平成13年度第1回 騒音分科会
騒音分科会騒音分野における調査・予測・評価の進め方

(3)評価の考え方

 環境影響評価法における評価の考え方は、大きく下記のア、イの2種類があり、これらのうちアの視点からの評価は必ず行う必要があり、またイに示される基準、目標等のある場合には、イの視点からの評価についても必ず行う必要がある。
 ア及びイの評価を行う場合には、イの基準等との整合が図られた上でさらにアの回避低減の措置が十分であることが求められる。

ア 環境影響の回避・低減に係る評価

 建造物の構造・配置の在り方、環境保全設備、工事の方法等を含む幅広い環境保全対策を対象として、複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討すること、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討すること等の方法により、対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響が、回避され、又は低減されているものであるか否かについて評価されるものとすること。

  なお、これらの評価は、事業者により実行可能な範囲内で行われるものとすること。

イ 国又は地方公共団体の環境保全施策との整合性に係る評価

  評価を行うに当たって、環境基準、環境基本計画その他の国又は地方公共団体による環境の保全の観点からの施策によって、選定項目に係る環境要素に関する基準又は目標が示されている場合は、当該基準等の達成状況、環境基本計画等の目標又は計画の内容等と調査及び予測の結果との整合性が図られているか否かについて検討されるものとすること。

ウ その他の留意事項

  評価に当たって事業者以外が行う環境保全措置等の効果を見込む場合には、当該措置等の内容を明らかにできるように整理されるものとすること。

(基本的事項 第二項五(3))

 環境基準や規制基準等が設定されている騒音、振動については、上記ア及びイの評価を併用することが多い。従来の環境影響評価においては、一般的にはイの視点のみによる評価が行われていたため、特にアの視点による評価を行うための調査・予測・評価手法の選定には、手戻り等を生じないように十分な検討を行う必要がある。また、イの評価にあたっては、単に基準値と比較するだけでなく、予測結果の不確実性を踏まえた評価が必要である。ウの留意事項においては、事業計画と事業者以外の者が実施する対策等の内容・効果・実施時期がよく整合していることや、これらの対策の予算措置等の具体化の目途が立っていることを客観的資料に基づき明らかにする必要がある。

  また、イの評価にあたっては、留意事項*1で記載したが、環境基準は環境保全上維持されることが望ましい基準として定められる行政上の目標となるべきものであり、人の最大許容限度や受忍限度といったものとは概念上異なる。環境基準は幅広い行政の施策によって達成を目指すものである。それに対し、要請限度や規制基準等は、対策の要否を判定する指標であり、環境基準達成に向けて講じられる諸施策として考えられる。このような背景を理解したうえで、事業による影響を適切に評価する必要がある。

 騒音の評価においては、対象とする特定騒音について評価を行うことが一般的である。しかし、予測地域の地域特性等から、一つの特定騒音のみならず道路騒音と建設工事騒音など複数の特定騒音による複合影響が想定される場合は、複合騒音の影響といった観点からも評価を行うことが重要である。しかしながら、各種発生源からの騒音それぞれの特性が多様であり、評価量も異なるため、複合騒音の予測・評価方法等に課題は残る。したがって、複合騒音を直接評価することは現在のところ難しいが、例えば、個別に各々の特定騒音の影響の程度を把握し、相対的に複合騒音による影響を回避・低減の視点に立って評価する方法や、等価騒音レベルで複合騒音レベルを予測して、現況の騒音レベルや環境基準と比較する方法等が考えられる。また、基準等との比較による評価のみならず、対象とする特定騒音の発生状況(回数・継続時間等)を考慮して回避・低減の評価を行うことも可能である。
  振動の評価においては、多くの環境影響評価で振動の評価の指標とされている道路交通振動の要請限度が閾値(それ以下では人が感じることのできない値)に比較して高いことが現状において大きな課題として指摘されている*16。また、道路沿道の建物において、建物に伝達した振動が建物の振動特性に依存して増幅され、建物内での振動が感覚閾値以上になるといった苦情が多発しているという指摘もある。このような状況を踏まえ、振動については、感覚閾値等も考慮し評価を行うことが望ましい。さらに、最近では、全身振動評価の国際規格の改訂に伴い、建物内での人の振動に対する応答の評価方法について関係研究機関において検討中であり、評価に際しては参考とされたい。 基準が設定されていない低周波音については、「感覚及び睡眠への影響」、「圧迫感・振動感の評価」及び「建具等のがたつきの評価」等の評価指針値が関連研究機関等において検討中であり、評価に際しては参考とされたい。

