SEAは、事業の実施段階での環境アセスメントと比べて「政策、計画、プログラム」を対象とする点が異なるものの、事業の実施段階での環境アセスメントと同様に「(意思決定の主体が自主的に)政策や計画等の熟度を高めていく過程において十分な環境情報のもとに適切に環境保全上の配慮を行い、その結果を当該意思決定に反映させるための手続」であることから、政策や計画等の決定手続におけるSEAについては、評価の実施主体、専門家や公衆の関与、評価の審査等の手続に関する事業の実施段階での環境アセスメントの原則の多くが当てはまる。
但し、スコーピングや評価は「政策、計画、プログラム」の内容に即したものとする必要があるため、スコーピングや評価の視点・性格は事業の実施段階での環境アセスメントとはやや異なったものとなる。具体的には、スコーピングが単なる手法や項目の検討から「問題の絞り込み」という性格が強まるとともに、評価に際して、望ましい意思決定を選択するという視点が強まり、複数案の比較検討が不可欠の要素となる。
本章では、これらSEAの原則について述べることとする。
(検討の対象)
なお、SEAの対象は「政策、計画、プログラム」と非常に広範であり、その内容や策定手続は「政策」と「計画・プログラム」とで大きく異なっている。このうち、本研究会では、以下の理由により、計画、プログラム(以下「計画等という。」)を念頭に置いて検討を行った。
政策は、その内容において抽象度が高く、かつ多様であるとともに、それぞれの政策毎に固有の意思決定プロセスを持っており、政策一般への環境配慮のあり方について、共通する原則を導き出すことが困難であること。
政策の策定手続は、一般に極めて簡素な手続しか設けられていない場合が多く、体系的な手続を設けることにはなじみにくいこと。
計画等を対象とすることによって、事業の実施段階の環境アセスメントの限界、即ち、(a)個々の規模が小さい事業の累積的な影響を検討することが困難であること、(b)複数の事業が地域全体に及ぼす環境への影響を検討することには限界があること、(c)事業の実施段階での環境アセスメントでは、検討の幅が限られてしまうために有効な案の検討が行えないこと、を補い得ること。
なお、諸外国においても計画等について共通の原則による制度化の対象とする例が多く、第1章(3)でも述べたようにEUにおける共通制度の対象も計画及びプログラムである。
ただし、計画等にあってもその内容や策定手続には多様なものがあり、第3章に留意点として記したとおり、個々の計画等への適用に当たっては、原則を踏まえつつ柔軟に対応することが必要である。
また、政策であっても、環境に著しい影響を与えると考えられるものは環境への配慮が適切になされることが必要である。このため、諸外国では、政策に対する簡易な環境アセスメントの導入を図る動きや、貿易措置に対する環境アセスメントを適用しようとする例が多く見られるところであり、これらも踏まえつつ、政策に対する環境アセスメントについて別途検討を行うことも今後の課題である。
本章の原則は、環境面からの評価を行う際の一般原則ともなるものであり、政策等を対象とした環境面からの評価に当たっては、その際のスコーピングや評価の視点等についても適用可能なものが多数あるものと考えられる。このため、政策等の環境面からの評価に当たっては、当該政策の内容や策定手続に即しつつ、それぞれの原則が適用可能か否かを個別に検討することが適当である。
(1)計画等を決定するための既存の手続とSEAとの関係
環境影響評価法では、環境担当行政機関の関与等を含めた環境面からの評価は、社会面や経済面に関する評価とは独立した、環境に特化した手続として構成されている。その上で、意思決定は環境面の情報のみに基づいて行われるものではなく、環境影響評価書が他の評価等の結果と併せて許認可等に関する最終的な意思決定段階で統合されることとなっている。
SEAについてもこのことは同様である。即ち、SEAは「計画等の熟度を高めていく過程において十分な環境情報のもとに適正に環境保全上の配慮を行うために、環境面からの評価を行うための手続き」として整理され、最終的な意思決定は、あくまでSEAとは別の環境以外の考慮要素を合わせた総合判断であると位置づけられている。
