生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会中間報告書
生物多様性分野の環境影響評価技術(II) 生態系アセスメントの進め方について(平成12年8月)

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第2章 ケーススタディ

1 ケーススタディによる検討のねらいと方法

1-1 検討のねらい

 本報告書の第1章に示した、陸域生態系の環境影響評価を進めるにあたっての基本的な考え方から調査・予測手法について具体的な作業例を示し、作業イメージを具現化するため、ケーススタディによる検討を実施した。
 本章ではケーススタディによりスコーピング及び環境影響評価の実施段階における調査・予測の手順を検討し、図表等を用いて具体的手法を例示する。なお、このケーススタディは、現実の情報に基づくものではなく、基盤環境、植生、動植物の分布などについて仮想的な設定を行い、あくまでも考え方を整理するための一助とする目的で作られたものである。本ケーススタディで検討される環境影響や調査・予測手法は環境影響評価を行うために考慮しなければならないもののうちの一部分であり、ここで示した影響要因、手法のみにより生態系に対する影響の全体が把握できるわけではないことに留意しなければならない。今年度のケーススタディでは、実施段階の調査・予測までを検討しており、予測された影響を回避・低減するための環境保全措置の検討や評価については扱っていない。
 また、このケーススタディは想定した事業の是非を検討するものではなく、あくまで事業による影響を的確に捉えるための方法について検討し、その道筋を示すことをねらいとしたものである。
 実際の環境影響評価に際しては、ここに示された考え方や作業例を参考として、事業の特性や地域の環境特性に応じて最も適した方法を創意工夫し、個々別々にに検討していかなければならない。

 

1-2 対象とする地域と事業の想定

 ケーススタディの対象とする地域については関東地方の丘陵地(里山地域)を選定した。事業実施区域周辺は台地や丘陵地と谷底平野が入り組んだ谷戸の環境となっている。周囲にはクヌギ-コナラ群集やスギ・ヒノキ植林が優占し、水田やため池もみられる。
 事業の種類は宅地の造成等の面開発事業とし、事業実施区域の面積は135ha、改変区域の面積は53haとした。
 本ケーススタディにおいては事業の改変区域をどこに設定するかで影響の内容と程度がどう変わるかを検討するため、事業計画を3案作成し影響の比較を行った(図I-2-1)。異なる谷が改変の対象となることによる影響の違いを比較するため、3案の事業計画はいずれも、異なる谷を含んだ地域を改変するよう想定した。また、改変区域は3案とも、直接改変面積が等しくなるようにし、影響の違いを効果的に比較できるようにした。なお、環境の分断による影響を検討するために、道路の設置及び供用を想定した。
 本ケーススタディでは主として面的な環境の消失・変化と、環境の分断による生態系への影響を検討するため、主要な影響要因として地形・植生の改変及び道路の存在の2点を考慮した。しかし、実際の面開発事業にあたっては本ケーススタディで想定した以外にも様々な影響要因やそれによる環境要素の変化が予想される。このため、本ケーススタディで考慮したもののみが、面開発事業における生態系への影響ではないことに留意する必要がある。

 

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図I-2-1 事業計画図

 

1-3 ケーススタディの作業手順

 ケーススタディにおける環境影響評価の作業は第1章総論で示したフローを具体的に示した手順(図I-2-2)に沿い、特に環境影響評価の実施段階に重点をおいた。作業を行った範囲は本報告書の検討範囲に合わせ、スコーピングから環境影響評価の実施段階での影響予測までとした。
 なお、本報告書では作業手順を説明するために必要な一部の結果のみを記すにとどめたが、実際の準備書等においては結論を導くために使用した元データを含め、調査方法や調査結果についても結論を導く過程がわかるように詳しく記載することが大切である。

 

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                      (注)フローの中に示した番号は、本文中に解説がある箇所を示す。
図I-2-2 ケーススタディの作業のフロー

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