効果的なSEAと事例分析(平成15年6月)

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3.7. 事例研究: チェコ共和国のエネルギー政策(EP-CR)

3.7.1. はじめに

3.7.1.1. SEAの役割

   EP-CRのSEAは、チェコにおける最初のパイロットSEAであった。同SEAは、提案者(産業省)によりEP-CRの案が作成された後に適用された。また、この事例では、単一案(複数案がない)による提案が行われたのみであり、提案者は政府に政策を提出するにあたりSEAの適用が必要であることをはじめて知ったという経緯がある。SEAは、環境省の要求に基づき、チェコ環境影響評価法(SEA関連は第14条)に従って開始された。その後、外部コンサルタント(SEVEn)に委託してSEAが実施された。

SEAチームは、SEA報告書の作成を主目的とし、報告書の作成に当たっては以下のステップを踏んだ。


●   スコーピング(国レベルの公聴会を一度開催し、計画案と提案されたアセスメント手法に対する意見を聴取)


●   ドラフトSEA報告書の作成


●   ドラフトSEA報告書の公衆による審査(国レベルの公聴会を一度、上院議会にて開催)


   SEVEnは、SEA実施を支援するために、2つの外部専門家チームを設けた。Aチームは、複数の立場の利害関係者を含む13人の専門家によって構成され、以下の事項を含むSEAの範囲を定義することが役割であった。

●   政策の主な複数案の構想


●   影響評価のための時間フレームの決定(例えば、分析されるべきなのは短期的な影響のみか又は長期的な影響も必要か、また正確なタイムスケールがどの程度であるかなど。)


●   複数案比較のための主要な環境指標の確立


Bチームは、19人の専門家によって構成され、実際にアセスメントを実施する役割を担った。Bチームの役割は、以下の事項である。


●   主要な複数案の環境影響を出来るだけ詳細に表すこと


●   Aチームが策定した環境指標を複数案毎に数量化すること


●   環境指標を数量化して影響を評価すること


●   環境への負の影響を相殺又は緩和するための手段を検討すること


   上記の環境アセスメント終了後、別の小規模な専門家チームが設けられ、複数案の多基準分析による比較が行なわれた。このチームは、それぞれの影響の種類と指標について社会的重要性(重み)を定義するため、32人の代表回答者対象とした調査を実施した。


3.7.2. 背景:前後関係及び論点

   チェコ共和国のエネルギー政策案(EP-CR)は、1998年、エネルギーセクター全体(電力、石炭及びガス)の開発に関する目的と方策を示すはじめての総合的かつ戦略的レベルの文書として作成された。触れられた主な論点は以下のとおりである。

 

●   国内炭鉱の徐々の閉山という石炭鉱業の制限(1992年制定)を実施するかどうかの決定


●   既着工の2基目の原子力発電所(ドコバニ原子力発電所)の建設の中止か続行かに関する決定


●   省エネ対策及び代替エネルギー開発に対する国の援助を拡大すべきか否かの決定


●   エネルギー市場における環境の外部コストの内部化の速度に関する決定


3.7.3. アプローチと活用された手法 


3.7.3.1. 情報収集


   アセスメントは、様々な複数案の結果を出すため、大規模な数学モデル(スタンフォード国際研究所によってMARKALモデルの計算が行われた)がベースとなった。Bチームのメンバーの個人的な経験に基づく専門家の判断の総意は、少数の指標(排水、放射性物質を含む水及び雇用への影響)にのみ活用された。


3.7.3.2. 複数案の作成


SEA実施のAチームは、次の3つの基本的な複数案を定義した。これらの複数案は、以下の仮定を満たしている。


・   GDPの年成長率は2-4%であること
・   経済活動のエネルギー需要(単位GDP当たりの1次エネルギー資源という指標で表現)が継続的に減少
・   チェコが京都議定書のCO2削減目標も含む全ての国際的義務を遵守すること
・   全複数案は全てのEU法を遵守すること
   A案は、地域で入手可能な(黒炭及び褐炭)化石燃料をベースとしたエネルギー部門の開発に関する提案である。以前に制定された石炭鉱業への制限は実施されず、現行のエネルギー・プロセスへの経済的負担は増大させない(すなわち、環境コストの内部化は現状のままとし、炭素税及びエネルギー税も導入しない)。1次エネルギー資源消費量は、僅かに上昇する。エネルギー消費量は、1次エネルギー資源よりも速い速度で増加する。2基目の原子力発電所の建設は、2004-2005年までに終了する。


   B案は、当該地域において入手可能な化石燃料をベースとしたエネルギー部門の開発を提案するが、以前に制定された石炭鉱業への制限は実施される。これの減少分を補完するために、電力及びガスを輸入する。エネルギー価格は、A案よりも上昇するものと見込まれる。これが、既存のエネルギー資源構造に変化をもたらすきっかけとなる。現在よりも省エネスキームが多くなり、代替エネルギー源も更に増加する。コージェネレーションの利用が増大することで、更にガスの輸入が増加する。従って、1次エネルギー資源の消費量は増加しない。ただし、エネルギー消費量が僅かに増大する可能性がある。2基目の原子力発電所の建設は、2005年までに終了する。


   C案は、(エネルギー使用の効率化も含めた)省エネスキームと代替エネルギー資源の急増を促進する提案である。エネルギー使用の効率化と省エネスキームは、省エネビジネスの促進と、ターゲット型の国のアクション(例えば、国有施設の省エネ化、民間企業の技術変革に対する補助金支給や技術支援プログラム)によって支援される。国の目標とは、1次エネルギー資源の消費量を年間1.5%、すなわち2010年までに16%削減することである。これにより、エネルギー消費量も、増加せず、むしろ減少する。また、次のような代替エネルギーの利用が増加する。バイオマス(最大で90PJ)、小規模水力発電(4PJまで)、風力発電(5PJまで)、太陽熱温水器(3PJまで)、また太陽電池の利用も予測される。エネルギー価格は、徐々に環境の外部コストを内部化する。これはコジェネレーションの利用を促進する。第2次原子力発電所は完成しない。以前に設定された石炭鉱業への制限は実施される。


3.7.3.3. 課題と指標の選定


SEA(Aチーム)は、提案された政策を分析するため、以下の指標を定義した:


表 24 提案された分析の指標

 

 

3.7.3.4 影響評価と複数案の比較


   SEAの主な受託者及び外部コンサルタント(スタンフォード国際研究所SRC International)が、代替案毎に具体的な実施方策を明確にした。これは、総合的な数学モデル(MARKALモデル)に活用され、大部分の指標に対してデータを提供するものである。専門家による判断の総意は、次の3つの指標のためにのみ用いられた。すなわち、「排水」、「放射能を有する排水」及び「雇用への影響」である。


   3つの複数案全てに対して、指標が見積もられた。全ての複数案を比較するため、A案がベースラインに用いられた(すなわち、B案、C案のもたらす影響はA案というベースラインとの比較がされた)。例えば、「CO2排出」という指標を使って全ての案を比較すると、A案のCO2排出は100%とされ、B案はA案と比較すると95%、またC案はA案と比較すると87%のCO2を排出している。このような比較が、全ての指標に対して行われた。


   上記の環境アセスメントが終了した後、C案、B案のスコアは、ほぼ全ての指標においてA案よりも有利であることが確認された(唯一の例外は経済指標)。


   しかしこの結論は、各種の影響に対する社会的価値を反映したものではなかった。そのため、複数案のマルチクライテリア分析による比較が行われた。32名の代表回答者を対象とした調査が行われ、各種の影響と各指標に対する社会的重要性(重さ)が定義された。これが標準的な多基準分析のプロセスであった。


   多基準分析(感度分析を含む)は、最初の単純な複数案の分析と非常に類似した結果となった。影響に重み付けがなされた場合でも、C案、B案がほぼ全ての指標においてA案よりも優れているという基本的な結果は変わらなかった。


   主な結論は、提案者(産業省)に対して提出されたドラフトSEA報告書に記載された。これらの結果を提案者が検討し、最適な案を選定することが合意された。詳細な緩和措置とモニタリング計画は、最終的に選定された案に対して作成される予定である。


3.7.3.5 公衆参加


利害関係者の特定

SEA用の独立した公衆参加が行われた。公衆の特定及び通知のために次のような方法が採用された。


・ SEAプロセスの案内とSEAの背景文書をウェブサイト上に掲載


・ 意見募集のための常設電子メールアドレスの設置


   加えて、NGOが6つの地域のコーディネーターのネットワークを確立し、SEAに関する情報提供を行ったり、6地域において公的ワークショップを開催したり、またSEAチームに対してコメントを転送するなどの活動を行った。


参加方法
   公衆参加の最初のオプションは、政策案とSEAスコーピングの最初の審査である国レベルの公的ワークショップであった。ワークショップは、非常にインタラクティブな形で行われた。参加者は、複数のグループに別れ、特定の影響の定義づけや、提案された複数案へのコメントを述べるなどを行った。ワークショップは、約80名の参加者を得た(主にEIA専門家、エネルギー専門家、エネルギー・ロビイスト及びNGO)。


   公衆参加の第二番目のオプションは、ドラフトSEA報告書に関する大規模な国レベルの公聴会への参加であった。公聴会は、上院議会(議長の個人的な援助により)で開催され、非常にフォーマルな形式で行われた。公聴会は約170名の参加者を得た(主に自治体、エネルギー・ロビイスト、NGO、上院及び下院議員)。


公衆参加の効果についてのコメント
   参加者からの反応やコメントの評価では、参加者は両方のイベントに非常に満足したようであった。議会(すなわち上院)を巻き込めたことが、SEA全体のプロセスの格を上げ、また透明性の確保に貢献した。


3.7.3.6 モニタリングとフォローアップ 


   ドラフトSEA報告書の主要な結論は、政策の複数案を相互に比較、評価できたことであった。報告書は、提案者がこれらの結論を検討して最適な案を選択するとの合意にもとに、提案者に提示された。具体的な緩和手法とモニタリング計画は、最終的に選ばれた案に基づいて策定される。


3.7.4. 結果と教訓 


3.7.4.1. 意思決定へのSEAの貢献


   全体のSEAプロセスは、約12ヶ月にわたって実施され、ドラフトSEA報告書は、政権交代の少し前に産業省に提出された。新政府は、全てのエネルギー政策を踏襲することを決定した。新政府はエネルギー集約産業の保持と第2次原子力発電所の建設を優先したため、A案を強く支持している。本SEAでは、同計画が重要な環境問題をもたらすと指摘したため、産業省はこのドラフトSEA報告書を無視することを決めた。その後、産業省は、新エネルギー政策をまとめ、別のコンサルタント(英国企業のMARCHコンサルティング)にSEAの実施を委託した。これは、政府提出の直前に公衆に公表されたが、多くの批判を浴びた(その後、ドコバニ原子力発電所の完成は、チェコとオーストリアの間の重要な外交紛争の種となった)。新政策のSEAレポートの質は、非常に悪いと言わざるを得ない。これは、チェコ国内において、最もレベルの低い、最も偏見のあるSEAと広く認識されている。


3.7.4.2. SEAの優良実践に関する結論 


   SEA自体はとても質の高いものであったが、仮に追加的に行われた複雑な分析(すなわちマルチクライテリア分析)が行われなければ、もっと早く結論が出ていたものと考えられる。各案の主な環境課題と各案の考えられる実施方法の概ねの方向性は、最初の評価の段階で既に明らかになっていた。それゆえにSEAは、もっと早く終了することが可能であり、政策の意思決定プロセスに早期段階からのインプットを提供することが可能であったと思われる。しかし、それが行われていたとしても、新政府が策定された政策を実施するか、独自の新政策を策定するかは不明である(おそらく後者であろう)。


   SEA実施の主な教訓は以下の点である。


・ 常に、一番簡単な技法で与えられた業務を行うこと。時間も経費も節約できる。


・ SEAは、政治的な意思決定に取って代わるものではない。SEAは意思決定をサポートする文書であって、無視される場合もある。

 


3.8. 事例研究: スロバキアのエネルギー政策(EP-1997とEP-2002)


