戦略的環境アセスメント総合研究会報告書
【参考資料2】諸外国におけるSEAの制度化の動向と主要事例

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2.諸外国におけるSEA事例

(1)計画・プログラムに適用されたもの

[1]CALFEDベイデルタ・プログラム(アメリカ):水域計画

1)概要

 カリフォルニア州のベイデルタは、サンホアキン川とサクラメント川がサンフランシスコ湾に流れ込む河口に位置する大きな入り江であり、750種類以上の植物、野生動物の宝庫であるとともに、カリフォルニアの工業用水、飲料水、農業用水として重要なものである。しかし、その管理及び保護の方法について数十年にわたって地域の合意が形成されず、動植物の生息地の減少、水質の劣化、沖積堤の喪失が進んでいた。

 1992年に州政府が水政策評議会を設置したことを契機に、1993年に連邦政府がベイデルタの保護・管理の調整のための連邦生態系理事会(FED)を設け、1994年に州政府と連邦省庁との間でベイデルタの水資源管理を図るための枠組協定が合意された。協定では、水質基準を設定し、水供給、及び絶滅に瀕した種の保護等に関する調整の改善を図ることと併せ、ベイデルタの生態系の健全性の回復や水の管理の改善を図る長期的かつ包括的な計画であるCALFEDベイデルタ・プログラムが実施されることとなった。

 

2)手続

 CALFEDベイデルタ・プログラムの実施主体は、ベイデルタの管理に関連する州及び連邦15省庁であるが、連邦諮問委員会法に基づき、州知事及び大統領から任命された水利用者や環境団体などの利害関係者から構成される「ベイデルタ諮問委員会」が長期的な解決に向けた中心的な役割を担っている。諮問委員会はフォーラムの開催などにより、市民参加を確保する役割も担っている。

 このプログラムでは広範な合意を得るため、当初、以下の3つの段階を経ることとされた。また、国家環境政策法及びカリフォルニア環境質法の規定に基づき、フェーズIIでプログラムレベルの環境アセスメントを、フェーズIIIで事業レベルの環境アセスメントを行うこととなっている(表1-1)。

表1-1 ベイデルタ・プログラムの3つの段階

フェーズI
~1996.9
ベイデルタが直面している問題の明確化、目的や要綱の決定、スコーピングや公衆の意見聴取等を経た上で代替案の考案を行う。
フェーズII
~1999.3完了
各代替案について、包括的なプログラムレベルの環境アセスメントを行う。さらに実施方針やプログラムの詳細を詰め、好ましい案を選択する。併せて、財政的な支出や担保手段を含めた実施方針を決定する。
フェーズIII
1999年~
事業が開始される。地域を特定した上で事業段階での環境アセスメントを行い、事業の許可が行われる。実施には数十年かかると思われる。

 1998年3月に、SEAの環境影響評価書の案がまとめられ、パブリックコメントが求められた。しかし、一般の人々には分かり難いものであったこと等から修正作業が行われ、1999年6月に環境影響評価書の修正案がまとめられた。1999年6月の修正案に対する意見を踏まえ、2000年には最終報告書が公表される予定である。最終報告書は、全18冊、6500頁にわたる膨大なものとなる予定である。これを踏まえ、フェーズIIIに移行し、各プログラムの具体化・実施の作業が行われる。

 

2)評価

ア)プログラムの作成

 フェーズIにおいて、問題を明確化するために、表1-2の8つの内容を含むプログラムが作成された。

表1-2 フェーズIのプログラム内容

 

プログラムの内容

生態系修復プログラム ベイデルタ内の水生・陸生動植物の生息地を改善・拡大させるとともに、絶滅の危機に瀕する動植物の種の回復・保存を図る。このため、デルタ内の生態系管理区域で、必要な土地を購入し、又は土地所有者からの協力を得て、重要な生態系のプロセスや生息地、種の修復、維持を行う。
水質保全プログラム ベイデルタの水質を持続的に改善し、生態系の保全や飲料水に適した水質を保持するため、代替水源の確保、水処理、その他貯水や水路に関するプログラム等を通じて、水質への負荷を削減するもの。
水の有効活用プログラム 農業用水管理理事会と都市用水保全理事会の協力により、都市水・農業用水の保全や水再利用プログラム及び湿地水管理プログラムを策定し、法的に遵守を促すとともに、ローカルレベルで財政的・技術的支援を提供するもの。
堤防の保全プログラム 堤防の安全性向上を図るとともに、増水時に対応した管理システムを整えるもの。
水移転プログラム 水の移転に関するクリアリングハウスの設置、承認手続きの簡素化、水路の活性化等を通じて、各セクター間の水の流動性を高めるもの。
流域管理プログラム ベイデルタ全体に有益な郡や市のプログラムに財政的・技術的支援を行うもの。
水路プログラム 水供給の安定、水質や生態系の改善等を図るため、既存の水路の改築等を行うもの。
貯水プログラム 地下水又は地表水を貯蔵することにより、水供給の安定、環境のための放水等のため、追加的な貯水のための施設を整備するもの。

イ)代替案

 生態系の修復、水質保全、水の有効活用、堤防の保全、水移転、流域管理については、フェーズIの段階で共通のプログラムが作成されたが、水路について3つの代替案が考案された(表1-3及び図1-1、1-2)。(また、それぞれの案毎に、625万エーカーフィート(約7.6km3))の貯水施設の新設・拡張に関する案が、合計12個、考案された。)

