土壌環境は、鉱物や有機物といった固形物の他、水や空気を含んでおり、植物の生育基盤となるとともに、多くの動物の生息する空間となっており、陸域の生態系や水循環系において重要な役割を果たしている。
従来の環境影響評価においては、土壌環境については、鉱工業の活動や農薬散布等に起因する有害物質による土壌の汚染といった観点から捉えられることが多かった。
しかし、土壌環境が環境中で果たしている多様な機能を考えると、環境影響評価を行うにあたって、有害物質による汚染という視点の検討では十分でないことも考えられる。
植物による有機物の生産や生産された有機物、動物の死体や排泄物の分解等は、土壌や土壌に生息する生物が多くの役割を担っており、土壌環境は陸域の生態系における物質循環の最も基盤的な役割を果たしているといえる。
また、大気中から地上にもたらされる水分は、地上においてはその多くが地表を覆う土壌により受け止められ、保水される他、大気中への蒸発、地下への浸透といった水の循環、さらには、土壌によるろ過・吸着や植物・土壌生物等による浄化作用というような水循環系において重要な役割を果たしている。
さらに、土壌環境は、物質収容の場としての機能も有している。
<土壌環境の機能>
水循環における機能:保水、通水、地下水浄化 等
生態系の構成要素としての機能:保水、有機物等の分解・蓄積、生物の生息場 等
生産機能:農作物等の生産 等
物質収容機能:物質の収容 等
土壌環境の有する物質収容機能並びに土壌環境が自然の生態系や水循環の中で果たしている役割を考えると、土壌は有害化学物質等を蓄積しやすく、また、土壌が有害化学物質等を蓄積するということは、循環系全体の汚染につながりかねないため、土壌汚染という観点からの検討は不可欠である。
しかし、土壌汚染の視点だけで、土壌環境への影響を捉えることは不十分であり、水循環系や生態系にとっての役割にも注目した環境影響評価が求められると考えられる。
例えば、開発事業において、土壌の掘削や移動が行われ、土壌の持つ機能や構造が変化するような場合には、水循環の観点や生態系の観点からの土壌の機能についても環境影響評価の項目として取り上げられるべきであると考えられる。
また、土壌の中には、学術的・希少性の見地から重要なものがあり、これらの土壌の保全についても環境影響評価においては考慮される必要がある。
以上のことを考慮すると、土壌の環境影響評価に当たっては、次の事項に留意する必要があると考えられる。
<環境影響評価にあたって留意すべき事項>
●土壌汚染の観点
●土壌の機能の観点
●その他