生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会中間報告書
生物多様性分野の環境影響評価技術(I) スコーピングの進め方について(平成11年6月)

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3 「地形・地質」「植物」「動物」に関するスコーピングの進め方

 3-1 地形・地質

1)地域特性の把握

 (1)対象地域の地形及び地質の概要、(2)重要な地形及び地質の分布等の概要を地域概況調査により把握する。なお、ここで環境影響評価の対象とする「地形・地質」とは、環境保全の観点から捉えられる地学的な対象である「地形」、「地質」、「自然現象」とする。
 この場合、環境基本法で言う環境の保全の範疇に入らない防災的な観点は含まれない。ただし、地すべり地形など災害と密接な関係のあるものについては、環境保全の観点からも捉えられることに注意する。一方、同時に行われる生物の多様性分野(植物、動物、生態系)や自然との触れ合い分野(景観、触れ合い活動の場)に関する環境影響評価では、それぞれの基盤もしくは資源として地形、地質が重要であり、一体的な作業が行われることが効率的である。
 さらに、基本的事項において別の項目として区分されている「土壌」や「大気環境」、「水環境」等についても、同様の観点から必要とされるものは、一体的に整理することが望ましい。ここでは、土壌の項目に関する概要についても一体的に解説することとする。

(1)地形及び地質の概要

 対象地域についての地形図、地形分類図、表層地質図、土壌分類図、流域区分図及び空中写真等の既存資料を可能な範囲で収集・整理するとともに、主要な地形及び地質(表2-2に主要な地形・地質、表2-3に主要な土壌としてあげられる要素の例を示す)について可能な範囲で情報を収集する。
 以上の作業から得られた地域の概況を、地形分類図、表層地質図、土壌分類図等を用いて整理する。(スコーピング段階の地図の縮尺は、基本的には縮尺1/1万~1/5万程度とする)また、収集された情報により主要な地形及び地質リストを作成し、主要な地形及び地質の分布等の概要について整理する。
 これらの作業にあたっては、生態系や自然との触れ合い等に関する作業(基盤となる環境の類型区分等)との連携に留意する。

 

表2-2 主要な地形・地質としてあげられる要素例(地形、地質、自然現象)

地 形
[1]火山地形
成層火山、鐘状火山、塔状火山、臼状火山、容岩円頂丘、マール、カルデラ、カルデラ壁、火山性高原、流れ山(泥流丘)、寄生火山、シンダーコーン(砕屑丘)、火口、火口原、溶岩台地、火砕流台地、溶岩原、溶岩流、歴史時代に流下した溶岩流、溶岩洞窟、溶岩トンネル、溶岩樹型、溶岩流末端崖、風穴・氷穴、溶岩浸食地形、火口湖、火口原湖、カルデラ湖、溶岩塞き止め湖
[2]氷河地形・周氷河地形
カール(圏谷)、U字谷、氷食尖峰、アレート、非対称山稜、モレーン、羊背岩、懸谷、岩塊斜面・岩海、構造土(亀甲土、条線土、階状土など)、周氷河性波状地、デレ、クリオペディメント、アースハンモック(十勝坊主)、谷地坊主、パルサ、崖錐、風穴・氷穴、雪食凹地、ペーブメント、アバランチシュート(雪崩地形)
[3]山地地形・断層地形
準平原遺物、鋸歯状山稜、花崗岩ドーム、岸壁・断崖、岩峰、奇岩怪石、天然橋、岩門・石門、岩柱、線状凹地、キレット・蟻の塔渡りのような特徴的な稜線、巨大崩壊地、顕著な地すべり地、地すべりによって生じた池、千枚田景観、断層崖、歴史時代に生じた活断層、地震によって生じた池、地震によって生じた地割れ
[4]河川地形・湖沼
峡谷、渓谷、滝、滝壺、ナメ、淵、瀞、瀬、湧泉(群)、ポットホール(おう穴・かめ穴)群、土柱、バッドランド、自然河川、蛇行河川、三日月湖、穿入蛇行、河岸段丘、扇状地、沖積錐、自然堤防、後背湿地、落堀、河畔砂丘、干潟、河川争奪地形、谷中分水界、還流丘陵、天井川、谷津田景観、各種の湖沼、湿原、マッドランプ
[5]海岸と海の地形
リアス式海岸、多島海、溺れ谷、岩石海岸、海食崖、海食洞、波食棚(ベンチ)、歴史時代に隆起した波食棚、岩礁、潮吹き穴、きのこ岩、ポットホール、砂浜海岸、砂州、砂嘴・礫嘴、砂丘、三稜石、陸繋島、海岸段丘、サンゴ礁、隆起サンゴ礁、海跡湖(潟湖など)、干潟
[6]カルスト地形
カルスト台地、カッレンフェルト、ドリーネ、ウバーレ、ポリエ、鍾乳洞、石灰華段丘、鍾乳石、石筍
[7]地質構造を反映した地形
各種節理(柱状節理、板状節理、亀甲状節理、車軸状節理など)、馬の背岩のような岩脈
地 質
[1]特殊岩石・特殊鉱物・指標テフラなどの露頭(タイプロカリティー)
[2]地質構造の現れた露頭
各種褶曲(背斜、向斜、横臥)、各種断層(正断層、逆断層、横ずれ断層、押しかぶせ断層など)、枕状溶岩、不整合、偽層(斜向層理)、インボリューション、アイスウェッジキャスト
[3]化石などの産地
化石産地、珪化木産地、埋没林、化石林、化石漣痕、恐竜などの足跡化石産地、古土壌(赤色土など)の分布地
自然現象 噴火、噴泥、噴砂、噴泉、泥火山、噴泉塔、噴気、地獄現象、間欠泉、温泉・鉱泉、湧泉、渦流、潮流、潮吹き現象、風紋、砂漣、蜃気楼、結氷、霧氷、樹氷、万年雪、雪田、雪渓

(自然環境アセスメント研究会、1995.小泉武栄作成、一部改)

