戦略的環境アセスメント総合研究会報告書(平成12年8月)

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第1章 SEAの意義と目的

(1)戦略的環境アセスメント(SEA)とは

戦略的環境アセスメント(SEA)とは、「政策、計画、プログラム」を対象とする 環境アセスメントである。事業に先立つ上位計画や政策などのレベルで、環境への配慮を意思決定に統合(意思決定のグリーン化)するための仕組み。

 

(コラム)

「政策policy」「計画plan」「プログラムprogram」とは?

 「政策(policy)」「計画(plan)」「プログラム(program)」という抽象概念を定義することは、国ごとに、また用い方によってその範囲は異なることから容易ではないし、SEAの検討を行う上で必ずしも必要ではない。一方で、SEAに関する諸制度や文献では、特に「政策」と「計画、プログラム」にはある程度の差があることが前提とされているのも事実である。このため、「政策」と「計画、プログラム」の違いについて、それぞれ具体的にどのようなものが当てはまるのか若干の説明を試みてみたい。

 まず、「政策」であるが、主要先進国の協力の下に行われた環境アセスメントの有効性に関する国際研究の一環としてオランダ政府の資金提供を受けてまとめられた報告書「戦略的環境アセスメント」(1996)によれば、「政府が、現在若しくは将来遂行する行為の一般的な道筋、又は提案する全体的な方向で、政府の一連の継続的な意思決定を導くもの」とされている。もう少し分かりやすく言うと、「政策」とは、政府の「施政の方針」であって、当該施策体系の中で計画や個々の事業等に対して方向を指し示すもの(拘束力を有するものもあれば、ないものもある。)であって、個々の事業の必要性やその具体的な内容等を決定するものではない。例えば、「道路整備の長期構想」に示されている「交流ネットワークの充実」「地域集積圏の形成」は、道路整備の体系における下位計画や事業の実施に方向を差し示すものであり、「政策」と言えよう。このほか、法律に基づく基本的事項や基本方針、例えば、「再生資源を原材料として一層利用する」(再生資源の利用の促進に関する基本方針)等も「政策」に該当する。「政策」は、個々の事業の必要性やその具体的な内容等を決めるものではないため、概して抽象的である。

 一方、「計画」と「プログラム」は、上述の報告書では「政策目的を達成する手段を評価、選択して、事業や諸活動をいつ、どこで、どのように実施するかを明確にするもの」とされている。即ち、「計画」と「プログラム」は、政策に示された目標を達成するための諸事業を体系的かつ計画的に行うために、どのような事業を、いつ、どこで、どのように実施することが必要であるかを示すものである。例えば、「高規格幹線道路網計画」、「首都圏整備計画」、「河川整備計画」は、それぞれの対象とする地域(全国、首都圏、流域)内に一定の計画期間にどこでどのような事業を行うことが必要であるかを明らかにするものであり、「計画」「プログラム」に該当する。「計画」と「プログラム」は、「政策」よりは具体的であるが、事業の詳細が決まっているものではなく、事業に比べれば抽象的である。

 なお、計画とプログラムでは、「計画」が政策目的を達成するために描かれた全体の分かる「見取り図」に対して用いられ(例:土地利用計画、開発計画)、「プログラム」が関連の深い施策や活動をその手順等も含めて示すものに用いられることが多い(例:流域管理プログラム、参考資料2のCALFEDベイデルタプログラム等)という違いがあるようである。ただし、SEAの原則についての検討を行う上ではこれらを区別する必要は乏しいと考えられるので、以下、本報告書では「計画」と「プログラム」を合わせて「計画等」としている。

 

(2)SEAの意義

SEAには、1.環境に著しい影響を与える施策の策定・実施に当たって環境への配慮 を意思決定に統合すること、2.事業の実施段階での環境アセスメントの限界を補うことの2つの意義がある。

 

(3)国際的動向

米国は既に1969年に導入。その他の先進国では1990年前後から急速にSEAの導入 が進んでいる。EUの共通制度化が本年中に図られる予定であり、主要先進国では数年以内に導入が図られることになる。