表1-3 代替案の内容

 

代替案の内容

代替案1
(既存の運輸システム)
既存のデルタの水路を活用し、ポンプの揚水量とダム等の貯水能力を若干向上させるとともに、可能な範囲でポンプ等の運用を変更するもの。
代替案2
(デルタ水運の改良)
サクラメント川からポンプ場までの水路を拡幅するとともに、生態系の修復、堤防の補修等を行うもの。

★水路拡幅
★堤防のセットバック

代替案3
(2重水路システム)
「二重水路システム」と呼ばれ、サクラメント川からポンプ場までの水路の拡幅と同時にデルタの東方に新たに水路を建設するもの。上質の河川水をそのままポンプ場に運ぶことにより、飲料水としての水質問題は一気に解決することが見込まれる。また、取水ポイントが上流になることから、魚をポンプに巻き込む危険性が低下する。

★別の水路
★上流部の取水施設

 

ウ)評価結果

 1999年6月に環境影響評価書の修正案では、3つの代替案から「望ましい代替案」が明らかにされた。「好ましい代替案」は、代替案2と代替案3の中間的なもので、代替案3のような大規模水路は行われないが、デルタの北方に新たな水路の建設を行うものである。重要な影響項目としては、表流水、地下水、地質・土壌、魚類・水生生態系、植生・野生動物、農業資源、都市的資源、レクリエーション資源、洪水管理、発電・エネルギーが選ばれ、各代替案(共通プログラムを含む。)間の比較評価が行われた(表1-4)。

 

表1-4 代替案比較マトリックス

 

出典:Calfed Bay- Delta Program 1999

 

図1-1 代替案1及び代替案2

出典:Calfed Bay- Delta Program 1999より作成

 

図1-2 代替案3及び好ましい代替案

出典:Calfed Bay- Delta Program 1999より作成

 

[2]ザーンスタッド住宅地域の土地利用計画(オランダ):土地利用計画系

1)概要

 アムステルダムの北に位置する北ホラント州のザーンスタッド地域では、地域内の5つの市町村が、1995年から2000年にかけて、5000戸分の住宅地を建設することについて政府と合意したため、同州は、ザーンスタッド地域の土地利用計画を改訂することとなった。

 ザーンスタッド地域は、直径約20kmに渡る泥炭の牧草地であり、酪農が行われている。また、数世紀にわたり、国際貿易に関する産業の中心地であったため、歴史的景観の保護や、生物の多様性の保護上、脆弱な地域であった。

 

2)手続

 本SEAは、環境管理法令に基づくものであり、州政府は約2年間かけて、当該計画の変更手続と並行して環境アセスメントを実施した。本SEAは、候補地の選定について行われたものであり、5000戸分の建設の適否に関する評価を行ったものではない。手続きの中では、州政府の様々な機関が顧問として関与し、また公衆参加や国家政府の承認を踏まえて実施された(表2-1)。

表2-1 実施された戦略的環境アセスメントの手続

1991年3月 

1992年4-5月

     7月 

1993年3月 

     7月 

      秋 

1994年1月 

北ホラント州による意向表明書の公表(~5月まで意見聴取)

環境影響評価委員会による条件の助言の公表

北ホラント州による最終的な意向書の公表(ほとんど変更なし。)

環境アセスメント報告書と土地利用計画改訂案の公表

公聴会の開催

環境影響評価委員会による審査

最終的な土地利用計画の決定の告示

 

3)評価

ア)代替案

 新設すべき住宅地5000戸のうち、約2000戸については、高価な費用を伴う土壌の浄化を必要とするものの、既成の市街地に設けることが可能であった。このため、3000戸分の住宅を新たな場所に設けるため、4つの地域を選定した。しかし、歴史的景観や多様な生態系に配慮し、3地域以上にまたがって建設する案は検討から除外された。4地域の内、1地域に集中的に建設する案(4案)、2地域にまたがって建設する案(6案)の合計10案と「ゼロ代替案」が検討された。

 ●代替案(10案+ゼロ代替案)(図2-1)

・ゼロ代替案

・1地域(4案)

・2地域(6案)

 

 

図2-1 10通りの配置案

出典:Marja van Eck"Case Study New Residential areas in Zaanstad,theland"

 

イ)評価項目と評価手法

 ザーンスタッド地域は、歴史的景観の保護や、生物の多様性の保護上、脆弱な地域であったため、環境アセスメントの実施に当たっては、特に公共交通機関以外の交通量の削減、及び生態系への負の影響を最小限のものとすることが重視された。環境アセスメントの手続と計画策定のための手続の両者に基づいてスコーピングが行われ、景観及び考古学上の影響、土壌及び表流水への影響、生物多様性への影響、移動交通及び輸送への影響、居住者の生活環境への影響の観点からSEAが行われることとなった(表2-2)。

 

