生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会中間報告書
生物多様性分野の環境影響評価技術(II) 生態系アセスメントの進め方について(平成12年8月)

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2-6 ケーススタディのまとめと課題

 今回のケーススタディでは多様な生物相のみられる関東地方の丘陵地(里山地域)を陸域生態系のひとつのタイプとして想定し、架空の環境と事業(面整備事業)を設定してケーススタディを行い、以上にその結果を示した。ここでは、陸域生態系への影響を捉えるために、スコーピングから環境影響評価の実施段階の調査・予測までをどのような道筋で作業を進めていけばよいのかを検討し、具体的な作業例を提示した。その中で、基盤環境と生物群集の関係による生態系への影響予測、注目種・群集による生態系への影響予測を行うための具体的な調査・予測手法を例示した。
 本ケーススタディでは、主として面的な環境の消失・変化と道路等による環境の分断が生態系に及ぼす影響を取り上げ、それらの影響を予測するまでの作業の道筋を示すことに重点を置いたため、面整備事業に伴うすべての影響要因を取り上げてはいない。また、注目種・群集による調査・予測については、スコーピングで選定した注目種・群集のうち、生活形や捉えるべきスケールの異なる一部の種(フクロウ、ヤマガラ、シュレーゲルアオガエル、カタクリ)を取り上げ、それらの作業例を示すことに留めた。実際の環境影響評価ではここで扱っていない様々な影響要因についても適切に把握してそれらの要因による生態系への影響を捉えていく必要がある。
 今年度は、調査・予測の検討にとどめ、予測された影響を回避、低減するための環境保全措置や評価手法までは検討を行っていない。そのため、次年度に行う環境保全措置や評価に関する検討結果を受けて、例えば、環境保全措置検討のレベルに応じた予測精度の問題や基盤環境と生物群集の関係、注目種・群集によるそれぞれの予測結果を総合的に評価するための空間単位の問題などを含め、今回提示した調査・予測手法の内容についても見直しを加えていく必要がある。また、今回は生態系への影響の時間的な変化を捉えるための予測対象時期や手法について明確には示していない。環境保全措置の効果も含めて、時間的な変化を把握していくための方法についてさらに検討が必要である。
 本ケーススタディでは関東地方の丘陵地における面整備事業を想定したひとつの作業例を示したに過ぎない。実際の環境影響評価に際しては、ここに示した考え方や作業例を参考として、事業が立地する地域の特性、生態系のタイプ、事業の特性などに応じて創意工夫を加えながら、生態系保全の観点からより良い環境配慮につなげることのできる効果的な手法を個々別々に検討していかなければならない。

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