(1)物理化学的な環境要素(基盤環境)の変化
1)調査・予測の流れ
調査・予測のフローを図-3.9に示す。
図-3.9 基盤環境と生物群集の関係の整理フロー
2)類型区分
①類型区分の再検討
スコーピング段階における類型区分をもとに、「植物」、「地形・地質」等の現地調査結果(地形分類図、植生図等)、既存資料、現地調査結果、他項目での調査結果を踏まえて類型区分の再検討を行った。再検討した類型区分を表-3.7と図-3.10に示す。
表-3.7 基盤環境と生物群集による類型区分
②各区分の生態系特徴
それぞれの類型区分における生態系の特徴について再整理を行った。
(a)類型区分Ⅰ
類型区分Ⅰに表現される山地渓流型河川は、山地の谷部にみられ、周辺は森林に覆われている。川幅は狭く、河川敷はなく、流路際まで山の斜面が迫っている。河川形態はAaⅠ型で、階段状の小滝が多い。河床材料は岩盤や巨石、人頭大の礫、ところにより砂利等が多くみられ、また、流倒木や落ち葉の溜まりがみられる。河岸にはミズナラ、サワグルミ等の群落が発達し、河川は完全に樹木に覆われている。両生類ではハコネサンショウウオ、魚類ではイワナが確認され、また、産卵場ともなっている。
(b)類型区分Ⅱ
類型区分Ⅱに表現される山地渓流型河川は、谷を流れる山地の渓流であり、河川沿いに平坦部はほとんどなく、山地の斜面が迫っている。河川形態はAaⅡ型であり、所々に小滝があり、早瀬と淵が多く、流入支流との合流点付近には中州や河原がみられる。河床はこぶし大から人頭大の礫が目立ち、粗砂等の細粒分も多い。また、直径2mを超えるような巨石もみられる。河岸にはミズナラ等の群落が発達し、河川の上空を完全に覆っている。両生類ではハコネサンショウウオ、アズマヒキガエル、魚類ではイワナ、ヤマメが確認され、また、産卵場ともなっている。
(c)類型区分Ⅲ
類型区分Ⅲに表現される中間渓流型河川は、山間部の谷間から平野に移るあいだの地域であり、河川形態は主にAa-Bb移行型である。川幅が広く、平瀬や早瀬、中州や河原がみられる。河床には砂利や粗砂の細粒分や人頭大の礫の浮石がみられる。上流と比較して河床勾配は緩く、流路が広い。両生類ではイモリ、カジカガエル、魚類ではアユ、アブラハヤ、オイカワが生息しており、これらの種の産卵場ともなっている。
(d)類型区分Ⅳ
類型区分Ⅳに表現される中流河川は、河床勾配は比較的緩く、川沿いには低地がみられる。流路の上空は完全に開けており、広い間隔で平瀬や早瀬が連続している。鳥類ではカワセミ、キセキレイなど、両生類ではイモリ、カジカガエルなどがみられ、魚類ではアブラハヤ、オイカワ、ヨシノボリ、カマツカなど種類が多い。水生植物ではバイカモ、コカナダモの生育する水域も認められた。
(e)類型区分Ⅴ
類型区分Ⅴに表現される止水域は、既存のダムの貯水池であり、湖岸には水位変動による裸地がみられ、陸域と水域は分断されている。鳥類ではオシドリ、マガモ等がみられ、魚類ではウグイ、ワカサギ、サクラマス等が生息している。
3)詳細類型区分
必要に応じて、生物の生息場所としての視点から河川形態等を加味して類型区分をさらに細かく区分した。
類型区分を細かく生息場所ごとに分けることにより、より詳細に生物への影響が把握できると考えられる。
区分する視点として以下のものが考えられる。
●地形支流・支流域区分 |
出典:昨年度報告書における類型区分にあたり着目する基盤環境要素(抜粋) |
4)影響要因、影響内容の検討
ダムの存在・供用時の影響は、地形改変及び施設の設置、貯水池の存在、河水の取水である。これらの事業による環境への影響フローを図-3.11に示す。
図-3.11 事業による環境への影響フロー
(2)基盤環境と生物群集の関係による生態系への影響予測
動植物の「生息場所」に対する事業の実施による影響を予測するという観点から、「生息場所」を成立させている基盤環境(物理的要素)の変化について予測を行った。
