(1)影響予測の基本的な考え方
予測を行う際には影響要因や影響内容に応じた適切な手法で行うこととなるが、基本的な留意点として以下の事項があげられる。
【GISの活用について】
調査及び予測の作業にあたっては各種調査結果をデータ化し、GIS(地理情報システム)により解析を行うことで効率的な作業を行うことができる。特に、環境影響評価においては複数の主題図間のオーバーレイ機能や面積計算などの数値処理等により、類型区分の作成の他、調査地点の選定、調査・予測における複数案の影響の比較検討などの解析や種々の図面の作成などに利用することが可能である。
(2)予測手法
1)基盤環境と生物群集の関係による生態系への影響予測手法
基盤環境及び植生に影響を及ぼす要因を整理し、基盤環境と生物群集の関係の調査・整理の結果を踏まえた上で、事業の影響要因が基盤環境と生物群集、及びその関係に与える影響を概括的に幅広く予測する。この際、生物群集の生息場所が変化する可能性を、類似の事例や既存の知見を参考に検討する必要がある。また、基盤環境や人為影響の変化により植生が時間的に変化し、生物の生息場所に影響を与えることにも留意する必要がある。
これらの作業を通じて、生態系の垂直・水平構造の変化を把握し、それによる生態系への影響を予測する。
なお、この基盤環境と生物群集の関係に基づく影響の予測のみによっては生息地の分断や生活史の上で重要な生息場所の消失、複数の環境を利用する動物に対する影響など、十分には予測できない事柄も多いと考えられる。このような影響については注目種・群集の調査により詳細な影響の予測を行う。
2)注目種・群集による生態系への影響予測手法
注目種・群集による生態系への影響予測はまず事業による影響要因により、注目種・群集に直接的・間接的にどのような影響が及ぶのかを予測することから始まる。
予測は、主に注目種・群集の生息場所への影響から注目種・群集の生息に与える影響について、上記1)の検討内容も踏まえ類似の事例や既存の知見を参考に行う。その際、種間関係の変化(捕食者の増加、帰化種等による在来種の圧迫、餌種の変化など)による注目種・群集に対する影響の可能性や程度も類似事例や既存の知見などから検討することが必要である。
これにより、注目種・群集が指標している生態系の構造や機能の変化を把握し、それによる生態系への影響を予測することになる。
上記1)、2)において、予測すべき基盤環境、植生、動植物種及び注目種・群集への主な影響としては以下のものがあり、これらの予測項目に対して適切な予測手法を用いることが必要である。
(3)予測地域
予測地域は生態系への影響を予測するための適切な範囲とする。具体的には、調査結果を踏まえ事業による影響が及ぶ範囲を対象とするとともに、影響の程度・内容や対象の特性に応じて周辺の地域も含める必要がある。注目種・群集の予測地域は注目種・群集が事業による影響を受ける範囲を対象とするとともに、影響を予測するために、場合によっては事業実施区域及びその周辺にみられる個体群全体が含まれる地理的範囲などを対象として予測することも必要である。
(4)予測対象時期
予測の対象時期は影響の大きさを的確に把握できる時期とし、対象とする基盤環境、植生、動植物種及び注目種・群集の特性を踏まえ、影響の大きさを的確に把握できる時期に設定することが必要である。工事後には植生の回復などにより影響が緩和される場合もあり、逆に時間とともに影響が拡大する場合もあると考えられる。このため、工事及び施設の存在・供用の影響を予測する時期については一時点だけを予測するのではなく、可能な限り時間的な影響の変化が捉えられるように予測の時期を設定する。また、季節による影響の程度の変化についても考慮する必要がある。
環境影響評価は複数の事業計画案や複数の環境保全措置(影響の回避・最小化などの効果)の検討を踏まえて行うこととなる。したがって、スコーピングの段階で複数の事業計画案や環境保全措置について検討されている場合には複数の事業計画案の影響や環境保全措置(例えば事業予定地の変更など)による効果を予測するための情報収集も折り込んで調査・予測・評価を計画することが必要である。また、調査・予測・評価は一連の作業で一体的に行われるものであり、その過程で環境保全措置の検討にとどまらず事業計画へのフィードバックも繰り返し行われることとなる。
予測・評価の実施段階では複数の事業計画案や環境保全措置のケースごとに予測・評価を行い、必要であれば、方法書に記載しなかった新たな調査・予測手法を取り入れるなど柔軟な対応が望まれる。新たな調査・予測手法を取り入れた場合には準備書にその検討過程について記載することも必要である。
予測・評価の結果を準備書に記載する際には影響の予測結果、複数の環境保全措置の効果比較、最も影響が少ないと予測される事業計画案などに対する事業者の見解や判断を整理して述べることとなる。
環境保全措置と調査・予測・評価の関係は、図I-1-7に示したようになる。
図I-1-7 環境保全措置と調査・予測・評価の関係