(1)まずできるところから取り組むこと
○ | 我が国では、現状では本格的なSEAの実施事例はまだまだ少ない。このため、当面はまずできるところから取り組み、具体的事例を積み重ねることが必要である。 |
我が国においても、SEAを行うことにより公衆の理解を深めることができること等から、僅かではあるが、SEAの事例が見られるところである。また、環境基本法第19条に見られるように、既に計画等の策定主体においては策定段階で一定の環境配慮を行うことは不可避であり、実際に内部的な検討も行われていると考えられる。
しかし、第2章に示したSEAの原則を満足するような形での本格的なSEAの実施事例はまだまだ少ないのが現状であり、我が国で制度化を図るに当たっては、当面はまずできるところから取り組み、具体的事例を積み重ねていくことが必要である。その際、より幅広くSEAの実施を促すに当たっては、本研究会報告において明らかにした原則等を踏まえ、より具体的な計画部門、計画類型に応じて各主体の参考となるガイドラインを提示することが有効と考えられる。
もとより、第2章でも記述したSEAの原則として重要な専門家や公衆の意見の反映や評価の透明性が確保されるためには、同時に行政手続全般に関し、情報公開の成熟化や評価手続の導入が求められる。この点に関し、我が国においても、近年、情報公開法の制定やパブリックコメントの導入、公共事業等に対する費用対効果分析や政策評価の導入等に見られるように、一般的な意思決定システムのオープン化、評価手続の導入の動きが見られ、SEA導入の基礎的条件が整いつつある。具体的事例の実施状況やこれらの状況を踏まえつつ、制度化に向けて検討を引き続き行うことが必要である。
○ | 環境影響評価法で導入されたスコーピング手続を活用することによりSEAに期待される役割の一定部分は実現できる。そのような努力がなされることが期待される。 |
環境影響評価法では、実行可能な範囲内で環境への影響をできる限り回避し、低減するものであるか否かを評価する視点を取り入れていくことが適当とされ、こうした視点から、複数案を比較検討する評価の手法が導入されている。この際、環境影響評価法に基づく基本的事項では、我が国において複数案という用語がともすれば立地複数案のみに限定されて解されるきらいがあることから、事業の実施段階で検討される複数案の例示として、建造物の構造・配置の複数案等の比較的小規模な変更に留まる複数案が掲げられている。しかし、もとより事業の実施段階においても、従来我が国では行われてこなかった事業目的を達成する手段そのものの代替や事業の立地に係る複数案を比較評価することが否定されている訳ではない。
同時に、環境影響評価法ではスコーピング手続(方法書手続)が導入され、従来より早期の段階から情報が公開され、その中で複数案の提示等を行うことが可能である。個々の事業に関する早期段階からの環境配慮に関しては、こうしたスコーピング手続を活用することにより、SEAに期待される役割の一定部分は、環境影響評価法の運用により実現できると考えられる。
環境影響評価法は施行されて間もない段階にある。環境影響評価法に基づき、複数案について比較評価を行い、環境影響をできる限り回避・低減したことを明らかにする努力がなされ、これらが我が国の環境アセスメントでも定着していくことが期待される。
○ | 地域の環境保全に責任を持つと共に、各種の計画等の策定主体となることが多い地方公共団体が先導的にSEAに取り組むことが期待される。 |
我が国における各種開発事業の計画実態をみると、必ずしも法定手続が構想、計画、事業という各段階に設けられている訳ではなく、むしろ最終的に国の事業や国の許認可等の対象となる場合でも、地方公共団体において自主的に策定される総合計画等のなかで位置づけられ、熟度が高まっていく事例も多い。また、同時に総合的な地域開発計画や交通ネットワークの計画などは、国の法体系では個々の事業がバラバラに位置づけられるにすぎず、現実には地方公共団体の総合計画等ではじめて全体としての評価が可能になることも多い。このように実際のわが国での早期・上位段階での環境配慮においては地方公共団体の役割は非常に大きく、したがって国における取組みや制度化とは別に、地方公共団体が積極的にSEAに取り組む必要性は高いものがある。
また、地方公共団体は首長のもとで、環境保全と地域開発等を一体的に行っており、環境保全担当行政と開発等担当行政が緊密な連携をとって進められるべきSEAの導入に当たって、極めて有利な条件を持っていることも見逃せない。
