効果的なSEAと事例分析(平成15年6月)

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第1章  効果的で効率的なSEAシステム

1.1SEAシステムの導入

1.1.1 SEAの定義

   現在、戦略的環境アセスメント(SEA)は、環境配慮を意思決定プロセスに統合するツールとして、多くの国々において広く受け入れられている。 これは、一般的に、提案された政策・プラン・プログラム(PPPs)の環境影響評価のプロセスとして理解されている。また、SEAは、環境と持続可能な発展の視点から、適切な意思決定の実施をサポートするための手法と見なされるべきである。多くの国々や国際機関、例えば、オランダ、EU、世界銀行などにおいて、SEAシステムの導入が進みつつある。世界におけるSEAの理解は非常に多様であり、範囲、統合化の程度、期間、政策・プラン・プログラムへの関連の程度によって異なる(Sadler and Verheem,1996)。SEAには、全事例に適用可能な単一のアプローチは存在せず、国際的に認知されたSEAの定義は存在しない。より重要なのは、戦略的なレベルにおける意思決定は、国家と地域レベル、政策とプラン/プログラムレベル、先進国と途上国、公衆参加の習慣を有する国とそうでない国、などによって非常に異なることである。SEAは、政策 、プラン 、プログラム (PPPs)の個々の状況の違いを反映して構築されるものである。表1では、文献におけるSEAの定義や解釈を示した。

表 1 SEAの概念の定義と解釈

   これらの定義を参照すると、以下のようなSEAの共通的要素が得られる。


1.政府が現在又は将来的に行う一連の行動や提案された方向全般であり、意思決定の方向性を導くもの。(Sadler and Verheem,1996)
2.政策の検討や実施に関する意図的で、将来志向型戦略やデザインであり、優先順位の付与、オプション、手法の調整が行われる場合が多い。(Sadler and Verheem,1996)
3.政策の検討や実施する一貫性のある組織化された行動、又は期間が定められた目標、提案された手段や活動。(Sadler and Verheem,1996)

   ・ SEAは政策、プラン、プログラムレベルに適用される。 
   ・ SEAは戦略的レベルの意思プロセスにおいて重要な情報を提供する。
   ・ SEAは環境への配慮と同様に持続可能性の原則を考慮する重要性を強調する。
   ・ SEAは環境、社会、経済の配慮を戦略的意思決定に統合する必要性を提供する。

1.1.2 SEAの歴史的発展と現状

   Sadler(2001)は、表 2にEIAの発展の重要な一部としてのSEAの歴史的発展と3つの発展段階を整理している。先ず、米国の環境政策法(NEPA、1969)が世界初のSEAと考えられる。同法第102条の手続きにおいて、環境に重大な影響を及ぼす法律やその他の政府活動の提案に対するアセスメントを位置づけている。これにより、法律や政策に対して、SEAの実施や導入が行われることになった。米国以外では、1970年から1989年の発展期におけるSEAの役割と範囲は、限定されており、また特定のいくつかの国に限定されている。例えば、カナダ、オランダ、オーストラリアなどである。

   次の段階は、1990年から2000年の形成期である。この期間では、多くの国々でSEAシステムが導入され、多様化した。ある国々は、既存のEIA法とは別個のPPPsに関するSEAを導入した。例えば、カナダ、デンマークである。また、政策やプランに対する環境政策審査の形態をとった英国などである。別の国々では、既存のEIA制度を改良したり(チェコ共和国、スロバキアなど)、資源管理や生物多様性保全の仕組みとの連携によりSEAを取り扱っている(ニュージーランド、オーストラリアなど)。

   最後の段階は、2001年から現在までの拡大期であり、国際的な法政策の発展にともなう幅広い導入や統合の段階である。この段階を促進する重要な要因として、SEAに関するEU指令や越境EIAに関するUNECE条約のSEA議定書が挙げられる。

表 2 SEAの法制度的発展

   表3の国々や国際機関は、PPPに対する正式な規定を既に導入している。適用範囲に関しては、SEAのカバー範囲を包括的に提示している国はない。すなわち、全てのレベルの戦略的活動が対象となっている。現在のSEAは、政策よりもプラン、プログラムに焦点を当てている。

