平成13年度第1回陸域分科会

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表● 植物群ごとの留意点

1 維管束植物(陸生植物)

4 蘚苔類

2 維管束植物(水生植物)

5 付着藻類

3 海草藻類

6 植物プランクトン


表● 植物群ごとの留意点(1/6)

維管束植物(陸生植物)

-特性
・ここでとりあげた陸生植物は陸上で生活する維管束植物である。ただし、湿地や湿原に生 育する種を含む。

-調査手法

 

-調査時期 ・頻度
・生育量や生長量を測定する場合、落葉性の種は季節ごとに大幅な差があるため、被度の測 定には夏期、年間生長量の測定には秋期など、目的に応じた調査時期を設定する。
・種により観察、同定可能な季節が異なるため、年間を通じて必要な時期に調査できるよう 時期の設定に注意する。

-留意すべき影響要因
・湿性植物は、特定の地形・地質によって維持される複雑な水循環によって成立している場 合が多いので、生息地の直接的な破壊がなくても、水循環を妨げる位置での事業が大きく影 響することがある。
・田畑などの人為的な土地利用や、二次林の下草刈りなどの人為的管理に依存して生育する 種もあるので、事業に伴って周辺での管理が放棄されることによる影響を受ける場合がある。

-予測・評価手法

 

-保全方針検討の観点
・保護する種の生活史に関わる花粉媒介昆虫など、他の生物も含めて対策を考える必要があ る。

-事後調査手法
・上層木に変化はなくても、林床の低木・草本の種組成が変化することもあるため、重要な 植物群落や林床性の重要な種については、群落構造の変化の影響についても調査を行う必要 がある。

-事後調査期間

表● 植物群ごとの留意点(2/6)

維管束植物(水生植物)

-特性
・ここでとりあげた水生植物は水中で生活する維管束植物である。ただし、海水中で生活す るアマモ類等の海草については次項、「海草藻類」に記述する。
・夏から秋にかけての水位低下時に、水の引いた部分に生育する草本群落が存在するなど、 季節的な変動が大きいのが特徴である。
・生育場所が水域に限定されているため、池沼ごと、支流ごとなどに個体群が孤立している 場合が多い。

-調査手法
・水草は同一種であっても沈水形と抽水形、あるいは陸生形でまったく異なった形の葉を持 つことがあるので、同定する際には十分注意する必要がある。
・水中に生育する沈水植物や小型の単子葉植物を現地調査で見落とさないよう注意が必要で ある。
・植物相調査の調査地点は対象となる水域の形態、地形、底質など基盤環境のタイプを網羅 するよう設定する。

-調査時期・頻度
・季節的な変動が大きいため、調査時期を適切に選ぶ必要がある。

-留意すべき影響要因
・事業に伴う水の濁りや水質、水位などの変化に影響を受けやすい。

-予測・評価手法
・洪水による実生のセーフサイトの出現や種子散布など、生活史における水環境変動への依 存度が高い種が多いため、個々の種の生活史が、水環境にどのように依存しているかを明ら かにしたうえで評価を行わなければならない。

-保全方針検討の観点
・水域や湿地だけでなく、集水域を含めた環境と水質の保全が必要である。
・水位の変動が必要な種、群落も存在する。各々の生育条件に応じた維持管理が必要である。

-事後調査手法

 

-事後調査期間

表● 植物群ごとの留意点(3/6)

海草藻類

-特性
・海草のアマモ類は海藻のホンダワラ類・ コンブ類などと同様に藻場を構成することが多 く、コアマモのように減少傾向にある種もみられる。このような藻場を構成する海藻草類に ついては、生態系項目の注目種として調査が必要となる。

-調査手法
・海藻草類には、潮間帯の一部や汽水域の一部など、局所的に分布するものがあるので、既 往知見をよく収集した上で、海藻草類の分類に精通した技術者による全体的な踏査(潜水観 察・採集を含む)を行い、重要な種の見落としがないようにすることが重要である。
・潮間帯のように狭い範囲内で海藻藻類の採集を行う際には、あまり広い面積で採集すると、 調査による影響が生じることがあるので注意が必要である。1ヶ所の広い面積で採集するよ り潮流・潮位・干満の状況・水深・基質などを考慮して、様々な環境から少しずつの面積で 採集する方が重要な種の調査に適している。

-調査時期・頻度
・海藻草類は、種類によって繁茂期が異なるので、少なくとも季節変化が把握できる程度の 調査頻度が必要である。ただし、冬季に波浪が高くなるような海域では、浅海部での調査に 危険性が伴うことから、省略または時期をずらす事もあり得る。

-留意すべき影響要因
・海藻草類への影響に関しては、基質、光環境、水温、塩分などが重要な環境要素である。 予測・評価は、重要種の生理・生態特性(好適な生息条件)を十分に踏まえて行う必要がある。

-予測・評価手法
・海藻草類の生活史を踏まえた、遊走子や種子などの供給源(ストックヤード)についての予 測・評価も重要である。

-保全方針検討の観点
・海藻草類は、一般に環境要素の変化に敏感であることから重要種の生理・生態特性(好適 な生息条件)を十分に踏まえた保全措置の検討を行う。
・海藻草類は、海域の様々な環境要素のバランスの上に生息しており、移植による保全は極 めて困難である。保全に当たっては生息場所の環境要素の保全を最優先とする。

-事後調査手法
・過度の採集は重要な種への影響を生じさせるので、採集による調査は極力控え、目視観察 や写真撮影等を主体として調査する。

-事後調査期間

表● 植物群ごとの留意点(4/6)

蘚苔類

-特性
・各都道府県のコケ植物フロラは維管束植物レベルほどには解明されていない。
・コケ植物にとって良好な生育環境は維管束植物と必ずしも一致しない。
・大気汚染などの生物指標として用いられる事がある。