1)事業実施による基盤環境ごとの面積変化
①予測手法
各類型への影響についてはダムの堤体等の改変区域と詳細類型区分図との重ね合わせにより、各類型ごとの改変面積、改変位置等から影響の内容・程度について把握した。
②予測結果
事業の実施に伴い、区分Ⅲに相当する河川10㎞と区分Ⅳに相当する河川5㎞が貯水池になることから、消失する。
消失する区間及び距離を表-3.8に示す。
表-3.8 変化の程度
現 況 |
改 変 |
変化率 |
|
区分Ⅰ |
65㎞ |
0㎞ |
0.0% |
区分Ⅱ |
25㎞ |
0㎞ |
0.0% |
区分Ⅲ |
43㎞ |
-10㎞ |
-23.3% |
区分Ⅳ |
56㎞ |
- 5㎞ |
-8.9% |
区分Ⅴ |
1㎞ |
+ 2㎞ |
+200% |
2)流量・水温・水質の変化
①予測手法
流量はダムの運用方針、水力発電状況を参考に予測した。また、水温・水質に関しては、水環境における予測結果を用いた。
②予測結果
減水区間の流量の減少により、早瀬が減少し、平瀬が増加すると予測される。
貯水池からの放流水により、夏季における3-5℃程度の水温低下、および貯水池内における植物プランクトンの増殖によるBODの増加が予測される。
3)河床材料の変化
①予測手法
既存資料、類似事例、ダムの運用方針等からダム下流に流下する土砂供給量を予測し、下流河川の河床材料の変化を予測した。
②予測結果
ダムが供用することにより、ダム堤体より下流河川への土砂供給が減少する。それにより、粒径の小さい砂礫の供給がなくなり、また、現在存在する砂礫は掃流され、粗粒化する可能性が高いと予測される。また、ダム直下においては、土砂供給がなく氾濫頻度が減少することにより、礫間が埋まり河床が硬化するいわゆるアーマー化現象が起きると考えられる。
ここでは、スコーピングにおいて注目種・群集として抽出されたヤマセミ(上位性)、イワナ(典型性)、ヤシャゼンマイ(典型性)の3種についての調査・予測作業例を示す。
(1)ヤマセミ(上位性)
1)予測する影響の内容
ダム事業によるヤマセミへの影響フローを図-3.12に示す。
図-3.12 ダムの存在が注目種(ヤマセミ)に及ぼす影響フロー
これらのヤマセミへの影響のうち、ここでは生息環境の変化程度、繁殖への影響について検討する。
2)調査・予測手法の検討
①調査・予測手法検討の流れ
調査・予測手法検討の流れを図-3.13に示す。
図-3.13 調査・予測手法検討の流れ
②予測手法検討
事業実施に伴うヤマセミの好適な生息場所の消失の程度と繁殖への影響については、以下の2つの予測手法を用いて検討する。
(好適環境に関する予測) | |
好適な採食場所の変化に注目し、変化する面積の相対的変化量を影響予測の材料とする。 |
|
→好適性区分の面積変化量により影響予測する。 |
|
(繁殖への影響予測) |
|
個別つがいを単位として、事業実施区域と行動圏の位置的な関係から存続の可能性を判断する。ただし、行動圏の外郭が明らかでない場合、推定行動圏(繁殖のためのコアの部分として、ここでは半径1kmとする)を設定する。 | |
→存続可能つがい数により影響予測する。 |
③現地調査手法の検討
予測手法の検討結果をもとに検討した現地調査手法を表-3.9に示す。
表-3.9 現地調査手法
調査項目 |
調査項目の設定根拠と調査内容 |
環境利用に関する調査 |
ヤマセミの個体を追跡しながら情報をとるタイムマッピング法により行う。単位時間ごと(3~5分)に個体の位置・行動及び環境を記載する。 |
餌生物に関する調査 |
餌生物の確認は、双眼鏡等を用い、目視観察により行う。また、ヤマセミが吐き出したペリット(不消化物)を観察し、餌生物の種類・割合等を推測する。 |
生息状況に関する調査 |
ヤマセミの出現しそうな川沿いを踏査し、さえずり、実個体等を確認する。 |