表2-3 主要な土壌としてあげられる要素例

成帯性土壌

[1]ポドゾル性土
泥炭質ポドゾル、湿性腐植質ポドゾル、低滞水グライポドゾル、高山ポドゾル、砂丘ポドゾルなど
[2]褐色森林土
多腐植質褐色森林土、表層グライ化褐色森林土、ポドゾル化褐色森林土、疑似グライ化褐色森林土など
[3]黄褐色森林土
典型的黄褐色森林土、疑似グライ化黄褐色森林土、グライ化黄褐色森林土、表層グライ化黄褐色森林土など
[4]赤黄色土
疑似グライ化赤黄色土(トラ斑土壌など)、表層グライ化赤黄色土(フェイチシャなど)、灰白化赤黄色土など
成帯内性土壌
[1]黒ボク土
表層多腐植質黒ボク土、厚層多腐植質黒ボク土、礫質多腐植質黒ボク土、淡色黒ボク土など
[2]準黒ボク土
非アロフェン質黒ボク土など
[3]疑似グライ土
典型的疑似グライ土など
[4]低滞水グライ土
泥炭質低滞水グライ土など
[5]褐色低地土
黒ボク質褐色低地土、湿性褐色低地土など
[6]灰色低地土
典型的灰色低地土、グライ化灰色低地土、泥炭質灰色低地土、黒ボク質灰色低地土、硫酸酸性質灰色低地土など
[7]グライ土
典型的グライ土、潜硫酸酸性質グライ土、石灰質グライ土など
[8]集積水田土
漂白化集積水田土など
[9]灰色化水田土
漂白化灰色化水田土、下層褐色灰色化水田土など
[10]泥炭土
高位泥炭土、中位泥炭土、低位泥炭土、黒ボク質泥炭土など
[11]レンジナ様土
褐色レンジナ、レンジナ様土など
[12]テラフスカ様土
疑似グライ化テラフスカ様土など
[13]テラロッサ様土
全てのテラロッサ様土
[14]チョコレート褐色土
全てのチョコレート褐色土
[15]グルムゾル様土
ジャーガルなど
非成帯性土壌
[1]未熟黒ボク土
湿性未熟黒ボク土など
[2]火山放出物未熟土
軽石風化土壌、シラス、ボラ、コラ、ヒコラなど
[3]固結岩屑土
初生レンジナなど
[4]非固結岩屑土
砂丘未熟土、泥灰岩質塩基性埴質未熟土など

特殊土壌

[1]マングローブ林土壌
塩性土など
[2]非火山性黒色土壌
全ての非火山性黒色土壌

(筑波大学 田村憲司作成)

(2)重要な地形及び地質の分布等の概要

 上記の主要な地形及び地質リストを資料として重要な地形及び地質を抽出し、それらに関する地形及び地質の特性(規模、構造、成因等)等の概要表、及び分布図(縮尺1/1万~1/5万程度)を作成する。
 ここで、重要な地形及び地質とは対象事業ごとに定められた主務省令において、「学術上※または希少性※の観点から重要であるものをいう。」とされている。(※学術上、希少性については次項(3)参照)
 重要な地形及び地質は、次項「学術上、希少性の考え方」を踏まえながら、表2-4に示した、法令等で指定されているもの、法に基づく指定地域の指定理由となっているもの、文献等に記載されているものを参考にするとともに、地域の環境に詳しい専門家等の意見や概略踏査の結果も合わせて、各々の抽出根拠と地域特性を十分勘案して抽出する。
 なお、法に基づく指定地域の周辺地域についても、指定理由となった地形・地質が分布する場合には、それらも含めて重要な地形・地質として扱うことが適当である。

(3)学術上、希少性の考え方

地形・地質に関する「学術上」、「希少性」の考え方を以下に示す。

[1]学術上に関する観点
 学術上の観点から重要なものには、例えば以下のようなものが含まれる。
(ア)固有性 
  ・分布が限定される地形・地質
(イ)傑出性
  ・規模や特徴が傑出している地形・地質
(ウ)代表性
  ・日本の自然特性を代表する顕著な地形・地質
  ・郷土・地域の自然特性を代表し、または特徴づける地形・地質
(エ)典型性
  ・成因、特性、産状等の点で典型的な状態を示すもの
(オ)生態系の基盤としての重要性
  ・動植物の重要な生息・生育場所の基盤となっている地形・地質
  ・特殊な生態系を支える地形・地質
(カ)成立環境の特異性
  ・寒冷地域や石灰岩地域などの特殊な成立環境に依存する地形・地質
   (成立環境が特殊なほど重要)
(キ)脆弱性
  ・環境の変化の影響を受けやすい地形・地質
   (わずかな変化でも失われてしまうものほど重要) 
(ク)教育研究上の重要性
  ・自然教育的な利用が行われている場所における地形・地質
   (情報の量が多いほどまた、利用頻度が高いほど重要)
  ・化石の産地
  ・化石、鉱物、土壌等の模式産地
  ・地学的な歴史を記録するために重要なもの
  など

[2]希少性の観点
 希少性の観点から重要なものには、全国レベルから地域レベルまで各地域サイズにおける希少なものが含まれる。
 また、数や面積が少ないほど重要であり、消滅が危惧されるものは、最も重要である。特に地域において減少が進んでいるものは、その減少速度によっても重要性が高まる。

2)環境影響評価の項目及び調査・予測・評価手法の選定

 以下の事項についての検討結果を「1)地域特性の把握」の結果と合わせて方法書にとりまとめ、方法書手続を通じて提出された意見を踏まえ、適切な項目・手法を選定する。

(1)環境影響評価の項目と対象とすべき要素の選定

 事業による影響要因が地形・地質に及ぼす影響の種類と範囲を概略想定し、地域特性の把握の結果から認められた対象地域における重要な地形・地質が、事業特性から想定される影響要因により影響を受ける可能性を検討する。
 この結果、重要な地形・地質のいずれかの要素に何らかの影響が及ぶ可能性が認められた場合には、「重要な地形・地質」の項目を環境影響評価の項目として選定し、影響が及ぶおそれのある要素を環境影響評価の対象とすべき要素として選定する。
 選定した要素について事業地との関係性や要素の価値認識等の対象とすべき理由を示した上で、地域特性把握の結果から得られた情報に基づいて、その概要(分布、状態、特性等の概要)を一覧表及び位置図(縮尺1/1万~1/5万程度)にとりまとめる。さらに、事業特性把握の結果から抽出した影響要因と選定された要素との関係を、マトリックス表として整理する。
 なお、この段階で影響を受ける可能性のある重要な地形・地質が確認されない場合にあっても、この時点で判断の根拠とした情報が十分でない場合には、環境影響評価段階の調査により対象とすべき要素の選定に漏れがないか確認する必要がある。

対象とすべき要素の概要表(例)
   
区分 名称 対象とすべき理由 概要(分布、状態、特性等) 法令指定状況など 情報源
           
           

注)区分欄には、重要な地形、重要な地質または重要な自然現象の項目の区分を記載する。


影響要因-対象とすべき要素のマトリックス(例)

p59.JPG (33133 バイト)