事業アセスメントにおいては、昭和51年の川崎市環境影響評価条例の制定にみるように、地方公共団体が先導的な役割を果たした。SEAにおいても東京都の総合環境アセスメント制度や川崎市の環境基本条例に基づく環境調査制度等、既に地方公共団体の先導的取り組みが開始されている。また、SEAというシステムを意識しなくとも、地方公共団体は現実の必要性の中から、各種計画等の早期段階からの情報公開や公衆関与を試みており、実際に幅広い複数案の検討を公開している例なども多い。
以上のように、SEA導入に有利な条件を持ち、しかも一定の経験を持つ地方公共団体が、SEAに積極的に取り組み現実の事例を積み重ねていくことが期待される。
○ | 具体的事例を積み重ねていくために、各主体の参考となるガイドラインを提示し、SEAの実施を促すことが求められる。 |
我が国で制度化を図るに当たっては、当面は具体的事例を積み重ねていくことが必要であり、より幅広くSEAの実施を促すに当たっては、本検討会報告において明らかにした原則等を踏まえ、各主体の参考となるガイドラインを提示することが有効と考えられる。ガイドラインの内容としては、より具体的な計画部門に応じて類型毎に、計画等の決定手続に即して環境面から経るべき手続や、評価のための技術手法、参考となるデータ等を盛り込むことが考えられる。
(評価のための技術手法等)
環境アセスメントが科学的知見に基づいて適切に行われるためには、評価の前提となる調査・予測・評価のための技術手法が重要である。計画等に対する環境面からの評価文書は、基本的には、従来行政内部のみで行われている検討結果を、環境部局や公衆に説明するために取りまとめるものである。このため、これまで計画等を策定している部局においては、一定程度情報に不十分な点があるにせよ、現段階でも作成可能であると考えられる。
しかしながら、従来、評価が行政内部での検討に留まっていたことから知見が十分に共有されておらず、また、計画等による環境への影響を評価するための手法が十分に開発されていない場合もあると考えられる。このため、SEAがより充実した形で取り組まれるよう、計画等に対する環境アセスメントの調査・予測・評価のための技術手法やデータの整備状況等について調査を行うことが必要であり、その結果を踏まえて、必要に応じ、技術手法等を開発することが適当である。
また、SEAでは、環境影響を受けやすい地域を避ける手法として、環境上重要な地域や影響を受けやすい地域を地図情報として示すことが有効であり、これらの地域の環境情報をデータベースとして蓄積することも重要である。これらの情報が地図情報として提供されることにより、計画等の策定者が環境上脆弱な地域を予めその立案段階で避けることが容易になるとともに、計画等の策定者にとっても負担の軽減となる。最近、急速に普及しているGIS(地理情報システム)はコミュニケーションを図る上でも有効である。このため、ガイドラインの策定に当たっては、これらの手法を活用することについても検討することが必要である。
○ | 環境に著しい影響を与えるおそれがあると考えられる「政策」に対する環境アセスメントについても検討を行うことが必要である。 |
第2章では「計画・プログラム」に対する環境アセスメントの原則について検討を行ったが、環境に著しい影響を与えるおそれがあると考えられる「政策」の決定に際しても、環境面からの情報が意思決定過程において考慮されることが必要である。
近年、諸外国では、政策について環境アセスメントを導入する動きが見られる。例えば、オランダ、カナダ、デンマークでは、環境面からの情報が意思決定過程において確実に考慮されるよう、閣議での決定や法案の議会への提出に際して環境面からの評価文書を作成することが義務づけられている。また、近年、米国、カナダやEU諸国において、NAFTAやWTO等の貿易協定の交渉に際して、その環境への影響を評価する動きが見られる。
政策の内容や手続等は多様であり、政策に対する環境アセスメントの原則も、その対象によって異なってくるものと考えられる。例えば、オランダ、カナダ、デンマークの制度では、環境面からの評価文書の作成に際して環境省等の審査は行われるものの、国民等からの意見聴取は行われることとなっていない、必ずしも複数案の比較評価が義務づけられていない等の簡素化が図られている。一方、米国等の貿易協定に対する環境アセスメントでは、国民等からの意見聴取が義務付けられている。
これらの事例も踏まえつつ、今後、「政策」に対する環境アセスメントについても検討を行うことが必要である。