表2-2 主な評価項目とその手法

項目

内容

風致、歴史的景観及び考古学上の影響 以下の項目について、専門家による定性的な判断が行われた。

・土地利用への影響
・景観への影響

土壌及び表流水に対する定性的な影響 ・貴重な土壌の損失
・表流水資源への影響
・水質への影響 等
植物、動物及び生態系への影響 ・土地占拠に伴い直接失われる貴重な生態系
・高い価値を有する生態系の間接的な損失
・保護生息域のネットワーク地域 等
移動交通及び輸送への影響 以下の指標が、運輸基盤と交通需要の基本的な分析により評価されている。具体的には、影響の予測は、市町村が有するザーンスタッド地域の交通環境地図に 基づくシミュレーションモデルのコンピューター処理により行われ、適宜、州政府の交通モデルや実地調査により補足した。また、公共輸送の使用頻度を評価するため、追加的に発生するボトルネックや電車の駅からの距離、雇用地からの距離、移動回数等のより基礎的な指標を用いて他のモデルにより評価した。

・車の走行距離
・公共輸送の使用
・追加的な道路の建設の必要性(多い、平均的、少ない)
・交通システムにおけるボトルネックの起こり易さ

生活環境への影響 ・騒音
・悪臭
・安全性
・公共機関の存在

 

ウ)評価結果

 主要項目のそれぞれについて、マルチクライテリア分析が行われた。これは、各項目毎に設けられた複数の基準に基づき、各分野の専門家がスコアを決定し、それに40%、15%等の重み付けを行ってスコアを集計する手法である(表2-3)。

 

表2-3 マルチクライテリア分析における重み付けの例

クライテリア 内容
風景と文化遺産の保存と開発
(100%)
a1:地域形態学or地質学的な地域or要素or構造のロス(20%)
a2:景観多様性のロス(30%)
a3:景観構造の結合性のロス(30%)
a4:文化遺産と考古学的価値のロス(20%)
土壌と水
(100%)
b1:過剰排水による地下水影響(40%)
b2:地下水と土壌への汚染物の拡散(20%)
b3:土壌沈殿のダメージのリスク(10%)
b4:地下水保存地域内or近辺の状況(30%)
自然保護と開発
(100%)
c1:(鳥類)動植物相多様な地域のロス(12.5%)
c2:植生多様性地域のロス(12.5%)
c3:価値の高い地域の擾乱(40%)
c4:エコロジカル構造の崩壊(35%)
生活の質
(100%)
d1:騒音(交通、産業、空港)(30%)
d2:景観環境(20%)
d3:安全性(20%)
d4:サービスへのアクセス(20%)
d5:地域住宅地による既存住宅地への影響(10%)
交通(100%) e1:鉄道駅までの距離(25%)
e2:その他の公共交通機関への距離(15%)
e3:主要道路までの距離(10%)
e4:雇用場所までの距離(20%)
e5:教育施設までの距離(10%)
e6:店舗までの距離(20%)
土地利用
(100%)
f1:農地のロス(40%)
f2:地中のケーブルやパイプへの影響(20%)
f3:リクレーション地域のロス(40%)

出典:Marja van Eck"Case Study New Residential areas in Zaanstad,theland

 

 この手法を用いて、最も優れた案を選出した。

 ここで、各代替案の騒音と安全性に影響を及ぼすアムステルダムのスキポール国際空港の開発が行われるか否か、1地区への新しい交通輸送機関が実現するか否かという大きな2つの不確実性があることが確認された。

 最終的には環境の観点から最も好ましい案が選定されたが、これは、地方自治体が当初提案した地域であり、環境の価値が比較的高くない地域に建設することを予定した唯一の案であった。しかし、SEAを実施することによってこの提案が補強され、結果的として住民の支持が特に高まることとなった。

 

 

[3]第1次廃棄物処理10カ年計画(オランダ):廃棄物計画系

1)概要

 オランダでは、非有害物質系の廃棄物の最終処理技術及び最終処理能力に関する廃棄物処理計画を、住宅・国土計画・環境省、州際協議会、オランダ自治体連合の3者の協力協定に基づいて設立された廃棄物協議機構(WMC)が作成し、3年ごとに改訂することとなっている。同計画では、処理能力と廃棄物発生量との関係、投棄場所を選定する際の基礎的条件等が定められる。ただし、廃棄物の発生量の削減やリユースは、本計画では取り扱うこととはなっていない。

 

2)手続

 環境面からの評価は、制度的に義務付けられているものではないが、第1次廃棄物処理10カ年計画(1992~2002)、第2次廃棄物処理10カ年計画(1995~2005)の策定に際し、廃棄物協議機構は、環境管理令の要件を全て満たしつつ、環境への影響に関する報告書を自主的に作成している。このため廃棄物処理計画のSEAでは、環境関連部局と一般市民との間の十分な協議、並びに独立したオランダ環境影響評価委員会による審査が行われている。具体的には、以下の手続でSEAが実施された(図3-1)。

 

図3-1 廃棄物処理10カ年計画の策定手続

1990.7:廃棄物協議機構(WMC)の設立

1991.4:「環境への影響に関する報告」が作成されWMCに提出

1991.8:「環境への影響に関する報告」のためのガイドライン作成

1991.末:廃棄物処理10カ年計画案作成

1992.2 :第1次廃棄物処理10カ年計画策定

 

3)評価

ア)シナリオと代替案

 計画の策定の前提となる廃棄物の最終処分量は、廃棄物発生量の抑制に関する政策が順調に実施された場合が基本的には用いられたが、廃棄物発生量の管理抑制が失敗し、大量の廃棄物を最終処理しなければならない事態についても併せて検討が行われた(表3-1)。

