平成13年度 第1回海域分科会

第3部目次へ戻る

2 地形・地質

(1)調査・予測・評価項目の検討  

(2)調査

1)地形・地質に関する調査

2)重要な地形・地質に関する調査

3)調査地域、期間、時期

(3)予測

1)予測項目と方法

2)予測地域、時期の設定

(4)環境保全措置

1)保全方針の設定

2)環境保全措置の検討


(1)調査・予測・評価項目の検討

 調査、予測及び評価手法の設定にあたっては、スコーピング段階で明らかにされた環境保全の基本的な考え方や公告縦覧時の意見を踏まえ、事業の影響に対する適切な環境保全措置を検討するために有効な予測・評価項目を設定する。さらにその予測及び評価のために必要となる具体的な調査項目・手法と必要な調査量(時期、地域、地点数等)を順次検討し設定する。このとき、文献その他の既存資料によって情報を整理・解析した上で、対象地域の地形・地質の現況を明らかにするのに適した手法を選定する必要がある。
 また、調査・予測等の手法の選定に際しては、常に学術分野の新しい研究成果や調査技術に注目し、効果的で実用性の高い手法を積極的に導入すべきである。
 なお、環境影響評価の対象とする「地形・地質」とは、環境保全の観点からとらえられる地学的な対象である「地形」、「地質」、「自然現象」とする。この場合、防災的な観点は環境基本法で言う「環境保全」の範疇に含まれていないが、地域の動植物や生態系、また人の生活環境としての基盤を将来にわたって保全するという観点から、地すべり地形など災害と密接な関係のある事象、地形改変に伴う土地の安定性の変化等も「環境保全」としてとらえることが望ましい。
 また、地形・地質の改変は、動植物、生態系、ふれあい活動の場、土壌、大気環境、水環境等に直接的、間接的に影響を及ぼす。したがって、地形及び地質の影響の予測結果に応じて、これらの関連する要素については予測・評価を行う必要があり、相互の関連性と記述内容の整合性について十分留意する。

(2)調査

1)地形・地質に関する調査  

 対象地域全体における地形、表層地質の現況調査を行い、それらの状況等についてまとめるもので、重要な地形・地質の調査・予測・評価のための基礎的情報の収集、生態系等の他の項目の調査・予測・評価のための基礎的情報の収集に着目して実施する。
 地域特性の把握に際しては、対象地域の地形・地質の特性について、広域的な位置づけが把握できるよう留意する。
 地形・地質の改変は、土壌環境、水環境などに影響を及ぼし、さらにこれらに依存する動植物や生態系にも変化を与える。したがって、地域全体の自然環境の保全にあたっては、土壌、湧水、地下水、表流水などの状況も把握しておく必要も生じる。このため、地域の自然環境の特性を踏まえ、その重要度に応じて、これらの環境要素の調査も地形・地質と一体的な調査を行うことが望ましい。
 また、得られた結果は併用し補完しあいつつ作業を進めることが必要である。地形調査は地表の形状観察が中心であるが、地盤の形成過程等を把握する場合には地質調査の結果を参考にする必要が生じる。一方、地質調査では、露頭の観察、ボーリング調査など限られた地点のデータが中心となるため、地形全般の状況とあわせて地質の現状を推定することになる。

調査項目の例

調査対象 調査項目
地形 土地の形状、地形分類及び分布、傾斜、起伏、災害地形の分布及び 状況 など
地質 表層地質、地質構造、地質層序、断層・軟弱地盤等の分布及び状況 など

地形調査における主な留意点

地質調査における主な留意点

2)重要な地形・地質に関する調査

 地形・地質に関する調査結果を踏まえて、主要な地形・地質リストを作成し、その中から、環境保全上重要な地形・地質を抽出する。抽出したものについて、資料調査、現地調査を実施し、その重要性について把握する。
 重要な地形・地質とは、以下に示すように、法に基づく指定地域の指定理由となっているもの、文献資料等で貴重等とされるなど学術上または希少性の観点から重要である地形・地質・自然現象があげられる。また、重要な動植物、生態系、自然とのふれあいと関連した地形・地質要素も対象とする。

●調査対象の例

●調査項目の例

分布・規模に関する調査 対象地域内容の分布及び規模などを把握する。
特徴に関する調査 形態、大きさ、構造、成立基盤(地盤、地質)、保存状態などを把握する。
成因等に関する調査 地史学的な成因、必要に応じて歴史的な変遷、それらが生じるメカニズム、成因に必要な環境要素の現状等を把握する。
重要性に関する調査 環境保全関係の法令指定状況や文献資料、既往調査など での評価を整理するとともに、上記の調査結果も踏まえ、調査対象の広域的及び地域的な重要性について検討 し、抽出根拠を整理する。