なお、繁殖期に調査を実施する際にはヤマセミの繁殖行動に影響を与えないよう十分に注意する必要がある。
3)調査結果・予測結果の概要
①調査結果の概要
調査対象地域内におけるヤマセミの繁殖つがい数は6つがいであった。いずれのつがいも川沿いの土の崖に営巣していた。このうち、2つがいは貯水予定地に位置していた。営巣場所を中心とした活動範囲を図- に示す。
好適な場所に関する調査では、営巣場所としては土質の崖等が、また、餌場としては樹木の枝が水面を覆うような環境で淵となっている場所が好適であると判断された。
採食状況と営巣地に関する調査から、ヤマセミの繁殖好適エリアを図-3.14に示す。
また、餌として利用されていた生物は、5~20㎝程度のイワナ、ヤマメ、ウグイ等の魚類が大半であった。
②予測結果の概要
(a)個体の繁殖存続に関連する影響予測結果の概要
(好適環境に関する予測)
事業実施区域及びその周辺地域における河川沿いのエリアをヤマセミの営巣場所としての視点からみた好適さの程度と餌場としての視点からみた好適さの程度で区分した。また、事業によるそれらの消失割合を把握した。その結果を表-3.10に示す。
表-3.10 好適な生息場所の消失区間
好適性区分 |
現況/将来 |
消失割合 |
営巣場所A |
8.8㎞/7.5㎞ |
|
B |
15.9㎞/10.5㎞ |
|
採食場所A |
15.8㎞/5.8㎞ |
|
B |
10.4㎞/8.9㎞ |
注:好適性 A>B |
これらより、営巣場所として好適な環境の○%と餌場として好適な環境の○%が事業により消失することになり、これによりヤマセミへの影響が懸念される。
(繁殖への影響予測)
事業実施区域内に行動圏をもつ2つがいについては、生息場所の消失の影響を受けるといえる。
なお、湛水時期が繁殖期以外であれば、湛水により巣が消失しても周辺の類似した環境に移動することも考えられるものの、不確実を伴うことから、工事中、供用後に事後調査を行い、影響を確認する必要がある。
(b)生態系への影響予測結果
ヤマセミは渓流における食物連鎖の上位に位置する種であることから、本種が事業影響を受けることで、ヤマセミと捕食-被補食関係にある種及びそれらの種に関連した種々の生物に影響が及ぶと推測される。
つまり、ヤマセミの餌生物であるイワナ、ヤマメ等の魚類への捕食圧が変化し、それらの魚種構成や個体数にも影響があると考えられ、ひいては渓流域生態系への影響が懸念される。
さらに、ヤマセミと同様な環境に営巣する種、同様な生物を餌とする種などについても同様の影響があると考えられる。
(2)イワナ(典型性)
1)予測する影響の内容
ダムの供用に伴うイワナへの影響フローを図-3.15に示す。
図-3.15 ダムの存在が注目種(イワナ)に及ぼす影響フロー
これらのイワナへの影響のうち、ここでは生息場所の変化、水温・水質の変化、産卵場所の変化について検討する。
2)調査・予測手法の検討
①調査・予測手法検討の流れ
調査・予測手法の流れを図-3.16に示す。
図-3.16 調査・予測手法検討の流れ
②予測手法の検討
事業に伴う生息場所の変化、水温・水質の変化、産卵場の変化について予測を行う。
(生息場所の変化)
イワナの成長段階ごとに利用する河川環境を整理し、事業実施により変化する河川環境についてイワナが利用可能かどうかを予測する。
(水温・水質の変化)
ダム放流水の水温変化の予測結果をふまえ、既存文献等より事業実施後の水環境においてイワナが生息可能かどうかを予測する。
(産卵場の変化)
ダム下流側の河床材料の予測結果等より、イワナの産卵場としての適所と改変区域とを比較し、消失する場を予測する。
③現地調査手法の検討
予測手法の検討結果をもとに検討した現地調査手法を表-3.11に示す。
表-3.11 現 地 調 査 手 法
調査項目 |
調査内容 |
生息状況に関する調査 |
イワナの現存量を把握するため、投網や網の設置等によりイワナを捕獲し、体長等を測定したのち、成長段階ごとの利用環境の状況、生息密度の高い場所等を把握する。 |