3.8.1. はじめに


3.8.1.1. SEAの役割


   本報告では、1997年にスロバキア政府に提出されたエネルギー政策(EP-1997)及び2000年にスロバキア政府に承認された新エネルギー政策(EP-2000)に適用されたSEAの重要な点を概説した。


 図 6 EP-1997及びEP-2000のSEAプロセス(詳細情報は別添2参照)

 

1)   EP-1997(1996年8月~10月)及びEP-2000(1999年1月~6月)の初期段階における公衆参加と協議


   1996年8月、経済省はEP-1997の草案の検討に当たり、NGO(ENERGY 2000として参加している機関)にコメントの提出を求めた。ENERGY 2000では、大学や研究機関、実施機関からの多数の専門家と協力してコメントの取りまとめが行われた。EP-2000の準備においても同様のプロセスが採られ、NGOは1999年1月に、EP-2000のアウトラインに関してコメントの提出が求められた。


   1996年10月、ENERGY 2000はEP-1997の新しい最終提案を受け取った。EP-2000の際には、ENERGY 2000は、新しい修正版草案を1999年3月に受け取った。これらの活動は、既にEP-1997の草案作成につながっており、ある意味では、NGOと専門家間のより密接なコンタクトを促した。例えば、EP-1997の内容に関する深い意見交換や、エネルギーに関する法案への意見、「環境政策と持続可能な発展戦略を実現するツールとしての戦略的環境アセスメント」(Kozova et al., 1996)の研究プロジェクトや他の著名な文献(例えば、スロバキア政府の環境及び自然保護委員会での議論など)の成果に関する情報交換などである。1997年5月、NGOの代表者が環境省を訪問し、環境影響評価部と部門横断関係部の担当者と、EIA Actの第35条に基づくEP-1997のSEAのスケジュールに関して議論を交わした。


   1999年4月~6月、NGOはスロバキア政府の環境及び自然保護委員会によって招集された会議に参加し、そこで新エネルギー政策の準備が議論された。1995年と1997年にENERGY 2000のもとに組織されたNGOや専門家によって前回版のエネルギー政策のレビューがなされたのと同じようなプロセスが行われた。EP-1997のSEAプロセスと比べて、上述のスロバキア政府の環境自然保護委員会と経済・民営化・企業化委員会がスロバキア共和国の原子力エネルギー政策に関しての議論を行うために、1999年6月22日に共同委員会が開催されたことが新しい試みであった。同原子力エネルギー政策の草案は、現在、作成中のエネルギー政策を補完する報告書として経済省によって提出された。NGOは同報告書に対して意見を提出し、また経済省に対して正式な文書を送り、同報告書が開発の基礎的な概念を述べていることから、EIA法第35条に基づく環境影響評価の実施に当たり、エネルギー政策と同報告書を一緒に提出すべき法的な義務があることを述べた。しかし、経済省はこの要求を受け入れず、同文書は採用されず、政府に一緒に提出されることは無かった。


   1997のSEAとのもう一つの違いは、経済省がNGOに対して、1999年6月という早期段階でコメント募集のためにEP-2000の作業草案を提供した点である。これは公衆に公表にされる前、すなわち正式な公的議論が開始される以前に提出されている。このため、公衆への公開時点では、NGOからのコメントのいくつかが既に考慮されていた。同時に、最終期限や公衆との議論の手順に関して、NGOの代表者、環境省及び経済省の間で最初の議論が開始された。


2)   告知文書-EP-1997(1997年4月~5月)とEP-2000(1999年7月~9月)の準備に関しての公衆への情報伝達


   経済省は、ドラフトEP-1997の全文(付録以外)を1997年4月25日には「経済新聞」に、1997年5月12日には新聞「トレンド」に掲載した。ドラフト全文と付録は、経済産業省を通じて入手可能であった。EP-1997のSEAとは対照的に、ドラフトEP-2000の全文は、新聞紙上に掲載されることはなかった。しかし、EP-2000に関する公衆への情報提供は、EP-1997よりも充実していた。1999年7月9日に「経済新聞」に、スロバキア共和国エネルギー政策案が作成段階にあるという告知が掲載され、公衆関与が始まった。案の全文は、環境省、経済省、コミュナス大学自然科学部及びNGO(グリーンピース、スロバキア等)のインターネットサイトに掲載された。EP-2000案の文書は、公衆に公開され、地区や地域の行政機関で文書そのものが入手できる状態であった。また、スロバキアのエネルギー部門に関するトピックが、以前よりも紙面を賑わすようになった。一般市民は、メディアを通じて会議開催場所や手法に関する情報の提供を受けた。EP-2000ドラフトへのコメントは、2ヶ月間受け付けられた。


   1999年の夏、「母なる地球のために(For Mother Earth)」というNGOがスロバキアの7つの町の広場で、11の「情報提供場所」をオープンした。これらは、一般市民がEP-2000ドラフトに関しての情報を得たり、活動家とドラフトに関する意見交換をしたり、コメントを表す場としての役割を果たした。


3)   EP-1997(1997年5月~6月)及びEP-2000(1999年7月~9月)の協議、専門家意見、レビュー及びスコーピングのプロセス


   1997年5月、環境省の関係各局は、EP-1997に関するコメントを表明した。加えて、環境省は分野の異なる専門家8名に対し、EP-1997に関する専門家の視点からの意見の提出を依頼した。これら専門家は一般市民との議論の場(公聴会)で自分たちの意見を報告した。EP-1997に対するその他のコメントや声明は、公聴会の前に経済省又は環境省に直接送付された。


   公衆の有する幅広い情報とSEAに関するNGOや省庁の経験は、EP-2000における意見募集方法に大きな影響を及ぼした。環境省は、もはや特定の専門家に委託して意見を求めることはしていない。専門家の意見は、最終段階でのみ必要とされた。これにも関わらず、EP-2000ドラフトの公衆との議論の間では、環境省は合計で441の意見やコメントを受け取った。この内、146は文書での意見、295は「ザマツクゼン(Za Matku Zem)」というNGOを通じて収集され、取りまとめられた上で資料として環境省に提出された。関係する全ての組織はEP-2000ドラフト草案に対しての意見を表明した。146の意見の構成は次のとおりであった:一般市民(28)、企業(33)、学校(9)、研究機関(4)、エネルギー分野専門組織(3)、その他専門組織(8)、組合(9)、自治組織(3)、行政機関(34)、NGO(13)、その他(2)(1999年環境省の声明より)。


   EP-2000草案の意見募集手続きの中で、NGOはスロバキアのエネルギー問題の代替的解決策を検討するイニシアティブの下に組織された。ENERGY 2000は1999年7月16日、EP-2000の意見募集プロセスに関する調整会合を開催した。最も重要な成果は、エネルギー政策の代替提案を作成し、提出するという決定であった。この「スロバキア共和国の新エネルギー政策」と題された文書は、ENERGY 2000によって1999年8月5日に公衆との議論に向けて提出された。環境省、コミュナス大学及びNGOは、それぞれのウェブサイトに、正式なドラフトEP-2000とともに彼らの代替提案を掲載した。


   公衆との議論の最後に、1999年9月、NGOは国際会議を開催した。ここでは、新エネルギー政策、再生可能エネルギー源、EU政策との整合性に関する議論と、スロバキアの代替エネルギー政策の促進に関するイベントが開催された。


   専門家や一般市民からのコメントは、1999年9月15日までに環境省に提出されることになっていた。この意見募集期間中に収集された全てのコメントは、環境省においてコピーされ、経済省やその他の主なNGOに対して提供された。


   1999年8月と9月には、環境省と経済省の間で、NGO代表者の参加も交えた協議会が数回開かれ、影響評価のスコープ、推測される影響の評価、その他の文書提供形式に関しての話し合いがなされた。これは、既に提出されたエネルギー政策案の基礎となり、また環境評価等のタイム・スケジュールの正確さなどが含まれた。1999年9月には、議論はEP-2000の公聴会開催やそのシナリオ、内容などに焦点が当てられた。


4)   EP-1997(1997年6月)及びEP-2000(1999年9月~11月)に関する公聴会、質の管理及び環境省の声明


   環境省は、経済省との同意のもと、1997年6月、コミュナス大学(ブラティスラバ)自然科学部においてEP-1997に関する公聴会を開催した。公聴会は、終日行われた。参加者は120名以上で、経済省、環境省、その他省庁、専門機関、エネルギー関係の機器生産者、再生可能エネルギー使用機器の運用者、大学や研究機関からの代表者、NGO、メディアなどからの参加であった。


   1999年9月23日に経済省で開かれたEP-2000のための公聴会は、1997年のイベントの時とは大きく異なっていた。ここでは、スロバキア、オーストリア、ドイツから150名以上が参加した。専門家、国の組織及び一般市民は、スロバキア共和国に隣接する国の大使館からも招待された。参加者の構成は1997年のものと類似しており、全ての関係機関から参加した。エネルギー政策ドラフトの提案者である経済省、NGO及び環境省は、公聴会の最終期限の告知方法、参加案内、議論内容と構成及びそのルールについて、事前に合意していた。議論は、二人のモデレーターによって進められた。SEA手続き自体の極簡単な紹介、政府の正式なドラフト、またENERGY 2000に基づきNGOによって提出されたEP-2000の代替提案に関する説明が行われた。議論はその後、決められた時間制限内で続けられた。


   公聴会の記録が行われた(1999年9月)。28ページに及ぶ記録文書が作成された。記録の全ては、経済省と環境省において入手可能である。NGOにもその両方が完全な形で提供された。このうち、最も有益なコメントは、環境省のEP-2000に関する声明の中で採用された。


   経済省と環境省では、1997年6月20日にEP-1997提案に関して話し合をおこなった。EP-2000に関する環境省の声明は、1999年11月12日に経済省と議論が行われた。


   環境省は、専門家の意見、経済省や環境省に寄せられた意見、公衆との議論、経済省・環境省間での協議などをベースに、声明を作成した。


   EP-2000草案の分析や意見募集時に提出された意見や立場、公聴会での結果をベースに、環境省は声明を作成した。この声明は、第35条パラグラフ2に従い、エネルギー政策の草案を作成している組織(すなわち経済省)と環境への影響という視点で議論された。環境省は、1999年11月15日、最終版の声明を発表した。


5)   EP-1997(1997年7月)、EP-2000(1999年11月~2000年1月)の修正版と結論


   公聴会の結論と環境省、経済省それぞれからの声明は、1997年7月30日、全ての参加者に送付された。EP-2000のSEAプロセスに関しては、公聴会の記録と環境省の意見・声明は全ての参加者には送付されなかったが、これらの文書は環境省にて入手可能である。


   経済省は、SEAの結論と提言の幾つかを考慮し、EP-1997とEP-2000の修正版をスロバキア政府に提出した(表1及び2を参照)。


6)   決定:EP-1997(1997年9月)とEP-2000(2000年1月)提案の採択


   スロバキア政府は議論しEP-1997を受け入れ、エネルギー政策の改訂版に関する閣議決定の中で特定の点を採用し、各省庁にその実施を伝えた。


   EP-2000は、2000年1月12日にスロバキア政府に承認された。オリジナルの草案と比べると、承認版にはかなり修正が行われており、公衆との議論において出された案もいくつか反映されている。


3.8.2. 背景:前後関係及び論点


   スロバキア共和国内において、エネルギー部門の戦略策定の動きが、ここ数年行われてきた。独立したスロバキア国家エネルギーシステムの必要性を背景に、「2005年に向けてのスロバキア共和国エネルギー政策」が1993年に策定された。このエネルギー政策の考え方は、エネルギー生産と消費の両面からの合理的なアプローチであった。特に、省エネ化に焦点が当てられ、マクロ経済的な手段、生産プロセスの近代化、価格政策、その他のオプションによって達成されることとされた。


   1995年、「環境影響評価に関するスロバキア共和国国家評議会法No. 127/1994(EIA Act)」の第35条をベースとして、「2005年までのスロバキア共和国エネルギー政策」の改定版(2010年までの予測を含む)に簡易なSEAが適用された。1996年8月から1997年9月にかけて、新たな修正版に対して、SEAプロセスが適用された。


