効果的なSEAと事例分析(平成15年6月)

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第2章 SEAの技術手法

本章では、諸外国で導入されている既存のガイドラインや第3章の事例をもとに、SEAプロセスの各段階での重要事項、過去の経験、教訓を整理した。加えて、各段階で有用な手法やツール、情報についても解説を行った。

2.1情報収集と調査

2.1.1. 必要な情報の選定方法

これまでに、SEAの優良実践の要素や原則関する研究やガイダンスなどが多数作成されている。サドラー(2001)は、「SEAの適切な実践に向けての適用、手続き、手法に関するステップ・バイ・ステップガイダンス」を作成している。このガイダンスにおいては、特に、環境情報の収集の重要性を以下のようにまとめている。先ず、SEAにおいて収集される情報の大まかな内容は、法令や手続きの中で位置付けられるべきである。次に、背景情報の重要な情報源は、環境状況報告書や持続可能性戦略などが含まれる。土地利用計画に関するプランやプログラムでは、環境ストックや重要な自然資源は、ベースラインとして記録されるべきである。主な指標は、世界全体の持続可能性、自然資源管理、地域の環境質の変化を図るものとして活用される。

2.1.2. 既存情報と新規調査情報

現在、SEAは、EIAほど幅広く実際において活用されていない。第3章の各事例を参照すると、大半のSEA事例において、新規にデータや情報を入手するよりは、既存データや情報のみを活用していることが分かる。SEAにおいて、最も重要なのは、意思決定者に対して適切な環境関連情報を、計画策定プロセスの適切な時期に提供することである。例えば、第3章のオランダの大半の事例では、新規データは必要とされなかった。この理由として、オランダでは、高精度でかつ統合型のモニタリングプログラムが、国家レベル、地方レベルで既に存在していることが上げられる。また、2年毎に、国家環境報告書が作成されている。別の理由としては、オランダにおける廃棄物処理容量や技術をモニタリングする機関であるオランダ廃棄物処理委員会がある。これらの既存情報が活用可能なため、オランダにおいては、大半の事例において既存情報のみを活用したSEAが可能である

しかし、必ずしも全てのSEAが既存情報のみで可能なわけではない。例えば、オランダ国家鉱物資源採取計画では、多くの必要とされる情報が利用可能ではなかった。このため、SEAの一部は、調査計画を策定することに充てられた。これにも関わらず、この事例は、SEAが既存情報で実施できることを示す良い例となった(詳細は3.2参照)。別の例では、オランダ西部国家土地利用計画(3.1)があるが、同計画は、適切な手法が利用可能ではないとの理由により、複数案の社会的影響や国際経済への影響は十分に詳細な影響評価が行われていないとの結論が、SEAのレビューにおいて下された。そこで、政府は、将来の計画に対して、これらの情報の欠如の解消を目的とした研究プログラムを開始することを勧告した。

SEAの実施において、新規情報を調査している事例として、例えば、オランダ飲料・工業用水計画(3.5)、エストニアのナッサー島総合計画(3.9)、英国のM4南ウェールズ政策評価フレームワーク(3.13)である。オランダ飲料・工業用水計画は、水生産と自然の価値との関係を定量的に明らかにすることを目的としていた。このため、この関係を明らかにするための新しいモデル開発が必要であった。モデル開発には数年の期間を必要としたが、計画策定後の数年に渡り、有益なものであった。

ナッサー島の事例では、過去50年間に渡り、島は旧ソ連軍の基地として占有されており、その結果、島の多くの地域が深刻に汚染されていた。島に住民はおらず、SEAを実施するために必要な島の環境状況に関する活用可能な情報はほとんど存在していなかった。

別の例は、M4南ウェールズの事例であり、交通量の状況を分析するためにモデルが活用された。この事例では、高速道路の整備における環境状況については、多数の活用可能な情報が存在したが、新しい交通手段に関する情報は十分ではなかった。