生息環境に関する調査 |
河川形態、流況、水温、水質、河床材料、河畔の植生を調査し、イワナの生息環境を把握する。 |
産卵場の調査 |
イワナの産卵に適した砂礫質の河床材料のエリアを把握する。 |
3)調査結果・予測結果の概要
①調査結果の概要
現地調査結果により、調査地域周辺河川にはイワナが広く分布していることが明らかとなった。特に、○○支川との合流箇所や、○○沢の付近は生息密度が高かった。
イワナの生息環境は成長段階ごとに異なる。成長段階ごとの河川の利用環境を表-3.12に示す。
調査時期の水温は2.1℃~20.3℃、pH6.5~8.5、DO7.4~9.8mg/l、BOD0.5mg/l未満~2.0mg/lであった。
河床材料は場所により異なるが、砂礫、岩盤等がみられた。また、砂礫の区域で産卵場がいくつか確認された。
表-3.12 イワナの成長段階別の河川利用環境
産卵場 |
稚魚期 |
未成魚期 |
成魚期 |
||
支川 |
川幅1m |
利用する。 |
採餌場所 |
利用しない。 |
利用しない。 |
1~2m |
利用する。 |
採餌場所 |
採餌場所 |
利用しない。 |
|
2m以上 |
利用する。 |
採餌場所 |
採餌場所 |
採餌場所 |
|
本川 |
細い分流や閉鎖水域があれば利用する。 |
あまり利用しない。(岸辺や分流を一部利用する。) |
あまり利用しない。(岸辺や分流を一部利用する。) |
採餌場所 |
|
止水域 |
利用しない。 |
あまり利用しない。 |
あまり利用しない。 |
流入部や湖岸部を利用する。 |
②予測結果の概要
(a)個体の繁殖存続に関連する影響予測結果の概要
(生息場所の変化)
稚魚、未成魚の生息環境や産卵場には、川幅の狭い河川が利用され、成魚の生息環境としては川幅の広い河川が利用される。ダム湖内は稚魚、未成魚の生息環境や産卵場には利用されないが、成魚はダム流入部や湖岸を利用する。よって、ダム湖周辺のイワナの存続には稚魚、未成魚の生息環境や産卵場である川幅の狭い流入河川等が残存することが重要であるといえる。
(水温・水質の変化)
イワナの水温に対する生息適正条件は18℃以下であり、20℃以上では摂食できなくなるとされている。水環境の予測結果を用いると、ダムの供用に伴い、ダム直下の水温は夏季に2~5℃程度低下すると予測され、その他の時期はダム供用前と同様であると予測された。イワナは冷水域に生息する種であることから、この程度の水温の低下は影響を受けないと考えられるものの、魚の成長や成熟が進む夏季の水温が低下することにより、成長や成熟が多少抑制される可能性もある。なお、産卵期、稚魚の生育期における水温の低下はみられないことから、おおむねイワナの生息への影響はないと考えられる。
水環境において予測されたダム下流の水質は、夏季のある時点においてBODが0.5上昇し、2.5mg/lになるものの、その他の時期はダム供用前とほとんど変化がみられないと予測された。一般の魚類ではBODが5mg/lでも普通に生育できるものの、イワナ等の冷水域に生育する種は有機汚濁が進むと伝染性疾患にかかりやすくなるとされている。サケ、マス、アユではBOD2mg/lが自然繁殖の条件であり、3mg/l以下が生育の条件である。よって、水質予測結果の2.5mg/lは生育の条件を下回っているものの、自然繁殖は難しくなる値であるといえる。しかしながら、水質悪化の時期は繁殖時期でないことから、イワナへの影響は大きくはないと考えられるものの、何らかの影響は注意して観察すべきであるといえる。
(産卵場の変化)
現地調査において、流入支川ではイワナの稚魚、未成魚やイワナのものと考えられる産卵場が確認できた。これらのうち一部はダムの供用により消失するエリアであることから、ダムの供用によりイワナの産卵場は影響を受けると考えられる。しかしながら、ダム貯水区域の上流側、下流側にも同様な産卵場が確認されていることから、対象河川におけるイワナは存続を続けられるといえる。