 

(2)手法の重点化・簡略化

 環境影響評価の対象とされた重要な地形・地質に関し、地域にとって特に重要なもの、重大な影響が考えられるもの、事業者が保全上特に重視したものなどは重点的かつ詳細な手法を適用し、一方、影響の程度が極めて小さいあるいは類似事例により影響の程度が明らかなものなどは簡略化した手法を適用することを検討する。この検討を踏まえ、以下の調査・予測・評価の効果的な手法を選定する。
 この重点化・簡略化の検討結果については、対象とすべき要素ごとに下記のような表にとりまとめるなどして、わかりやすく整理することが望ましい。

重点化・簡略化の整理表(例)
 
対象とすべき要素 区分 主な影響要因 重点化・簡略化の理由

重要な地形

○○湿地 重点化 ・地形の改変
・濁水の発生
・土砂の流下
貴重な動植物の生息する湿地が事業実施区域内に位置する。湿地を直接改変はしないが、湿地 の上部斜面に地形の改変が及ぶため、湿地の水文条件に影響を与えるおそれがある。
△△洞窟 重点化 ・地形の改変 事業による地形の改変の直接的な影響を受け、破壊されるおそれがある。
××砂丘 重点化 ・地形の改変 地形の改変が砂丘の破壊をもたらし、あわせて砂丘植生が発達している一部分に及ぶおそれがある。
重要な地質 □□露頭 簡略化 ・地形の改変 露頭の隣接地で地形の改変が行われるが、その改変はごく小さく、露頭への影響は極めて小さいものと予想される。
××化石産地 重点化 ・地形の改変 事業実施区域内に位置し、事業による地形の改変の直接的な影響を受けると予想される。
重要な自然現象 ○○間欠泉 重点化 ・地形の改変
(温泉井の掘削)
事業の実施に伴う温泉井の掘削等により、地下 水脈が分断され、間欠泉の噴気の量や勢いに影響を与えるおそれがある。
△△噴気孔 重点化 ・地形の改変 事業実施区域内に位置し、事業による地形の改変の直接的な影響を受けると予想される。

(注)重要な土壌についても土壌項目において同様の整理をする。


(3)調査・予測・評価手法の選定

[1]調査手法の選定
 調査手法は、環境影響評価の対象とすべき要素について、「手法の重点化・簡略化」の検討結果を踏まえ、適切な予測及び評価を行うために必要な範囲内で、当該要素の特性、事業特性、地域特性等を勘案して選定する。
 以下に主な調査項目例を示す。
 なお、重要な地形・地質についての調査項目は、「手法の重点化・簡略化」の検討結果も踏まえ、各要素ごとに必要な調査項目を設定し、適切な調査手法を選定する。

〔地形・地質の基礎的な調査〕
 対象地域全体における地形・地質の現況調査を行い、それらの状況等についてまとめる。この調査の実施にあたっては、次の事項に留意する。
重要な地形・地質の調査・予測・評価のための基礎的情報の収集
  (重要な地形・地質の抽出の補完を含む)
生態系等他の項目の調査・予測・評価のための基礎的情報の収集
 
〔重要な地形・地質に関する調査〕
 重要な地形・地質に関しては、以下の項目等について調査を行い、それらの重要性、分布、状態、特性等についてまとめる。
(ア)分布に関する調査

対象地域内の分布及び規模等
(イ)特徴に関する調査

形態、大きさ、構造、成立基盤(地盤、地質)、重要性等
(ウ)成因に関する調査

地形、地質については、歴史的変遷も含めた成因、自然現象についてはそれが生じるメカニズムについて明らかにし、それらの保全に必要な環境要素の状況を整理する。
など

[2]予測手法の選定
 予測手法は、環境影響評価の対象とすべき要素について、「手法の重点化・簡略化」の検討結果を踏まえ、当該要素の特性、事業特性、地域特性等を勘案して、当該要素に係る評価において必要とされる水準が確保されるよう選定する。
 重要な地形・地質は、以下の項目等について予測することを通じて、当該地形・地質の持続可能性を予測するものとし、そのための適切な予測手法を選定する。その際、できる限り定量的な予測手法を用いるものとする。予測対象時期は、工事中、存在・供用時などの影響の発生時期に応じて設定する。

(ア) 造成等による直接的な改変に伴う重要な地形・地質の変化の程度及び内容
(イ) 成立の基礎となる環境の変化及び成立のメカニズムへの影響に伴う重要な地形・地質の変化の程度及び内容

[3]評価手法の選定
 重要な地形・地質の持続可能性(対象とする要素の価値、重要性の持続という視点を含む)という評価の視点から、対象とする地形・地質に及ぼす影響の回避・低減に関する評価及び環境保全措置検討の基本方針について、対象事業における代替可能性の幅等も踏まえ、事業者の見解を示す。
 評価における検討項目例を以下に示す。
 ・影響の回避・低減の評価
   (複数案の比較検討、実行可能なより良い技術の検討など)
 ・環境保全措置の効果・影響の評価
 ・環境保全に関する基準または目標との整合性  
 など

 

表2-4 重要な地形・地質の抽出の際に参考とすべき法令、文献等の例

○法令等

法 令 等 の 名 称

抽出の参考とすべきもの

自然環境保全法 自然環境保全地域等の指定理由となっているもの
自然公園法 国立公園等の指定理由となっているもの、指定植物
文化財保護法 特別天然記念物、天然記念物、特別名勝、名勝
世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約 自然遺産の指定理由となっているもの
条例、要綱等   
その他   

○文献等

文献・調査・資料名 発行者等 発行年
第1回自然環境保全基礎調査
  「すぐれた自然図」(地形・地質・自然現象)(1/20万)
環境庁 1976
第2回自然環境保全基礎調査
  「湖沼調査報告書」
  「河川調査報告書」
  「海域調査報告書」
  「干潟・藻場・サンゴ礁分布調査報告書」
環境庁
1980
1980
1981
1979
第3回自然環境保全基礎調査
  「自然景観資源調査報告書」
  「自然環境情報図」(1/20万)
  「湖沼調査報告書」
  「河川調査報告書」
  「海岸調査の結果(資料)」
環境庁
1989
1989
1987
1987
1985
第4回自然環境保全基礎調査
  「湖沼調査報告書」
  「河川調査報告書」
  「海岸調査報告書」
  「海域生物環境調査報告書」
   (干潟・藻場・サンゴ礁調査)
環境庁
1993
1994
1994
1994
日本の典型地形 都道府県別一覧