-調査手法
・植物体が小さいので野外での同定や再確認、定量的解析が難しい。調査に多くの作業と時 間を要するため、調査は維管束植物とは別に行なう必要がある。

-調査時期・頻度

 

-留意すべき影響要因
・絶滅の危機に瀕しているコケ植物は維管束植物に比べて特定の環境に依存する種が多く、 生育地の消滅がそのまま種の絶滅につながる可能性が大きい。

-予測・評価手法

 

-保全方針検討の観点
・コケ植物は水文環境が変化しただけで枯死してしまう場合もあり、微環境の変化に生育状 況が左右されやすい。このため、「移殖」「代替生育地の確保」「環境創造による復元」等に よる保全ではなく、現在の生育環境や水系全体の保全を検討する必要がある。

-事後調査手法

 

-事後調査期間

表● 植物群ごとの留意点(5/6)

付着藻類

-特性
・植物相を把握する一環として調査を行うが、むしろ水域の基礎生産・栄養塩の固定、餌と して底生生物やアユなど上位の栄養段階へのエネルギーの伝達機能などが重要であり、重要 種としてよりむしろ生態系調査項目としての重要性が高い。

-調査手法
・河川の中流域の基礎生産者として重要な役割を果たすので、調査対象範囲に中流域が含ま れる場合は、調査を実施しておくことが望ましい。
・アユの餌として付着藻類をみる場合は、クロロフィル量、強熱減量なども同時に分析して おくと良い。また増殖速度(生産速度)の分析が必要になることもある。
・植物相調査の調査地点は対象となる水域の形態、地形、潮流・干満の状況、底質など基盤 環境のタイプを網羅するよう設定する。また水質や魚類、底生生物等の調査地点と同一とし ておくことが望ましい。

-調査時期・頻度
・付着藻類の現存量は短期間に大きく変化する。目的により調査頻度を検討する必要がある が、植物相の概要を把握するための調査ならば季節変化が把握できる程度の調査頻度で良い。
・水質等の調査と併行して現存量、種類等の季節変動が把握できる回数を実施する。

-留意すべき影響要因

 

-予測・評価手法
・生態系の機能に関連して、クロロフィル量や生産力の変化などに関する予測評価を行うこ とがある。

-保全方針検討の観点
・アユをはじめとした上位の動物の餌として保全を検討することがある。日照、水温、栄養 塩、流速、濁りなどの要因について保全措置が必要となる場合がある。
・中小洪水は一時的に付着藻類の現存量を減少させるが、微少な堆積シルトや活性の低下し た部分を剥離させ、新鮮で活性が高くなるように更新させるので、自然の流況変動も重要で ある。

-事後調査手法
・水質の有機汚濁の変化を付着藻類の種組成でおおまかに知ることができ、生物指標として 利用できる。
・種組成、特に主要種の変化などに注意する。

-事後調査期間

表● 植物群ごとの留意点(6/6)

植物プランクトン

-特性
・富栄養化などの生物指標として用いられる事がある。
・流れのある陸水域では、付着藻類の剥離した流下藻類が多く、本来の植物プランクトンは きわめて少ないので、調査対象から外すことが多い。
・植物相の把握以上に、基礎生産、栄養塩の固定等の機能への影響あるいは、赤潮種や毒性 種への影響が重要であり、生態系調査項目としての重要性が高い。

-調査手法
・重要な種が含まれる可能性がない場合には、植物相を把握する一環として調査を行なう。
・調査地点は、海水の分布状況から検討する。つまり、海水の性状が均一と推定されるよう な開放域では、調査点は少なくて良い。また、調査海域が汽水域、湾内、湾外というように 海水の性状に差のあると推定される場合には、それぞれの海域に調査点を配置することが望 ましい。また、鉛直分布に違いがあると想定される場合には、層別に調査することが望まし い。淡水でも同様のことが言えるか?
・ダム事業では事前の河川での調査はあまり意味がなく、むしろ近隣のダム湖や湖沼の状況 を調査しておく方がよい。

-調査時期・頻度
・植物プランクトンは流れとともに移動するだけでなく、生活史も短いため、厳密に植物プ ランクトン相を把握しようとすれば、時間的に密な調査が必要となる。しかしながら、重要 な種が含まれない場合にはその概要を知る程度で良く、現存量、種類等の季節変化が把握で きる程度の調査頻度で良い。ただし、冬季に波浪が高くなるような海域では浅海部での調査 に危険性が伴う事から、省略または時期をずらす事もあり得る。

-留意すべき影響要因

 

-予測・評価手法
・生態系の機能に関連して、植物プランクトンの密度変化や生産力変化などの予測・評価を 行うことがある。その際には、種としての予測・評価より、植物プランクトン全体としての 機能の予測・評価が主体となる。 ・ダム事業では、周辺の既設ダム湖の状況などを参考にして、淡水赤潮やアオコの発生ある いはカビ臭などの原因となるプランクトンの発生を予測・評価することが必要である。

-保全方針検討の観点
・生態系の機能に関連して、停滞域の増加、物質循環への阻害等に対する環境保全措置が必 要となる場合がある。

-事後調査手法
・植物プランクトン相に著しい変化がないか否かを調査する。特に、主要種の変化、赤潮種 や毒性種の増加などに注意する。
・富栄養化等の生物指標としても用いられることがある。

-事後調査期間
・海域の植物プランクトンは、陸水域に比べて季節変化の周期が安定しておらず、海流等に よって年毎に植物プランクトン相や出現量の異なることが多い。そのため、短期間の調査で は変化の有無が判定できないことが多いので、できるだけ長期間にわたって調査を継続する ことが望ましい。

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