表 3 SEAの制度的フレームワークの例

1.1.3 SEAに関するEU指令

   SEAに関するEU指令は枠組み法であるが、欧州諸国にSEAの導入を加速度的に促進するための重要なステップである。また、同指令は、一般的な要素や手続き的事項を定めるものであり、国際法としてEU域内諸国に導入が求められている。EU加盟の15カ国及び10の加盟申請国は、同法を2004年5月までに自国の国内法として導入することがもとめられている。

   EU指令は、プランとプログラムに適用され、政策には適用されない。同指令の策定に関する議論の過程では、SEAを政策に適用すべきかどうかが大きな議論の焦点となった。SEAに関するEU指令は、EIAに関するEU指令を参考に作成された。手続面で類似の仕組みを有するとともに、EIAで活用された手法やツール、アプローチの多くがプランやプログラムに対するSEAにも適用される。EUのSEA指令の主な手続き的要求事項は、環境報告書に記載すべき情報や、公衆参加や公衆からの意見に対する規定に関連するものである。また、意思決定者に対して、環境情報やコメントを考慮することをも求めている。

1.1.4 持続可能な開発に関する地球サミット

   2002年9月に開催された持続可能な開発に関するヨハネスブルク地球サミットは、ヨハネスブルク実行計画を採択した。その中で、環境と開発の意思決定に対して統合化されたアプローチの実施を勧告している。SEAは明示的には述べられていないが、実行計画ではこれまで以上の積極的な取組の実施を全ての国々に求めており、このようなセクター横断的アプローチを効果的に行うための重要なツールとしてSEAが位置づけられていると考えられる。

1.1.5 SEAの対象分野

   SEAの対象は、広い範囲のPPPsが含まれる。例えば、特定のセクターに関する政策、プラン、プログラム、空間や土地利用計画、地域開発計画、自然資源管理戦略、法令案、投資融資活動、国際援助や国際協力、構造調整基金、マクロ経済政策、予算・財政計画などが含まれる(UNEP,2002)。特に、環境への影響が大きいと考えられる特定のセクター、例えば、交通や工業開発、土地利用計画や地域開発計画、自然資源管理戦略で提案された活動に対するSEAが重要と考えられている。しかし、SEAの対象分野の範囲は、各SEAシステムによって大きく異なる。

1.1.6 SEAの制度的アレンジ

  
各国や国際機関のSEAフレームワークをもとに、UNEPマニュアル(2002)では、表 4のような5種類のSEAを提示している。EIAベース型SEAは、EIA法や関連する手続きに基づき実施されるSEAであり、例えば、オランダ、カナダで行われている。環境審査型SEAは、政策、プランの審査手続きの一部として位置づけられるSEAであり、相対的に、フォーマル性は低い制度である。その他は、並列型、政策と計画の統合型、持続可能性審査型などがある。

表 4 SEAの制度的アレンジの特徴

1.1.7 SEAの基本的要素

   現在までに、多くの国々においてSEAが実際に適用されてきた。オランダのE-テストのような最低限のアプローチを除き、多くの場合、SEAに使用される手続きや手法は、EIAと類似のものが活用される。EIAベース型SEAの手続きは、プロジェクトレベルと比較すると、潜在的影響に関する不確実性を考慮にいれた仕組みに改良する必要がある。EIAベース型又は審査型SEAプロセスは、一部で重複しており共通の手続き的要素を含む。例えば、両プロセスとも、スコーピング、複数案の検討、環境影響の緩和措置などが含まれている。一方で、異なる部分もあり、例えば、EIAベース型SEAでは公衆関与や情報提供が明示的に位置づけられているが、環境審査型SEAではトレードオフや制約を明確にすることが強調されている(UNEP,2002)。  表 5では、SEAの様々な種類に必要とされる手続きを比較した。

表 5 異なる種類のSEAの手続き比較

   ECの「SEAと戦略的意思決定への環境の統合に関する報告書」(Sheate, et al,2001)では、SEAの要素及び手続的要求事項を提示している。それらは、複数案の選定を含むスコーピング;環境への重要な影響の特定、分析、影響評価を含む環境報告/レポートの作成;所管官庁、公衆、NGOなどの参加や協議;プランやプログラムの採用前や準備の過程で環境報告/レポートや協議の結果を考慮すること;環境報告/レポートや協議の要約;モニタリングなどを含む。