一方で、1.計画等の策定過程においては地域社会への影響や費用効果面からの効率性などの面についても環境面同様に情報の公開等が望まれること、2.幅広い選択肢(複数案)を検討できる計画等では、SEAを実施するとしても、検討する複数案の設定などの段階で社会面・経済面等からの制約あるいは目標を考慮せざるを得ず、必然的にSEAの中にも環境以外の判断が混入せざるを得ないことから、環境面からの評価のみならず、社会面や経済面に関する評価を統合した手続を設け、その中でSEA的な検討も行えばよいのではないかという意見がある。
このため、ここでは、1.環境面、社会面や経済面に関する評価を一体として行うことが適当かという「評価そのものの統合」の問題と、2.環境面からの評価に関する手続として独立した手続を設ける必要があるかという「評価の手続」の問題を踏まえた上で、計画等の決定手続とSEAとの関係について検討する。
(評価の統合について)
○ | 環境面、社会面や経済面に関する評価を一体として行う場合には、環境情報を有する 機関や公衆、専門家の間での情報交流のベースを提供し、環境面からの評価結果を意 思決定のための情報として活用することを可能とするため、SEAでは、環境面から の評価結果を記した文書を作成することが必要である。 |
まず、環境面、社会面や経済面に関する評価を一体として行うことが適当かという「評価の統合」の問題について、諸外国では、評価の統合が進むと、1.一般的に計画等が本来意図する目標や成果等は明らかになるものの、環境への影響等の副次的な側面は十分に明らかにされないため、環境への影響やどのような環境保全対策が講じられるのかが外部から分かりにくいものとなるおそれが高いこと、2.特に社会面や経済面からの評価結果と併せて重み付け等により一つの指標等に統合される場合には環境面からの評価の結果が埋没するおそれが高いこと、3.それらの結果として、結局、評価そのものが透明性を欠いたものになるとともに、公衆や専門家が環境面での問題等を的確に認識し、必要な情報提供を行うことが困難になること等が指摘されている。
このため、SEAでは、環境への影響や講じられた環境保全対策を明らかにした環境面からの評価結果を記した文書を作成することが必要である。これにより、1.環境面からの情報を有する機関や公衆、専門家の間での情報交流のベースを提供すること、2.環境面からの評価の結果を、意思決定のための情報として活用することが可能となる。
なお、一般的に計画等の副次的な側面の影響等は、直ちに外部から理解しにくいことは上述のとおりであるが、特に環境面の影響は、事業アセスメントの実態からも理解されるように、環境への一次的な負荷が、環境という複雑な系のなかで様々なプロセスを経由して影響として発現するものである。このため、環境面からの評価は環境の現状の分析と、それを踏まえた専門的・科学的予測が行われ、かつその内容(使用データ、予測手法、各種対策の環境面からの評価内容等)が明らかにされないと外部には特に理解が困難である。こうした特質からも、環境面での評価が十分な情報を持った書面として公表されることが必要と思われる。
諸外国の制度を概観しても、米国、カナダ、オランダ、フランスを始めとする多くの国では、計画等を策定するための手続とは別に環境面からの評価手続が設けられ、環境面からの文書が作成されている。また、英国や一部の北欧諸国では都市や農村の地域開発計画の策定手続において環境面からの評価が行われているが、この場合にあっても、環境面からの評価の結果は、他の評価結果とは区分された形で環境面からの評価文書として取りまとめられている。なお、これらの諸外国のSEAに関する制度においても、米国のように環境影響に伴う社会・経済への影響等を取り扱うものは見られるものの、社会的・経済的影響を直接に評価するものとはなっていない。
(手続の統合について)
○ | 環境面からの評価が科学的かつ客観的に行われるためには、環境面からの必要性に対 応して関与すべき者が適切に位置づけられた手続が必要である。このため、SEAは環境面に焦点を絞った一定の独立した手続として設けられる必要がある。 |
環境面からの評価を適切に行うための手続では、後に述べるSEAの手続に関する原則にあるように、環境面からの情報を適切に収集し、環境面からの評価が科学的かつ客観的に行われるためには、1.環境に関する情報を有する者としての公衆や専門家の関与と、2.環境の保全に責任を有する機関(部局)の関与が必要である。