 

表3-1 廃棄物の最終処分量の推計

項目

1990 年

2000 年

現状

抑制政策順調

抑制政策失敗

投棄された廃棄物の総量

再利用量

残存廃棄物の総量

 

 

14,370

   32,235

23,566

8,669

34,769

21,758

13,011

分別されたクリーンな有機廃棄物

最終処理必要量 合計        

280

  14,650

2,634

   11,303

2,151

   15,162

注:政策シナリオの概要

・廃棄物の発生抑制と再利用に関する目標と役割の実施
・国家環境計画の目標の役割の実施
・廃棄物の発生と処理に責任を負う製造者/消費者の目標の実現
・特定の廃棄物のフローの新規政策の作成と規制強化
・産業分野の原材料の使用節減、製品の長寿寿命化
・クリーンな有機廃棄物及びその他廃棄物の回収、再加工
・欧州全体の廃棄物政策

 これらの廃棄物の処理に係る環境への影響を予測・評価するため、投棄や焼却を中心とする処理方法として、現行の政策に基づく「政策シナリオ」のほか、代替案が3種類設定された。また、検討のため、事前分別を止め、廃棄物はすべて焼却することとした参考案が設定された。それぞれの代替案の内容は表3-2のとおりである。

 

表3-2 代替案の種類と概要

種類

概要

政策シナリオ

(自然への投棄を最小限にし、焼却するケース)

・可燃性廃棄物の投棄は禁止し、すべて焼却する。

・既に制度化されている分別収集は継続し、それ以外の廃棄物は分別処理する。

代替案I

(焼却処理を最小限に抑制し、投棄するケース)

・焼却容量の規模を現在のままに保ち、その他の廃棄物は投棄する。

・事前分別の容量は拡張しない。

代替案II

(投棄を最小限、事前分別を最大限とするケース)

・可燃性廃棄物の投棄は禁止し、RDF化して焼却する。

・事前分別を最大限実施し、有機性の残存物は酵素分解し、可燃性の残存物は焼し、不燃性の残存物は投棄する。

代替案III

(焼却処理を最小限に、事前分別は最大限とするケース)

・焼却容量の規模を現在のままに保ち、その他の廃棄物は投棄するる。

・事前分別を最大限実施し、有機性の残存物は酵素分解し、その他は投棄。

 

イ)環境負荷の推計

 上記代替案ごとの廃棄物の処理量等は表3-3のように推計された。

 

表3-3 2000年度に最終処理される廃棄物の数量(単位1000t)

政策シナリオ 参考案 代替案I 代替案II 代替案III
焼却処理 混合廃棄物(有機性を含む) 3972 5117 2625  0    0
高カロリーの廃棄物(RDF) 782 0 75 3568 1825
残存廃棄物処理 361 274 0 652 0
自然への投棄 混合廃棄物(有機性を含む) 0 0 2376 0 0
不燃性の廃棄物 3698 3552 3574 4157 4157
高カロリーの廃棄物(RDF) 0 0 0 0 1743
残存廃棄物処理 398 409 548 359 896
堆肥化処理(composting) クリーンな有機性廃棄物 1170 1170 1170 1170 1170
汚染された有機性廃棄物 901 684 703 0 0
酵素分解
(バイオ処理)
クリーンな有機性廃棄物 780 780 780 780 780
汚染された有機性廃棄物 0 0 0 1628 1628
合計 残存廃棄物 8669 8669 8669 8669 8669
分別・収集 クリーンな有機性廃棄物 1950 1950 1950 1950 1950
汚染された有機性廃棄物 684 684 684 684 684
合計 最終処理 11303 11303 11303 11303 11303

 各代替案について、廃棄物処理に伴う環境負荷について予測を行っている(表3-4)。各処理案には、環境負荷の低い項目と、環境負荷の高い項目がある。焼却処理において最も懸念される環境要素として汚染物拡散項目と酸性雨項目の影響が挙げられた。

 

表3-4 環境負荷の予測計算値の一覧

有害物質/悪影響 単位 1990年
の現状

 

政策 参考案 代替I 代替II 代替III
事前分別最少の投棄 最少の投棄 最少の焼却 事前分別最大
最少の投棄
事前分別最大
最少の焼却
拡散 -重金属(Hg+Cd) kg 5457 5445 5696 3257 4632  2463
-PAH(多重芳香属炭素) kg  62 3.7 3.8  3.1 3.4   2.7
-ダイオキシン g 147 4.1 4.3  2.2   3.3 1.5
-有機物質  ton  792 202 211  359   228  303
酸性雨 -SO2 + NOx Meq.H 222 107 111   68   99   53
生活影響 -悪臭 1012ge 17 55  43   45   9    9
気象変化 -CO2 + CH4 kton 4349 -1496 -1525 -175 -1526 -494
エネルギー Pj 6.2 20.9 21.5 11.4 20.1 -9.6
除去 - 投棄残存物 kton 220 398 402  548   359   896
- 投棄化学廃棄物 kton 118 164 164 76 165 49
- 再利用可能残存物 kton 637 1802 1891 1316 1502 1043
空間占拠 ha 79 29 28  46   32   50

 

