戦略的環境アセスメント総合研究会報告書(平成12年8月)

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はじめに

 持続可能な社会の形成が求められるなかで、様々な政策や計画等の決定において環境への配慮を内在化、統合すること、平たく言えば、最初から環境のことも考え、環境保全を政策や計画等の設計の基本的要素とすることが求められている。

 もとより環境に影響を及ぼすような政策や計画等の策定、実施に当たり、環境への影響を考慮することは、環境基本法第19条により義務づけられており、各種の政策や計画等の策定主体において現実に行われているところであろう。しかしながら、現在のところそうした策定主体の努力は、策定主体内部の検討にとどまっている場合が多く、必ずしも社会との情報交流が確保されたものにはなっていない。

 万人がそれぞれ有益な情報を持ち、また、影響を受ける可能性のある「環境」という課題に対処するには、策定主体と公衆や関係機関との間で情報交流が確保され、広範な情報の供給により策定主体の環境配慮の質を向上させるとともに、策定主体の環境保全努力が社会に認知され、当該政策や計画等の正当性、社会からの支持を高めることが期待されるのである。

 さて、このような見地から国際的に大きな流れとなっているのがSEA(戦略的環境アセスメント)の導入である。既に米国では、30年前からNEPA(国家環境政策法)のなかにSEAの要素が織り込まれ、ヨーロッパではEUの共通制度化が確実な状況になっている。我が国においても、環境影響評価法制定時の国会附帯決議により、国会から政府に対して制度化に向けての早急な検討が求められている。

 ところでSEAというと、いかにも新しく、かつ困難な課題のように聞こえるが、実は我が国でも個別事業の環境アセスメントのみでの対処の限界は早くから認識されており、20年以上前に「計画アセスメント」の名の下に、むつ小河原や苫小牧東部の工業基地整備計画にアセスメントを行っている。もともと前述のように、SEAは政策や計画等の策定主体が現に実施しているであろう環境保全面での検討を、透明性が高いやり方で、かつ体系的、組織的に行うものであり、本来的にそのときできることを必要な範囲でやるというものである。何も策定主体に不可能なことを強要したり、過大な負担を課すものではない。むしろ、焦点を絞り、熟度(不確実性)に対応した大づかみな検討を行うSEAは、精緻かつ網羅的な検討を要求される事業アセスメントよりもはるかに負担が軽いものともなり得るし、事業アセスメントの負担を軽減することも十分期待されるのである。

 本研究会は、環境庁企画調整局長の委嘱により二カ年にわたり内外のSEA関連事項を調査検討し、以下に示す我が国でのSEAが具備すべき原則、注意を要する事項をとりまとめた。SEAは、対象となる政策や計画等の多様性に応じ柔軟に考えられるべきものであるが、一方でSEA本来の機能を発揮するために必要な原則等は堅持されるべきと考える。なお、我々のとりまとめた原則は、EUの共通制度案や米国NEPAの内容とも符合しており、近い将来の世界標準と合致するものであると自負している。

 さて、我々が今、SEAの原則を明らかにした理由の一つには、こうした原則を踏まえつつ、各省庁、地方公共団体等で自主的なSEA実施の試みが広がることを期待したことがある。もとより政府において、国会からの要請にも対応し、制度化への検討が継続されるであろう。また、環境庁でも更に詳細な検討が行われるであろう。しかし、検討と並行して、実際のSEAの実例が積み重ねられることが、我が国におけるSEAの定着には有益と判断している。既に述べたように、SEAは不可能なことや過大な負担を要求するものではないし、我々の示した原則の範囲内で幅広い自由度を持つものである。各政策や計画等の策定主体の自主的なチャレンジを期待したい。