また前述のように、こうした関与が有効に機能するためには、環境面からの評価結果が埋没しないよう環境面からの評価結果を取りまとめた評価文書を作成することが必要である。
また、経済面や社会面からの評価を行う過程で関与を求めるべき者の範囲は、概念的にはそれぞれ異なっている。例えば、事業の効率性に関する経済的な評価では、関与を求めるべき対象は、財政当局や「納税者(taxpayer)としての住民」であるし、地域社会に対する影響の評価では、当該地域に住み、社会的影響を受ける者としての「基本的人権の主体たる住民」ないし利害関係を有する者ということになろう。
上述のとおり、計画等に対する社会面、経済面からの手続において意見を求めるべき対象は環境面からの評価の際に意見を求めるべき対象とは概念的に異なるため、計画等の策定手続は、通常は環境面からの評価を行う上で十分なものとはなっていない。例えば、参考資料に示すように、我が国の各種計画策定手続を見ても、そもそも公衆関与がない、若しくは計画策定者の判断に任されているものや、アカウンタビリティ(説明責任)の観点からの事後的な情報公開に留まっているもの、あるいは公衆の関与を地域住民や利害関係者に限定しているものなどが多い。このため、SEAは、環境面に焦点を絞った環境面からの評価が科学的かつ客観的に行われるための手続として設けられることが必要である。
(意思決定への統合)
○ | SEAは、総合的な意思決定過程(mainstream)に環境情報を提供する一定の独立 した手続として構成されるべきであるが、SEAの意義・最終目的は環境配慮の意思 決定への統合にあり、当然にSEA結果の意思決定(最終判断)への反映は確保され ねばならない。同時にSEAの結果と他の政策決定要素についての検討が、計画等策 定者において総合的に進められることが必要であり、そのポイントは、環境以外の要 素も含めた事業の目的や制約条件の設定、即ち最も初期段階における統合である。 |
以上、SEAでは環境面からの評価結果を記した文書を作成することが必要であること、環境面からの評価が適切になされるための手続が設けられることが必要であること等、環境面からの評価の独立性の必要を強調してきたが、SEAによる環境面からの評価結果は、最終的には意思決定に反映されなければならない。即ち、SEAによる環境面からの評価結果が社会的必要性や効率性等の社会面や経済面に関する評価の結果と併せて、最終的にこれらの評価が統合された上で計画等の決定がなされることが必要である。
環境影響評価法においても、環境影響評価の結果が意思決定に反映されることを保証するため、環境影響評価法第33条以下のいわゆる「横断条項」が設けられているが、SEAにおいても形式はともかく、SEAの結果が最終的な総合判断に反映されるという明確な位置づけが必要であると考えられる。ちなみにEU共通制度案では、更に進んでSEA結果をいかに考慮したかについての見解の公表までが義務づけられている。
上記のような統合された意思決定を円滑に行うためには、複数案の検討、取捨選択等の節目、節目において、環境面からの検討を進め、その結果を反映させておく必要がある。特に重要なのは、計画等の目的や動かしがたい制約条件、ひいては検討すべき複数案の範囲の設定、別の言葉で言えば「土俵の設定」である。このため、SEAプロセスと計画等の決定プロセスが、次頁の例に見られるように、連携をとった共通の土俵の設定のもとに並行的に進められることが望まれる。
SEAはこのように総合的な意思決定過程に組み込まれるものであるが、一度行われた意思決定を事情の変化により変更しようとする場合には、軽微な変更を除き、SEA手続きの追加、再度の実施が必要である。
SEAと総合判断との連携・統合の一例:英仏海峡トンネル連絡鉄道の例
(評価の主体)
○ | SEAは、当該計画等の策定者が自ら行うものである。それは意思決定者の自主的環 境配慮という環境アセスメント全般の大原則によるものであるとともに、計画策定段 階において、環境配慮を意思決定に円滑に統合するための必然でもある。ただし、こ れは十分な情報公開と第三者の関与によってはじめて正当化されるものである。 |
環境影響評価法では、環境アセスメントは、以下の理由により、事業者の責任において行うことが基本となっている。