ウ)評価結果

 1991年に策定された「環境への影響に関する報告」のためのガイドライン作成では、最小の焼却、最大の事前分別と酵素分解の組み合わせが最も望ましいとされた。

 代替案IIIは、最小焼却/最大事前分別/酵素分解の組み合わせである。この案は、投棄すべき廃棄物の量が増大し、空間占拠の規模も拡大し、また、エネルギー回収量も減少するので二酸化炭素削減効果は限定されるが、汚染物質の拡散が減少する。しかし、代替案Iと代替案IIIは現在の焼却能力が拡張されないことを前提としている点で、計画策定の基本方針とは異なっている。

 代替案IIでは、代替案IIIと比較すると汚染物質の拡散は助長されるが、エネルギー生産は相当に促進され、空間占拠の規模はかなり減少する。代替案IIで採用している分別と酵素分解能力を拡充することは環境負荷を少なくするのに役立つものであり、代替案IIは、政策シナリオと比べて環境保護には有利と結論付けられた。

 計画段階の環境の視点からは、当該計画はフィージビリティー、環境インパクトの合理性、既存の環境目的との両立などの間の妥協案として適切であったとSEAでは結論づけている。大規模の処理施設で処理能力が十分ではないこと、技術的な経験も十分ではないことから、短期的には、予定通り、政策シナリオに基づき実施し、長期的には代替案IIが実施できるような状況を作っていくことが決定された。

 なお、本SEAは地域及び地元関係機関の十分な参加を得て実施されたため、SEAの結果や計画の結論は広く受け入れられ、全体としての評価は高まった。

 

 

[1]サン・ホアキン総合計画プログラム(アメリカ)

1)概要

 カリフォルニア州中部のサン・ホアキン郡は、約373,600ヘクタールを占める地域である。カリフォルニア州法により全ての郡や市は5年毎に総合計画を策定することになっており、1991年に2010年に向けての総合計画プログラムの検討が行われた。総合計画は、土地利用やその位置を記述するものであり、郡の将来ビジョンを示し、このビジョンを実現するための目的や方針等が定められる。また、2010年時点での人口や雇用を想定しつつ、新規住宅・商業・工業開発地域の開発と、5つの新規/拡張した住宅地を確保する提案がなされており、これについてSEAが行われた。

 

2)手続

 カリフォルニア環境質法(CEQA)では、環境に重大な影響を及ぼすことが見込まれる全てのプロジェクトに環境影響評価の実施を定めている。本SEAは、上記CEQAの手続に基づき、総合計画の開発提案に対する環境影響評価を実施したものである。このため住民参加等が行われた。

 

3)評価

ア)代替案

 本SEAでは、総合計画の提案と表4-1の5つの代替案が検討された。代替案では、環境インパクト項目すべてについて分析・評価が実施された(図4-2、4-3、4-4)。

 

表4-1 代替案の概要と人口及び雇用者数の比較

 

内容

2010年人口:人 2010年雇用:人

市街地・郊外
新/拡張住宅地
その他
合計

市街地・郊外
新/拡張住宅地
その他
合計

提案 総合計画での提案の内容。 662,200

111,800

667,000

840,700

250,000

16,300

32,600

298,900

プロジェクト無し代替案 既存の開発プロジェクト以外の新規プロジェクトは行わない代替案。既存の環境を変えない前提である。この案は、人口と雇用者数を2010年総合計画の提案の86%、91%に抑制するものであった。 659,800

-

60,900

720,700

249,800

-

24,800

274,600

市中心成長型代替案 総合計画案で提案されている5つの新規/拡張の住宅地は作らない案である。この案は市及び周辺部のみに環境影響がある案で、新規/拡張住宅用地は農用地のまま残すものであった。 659,800

-

67,700

727,500

249,800

-

32,600

282,700

分散発展型代替案 ・2010年の人口を740,400人と推計しているが、将来の発展が市及び周辺部と新規/拡張住宅地の双方で分散されると想定した代替案である。これゆえに、市中心成長型代替案に比べて、市及び周辺部の成長が低く抑えられている。この案は、総合計画案の提案よりも新規/拡張の住宅用地の開発面積が縮小された案である。 605,000

68,600

66,800

740,400

241,100

9,000

32,600

282,700

供給追加型代替案 この代替案では、2010年の将来人口を814,200人と推計しており、新規/拡張の住宅地の人口は総合計画案の提案より縮小しているが、トレイシー市の西南部郊外に6400ユニットが建設されると想定した案である。本案の開発面積は、総合計画案の提案面積にトレイ市郊外部の面積が追加されたものとなる。 678,800

68,600

66,800

814,200

252,900

9,000

32,600

294,500

2つの新規住宅地と市中心型代替案 ・5つの新規/拡張の住宅地をマウンテンハウスとフォレストオークの2地区のみを建設し、それと市中心型の成長を行うことを想定した案である。 702,900

40,800

67,300

811,000

254,400

5,900

32,600

292,900

 

ア)スコーピング

 以下のすべての環境インパクト項目(図4-1)が考慮されたが、地域の状況を踏まえて、農業用地、交通、大気質、植物資源の各項目(表4-2)についての影響が著しいものとされ、それらについて重点的な評価が行われた。

 

