環境影響評価法の成立、公布(平成9年6月)を受け、環境影響評価に関する基本的事項が平成9年12月に、また主務省庁が定める技術指針等(主務省令)が平成10年6月に定められた。
環境影響評価の技術手法については、基本的事項、技術指針等に関する基本的な考え方や留意事項が示されているが、今後、環境要素毎に国内外の最新の科学的知見や事例を収集・整理し技術手法のレビューを行うとともに技術手法の開発・改良のための検討を行い、我が国の環境影響評価技術の向上を図る必要がある。さらに、その結果に基づき、必要に応じて基本的事項等を改訂していく必要がある。
これらの点を踏まえ、本検討会は生物の多様性分野に関する環境影響評価技術の向上を図ることを目的として、環境影響評価の効果的な技術手法について学識経験者による専門的な立場からの検討を行うものである。検討成果については事業者、地方公共団体、国民、国の関係行政機関など環境影響評価に関わる様々な主体が参考とできるようとりまとめ公表する。平成10年度から検討を開始し、平成11年6月に「生物の多様性分野の環境影響評価技術(I)」として中間報告書をとりまとめたが、今年度はさらに検討を進め、その成果を二年度目の中間報告書としてとりまとめた。
環境庁企画調整局長の委嘱により、生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会を設置して検討を行った。今年度はそれぞれの生態系の特性に応じた検討を行うため、検討会のもとに陸域、海域、陸水域の3つの分科会を設けた。 なお、検討会事務局は環境庁企画調整局環境影響評価課があたり、検討のために必要な作業は同課及び請負を受けた財団法人自然環境研究センターがワーキンググループを設置して行った。
3-1 検討の方針
(1)前年度(10年度)の検討内容
前年度(10年度)は生物多様性分野の環境影響評価として、新たに評価対象となった「生態系」項目のスコーピングを中心に検討を行った。環境影響評価法に基づく基本的事項にひとつの手法として例示された上位性、典型性、特殊性の視点からの注目種・群集の考え方について整理するとともに、陸域、海域に分けてそれぞれの生態系の特性に応じたスコーピングの進め方について検討しとりまとめた。具体的にはスコーピングにおける作業の流れを整理するとともに、地域概況調査から陸域・海域の類型区分、評価する上で重要な類型の選定、生態系の構造・機能の検討、注目種・群集の抽出、調査・予測・評価手法の選定に至るスコーピングの一連の作業内容について検討した。
また、「生態系」項目と同じく生物多様性分野の評価対象である「植物」「動物」項目並びにこれらと関連の深い「地形・地質」項目のスコーピングの進め方についても併せて検討を行いとりまとめた。
(2)今年度(11年度)の検討方針
今年度(11年度)は検討対象として陸域、海域に陸水域を加え、それぞれの生態系の環境影響評価手法について検討会のもとに設けた3つの分科会において検討を進めることにした。
なお、ここでは陸域、海域、陸水域の3つに大別してそれぞれの生態系の特性に応じた環境影響評価手法の検討を行っているが、実際の環境影響評価に際して、この陸域、海域、陸水域の生態系を別々に分けて生態系項目の環境影響評価を行わなければならないということではない。例えば、陸域と陸水域にまたがるダム事業や陸水域にも影響が及ぶ面整備事業の場合には陸域と陸水域の双方の視点から捉えるべき影響を検討し、生態系項目として一体的に調査・予測・評価を行うことになる。また、河口域のように陸水域と海域の境界部分にあたる場所への影響についても適切に調査・予測・評価を行うことが重要であり、陸水域と海域の双方の視点から重要な河口域への影響を見落とすことなく捉えていく必要がある。
1)陸域分科会の検討方針
陸域生態系に関しては、前年度のスコーピングに関する検討を受けて、まず、環境影響評価の実施段階の調査・予測・評価の基本的な考え方を整理した上で陸域生態系に関する調査・予測手法を中心に検討し、効果的な調査・予測作業の進め方、実施上の留意点、準備書等への記載上の留意点などをとりまとめることにした。
陸域生態系の調査・予測手法については前年度の中間報告書でもその方向性を述べたように、陸域の類型ごとに基盤環境や生物群集の関係、事業によるそれらへの影響を整理した上で、注目種・群集からみた陸域生態系への影響を捉えていく手法について検討した。
なお、生態系へ与える影響の整理方法や調査地域の設定方法などはスコーピング段階に関わる検討作業であるが、前年度十分な検討ができなかった事項についても併せて補完的な検討を行い、スコーピング段階の作業手順の再整理を行った。
また、今年度は総論として示す環境影響評価の一般的な考え方や留意点をより良く理解できるように、関東地方の丘陵地(里山地域)を陸域生態系のひとつのタイプとして想定して架空の環境と事業(面整備事業)を設定しケーススタディを行った。この中で、陸域生態系への影響を捉えるために、スコーピングの結果を受けてどのような道筋で調査・予測の作業を進めていくかについて具体的な作業例を示すことにした。