1.1.8 将来の方向性

   SEAが意思決定にどのように統合されるべきかに関する提言は、Sheate, et al(2001)に記載されている。この提言では、包括的研究及び事例研究にもとづき以下の5つの課題に焦点をあてている。

・   最も戦略的レベルの意思決定へのSEAの適用
・   統合化の効率性の推進
・   公衆及び利害関係者の参加
・   SEA及び持続可能性審査
・   SEAの実施
・   ガイダンスとトレーニング

   現在の傾向は、次世代のプロセスである持続可能性審査や影響評価、すなわち、どのように環境や社会、経済のインパクトを統合化プロセスの一部として取り入れるか、という方向に向かいつつある。これは持続可能性審査とも呼ばれる。これは、提案されたPPPやプロジェクトが環境、社会、経済の側面から持続可能であるかどうかを見るものである。UNEP(2002)では、PPPの提案を持続可能性の観点から影響評価するツールとして、SEAが活用できるものとして、その将来方向をまとめている。PPPの環境影響を最小化するというよりはむしろ、開発提案の持続可能性を審査する手段としてSEAを活用するという議論が高まりつつある。持続可能性を実現する手段としてのSEAの将来方向は、以下の2点にまとめられる。第1に、SEAは、PPP立案における環境面からの持続可能性を確実にすること、PPPの策定や提案された活動が持続可能性を実現するための重要な手法と一致しているかの確認、安全の確保、を行うプロセスとして位置付けている。第2に、持続可能性審査への発展やPPP提案の環境、経済、社会効果の統合アセスメントの実現に向けて、SEAを途中段階や移行プロセスとして位置づけるものである。

1.2 SEAと計画プロセス

1.2.1 SEAのアプローチ 

  
プランは単一の種類ではない。例えば、あるものはより政策に近いプランであり、また別のプランは一連のプロジェクトや土地利用変化に焦点を当てている。それ故に、適用されるSEAは個々のプランの種類を反映したものにすべきである。政策と異なり、プロジェクトに関連するプランは影響評価手法によって取り扱われるべきであり、一方で政策に焦点をあてたものは審査ベース型、目的主導型アプローチによって取り扱われるべきである。これは、明らかに、複数案の選定段階においても重要な点である。プロジェクト指向型プランの複数案は、自由度の範囲が広い政策に関する複数案の立案よりも狭い範囲の複数案が必要となる。

   提案されたPPPsの特徴をもとに、実際的なSEAは3つの基本的なアプローチが適用される。

● 影響評価型アプローチ
● 目的指向審査型
● アドホックアプローチ

影響評価型アプローチ

   影響評価型アプローチは、PPPsの実行に伴い予想される重要な環境影響の特定、予測、評価の実施に焦点を当てる。このアプローチは、プロジェクトレベルのEIA手続きと評価技術を発展させたものであり、以下の手順を踏む。 


4.例えば参照「 the EC/DG-TREN Study on Strategic Environmental Assessment of Transport Infrastructure Plans at
 http://www.europa.eu.int/comm/transport/themes/network/english/bground_doc/index_en.html

目的指向型審査

   目的指向型審査は、特定のセクターや地域における当該環境や健康(持続可能性)目的とPPPが一致するように評価することが可能となる。このアプローチは、政策分析、戦略的計画プロセスにおいて適用された分析技術によって行われる 。目的指向型審査は、PPP立案の初期段階から行われ、以下のような手続きに従う。

   目的指向型審査は、戦略的な複数案の形成に対する初期段階でのインプットを提供するものであり、SEAチームと計画策定チームとの積極的な協力を促進するものである。このアプローチは、特定のセクターや地域に、分に検討された環境・健康(持続可能性)目的が存在する場合にのみ適用可能である。全ての国に適用可能なものではない。このアプローチでは、PPPの初期的な複数案の一般的な評価のみが可能であり、詳細なPPPの複数案に関する詳細な影響評価によって補完される必要がある。


5.例えば「 the EC Working Paper for The Ex-Ante Evaluation of the Structural Funds Interventions,
 http://www.europa.eu.int/comm/regional_policy/sources/docoffic/working/sf2000b_en.htm」を参照