環境に著しい影響を及ぼすおそれのある事業を行おうとする者が、自らの責任で事業の実施に伴う環境への影響について配慮することが適当であること。
事業者が事業計画を作成する段階で、環境影響についての調査・予測・評価を一体として行うことにより、その結果を自らの事業計画や環境保全対策の検討、施行・供用時の環境配慮等に反映できること。
SEAでは、その評価の際に事業の実施段階に比べて広範な案を検討し得るものであるが、それらの案は財政面、技術面等の制約がある中で実行可能なものである必要がある。このため、当該計画等について最も知見を有し、また各方面から情報を収集できる計等画の策定者が、それらの情報を総合的に勘案して複数の案を設定し、その比較評価を行い、その結果を当該計画等に反映することが、SEAを円滑に行う上で適当であると考えられる。
この際、計画等の策定者が自ら行う評価では「お手盛り」との批判を招きかねないことから、情報の公開や第三者の関与が必要となる。
(公衆や専門家の関与)
○SEAでは、公衆や専門家の関与が必要である。 |
環境面からの情報は、国、地方公共団体のほか、当該地域の住民をはじめ、環境の保全に関する調査研究を行っている専門家等によって広範に保有されている。このため、計画等の策定に当たって、十分な環境情報を収集し、環境への配慮を適切に行うためには、公衆や専門家の広範な関与が必要である。特に、地域の環境の状況に関する情報は当該地域の専門家や公衆によって広範に保有されていることから、開発事業の立地に枠組みを与える計画等の策定に当たっては、公衆や専門家の広範な関与は必須のものとなる。
(公衆の関与の位置付け)
環境影響評価法では、環境影響評価は環境に配慮した合理的な意思決定のための情報の交流を促進する手段とされ、個々の事業等に係る政府の意思決定そのものに公衆が参加するための制度とはされていない。即ち、公衆の関与は、事業者が事業に関する情報を提供し、これに対して公衆が環境の保全の見地からの意見を述べ、その意見に対応して事業者が環境配慮を行う過程を通じて、事業に関する意思決定に反映させるべき環境情報の形成に公衆が参加するものとして位置付けられている。
計画等に対する環境面からの評価についても、事業の実施段階での環境アセスメントと同様である。即ち、公衆の関与は、個々の計画等に係る政府の意思決定そのものに公衆が参加するためのものではなく、公衆が環境の保全の見地からの意見を述べ、その意見に対応して計画等の策定者が環境配慮を行う過程を通じて、計画等に係る意思決定に反映させるべき環境情報(評価文書)の形成に公衆が参加するものとして位置付けることが適当である。なお、SEAでは、後述するとおり、公衆等が共有する(地域の)環境の将来像(環境基本計画によって明らかにされている場合もある。)が評価のクライテリアとして重要である。このため、ここでの環境情報には、どこにどのような生物が生息しているという単なる客観的な情報が含まれるのみならず、公衆等の思い描く環境の将来像への距離感なども重要な環境情報として含まれる。
(評価の審査)
○ | SEAでは、環境の保全に責任を有する機関(部局)が関与できることが必要である。 |
環境影響評価法では、環境面からの評価文書等の環境情報について十分なデータ、分析等が記載されているかどうか、環境保全についての適切な配慮がなされているものであるかどうかについて科学的かつ客観的な検討を加え、その妥当性を判断するため、審査のプロセスが設けられている。審査のプロセスには、その信頼性を確保する観点から、許認可等を行う者による審査のほか、意見の提出を通じて所管行政庁以外の第三者が参画することが必要である。このため、地域の環境保全を図る立場から地方公共団体が意見を述べるとともに、環境保全行政を総合的に推進する立場から環境庁長官が必要に応じて意見を述べることができることとなっている。さらに地方公共団体の審査のプロセスでは、地方公共団体が事業の実施主体となることも多いことから、信頼性を高めるため、審査会等の意見を聴く機会を設ける例が多く見られ、関係機関の審査体制の中で様様な専門家の活用が図られている。