2.2 環境目的

環境目的は、計画立案及びSEA適用の初期段階において重要な役割を果たす。これは、戦略的な複数案の立案において尊重されるべき環境目的を、計画立案者に認知させる役割を果たすとともに、SEA実施チームが戦略的な複数案の分析を迅速に実施することを促進するものであるためである。当該分野における環境目的や環境の圧力を十分に吟味して、環境目的は立案されなければならない。環境目的立案のための初めのステップは、当該分野や地域における既存の環境圧力をマップ化することであり、その次に、関連する環境目的やコミットメントを把握する。第3番目のステップは、最も妥当と考えられる目的の選定、すなわち、計画策定の所管官庁及び環境関連の所管官庁、公衆との協議を踏まえて、ショートリストを作成することである。

英国副大臣オフィスでは、2001/42/EC指令の実施に関するガイダンス案を作成している(Levett-Therivel Sustainability Consultants, 2002)。同EU指令においては、SEAの目的や指標の開発を求めていないが、同ガイダンスでは、SEAの目的の立案及びSEA指標の検討の重要性を指摘している。ここでSEA指標とは、環境のベースライン、予測の状況、モニタリング状況を定量化する重要な手段である。SEAの目的や指標は、環境及び持続可能性の効果を図り、表現し、分析し、比較し、モニターする重要な方法である。当該指標は、目的や目標の実現度合いを見る手段として使用される。このため指標は、ベースラインデータの表示やモニターリングにおいて活用可能である。その後、SEAの目的間の矛盾や異なる目的間のバランスを調整する必要がある。

2.3 複数案の立案

SEAプロセスにおいて、複数案の立案は、分野別の政策や計画立案に対して、環境配慮を統合する上で、極めて重要である。複数案の立案の目的は、当該計画の種類に応じて想定され得るオプションの範囲を意思決定者に示すことである。現実性が低い極端なオプションを想定することは、議論の範囲を明確にするのに役立つ。もう一つ重要な点として、複数案は、あくまで議論のための仮定を提示しているものであり、当該計画の最終取りまとめの段階において、更に検討されるべきものという位置付けである。

複数案立案の第一段階のスタートラインは、様々な関係者の異なる見解を比較し、これらの関係者から出される改善に対する意見や提案を個別に聞きだし、個別案を実行するための考え得る手段を議論することである。第二段階は、SEAの目的を満たす基本的戦略の立案である。例えば、英国のM4南ウェールズ政策評価フレームワーク(3.13)は、影響評価のための3つの基本戦略を設定した。すなわち、道路建設戦略、公共交通機関の整備戦略、交通重要管理戦略、である。また英国の南西部地域マルチモーダル研究は、類似のアプローチの例である。

具体的な複数案立案時に際して、考慮すべき疑問点がある。第1に、複数案の範囲であり、第2は、考慮すべき複数案の数、第3は、ノーアクション案の役割、である。第4番目の疑問点は、環境上望ましい最良の案(BPEO)をどのように立案し、抽出するかについてである。

先ず、複数案の立案に当たっては、多様なレベルや範囲の複数案を検討する必要がある。複数案の種類には、“極端な案”と“現実的な案“の2種類がある。どちらの案を利用すべきかについては、当該課題の複雑性や計画目的により決定される。課題の複雑性について、極端な案の活用は、多数のオプションを提示することになり、オプションの範囲を提示する効果がある。他方、現実的な案を想定することにより、検討する案の数自体は限定されるが、意思決定に直接役立つ案の検討が可能となる。

表 10 複数案の活用

第2番目の疑問点である「単一のSEA事例において、幾つの複数案を検討すべきか」に関しては、これまでのSEAの実践の経験から3つから5つの複数案が適当であるといわれている。この理由は、複数案が多くなりすぎるとSEAそのものの実施が困難なる恐れがあり、またSEA実施のためのコストが高くなる懸念があるためである。