   1998年の選挙後、新政府は、エネルギー部門に関する基本的目標を公表し、これには新エネルギー政策の策定も含まれていた。政府は、EU加盟プロセスを視野に入れ、当該政策の作成を早めることにした。1999年、新しいエネルギー政策にSEAプロセスが適用された。SEAプロセスは、高いレベルの公衆参加を得て実施された。全体のエネルギー政策は2000年1月にスロバキア政府に承諾された。


3.8.3. アプローチと活用された手法 


3.8.3.1. 情報収集


   前述から明らかなように、SEAの全プロセスはオープンで相互に意見を出し合えるようなプロセスで行われた。SEAチームの主な目的は、提案された政策に関する公衆のコメントの適切性の評価であった。その際に、SEAチームは、主に専門家判断の総意という手法をとった。数学的なモデル、数値計算は行われなかった。


3.8.3.2. 複数案の開発


エネルギー政策1997
   提案者(経済省)によると、EP-1997は、以下の点においてエネルギー部門の戦略を定めている。

 

・   自国経済に燃料とエネルギーを提供すること。


・   国際的に認知された判断基準によりエネルギー生産の安全性を改善すること。


・   エネルギー転換の効率性の向上。


・   エネルギー部門の環境影響の低減。


・   電気、天然ガス、石油システムの安定性を確保すること。


・   段階的なエネルギー需要の減少と省エネ化の進展。


・   再生可能エネルギー源の利用の増加。


・   スロバキア経済の構造変化を支持し、生産性向上、エネルギー量の削減に向かうこと。

 

   提案者は、二つの原子力を含む複数案を提出した。最初の(基本的な)案と第二案の基本的な違いは、モホビセ原子力発電所の種類が違うということのみであった。第一案は4つの全ての区画を、第二案は2つの区画のみを完成させる計画である。


2000年エネルギー政策
   EP-1997の目的と比較すると、EP-2000の目的はより詳細に検討されており、また短期、中期、長期の基準に細分化されている。短期の項目は、個別のエネルギー産業(電力エネルギー、熱・石油・天然ガス・石炭の供給)の目的を検討している。これら目的を達成するために利用できるツールも述べられた。戦略的ゴールは以下の点である。


・   要求されているエネルギーの種類と形態で、確実、安全、効果的、環境的に受け入れられるような方法で社会のエネルギー需要を満たすこと。


・   電気と天然ガスの市場を自由化すること、EUの法律とスロバキアの法律を調和させること。


・   環境、核の安全性、投資、エネルギー貿易の分野における国際的な合意を満たすこと(京都議定書、原子力安全条約、エネルギー憲章条約補完協定、ECTに関するエネルギー効率と環境の側面に関する議定書等)。


・   エネルギー集約度をEU加盟国と同等レベルまで下げること。

 

・   備蓄量を90日間の緊急石油備蓄、石油製品備蓄まで増やすこと(2010年まで)。


・   戦略的エネルギー供給輸送分野におけるスロバキア共和国の戦略的な立場をガスと原油パイプラインシステムの開発を通して強化すること。


・   原子力発電所の放射性核燃料再利用の問題の解決。


・   一次エネルギー消費における再生可能燃料や二次利用燃料の割合を増やすこと。


   またEP-2000は、最初の分野別の政治及び/又は政策として、詳細に渡って持続可能な開発(SD)の課題を取り上げている。SDに関する章には、次のものが含まれる:環境、省エネ、再生可能エネルギー源の利用、科学研究プログラムである。文書にも示されているように、環境保護は、エネルギー政策を策定する際の決定要因の一つとなっている。基本的な観点は以下のように特徴付けられる。


・   主要な公害物質を削減する対策の実施により、天然ガスの利用を拡大することにつながる。


・   京都議定書の目標を達成する基本的な条件はCO2排出量が最小のエネルギー源のエネルギー生産割合を維持し、エネルギー集約度を下げ、省エネ化、また再生可能なエネルギー源の利用に焦点をあてる。それ故に、再生可能エネルギー分野のエネルギー政策は、2008年以前に、可能な限り最大化し、これらのエネルギーの潜在的利用(技術的及び経済的に可能なもの)を促進するために、それぞれのプログラムや他のツールを利用すべきである。


3.8.3.3. 課題と指標の選定


   EP-1997のSEAにおいて、特にレビュープロセスと公衆との議論の枠組みの中では、次のような分野に基本的な疑問が集中した。


・   長期的な視点では、スロバキアのエネルギーシステムを非原子力の方向に向わせること。


・   環境管理や省エネプログラムの効果的な実施を行うための競争的、動機を高めるような状況を作り出すこと。


・   熱電併給や発電所内での熱効率の改善、再生可能なエネルギー源の利用頻度を上げるなどを通してエネルギー需要を満たすこと。


・   エネルギーセクターの環境影響を最小限に抑えること。


・   エネルギーセクターの独占化を無くすこと。


・   エネルギーセクターと公衆の関係を改善すること、またエネルギーセクターの管理や意思決定のプロセスに公衆参加の場を提供すること。


・   エネルギーセクターの価格に関する政策の透明性を高めること。


   EP-2000のSEAプロセスでは、EP-1997で議論された課題の範囲が更に広げられ、いくつかの課題は次のような分野や課題に振り分けられた。


・   スロバキアエネルギーセクターの持続可能な開発


・   原子力エネルギー政策(V1 ジャスロブスケ-ボーウニセの閉鎖とモホビセNPPの完成、核燃料再処理)


・   エネルギーセクターの転換、構造改革、また民営化


・   価格政策及び補助金政策


・   EUの市場への統合のための準備


3.8.3.4. 影響分析と複数案の比較


   前述したように、SEAの全プロセスはオープンで相互に意見を出し合えるようなものであった。SEAチームの主な目的は、提案された政策に関する公衆のコメントが適切であるかどうか判断することにある。その際に、SEAチームは、主に専門家集団による判断という手法を採用した。数学的モデルの活用、コンピュータシミュレーションなどは行われなかった。


3.8.3.5. 公衆参加


項目2の説明を参照のこと。


3.8.4. 結果と教訓


3.8.4.1. SEAの意思決定への貢献


   SEAプロセス全体は、オープンな政策策定プロセスの一部として実施された。それ故にSEAは、政策決定に直接的に影響するものである。附則1は、環境省のSEA声明の中から、原則的な要求、コメント及び勧告の内容への反映という観点から、EP-2000の最終版を評価したものである。


   以下の表は、エネルギー政策1997、2000の事例研究において、著者の考えに基づくSEA要素の評価である。


表 25 SEA要素の評価概要


凡例:専門家評価の尺度: 0-存在せず、1-大きな問題、2-小さな問題、3-上手く機能している


   表3に説明したように、SEAプロセスはEP-1997の基本的な複数案に影響を及ぼしたものではなく、また2005年までの時間軸も短期的すぎた。一方で、参加組織の協力のおかげで、1999年のSEAはEP-2000の内容に大きく影響を与えるものとなった。SEAプロセスの質が上がったことは、前述したEP-1997及びEP-2000に対する意見の比較からも明らかである。EP-2000へのコメントはより具体的、かつ包括的であり、持続可能な開発などのスロバキアのエネルギーセクターで最も重要な問題に関連するものである。他方、1997年のコメントは、エネルギー政策の中に、非原子力案が存在しないということに多くの声が集まっていた。


   EP-1997もEP-2000も、エコシステムへの影響、健康評価、社会経済的な評価を十分な範囲で行ったものではなかった。SEAプロセスの間、特に公聴会の場で、NGOの代表達は強い批判的な意見を表明した。この観点から専門家の意見、公聴会、また経済省と環境省との協議は非常に重要であった。なぜなら、経済省・環境省は、EP-1997及びEP-2000の環境影響評価の必要な部分を補完しているからである。SEAプロセスの枠組みの中で、NGOは提案されたEP-1997草案に対して非原子力案を代替案として提出し、環境、経済、社会的観点から原子力案との比較を行った。これらの努力や比較的効果的に行われた公聴会と協議において明示的な勧告が行われたにも関わらず、EP-1997の最終版は原子力案のみを含み、大きな変更は行われなかった。


   EP-2000のSEAプロセスでは、NGOが公聴会で、電力に関する代替案を提出するのみならず、エネルギー政策の完全な代替案を提出した。公聴会及び公的な意見募集プロセスは、EP-1997の時点よりも効果的な形で運営された。1997年とは対照的に、1999年に、エネルギー政策提案に対する代替案のある部分は、スロバキア政府が承認した正式なエネルギー政策最終版に反映された。1999年7月の公聴会に提出されたEP-2000の草案は、SEAプロセスの結果、大きく修正が行われて書き直され、そのためより持続可能な特徴を持つものとなった。


3.8.4.2. 良いSEAの実践の結論とは


   このパイロット・プロジェクトは、SEAの異なった応用方法を良く示している。これは、非常に一般的な政策の策定段階に公衆の参加の機会を提供することを目的としたものである。SEAは技術的分析が不足していたが公衆参加の目的は満たした。


表 26 附則1:EP-2000の最終版の中へのSEAの重要な要求事項、コメント、勧告の盛り込み状況に関する評価

 

凡例
EP-2000:スロバキア政府で採択されたエネルギー政策(2000年12月1日)
RES:再生エネルギー資源
PES:一次エネルギー資源
EU:欧州連合
R&D:研究開発


EP-2000のスロバキア政府の決議NO.5.2000の関連条項及びその他エネルギーセクター関連規定


B.1:2000-2005年の期間に関する、スロバキアへのエネルギー供給の安全性に関する情報を政府に提出する(2000年6月30日まで)。


B.2:ドリーナ石炭炭鉱の閉鎖に関するパイロットプログラムを含む、スロバキアにおける石炭炭鉱計画に関する情報を政府に提出する(2000年5月31日まで)。


B.3:核廃棄物の処理や原子力発電所の廃止に関するコスト、手段、期間などの手続きに関するコンセプトの提案を政府に提出する(2000年10月30日まで)。


B.5:モホビセ原子力発電所の第3及び4ユニットの完成又は未完成に関する案を政府に提出する(2000年3月31日まで)。


B.4.:電力購入者の安全を確保すること(同決議の附則による)、スロバキア領域内での多くのライセンス所有者の中から特定の電力供給者の条件を設ける。


B.6:エネルギーやガス産業の消費者カテゴリーや料金の改訂に対する提案を作成する。


B.7:予算ルールに関する303/95法方の改正を開始することで、予算化する機関又は寄付機関においては、エネルギー効率化プロジェクト実現のために第3者ファイナンス又は契約エネルギー容量とサービスが、プロジェクトが採算にのるまで、適用される。


B.8:熱源の建設や閉鎖に関する事前認可を自治組織へ付与することの適正性の審査を行うために、国家運営の再構築に関連する。
B.9:スロバキアの潜在的水力発電に関する環境アセスメントの準備(2000年12月31日まで)


B.10:石油製品の90日間の備蓄を達成するというコンセプト案及び緊急時の解決策を政府に提出する(2000年2月29日)。


B.11:EU及びIEA手法と適合して、エネルギーセクターに対する短期的報告書の準備(2000年1月1日より)。


B.12:セクター内における適正を考慮した上で、燃料、エネルギー消費の理論的説明の付与に関するプログラムの開発(2000年6月30日)。


E. 37 (90/1999): 独立機関に対する条件の付与を目的とする自然独占の規制法案の作成(2000年9月)。


E. 56 (90/1999):当該分野のR&Dへの支援を含むエネルギー密度の削減と代替エネルギー資源の活用に関するプログラム案の作成(1999年9月)。

 


3.9. 事例研究: ナッサー島の総合計画(エストニア)


3.9.1. はじめに


3.9.1.1. SEAの役割


SEAの目的には以下が含まれる。


・   計画策定プロセスにおいて環境状況を考慮すること。


・   計画策定プロセスにおいて環境側面を考慮する必要性を奨励すること。


・   計画策定プロセスへの公衆参加の可能性を提供すること。


・   計画策定に係わる解決策に環境影響評価を活用すること。


・   計画策定の質を向上させること。


   このSEAは、同時にパイロット・プロジェクトとして位置付けられ(フィンランドの協力によって実行された)、以下の点において、パイロット・プロジェクトの「キャパシティ・ビルディング」の役割を果たした。


