基盤環境調査の捉え方の一つの事例として、地形・地質、地下水位・植生などから生態系を環境ユニット区分を通して解析する例を紹介する。本題はミティゲーションのための研究であるが、以下、基盤環境の捉え方を中心にまとめた。
はじめに:
生物多様性の保全を目的としたミティゲーションとして、環境ユニットモデルを用いて谷戸の復元計画を立案した。低湿地である谷戸が開発されるため、新しい場所に谷戸を造成し、それに谷戸の主要な生物を移す計画である。計画立案にあたっては、現在の谷戸の生態系を環境ユニットモデルによって把握し、それと類似した環境ユニットの組み合わせを再現することによって、生物相の保全を計画した。
方法: 景観生態学的なアプローチ
環境ユニット*図の作成のため、地形・土壌・地下水位・植生の4つの要素を用いた。これらについて現地調査を行い、1/500で図化した。
*環境ユニット:地形・土壌・水環境・植生などの環境要素の組み合わせとしてとらえられる単位性をもった空間。複数の環境要素がその内部において均質である単位空間
結果:
ゲオトープ図の作成
土地的環境要素(地形・土壌)相互のオーバーレイにより分析し、17の土地的自然単位が得られ、これに地下水位の違いを考慮し、最終的に19個の土地的環境要素が均質な単位空間によるゲオトープ図を作成した(図6-1-1)。
エコトープ図の作成
現存植生図(図6-1-2)(生物的環境要素)とゲオトープ図(土地的環境要素)をオーバーレイし、最終的に50の生態的単位空間からなるエコトープ図(図6-1-3)を作成した。
ゲオトープとエコトープとの関係性
ゲオトープの上にそのゲオトープが成立を許容する複数の植生が成立して、エコトープを形成。1個のゲオトープ上に遷移段階などの特性の異なる植物群落が群落環をなしてモザイク状に存在し、その一つ一つがエコトープとなっている。
ミティゲーション
[1]目標設定および内容
ミティゲーションの目標を生態系の復元を図ることとした。そのため、以下の目標を設定した。
・現在とできるだけ同じ環境を復元すること
・生物相のすべてを保全すること
生物相の保全に当たっては、現実にすべての種を対象として計画を立てることは困難であるため、指標種・象徴種・希少種・生態系構成基本種・動物生息環境種・特定植物依存種の6つの基準から種を選定し、保全目標種とした。
これらは、その種の生存が保障されることによって、その他多くの種の生存が保障されるいみを持たせている。
[2]保全目標種と環境の対応関係
そして、保全目標種とそれらの生息場所となっている環境ユニットとの対応関係を把握した(表6-1-1(1) 表6-1-1(2))。この結果、保全目標種の生存を保障するためには、現存するすべてのエコトープが必要であることが明らかとなり、復元する谷戸には現存の谷戸のエコトープをすべて再現することとした。
出典: | 日置佳之ほか(1998)環境ユニットモデルを用いた谷戸ミティゲーション計画-国営ひたち海浜公園常陸那珂港沢田湧水地における生物多様性保全の試み-.保全生態学研究,3,9-35 |