建設省国土地理院

1999
日本の地形レッドデータブック 第1集 同作成委員会 1994
我が国の失われつつある土壌
-土壌版-(仮題)
日本ペドロジー学会 2000.3
発行予定
都道府県等の環境基本計画、環境管理計画等 都道府県等   
地形・地質に関する都道府県等による調査報告書 都道府県等   
県史・市町村史等 都道府県等   
その他      

※文献等の利用にあたっては、それぞれの文献等の調査目的、精度、調査年次等に十分留意する必要がある。

 

 3-2 植物

1)地域特性の把握

 (1)対象地域の植物相及び植生の概要、(2)重要種の分布、生育状況、及び重要な群落の分布状況等の概要を地域概況調査により把握する。

(1)植物相及び植生の概要

 対象地域における植物種の分布情報がある場合にはそれにより把握し、また、それがない場合は、対象地域の自然環境を踏まえ、都道府県の植物誌等や近接の市町村等における目録等をもとに類推する。この他、概略踏査の際に確認されたものやヒアリングも踏まえ、この時点で想定される植物相の概要を整理する。
 また、既存の植生図等から得られる情報、その他の既存資料、空中写真や概略踏査、ヒアリング等で得られた植物群落の分布情報等により、植生の概要を整理するとともに、この時点で想定される主要な植物群落の概要を整理する。その際、現存植生図、群落特性表、空中写真等の既存資料を可能な範囲で収集・整理する。

(2)重要な種の分布、生育状況、及び重要な群落の分布状況等の概要

 上記の植物相の概要、植生の概要、主要な植物群落の概要、現存植生図、及び群落特性表等を資料として、この段階で得られる情報から想定される重要な種及び重要な群落を抽出し、それらに関する特性(生育状況、生態特性等)等の概要表、また、分布情報が得られている場合には概略分布図(縮尺1/1万~1/5万程度)を作成する。
 ここで、重要な種及び重要な群落とは、対象事業ごとに定められた主務省令において「学術上または希少性の観点から重要であるものをいう。」とされている。(学術上、希少性については次項(3)参照)
 重要な種及び重要な群落は、次項「学術上、希少性の考え方」を踏まえながら、表2-5に示した、法令等で指定されているもの、法に基づく指定地域の指定理由とされているもの、文献等に記載されているものを参考にするとともに、地域の環境に詳しい専門家等へのヒアリングによる意見や概略踏査の結果も合わせて、各々の抽出根拠及び地域特性を十分勘案して抽出する。
 なお、法に基づく指定地域の周辺地域についても、指定理由となった植物種・群落が分布する場合には、それらも含めて重要種・群落として扱うことが適当である。

(3)学術上、希少性の考え方
 
 植物に関する「学術上」、「希少性」の考え方を以下に示す。

[1]学術上の観点
 学術上の観点から重要なものには、例えば、以下のようなものが含まれる。

植物種
 (ア)固有性
  ・分布が限定される種(亜種以下の分類群を含む)
  ・形態的に顕著な特徴をもつ個体群(形態的な変異に富むもの)
 (イ)分布限界
  ・種の水平・垂直的な分布限界
 (ウ)隔離分布
  ・隔離分布を示す種
 (エ)教育研究上の重要性
  ・継続的に観察・調査されている個体群
  ・遺存的なもので研究上重要な種
  ・種の基準産地における個体群
  ・巨樹、老木など
  など

植物群落
 (ア)自然性
  ・原生的な状態に近い種組成を有する群落
  ・一定の面積を有している自然性の高い群落
 (イ)傑出性 
  ・広大なブナ林や湿原など大規模に発達した群落
 (ウ)多様性
  ・構成種の多様性に富む自然の群落
  ・伝統的な管理により維持されてきた構成種の多様性に富む群落
  ・多様な動植物の生息環境や生態系の基盤として重要な群落
 (エ)貴重種の依存性
  ・学術上重要な種、希少な種など貴重種と結びつきが強い群落
 (オ)典型性
  ・典型的な種組成をもつため、群落の特徴を知る上で重要なもの
  ・郷土景観を代表するもので、特にその群落の特徴が典型的なもの
  ・自然性の高い社寺林など
 (カ)分布限界
  ・水平・垂直的な分布限界に位置する群落
 (キ)立地の特異性
  ・湿原、特殊岩地、砂丘、特殊な気象条件などの特異な立地条件に成立する群落
 (ク)脆弱性
  ・環境の変化の影響を受けやすい群落
 (ケ)教育研究上の重要性
  ・群落に関する調査・研究が行われ、教育研究上重要な群落
  ・一般的な種組成とは異なる特徴的な種組成をもつ群落
  ・人工的に植林された森林で長期にわたり伐採等の手が入っていないもの
  など

[2]希少性の観点
 希少性の観点から重要なものには、全国レベルから地域レベルまで各地域サイズにおける希少なものが含まれる。
 また、個体数や生育面積が少ないほど重要であり、絶滅が危惧されるものは、最も重要である。特に地域において減少が進んでいるものについては、その減少速度によっても重要性が高まる。

2)環境影響評価の項目及び調査・予測・評価手法の選定

 以下の事項についての検討結果を「1)地域特性の把握」の結果と合わせて方法書にとりまとめ、方法書手続を通じて提出された意見を踏まえ、適切な項目・手法を選定する。

(1)環境影響評価の項目と対象とすべき要素の選定

 事業による影響要因が植物に及ぼす影響の種類と範囲を概略想定し、地域特性の把握の結果から認められた対象地域における重要な植物種・群落が、事業特性から想定される影響要因により影響を受ける可能性を検討する。
 この結果、重要な植物種・群落のいずれかの要素に何らかの影響が及ぶ可能性が認められた場合には、「重要な植物種・群落」の項目を環境影響評価の項目として選定し、影響が及ぶおそれのある要素を環境影響評価の対象とすべき要素として選定する。
 選定した要素について事業地との関係性や要素の価値認識等の対象とすべき理由を示した上で、地域特性把握の結果から得られた情報に基づいて、その概要(分布、生育状況、生態特性等の概要)を一覧表及び位置図(縮尺1/1万~1/5万程度)にとりまとめる。さらに、事業特性把握の結果から抽出した影響要因と選定された要素との関係を、マトリックス表として整理する。この位置図については、現存植生図や生態系項目で作成する類型区分図との関係を比較できるよう工夫することが望ましい。
 なお、この段階で影響を受ける可能性のある重要な植物種・群落が確認されない場合にあっても、この時点で判断の根拠とした情報が十分でない場合には、環境影響評価段階の調査により対象とすべき要素の選定に漏れがないか確認する必要がある。