第3番目の疑問点である「ノーアクション案」は、ベースラインオプション、ビジネスアズユージャル(BAU)とも称されるものである。戦略的レベルにおいては、BAUが適切な用語であると考えられるが、これは既存のプランや政策をそのまま変更せずに維持することを意味する。大半のSEA事例では、ノーアクション案又はBAUオプションを取り入れている。これは、基本的オプションであるとともに、ベースラインからの乖離を示す役割がある。全てのSEA事例においては、理論的には、BAUは現実的なオプションである。例えば、オランダにおける廃棄物処理施設の容量に関するBAU案は、現実的な案である。しかし、大半の事例において、BAUは最良のオプションでない場合が多い。例えば、第3章で示しているオランダの6つの事例はその例である。これは、当該政策や複数案の再検討が必要とされている場合が多いことによる。例えば、BAUである既存の計画が深刻な環境や社会問題を引き起こしており、また急速な技術や民主化の進展がある場合などが相当する。北オランダ南部地域土地利用戦略計画(3.3)のSEAの事例では、人口増加に伴う宅地の必要性などが一つの例である。このため、BAU案は他の案との比較を行うものとして重要な位置付けとなる。

第4に、「環境上望ましい最良案」は、直面している環境面でのトレードオフや選択の基礎を明らかにするのに役立つ。環境上望ましい最良案において、環境面での課題におけるトレードオフが生じる場合がある。例えば、オランダの幾つかの土地利用計画のSEAにおいて、「自然に対して望ましい最良案」と「人間にとって望ましい最良案」を立案することが可能である。SEAにおいて、これらのトレードオフを議論し、様々な環境の側面から最良と思われる複数案の間の主な相違点を提示することができる。例えば、オランダ国家鉱物資源採取計画(3.2)のSEAでは、オランダにおける砂利採取に関する複数案の環境面における利点と欠点をSEAの結論として示しているのみである。チェコ廃棄物管理計画(3.11)のSEAでは、地域のNGOが作成したグリーン案が活用されている。

2.4 スコーピング

SEAプロセスの初期段階において設定された環境目的の範囲を基準としてSEAで取り扱う環境項目が決定される。環境目的を参照することにより、SEAの全体プロセスの中でSEA自体が目指す方向との一貫性を保つことが可能となる。この段階において、最も重要な点は、次の段階のより詳細なSEAにおいて、検討及び考慮すべき環境要因の範囲を絞り込むための焦点を当てたアプローチを行うことである。

サドラー(2001)は、ステップ・バイ・ステップガイダンスにおいて、EIAのスコーピングの手続きは、SEAの対象の提案に対しても適用可能であると述べている。また、改良版EIAのスコーピング手法は、特定のPPPの環境側面の範囲設定に活用可能であり、またそれらの目的、注目すべき課題及び提案の実行に伴う潜在的影響における矛盾を明らかにすることに活用可能である。移民、金融・貿易に関連する政策提案などのように、環境配慮が一般化され、また間接的である場合、政策審査の方法が活用される。例えば、重要な影響が明白な場合に、実施状況や課題を明らかにするための環境スキャニングなどが行われる。移民プロジェクトは、地域的又は国家的な宅地需要と関係している。

第3章にリストされている事例のいくつかはこの良い例となっている。例えば、SWARMMS事例(3.16)の場合、GOMMMSと呼ばれる政府の作成したガイダンスをもとに主な課題や指標が選定されている。

2.5環境面の予測及び影響の分析

環境影響の評価に関して、ここでは、以下の3つの課題を取り上げる。先ず、SEA自体の詳細さ、次にSEAで活用される手法の種類、最後に、SEAにおける累積的影響と不確実性の取り扱いである。

2.5.1. SEAの詳細さ

先ず、SEA自体がどの程度詳細なものになるのかは、そのPPP自体がどの程度一般的、また詳細なものかに依存する。プランが非常に広範なものであり、詳細な影響の把握が困難である場合、予測可能な因果関係による定性的なシナリオ分析の方が、定量的影響予測よりも有効である。「SEAにおいてどの程度、定性的な情報が必要か」に関しては、出来るだけ少なくというのが望ましいと言われている。例外的な場合にのみ、定量的情報が必要とされる。影響が既に閾値に近い状況である場合や累積的影響が懸念される場合には、定量的影響が特に考慮されるべきであるとの意見もある(Levett-Therivel Sustainability Consultants、2002)。定性的アセスメントに際して、どのような影響評価が行われたかを示す証拠がきちんと用意さている必要があることである。データの制約は明記されるべきであり、全ての設定された仮定は明示され、不確実性は明記される必要がある。