【留意事項/事例】
・ *16 道路交通振動の評価(p.1-2-34参照) 自治体の技術指針や環境管理計画においては、道路交通振動の要請限度以外の指標を採用している事例も見られる。

 

  [1]回避・低減に係る評価の考え方

 回避・低減に係る評価は、事業者による環境影響の回避・低減への努力・配慮を明らかにし、評価するものであり、その手法の例として、複数の案を時系列に沿って若しくは並行的に比較検討する方法や、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討する方法が基本的事項に挙げられている。それ以外の手法としては、振動を感覚閾値で評価する方法や、低周波音をG特性音圧レベルや、家具や扉のがたつきの閾値で評価する方法、あるいは、現況よりも環境を悪化させないことで評価する方法等も挙げられる。このように、回避・低減に係る評価方法は様々であるが、事業者の環境影響を回避・低減しようとした視点を明らかにし、それに向けた努力・配慮を評価することが「回避・低減に係る評価」である。したがって、後述する「基準又は目標との整合に係る評価」とは異なり、統一的な考え方が存在するものではなく、地域特性や事業特性による当然異なってくるものである。*17
 道路に面する地域のように環境基準が設定されている場合、その達成が環境影響評価における必要かつ十分な条件として認識される場合があるが、予測の不確実性への対応や、環境影響を受けやすい施設への一層の配慮等を「回避・低減に係る評価」として明らかにすることが重要である。
 また、回避・低減に係る評価は「基準又は目標との整合に係る評価」とも強く関係しており、例えば、現状において環境基準を満足していないなど、基準等との整合が図られないため、より一層の回避・低減の措置を検討した場合には、そのような視点を明らかにして、双方の評価を併せて総合的に評価することが望ましい。

【留意事項/事例】

  • *17 回避・低減に係る評価(p.1.2-34~40参照)
    回避・低減に係る評価は、統一的な考え方が存在するものではなく、地域特性や事業特性による当然異なってくるものであり、既に以下のような多様な事例がある。
  • ・住居地域での建設作業騒音を予測した事例
    ・環境影響を受けやすい施設への一層の配慮を行った事例
    ・複合騒音の回避・低減に係る検討事例 ・低周波音をがたつきにより評価した事例
    ・基準の無い鉄道振動の評価事例
    ・環境監視により回避
    ・低減策を検討する事例

[2]基準又は目標との整合に係る評価の考え方

 基準又は目標との整合に係る評価は、国や地方公共団体が環境の保全を旨として策定した基準又は目標との整合性を明らかにし、対象事業の実施に関して、国・地方公共団体の視点から策定された環境保全施策に沿っているかどうかを評価するものである。基準又は目標には、規制基準のような事業者に対し遵守義務を課しているものもあれば、低公害車の導入のといったような努力目標もある。新幹線の環境基準のように、環境影響評価手続き終了後に基準の類型が定められるものもある。また、地方公共団体の環境基本計画等では、独自の目標や基準を策定している場合もある。評価にあたっては、このような基準又は目標の考え方を明らかにするとともに、基準値・目標値が設定されているのであれば、どの発生源の騒音・振動を評価の対象としているのか、その場合、どういった条件下での評価なのか、評価量は何か等を明らかにする必要がある。

(ア) 基準値又は目標値との比較の考え方
 基準値又は目標値との整合を検討した結果は、一般的に「達成している」、「達成していない」と表現されることが多いが、更に踏み込むと、「現況で達成していないため、達成できない」、「最大限の環境保全措置を行ったが、達成していない」、「基準を達成するまで環境保全措置を実施したため、達成している」、「達成すると予測されるが、予測の不確実性を考慮すると、達成しない場合も考えられる」等、様々な状態が考えられ、個々の状況に応じた事業者の実行可能な範囲内での環境への配慮*18は、当然期待されるものである。また、「基準を達成するまで環境保全措置を実施したため、達成している」場合や、「達成すると予測されるが、予測の不確実性を考慮すると、達成しない場合も考えられる」場合等には事後調査の実施を検討する必要があると考えられる。

