(1)弾力的な対応
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それぞれの計画等を立案する過程では、概念的には、1.当該計画等の目的を明確化し、2.上位の政策や計画等の枠組みや環境面その他の様々な制約条件がある中で当該目的を達成するための案を検討し、3.それぞれの案について費用や社会影響等の様々な視点から比較検討を行い、4.総合的な判断の下に決定がなされるものと考えられる。これらの計画等の熟度を高めていく過程において、他の行政機関との協議、審査会からの意見の聴取、利害関係人等からの意見の聴取等が行われる訳であるが、どのように外部との調整を行うのかという計画等の策定手続は事業種毎に異なっている。また、事業等の熟度を高めていく過程の中でどのような事項について計画等を策定し、意思決定を積み重ねていくのかについても事業種毎に異なっており、空港のように最終的な許認可に至るまで、法律上特段の計画等の策定がなされない場合もある。
SEAは、上述のような計画等の熟度を高めていく過程において、2.や3.にある計画等の目的を達成するための案の検討や、それぞれの案についての様々な視点からの比較評価の一環として行われるものである。このため、SEAを、どのような事項について、どのようなタイミングでどのような手続を経て行うかは、対象とする計画等の内容やその立案プロセス等に即して行うことが必要となるものであり、第2章の原則を踏まえつつ弾力的に対応することが重要である。
なお、SEAを行うことにより計画等の策定期間が長期化するのではないかと懸念する声がある。しかし、国際的にも持続可能な発展のための環境アセスとしてその必要性が認められている上、事前の十分な環境配慮は、政策、計画等の策定から事業実施段階までの全プロセスを考慮すれば、効率性を損なうものではない。また、SEAは他の面からの評価が全て終わった後にその環境面への影響を確認するために行うものではなく、計画等の立案手続の中で他の面からの評価等と並行して行われるものである。このため、SEAを導入することによって計画等の策定期間がむやみに長期化されることはないものと考えられる。
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事業の実施段階の環境アセスメントにおいても、予測結果には、知見や情報等の限界、手法そのものに起因する不確実性、環境の条件の変化や社会条件の変化等事業者の管理や予測が困難な外部要因があることなどから多かれ少なかれ不確実性や情報の限界が伴うものである。SEAでは、計画等は事業に比べて概して抽象的であり、知見や情報等の限界、不確実性はさらに大きいと考えられる。例えば、政策や計画で事業の実施の大枠が決定される場合でも、環境への影響を定量的に評価するために必要となる事業の具体的な内容や規模等の諸元や具体的な立地地点の詳細が定められない場合も多い。
しかしながら、SEAにおける評価は、第2章で評価の原則として述べたように、環境への影響をできる限り回避し、低減するという視点から、複数の案についての比較評価を行い、実行可能な案の中で最も望ましい案であることを明らかにするものである。このため、1.計画段階で検討すべき重要な環境要素について、2.望ましい意思決定に必要な限度での情報が得られれば良く、事業の実施段階で対処可能な問題等についての正確な予測は不要であって、いたずらに不確実性を過大に考える必要はない。仮に一定の不確実性を含むとしても、その限度内での環境面からの評価を行うことは、環境面での情報を一切踏まえないという危険よりははるかに望ましいことである。もとより、計画等を策定する際の前提となる将来の経済成長や需要等にはある程度の不確実性はつきものであるし、計画等の策定に当たり、その効果について詳細にわたって分析が行われるものでは必ずしもない。
SEAでは、不確実性があることを前提に、スコーピングや複数案の比較評価等を行うことにより計画等に適した評価を行うことが重要である。仮に定量的な予測が出来ない場合でも定性的な評価や、複数の案を相互に比較する相対的な評価を行うことは可能であり、この点からも複数案による相対的な評価は必要であると考えられる。例えば、A地点とB地点を結ぶ交通施設の主要な経由地を決定する際、具体的な立地は明らかではないものの、自然環境や大気汚染の状況等の環境への脆弱性の観点から大まかに他の経由地と比較し、環境により脆弱な経由地を避けることは可能であると考えられる。
複数案との比較検討を行った結果としてそれらには環境の観点からは有意な差がないという結論となることもあり得る。そのような結論でも、総合的な意思決定を行う際に環境面からは有意な差がないという情報を踏まえること自身が、計画等に対して環境面からの正当性を与えるものであり、十分意味があるものである。
(不確実性への対処)
事業の実施段階の環境アセスメントでは、不確実性の程度や内容を明らかにすることが重要であると考えられており、情報の不足や技術的困難点の評価書への記載、不確実性の要因の分析や感度解析の実施等の手法についての検討が行われている。SEAでも、これらの不確実性に対処するための手法を活用できると考えられる。
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環境面からの評価結果を記した文書には、1.評価結果を科学的かつ客観的に検証可能な形で明らかにし、環境面からの情報を有する機関や専門家、公衆の間での「情報交流のベース」を提供する機能と、2.環境面からの評価の結果を意思決定の際に勘案する情報を提供する「合意形成」のための機能とがあるのは環境影響評価法と同様である。
このため、SEAの評価文書でも、情報交流のベースとなるデータや手法の出典、評価の基礎となった技術的情報、「合意形成」のために必ずしも専門家ではない公衆にも内容が十分理解されるための平易な概要等が記載されることが必要である。この際、特にSEAでは、計画等の抽象性、不確実性等によって評価結果も曖昧かつ複雑なものとなりがちであることを十分留意し、公衆にも分かりやすく記載するよう努めることが必要である。
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ともすれば、事業の実施段階に加えて計画等の策定段階で環境アセスメントを行うのは、作業が重複するだけで意味がないのではないか、非効率ではないかという懸念が示されることがある。懸念のとおり、仮に全く同じ作業をするのであるとすれば、無駄と言わざるを得ないであろう。しかし、計画等を策定する段階と事業の実施段階とで決定する事項の内容やその詳細さの程度は、基本的には異なっていることを十分理解する必要がある(異なっているからこそ、それぞれの決定を行うのである!)。
但し、例えば、空港を設置する際の騒音等のように、計画等の策定段階から詳細な検討を行う必要がある事項については、計画等の策定段階での検討の結果がそのまま事業の実施段階においても活用できることもある。このような場合には、作業の重複を回避するため、SEAの結果を事業の実施段階での環境アセスメントにおいても活用すること(「先行評価の活用(ティアリング)」と呼ばれている。)が重要である。ティアリングを行うことにより重複感は薄れることが期待される。