EIAベース型SEAでは、EIAで採用された手法と類似の手法を活用し、また科学的調査や、定量的データやモデルの活用が行われる(Sheate他、2001)。影響の多くは定量的に予測され、またGISやコンピューターシミュレーションモデルのような予測技術を活用した閾値との比較が行われる。これらの予測技術は、廃棄物や交通管理の分野においてEIAからSEAへの適用が拡大したものである。

一方、政策審査型SEAは、専門家の判断や公衆及び専門家による検討を重視しており、より定性的である。

2.5.2. SEAで活用される手法の種類

2番目の疑問点は、「SEAで活用される手法の種類」である。表 11に、SEAの影響評価において活用される手法の例が示されている。これらの中には、確認手法の拡大的な適用、費用便益分析、多基準分析、統合化手法やライフサイクル分析などが含まれる。

表 11 SEAにおいて活用可能なEIAの影響評価手法の例

第3章の事例において、SEAで活用された手法が紹介されている。オランダ西部国家土地利用計画(3.1)は、専門家の判断、GIS、交通モデルや費用便益分析(貨幣換算を含む)が活用された。このSEAでは、影響項目のいくつかは定性的に評価可能であったと、そのSEAの審査において結論された。第2番目の事例は、オランダ国家鉱物資源採取計画(3.2)であり、文献調査、専門家の判断、簡単なライフサイクルアセスメント(LCA)、多基準分析(MCA)及びマッピングが活用された。複数案の比較においては、「貨幣価値への換算」と「目標からの乖離の分析」手法が活用された。第3番目の例は、北オランダ南部地域土地利用戦略計画(3.3)であり、この事例では専門家の判断が主として活用された。交通分野では、騒音遮断・リスクモデルが活用された。その後、土地利用を決定するためにマッピングが行われた。それから、将来予期できない開発行為を、簡単なモデルで取り扱うためにシナリオ分析が採用された。第4番目の事例は、オランダ飲料・工業用水計画(3.5)であり、文献調査、専門家の判断、水路システム学的モデル、自然に対する地下水への影響、消費者への健康リスク、農業の生産ロス、多基準分析、感度分析などにより行われた。第5番目の例は、オランダ国家電力計画(3.6)であり、複数のモデルの組み合わせ(需要シナリオ、騒音影響、リスクアセスメントなど)、専門家の判断、既存文献の知見などが活用された。第6番目として、英国のSWARMMS(3.16)の例では、定量的に評価されている環境項目もあれば、定性的又は専門家の判断を基本としているものもある。例えば、騒音、大気質、温室効果ガスは、交通フローの変化を予測する数値モデルが活用されている。第7番目は、A69 ホールトウィッスルバイパスであり、英国運輸省の作成した環境アセスメントに関する交通マニュアルに則してSEAが行われた。

2.5.3. 累積的影響と不確実性の取り扱い

「SEAにおける累積的影響と不確実性の取り扱い」が3番目の疑問点である。SEAにおいて、当該計画から派生する全てのプロジェクトの全体的影響を見るのであれば、計画に伴う累積的影響を把握していることになる。例えば、オランダ国家電力計画(3.6)では、オランダ全体の全発電所の温室効果ガスや資源使用による影響が推計された。オランダ西部国家土地利用計画(3.1)では、宅地、工業用地や社会資本用として活用されて消失した貴重な土地の面積を把握している。国家レベルにおいて、各種影響の相互作用に関する知識が十分でないため、一般的には、これらの影響を単純に加算することで求められる。

しかし、事例の中で、2つの例外がある。オランダ国家廃棄物処理計画(3.4)のSEAでは、LCAが適用された。LCAにおいては、相乗効果を含む累積的影響の把握が行われた。しかし、LCA自体、累積的影響に関する不確実性を含み、未だに知識のギャップが大きい。もう一つの例は、オランダ飲料・工業用水計画(3.5)のSEAである。この計画では、SEAでは、オランダにおける飲料・工業用水生産に伴う地下水への累積的な影響について、水路学的モデルによって推計が行われた。これらの情報に基づき、地下水レベルの変化に伴う自然資源の価値の累積的な変化を示す特別なモデル(DEMNAT)が構築された。