(イ) 予測の不確実性の考え方
 予測結果には必ず不確実性が伴うため、定量的な基準や目標と比較する際には、不確実性の程度を十分に考慮しなくてはならない。不確実性の程度が大きい場合には、事後調査や、不確実性を考慮した環境保全措置の実施等が必要となることも考えられる。

(ウ) 基準又は目標と整合しない場合の考え方
 騒音、振動については、環境基準等の基準値等が設定されていることが多く、基準値の達成は当然求められるものである。しかし、工事用車両の走行による道路交通騒音や飛行場の拡張による航空機騒音等のように、既に騒音の影響がある場所に更に騒音の影響を付加するような状況においては、事業者の実行可能な範囲での環境保全措置の実施のみでは基準値の達成は非常に困難な場合がある。このようなケースにおいては、基準又は目標との整合が図られない理由・内容を明らかにするとともに、回避・低減の措置による事業の実施にともなう負荷分の低減の程度(低減率等)、現況の騒音・振動の状況の変化の程度等から、その回避・低減の措置に関して実行可能なより良い技術が取り入れられている否かを検討し総合的に評価を行う。

(エ) その他
 道路交通振動について要請限度を評価の指標として採用した事例が多いが、要請限度は、本来「道路管理者又は公安委員会に対し道路交通振動の防止のための舗装、維持又は修繕の措置を執るべきことを要請」するための指標値であり、環境影響評価の目標となりうる性格を有していないことに留意する必要がある。

【留意事項/事例】

  • *18 個々の状況に応じた環境への配慮の事例(p.1-2-40参照)
    ・予測の不確実性を考慮して、より一層の配慮を検討した事例

[3]その他の留意事項

(ア) 事業者以外が行う環境保全措置
  事業者以外が行う環境保全措置の効果を見込む場合においては、事業計画と事業者以外の者が実施する対策等の内容・効果・実施時期がよく整合していることや、これらの対策の予算措置等の具体化の目途が立っていることを客観的資料に基づき明らかにする必要がある。*19

(イ) 防音工事の考え方
 騒音について、最大限の環境保全措置を実施しても基準値を達成できない場合、防音工事*20を実施する場合がある。防音工事自体は法的にも位置づけられており、否定されるものではないが、環境影響評価における環境保全措置の検討に際しては、事業による環境への影響を回避し、又は低減することが優先されるものであることから、防音工事の検討に至るまでの検討経緯や実行可能な範囲での環境保全対策について、明らかにする必要がある。
 また、環境影響評価の手続きが終了した後、あるいは、着工後であっても、環境保全技術の開発等により、より良い環境配慮が可能となる場合があるため、継続的な検討の方針等についても検討することが望ましい。

(ウ) 一過性の影響に対する考え方
 騒音・振動・低周波音のについては、他の環境要素とは異なり、直接影響が環境中に残留しないことから、時限的な行為である建設作業騒音・振動等のように影響が一過性となることがある。その場合、影響の頻度や継続時間、発生時間帯等を考慮した評価の視点も重要であり、発破作業において使用する薬量を増やして回数を減らす場合や、建設作業において使用する建設機械を大型化して工期を短縮化する場合等には、柔軟な検討が望まれる。

【留意事項/事例】

  • *19 事業者以外の環境保全措置(p.1-2-41~42参照)
     事業者以外の環境保全措置は、他事業者による環境保全措置だけでなく、行政が行う環境保全措置も考えられ、騒音規制法に基づく自動車単体規制等も該当する。この場合、行政の施策が適切に実施される可能性や、達成年度等を十分に検討する必要がある。
  • *20 防音工事(p.1-2-43参照)
    防音工事に関する規定がある法令としては、以下のものが挙げられる。
    ・「幹線道路の沿道の整備に関する法律」
    ・「公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律」
    ・「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」 等

この章の目次へ戻る

次のページへ