・   実際に、立案された総合計画の環境影響評価に焦点を当てること


・   SEAに関して、エストニアの専門家、当局者、計画立案者及び公衆に対するトレーニングを行うこと


・   総合計画の策定プロセスの管理及びそれに並行したSEAの実施


・   意思決定プロセスに、環境側面を考慮する必要性があることを広めること


・   SEAの重要性な側面として公衆の認知を高めること


   計画策定プロセスの過程で実行されたパイロットSEAは、(環境の専門家を含む)計画策定作業グループにより、地方公共団体の代表者との協力のもとで実施された。計画策定の監督責務を有する地方政府は、定期的な進捗報告を受けていた。また地方政府は、SEA報告書の審査や、承認の責務があった。地方政府は、環境影響評価結果を中間段階での意思決定(適切な複数案の選択)と、最終段階での意思決定(計画の承認)の両段階で考慮した。


   本計画策定における環境アセスメントでは、伝統的なSEAの全段階を網羅する取組が試みられた。


   最初の段階では、SEAの目標及び目的のみならず、計画の目標及び目的の決定が行われた。これには、入手可能なデータの収集、現状のマッピング、そして予備的な環境状況の概観の把握が含まれる。これにもとづき、複数案が作成され、潜在的な影響が明らかにされた上で、スコーピングが実施された。


   次の段階では、影響評価のみならず、潜在的影響が及ぶ範囲とその重大性の予測が行われた。引き続き、実際に複数案を適用する場合の望ましくない又は負の環境影響を考慮に入れて、複数案の比較が行われ、またこれらの影響を緩和するための方策の比較が行われた。


   複数案を比較した結果、最適な解決策が決定され、それは計画案の中に組み込まれた。計画案の改善段階で、より詳細な環境影響評価が実施され、環境状況のモニタリングに関する提言がまとめられた。このプロセスの最後には、SEA報告書の最終案がまとめられたが、それには計画策定及びSEAプロセスの関連資料と、SEAの各段階の中間報告も含まれていた。


   このプロセスを通じて話題になっていたのは、公聴会の開催に加えて、公衆の関与及び参加、そして参加を可能にする機会の提供であった。関心のある人達のために、公の会合やグループ・セミナーなどが開催された。


SEAプロセスの主要な関係者
   プロセスの各段階を通じて、計画提唱者、所管官庁、環境専門家と計画策定組織、意思決定者及び公衆が活動に参加した。


   本ケースの計画提唱者は、地方公共団体であるが、エストニアの計画及び建造法によると、地方公共団体は同時に(EIAの手続きにおいては)意思決定者でもある。地方公共団体は、持続可能な開発の基準及び地方公共団体の開発目的を考慮し、戦略的土地利用計画並びに、自然環境及び文化的環境に関する計画策定に関心が高かった。また、地方公共団体は、関係者間(すなわち、国、地方公共団体、将来の土地所有者、その他)で想定される利害問題の最適な解決方策を見つけるとともに、島の大部分を自然のまま保存するという目標とともに環境状況を考慮することにも関心があった。


   地方公共団体の、意思決定者としての目的は、関係者間の合意とともに、法的要件を全て満たす総合計画を承認することにあった。

   SEA実施において重要な役割を果たしたのは、EIAの実施者(専門家)であった-この場合、フィンランドとエストニアの環境専門家である。環境専門家は、環境インベントリー及び計画対象領域の分析を実施し、その影響要因を特定し、異なる活動が及ぼす可能性がある影響の評価を行った。彼らの任務は、計画策定専門家と協力し、SEAプロセスを管理し、SEAの全段階を網羅し、そして最終報告書をまとめることであった。


   本SEAプロセスにおける所管官庁は、総合計画を管理する地域(地方)政府であった。その業務は、SEA最終報告書を(公衆からの報告書に対するコメントと共に)審査し、計画が要求に合致するかどうかを判断し、国益を考慮して管理を行い、明文化されていない部分について紛争が起こった場合に解決策を見つけることであった。また、地方政府は、総合計画策定プロセスに従う活動が実施されるための要求事項を設定し、環境状況をモニターする責務も有する。


   SEAプロセスに参加する最大のグループは、間違いなく公衆、つまり関心のある人及び当該計画によって影響を及ぼされる可能性のある人々である。これには、将来の土地所有者、科学者組織、起業家、専門的組織/組合、運動団体及びその他の私人又は法人が含まれる。このプロセスへの参加の目的は、計画策定対象領域の開発に関する関心を表明すること、プロセスの中で明らかとなる問題の特定すること、及び意思決定において、彼らの関心事項が確実に考慮されるようにすることである。


3.9.2. 背景: 前後関係及び論点


   本事例では、エストニアの北海岸に位置するナッサー島を対象としたSEAパイロット・プロジェクトを紹介する。本島の総合計画の策定及びSEAパイロット・プロジェクトが行われた理由は以下に示すとおりである。


・   本島では、それまで包括的な計画策定は行われていなかった。


・   1995年に本島の全領域は、政府規制第150号によって自然公園(レクリエーション目的の保護地域)に指定され、これにより同島の自然管理や人間の居住に関して一定の制限が課されることとなった。


・   エストニア独立回復までの50年間、本島は旧ソ連軍基地として占領され、その結果、多くの地域が非常に深刻な汚染(石油製品や重金属等による)に直面していた。


・   同島の居住人口はゼロであったが、不法占拠された土地を以前の所有者が再私有化する動きが既にはじまっていた。


・   同島の最も重要な価値は、未開拓で相対的に自然度が高い自然環境そのものである。島の面積の80%は森林で覆われ、加えて多数の砂丘や湿地帯及び多様性に富む植物群落が存在している。


   計画策定及び建設に関するエストニアの法律に基づき、地方公共団体の総合計画は、土地と水の利用に関する規定及び建築・建造活動の規制と同様に、当該地域の利用に係わる主な機能を定めるものである。このため、総合計画は、建築・建造活動には直接的に関係しておらず、また建造許可(自然資源の利用許可ではない)の発行に関する根拠を規定するものでもない。しかし、景観や自然群落の利用に関する規定は、総合計画と同時に設定されるものであり、必要な場合には、土地や物を保護対象に加えることや、保護規則の修正に関する提言を行うことが可能である。


3.9.3. アプローチと活用された手法


総合計画の策定プロセスにおいて、環境影響評価は、以下の異なる4つの段階に分けられた。


表 27 計画策定及び環境影響評価プロセスの段階

   上記の計画策定及びSEAプロセスは、相互に寄与し、また影響を及ぼしつつ並行して実施され、また密接に関連した。


3.9.3.1. 第一段階


   プロセスの第一段階は、地区代表及び地方政府当局、当該地域の土地所有者及びその他関心のある団体の代表の参加により、非常に効果的に行われた。彼らの参加もあり、最初の公衆会議では、参加者間でSWOT分析(強み、弱み、機会、脅威を明らかにすること)が行われた。同会議では、異なる団体において、初歩的な意見が明確にされ、そして島の問題及び当該地域の開発可能性が明らかにされた。


3.9.3.2. 第二段階


   計画策定プロセスの第二段階も成功裏に終わった。それは、複数案の立案から開始された。これと並行して、入手可能な基本データ、影響要因を明らかにする目的で行われた現地調査、環境影響評価の実施時に考慮されるべきトピックの範囲の決定に基づき、島の環境状況が更に調査された。計画策定グループ及び環境影響評価作業グループによって4つの複数案が立案されたが、その後、別のループから、第5案が提出された。提案された複数案は以下のとおりである:


表 28 提案された複数案

   環境への影響の特定と評価のために、マトリックス分析手法が用いられた。計画の実行段階で生じる環境要素は横軸に示された以下のものである。


・   自然及び景観(地下水及び地表水、天候、動物相、生物多様性等)


・   人口構造及び人工的環境(ビル、施設、社会資本、歴史的遺産等)


・   人と社会(生活、仕事、サービス、健康、安全、私有財産等)


影響を引き起こす活動は縦軸に示された以下のものである:


・ 影響を起こす活動:短期的活動(工事、リスク、危険な状況等)及び継続的又は長期的活動(生活、観光業、レクリエーション活動、交通、経済活動等)


・   影響の詳細(頻度、範囲、強さ等)


・   影響の重大性


・   影響の回避又は緩和の可能性


   影響の特定された要素は、環境影響に関して複数案間の違いが容易に理解できるように、大分類毎に評価された。このマトリックス分析の結果として、深刻な負の影響を及ぼす活動が特定されると共に、これらの活動から最も影響を受ける環境要素も明らかになった。


   第二回の公衆会議において、計画策定及びSEAのプロセスが紹介され、総合計画の複数案の立案が説明され、それらに伴い生じる環境への影響に関してコメントが行われた。環境への影響に関するビジョンを表明した結果、マトリックス分析の実施に関心のあるグループから代表が参加した。作業グループ参加者の立場は、各人が協調した部分は異なるが、幾つかの結論を導くことが可能であった。


   作業グループの環境専門家は、公衆参加において特定された環境への重大な影響に対して、より詳細に検討を加えた。


   景観、海岸植物、砂丘及び湿地帯には、特に注意が払われた。地下水質が分析され、動物相、植物相及び景観の多様性に影響を及ぼす要因が調査された。また、社会的環境、特に安全、社会構造、レクリエーション活動、生活環境の質及び土地利用への影響は、特に重要であると考えられた。SEAプロセスにおいて、交通システムと観光業、森林(木材)加工業及び廃棄物管理の発展に関わる潜在的リスクの分析が行われた。影響の評価と並行して、それらを緩和する方策及びその効率性についての分析もなされた。

 

   この計画策定プロセスの段階では、環境専門家、公衆、関心のある団体及び行政担当者の意見を考慮して、複数案間の環境影響の比較が行われた。本事例では、全参加者の関心と要望が合致したため、最適案の選択は容易であった。


   複数案1が総合計画の具体化の基本として採用されることとなった。これは、環境面の要件を取り入れことが容易であり、居住とレクリエーション活動も適切な規模で行うことが出来ると判断されたためである。


   計画策定とSEAの結果により示された複数案をもとに、地方公共団体も、複数案1を計画案作成の基本とすることを決定した。


3.9.3.3. 第三段階


   計画策定プロセスの第三段階では、選択された複数案を基本として計画原案の立案作業が続いたが、その過程でこの案の特徴と計画策定における解決方策に注目が集まった。これと並行して、潜在的な環境影響が更に具体化され、これら影響に対する最終影響評価がなされ、同時に環境への損害の防止や緩和のための方策に関する勧告がなされた。


   第三の公衆会議が開催され、参加者に計画原案が示された。環境に対する正負両面の影響並びにその緩和策が説明された。緩和策に対する公衆の代表によるコメントや提案が示されて、議論が行われた。


3.9.3.4. SEAプロセスとSEA報告の文書化


   SEAプロセスを通じて、進行及び意思決定に影響を及ぼした立場や、より重要なトピックの文書化により、最終EA報告書の編集が行われた。報告書の作成においては、中間報告の作成と、計画案の環境への影響に関する詳細なアセスメントが行われた。報告書は、総合計画の実施に伴う緩和措置に対する提言をも含むものであった。また、モニタリングの必要性も議論され、島の環境要素をモニタリングする組織に対する指針が示された。


   公衆に計画を提示する前に、地方政府(所管官庁)は、計画案及びSEA報告書案を審査し、これら文書の追加的承認の必要性を決定した。


   その後、総合計画が近隣地方自治体及び関連当局に対して紹介され、公的に承認された。計画及び建築に関する法に準じて、計画案は、SEA報告書と共に4週間縦覧された。この間、計画へのコメントが提出できるようになっていた。縦覧期間中に寄せられた意見は、分析され、計画案に盛り込まれた。