SEAにおいても、当該評価が科学的かつ客観的なものであるか否か、その妥当性を確保する観点から審査のプロセスを設け、審査を行う主体として、信頼性を高める観点から、計画等を策定する者による評価のほか、意見の提出を通じて第三者が参画することが必要である。このため、SEAにおいても、事業の実施段階での環境アセスメントと同様に、環境の保全に責任を有する機関(部局)が関与できることが必要であり、さらに地方公共団体にあっては審査会等の意見を聴く機会を設け、専門家の活用が図られることが望ましい。
(複数案の比較による評価)
○SEAでは、複数の案について比較評価を行うことが必要である。 |
環境影響評価法では、実行可能な範囲内で環境への影響をできる限り回避し、低減するものであるか否かを評価する視点が取り入れられ、複数の案を比較検討する評価手法が導入されている。これは、1.温室効果ガスや廃棄物の発生抑制、生物の多様性の確保など画一的な環境保全目標を設定することにはなじみ難い環境項目に対する評価が重要となったこと、2.よりよい環境配慮を求める見地から、単なる固定的な目標達成のチェックでは不十分と考えられること等から、従来の保全目標達成型の環境アセスメントを改善したものである。
環境影響評価法において複数案検討を導入した上記の背景に加え、そもそもSEAは、上位・早期の段階で幅広い実行可能な選択肢の中から、環境の観点も踏まえて望ましい案を選択するための手続であり、複数案の比較検討は不可避とも言える。即ち、事業実施段階(end of the pipe)でのチェックの色彩の残る事業アセスメントでは、「こうなります。」というステートメントでも一定の意味を持つし、一定の事業が前提として存在するため、実行可能な最善の技術の採用という評価手法も適用可能であるが、SEA(ないしSEAを踏まえた意思決定)では「こうなります。」というだけでなく「いろいろな案も考えましたが、これがよりよい選択です。」という論証が必要であり、その手段としては複数案の比較検討がほとんど唯一の手法であるからである。
なお、SEAプロセスのなかで一つの案を取捨選択する必要はなく、SEAとしてはいくつかの案の環境保全上の比較を行うにとどめ、案の選択を総合判断の段階に委ねる場合もあると考えられる。意思決定に環境配慮を統合するという意味からは、採りうる複数の案の環境保全面からの評価を総合判断に正しく反映できれば良いので、何も環境のみの視点からの各案の優劣を無理につけなくとも十分に役割は果たせると考えられるし、現に諸外国でもそうしたSEAの例は多い。ただしこの場合でも、最終段階では「いろいろな案も考えましたが、これがよりよい選択です。」という論証が必要であることには変わりはない。
現実に諸外国においても、既にSEAを実施している米国のNEPAやオランダの環境管理法あるいは現在審議中のEUの共通制度でも複数の案の比較検討は必須のものとされている。
(検討すべき案の範囲)
○ | 検討される複数案は、とりうる選択の幅をカバーする必要がある。同時に「戦略的な」レベルで意味のある選択肢を検討すべきである。 |
幅広い複数案が検討できるSEAにあっては、考えられる全ての案を詳細に検討することは不可能であるし、あまりに案の数が多いのも、計画策定者の負担が増えるばかりでなくかえって分かりにくくなるなどの弊害がある。したがって、SEAにおいては無数に考えられる案のうちいくつかを取り出して評価することとなるが、その際には以下の原則に従い検討すべき案を抽出する必要がある。
検討すべき案の範囲は、環境への影響をできる限り回避し、低減したものであることを明らかにするため、原則として、実行可能な範囲内でとりうる案をカバーした上で、環境影響についての検討を行う上で特に重要な案について検討することが必要である。このため、実行可能な範囲内で採り得る環境保全上の観点から最も望ましい案についての検討が含まれていることが望ましいと考えられる。
検討すべき案には、事業目的を達成する手段そのものの代替、事業の立地の代替といったかなりの変更を伴うものから、施設の構造や配置の代替、工法や工期の代替、詳細デザインや環境保全設備の代替まで大きな幅がある。
上述の実行可能な範囲内で採り得る複数の案をカバーした上で、環境影響についての検討を行う上で特に重要な案について検討することが必要であるという原則に照らせば、計画等では事業の立地の大枠が決定される場合も多く、その場合には原則として立地についての複数案を評価することが適当であると考えられる。また、計画等を決定する上で地下化等の事業の構造が環境への影響を検討する上で重要な場合や、立地の大枠が決定されるものの土地の入手可能性等から立地について複数案を検討することが困難な場合には、施設の配置や構造等について複数の案を検討することが適当である。