(諸外国におけるSEAの導入状況)

○諸外国におけるSEAの導入状況

1969    「国家環境政策法」制定(アメリカ)
87 「環境管理法」改正により環境影響評価制度導入(オランダ)
90 「政策及び計画案の環境評価手続に関する指令」発出(カナダ)
91 「政策評価と環境」発行(イギリス)
93 「自然保護法」改正(フランス)
「法案その他の政府提案への意見に関する行政指令」制定(デンマーク)
94 「持続可能な発展に向けた環境計画に関する命令」(ベルギー)
「環境影響評価手続法」制定(フィンランド)
95 「環境テスト」決定(オランダ)
「政府文書作成に関する政令」制定(ノルウェー)
96 「一定の計画及びプログラムの環境に及ぼす影響の評価に関する欧州議会及び 欧州理事会の指令」提案(EU)
「計画・建築法」改正(スウェーデン)

(諸外国のSEA制度の対象と形式)

 

○諸外国のSEA制度の対象と形式

  1. 事業の実施段階での環境アセスメントと同一の法制度によるもの

制 度 対 象 概    要
【アメリカ】

国家環境政策法
(1969)

あらゆる連邦政府の決定

(政策、計画、プログラム)

* 実際には、プログラムへの適用が見られる程度

事業実施段階の環境アセスメントと同一。

(代替案の比較評価、スコーピングや評価書案に対する公衆の意見聴取、環境行政機関の関与 等)

【EU】

SEA指令案
(1996提案中)

一定の計画、プログラム 事業実施段階の環境アセスメントとほぼ同様。

(代替案の比較評価、評価書案に対する公衆の意見聴取、環境行政機関の関与 等)

【オランダ】

環境管理法
(1987)

各分野の計画、プログラム
地域開発計画 等
 

事業実施段階の環境アセスメントと同一。

(代替案の比較評価、スコーピングや評価書案に対する公衆の意見聴取、環境行政機関の関与 等)

【フランス】

自然保護法
(1976, 93)

一定の計画、プログラム 事業実施段階の環境アセスメントと同一。

(代替案の比較評価、スコーピングや評価書案に対する公衆の意見聴取、環境行政機関の関与 等)

  1. 政策を対象とする、事業アセスとは別の制度を設けるもの

【カナダ】

閣議命令
(1990, 99)

各大臣又は閣議の承認を得 る政策、計画、プログラム 評価結果は文書化し、報告することが必要とされる 以外、詳細な手続は定められていない。
【オランダ】

環境テスト
(閣 議命令)(1995)

法律案 幾つかの質問項目に対する回答を法案の説明文書と して法案に添付すること、合同サポートセンターに よる支援及び審査を受けること等、最小限の要件。
【デンマーク】

法案その他の政府 提案への意見に関 する行政命令
(1993, 95)

法案その他の政府から議会 への提案
(政策、計画、プログラム)
柔軟性の高いものとなるよう、環境アセスメントの 結果を記載した文書を作成すること以外、詳細な手 続は定められていない。

その他(政策評価の際の環境面からの評価の指針を定めたもの)

【イギリス】

政策評価と環境
(環境省発行の手引き)
(1991, 98)

政策、計画、プログラム 手続に関する規定はほとんどない。評価手法に関し 代替案の比較評価を行うこと、費用便益分析に環境 影響を含めること等が定められている。

 

(4)我が国の動向

我が国では、環境影響評価法により港湾計画が制度化がされているほか、東京都や川崎市等において、「政策」や「計画」段階からの環境配慮について制度的な取組が進められている。

(法制度に基づく戦略的環境アセスメント)

 

(本格的な戦略的環境アセスメント制度を指向した取組)

 

(行政内部における事前調整の取組)

 

(事業アセスメントの前段階の環境配慮の取組)

 

(事業者による自主的取組を促す仕組み)

 

(政策・計画段階での環境アセスメントの実施事例)

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