは多様な生物相のみられる本州太平洋沿岸中部の内湾砂泥底海域を海域生態系のひとつのタイプとして想定し、架空の環境と事業(埋立事業)を設定してケーススタディを行ない、以上にその結果を示した。ここでは、海域生態系への影響を捉えるためにスコーピングから環境影響評価の実施段階の調査・予測までをどのような道筋で作業を進めていけばよいのかを検討し、具体的な作業例を提示した。その中で、注目種・群集に関する調査・予測及び生態系がもつ重要な機能に関する調査・予測を行うための具体的な手法を例示した。
本ケーススタディでは影響を予測するまでの作業の道筋を示すことに重点を置いたため、上物施設や埋立材からの海域への環境影響はないものとする等影響要因を比較的単純に想定するとともに、工事段階の影響は扱わずに埋立地の存在時の影響に絞って調査・予測手法を検討した。また、注目種・群集に関する調査・予測及び重要な機能に関する調査・予測についてはスコーピングで選定した注目種・群集や機能のうち、一部の種や機能(注目種:アサリ、イシガレイ、アマモ/重要な機能:アマモ場がもつ仔稚魚育成場機能、干潟がもつ水質浄化機能)を取り上げ、それらの作業例を示すことに留めた。実際の環境影響評価では事業に伴う様々な影響要因を適切に把握して、それらの要因による生態系への影響を捉えていく必要がある。
今年度は、予測された影響を回避、低減するための環境保全措置や評価手法までは検討を行っていない。そのため、次年度に行う環境保全措置や評価に関する検討結果を受けて、例えば、環境保全措置検討のレベルに応じた予測精度の問題や複数案の比較評価を行うために調査・予測・評価・保全措置検討の作業の流れをどのように整理すべきかといった問題を含め、今回提示した調査・予測手法の内容についても見直しを加えていく必要があると考えられる。また、今回は、生態系への影響の時間的な変化を捉えるための予測対象時期や手法について、明確には示していない。環境保全措置の効果も含めて、時間的な変化を把握していくための方法についてさらに検討が必要である。
本ケーススタディでは本州太平洋沿岸中部の内湾砂泥底海域における埋立事業を想定したひとつの作業例を示したに過ぎない。今後、開放性海域や沖合人工島の場合等異なる海域特性や事業特性に応じた環境影響評価の手法について検討を進めることも必要であろう。実際の環境影響評価に際しては、ここに示した考え方や作業例を参考として、事業が立地する地域の特性、生態系のタイプ、事業の特性等に応じて創意工夫を加えながら、生態系保全の観点からより良い環境配慮につなげることのできる効果的な手法を個々別々に検討していかなければならない。