図4-1 環境インパクト評価項目

・土地利用と計画 ・地形、土壌、地震
・水文学、水質 ・交通・輸送
・大気質 ・騒音
・文化、考古学 ・景観
・公衆衛生と安全性(有害廃棄物、電磁波他) ・公共施設(上水道,下水道,雨水排水)
・公共サービス(火災、警察、学校、図書館、病院) ・財政インパクト

 

表4-2 著しい環境影響を与える恐れのある項目の概要

 

基本情報

インパクト分析

代償措置

農業用地 郡は、良好な気候と米国屈指の良好な土壌を有する。半分が最高級に分類される プロジェクトの推進上、必要以上の土地が使用されないかの評価が必要。推計人口値に関わらず、新住宅やビジネス用地の必要面積の土地が必要なのかを確認すること。

 この結果、15,100ヘクタールの最上級農地が、2010年までに住宅地となる。最上級農業地が失われることの影響は重大である。

・「影響コスト」の要求

・都市部の農地を併合する場合、代替用地の提供を推奨

・居住、商業地域指定から「農業都市保留」指定へ

・農業用最小区画単位の拡大

・隣接都市と土地利用の調整

交通

 

道路の「サービスレベル」はAからFまで。Aは流れのよい状態で、Fは渋滞の状態。ピーク時のサービスレベルの不足を評価。自転車ルートや路線バスや旅客鉄道の基本データも含む。  計画の交通影響は、全郡道でCレベル以下、無料道路や州高速道路でDレベル以下。

 分析の結果、全郡の自動車旅行は1990から2000の間に84%増加する。移動システムの能力に悪影響を及ぼしてサービスレベルを悪化させ、事故の増加をまねく。予測の結果、さらなる主要道路が必要とされたが、財政および環境的制約により実行性を制限される可能性がある。

・自動車移動の削減とトランジットの推進政策

・公共移動サービスの開発

・全郡的な移動の抑制、特にオフピーク通勤の推進

・成長制御対策

・新地域や開発区への車以外の移動手段の推進

・郡内の公共輸送システム拡大

・道路幅拡大など必要な改善

大気質 郡の大気質は、交通の増加により、悪化。地理的、気候的環境により、郡ではオゾン、一酸化炭素、PM-10が高レベルにあり、カリフォルニア州やUSの基準を上回る。  大気質への「重大な影響」の基準は、計画の進行が、現在又は将来の大気質に寄与するかどうかに基づく。州や国の大気質基準は既に上回っているため。

 結論は、2010年までに推定成長は、地域のオゾンやPM-10に重大な影響を及ぼす。予測では、大気汚染制御地域の地域計画の推定を遙かに上回る。これらの計画は、オゾンや一酸化炭素やPM-10が基準を満たすには、どれだけの排出低減が必要かを確認している。

・計画概要と大気質軽減計画関連要求への新規政策

・大気汚染を最小限にするための移動機関、地域計画機関、土地利用、雇用形態の隣接郡との協力協定への新規政策

・カリフォルニア大気法に沿い、郡内の成長を段階的に計画するような成長管理政策

植物資源 拡大する農業により郡の天然の植物の大半は無くなった。しかし、居住区では野生種や生息地が見られる。データを用い、5つの新規住宅地の詳細な生物学的情報も含む。データは、フィールド調査により補強された。 生物資源に対する重大影響は以下を含む。

・特別状況下の動植物の数や生息地影響

・居住区や野生種の移動による実質的な障害

・魚や野生の動植物の生息地の実質的減少

 最も重大な影響の一つは、約15,000ヘクタールの現在の生息地が都市部にかわること。

・景観のため、特に自然の樹木の使用を促進する政策

・広い生息地域を保護する政策

・湿地や、特別な状態にある種や、貴重樹木の保護

・特別な状況下の種の生息地の回復計画の補助や種の生息分類のデータベースの使用

・新規開発を遅らせ、既存の町の郊外の集中開発

 

ウ)評価結果

 代替案と総合計画案の提案について、潜在的な環境インパクトの比較検討が実施された。また、環境インパクト項目(土地利用、農業用地、水、排水等)の評価にあたり、各項目ごとに周辺郡の状況を考慮した累積的影響の評価も実施された。

 代替案の評価の結果、[1]のプロジェクト無し代替案と[2]市中心成長型代替案が環境面から優れている代替案とされた。

 本SEAでは、総合計画の提案によって開発用地に指定された土地の広さは、将来想定人口及び雇用数の増加を吸収するために必要な広さの2倍以上であると指摘し、5つの新規/拡張の住宅地を承認しないことが主な勧告であった。計画の採用時には、郡は5つの新規/拡張の住宅地開発のうち2つのみを定めることになった。

 

図4-2 分散発展型代替案

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注:将来の発展が市及び周辺部と新規/拡張住宅地の双方で分散されると想定した代替案である。市中心成長型代替案より市及び周辺部の成長が低く抑えられている。総合計画案の提案よりも新規/拡張の住宅用地の開発面積が縮小された案である。

出典:San Joaquin County Community Development Department"Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3"Baseline Environmental Consulting,1992 より作成

 

 

図4-3 供給追加型代替案

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注:新規/拡張の住宅地の人口は総合計画案の提案より縮小しているが、トレイシー市の西南部郊外に新規住宅地が建設されると想定した案。本案の開発面積は、総合計画案の提案面積にトレイ市郊外部の面積が追加されたものとなる。