累積的影響の取り扱いに加えて、「不確実性の取り扱い」はもう一つの重要な疑問点である。第3章の事例の中には、不確実性を取り扱っているものもある。第1の方法は、単に直面している不確実性をリストし、これらの不確実性が意思決定において、何を意味するのかを議論する。第2は、各種条件が異なる場合や、特定の影響に対する重みが異なる場合、複数案の比較結果がどのように変わるかを感度分析によって明らかにするものである。例えば、オランダ国家廃棄物処理計画(3.4)、飲料・工業用水計画(3.5)、電力計画(3.6)などが相当する。第3番目の方法は、予測できない事象に対して、どのモデルが最も適切で、柔軟性があるのかを明らかにするためのシナリオ分析を行うものである。これは、例えば、北オランダ南部地域土地利用戦略計画(3.3)のSEAで活用されている。将来に対する複数のシナリオが検討され、新しい状況に対して、これらのモデルをどのようにして、容易に適用可能かにするのかの検討が行われた。オランダの事例に加えて、英国のM4南ウェールズ(3.13)の例では、不確実性や累積的影響は、重要な環境資源が深刻な状況にある場合や、緩和措置の範囲に関して不確実性がある場合、予防原則が適用された。候補地選定おける不確実性は、プロジェクト開発の過程で環境影響が回避可能かどうかという問題を引き起こした。このため、3段階の判断基準、すなわち“高い”、“中程度”、“低い”という3段階の基準で判断された。

累積的影響に関して、3つの一般的な結論がある。第1に、スケールが重要である。第2に、既存の大半のSEAにおいて、一般的に予見される影響を単純に統合しているのみである。第3に、土地利用計画以外の大半のSEAでは、当該計画とその他のプランの相乗効果を考慮する適切な方法がない。しかし、最も重要なのは、影響を取り扱う時間フレームに応じて、不確実性がより高まる恐れがあることである。

2.6緩和措置

3段階の階層構造的アプローチ、すなわち、予防、削減、負の影響の緩和が広く活用されるようになってきており、問題の重要性や特殊性を考慮し、適切な措置や行動が採用される。情報が不完全であるが、大規模又は深刻又は不可逆な環境の変化に対するリスクや可能性が懸念される場合に、予防的アプローチが採用される。深刻な影響が懸念されていない状況では、活用可能な手法により「合理的に実践可能な最低レベル(ALARP)」に影響を最小化することが可能と考えるのが合理的である(Sadler,2001)。

政策とプランレベルの緩和措置の違いに関しては、政策やプランの中での戦略的意思決定の種類、すなわち具体性と抽象度に関係する。前者の例は、オランダ国家電力計画(3.6)が相当し、この中で発電用燃料の消費や発電技術に関する具体的な決定が行われた。この事例では、緩和措置も同様に具体的なものであり、例えば、低硫黄石炭や熱再利用の拡大などが含まれる。北オランダ南部地域土地利用戦略計画(3.3)の場合では、このように具体的に決定することは困難である。なぜなら、当該プランでは、立地選定に重きが置かれ、立地場所における建築物の設置場所の検討を行うものでは無かったためである。この事例では、緩和措置は、例えば、環境面で最良のスコアの立地を活用するなどのような、より抽象的なものとなる。

どのような種類の緩和措置がSEAで取り扱われるべきか、という点に関しては、2種類の措置がある。先ず、当該プランの実施に伴い生じる恐れがある影響を別の場所でオフセットする措置である。例えば、道路の開通により、重要な湿地に影響が及ぶ可能性がある場合には、別の場所に新たな湿地をつくることなどにより解決が図られる。2つ目の緩和措置は、組織上・制度上の事項に関連する措置である。SEAの勧告に適用するために、組織上・制度上の事項を改善する必要がある。組織上、制度上の事項を改善することにより、当該プラン・プログラムをより効果的にするとともに、効果的なモニタリングが可能となる。