2)海域分科会の検討方針
海域生態系に関しては、陸域と同様に前年度のスコーピングに関する検討を受けて、まず、環境影響評価の実施段階の調査・予測・評価の基本的な考え方を整理した上で海域生態系に関する調査・予測手法を中心に検討し、効果的な調査・予測作業の進め方、実施上の留意点、準備書等への記載上の留意点などをとりまとめることにした。
海域生態系の調査・予測手法については前年度の中間報告書でもその方向性を述べたように、注目種・群集からみた海域生態系への影響だけでなく、物質循環や生物の育成場など海域生態系が有する重要な機能に及ぼす影響についても併せて捉えていくための手法を検討した。
なお、海域の類型や生態系に及ぼす影響の整理方法、注目種・群集の効果的な選定方法、調査・予測地域の設定方法など、スコーピング段階に関わる検討作業であるが前年度十分な検討ができなかった事項についても併せて補完的な検討を行い、スコーピング段階の作業手順の再整理を行った。
また、今年度は総論として示す環境影響評価の一般的な考え方や留意点をより良く理解できるように、本州太平洋沿岸中部の比較的大きな内湾での砂泥底海域を海域生態系のひとつのタイプとして想定して、架空の環境と事業(埋立事業)を設定してケーススタディを行った。この中で、海域生態系への影響を捉えるために、スコーピングの結果を受けて、どのような道筋で調査・予測の作業を進めていくかについて具体的な作業例を示すことにした。
3)陸水域分科会の検討方針
陸水域生態系に関しては、初年度の検討であり、前年度の陸域、海域と同様、スコーピングの進め方について検討を行うことにした。具体的には、陸水域生態系の特性や本分科会で検討する陸水域生態系の範囲について整理した上で、事業の影響要因の整理、地域概況調査による地域特性の把握・整理、陸水域の類型区分、評価する上で重要な類型の選定、生態系の構造・機能の検討、注目種・群集の抽出、調査・予測・評価手法の選定といったスコーピングの作業の流れと一連の作業内容について検討した。検討に際しては、水の作用を通じた変動性と連続性という陸水域の特性を踏まえたスコーピングの方法となるように留意した。上位性、典型性、特殊性の視点からの注目種・群集の抽出についても陸水域の特性に応じた考え方や留意点を整理した。
また、地域特性の把握結果を踏まえ注目種・群集を抽出するためのモデル的な手順について作業例を示すことにした。
(3)次年度(12年度)の検討予定
陸域生態系、海域生態系については生態系の特性や事業による影響内容に応じた適正な環境保全措置の検討方法、回避・低減が十分図られているかどうかを評価する手法、さらに生態系の反応をみながら柔軟に保全対策を講じていくための事後調査の手法について主に検討を行う予定である。
陸水域生態系については今年度のスコーピングの検討結果を受けて、環境影響評価の実施段階の調査・予測・評価手法、環境保全措置の検討方法、事後調査の手法について検討を行う予定である。
また、学術上及び希少性の観点から重要な植物、動物、地形・地質に関する環境影響評価手法についても、「生態系」項目と併せて検討を行う予定である。
3-2 検討会の開催日程
陸域、海域、陸水域のそれぞれの分科会を下記の日程で開催した。
○陸域分科会
平成11年10月21日/平成12年2月21日/平成12年5月22日
○海域分科会
平成11年11月25日/平成12年2月29日/平成12年5月30日
○陸水域分科会
平成11年12月16日/平成12年3月14日/平成12年5月31日
3-3 中間報告書の構成
上記の今年度の検討成果を本検討会の二年度目の中間報告書(生物の多様性分野の環境影響評価技術(II))としてとりまとめた。
中間報告書は以下のような構成とした。
はじめに 検討の目的と経緯
第I部 陸域生態系の環境影響評価の進め方
第II部 海域生態系の環境影響評価の進め方
第III部 陸水域生態系のスコーピングの進め方
資料編 生態系に関する調査・予測・評価手法のレビュー
それぞれの分科会における検討成果を第I部~第III部にとりまとめるとともに、生態系の調査・予測・評価手法の検討に際して参考となる国内外の既存の手法についてレビューした結果を整理して併せて資料編に示した。
なお、この報告書のとりまとめにあたっては検討会の各委員、ワーキンググループの構成員のほか、地方公共団体、研究者、環境コンサルタント、民間団体など多くの方々に貴重なご意見や資料の提供をいただいた。陸域の類型区分と、基盤環境と生物群集の関係の整理に関しては日置佳之氏(建設省土木研究所環境部緑化生態研究室)より、また、丘陵地における水環境の特性の調査・予測に関しては恩田裕一氏(筑波大学地球科学系)より、また、調査・予測・評価手法のレビューに関しては野原精一氏(国立環境研究所生物圏環境部生態機構研究室)より御指導や資料の提供をいただいた。