出典:San Joaquin County Community Development Department"Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3"Baseline Environmental Consulting,1992 より作成

 

 

図4-4 2つの新規住宅地と市中心型代替案

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注:5つの新規/拡張の住宅地をマウンテンハウスとフォレストオークの2地区のみに限定し、それと市中心型の成長を行うことを想定した案である。

出典:San Joaquin County Community Development Department"Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3"Baseline Environmental Consulting,1992 より作成

 

(2)政策に適用されたもの

[5]西部穀物輸送法の修正(カナダ):法制度

1)概要

 1992年に、カナダ連邦農業省は、カナダの農業食品産業の競争力を高めるため、より効果的かつ効率的な輸送システムが必要であることについて州政府との合意に基づき、西部穀物輸送法(1983)に関する検討を行うこととなった。

 同法は、中西部穀物のカナダ国内の港への輸送を補償(補助金)するために連邦政府及び穀物輸送業者から鉄道への助成金を増大させ、カナダ西部、プレーリーの穀物をより低価格で生産し、輸出の促進を図ることを目的とする。

 

2)手続

 政策・計画案に対する環境影響評価を義務付ける1990年の閣議決定に基づき、農業省が、西部穀物輸送法に対してSEAを行った。

 SEAは、短期間に実施されたが、環境問題はプロセスの当初の段階から考慮され、政策の選択肢を決定するに当たっても重視されている。また、SEAの実施にあたり、政府担当者、経済、環境、農業分野の専門知識を有する民間コンサルタントからなる学際的検討チームが召集されている。さらに、モデリング・分析・評価の全ての段階で第三者の審査が実施された。

 

3)評価

ア)代替案

 現行の補助金の継続又は直接生産者に対する補助に切り替える案と、輸送システム全体の効率を高めるため、支線の廃止等により鉄道ネットワークの合理化を図り、貨物料金を再構築する案が検討された。具体的な選択肢は、以下のAからDの4つであった。

選択肢A: 輸送効率の改善と補助金支出の生産者への切り替えを行う。
選択肢B: 輸送効率の改善と生産者への補助金の導入を行う。
補助金は、耕地面積に応じて生産者に81%、鉄道に19%を支出。
選択肢C: 輸送効率の改善は行わず、補助金支出。
選択肢D: 輸送効率の改善を行い、補助金の支出は変更しない。

 

イ)評価結果

 影響の評価は、1.土地利用変化に伴う影響、及び2.交通輸送の変化による影響の2つの視点で行われた。環境項目は、土地利用の変化に伴う土壌、水質及び野生生物とその生息地への影響と、鉄道の支線の廃止に伴いトラック輸送が増大することにより燃料消費量及び大気汚染物質等の排出量が増大することによって引き起こされるオゾン層の破壊、気候変動、酸性雨、光化学オキシダントへの影響について検討を行っている。

 

あ)土地利用変化に伴う影響

 土地利用変化に伴う影響に関しては、モデルを用いて、各選択肢の採用による土地利用の変化とそれに伴う環境への影響の定量的な分析を行っている。

 各選択肢の環境影響は、選択肢Aで中立的、選択肢Bで正、選択肢Cで負となった。この結果は、土地利用による変化の大きさの傾向にほぼ一致する。選択肢Bが最も影響が小さく、Aが中間、Cが最も大きい影響を受けると予想される(表5-1)。

 

表5-1 土地利用の変化とそれに伴う環境への影響

  土地利用の変化   土壌への影響 水質・水量の変化 野生生物等への影響
選択肢A 牧畜と草地が一部の地区で増加する一方、夏に休閑する地区あり。 影響は中立的

牧畜・草地の増加で土壌浸食が減少し、土質が改善するが、休閑による土壌劣化あり。

わずかに悪影響

施肥量等の減少は、好影響だが、家畜の増加による水質汚濁のおそれがある。

好影響

草地の増加と施肥量等の減少は、好影響である。(但し、休閑は好ましくない)

選択肢B 多くの地区で草地が増加し、一部で夏に休閑する。 全体としては好影響

多くの地区で改善される。但し、一部で劣化する。

わずかに悪影響

A、Cと同様に、悪影響である。

好影響

草地が増加する地区が多く、最も望ましい案である。

選択肢C 休閑地が増大し、最大になる。 全体としては悪影響

休閑地の増大により劣化する。但し一部では改善される。

わずかに悪影響

A、Cと同様に、悪影響である。

好影響

草地増加と施肥量等減少のため、好影響だが、休閑地が多くA、Cには劣る。

選択肢D 小麦、大麦の生産が増加し、家畜の生産が減少、休閑地も減少するが、その程度は僅か。 中立的又は僅かに悪影響

草地が僅かに減少する。

中立的

家畜が減少する一方施肥量等が増加する

中立的又は僅かに悪影響

施肥量等が増加し、草地が減少する。

 

い)交通輸送の変化による影響

 鉄道の廃止とそれに伴うトラックの増加に伴う影響の分析を実施している。まず、廃止される可能性のある路線を特定するために、個々の路線についての検討を行い、高コストかつ輸送量の少ないA分類(総延長1769マイル)と、A分類に次いで廃止されるべきB分類(総延長1197マイル)に分類し、表5-2のシナリオを設定して分析を行った。