3.9.3.5. 計画策定及びSEA報告書の監督


縦覧後、郡政府は、以下の事項を検証した。


・   当該計画が持続可能な発展の要件及び法的要件を遵守しているかどうか。


・   環境目的が正しく考慮されており、環境問題の解決方法が予測されていること。


・   環境質を保持する条件が整っているかどうか。


・   実施された環境アセスメントが十分なものであり、報告書は全ての必要なデータを含んでいるかどうか。


・   プロセスにおいて公衆参加の状況が十分であったかどうか。


・   意思決定の場で、公衆の意見やコメントが考慮されているかどうか。


   1995年12月に開始されたナッサー島の総合計画は、策定までに17ヶ月を要し、1997年4月に完成し、承認された。


3.9.4. 結果と教訓 


3.9.4.1 意思決定におけるSEAの貢献


   SEAは、総合計画の策定と並行して行われたため、一方で計画地域に関連する様々な団体の関心事項を考慮しながら、結果として環境に配慮した解決方法に向けて計画策定プロセスの方向性を指示する形となった。結果として、計画の最終段階-実行段階-において重要な問題や深刻な意見の不一致が生じずに済んだ。


表 29 本事例におけるSEA要素に関する専門家の評価

本事例研究におけるSEA要素に関する専門家の評価の尺度

0    存在しない
1    大きな問題
2   小さな問題
3   上手く機能している


3.9.4.2. SEAの優良実践事例としての結論は何か


   プロセスの中で、最も重要でかつ成功した段階は、公衆の関与・参加であった。時宜を得た、早期段階からの公衆参加は、問題の発生を抑制し、また新しい創造的な解決策を見出し、更に関心のあるグループや居住者の選好に関する情報を得ることが出来た。公衆参加のプロセスが非常に良い形で行われたことで、計画の実行段階で変更を加えなくてはならなくなるような状態を回避することができた。


   計画とSEAのプロセスを段階別に分離したことで、プロセス全体の効率があがった。そのため、考慮すべきトピックの範囲を定めることも容易であり、主な問題や、それらの代替的な解決策を提言することも可能となった。中間段階では、特定された問題の解決に資する様々な情報の収集や、プロセスを通じて、決定事項の及ぼす潜在的影響を分析することも可能であった。


   更に重要な事実は、各段階でアセスメントと共に特定された問題や提言された解決策、中間的決定が文書の形で記載された。


   プロセスの効率性に関する所管官庁の見解は肯定的であった。パイロット・プロジェクトの実施は、EAを計画策定の段階に統合することが、資源利用を最小化しつつ、自然環境と社会の両側面から最適な解決策に到達する唯一の手段であることを証明した。


   地方政府の行政担当者は、計画策定プロセスを非常に有益で情報量も多いものであるとし、この全プロセスにおいて時間と資源を合理的に利用できるものであると認めた。環境影響評価が計画策定の段階と並行して行われたことにより、計画の承認と意思決定のプロセスが非常に促進された。


   プロセスの弱点は以下の通りである。


・   島の環境要素の状況に関するデータが部分的に不足していた。生物学(主に動物相に関して)、地質学(特に起源に関して)及び地形学に関する情報に関して情報のギャップと不足があった。結果として、これらの分野に関する環境影響を明らかにするためには、更なる調査が必要であることが判明した。


・   複数案の立案が行われた一方で、様々な種類の活動が予定されている土地間での変更は、十分には検討されなかった。


・   意思決定者である地方自治体は、中間段階における決定を十分に迅速に決断できなかったため、その役割は比較的控えめだったように思われる。主な欠点は、計画策定及びSEA実施の経験が不足していること、並びに環境法及び規則に対する認識不足であった。

 


3.10. 事例研究: ピセク・ストラコニス地域の土地利用計画(チェコ)

3.10.1. はじめに


3.10.1.1. SEAの役割


   本SEAは、全ての地域土地利用計画を対象としているチェコSEA法第14条に基づき実施された。SEAは、計画案原案と計画案の両段階で計画策定プロセスとともに実施された(すなわち、計画策定プロセスの第2、第3段階)。


   注:地域土地利用計画へのSEAの適用は、チェコでは標準的な手続きである(1992年以降、関連するSEAは20回以上実施された)。加えて、チェコ環境省は、1994年に地域土地利用計画のSEAに関する具体的なガイダンスを公表した。1999年には、全プロセスの効果に対する評価が行われ、若干の修正を加えて全般的なSEA手法が確立された。


3.10.2. 背景:前後関係及び論点

   ピセク・ストラコニス地域土地利用計画は、チェコ南部の2都市で構成される大都市圏とその周辺地域(計画対象土地面積は約1,500km2)を対象としたものである。本計画は、(通常、市町村レベルで行われる)低位レベルの土地利用計画デザインの一般的な枠組みを作成するものであり、主な目的は以下のとおりである。


・   対象地域の利用方法に制限を課すこと。


・   対象地域で計画されている全ての主要開発プロジェクト間の調整を行うこと。


   本計画は、対象地域内の土地利用方法の変更に関して、公的機関や個人からの要望に返答するものである。本計画は、以下の分野における全ての主要開発プロジェクトを対象としている。


・   都市開発


・   交通面の社会資本


・   エネルギー面の社会資本


・   水資源管理


・   経済活動(産業、農業、林業、漁業)と鉱業


・   レクリエーション産業と観光業


  計画提案者は、全プロセスの調整を行う地域開発省である。計画プロセスは、以下の3段階から構成される。


・   計画に関するデータ収集段階(全ての関連資料の審査と、必要に応じて新規データの入手による補完を行う。)


・   計画案の原案段階(通常、当該地域の複数の開発シナリオ提案の比較)


・   計画案段階(選択された複数案の詳細な検討)


   全3段階において、公衆からの意見聴取が行われる。計画案の原案(複数案の提案)の策定時に、大規模な公衆参加の会議が開催される。


3.10.3. アプローチと活用された手法


3.10.3.1. 情報収集


   本SEAは、3人のSEAチームによって作業が行われた。対象地域の環境状況に関する既存研究、主要環境問題に関する文献、計画の検討段階で行われた調査及び専門家の判断などがSEAに活用された。


3.10.3.2. 複数案の作成


   本計画に対しては、単一の複数案が提案された。前述したように、本計画には以下の分野の主要開発プロジェクトが含まれていた。


・   都市開発


・   交通面の社会資本


・   エネルギー面の社会資本


・   水資源管理


・   経済活動(産業、農業、林業、漁業)と鉱業


・   レクリエーション産業と観光業


3.10.3.3. 主要環境課題と指標の選定

 

   SEAは、以下の項目に対して、計画原案がもたらす潜在的影響の分析が行われた。


・   居住者(提案された開発活動に伴う負の影響を被る居住者数)


・   大気質と天候(地域的な大気質への影響のみが考慮される)


・   水(保水と導水能力、地表水の量と質、地下水の量と質)


・   地質学と地形学(鉱物資源や採掘地域に対する影響)


・   土(耕作地面積の変化)


・   森林(森林面積の変化)


・   エコシステムと景観(保護地域、生物的安定性という地域的システム及び景観の視覚量への影響)


・   文化的、歴史的、考古学的土地(文化遺産保護地域、考古学的発見のある地域及び文化的重要性を有する地域への影響)
これらの主要な環境問題が分析され、全体的な傾向がまとめられた。


3.10.3.4. 影響分析


土地利用制限案に関する分析
   SEAは、提案された土地利用制限案の妥当性に関する分析から開始された。


   個々の開発分野に対する提案された利用制限案と主要な環境問題に関するマトリックスが作成され、各々の適合性の検討が行われた。X軸は主要な環境問題を、Y軸に開発分野に対する利用制限案を示す。起こりうる環境影響は、一般的記号を用いて表示された(+2非常に良い、+良い、-悪い、-2非常に悪い)。


   このマトリックスは、主要な知見に関する詳細な解説を加えて作成された。SEAのコンサルタントは、主要な開発活動に対して、自主的なEIAの実施やその他の環境評価(例えば、生物学的評価)の実施を促した。


主要環境要素に対する全主要開発プロジェクトのもたらす全般的影響の分析
   提案された特定の開発プロジェクトのもたらす潜在的環境影響は、簡単なマトリックスを用いて分析された。各環境要素に対するマトリックスが作成され、提案された開発活動に伴う累積的影響が検討された。


   各環境問題(例えば、水)に対し、別個のマトリックスが作成された。マトリックスのX軸には、環境問題に対する主な環境指標が示された(前述の各種環境問題の指標リストを参照)。Y軸には、各環境要素に関連した個々の開発活動が示された。考えられる環境影響は、以下の一般的な記号を用いて示された。


・   当該影響の性質(+2非常に良い、+良い、-悪い、-2非常に悪い)


・   当該影響の規模(特定の場所に限定的、局所的、地域的)


   これらのマトリックスも、提案された開発活動に伴う潜在的累積的影響を文書化することで作成された。SEAのコンサルタントは、環境問題を緩和する手段及び/または、これらの環境要素の保護を強化する手段の採用を提言した(例えば、当該地域に厳しい環境保護規則を適用するなど)。


開発活動提案と主な環境問題の関係に関する地図へのオーバーレイ


   提案された開発活動と主な環境問題の関係を示す地図へのオーバーレイが、主要な環境要素に対する全ての主要開発プロジェクトが及ぼす全般的影響を示したマトリックスの検証のために使われた。具体的には、以下の2つの地図が作成された。

 

・   地図1:市街区域、交通及び技術的な社会資本、文化遺産、地質学


・   地図2:自然保護、水、農地と森林


3.10.3.5. 公衆参加


   計画策定プロセスと別個のSEAに特化した公衆参加は行われなかった。SEA報告書は、計画原案と一緒に公的機関及び公衆に対して公表された。


3.10.3.6. モニタリング及びフォローアップ


   本計画は、現在、計画案の原案段階にある。計画案の原案とそのSEAの審査に基づき、計画案(及びそのSEA)が策定される予定である。


3.10.4. 結果と教訓


3.10.4.1. 意思決定に対するSEAの貢献


   計画とSEAとが連携して行われたことは明白であるが、計画原案が複数案の比較の中で検討されていれば、より有益であったものと考えられる。なぜなら、SEAは、提案された計画原案の質を確認するためだけに活用されており、結局、重要な環境問題は何も発見されなかったためである。


3.10.4.2. SEAの優良実践事例に関する結論


   本SEAは、非常に簡単な分析手法によっても効果的にSEAが実施可能であることを示した。

 


3.11. 事例研究: チェコ共和国の廃棄物処理計画 (WMP-CR)


3.11.1. はじめに


3.11.1.1. SEAの役割


   SEAは、計画策定プロセスと平行して、独立したプロセスとして(主に学識者から構成される)5名のチームによって実施された。SEAチームは、計画策定チームと定期的に会合を持ったが、厳密に計画策定プロセスに沿うものではなかった(例えば、プログラム文書の分析的部分の作成、目的・手法・実施システム・モニタリングシステムの設定等においては計画策定プロセスに沿って行われてはいない)。SEAチームは、SEA報告書の作成を目的として、以下の手順で行われた。


・   スコーピング(計画案及び提案された評価方法についての意見募集のため、地域レベルで14回、国レベルで2回のワークショップを開催)


・   SEAの仕様の詳細に関するレビュー(環境保護協会の国レベルのワークショップを1回開催)


・   SEA報告書の作成


・   SEA報告書の公衆による審査


3.11.2. 背景:前後関係及び論点


   チェコの廃棄物処理計画(WMP-CR)は、主要な廃棄物管理に関する目的及び方策を示した初めての総合的・戦略的文書として、2002年に策定された。本計画は、2003-2012年を対象とするフレームワーク計画であり、詳細は各地域の廃棄物処理計画によって定められる。


   WMP-CRは、主な種類の廃棄物の処理に関する目的を示し、また各種廃棄物に関する目的を達成するために、需要抑制手法及び供給管理手法を示している。需要抑制手法には、規制的、経済的、制度的、教育的又は自主的手法が含まれる。供給管理手法は、様々な種類の廃棄物に対して最適な処理を行う施設を提案するものである。


   WMP-CRは、計画された廃棄物処理施設の立地及び運用期間の延長を取り扱うものではない。これらの問題は、WMP-CRの定めた要件を満たすように策定される地域の廃棄物処理計画によって扱われる。


WMP-CRは、以下の要素で構成される。


・   イントロダクション(計画の拘束力、用語、廃棄物処理の制度的取り決め等)


・   チェコにおける廃棄物処理の現状評価


・   計画の義務的部分(必須目的、方策及び実施/モニタリングに関する取り決め)


・   計画の提言的部分(拘束力のない目的、方策及び実施/モニタリングに関する取り決め)


3.11.3. 採用されたアプローチ及び手法


3.11.3.1. 情報収集


   SEAは、SEAチームメンバーの個人的経験に基づく専門家の判断や、計画の検討段階で作成された資料及び既存の情報が活用された。


3.11.3.2. 複数案の作成.