2.7比較評価・報告

2.7.1. 複数案の比較評価

複数案の比較評価の方法として、6つの手法が存在する。第1に、複数案を定量的に評価する方法である。すなわち、全ての指標に対して定量的なスコアを付け、誰もがその結果を見られるようにするものである。第2に、全ての指標に対して、1が最良、5が最低のスコアを割り振るものである。第3に、各指標の最良・最低の状況を示したマトリックスを作成する。第4は、経済学的な費用便益分析である。第5に、特定地域に対するPPPに伴う影響を視覚化してマッピングする。最後に、コンピューターモデルを活用して、複数案の最終的な結果を予測する方法である。

オランダ西部土地利用計画(3.1)は、この良い事例であり、意思決定者や公衆に十分な情報を提供しており、定量的手法及びランク付けの手法が活用されている。オランダ国家廃棄物処理計画(3.4)やオランダ国家鉱物資源採取計画(3.2)は、複数案の比較の観点から参考となる事例である。英国のA69 ホールトウィッスルバイパス(3.14)とM6 ジャンクション拡張プロジェクト(3.15)は代替案比較の別の例である。チェコの廃棄物管理計画(3.11)とチェコ・プレセン地域廃棄物管理計画(3.12)では、潜在的環境影響に関するマトリックスによる比較分析が行われている。

2.7.2. 重み付け

複数案の特定影響の重み付けは、常に政治家が決定することである。このため、“科学的に正しい重み付け法“というのは存在しない。重要なのは、プランや政策に参加する全ての利害関係者が影響の重み付けに対する発言権を有するべきであることである。SEAやEIAにおいては、しばしば、専門家の判断による重み付けが行われる場合があるが、これは、政治家、社会の代表者、NGOなどによって行われるべきである。これらの主体の参加プロセスにおいて、SEA報告書の作成に当たり、専門家による議論の誘導や調整が行われることになる。また、専門家は、重み付けの案をSEA報告書の中で提示し、これに対して公衆関与のもとでの議論を行うこともある。すなわち、利害関係者との議論を通じて、チェックが行われる。こうして、適切な重み付けにより、社会の様々な見解を反映することが可能となる。

2.7.3. 報告

環境報告書は、SEAプロセスの主要な成果であり、全てのプロセスと結果が文書化される必要がある。また公衆にオープンに提示されなければならない。環境報告書案には、SEAプロセス、得られた知見や結果の要約、例えば、主な影響、望ましい複数案、緩和措置及び直面している課題などが含まれる。影響表示・トレードオフマトリックスの活用により、意思決定に焦点を当てるのに役立つ。英国のSWARMMS事例(3.16)では、GOMMMSというガイダンスに基づき、SEAの結果を取りまとめるものとされている。

Levett-Therivel Sustainability Consultants (2002)では、環境報告書に構造を以下のように提示している。

表 12 環境報告書の構造

資料:Levett-Therivel Sustainability Consultants (2002)

2.8 意思決定への反映

SEAは意思決定に影響を及ぼすことが可能か?答えは“YES”といってよいであろう。これに関して、2つの一般的な見解がある。先ず、SEAの結果に関する情報が意思決定者に正確に、SEAの要求通りに作成され、かつ伝えられたかどうかである。この条件が満たされている場合、SEAは計画策定プロセスに統合されていると言える。しかし、SEAが良いとか悪いとかを判断するのは困難である。なぜなら、SEAは計画策定プロセスと別個のものではなく、他の要因と切り離して、SEAの貢献度合いを判断することは出来ないからである。