 分析は、トラック輸送量の変化、燃料消費量の変化、汚染物排出量などである。汚染物は、C0(一酸化酸素)、HC(ハイドロカーボン)、VOC(揮発性有機物)、PM(粒子状物質)、NOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄酸化物)である。結果は以下のとおりである。

 

<トラックの輸送量>

 全てのシナリオにおいてトラックによる輸送は増加する。現行ではトラックが年間595百万トン、鉄道が35000百万トンであるが、各シナリオによる増加量は表5-2のとおり。

<燃料消費量>

 燃料消費量は、カナダでは運輸部門が21%を占めている。鉄道に比べてトラックはおおよそ3倍の燃料消費効率である。特にシナリオ4の増加率が著しい。

<汚染物排出量>

大型トラックやディーゼル自動車がNOx、CO2等の主要排出源であるが、CO、VOCs、SO2の排出は少ない。

 NOx等の排出量については、シナリオ1~3では1%未満の増加であり、無視できる程度であるが、シナリオ4ではエネルギー消費量の11%以上の増加に伴い、大きな変化が見られる。

 

表5-2 シナリオの内容と環境影響

 

シナリオの内容

環境影響

トラック輸送

燃料消費

汚染物排出

シナリオ1 現状維持シナリオ(年間100マイルの廃止の継続) トラックによる輸送が毎年33百万トンの増加(2002年まで) 鉄道の支線の廃止による燃料の減少もあり、全体としては、西部カナダ地域における鉄道による穀物輸送のの0.3~0.7%と無視できる程度。 鉄道からトラックへのモーダルシフトにより汚染物が減少の見込み(NOx以外は0.7%以下、NOxは0.4%以下)。
シナリオ2 A分類の廃止(効率性の導入) トラックによる輸送が毎年58.4百万トンの増加
シナリオ3 A・B分類の廃止(補助金の支出方法の変更と効率性の導入) トラックによる輸送が毎年157.8百万トンの増加
シナリオ4 A・B分類の廃止とトラックへの代替の保証(補助金の変更に伴い、マニトバ州から50%から100%のトラックが直接サンダーベイ又はミネアポリスに移動) トラックによる輸送が毎年、1200から2500百万トンの増加 燃焼消費量の増加は11%に上る。 エネルギー消費量11%の増加に伴い汚染物排出量の増加が予想される。

 

 以上の環境面に関する検討の結果、効率性の導入や補助金支出方法の変更による土地利用の変化は22の穀物地域のうち6地域で起こるが、それらの地域の土壌や水質、野生生物への影響は中立的又は環境に好ましいものである。また、環境保全上最も望ましい案は、効率性を導入し、補助金支出の変更を行わない場合である。休閑地や家畜の増加に伴う影響が心配されるものの、適切な対策を講じることにより、環境上より望ましいものとすることが可能である。また、トラック輸送が増加することに伴う燃料の消費量やNOx等の排出量は、比較的僅かなものであると結論付けられている。

 なお、本法は、政府としては財政赤字への対応が必要という状況であったため、閣議に提案されるには至らなかった。

 

 

(3)代替案(複数案)の検討例

 環境庁は環境影響評価法の制定に先立ち、1994年から96年にかけて大規模な海外の環境アセスメント制度及び事例についての調査を実施した。このなかでは先進的なアセス制度及び事例が含まれ、SEA検討の参考となるものも多い。

 以下に掲げる小論は、この環境庁の調査で収集された情報を基礎に、実際に調査に従事した寺田前環境影響評価課長が執筆したもので、環境技術研究協会発行の「環境アセスメントここが変わる」に掲載されたものを著作権者の了解を得て掲載するものである。

 内容は3部に分かれており、第一部はオランダ政府作成の代替案作成のためのレポートの紹介であり、代替案をシステマティックに作ること、ひいては外部に対して代替案検討過程の合理性を証明する上で参考となるものである。第二部はアムステルダム国際空港(スキポール空港)拡張の環境アセスメント例であり、環境面の要請と経済社会面の要請を当初段階から整理した上で、代替案作成によるアセスメントに入った例である。第三部は、本報告書本文にも一部紹介した英仏海峡トンネル連絡鉄道の代替案検討の実例であり、環境と経済等他の要素を統合しながら代替案を作成し、絞り込むやり方の実例として興味深い。

 公的資料ではなく、私人の論文として発表されたものであるが、SEAに不可欠の複数案比較検討について、わが国ではこれまであまり例が無く、また海外の検討事例についてもその実態を詳細に調査した例も少ないことから、あえて参考資料として掲載することとした。

 事例として紹介されているアムステルダム国際空港拡張も英仏海峡トンネル連絡鉄道も既に工事が開始されているが、アムステルダム国際空港については、近年航空需要が急増したところから、既に現在の拡張計画でも航空需要に対応できないことが明らかになりつつあり、現在は現空港の移転をも含む新たなSEAが始まっている。

 なお、原典は以下のとおりである。

 

「環境アセスメントここが変わる」
編者 「環境アセスメントここが変わる」編集委員会(編集委員長 島津康男)
発行 環境技術研究協会 〒530-0043 大阪市北区天満2-1-20 天満松茂ビル4F
TEL 06-6357-7611 FAX 06-6357-7612

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