対象とすべき要素の概要表(例)
   
区分 名称 対象とすべき理由 概要(分布、状態、特性等) 法令指定状況など 情報源
           
           

注)区分欄には、重要な植物種たは重要な群落の項目の区分を記載する。

影響要因-対象とすべき要素のマトリックス(例)
p66.JPG (35055 バイト)

 

(2)手法の重点化・簡略化

 環境影響評価の対象とされた重要な植物種・群落に関し、地域にとって特に重要なもの、重大な影響が考えられるもの、事業者が保全上特に重視したものなどは重点的かつ詳細な手法を適用し、一方、影響の程度が極めて小さい、あるいは類似事例により影響の程度が明らかなものなどは簡略化した手法を適用することを検討する。この検討を踏まえ、以下の調査・予測・評価の効果的な手法を選定する。
 この重点化・簡略化の検討結果については、対象とすべき要素ごとに下記のような表にとりまとめるなどして、わかりやすく整理することが望ましい。

重点化・簡略化の整理表(例)

対象とすべき要素 区分 主な影響要因 重点化・簡略化の理由
重要な種 タコノアシ 重点化 ・地形の改変
・土砂の流下
・踏圧
・地下水位の変化
対象地域内には本種の生息する湿地が数多く確認されているが、地形の改変を受ける割合は少ない。しかし、土砂の流下や地下水位の変化による湿地への影響が予想され、これによる湿地の消滅が対象地域の本種の個体群の存続に及ぼす影響は大きいと予想されるため、周辺環境も含め本種の詳細な調査を行う必要がある。
タヌキモ 重点化 ・地形の改変
・濁水の発生
・地下水位の変化
対象地域における本種の分布状況は十分には把握されていない。しかし、本事業による濁水の発生や地下水位の変化が本種の生育に重大な影響を与える可能性があるため、周辺環境も含め本種の詳細な調査を行う必要がある。
カタクリ 重点化 ・地形の改変
・樹木の伐採
・踏圧
対象地域における本種の分布状況が把握されており、本事業に伴う樹木伐採、林内の利用に伴う踏圧が本種の生育密度の高い部分に影響を与える可能性がある。

セッコク

重点化 ・地形の改変
・樹木の伐採
対象地域において本種が確認されており、本事業に伴う樹木伐採が本種の生育に大きな影響を与える可能性があるため、周辺環境も含め本種の詳細な調査を行う必要がある。

キンラン

簡略化

・地形の改変
・樹木の伐採
本種の生育場所を含む広葉樹林の周辺部分が一部伐採されるが、その面積はごく小さく、また、生育場所に伐採が及ばないため、本種への影響は小さいものと予想される。
重要な群落 ジュンサイ-ヒツジ群集 重点化 ・地形の改変
・濁水の発生
・土砂の流下
・地下水位の変化
対象地域内には本群集の成立する池沼が確認されているが、地形の改変を受ける割合は少ない。しかし、本群集が事業による濁水の発生、土砂の流下、地下水位の変化等により、大きな影響を受ける可能性がある。
クヌギ-コナラ群集 重点化 ・地形の改変
・樹木の伐採
・踏圧
対象地域内には本群集が広く成立しており、事業に伴う地形の改変、樹木伐採、林内の利用に伴う踏圧が本群集の生育に大きな影響を与え、種組成を劣化させる可能性があるため、本群集の詳細な調査を行う必要がある。

(3)調査・予測・評価手法の選定

[1]調査手法の選定
 調査手法は、環境影響評価の対象とすべき要素について、「手法の重点化・簡略化」の検討結果を踏まえ、適切な予測及び評価を行うために必要な範囲内で、当該要素の特性、事業特性、地域特性等を勘案して選定する。
 以下に主な調査項目例を示す。
 なお、重要な植物種、重要な植物群落についての調査項目は、「手法の重点化・簡略化」の検討結果も踏まえ、各要素ごとに必要な調査項目を設定し、適切な調査手法を選定する。
 また、環境影響評価段階の調査では、上記の重要種及び重要な群落に関する調査の前に、重要種及び重要な群落の追加・見直し等のため、スコーピング段階の地域概況調査より詳細な植物相及び植物群落に関する調査を行う必要がある。

〔植物相、植生に関する基礎的な調査〕
 対象地域全体における植物相、植生の現況調査を行い、それらの状況等についてまとめる。この調査の実施にあたっては次の事項に留意する。
 ・重要な種・群落の調査・予測・評価のための基礎的情報の収集
  (重要な種・群落の抽出の補完を含む)
 ・生態系等、他の項目の調査・予測・評価のための基礎的情報の収集
 
〔重要な植物種、重要な植物群落に関する調査〕
 重要な植物種・群落に関しては、以下の項目等について調査を行い、それらの重要性、分布、生育状況、生育環境の状況等についてまとめる。

重要な植物種
 (ア)分布、生活史に関する調査
  ・対象地域における分布
  ・対象地域での繁殖状況の調査
 (イ)生育量に関する調査
  ・個体数や被度・密度に関する調査
 (ウ)生育環境に関する調査
  ・基盤環境に関する調査
    気象、地形、地質、土壌、水質、水文条件など
  ・生育環境としての植生に関する調査
    出現する群落など
  ・その他の生育環境に関する調査
    管理の状況など
 (エ)その他
  ・生育可能地の存在・配置に関する調査
  など 
  
重要な植物群落
 (ア)群落の分布に関する調査
 (イ)群落の植物社会学的調査
 (ウ)立地環境に関する調査
  ・基盤環境に関する調査
    気象、地形、地質、土壌、水質、水文条件など
  ・その他の立地環境に関する調査
    管理の状況など
 (エ)その他
  ・群落の遷移や更新に関する調査
  ・潜在的に群落の成立が可能な地域の存在・配置に関する調査
  など

[2]予測手法の選定
 予測手法は、環境影響評価の対象とすべき要素について、「手法の重点化・簡略化」の検討結果を踏まえ、当該要素の特性、事業特性、地域特性等を勘案して、当該要素に係る評価において必要とされる水準が確保されるよう選定する。
 重要な植物種及び重要な植物群落は、以下の項目等について予測することを通じて、当該種・群落の持続可能性を予測するものとし、そのための適切な予測手法を選定する。その際、できる限り定量的な予測手法を用いるものとする。予測対象時期は、工事中、存在・供用時などの影響の発生時期に応じて設定する。