 

●重要な地形・地質調査の主な留意点

(成因等に関する調査)

(重要性に関する調査)

3)調査地域、期間、時期

 調査地域は、事業特性と地域特性に基づき、直接的及び間接的な影響が生ずる可能性があると推定される区域を含み、事業の影響を評価するために必要な範囲とする。事業の実施に伴い影響が及ぶ範囲は、影響要因、地形、地質構造、水系、異常地形、軟弱地盤の分布等様々な条件により異なる。したがって、調査地域は事業の実施区域から一定の距離で囲まれる範囲として設定するのではなく、地形・地質単位などを考慮して設定するものとする。また、動植物の調査地域を包含する区域とする。なお、重要な地形・地質に関して、近傍の模式地等で予測に必要な情報が得られる区域については、事業による影響が想定されない区域であっても調査を行うことが望ましい。
 調査地点及び踏査ルートは、調査地域に含まれる主要な地形・地質要素を網羅し、結果を地形単位・地質単位、生態系の類型区分ごとにまとめることを念頭において設定する。調査地点及び踏査ルートは、空中写真の判読や既存資料で得られた情報を整理した上で検討する。
 調査期間及び時期については、地形・地質が基本的に季節的な制約は受けないため、調査期間、時期ともに必要に応じて適宜調査を実施するが、植生が繁茂する時期、積雪期など、露頭の確認や地形の見通しが難しい時期は避けるのが一般的である。
 なお、調査対象が主要な生態系の基盤環境要素となっているような場合には、関連する動植物の生育・生息状況に応じて、それらの季節変動が適切に把握できる期間と時期を設定する。また、重要な地形・地質及び自然現象については、その特性が適切に把握できる期間、時期を選んで設定する。例えば、湧泉・湧水などは、渇水期と豊水期の2時期について湧水量、分布地点などを把握する。

(3)予測

1)予測項目と方法

 予測は「保全方針」で設定した保全対象が事業の実施に伴って受ける主要な影響の種類を特定し、その影響による変化の程度を推定することによって行う。事業が複数の計画案を持つ場合は各案についての予測を行って比較する。また、想定される環境保全措置について、行わない場合と行った場合の影響予測を対比して示す。
 予測を行なうにあたってはまず、特定された主要な影響の種類を踏まえて具体的な実施方法を検討し、予測計画を立案する。予測計画にしたがって現地調査、資料調査、ヒアリング調査、類似事例調査、実験、シミュレーションなどの各種調査を行うことによって影響の程度を推定する。
 予測は可能な限り客観的、定量的に行う必要がある。採用した予測方法については、その選定理由、適用条件と範囲を明記しておく。予測結果に不確実性が伴う場合はその内容と程度を明らかにし、事後調査により予測結果の確認を行う。なお、予測された以上に影響が生じた場合には追加的な環境保全措置を検討する必要もある。

●予測項目の例

●事業の実施に伴う影響の種類の例

起伏量の変化、傾斜の変化、地形区分の変化、災害地形への影響、地質構造への影 響、地質の消滅、断層・軟弱地盤等の影響、成因に関わる環境要素の変化、土地の 安定性の変化、浸透能の変化、涵養域の変化、地下水位の変化

*地形・地質の改変に伴って影響をうけるおそれのある環境要素(湧水、土壌等)も必要に応じて取り上げ、地形・地質と一体的に予測・評価を行うことが望ましい。

●予測手法の例

●予測における主な留意事項

(重ね合わせによる予測)

(土質工学的手法による予測)

(重要な地形・地質に関する予測)

(類似事例や科学的知見の引用)

2)予測地域、時期の設定

予測地域
 予測地域は基本的に調査地域と同じとする。予測地点は特に設定しないが、重要な地形・地質については、その対象が存在する地点について、詳細な予測を行う。なお、土地の安定性については、大規模な法面が生じる地点、周辺の住宅等の保全対象が存在する地点、主要な生態系・水系等の周辺等に必要に応じて予測地点を設定する。