計画等の段階では決まっていない事項、例えば、環境保全設備や工事の方法等については、環境影響評価法等により事業の実施段階において環境面からの評価を行うことにより環境影響を回避・低減することが可能であることから、計画等を策定する段階でこれらの事項について検討する必要性は低い。事業の実施段階で重ねて評価を行うことは計画策定者の負担を増加することにしかならないおそれがあることに留意する必要がある。
なお、環境影響評価法の検討過程において、立地決定の以前に立地に係る複数案を含めて公表して議論を行うことについて、我が国の場合、環境影響以外の利害関係を含んだ議論をより際だった形で誘発するおそれや事業内容によって地域間の対立を生じ混乱を発生させるおそれがあること等から実際問題として難しいのではないかとの懸念が表明された。しかし一方、近年、情報公開法の制定やパブリックコメント制度の導入、政策評価の導入等我が国においても一般的な意思決定システムのオープン化、アカウンタビリティの向上の動きが見られる。また、実際に、立地に係る複数案を含めて公表し、議論が行われる案件も見られる。このような事例を積み重ねること等により、表明された懸念を払拭するよう努めることが必要である。
また、主要諸国の事業の実施段階での環境アセスメント制度では、ゼロ代替案(「事業を行わない」代替案)等の名称で事業が行われない場合の環境の状態の推移を予測させている場合がみられるが、環境影響評価法では事業が行われなかった場合の環境の状態(バックグラウンド)の推移等を評価のベースラインとして明らかにすることとしている。SEAにおいても同様に、当該計画等に基づく事業が行われなかった場合の環境の状態(バックグラウンド)の推移等を評価のベースラインとして明らかにすることが必要である。
(評価の視点)
○ | 環境保全面からの評価に当たっては、環境基本計画等で望ましい環境像や環境保全対策の基本方向が示されていることが望ましい。 |
SEAにおける評価、即ち複数案の比較に当たっては、事業段階での複数案の比較検討に比べ、はるかに幅の広い案が比較検討され得るとともに、それらの案の比較において環境要素間のトレードオフ(例えば、廃棄物処理で焼却を優先するか埋立処分を優先させるかは大気汚染と空間占拠のトレードオフ。道路の路線で市街地をとるか森林をとるかは人間の生活環境と自然環境保全とのトレードオフ)が生ずることも多いと考えられる。
こうした場合、国際的には各案の得失を一覧できるマトリックスを作成することや、各要素の重要度を整理することにより、総合的な判断を行うことが一般的である。
また、総合的な判断に当たっては、目標となる「望ましい環境像」とも言うべきものが、予め国や地方公共団体の環境保全施策の中で公衆の関与や関係者の合意を得て設定されていることが望ましい。例えば、地方公共団体の環境基本計画等では望ましい環境像が具体的に明らかにされている場合があるが、そのような計画は、SEAのクライテリアとして活用することが可能であると考えられる。
上述のようにSEAの側から見れば、国や地方の環境基本計画は、SEAでの評価に使用できるクライテリアとして位置づけられるが、環境基本計画の側からSEAを位置づければ、SEAは、環境基本計画を達成するための各種計画等との調整ツールとしての機能が期待される。このような調整ツールとしての機能は、クライテリアともなるべき環境基本計画に描かれる環境像が明確にされるほど、有効に機能することとなろう。
また、既存の環境保全計画等であらかじめ将来の望ましい環境像が十分に明らかにされていない場合であっても、SEAのスコーピング段階で重視すべき環境要素や達成すべき環境上の目標を明確化することにより評価段階での混乱を避けることができる。
(広域的な視点からの環境の改善効果も含めた評価)
○ | SEAでは、より広域的な視点から、環境の改善効果も含めて、複数の事業の累積的な影響を評価することが期待される。 |