優良実践SEAに対する提言

   優良実践SEAは、両方のアプローチの組み合わせやそれぞれの強みを生かす必要がある。目的志向型審査では、PPP立案の初期段階に適用される。これは、PPPの主要な環境目的の早期段階における明確化に資するものであり、PPPで想定される複数案の早期段階でのレビューに役立つ。目的志向型審査は、またSEAと計画策定との初期段階からの関係を形成するものであり、効果的なSEAシステムの重要な要素となる。

   影響評価は、提案されたPPPの主な活動が明確になる段階で適用されるものである。この影響評価は、各代替案に対する想定される主な潜在的環境・健康影響の定量的・定性的な厳格な分析によってレビューされる。

1.2.2 意思決定に関するSEAの影響を決定する重要な要因

  
意思決定に対するSEAの影響を決定する重要な要因は、統合化、ティアリング、タイミング、政策的意思、情報の活用などである。統合化とは、SEAと提案PPPとの明確な関係を確立するものである(フィンランド環境交通通信省、2001)。

   先ず、理想的な場合、アセスメントは、計画の準備プロセスに統合されることが望ましい。また、SEAとPPPのチームが積極的にお互いのプロセスに関与すること、又は十分な情報交換を通じて、プラン・プログラムの策定とアセスメントの実施の密接な関係を構築することが重要である。十分に統合されていない場合では、ミスマッチやそれほど重要でない研究に対して時間やコストの浪費を行うことになりかねない。

   第2に、ティアリングは、戦略的レベルと具体的なプロジェクトレベル、又はその逆の、関連性を強化するものである。政策、プラン、プログラム案が、続いて行われるEIAの対象となるプロジェクトや活動の内容や枠組みを規定するものである場合に、ティアリングは最も簡便かつ効果的な方法である。この場合、SEA報告書は、EIAの重要な課題を事前に特定し、スクリーニングやスコーピングの実施をサポートし、それにより一連の流れを有する焦点を当てたプロセスが可能となる。ボックス1は、ティアリングのポイントを要約した。PPPのSEAとプロジェクトレベルEIAをどのように関連付けるかは極めて重要である。異なるレベル間アセスメントの統合が不十分な場合は、アセスメントのもたらす利益を大きく損なう可能性がある。

ボックス1 ティアリングの重要なポイント

   タイミングに関して、SEAとプラン・プログラムの策定は、同時に行われるべきである。2つのプロセスのタイミングは、環境配慮を意思決定に統合するという視点から効果的な結果を導く上で、重要な要素である。仮に、SEAがPPPの重要な決定が行われた後に実施された場合、プラン・プログラムにSEAの結果を取り入れることは困難である。

   第4番目に、SEAを実施するという政治的意思は、極めて重要である。PPPのSEAを担当官庁が実施したがらない場合、政治的圧力は、当該PPPに対するSEAの実施を促進する可能性がある。SEAに関する法律は、長期的には、SEAの実施に関する政治的意思の形成に役立つ。政治家との適切なコミュニケーションは、SEAの認知を高める。SEAが公衆の意見や見解を反映する有用なツールであると、政治家に認識されることが重要である。

   加えて、政治家の直接的な利益が何かを彼らが理解するという政治的意思が極めて重要である。特に:

1.3効果的なSEAに関する情報

1.3.1 SEAの利点

   UNEP(2002)は、SEAのメリットをまとめている。これによると、SEAの必要性は、プロジェクトレベルEIAのみでは十分でなく、プロジェクトレベルEIAの対象となるPPP提案や決定は少ないためである。また、プロジェクトEIAは、複数案の選定や提案の報告が決定された後の段階、すなわち意思決定プロセスの後段で行われるためである。これが、SEAが意思決定の上流で実施される理由となっている。

   SEAを実施する主な目的とねらいは、3つにまとめられる。すなわち、情報が提供され、また統合化された意思決定のサポート、環境面で持続可能な発展への貢献、プロジェクトEIAの強化、である。情報提供され統合化された意思決定は、提案された行動に伴う環境影響の特定、複数案への配慮、適切な緩和措置の特定に役立つ。環境面で持続可能な発展への貢献は、発生源における環境影響の予測と予防、累積的影響や世界的なリスクの早期の警告、持続可能な発展の原則に基づく安全装置の設置によって達成される。最後に、プロジェクトEIAの強化、潜在的な影響の範囲や必要な情報を事前に特定すること、戦略的課題を取り扱い、提案の正当性を考慮し、個々の評価を行う際の時間と努力を削減することによって実現される。

