(1)調査
温室効果ガス等については、「1 2) (2) 調査の考え方」に述べたように、環境の状態を把握するための地域設定の必要はない。調査はシステム全体としての環境負荷低減の寄与を検討するためのシステム境界(地域社会、業界等)を設定し、そのシステムの範囲を検討範囲として調査を行うことができる。
この場合のシステムの範囲としては、温室効果ガスの削減対策の計画が定められている地域の範囲(国、都道府県、市町村)や当該事業の業種の範囲(電気事業者全体、企業内等)等が考えられる。
[2]調査項目の検討
調査は、主に文献資料により地域範囲に関わる事項及び工業系や業務・商業系の開発であれば当該業種全体に関わる事項について把握する。
(ア)地域情報に関する事項
ⅰ)温室効果ガス排出量の状況
・全体量
・部門別(産業部門、民生部門、輸送部門、エネルギー転換部門等)排出量
ⅱ)温室効果ガスの削減に係る計画等
ⅲ)温室効果ガス削減のために実施されている対策等
・地域冷暖房等の地域におけるエネルギー利用の効率化のための設備等の整備状況
・未利用エネルギーの有効利用設備等の整備状況
・温室効果ガス削減に寄与する住民活動等
ⅰ)温室効果ガス排出量の状況
・全体量
・活動区分別排出量
ⅱ)温室効果ガスの削減に係る計画等
・事業者(企業における計画)
・事業者団体
ⅲ)温室効果ガス削減のために実施されている施策等
・エネルギー利用効率化設備の状況
(2)予測
温室効果ガスの予測における検討事項としては、表4-1-3にまとめる事項が挙げられる。
表4-1-3 温室効果ガスの予測における検討事項
予測事項 |
予測内容 |
温室効果ガスの排出量 |
種類別排出量 |
温室効果ガス総排出量 |
|
環境保全措置 の内容 |
対策の内容 |
対策の実施者 |
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対策の確実性 |
|
環境保全措置による削減量 |
種類別排出量 |
温室効果ガス総排出量 |
温室効果ガス排出量の算定方法の基本的な手法としては以下の計算式がある。
(各温室効果ガス排出量)=Σ{(活動量)×(排出係数)}
(活動の種類について和をとる) (1)
(温室効果ガス総排出量)=
Σ{(各温室効果ガス排出量)×(地球温暖化係数)} (2)
各温室効果ガス排出量の予測には排出係数に関する情報を整理するとともに、活動量を算定する必要がある。以下に活動量の算定手法の例を示す。
人為的な二酸化炭素の排出は、基本的に燃料等の燃焼や原料の化学反応に伴うものである。二酸化炭素の排出量の予測は、これら燃料や原料の消費量から直接求める方法のほかに、各種活動に伴う燃料消費量を求める方法、ライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)注)のために用意された資材の製造での排出量等の予測の方法等がある。
注)「ライスサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)」
製品に係る資源の採取から製造、使用、廃棄、輸送など全ての段階を通して、投入資源あるいは排出環境負荷及びそれらによる地球や生態系への環境影響を定量的、客観的に評価する手法
この方法では基本的に(1)式の考え方によるが、燃料使用量が活動量となる。
(二酸化炭素の排出量)=Σ{(各種燃料消費量)×(排出係数)} (3)
この方法では、燃料に含まれる炭素分が燃焼により二酸化炭素に変化するとして排出係数が設定されている。また、原料の化学反応による二酸化炭素も考え方は同様であり、セメント製造においては炭酸カルシウムから化学反応によって放出される二酸化炭素分をカウントする。
なお、平成11年4月に制定された「地球温暖化対策の推進に関する法律施行令」において、温室効果ガス排出量の算定に必要な活動区分毎の排出係数について政令で定め、毎年度公表することとされている。従って、予測に用いる排出係数の設定にあたっては、毎年度定められる排出係数に留意し、最新の値を用いるものとする。
<参考文献>