予測対象時期等
 予測対象時期は、対象事業に係る施工中の代表的時期及び施工完了後一定の期間をおいた時期のうちで、地形・地質の特性及び事業の特性をふまえ、事業による影響や環境保全措置の効果を適切に把握するために必要と考えられる時期とする。施工中の代表的時期とは、造成工事が最大の時期、影響が最大の時期等があげられる。
 なお、工事計画において工期・工区が区分され、その間隔が長期に及ぶ場合は、必要に応じ各工期・各工区ごとに予測する。

(4)環境保全措置

1)保全方針の設定

 保全方針の設定とは、保全措置を検討すべき特定の対象を選定し、それぞれの重要度や特性に応じた保全目標を検討して、回避・低減または代償措置を行なう際の観点、環境保全の考え方などを整理する過程である。ここでは、スコーピング及び調査の各段階で把握される事業特性、地域特性や方法書手続きで寄せられた意見を十分踏まえ、回避・低減等の保全措置をどのような観点から検討するかについて整理して示す必要がある。
 スコーピングの初期段階など環境影響評価の早い段階からあらかじめ事業者の環境保全に関する姿勢や基本的考え方を示しておいた上で、調査・予測結果を踏まえて段階に応じてより具体的な保全方針を示してゆくことが必要である。

[1]保全措置検討の観点
 保全措置は、スコーピング及び調査・予測のそれぞれの段階で把握される以下の観点を踏まえて検討する。
・環境保全の基本的考え方(スコーピング段階における検討の経緯を含む )
・事業特性(立地・配置、規模・構造、影響要因など)
・地域特性(地域の地形・地質の特性、環境保全措置を必要とする地形・地質の分布状況など)
・方法書手続きで寄せられた意見 ・影響予測結果 など
 また、スコーピングの初期段階など環境影響評価の早い段階から、あらかじめ事業者の環境保全に関する姿勢や基本的考えかたを示しておいた上で、調査・予測結果を踏まえて段階に応じてより具体的な保全方針を示してゆくことが重要である。

[2]保全措置の検討対象
 保全措置の検討対象は上記[1]に示した観点を踏まえ、予測対象とした重要な地形・地質の中から選定する。保全措置の検討対象の選定にあたっては、保全措置を実施する空間的・時間的範囲についても十分に検討しなければならない。また、保全措置が必要でないと判断された場合には、その理由を予測結果にもとづきできるだけ客観的に示す必要がある。
 これらを踏まえた上で保全措置の検討対象とする重要な地形・地質の選定を行なうが、その際には以下のような事項に留意する。
・地域全体の自然環境の保全を図るという広い視野で、保全措置の検討対象を設定する必要がある。例えば、地域の重要な生態系の基盤となっているようなものも保全措置の検討対象として検討していくことが重要である。
・全国的なスケールレベルでの視点だけでなく、地域的な視点の重要性にも十分配慮し、地域住民が保全上重要と考えているものが相対的に低く見なされないように、地域の自然的・社会的特性を十分踏まえる必要がある。
・地方公共団体の環境基本計画等において主立った保全措置の検討対象がリストアップされている場合には参考にする。ただし、保全措置の検討対象や目標は地域性がきわめて高いものであるため、リストアップされているもの以外にも保全措置の検討対象として重要なものも存在する可能性があることに十分留意する。
・現況調査において消失、またはその価値が喪失しているため保全対象として適切でないと判断されたものについてはその旨を明記する。
・水環境や土壌環境は、地形・地質を主要な成立環境要因とするため、一体的に保全を図ることが望ましい。このため、湧水、地下水、表流水、土壌などの環境要素にも着目し、地域全体の生物多様性を確保する上で重要な要素については保全措置の検討対象とし、地形・地質とあわせた目標を設定する。

[3]保全措置の検討目標
 保全すべき重要な地形・地質に対して影響の回避、低減もしくは代償のための保全措置を検討する際には、以下のような事項に留意してそれぞれの対象における具体的な目標の設定を行なう。 ・目標設定にあたっては事後調査によって保全措置の効果が確認できるように、できるだけ数値等による定量的な目標を設定する。
・保全措置の検討目標の設定にあたっては、現況調査結果を踏まえ希少性等の各種の環境保全関連の価値基準に照らして対象ごとに保全水準を設定する。保全水準の設定に関しては自然環境の有する多様な価値に着目することが必要であり、典型性、生態系の基盤としての重要性、希少性、教育的重要性等の自然的な価値軸と、歴史性、郷土性、親近性、国土保全等の社会的価値軸に照らして検討する。
・自然環境の価値は、自然的・社会的条件の違いによって地域ごとに異なる。したがって、どのような種類の価値軸を使用し、どのような種類の価値軸をより重視すべきかについては、調査対象地域の自然的・社会的特性を踏まえて、ケースバイケースで検討することが必要である。
・保全措置の検討目標は、国の環境基本法・環境基本計画、関係市町村の環境基本条例・環境基本計画の環境基本計画の基本的方向(目標、施策等)と整合を図り設定する。 ・国の環境基本計画で掲げる健全な大気環境、水環境、土壌環境等他の保全施策との連携の確保にも配慮する。
・地形・地質は地域の自然環境を形成する基盤的な環境要素である。したがって、地域の自然環境の保全を図るには、重要な地形・地質といった特定の検討対象について検討目標を設定するだけでは不十分である。つまり、施設の配置、設計、工事及び供用にあたり、対象地域全体の自然環境に与える影響を可能な限り低減するような目標を設定することが必要である。例えば、次のようなものがあげられる。