(ア) 造成、伐採等による直接的な改変に伴う重要な植物種及び重要な植物群落の変化の程度及び内容
(イ) 気象、水質、水文条件等の生育環境の変化に伴う重要な植物種及び重要な 植物群落の変化の程度及び内容

[3]評価手法の選定
 重要な種、重要な植物群落の持続可能性(対象とする要素の価値、重要性の持続という視点を含む)という評価の視点から、対象とする種や群落に及ぼす影響の回避・低減に関する評価及び環境保全措置検討の基本方針について、対象事業における代替可能性の幅等も踏まえ、事業者の見解を示す。
 評価における検討項目例を以下に示す。
 ・影響の回避・低減の評価
  (複数案の比較検討、実行可能なより良い技術の検討など)
 ・環境保全措置の効果・影響の評価
 ・環境保全に関する基準または目標との整合性
 など


表2-5 重要な植物種・群落の抽出の際に参考とすべき法令、文献等の例

○法令等

法 令 等 の 名 称 抽出の参考とすべきもの
自然環境保全法 自然環境保全地域等の指定理由となっているもの
自然公園法 国立公園等の指定理由となっているもの、指定植物
絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律 国内希少野生動植物種等
生息地等保護区の指定理由となっているもの
文化財保護法 特別天然記念物、天然記念物、特別名勝、名勝
森林法 風致保安林等の指定理由となっているもの
都市緑地保全法 緑地保全地区の指定理由となっているもの
世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約 自然遺産の指定理由となっているもの
保護林制度 森林生態系保護地域、植物群落保護林等の指定理由となっているもの
条例、要綱等   
その他   

○文献等

文献・調査・資料名 発行者等 発行年
第1回自然環境保全基礎調査
  「すぐれた自然図」(植物)(1/20万)
環境庁 1976
第2回自然環境保全基礎調査
  「現存植生図」(1/5万)
  「植生調査報告書」
  「特定植物群落調査報告書」
  「動植物分布図」(1/20万)
環境庁
1981,1982
1980,1981
1979,1981
1981
第3回自然環境保全基礎調査
  「現存植生図」(1/5万)
  「植生調査報告書」
  「特定植物群落調査報告書 追加・追跡調査」
  「特定植物群落調査報告書 生育状況調査」
  「自然環境情報図」(1/20万)
環境庁
1985-1989
1987,1988
1988
 
1988
第4回自然環境保全基礎調査
  「現存植生改変図」(1/5万)
  「植生調査報告書」
  「巨樹・巨木林調査報告書」
環境庁
1994
1994
1989,1990
河川水辺の国勢調査年鑑(建設省監修)  
  植物
山海堂 1994
国立、国定公園内指定植物図鑑 環境庁 1980-1983
我が国における保護上重要な植物種の現状
 (植物種レッドデータブック)

日本自然保護協会
世界自然保護基金日本委員会

1989
植物に関するレッドリスト(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト) 環境庁 1997
植物群落レッドデータ・ブック

日本自然保護協会
世界自然保護基金日本委員会

1996
日本の希少な野生水生生物に関するデータブック  
(水産庁編)
日本水産資源保護協会 1998
天然記念物緊急調査
  「植生図・主要動植物地図」
文化庁 1969-1983
地方版レッドデータブック 都道府県等   
植物誌等 都道府県等   
都道府県等の環境基本計画、環境管理計画等 都道府県等   
植物に関する都道府県等による調査報告書 都道府県等   
県史・市町村史等 都道府県等   
その他      

※文献等の利用にあたっては、それぞれの文献等の調査目的、精度、調査年次等に十分留意する必要がある。

 3-3 動物

1)地域特性の把握

 (1)対象地域の動物相の概要、(2)重要な種の分布、生息状況、及び注目すべき生息地の分布状況等の概要を地域概況調査により把握する。

(1)動物相の概要

 対象地域における動物種の分布情報がある場合にはそれにより把握し、また、それがない場合は、対象地域の自然環境を踏まえ、都道府県の動物誌等や近接の市町村等における目録等をもとに類推する。この他、概略踏査の際に確認されたものやヒアリングも踏まえ、この時点で想定される動物相の概要を整理する。
 また、動物の生息地に関する情報がある場合は、この時点で得られる情報から想定される主要な生息地の概要を整理する。

(2)重要な種の分布、生息状況、及び注目すべき生息地の分布状況等の概要

 上記の動物相の概要及び主要な生息地の概要を資料として、この段階で得られる情報から想定される重要な種及び注目すべき生息地を抽出し、それらに関する特性(生息状況、生態特性等)等の概要表、また、分布情報が得られている場合には概略分布図(縮尺1/1万~1/5万程度)を作成する。
 ここで、重要な種とは、対象事業ごとに定められた主務省令において「学術上または希少性の観点から重要であるものをいう。」とされている。また、注目すべき生息地とは「学術上若しくは希少性の観点から重要である生息地又は地域の象徴であることその他の理由により注目すべき生息地をいう。」とされている。(学術上、希少性については次項(3)参照)
 重要な種及び注目すべき生息地は、次項「学術上、希少性の考え方」を踏まえながら表2-6に示した、法令等で指定されているもの、法に基づく指定地域の指定理由とされているもの、文献等に記載されているものを参考にするとともに、地域の環境に詳しい専門家等へのヒアリングによる意見や概略踏査の結果も合わせて、各々の抽出根拠及び地域特性を十分勘案して抽出する。
 なお、法に基づく指定地域の周辺地域においても、指定理由となった動物種・生息地が分布する場合には、それらも含めて重要種・注目すべき生息地として扱うことが適当である。

(3)学術上、希少性の考え方

 動物に関する「学術上」「希少性」の考え方を以下に示す。

[1]学術上の観点
 学術上の観点から重要なものには、例えば以下のようなものが含まれる。

動物種
 (ア)固有性 
  ・分布が限定される種(亜種を含む)
  ・形態的に顕著な特徴をもつ個体群(形態的な変異に富むもの)
 (イ)分布限界
  ・種の水平・垂直的な分布限界
 (ウ)隔離分布
  ・隔離分布を示す種
 (エ)教育研究上の重要性
  ・継続的に観察・調査されている個体群
  ・遺存的なもので研究上重要な種
  ・種の基準産地における個体群
 など