・「地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく地方公共団体の事務及び事業に係る温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン」(平成11年8月 環境庁地球環境部環境保全課地球温暖化対策室)
・「温室効果ガス排出量算定に関する検討結果」(平成12年9月 環境庁温室効果ガス排出量算定方法検討会)
燃料消費量等を直接把握できない場合は、各活動量毎に燃料消費量を把握する必要があり、(4)式により燃料消費量を把握する。
(各種活動に伴う燃料消費量)=
Σ{(各種活動量)×(燃料消費原単位)} (4)
●自動車の燃料消費量
個別車種のメーカー公表値や全体平均値等の車種区分毎の燃料消費量が利用できる。
●建設機械の燃料消費量
建設機械は稼働時間当たりの燃料消費量が示されている。
建設機械の稼働時間については、国土交通省等が工事種別毎に建設工事の積算基準を設定しており、以下の資料が利用できる。
・「建設工事標準歩掛」((財)建設物価調査会)等
●建築物でのエネルギー消費
建築物で使用する照明、空調等によるエネルギー消費量については、建築用途別延べ床面積当たりの原単位として地域冷暖房の計画資料や以下の統計資料が利用できる。
・「建築物エネルギー消費量調査報告書」 ((社)日本ビルエネルギー総合管理技術協会)
面開発事業等において、用地に進出する個別企業が決定されていない段階での燃料消費量は、進出が想定される業種等をもとに概数として予測することになる。
この場合において統計資料に基づいて敷地面積当たりの原単位を作成する方法は、基本的に(5)式で行う。
(燃料消費量原単位)=(燃料消費に係る各種統計データ)/(各種統計量) (5)
なお、各種統計量としては、敷地面積、延べ床面積、製造品出荷額、従業員数等が考えられ、以下の統計資料が利用できる。
●業種別の敷地面積のデータ
・「工業統計(用地、用水編)」(経済産業省)
●燃料消費量に関するデータ
・「石油等消費構造統計表」(経済産業省)
(d)LCAのために用意された資材製造での排出量等の予測方法
事業者による直接の行為ではないが、消費する資材等の製造や廃棄物の処理・処分に関わる各種活動に伴って排出される温室効果ガスも含めて対象物の一生涯(ライフサイクル)を対象として環境負荷削減を検討しようとする手法としてライフサイクルアセスメント(LCA)がある。
この手法では、事業活動によって消費される製品や材料の原料採取や加工・組立といった製造、建設及び輸送等の複数の過程における環境負荷量を予め用意されたLCA用の環境負荷原単位を用いて検討することができる。温室効果ガスの排出量は基本的に(6)式により算定することができる。
(二酸化炭素の排出量)=
Σ{(各種活動量)×(LCA用に用意された原単位)} (6)
また、これらの原単位としては、以下の資料が利用できる。
・「建物のLCA指針(案)」(平成10年11月 (社)日本建築学会地球環境委員会)
・「建設業の環境パフォーマンス評価とライフサイクルアセスメント」(平成12年10月 (社)土木学会地球環境委員会LCA研究小委員会)
・「予備的LCAのための4,000品目の環境負荷」
(文部科学省金属材料技術研究所インターネット情報
URL:http://www.nrim.go.jp:8080/ecomat/J/ecodb/ecodb.htm)
・「産業関連表による二酸化炭素排出原単位」(平成9年2月 環境庁国立環境研究所)
メタン及び一酸化二窒素の排出量の算定は活動量に対して設定された排出係数を乗じる方法が採用されており、以下の資料が利用できる。なお、以下の資料については、他のハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)、六ふっ化硫黄の排出量についても算定方法及び排出係数がまとめられている。
・「地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく地方公共団体の事務及び事業に係る温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン」(平成11年8月 環境庁地球環境部環境保全課地球温暖化対策室)
・「温室効果ガス排出量算定に関する検討結果」(平成12年9月 環境庁温室効果ガス排出量算定方法検討会)