計画等の環境影響評価では、単一の事業のそれとは異なり、個々の事業の局地的な影響を具体的に明らかにすることは困難な場合が多いものの、より広域的な視点から個々の事業を対象とする場合には評価することが困難な一定地域における複数の事業の累積的な影響を評価することには適している。例えば、道路や鉄道のネットワークを描く交通計画は、個々の事業を対象とする環境アセスメントでは評価することが困難な、ネットワーク全体としてもたらす二酸化炭素排出総量や広域的な大気汚染状況の変化等の影響を評価するのに適している。
なお、個々の事業の実施段階での環境影響評価では通常は環境への悪影響しか評価されないが、このような広域的な視点から評価を行うことにより、交通ネットワークとしての環境の改善効果等も評価することが可能になる。環境基本法の制定後、様々な政策体系において環境保全がその目的の一つとして位置づけられているところであり、SEAを導入することにより、計画等による環境の改善効果についても科学的、客観的に明らかになり、その信頼性が高まるという効果もあるものと考えられる。
(スコーピング)
○ | SEAでは、スコーピングは、単なる手法や項目の検討から「検討範囲の設定」及び「問題の絞り込み」という性格等が強まるため、事業の実施段階での環境アセスメント以上に重要である。 |
環境影響評価法では、事業が環境に及ぼす影響は、当該事業の具体的な内容や実施される地域の環境の状況に応じて異なることから、調査・予測・評価の項目及び方法については、画一的に定めるのではなく、包括的に定めておいて、個々の案件ごとに絞り込んでいくスコーピングの手続きが導入されている。スコーピングを行うことにより、その地域において課題となる環境要素の範囲とそれぞれの重要度を早い段階から明らかにすることによって重点的に評価を行うことができ、論点が絞られたメリハリの効いた評価ができることが期待される。
計画等の影響は、計画の内容や地域の環境の状況に応じて異なるのは勿論のこと、
計画等では事業と異なり、自由度と抽象度が高いことから、複数案にしてもあるいは環境保全対策にしても考えようによっては無数の案が考えられる。しかし、実際にはそれぞれの計画等は、自ずからその計画等の目的や外部の諸条件により一定の制約を受けており、その範囲を越えた案についての検討は無意味である。こうした計画等の目的・制約条件はいわばSEAにおける検討の「土俵」であり、これが明確でないと常に新しい案が提案されたり、逆に「後出し」の目的や制約条件で、それまでの検討が無に帰すなどの混乱が生じる。このため、SEAではスコーピング段階で計画等の目的や制約条件を明確化し、SEA全体の検討範囲を明らかにすることが必要である。
計画等では複数の事項が決定されることも多く、また、それぞれの事項について複数の案も検討し得る。また、対象となる地域も広く、影響を受ける可能性のある環境項目も多岐にわたる。しかしながらSEAの中であらゆる可能性、あらゆる環境影響を検討することは必要ではないし、そもそも不可能である。実際には、熟度が低い段階では予測評価が困難であったり、事業実施段階での環境保全対策で対処できる環境影響も数多く、そのような問題についてまでSEA段階で検討を加えるのは有害ですらある。このためSEAでは計画等の決定内容に影響を与え得るような重要な環境項目について重点的に評価を行うことが適当であり、そうした項目の選定とそれに応じた手法の選定が必要である。
このため、SEAが有効に機能する上で、スコーピングは、事業の実施段階以上に非常に重要なものとなる。
なお、計画等の段階では、当該計画に盛り込まれる事業の熟度は一般的には低いと考えられ、具体的な立地等は定まってはいないものと考えられる。このため、SEAでは、事業の実施段階での環境アセスメントで行われている詳細な現地調査や予測等まで行う必要はなく、既存の文献等により地域における環境の現況を把握することにより対応することを基本に、特に重要な項目について必要に応じて補足的な調査を行うこととなるものと考えられる。
(スコーピングの手続における公衆等の関与)
比較の対象となる複数案を決定し、重要な環境項目について重点的に評価を行うことが事業の実施段階以上に非常に重要であることから、SEAのスコーピングが広範な環境情報に基づいて行われるよう、その手続きにおいても、地方公共団体や住民・専門家等からの意見を幅広く聴くことが必要である。