第2番目の点は、 SEAから得られた情報は、最終的な意思決定に影響を及ぼしたかどうかという点である。SEAの結果を反映して、環境配慮が計画に反映されたと認識できれば、SEAは最終的意思決定に影響を及ぼしたといえるであろう。しかし、政治家の発言からそれを証明することは困難である。状況証拠によって、SEAが最終的な意思決定に取り入れられたことが分かることのみ可能である。第3章の事例、例えば、中東欧の事例としてナッサー島総合計画(3.9)、チェコ共和国のピスク-ストラコニスの地域土地利用計画(3.10)、スロバキアのエネルギー計画(3.8)、英国の事例であるSWARMMS(3.16)、またオランダ西部土地利用計画(3.1)、オランダ廃棄物処理計画(3.4)、北オランダ南部土地利用戦略計画(3.3)、オランダ国家電力計画(3.6)などが関連する事例である。例えば、SWARMMSの場合、SEAは意思決定に重要な役割を果たしたと言える。しかし、政治家は、「SEA報告書」という表現は決して使用せず、単に「ある報告書」としてSEA報告書を参照するのみである。

それら全ての事例において、SEAの結果がどのように意思決定に影響を及ぼしたかを確認することは困難である。EUのSEA指令やオランダのEIA制度などのように、幾つかの既存制度においては、意思決定者に対して、彼らが意思決定を行った理由を説明する義務を課している。 

最終決定に対してSEAをより有効に役立てるために、計画策定プロセスの初期段階にSEAを適用することが特に重要である。しかし、この場合、SEAの効果を証明することは困難であるが、SEAは最終成果に対して極めて重要な役割を果たす。

2.9 モニタリング

モニタリングは、選定された代替案の実施状況やその環境への影響を最も詳細に示す要素に焦点を当てる必要がある。戦略的レベルのモニタリングの実施については、3つの重要なポイントがある。第1に、プランやプログラムのレベルである。プランレベルのモニタリングは、プロジェクトの実施に伴う影響の現状と予測を比較するというプロジェクトレベルのモニタリングと全く異なるものである。高次の戦略的レベルの計画は、計画客の実施や環境のベースラインの変化に関する実施状況をチェックすることによるモニタリングは困難である。例えば、オランダ西部国家土地利用計画(3.1)は、高次の戦略的レベルの計画であり、チェックすべき具体的な行動や活動が計画を通じては行われないため、モニタリングは行われないこととされた。しかし、モニタリングは、当該計画の下位計画に適用されるべきものである。計画のレベルやモニタリングの手法に応じて、モニタリングのための適切な手法を決める必要がある。

第2番目は、何をモニターすべきか、という点である。これについては、計画及び付随する措置、SEAの勧告の実施、計画の実施に伴う環境影響という3つのモニタリングの対象がある。

      [1] 計画と付随する措置のモニタリングについて、戦略的レベルのモニタリングにおいては3つの重要な点がある。先ず、計画の目的の達成状況がチェックできる。次に、計画に基づく措置が適切に実施されたかどうかをチェックすることである。最後に、計画の改善や新規計画の立案の必要性をモニターすることである。解決すべき社会問題があるために行われることが多いからである。仮に、当該社会問題が改善しつつあるのであれば、計画は社会問題の改善に役立っていることになる。もし、そうでないなら、その計画は状況を悪化させる要因である可能性もある。しかし、戦略的レベルの計画では、計画による成果の実現は、数年又はそれ以上先になり、その他の要因の変化の速度の方が早いことにより、モニタリングの実施は困難になりがちである。むしろ、このようなモニタリングの問題を取り扱うために、当該計画の時間に制限を持たせることが行われる。例えば、計画立案の数年後に、新しい計画やSEAが行われる。これはSEAスケジュールが計画サイクルに統合されていることになる。オランダ国家廃棄物処理計画(3.4)の事例では、2002年SEAのモニタリングにおいて、2006年に実施予定の次のSEAが予定されている。

      [2] SEAの勧告の実施状況をチェックすることは、より簡便な方法と言える。

      [3] 環境に対する影響のモニタリングについて、環境目的の達成状況のチェックの一つの方法は、環境目的に即した指標を活用することである。例えば、排出物の発生量、自然資源の使用量などの直接的影響、生産、消費、意思決定、累積的影響の傾向を調べることによりモニター可能な間接的な影響、などの環境への影響の双方を取り扱う必要がある。
第3番目は、モニタリングに関する手段とデータである。先ず、既存のモニタリングメカニズムが十分か否か、また新規収集するデータが必要かどうかを検討する必要がある。加えて、モニタリングに関連する技術開発の要素も考慮しておく必要がある。 