   SEAを実施する利点はいくつかある。第1に、SEAは開発省庁によって行われるPPPsに伴う環境へのダメージを影響評価し、予防する能動的なツールである。大規模なスケールの影響や累積的影響に関して早期段階の警告を行うことは、意思決定プロセスへのSEAの大きな貢献である。例えば、土地利用計画のSEAでは、提案された開発に関連する生物多様性の損失を考慮にいれることが可能であり、または道路建設プログラムでは、CO2排出に関連する気候変動問題を考慮することができる。

   第2に、SEAは、高いレベルの意思決定プロセスに環境配慮を統合するための、EIAより能動的なアプローチである。時として、SEAはプロジェクトEIAと比較して、範囲が広く、あまり詳細でない影響評価が行われる場合がある。表 6は、プロジェクトEIAとSEAの特徴の比較を示した。 

表 6 プロジェクトEIAとSEAの特徴の比較

1.3.2 SEAの成功事例

   SEAを実施する利点に関するSEAの成功事例について、オランダの事例を参考に以下に詳述した。これらの事例は第3章に詳述した。

   第1に、オランダ西部国家土地利用計画のSEAでは、計画策定プロセスの初期段階において、政府により提案された2つのモデルに関して、適切な複数案が提示された。これには、新住宅プロジェクトの実現に関する複数案の立地をも示している。SEAの一部として行われた費用便益分析により、費用便益効果を確実にするために、当該地域において新しい交通システムのデザインの必要性が示された。

   第2に、北部オランダ南部土地利用計画のSEAでは、検討された4つの複数案の底流にある原則を組み合わせて、最良のスコアの案が導かれた。また、この組み合わせモデルは、環境面から見た最良案との比較でどのようにスコアが設定され、また組み合わせモデルの環境及び社会面のパフォーマンスがどのように改良されかを示した。

   第3に、2002年国家廃棄物処理計画のSEAでは、具体的な廃棄物処理設備に対するプロジェクトEIAの実施をより簡単にするものである。これらのEIAでは、設備の環境パフォーマンスが、SEAで評価されたように、最低基準のスコアと同等か又はそれより良いことを示せば十分である。EIAでは、SEAで活用された同じ手法が活用された。更に、多くの設備に対して、当該アセスメントは、SEAにおいて既に実施されていた。SEAの成功点は、計画策定プロセスの一部として非常に多くの公衆参加の機会を設けたため、最終的な廃棄物処理計画は広く受け入れられた。

   第4番目は、国家飲料水・工業用水供給計画のSEAであり、プロジェクトレベルEIAにおいても利用可能な新しい手法をSEAにおいて開発した事例である。これにより、プロジェクトレベルEIAの負荷が大幅に軽減された。飲料水生産技術に関する複数案の環境パフォーマンスの比較によっても同じ結論が導かれる。プロジェクトレベルEIAでは、提案された技術のスコアについて、SEAの結果との比較をどのように行ったかを示すのみで十分である。

   第5番目は、国家電力計画であり、多くの環境NGOによって支持された複数案の全般的な環境面でのメリットを示している。すなわち、石炭燃料発電所のかわりにガス燃焼発電所の活用を増やすというものである。SEAは、高需要と低需要の2つのシナリオにおける全発電の累積的影響を示している。この成果をもとに、新しい発電所は、ガス燃焼発電所とすることが決定された。

1.3.3 計画策定者にとっての利点

   MER(1999)の報告書によると、SEAはEIAの時間とコストを節約する効果があるとしている。プロジェクトEIAの実行の時間を節約することはSEAを実施することで期待できることはたやすく理解できる。しかし、コストの節約は効果を証明するのはそう簡単ではない。Land Use Consultants(1996)は、コストは、本当の意味での利点であるが、計測するのは困難であるとしている。また、SEA実施の利点として以下のような点が指摘されている。
l SEAは、プロジェクトEIAの重要なリソースである。SEAは決してプロジェクトEIAにとって代わるものではなく、プロジェクトEIAの中での労力とリソースを減らすものである(Therivel and Partidario,1996)。

   l 多くの事例においてインタビュー調査の結果、SEAは進捗の遅れを避けるという効果があると報告されている(Land Use Consultants,1996)
l これらに加えて、利害関係者に対して、SEAの実施により、当該プランやプログラムを理解しやすいものとする可能性がある。