なお、算定式については前述した二酸化炭素排出量の算定式(1)式と基本的に同様である。
[3]環境保全措置
温室効果ガス等では環境保全措置による環境負荷削減の努力が環境影響の回避・低減に係る評価において不可欠であるが、その対策の実施及び効果の確実性が必ずしも確保されていない場合がある。そのため、環境保全措置そのものが予測の対象と考えることができ、以下の事項について検討する。
・対策の内容
・対策の実施者
・実施の確実性
(イ)検討事項
温室効果ガスの環境保全措置としては以下の事項を参考に検討する。
エネルギー消費量の抑制等の温室効果ガスの発生原因となる資源や資材の消費等の活動を抑制する対策。
(b)温室効果ガス発生原因となる活動等の効率化・合理化に関する事項
発電における発電効率の向上策等、設備の改善による環境負荷発生の削減対策。
(c)未利用エネルギーの活用等リサイクル的な対策に関する事項
コージェネレーションや廃棄物焼却廃熱等の未利用エネルギーを利用した一次エネルギーの消費量の削減等、リサイクルや未利用資源を活用する対策。
廃棄物の埋立処分場でのメタン発生は埋立層が嫌気的状態になっているためであり、準好気性埋立等の嫌気的状態を抑制する対策がある。このような一定の反応条件下において発生する温室効果ガスについて、反応条件を制御することにより発生を抑制する対策。
環境保全措置に基づき、削減量あるいは設定したシステム範囲内での総削減量を算定する。
温室効果ガス等における環境影響の回避・低減に係る評価としては、複数の環境保全措置の比較及び設定したベースラインとの比較によって、予測段階において検討した環境保全措置を前提に次の事項について記述する。
前提とした回避・低減措置について以下の観点から実行可能な範囲で最大限の措置となっているかどうかを評価する。
●事業的側面
事業目的を達成するにあたって、事業計画に盛られている計画諸元に基づく各種活動が最小の温室効果ガス排出となるよう配慮されているかを評価する。
●技術的側面
回避・低減措置が現状において採用できる先進的技術内容であるかどうかを評価する。
●経済的側面
回避・低減措置が事業採算性の範囲において最大限の配慮であるかどうかを評価する。
設定したベースラインからの温室効果ガス等の削減量を評価する。なお、温室効果ガス等におけるベースライン設定の考え方は後述する。
事業計画において設定できる複数の環境保全措置の中で、採用案が最も温室効果ガス等の排出量が少ないかどうかを検証する。なお、複数の環境保全措置は以下の事項を考慮して決定する。
ただし、事業計画の基本フレームは、経済的な側面等により、既に最適なフレームで計画されていることが多いため、基本フレームに関する複数案の設定が難しい場合がある。この場合には、計画の各諸元が環境配慮に対してどのような調整が図られているかを記述することが望ましい。
また、施設配置に関する複数案についても検討が必要である。
資源・エネルギー消費の効率化を図る設備等についての複数案については、一部「技術シート(本報告書 第5章)」にとりまとめる。また、次年度の環境保全措置の検討の中でとりまとめる予定である。
未利用エネルギー等の導入に関しては、一部「技術シート(本報告書 第5章)」にとりまとめる。また、次年度の環境保全措置の検討の中でとりまとめる予定である。
(d)環境保全措置の実施と効果の確実性
事業によっては建設事業者と運用者が相違するようなケースがある。この場合、環境保全措置実施の確実性を確保する方法について具体的に記述する。
また、環境保全措置の内容によっては、効果に不確実性がある場合や新しい技術を導入する場合等は、その不確実性の程度を記述するとともに、予測した削減量を確保する方策を記述する。
温室効果ガス等の排出に関わるエネルギー消費のうち、一般家庭の生活に係る原単位は現在でも上昇傾向にあるが、製造業や輸送等産業部門の原単位は減少傾向にある。
従って、ベースラインを設定する場合には単純に現在の値を設定するのではなく、基準年を設定して、その年次における原単位を採用して排出量を算出することも考慮する。
システム全体で評価を行う場合のシステム境界としては、地域的なものについては、行政区域を検討範囲として設定することができる。