(b)生態系への影響予測結果
本種の生息密度の高いエリアや産卵場となるエリアの一部が消失することにより、また、ダム下流河川の水質悪化に伴い、イワナの生息数に何らかの影響が出ると予測された。その結果、イワナを餌とする生物、イワナの餌となる生物、又はイワナと同様な生活を送る生物に影響が出ると予測される。さらに、イワナと同様の場所で生活を送るイワナの餌生物についても影響がでることから、さらにイワナの減少が考えられる。
(3)ヤシャゼンマイ(典型性)
1)予測する影響の内容
ダムの供用に伴うヤシャゼンマイへの影響フローを図-3-17-(1)に示す。
図-3-17(1) ダムの存在が注目種(ヤシャゼンマイ)に及ぼす影響フロー
これらのヤシャゼンマイへの影響のうち、ここでは冠水頻度の変化について検討する。
2)調査・予測手法の検討
①調査・予測手法検討の流れ
調査・予測手法の流れを図-3.17(2)に示す。
図-3.17(2)調査・予測手法検討の流れ
②予測手法の検討
事業に伴う冠水頻度の変化について予測を行う。
ダム下流河川の代表的な地点におけるダム供用前後の洪水時の水位を求める。水位算出には、河川横断面、地形図より読み取った河床勾配、粗度係数を設定し、マニングの平均流速公式に基づいた式を用いる。また、既存の流量データ、流域面積比から換算する。
③現地調査手法の検討
予測手法の検討結果をもとに検討した現地調査手法を表-3.13に示す。
表-3.13 現 地 調 査 手 法
調査項目 |
調査内容 |
生育状況に関する調査 |
ヤシャゼンマイの生育状況を把握するため、ヤシャゼンマイの生育場所を現地踏査より確認し、生育密度の高い場所等を把握する。 |
生息環境に関する調査 |
河川形態、流況、水温、水質、河床材料、河畔の植生を調査し、ヤシャゼンマイの生育環境を把握する。 |
冠水頻度の把握 |
既存資料から近傍観測所における過去からの洪水の履歴(日最大流量)等を把握する。 |
3)調査結果・予測結果の概要
①調査結果の概要
ヤシャゼンマイの生育域のうち、高密度に生育する場所は、○○沢左岸及び○○支川合流箇所下流側1㎞の両岸であった。どちらの生育域も渓流沿いの岩場であった。また、周辺にはオノエヤナギ、ヤマハンノキ等の生育が確認できた。
②予測結果の概要
(a)冠水頻度変化の予測結果
ヤシャゼンマイが高密度に生育する場所において水位変動計算を行った結果を図-3.18に示す。
いずれの生息域のヤシャゼンマイも、事業実施前の状況では年1回~10年に1回の確率で水没する位置に生育しているのに対し、ダム供用後には断面Aでは100年に1回の洪水でも冠水しなくなり、また、断面Bでは100年に1回の洪水時にのみ冠水することになると予測された。
図-3.18 水位変動の予測結果
(b)個体の繁殖存続に関連する影響予測結果の概要
(a)の冠水頻度の予測結果より、ヤシャゼンマイが高密度に生育する場所は、いずれもダム供用により100年に1度冠水する程度の場となることから、通常の陸上植物が繁茂し、ヤシャゼンマイは生息場所を失うと考えられる。
(c)生態系への影響予測結果
渓流帯特有のヤシャゼンマイが生育できなくなるということは、生物の多様性の観点から望ましくないといえる。また、ヤシャゼンマイと同様に河川の氾濫により維持された環境に依存して生息・生育する種として、河川中・下流域の砂礫地を好むカワラノギク、カワラハンミョウ等があげられる。対象河川では、中・下流域に流下するまでにはいくつかの支川が流れ込むことから、冠水頻度の低下はヤシャゼンマイが確認された位置ほどではないといえる。しかしながら、将来、各支川にそれぞれ何らかの洪水調節施設ができた場合、これらの種にも影響が及ぶと考えられ、ひいては生物多様性への影響、生態系への影響が懸念される。