計画に対して2つの複数案が作成された。


・   公式に提案された案は提案者である環境省が作成したものである。


・   「グリーン案」は、各地域のNGO(地球の友がコーディネートしたNGOの専門家ネットワーク)によって作成された。「グリーン案」の作成は、同計画の公式な案とは別個の情報として有用であるため、提案者である環境省が財政面で支援を行っている。


   正式な計画策定プロセスは、計画の様々な部分を作成する複数のチームによる作業によって行われた。これらのチームは、しばしば別々に作業を行ったため、計画全体の策定までに、何度もやり取りが行われ、新規入手データを盛り込むために4度の書き直しが行われた。


   WMP-CRの必須部分には、以下の種類の廃棄物に関する特定の義務的目的、手法、実施/モニタリングの取り決めなどが含まれる。


・   有害廃棄物

 

・   PCB含有の製品及び廃棄物


・   医療廃棄物


   またWMP-CRは、以下の種類の廃棄物処理に関する具体的な目的、手段、実施/モニタリングの取り決めを含む。


・   家庭廃棄物のリサイクル


・   埋立処分


・   埋立処分される廃棄物中の生分解性物質に関する制限


・   容器包装の処理


3.11.3.3. 評価項目及び指標の選定、影響評価及び複数案比較


   提案された計画の分析に際して、SEAチームは、以下の評価手法を使用した。


A. 

各種廃棄物処理手法の一般的な環境リスクを示すマトリックス
本影響評価は、以下の前提に基づいて行われた。すなわち、全ての廃棄物施設は、厳しいEU基準を満たす必要があるが(チェコの法律は、全てEU基準に準拠している)、それでも様々なレベルの環境リスクが懸念される。それゆえにSEAチームは、以下の廃棄物処理手法の環境リスクを比較した詳細なマトリックスを作成した(Y軸)。


a. 廃棄物の収集、分別及び運搬
b. 廃棄物の二次的利用
c. エネルギー生産のための廃棄物焼却
d. 廃棄物の化学的及び生物的処理
e. 堆肥化
f. エネルギー生産を伴わない廃棄物焼却
g. 埋立
h. 廃棄物の永久保管


   上記の廃棄物処理アプローチは、以下のような潜在的影響の分類を活用して評価された(X軸)。


1. 天候
2. 大気質
3. 地質学及び地形学
4. 水
5. 土
6. エコシステム
7. 景観
8. 考古学、歴史及び文化
9. 健康及び職場での福利
10. 健康及び公共の福祉
11. 過去の環境負荷


   アセスメント・マトリックスの各セルは、主要な環境問題の概要を示し、最も良いものから最も有害なものまで、それらの特質や潜在的被害の程度によって色分けして示された。この評価法によって、SEAチームは、各種廃棄物処理に関する選択肢をランク付けすることで、提案された手法に対する意見に根拠をもって解答することが可能になった。


B. 

言語学的評価に基づく各種廃棄物処理アプローチの環境リスク評価
本評価は、上述の分析を完成させるために活用された。これは、「ファジー集合」の考え方に基づく予防的アプローチのもとで実行された。同手法は、当該提案に対する個々の専門家の言葉として表現された評価(例えば、悪い、良い、ほぼ十分等)から、専門家の判断の総意を導き出す技術である。個人の言葉による表現を的確に変換する技術は、「ファジー集合」の理論に基づくものであり、総合的数値計算と事前調査を必要とする。

SEAでは、上記のような各種廃棄物処理アプローチの一般的な環境リスク評価に同技術を活用した。SEAチームは両評価において非常に近い結果が出たとしているが、SEA報告書の中では両評価の結果について、必ずしも明白で分かり易い比較を提供していない。


C. 

WMP-CRで提示された全ての目的、原則及び方策が環境に与えうる特定の影響のマトリックス
この評価においては、SEAチームは計画の全ての具体的な提案(Y軸)に関する詳細なマトリックスを作成し、考えられる影響を以下のカテゴリーについて審査した(X軸)。


1. 天候
2. 大気質
3. 地質学及び地形学
4. 水
5. 土
6. エコシステム
7. 景観
8. 考古学、歴史及び文化
9. 健康及び職場での福利
10. 健康及び公共の福祉
11. 過去の環境負荷


同マトリックスの作成に当たり、SEAチームは以下の記号で表示した。
+(良い)、0(どちらでもない)、-(悪い)
専門家の判断の総意は、チームメンバーの個人の評価をもとに作成された。これらの影響評価は、SEAチームが計画案の個別の内容に対して行った、環境面からの提言の基礎として活用された。


D. 

計画の内部一貫性の審査

結論を導くための分析として、計画の内部論理の審査が行われ、その分析には以下の検討が行われた。

・   当該目的は、計画の分析時に想定された課題に対応しているかどうか。
・   当該目的は、計画に示された一般的な処理目的に対応しているかどうか。
・   当該処理原則は、計画の目的と対応しているかどうか。
・   当該方策は、計画の目的及び原則と対応しているかどうか。
・   提案された指標は、計画の目的の達成度を的確に測れるかどうか。
・   計画の義務的部分の特定の目的は、計画の提言部分に提示された方策と対応しているかどうか。


この影響評価に基づいて、SEAチームは、a) 提案された特定目的と計画の分析時に想定された課題との間、またb) 目的・原則と「対応する手段」の間に、多くの矛盾があることを指摘した。更にSEAチームは、ある目的の達成度を図るのに提示された指標が不適切であることを指摘した(指標の多くは、適切でなく、またデータ収集の面で非現実的であった)。この「非環境的」アセスメントからのデータは、SEA報告書の結論に色濃く反映されており、また以前の環境アセスメントの際に得られた環境評価を補完するものであった。

 

3.11.3.4. 公衆参加 


ステークホルダーの特定
   SEA用の独立して実施された公衆参加は行われなかった。提案者(環境省)が、中東欧地域環境センター(REC)のチェコ事務所に委託し、計画策定プロセスとSEAプロセスの両方に関連する公衆参加プロセスを一度だけ実施した。この際、以下のような公衆参加の手法が採用された。


・   SEAプロセスの案内、過去及び現行バージョンのWMP-CR及び背景文書をウェブページ上に掲載。


・   意見募集用の常設の電子メールアドレスの確保。


・   SEA関連情報の伝達、地方の公衆ワークショップの運営及び意見収集を行うための14の地域コーディネーターネットワークの確立。


・   電子メール会議やターゲット型メーリングリスト等を活用した地域の利害関係者に対する定期的な情報伝達。


参加方法
   14の地域ワークショップと2つの国レベルワークショップが開催された際に、公衆参加の主な選択肢は、計画案の初期的な審査及びSEAスコーピング段階において提示された。地域ワークショップは10-25名程、国レベルワークショップはそれぞれ50名程が参加した。


   加えて、SEAの詳細な仕様書の審査が、環境保護協会主催の国レベルワークショップで行われた。


   SEA最終レポートは、2回の国レベルワークショップにおいて審査された(各々30名程が参加した)。


公衆参加の効果に関するコメント
  
反応やコメントによると、これらのワークショップに参加した専門家や公衆の関心は、主として提示されている計画自体に高く、逆にSEAプロセス自体には高くないことが分かる。これは、参加した専門家や公衆がSEAチームの分析の結論を重要と考えず、それ故に提案されたWP-CR計画に関心が集中したためと思われる。また、SEA報告書が分かりやすい形で提示されなかったことも原因の一つである可能性がある(例えば、スコーピングの資料はかなり理論的であり、現実的なSEA手法を示していない。また、SEA報告書は極めて包括的なものであり、理解するのが難しい)。


   提案された計画に対して、公衆から全部で500の意見が寄せられた。公衆参加の重要な問題は、これらの意見の大半が計画に反映されなかったことにある。しかし、WMP-CRの各章は頻繁に修正が行われており、意見を受け取った時点では、計画自体が既に修正されており、意見を不適切になっている場合があることが原因であった。


3.11.3.5. モニタリング及びフォローアップ


   モニタリングとフォローアップは、計画の非常に重要な部分を占める。SEAチームは、特定の目的の達成度を測る指標が適切でないという問題を指摘した(指標の多くは、不適切であり、またデータ収集の面で非現実的であった)。


3.11.4. 結果及び教訓


3.11.4.1. 意思決定へのSEAの貢献


   SEAチームの作業と計画策定チームの作業の間で、明確で実体的な連携が不足していたため、SEAがWMP-CR計画の策定プロセスにおいて果たした役割を明確に説明するのは困難である。SEA報告書にまとめられているように、計画の最終案に対しては非常に多くの意見が得られた。これらは、現在WMP-CRの管理をしている環境省によって、最終的な意思決定の中で考慮されている最中である。


3.11.4.2. SEAの優良実践に関する結論


   本プロジェクトの評価に基づくと、SEAと公衆参加は、それら両方の手続きが明確で透明性の高い計画策定プロセスの中で行われていれば、その効果はより高かったであろうと考えられる。WMP-CR計画の変更によって、計画策定プロセスと、SEA及び公衆の意見を上手く統合することが困難となった。


   SEA報告書の質については、全体としてのSEAアプローチと手法が、更に明確にされる必要がある。SEAの中で使われた理論やアプローチ(例えば、非常に理論的なスコーピング資料や廃棄物処理アプローチの評価に使われた「ファジー集合」の概念等)は、公衆の人たちがきちんとSEAの結論を理解することを妨げることとなった。また、これが公衆との討論や意見募集を制限する結果となった。

 


3.12. 事例研究: チェコ共和国プルゼニ地域廃棄物処理計画(WMP-PL)


3.12.1. はじめに

 

3.12.1.1. SEAの役割


   SEAは、計画策定プロセスと平行した独立プロセスとして(主に廃棄物処理の専門家からなる)4名のチームによって実施された。SEAチームは、計画策定チームと定期的な会合を持ち、計画策定プロセスに緊密に連携して行われた。SEAチームは、SEA報告書の作成のみを目的としているわけではなく、計画策定のあらゆる段階、計画策定過程の複数シナリオの比較に対して、情報を提供することを主な目的としている。


3.12.2. 背景:前後関係及び論点


   西ボヘミア廃棄物処理計画(WMP-PL)は、チェコ廃棄物処理計画(WMP-CR、事例参照)を具体的に実施するための地域計画である。


   WMP-PLは、地域における総合廃棄物処理のための初めて戦略的レベルの文書として、2002年に策定が開始された。WMP-PLは、主要廃棄物の処理の目的と方策について、WMP-CRで定めた事項に従ったものである。WMP-CRの中の目的と方策の実行に必要な開発プロジェクトの分析を通じて、これら目的と方策の具体的な実行の可能性を検討している。


3.12.3. アプローチと活用された手法


3.12.3.1. 情報収集


   WMP-CRに対するSEAの場合と同様に、本SEAもSEAチームのメンバーの個人的経験に基づく専門家の判断や、計画作成の段階で得られた情報及び既存の情報源が活用された。


3.12.3.2. 複数案の作成


   同計画は、現在作成中である(2003年3月完成見込み)。現在は、WMP-CRの目的と方策を実行に移す際に必要と考えられる各種開発プロジェクトの分析が行われている。


   計画策定チームとSEAチームは、現在、以下の4つの複数案を検討している。


   第1a案
   第1a案は、廃棄物の分別と再利用及び、再利用困難な廃棄物の埋立処理のみを提案している。具体的には、以下の方策から構成される。


・   原料別の廃棄物の分別-特定の場所で遠心分離機及び選別ラインにより一般廃棄物を機械的に分別


・   分別された廃棄物の再利用-特にガラス、金属等


・   再利用困難な廃棄物の埋立処分


・   可燃物の分別による廃棄物焼却(紙、プラスチック等)