ただし、現状では業界や、企業単位で温室効果ガス削減対策の目標を設定することが多く、当該事業における業界または個別企業の範囲をシステム全体として設定することも重要である。
【システム境界設定の考え方の例】
●地域的範囲を想定する場合
面開発事業における回避・低減措置の視点としては以下の2点がある。
・最新技術を適用した新規施設の建設
・種々の事業所や工場の集積的な配置
前者の視点からは、既存の同種の施設での実績をベースラインとして設定することが考えられる。ただし、産業界の技術革新により既存施設の技術が事業実施時点では適切でない場合は、既存施設の事例ではなく現状技術レベルをもってベースラインとすべきである。
後者の視点からは、各事業所が個別に存在する場合を想定し、ベースラインとして設定することが考えられる。事業所や工場が集積することで可能になる施策としては、廃熱のカスケード利用(工場からの廃熱の他の工場・事業所への再利用)等が挙げられる。
●業界の範囲または企業の範囲をシステム境界とする場合
電力や廃棄物処理等の供給・処理事業においては、企業(または地方公共団体)等が需要見込みに応じた長期の活動計画及び施設整備計画を策定している。このような計画は実需要に対して供給不足となることは想定していないため、事業活動量が経年的に増加する計画となることが一般的である。このため、環境負荷量の減少を見込むことは容易でない場合がある。
また、電力供給の場合では、二酸化炭素排出をはじめとする環境への配慮も重要である一方、安定的な電力供給という側面からは環境の配慮に対しては制約が加わることになる。例えば、現状では石炭火力の単位発電量当りの二酸化炭素排出量は他の化石燃料による発電に比べて劣っているが、一次エネルギーの安定的確保の面から全ての石炭火力を廃止することは現実的ではない。
このように電力事業においては個別の事業の中で温室効果ガス排出の回避・削減を評価するのは必ずしも適切でなく、より広範な範囲(電力事業全体または会社全体として等)をシステム範囲として設定し、施策体系として評価することが考えられる。
ベースライン設定においては以下の手順が考えられる。
ⅰ)長期計画に基づく活動量(例:電力では供給電力量)の想定
ⅱ)基準年の設定(現在または適切な過去の年次)
ⅲ)基準年の技術レベルに基づく温室効果ガス等の将来予測量
ⅳ)将来予測量をベースラインとする
評価は、以下のように考えることができる。
環境負荷の削減対策の改善は上記の計画に基づく施設の新・増設や更新及び改修に伴い実施されるものと考えられる。計画に基づく温室効果ガスの削減量を定量化して、その数値によって評価を行う。また、システム全体の中で当該事業の効果を表示しようとしてもごくわずかであることも想定されることから、温室効果ガス削減対策の体系のうち、当該事業を含む計画項目での効果を表示することも意義があると考えられる。例えば、当該事業がLNG発電を採用している場合に、電力業界全体でのLNG発電による温室効果ガス等の削減量への寄与の程度等の表示が考えられる。
個別企業の場合は、事業内容が発電のみでなく、他の事業と複合的になっている場合も考えられ、その全体での議論を行うことができる。
国や地方公共団体においては、環境基本計画や地球温暖化対策等の計画において温室効果ガスの削減目標等が定められており、その整合性を検討する。
なお、現在「気候変動に関する国際連合枠組み条約」の目的達成のためにCOP3注)で採択された「京都議定書」の発効に向けた国際的な取り組みがなされている。「京都議定書」が発効した場合、批准した各国は定められた削減目標達成の義務を負うことになり、我が国においても達成のために法律による規制等を含む対応が検討されている。その内容は現在では明らかでないため具体的な対応の方針を示すことはできないが、温室効果ガスの評価の指標については、このような社会的状況の変化を踏まえて考えることが重要である。
注)「COP3:気候変動枠組条約第3回締約国会議」
1997年12月に161カ国の参加のもと京都にて実施された国際会議。地球温暖化防止のための先進国における温室効果ガスの削減目標等の国際的な取り組みについて議論され、議定書が採択された。