動物の生息地
 (ア)自然性 
  ・原生的な状態に近い生息地
  ・一定の面積を有している自然性の高い生息地
 (イ)傑出性 
  ・鳥類の集団渡来地・集団繁殖地などの大規模な生息地
 (ウ)多様性
  ・構成種の多様性に富む自然の生息地
  ・伝統的な管理により維持されてきた構成種の多様性に富む生息地
 (エ)貴重種の依存性
  ・学術上重要な種、希少な種など貴重種が生息のための重要な場所として強く依存する生息地
 (オ)生息立地の特異性
  ・湿原、洞窟、特殊岩地などの特異な立地条件に成立する生息地
 (カ)脆弱性
  ・環境の変化の影響を受けやすい生息地
 (キ)教育研究上の重要性
  ・動物に関する調査・研究が行われ、教育研究上重要な生息地
 など

[2]希少性の観点
 希少性の観点から重要なものには、全国レベルから地域レベルまで各地域サイズにおける希少なものが含まれる。
 また、個体数や生息面積が少ないほど重要であり、絶滅(生息地の場合は消滅)が危惧されるものは、最も重要である。特に地域において減少が進んでいるものについては、その減少速度によっても重要性が高まる。

2)環境影響評価の項目及び調査・予測・評価手法の選定

 以下の事項についての検討結果を「1)地域特性の把握」の結果と合わせて方法書にとりまとめ、方法書手続を通じて提出された意見を踏まえ、適切な項目・手法を選定する。

(1)環境影響評価の項目と対象とすべき要素の選定

 事業による影響要因が動物に及ぼす影響の種類と範囲を概略想定し、地域特性の把握の結果から認められた対象地域における重要な動物種・注目すべき生息地が、事業特性から想定される影響要因により影響を受ける可能性を検討する。
 この結果、重要な動物種・注目すべき生息地のいずれかの要素に何らかの影響が及ぶ可能性が認められた場合には、「重要な動物種・注目すべき生息地」の項目を環境影響評価の項目として選定し、影響が及ぶおそれのある要素を環境影響評価の対象とすべき要素として選定する。
 選定した要素について事業地との関係性や要素の価値認識等の対象とすべき理由を示した上で、地域特性把握の結果から得られた情報に基づいて、その概要(分布、生息状況、生態特性等の概要)を一覧表及び位置図(縮尺1/1万~1/5万程度)にとりまとめる。さらに、事業特性把握の結果から抽出した影響要因と選定された要素との関係を、マトリックス表として整理する。この位置図については、現存植生図や生態系項目で作成する類型区分図との関係を比較できるよう工夫することが望ましい。
 なお、影響を受ける可能性のある重要な動物種・注目すべき生息地が確認されない場合で、この時点で判断の根拠とした情報が十分でない場合には、環境影響評価段階の調査により対象とすべき要素の選定に漏れがないか確認する必要がある。

対象とすべき要素の概要表(例)

区分 名称 対象とすべき理由 概要(分布、状態、特性等) 法令指定状況など 情報源
           
           

注)区分欄には、重要な動物種たは注目すべき生息地の項目の区分を記載する。

影響要因-対象とすべき要素のマトリックス(例)
p74.JPG (34772 バイト)

 

(2)手法の重点化・簡略化

 環境影響評価の対象とされた重要な動物種・注目すべき生息地に関し、地域にとって特に重要なもの、重大な影響が考えられるもの、事業者が保全上特に重視したものなどは重点的かつ詳細な手法を適用し、一方、影響の程度が極めて小さい、あるいは類似事例により影響の程度が明らかなものなどは簡略化した手法を適用することを検討する。この検討を踏まえ、以下の調査・予測・評価の効果的な手法を選定する。
 この重点化・簡略化の検討結果については、対象とすべき要素ごとに下記のような表にとりまとめるなどして、わかりやすく整理することが望ましい。

重点化・簡略化の整理表(例)

対象とすべき要素 区分 主な影響要因 重点化・簡略化の理由

 

 

 

オオタカ 重点化 ・地形の改変
・樹木の伐採
・騒音の発生
対象地域において本種が確認されており、事業実施区域内で営巣していることも考えられ、周辺環境も含め本種の詳細な調査を行う必要がある。
トウキョウサンショウウオ 重点化 ・地形の改変
・樹木の伐採
・濁水の発生
対象地域における本種の分布状況は十分には把握されていないが、本事業が湧水の多くみられる場所に影響を与え、本種に重大な影響が及ぶおそれがあるため、周辺環境も含め本種の詳細な調査を行う必要がある。
ホトケドジョウ 重点化 ・地形の改変
・濁水の発生
対象地域における本種の分布状況は十分には把握されていないが、本事業が湧水の多くみられる場所に影響を与え、本種に重大な影響が及ぶおそれがあるため、周辺環境も含め本種の詳細な調査を行う必要がある。

ハッショウトンボ

重点化 ・地形の改変
対象地域内には、本種の生息する湿地が数多く確認されており、地形の改変を受ける割合は比較的少ないが、事業による影響を受けると予想される湿地は対象地域でも規模が大きいものであり、この生息場所の消滅が対象地域の個体群の存続に及ぼす影響は大きいものと予想される。

ギフチョウ

重点化

・地形の改変
・樹木の伐採
本種の当地域の寄主植物である△△カンアオイの密度の高い樹林地が地形の改変を受け、個体数が変化する可能性が大きい。  
オオムラサキ

簡略化

・樹木の伐採 本種の生息場所を含む広葉樹林の周辺部分の一部が伐採されるが、その面積はごく小さく、良好な生息場所への影響は及ばないと予想される。
注目すべき種 ●●湿地 重点化 ・地形の改変
・樹木の伐採
事業実施区域内に位置し、事業による影響を受けると予想される湿地である。ここは湿性植物が豊富に見られ、ハッショウトンボ゙、ヒメヒカゲ、サギソウなどの希少な動植物の生息場所となっている。
▲▲の原生林 重点化 ・地形の改変
・樹木の伐採
事業実施区域内に位置し、一部分が事業による地形の改変を受ける。ここはシイ・カシ林が発達し、多くの動植物種の生息場所となっている。


(3)調査・予測・評価手法の選定

[1]調査手法の選定
 調査手法は、環境影響評価の対象とすべき要素について、「手法の重点化・簡略化」の検討結果を踏まえ、適切な予測及び評価を行うために必要な範囲内で、当該要素の特性、事業特性、地域特性等を勘案して選定する。
 以下に主な調査項目例を示す。
 なお、重要な動物種及び注目すべき生息地についての調査項目は、「手法の重点化・簡略化」の検討結果も踏まえ、各要素ごとに必要な調査項目を設定し、適切な調査手法を選定する。
 また、環境影響評価段階の調査では、上記の重要種及び注目すべき生息地に関する調査の前に、重要種及び注目すべき生息地の追加・見直し等のため、スコーピング段階の地域概況調査より詳細な動物相及び生息地に関する調査を行う必要がある。