・   生物分解可能な廃棄物の堆肥化


   第2案.
   第2案は、一般廃棄物に対して、焼却能力100,000t/年の施設開発を提案している。これには、一般廃棄物のエネルギー利用も含む。


   この第2案は、以下の具体的な方策から構成される。


・   原料別の廃棄物の分別-特定の場所で遠心分離機及び選別ラインにより、一般廃棄物を機械的に分別


・   分別された廃棄物の再利用-特にガラス、金属等


・   熱電併給のコジェネレーション設備を備えた焼却


・   域外で発生した一般廃棄物の埋立処理及び焼却灰の埋立処理


・   生物分解可能な廃棄物の堆肥化


   第3案.
   第3案は、一般廃棄物の原料別の分別及び再利用困難な残りの廃棄物の処理能力60,000t/年の小規模な処理施設への運搬を提案している。この第3案は、以下の具体的な方策から構成される。


・   分別-廃棄物を原料別に効果的に分別するための一般的な予防策、分別/分離ラインの使用


・   分別廃棄物の再利用-特にガラス、金属等


・   熱電併給のコジェネレーション設備を備えたガス化溶融炉での焼却


・   コークスの使用


・   分離ラインから取り出された再利用困難な断片及びガス化溶融炉からの排出物の埋立処分


・   生物分解可能な廃棄物の堆肥化


   第4案
   第4案は、一般廃棄物の原料別の分別効率を高めること、また熱による減量化(当初容量の30%までに減量化)により残渣廃棄物の処理を提案している。同技術により処理された廃棄物は、再使用(スクリーンにより分別された廃棄物の断片は燃料やコンポストに用いられ、スクリーンによる残渣廃棄物の断片は分別に回される)、または埋立処分される(廃棄物量の約10%が埋立地へ)。この第4案は、以下の具体的な方策から構成される。


・   分別-廃棄物を原料別に効果的に分別するための一般的な予防策、分別/分離ラインの使用


・   分別された廃棄物の再利用-特にガラス、金属等


・   熱的減量化による残渣廃棄物の処理


・   分別ライン及び熱的減量化に対象外の再利用困難な廃棄物断片の埋立処分


・   生物分解可能な廃棄物の堆肥化


3.12.3.3. 評価項目及び指標の選定、影響評価及び複数案比較 


   提示された計画案の分析に当たり、SEAチームは国家計画であるWMP-CRのSEAの中で適用された一般的な影響評価アプローチを活用した。これは、以下の2つの評価手法である。


A. 

各種廃棄物処理手法の一般的な環境リスクを示すマトリックス
WMP-PLのSEAチームは、WMP-CRのSEA用に作成された詳細マトリックスを活用し、評価を行った。これは、以下の廃棄物処理アプローチの環境リスクを比較するものである(Y軸):


i. 廃棄物の収集、分別、運搬
j. 廃棄物の二次利用
k. エネルギー生産のための廃棄物焼却
l. 廃棄物の化学的、生物的処理
m. 堆肥化
n. エネルギー生産を伴わない廃棄物焼却
o. 埋立処分
p. 廃棄物の永久保管

上記の廃棄物処理アプローチは、以下の潜在的影響の分野について評価が行われた(X軸):

1. 天候
2. 大気質
3. 地質学及び地形学
4. 水
5. 土
6. エコシステム
7. 景観
8. 考古学、歴史及び文化
9. 健康及び職場での福利
10. 健康及び公衆の福利
11. 過去の環境負荷

 

   アセスメント・マトリックスの各セルは、主な環境問題の概要を示し、最も良いものから最も有害なものまで、それらの特質や潜在的被害の程度によって色分けして示された。この評価法によって、SEAチームは、各種廃棄物処理に関する選択肢をランク付けすることで、提案された手法に対する意見に根拠をもって解答することが可能になった。


B. 

提案された全てのWMP-PL複数案の潜在的環境影響のマトリックス
本評価において、SEAチームは全ての複数案に対して詳細なマトリックスを作成し(複数案で提示された全ての廃棄物処理の手法はY軸に記入)、X軸は、以下の潜在的影響の分野を示した。

1. 天候
2. 大気質
3. 地質学及び地形学
4. 水
5. 土
6. エコシステム
7. 景観
8. 考古学、歴史及び文化
9. 健康及び職場での福利
10. 健康及び公衆の福利
11. 過去の環境負荷


   このマトリックスを記入する際、SEAチームは次のような評価基準を使用した。

潜在的影響の評価は、様々な廃棄物処理アプローチの一般的な環境リスクの評価に基づいた(分析Aの下のマトリックスを参照)。これらは、提案された各手法に関して、詳細な特徴が判明していたため、更に詳細に検討された。SEAチームは、専門家の判断の総意をこの評価に活用した。


3.12.3.4. 公衆参加


利害関係者の特定


   WMP-CRのSEAと同様に、SEA用の独立した公衆参加プロセスは行われなかった。提案者(プルゼニ地域)は、地域開発庁(Regional Development Agency)に委託し、計画策定プロセス及びSEAプロセスの両方に関連する公衆参加プロセスを一度だけ実施した。この際、以下のような公衆参加の手法が採用された。


・   計画の背景や過去及び現行バージョンの計画案を提供する計画プロセスに関する情報(SEAを含む)をウェブサイト上に掲載


・   意見募集用の常設の電子メールアドレスの確保(電子メールアドレスは計画策定チームへリンクされている)


・   ターゲット型メーリングリストなどを活用し、地域の利害関係者に対して情報を伝達


参加方法
   公衆参加の主なオプションとして、これまでに地域のパブリック・スコーピング・ワークショップ(参加者約50名)が一回開催され、提案された複数案、SEAアプローチ及び手法が審査された。計画の4つの複数案の比較は、現在、ウエッブサイトにて誰もがアクセスできる状態であり、2003年2月の公衆ワークショップにおいて審査される予定である。


公衆参加の効果についてのコメント
  
反応やコメントによると、ワークショップに参加した専門家や公衆は、提案された計画とSEAプロセスの両方への関心が高いことが分かった。これは、SEAが極めて分かり易い形式で表現されており、アセスメントの論理を理解するのも容易であったことによると考えられる。


3.12.3.5. モニタリング及びフォローアップ 


   この計画は現在、実施中である。モニタリング、フォローアップは最終的に採択された案に対して行われる予定である。


3.12.4. 結果と教訓


3.12.4.1. 意思決定へのSEAの貢献


   SEAチームの作業と計画策定チームの作業の間には、明白で実体的な連携が行われた。両チームは、現在、複数案の選定について検討中である。


3.12.4.2. SEAの優良実践に関する結論


   本SEAの評価結果と国家レベルの廃棄物処理計画に適用された"親SEA(上位レベルのSEA)"との関連を見ると、SEAにおいてティアリングの概念が有効に活用できると結論できる。

 


3.13. 事例研究: 英国のM4南ウェールズ政策評価フレームワーク(M4 CAF)


3.13.1 はじめに


3.13.1.1 計画の性質


   本事例は、多基準アプローチを使用して、都市間の交通問題に取り組んだ先駆的マルチモーダル研究の手法と結果を紹介するものである。特徴として、重要な高速道路プロジェクトに係わる不確実性に関連して、このようなSEAが実施されたことである。この結果、政策-プラン-プログラムという従来の標準的のSEAの対象とは異なるものとなっている。SEAは交通研究に関する統合化されたアプローチの一部として行われた。


3.13.1.2 SEAの役割


   SEAは、M4高速道路のニューポート周辺区間の渋滞解消を目的とする代替交通手段に対する政策評価へ、部分的に統合されたものと位置付けられた。ただし、高速道路への過剰な負荷を軽減することが望ましい解決策であることを確認するものであったため、SEAは本質的にはウェールズ省の内部作業として行われ、公衆への協議は実施されなかった。


3.13.1.3 事例研究の焦点


   本事例は、活用された環境指標を提示するとともに、様々な交通戦略の相対的パフォーマンスを示すに当たり、一部の指標の組み合わせがどのように関係しているかを示すことに焦点を当てた。他の指標は影響調査においては有用なものであったが、本事例の規模においては、影響の大きさが同程度であったことから、複数の交通戦略間の影響の区別には役立つものではなく、また影響の緩和に資するものでもなく、従って重要な意志決定の論点ではなかった。


3.13.2 背景:前後関係及び論点


3.13.2.1 社会面及び環境面での状況


   本計画の背景を考慮すると、環境、交通及び経済面における影響に統合的な方法で配慮する必要がある。実際、少なくとも人間環境に対する影響という観点から現在のM4高速道路に関連する負の環境面への条件によって増大した環境の複雑性並びに、高速道路の負荷軽減のために提案された道路に伴う文化遺産、生態学及び景観利益に対する悪影響により、統合的な方法の必要性は更に決定的なものとなった。


   本事例の調査地域は容易に定義可能であり、また先述したように、高速道路の負荷軽減のための道路の予定ルートには、相対的に住宅地は少なかったが、国として重要な生態系及び文化遺産が存在した。対照的に、既存のM4の代替案は、高速道路沿いの多くの居住者へ、騒音、(道路による)分断効果、大気質への影響を及ぼすとともに、例外的な技術及び路線設定及び安全性の制約にも直面していた。


   主な課題は、鉄道プロジェクトと、代替道路建設の間接的効果に関する本事例の分析対象を明確にすることであった。理論的には、鉄道プロジェクトではグレート・ウェスタン鉄道の電化によって、スウォンシーからロンドまで拡張可能であった。これは分配に関する問題である。特定の影響が単に南ウェールズからの交通の利用者にのみ割り当てられるべきなのか、あるいは鉄道路線沿線の全ての他の利用者へも関連するべきものなのかを決めるという問題であった。重要な基準が適用され、最終的には、南ウェールズが境界であると定義された。


3.13.2.2 SEAと意思決定プロセス


   1989-90年、ウェールズ省は、当該地域において、既存及び将来の高速道路及び幹線道路ネットワークのパフォーマンスを検討することを目的とする南ウェールズ地域交通研究所(SWATS)を設立した。続いて1991年に国務長官は、ニューポート周辺の負荷軽減のための道路を含む道路プログラムに対して多くの追加策を発表した。1995年7月に、国務長官は、ニューポートの南を通過してマーガー(Magor)とキャステロン(Castleton)(ジャンクション23~29)の間のM4の負荷を軽減するための道路のルート案を発表した。1997年3月には、国務長官がその命令を実行するために、十分に詳細な技術開発を行うための「第二段階」の関与が行われた。


   1998年7月に、ウェールズ省は「ウェールズの将来のために:ウェールズ幹線道路プログラムの戦略的レビュー」を作成し、これにより、ニューポート付近のM4に関する次の声明が発表された。 


   公衆への協議では、既に存在しまた将来徐々に悪化すると予測されている南東ウェールズのM4高速道路上の渋滞の問題がどのように解決されるべきかという問題に関する見解を検討した。ウェールズ省は、共通審査フレームワークを活用して、道路や公共交通機関の増強を通じてニューポート周辺の問題を取り扱うオプションのレビューを行うためにコンサルタントと契約した。また特に表明した環境への関心の観点から、ニューポートの南の負荷軽減のための高速道路またはカーディフ北部の既存M4高速道路の拡張に関する決定を下す前に、あらゆるオプションの綿密な検討をよろこんで行うことを強調している。


   同声明は、複数案の検討不足とともに、この負荷を軽減するための高速道路に関連する反対者に提起された環境問題が、提案された解決策を危険にさらし、更なる検討が必要であることを認めたものである。考慮される複数案は、異なる方式、通行料制、政策手段及びITS(高度道路交通システム)を含むものであった。


   M4 CAF研究の目的は次の通りであった。

a)   マゴールとキャステロン間のニューポート周辺のM4の交通量の増加に伴う予測された影響を軽減するためのオプションに対して「共通の審査」を行うこと
b)   受け入れ可能な環境、金融、経済及び安全上の基準をもとにしてオプションを審査すること、
c)   国務長官にM4の負荷を軽減する道路を建設するために法的権限を活用するべきか否かに関して、あらゆる論点を集約して国務長官にアドバイスすること