2.10 第三者の関与

2.10.1. 利害関係者の範囲

EIAにおける利害関係者は、公衆、所管官庁、その他官庁、地方政府、NGO、政治家などが含まれ、利害関係者の範囲は極めて広い。しかし、プランや政策の大半においては、全ての利害関係者を積極的に参加させることは不可能である。一般的に、プロジェクト段階に比べて、プラン、プログラム・政策の立案過程においては、公衆はそれほど積極的に参加しようとしない傾向がある。戦略的な課題は、定義としては、抽象的で、また長期にわたるものであり、人々の関心が集まるような影響はあまり明確でなく、また直接的ではない。一方で、プロジェクトの場合、地域的な影響があるために異なる関心を集めることになる。また、プランや政策はより抽象的であり、例えば長期的な目標や目的を有するため、公衆への影響は、間接的にのみ関連し、公衆が参加する関心を喚起しにくい。それゆえに、SEAでは、多くの場合、公衆の参加は行われず、むしろ、地域的及び地方の権威機関(首長を含む)、コミュニティーグループ、NGOのような利害関係者の代表の参加のもとに行われる。

2.10.2. 公衆参加をどのように行うか

地域及び地方の権威機関、コミュニティーグループ、NGOなどの利害関係者の代表者に対して、積極的な公衆参加の方法が用いられる。例えば、公聴会を開くよりは、計画立案の様々な段階におけるワークショップ、小規模グループ会議、円卓会議を行う。消極的な方法は、公衆に対して、例えば、意見募集に関する告知やインターネットのウエッブサイトの設置などである。まとめると、抽象的な政策やプランなどでは、以下の手法が効果的である。

  地域や地方の権威機関、コミュニティーグループ、NGOへのダイレクトメール

  それらの代表者に対して、計画立案の様々な段階におけるワークショップ、小規模グループ会議を設置する。例えば、問題の定義付け、代替案の開発、影響評価、代替案の比較、SEA報告書の質の評価などである。

  ウエッブサイトの構築、マスメディアを通じた十分な周知を行った上での公衆からの意見募集

SEAに適用される公衆参加手法は、第3章の事例に紹介されており、例えば、オランダ西部国家土地利用計画(3.1)やオランダ国家廃棄物処理計画(3.4)、英国のSWARMMS(3.16)、中東欧のナッサー島総合計画(3.9)やチェコのエネルギー政策(3.7)、スロバキアのエネルギー政策(3.8)などがある。SWARMMSの事例では、SEAの実施の過程で、公衆参加の多くの機会が設けられた。例えば、ニュースレター、アンケート、展示会、地方の権威機関とのテーマ別の会議や討論会などである。

 2.10.3. 公衆関与の利点

公衆関与の過程を通じて、当該計画に対する課題に関する情報や関心を利害関係者と共有することが可能である。また、容易には入手しがたい“地域に関する知識”などの情報や見解を公衆から入手することが可能であるとともに、提案されたPPPの結果として誰が利益を得て、誰が利益を失うか、を明確にすることが可能となる。それから、意見が一致している部分と対立している部分を明らかにすることができる。これにより、SEA報告書の結果は利害関係者の意向を反映するものである。これにより、SEAプロセスを透明性の高いものとし、最終的なSEAを公衆が受け入れられやすいものとする。

公衆参加の上手く行った例とは何か、という疑問点に対する答えは、主要な利害関係者が公衆参加のプロセスをどのように評価し、また彼らの意向やコメントがどの程度SEAに反映されたかどうかに依存する。例えば、SWARMMS(3.16)、ナッサー島総合計画(3.9)の事例、スロバキア、チェコのエネルギー計画(3.7、3.8)などが良い事例である。

2.11参考文献

Levett-Therivel Sustainability Consultants (2002), Draft Guidance on the Strategic Environmental Assessment Directives: Proposals for practical guidance on applying Directive 2001/42/EC “ on the assessment of the effects of certain plans and programmes on the environment” to land use and spatial plans in England. the Office of the Deputy Prime Minister.

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