〔動物相・生息地に関する基礎的な調査〕
 対象地域全体における動物相、生息地に関する現況調査を行い、それらの状況等についてまとめる。この調査の実施にあたっては、次の事項に留意する。
 ・重要な動物種・注目すべき生息地の調査・予測・評価のための基礎的情報の収集
 (重要な動物種・注目すべき生息地の抽出の補完を含む)
 ・生態系等他の項目の調査・予測・評価のための基礎的情報の収集

〔重要な動物種・注目すべき生息地に関する調査〕
 重要な動物種、注目すべき生息地に関しては、以下の項目等について調査を行い、それらの重要性、分布、生息状況、生息環境の状況等についてまとめる。
 (ア)分布、生活史に関する調査
 ・対象地域における分布
 ・対象地域での定着性(季節的移動)と繁殖に関する調査
 (イ)生息数に関する調査
 ・個体数や密度(密度分布)に関する調査
 (ウ)食性に関する調査
 ・主な餌種(採食空間)
 ・主要餌種の分布と密度
 (エ)その他種間の関係に関する調査
 (オ)生息環境に関する調査
 ・基盤環境に関する調査
 ・生息環境としての植生に関する調査
 ・管理の状況などに関する調査
 (カ)環境の空間的利用に関する調査
 (キ)重要な資源の分布に関する調査
 など

[2]予測手法の選定
 予測手法は、環境影響評価の対象とすべき要素について、「手法の重点化・簡略化」の検討結果を踏まえ、当該要素の特性、事業特性、地域特性等を勘案して、当該要素に係る評価において必要とされる水準が確保されるよう選定する。
 重要な動物種及び注目すべき生息地は、以下の項目等について検討することを通じて、当該種・生息地の持続可能性を予測するものとし、そのための適切な予測手法を選定する。その際、できる限り定量的な予測手法を用いるものとする。予測対象時期は、工事中、存在・供用時などの影響の発生時期に応じて設定する。

(ア)造成、伐採等による直接的な改変に伴う重要種及び注目すべき生息地の変化の程度及び内容

(イ)気象、水質、水文条件等の生息環境の変化に伴う重要種及び注目すべき生息地の変化の程度及び内容

[3]評価手法の選定
 重要な種、注目すべき生息地の持続可能性(対象とする要素の価値、重要性の持続という視点を含む。)という評価の視点から、対象とする種や生息地に及ぼす影響の回避、低減に関する評価及び環境保全措置検討の基本方針について、対象事業における代替可能性の幅等も踏まえ、事業者の見解を示す。
 評価における検討項目例を以下に示す。
 ・影響の回避、低減の評価
  (複数案の比較検討、実行可能なより良い技術の検討など)
 ・環境保全措置の効果・影響の評価
 ・環境保全に関する基準または目標との整合性
 など

 

表2-6 重要な動物種、注目すべき生息地の抽出の際に参考とすべき法令、文献等の例

○法令等

法 令 等 の 名 称

抽出の参考とすべきもの

自然環境保全法 自然環境保全地域等の指定理由となっているもの
自然公園法 国立公園等の指定理由となっているもの、指定植物
絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律 国内希少野生動植物種等
生息地等保護区の指定理由となっているもの
鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律 鳥獣保護区等の指定理由となっているもの
文化財保護法 特別天然記念物、天然記念物、特別名勝、名勝
都市緑地保全法 緑地保全地区の指定理由となっているもの
世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約 自然遺産の指定理由となっているもの
保護林制度 森林生態系保護地域、植物群落保護林等の指定理由となっているもの
条例、要綱等   
その他    

 

○文献等

文献・調査・資料名

発行者等 発行年
第1回自然環境保全基礎調査
「すぐれた自然図」(野生動物)(1/20万)
環境庁 1976
第2回自然環境保全基礎調査
「動物分布調査報告書」
(哺乳類、鳥類、両生類・は虫類、淡水魚類、昆虫類)
「動植物分布図」(1/20万)
「干潟・藻場・サンゴ礁分布調査報告書」
ほか
環境庁
1979-1981

1981
1979
第3回自然環境保全基礎調査  
「動物分布調査報告書」
(哺乳類、鳥類、両生類・爬虫類、淡水魚類、昆虫類-チョウ・トンボ・ガ・セミ及び甲虫、陸産及び淡水産貝類)
ほか
環境庁
1988
第4回自然環境保全基礎調査
「動物分布調査報告書」
(哺乳類、鳥類の集団繁殖地及び集団ねぐら、両生類・爬虫類、淡水魚類、昆虫類-チョウ・トンボ・ガ・セミ及び甲虫、陸産及び淡水産貝類)
「海域生物環境調査報告書」
(干潟・藻場・サンゴ礁調査)
ほか
環境庁


1993,1994




1994

河川水辺の国勢調査年鑑(建設省監修)
両生類・爬虫類・哺乳類、鳥類、魚介類、陸上昆虫類、底生動物
山海堂 1994
日本の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータブック)
脊椎動物編 無脊椎動物編(環境庁編)
自然環境研究センター 1991
動物に関するレッドリスト(改訂版) 環境庁 1997-1999
日本の希少な野生水生生物に関するデータブック
(水産庁編)
日本水産資源保護協会 1998
シギ・チドリ科渡来湿地目録 環境庁 1997
ガンカモ科鳥類の生息調査報告書 環境庁 1970~
天然記念物緊急調査
「植生図・主要動植物地図」
文化庁 1969-1983
地方版レッドデータブック 都道府県等    
植物誌等 都道府県等    
都道府県等の環境基本計画、環境管理計画等 都道府県等    
動物に関する都道府県等による調査報告書 都道府県等    
県史・市町村史等 都道府県等    
レッドデータ日本の哺乳類(日本哺乳類学会編) 文一総合出版 1997
日本産蝶類の衰亡と保護 第2集 日本鱗翅学会
日本自然保護協会
1993
昆虫類の多様性保護のための重要地域 第1集 日本昆虫学会自然保護委員会 1999
その他        

※文献等の利用にあたっては、それぞれの文献等の調査目的、精度、調査年次等に十分留意する必要がある。

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