1.3.4 良い品質のSEAのクライテリア

   2001年のIAIA(国際影響評価学会)の理事会では、SEAのパフォーマンスクライテリアを採択した(表7)。良い品質のSEAプロセスとは、計画策定者、意思決定者、戦略的決定の持続可能性に関して影響を受ける公衆に情報を提供するものであり、最良の複数案を選択する手段を提供し、民主的な意思決定プロセスを確保するものである。これは、決定事項の信頼性を強化し、時間効率、コスト効率の最も高いプロジェクトレベルのEIAを実現する。良い品質のSEAプロセスは、統合化され、持続可能性型で、焦点を当てられたものであり、説明責任のある、参加型、反復型のものである。

表 7 良い品質のSEAプロセスとは

1.3.5 効果的でかつ効率的なSEAの学習と教訓

   Sadler and Verheem (1996)(UNEP,2002においてアップデートされた) では、国際的な経験による教訓に基づき、SEAを成功裏に実行し、運用するルールに資する要因を特定した。

表 8 意思決定への環境配慮の統合に関する重要な要素

   Sheate, et al.(2001)は、また、上記の要因は各国の制度や事例分析によって得られたものであるとし、一般的な適用を考える上では、注意を要するとした。それから、鍵となる成功要因を以下のように特定した。

資料:Sheate, et al., (2001) 

1.3.6 社会経済アセスメントと環境アセスメントとの関係

  
異なる種類の環境アセスメントの統合は、環境アセスメントをより強固にする可能性がある。例えば、経済計画やセクター計画において、様々なアセスメントの実施が通常の手続きの一環で行われる場合、類似のシステムが存在することにより、新しい要素が容易に取り入れられやすくなる。このような統合により、情報の相互交換が促進される。例えば、経済分析は、持続可能な発展の課題に対して新しい視点を提供する。経済的なアプローチを活用することで、アセスメントは、開発における勝者と敗者を特定し、異なる種類の効果の重み付けを行う議論に役立つ。

1.3.7 SEAの実施の期間とコスト

   SEAの実施コストは、事例、国の状況、意思決定システム及び採用されたSEAシステムによって著しく異なる。SEAの実施費用は相対的に低いが、戦略的意思決定においては非常に有益である。SEAの効率性を図る要因は、SEAの実施に係るコストと時間である。コストと時間効率性の視点からは、一般に、実施期間が短く、コストが低いほど効率的なSEAと考えられる。しかし、これは、事例によっては当てはまらない。例えば、オランダの飲料及び工業用水供給計画に関するSEAは、終了するまでに数年を必要としたため、コストと期間の効率性の視点からは悪い例である。しかし、SEAの目的が既存の湿地帯エコシステムの自然の価値を評価する手法やモデルの開発であったことを考慮すると、所管官庁が当該例を悪いSEAとは認識していない。重要な点は、SEAは当該所管官庁が時間と費用が効果的に活用されたと判断しているかということである。

   EUは、欧州諸国から20事例を収集し、分析を行った報告書を作成しており、その中でSEAに要したコストをとりまとめている。コストの主要な要因は、スタッフの人件費、専門家やコンサルタントへの支払、広告や出版に費やされる。スタッフの人件費やコンサルタント費用は、通常、SEAの90%を占める。表 9に事例のコストをまとめた(WB,2002)。

   ある事例では、SEAの実施にあたり、数日しか要しなかったものもあるが、6-7年も要したものもある。コロン洪水緩和スキーム(英国), 北ジュットランド地域計画(デンマーク) 、交通・環境行動(デンマーク)以外の大半の事例では、概ね、SEAに1年以内の期間を要している。SEAのコストについては、PPPのコストと比較すると、2事例を除いて、全コストの5%以内のみを必要としている。

表 9 欧州のSEA事例の利益、コスト、時間

1.4参考文献

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