   M4 CAFは、交通政策、影響評価及び審査の仕組みが急変する時期に行われた。政府側での変更のみならず、政策的にもいくつかの変更が行われ、最も顕著なものとして統合的交通政策のコミットメント、交通白書の出版及びウェールズの交通政策声明がある(1998年7月)。


3.13.2.3 論点


   主な課題は、交通関連の措置を開発または選別し、研究分野を定義し、各種戦略の影響をはかり、代替的戦略を評価するためのガイダンスや方法論が存在しないことであった。


3.13.3 アプローチと活用された手法


3.13.3.1 情報収集


   SEAの実施段階において、負荷軽減のための道路の設置に関わる環境特性に関して、莫大な量の情報がSEAに活用可能であった。対照的に、新たな交通手段に関して、SEAで利用可能な情報はほとんどなかった。これにより多くの活用可能な情報がある措置と比較してバイアスがかかるという潜在的な影響が懸念された。実際には、特定の方式または特定の状況に対する偏りを生じないように指標が注意深く選択されたために、そのような状況は生じなかった。


   SEAのためのデータは、現地踏査と航空写真と地図の使用を通じて集められた。現地踏査とは専門家による視察であるが、これにはデータ収集や公式記録の作成は含まれない。


   影響評価を行うためのデータを提供するために、様々な情報源が利用された。騒音や大気質といった定量的分析がなされる場合には、本研究のために特別に集められた交通調査データに基づいた交通モデルからのデータが活用された。しかし、水や生態系の分析のような定量的分析の場合は、交通対策の蓄積をベースに、SEAの実施を通じて新しいデータの作成が行われた。例えば、指定地域内で利用される土地面積や、横断あるいは迂回予定の河川などである。基本的な情報は航空写真や地図から収集された。


   その他の状況においては、基本的な情報は、重要と認められた地域について利用可能な情報により補足されつつ、土地利用マップや開発計画から収集された。


3.13.3.2 複数案の立案


   M4 CAFは、研究目的を満たす代替交通手段を広範囲に検討し、そして影響評価のための3つの基礎的な戦略を定式化した。 

a)   道路建設戦略、
b)   公共交通強化戦略
c)   交通・需要管理戦略


   各戦略は、各テーマの下で現実的に実施できる手段の極端な例を示すものであった。例えば、公共交通強化戦略には、社会資本及び財政の両要素が、想定される公共交通機関料金の実質値下げを伴う形で含まれていた。交通・需要管理戦略もまた、土地利用政策、都市内の駐車料金課金、都市のロード・プライシング、及びM4と通信に適用される社会資本及びテレマティック措置を含む、社会資本と政策の措置を組み合わせている。当該措置は、交通ネットワークの主な利用者とともに、交通面の社会資本及びサービス部門の責任者との議論を通じて定義された。


   各々の措置について、各措置の実施に関する根本的な制約を特定するために、簡便な環境審査が行われた。 実施可能と考えられる措置のみが適切な戦略に組み込まれた。戦略は、問題の解決策に各々が単独で寄与することができる範囲をはっきりさせるために、極端なオプションとして定義された。


   極端なオプションを定義した後、それぞれの戦略から最良の措置が、交通、経済及び環境の意味において特定され、M4の負荷を軽減するための道路が構築されなかったという仮定の下、措置の適切な組み合わせを作るための戦略が検討された。高速道路料金の徴収はこの戦略に含まれた。その後、この戦略は、道路建設戦略と比較された。


3.13.3.3 課題と指標の選定


   この段階では、詳細なフィールド調査は実施されず、容易に利用可能なデータセットが集められ、現地踏査が実施された。交通データを用い初期的な騒音、大気の質及び公衆アメニティーの課題に対する予測が実施された。表 30は、使用された環境指標を示す。


   様々な方式を含む交通手段間の影響評価を比較するために、潜在的な環境影響を取り扱う目的及び指標を開発する必要があった。これは、目的の定義や有効性に関して利害関係を持たない有権者と技術面での意思決定者により実施された。仮に目的の設定が、選出された意思決定者及び他の有権者による評価に則していたなら、更に焦点が絞られ、選出された意思決定者をよりサポートするものとなったであろう。指標は、外部データ収集の必要性を最小限にすることを基本に選択され、また、関連する全ての課題に対処できるよう確保された。さらに、異なる方式あるいは異なる地理的領域に渡ることでバイアスがかかることを防ぐとことは重要な要素であった。


表 30 M4 CAF 目的と指標

注記:

交通社会資本とは、認識できる物理的な存在であり、自転車道、バス路線、歩行者の設備、交通管理手段と道路及び鉄道に適用される全ての関連する作業が含まれる。

 

3.13.3.4 影響分析


   この時点では、SEAの実施方法に関するガイダンスは存在せず、従って手法の開発が行われた。 M4 CAFのために採用された方法論は、審査において以下の主要な段階を備えた目的主導型アプローチである。

a) 研究のための地理的な、時間的な制限の定義
b) 交通シナリオの統一的明確化
c) 目的の確立
d) 個々の交通手段の潜在的な影響の特定
e) 適切な指標の特定
f) ベースラインの状況の定義
g) 交通戦略の影響の予測
h) 各交通戦略の相対的パフォーマンスの査定
i) 望ましい戦略の特定


   重要な環境影響の発生可能性を示す審査基準は、交通手段を分類し、また検討に値する影響評価に関する活動に制約を与えるために活用された。例えば、騒音1デシベルを変化させるのに必要な交通量の変化などである。


3.13.3.5 複数案の比較


   オプション選定過程と関係がない指標を更なる検討を行わないように、結果は環境のサマリー表としてまとめられた(表 38を参照)。選挙で選ばれた意思決定者に対する報告書の中で、14指標を中心的な指標の組み合わせへと絞り込む過程は本事例の挑戦的な事項であった。交通の各オプションを区別する根拠が無い指標はまず除かれた。しかし、この他のものは、非常に問題であった。 騒音の指標は報告の価値があると考えられたが、実際上、推計上の仮定では、ヘッドライン指標としては活用されなかった。また、いくつかの指標は、意思決定者に本質的に同様の情報をもたらすものであるため、代理指標が要約するものとして選定された。


   各代替戦略について、それぞれの影響カテゴリーに関する影響評価が実施された。このことから、必然的に同じ結論をもたらす影響指標は、望ましい戦略の選定には活用されなかった。15の指標の中からいくつかは複数案の選定プロセスに役立たないものとして取り除かれた。そして、残ったそれぞれの指標について、それぞれの案の有する相対的機能に従ってランク付けされた。これは環境の視点から望ましい環境戦略を特定することを可能にした。しかし、交通や経済開発といった他の項目もまた、代替戦略の選定に関連する。多くの場合には広く同意が得られるが、時には環境評価は、望ましい戦略が地方道路ネットワークや指定地域に悪影響を及ぼしうると結論づけることもある。そのような場合、これらの悪影響は政策決定者に対して提出される最終評価の中で報告される。


   各シナリオの審査は、様々な指標の活用によりフレームワークに記録され、各交通手段のパフォーマンスを組み合わせることで補足された。しかし、問題を評価するのが難しくならないよう、そのようなフレームワークが過度に長かったり複雑になったりすべきでないことは重要であった。 更に、理解の容易さのため、1ページにこの要約をまとめ上げることが望まれた。


   個々の環境上のトピックについて、4つのシナリオは、緩和措置の可能性を考慮しつつ、その環境パフォーマンスによってランク付けが行われた。


3.13.3.6 公衆参加


   本来、同作業は道路に関する提案について公共の調査を行うことを意図していたため、影響評価プロセスにおける公衆関与は行われなかった。実際、本事例では提案された形状での道路は問題であるとし、また安全、需要管理、別方式への投資の問題に対応するために、別の一連の措置を提案した。この解決策は、提案された措置に対する更なる作業を実施する前に選定されたメンバーが検討する必要のある重要な政治的課題をもたらした。


3.13.3.7 不確実性と累積的影響のモニタリング


   不確実性と累積的影響について価値の高い環境資源に重大な影響が懸念される状況下にあり、かつ緩和措置の範囲に関して不確実性がある場合、予防原則を採用することによって本研究の中で考慮された。いくつかの措置において、場所の選定における不確実性は、プロジェクト開発期間中に環境影響が回避されうるのか否かの点が課題となった。 従って、3種類のリスクスケール、すなわち高、中、低が適用された。生物生息地や景観の損失に加え、大気質に関する措置の累積的影響も考慮された。


予防原則 :交通手段の中で環境面でのセンシティブな地域に設置され、また計画内容の具体的デザインが十分でなく又その詳細な影響が不明な場合には、予防原則が適用された。これは、不確実性によって、この影響がより重要であると考えられることを意味する。別の場合、想定された場所において交通手段の選定に柔軟性がある場合は、予防原則を採用することで、その想定場所について影響を軽減するように修正を行った。


   累積的影響の考慮は指標のいくつかが定義されている方法で行われた。例えば、重要地域に影響を及ぼす交通社会資本全体の面積などである。また、歴史的環境に関する指標の変化の結果、生態学的に重要な地域性と一致する場合がある。同地域の多様な影響は、定性的に報告された。


   研究の目的に鑑みて、進捗状況のモニタリングは行われなった。


3.13.4 結果と教訓


3.13.4.1 意思決定へのSEAの貢献


   本研究が成功した要因は、エンジニアリング設計チームへの環境チームの密接な関与と、影響評価活動への斬新なアプローチを生み出した能力があげられる。


3.13.4.2 成果


   本事例は、技術的に実現可能な全ての交通手段を考慮し、選挙により選ばれた意思決定者が事例の実施プロセスの外に置かれるような、政治的な現実性を考慮しない仮定的解決策を導いたものであった。その結果、通行料課金を通じた需要管理に関する勧告は急進的すぎるものと見なされた。部分的には、本状況は、選挙により選出された意思決定者がこのような複雑な問題に介入したり相互関係を有したりする方法に結論を出していないという複雑な地域政策的課題から生じたものであった。


   意思決定者の関与が不足していたことにより、プロセスを通じて関与する利害関係者が限定され、環境及び社会的利益を代表する者の関与は行われなかった。このため、ウェールズ国民議会が直面する交通問題と持続可能な開発との間の緊張状態へ適切に対処できなかった。研究目的も狭く定義され、変遷期にあった地方、地域、国家の目的間の関係に対処できなかった。


   目的と指標の設定に活用可能な技術ガイダンスが無いため、交通ネットワークがもたらす適切なサービスなどの課題を取り扱う上位レベルの政策が不足していることを強調することになった。意思決定者による明瞭な方針が望まれているところで非常に重要な事項であった。


3.13.4.3 SEAの優良実践の結論とは


   交通計画プロセスへのSEAの統合は、重要なトレードオフ関係の明確化に役立つとともに、直面する複雑な課題を意思決定者に示すものとなった。それは、英国の交通計画の考え方の発展に寄与し、より低規格の道路が開発されているような研究を促進し、当初の高速道路の負荷を軽減するための道路の再審査が最終的に行われることとなった。


   環境アセスメントによって、代替的な交通手段に関連する環境課題の再認識に結びついた。例えば、ある交通手段は再定義されることになり、またある場合には、緩和措置の更なる検討の必要性が明らかになった。


   優良実践の結論は、アセスメントを行うフレームワークの必要性はあるが、地域性に配慮するための柔軟性が考慮されるべきである。また、意志決定プロセスに関連する手掛かりとなる指標に注目しつつ集められた環境情報をすべて抽出することの利点は、意思決定者に複雑な問題を伝える任務を支援する(表 31を参照)。最終的に、意思決定者は、有効な代替案を定義し、そのような決定の意義を評価する過程に携わる必要がある。


表 31 M4 CAF 環境評価表の部門

 

表 32 M4南ウェールズ共通評価枠組要約表

  * 資本費用はさまざまなソースから計算され、いくつかの場合においては、歳入によって差引かれる。
** これらの費用は未帰結であり、別の利益を生じうることが予想される。

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