平成13年度第1回陸水域分科会

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資料3-1河口堰

2. ケーススタディ -河口堰を例として-

2-0 対象とする地域と事業の想定

○ 本州中部の太平洋側に流入する河川を想定する。

○ 事業内容 図-2.0 (1) (2) 参照

  河口から5.0km上流に、可動式の堰を新たに設置する。 

・堰    長 :約550m
・堰    高 :約5.0m
・湛 水 面 積 :130ha
・常時満水位 :A.P.+4.0m
・総貯水容量 :5,800千m3
・取 水 量 :最大20m3/秒

○ 基本条件

・河口から5.0kmの位置に河口堰を設置する。また、堰設置と同時に幅約300mにわたって護床を敷設する。
・河口から3.0~15.0km の区間で低水護岸の設置、3.0~9.0kmの区間で河道の掘削を行う。

○ 運用方法

・水位の調節は、調節ゲートを操作することによって行う。
・平常時は、上流と下流の水位差が小さくなるように、流況に応じてゲートを調節する。ゲートの高さはA.P.+1.8~+2.4mの範囲で運用する。なお、海水位は大潮最大満潮時にはA.P.+2.2mとする。
・洪水時には、水流の妨げにならないように、全てのゲートを堤防より高く引き上げる。
・ 高潮時は、下流の水位がA.P.+2.3mを超えると予測された時は、全てのゲートを堤防より高く引き上げる。なお、A.P.+2.3mを超えると予測されない場合は、塩水のそ上を防ぐためゲートは全閉する。

2-1 地域特性の把握

(1) 地域概況調査

 既存資料調査、概略踏査及び専門家等へのヒアリングを行い、「動物」「植物」「地形・地質」等といった生態系に密接に関連する項目を中心とした情報を収集、解析することにより対象地域における生態系の概況を把握した。

(2) 全国的・広域的視点からみた対象地域を含む河川の特性

1) 全国的視点
 対象地域は、陸域生態系の区分である「生物多様性保全のための国土区分(試案)」(環境庁、平成12年度報告書参照)によると「本州中部太平洋側区域」に属する。また、陸水域生態系に関わる区分として、「淡水魚類相からみた地理区」(青柳(1957)、日本列島産淡水魚類総説)によると「旧北区中国地区日本本土地域の西南地方」に属している。

2) 広域的視点
 河口堰建設予定地を含む当該河川は、フォッサマグナの西側に位置し、本州の中部地域を南に流れ、途中いくつかの支流を合わせながら太平洋に注ぐ全長100km、最高標高800m、流域面積は1,000km2の河川である(図-2.1)
  流域の年間降雨量は1,000~2,000ミリ、年間総流量は約20億t、河口から10km地点における年平均日流量は60m3/秒である。
 河川横断工作物は河口から50km以内にはなく、河川の形態は上流域では瀬と淵が連続して存在し、中流域では広い河原もみられる。下流域は平野部をゆったりと流れ、河口より上流約10kmでは感潮域となり、河口近くには干潟もみられる。河床形態は河口から70kmより上流域ではAa型、河口から40~70kmの中流域ではBb型、15~40kmではBb-Bc型、その下流はBc型であり、河口~10kmの区間が感潮域となっている。また、海水は河口から約10kmまで侵入し、この区間が汽水域になっている。

(3) 河川の環境特性の把握

 事業実施区域は、当該河川の下流・汽水域であり、平野部をゆるやかに流れている。周囲は水田や畑が多く、河口に近い河川の周辺には丘陵地や市街地が広がっている。事業実施区域周辺の相観植生図を図-2.2に示す。
 河口から約10km地点より上流側は淡水であり、ここから下流側が汽水域になっている。また、河口から約20km地点までの区間に流入河川はない。河口部における塩分は河川流量によって異なるが、平常時では緩混合型となっている。河口から外側の海域では、沖合を流れる黒潮の影響を受けるため、流速は比較的早い。また、潮位差は大潮時で約2mである。
河川域に生育・生息する動植物の基盤環境の把握を目的として河川環境図を作成した。河川環境図の一部を図-2.3に示す。主に河川形態、河川敷の植生、構造物の設置状況等の基礎情報を地形図に整理することにより作成した。作成に用いた主な資料は以下のとおりであり、このほか現地踏査を実施して、状況の確認を行った。

地形図、海図
航空写真
植生図
干潟地形航空写真
国土交通省河川調査報告書

 作成範囲は、直接改変区域が15kmまで、湛水区間の上流端が8kmまでであることから、事業による物理化学的な環境要素の変化が20kmより上流までは及ばないと判断し、上流は河口から20kmまでの河川範囲とした。また、下流については河口地先の海域までとした。
 河川環境図をみると、汽水域にはゆるやかに蛇行した水裏側に土砂が堆積して干潟的環境になっている所がみられ、河口付近では砂洲状の干潟が形成されている。また、河口から3km地点の左岸には泥の干潟がみられる。10kmより上流の淡水域では、浅くて流れの速い瀬が所々にみられ、河床型はBb-Bc型が広く分布している。
 移行帯から陸域をみると、汽水域の移行帯にはヨシ原が分布し、淡水域ではヤナギなどの河畔林がみられるとともに、上流側では広い河原が存在する。河川敷の陸上部分は多くが耕作地、グランドなどに利用され、人工改変地となっている。

(4) 陸水域生態系の類型区分

 河川の環境は、流程方向にみると、連続的に変化してゆくことから、明確な区間区分は困難であるが、特徴を明らかにすることを目的として環境区分を行った。
河川環境特性図を作成した範囲において検討を行った(表-2.1 PDFファイル33K)。類型区分は、感潮域の範囲、河川形態、相観、塩分、底質、河川状況、生物の出現状況に着目して、想定した。すなわち、物理化学的環境と生物群集の組み合わせがまとまりとして認識できる特徴を抽出した。
 まず、河口と河口から10km付近を境にして、上流と下流では主に塩分に着目して大きく淡水域、汽水域、河口地先海域の3つに区分することができる。10km地点より上流については、さらに瀬や淵の分布状況などから、「流水域」と「流れの緩やかな淡水域」の細区分を想定した。また、10km地点より下流の汽水域については、塩分から「塩分の低い汽水域」と「塩分の高い汽水域」に区分することとした。
 陸域については、河口より外側の海岸には砂浜があり、海浜性植物がみられる。10km地点付近より下流側では干潟的環境があり、また、移行帯にはヨシ群落が分布している。上流は河畔林(ヤナギ林)が分布し、淡水域の上流部には広い河原が現れる。
 以上から調査区域は5つの類型に区分できると想定した。想定した5つの類型区分の分布は図-2.4に示すとおりである。想定した類型区分とその特徴を表-2.2に示す。

 各類型区分の中の環境も一様ではなく、横断方向的にもいくつかの環境に区分できる。すなわち大きくは「水中」、「移行帯」の要素で成立しているといえる。さらにその中をみると、瀬と淵、礫干潟と泥干潟、河原とヨシ原と樹林では生息する生物や動物の利用方法がそれぞれ異なると考えられる。各類型区分はこのような生息場所の組み合わせによって成立している。
なお、本資料では流程方向に長い河川の特性を考慮して、流程方向で区分したが、特に広大な汽水域においては、干潟上部から潮上帯にかけてのヨシ帯を中心とした干出時間の長い区域、干潟下部から浅場にかけての生産力の高い区域、光が届きにくい沖合の深みというように、地盤の高さ方向での生物の帯状分布を意識した区分も必要と考えられる。

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