◇地形の改変量の最小化(例:造成面積及び土工量の最小化、漂砂による海岸地形の変化の最小化)
◇土壌の改変量の最小化(例:造成面積及び土工量の最小化、表土保全)
◇土壌浸食及び流出の防止(例:急傾斜地における造成面積及び土工量の最小化) ◇不安定地形への配慮(例:脆弱地形の改変の回避)
◇水循環系の保全(例:集水域の保全、涵養域の保全、浸透能の確保)

・既存の知見や研究例、保全措置検討の過程で得られたデータなどを用いて、これらの目標の妥当性をできるだけ客観的に示す事が望ましい。

2)環境保全措置の検討

 保全対象に及ぼす影響を回避もしくは低減するための措置を優先して検討する。検討にあたっては事業の計画の検討段階に対応して、それぞれいくつかの案を検討し、措置の実施による効果と環境への影響をくり返し検討・評価して影響の回避・低減がもっとも適切に行えるものを選択する。また、保全措置の検討過程を明らかにする。

●環境保全措置の例

 
環境保全措置
事業計画上の措置
  • 現地形・地質を生かした造成計画、工法の採用
  • 重要な地形・地質の分布域を回避した造成計画の採用
  • 重要な地形 ・地質の分布域及び周辺環境の一体的な残存域の設定
  • 連続した大規模な面積の改変の回避
  • 土地の安定性を確保した造成計画の採用
  • 山地・丘陵地での切土及び盛土の土工量の必要最小化とバランス
  • 大規模な集水域及び水系の保全
  • 道路や鉄道等のトンネル、橋梁等の位置の変更及び環境影響の少ない 構造の採用
  • 地下工事における地下水や湧水への影響の低減対策の採用
工事施工中の措置
  • 重要な地形・地質の分布域における工作物の設置、工事用作業用地の設定等の回避
  • 改変区域の表土の保全と周辺緑化への再利用
  • 切土法面、盛土法面、裸地の早期緑化
  • 残土等を一時仮置きする際の土砂の流出・飛散防止

 

●環境保全措置検討における主な留意点

3)環境保全措置の実施案

 準備書・評価書には「地形・地質」についての保全方針や環境保全措置の検討過程、選定理由について記載する。また、環境保全措置の効果として措置を講じた場合と講じない場合の影響の程度に関する対比を明確にする。環境保全措置の効果や不確実性については、保全対象と、それらを保全するために措置を講ずる影響要因や環境要素の関連の整理を通じて明らかにする。
 採用した環境保全措置に関しては、それぞれ以下の点を一覧表などに整理し、環境保全措置の実施案として準備書、評価書においてできる限り具体的に記載する。

・採用した環境保全措置の内容、実施期間、実施方法、実施主体等
・採用した環境保全措置の効果に関する不確実性の程度
・採用した環境保全措置の実施に伴い生ずるおそれのある他の環境要素への影響
・採用した環境保全措置を講ずるにも関わらず存在する環境影響
・環境保全措置の効果を追跡し、管理する方法と責任体制

4)環境保全措置の妥当性の検証  

 環境保全措置の妥当性の検証は、保全方針に沿って検討された具体的な環境保全措置に対し、当該環境要素に関する効果とその他の環境要素に対する影響とを検討することによって行う。環境保全措置の採用の判断は妥当性の検証結果を示すことによって行う。複数の環境保全措置についてそれぞれの効果を考慮した予測をくり返し行い、その結果を比較検討することにより、効果が適切かつ十分得られると判断された環境保全措置を採用する。その際、最新の研究成果や類似事例を参照したり、専門家の指導を得ること、必要に応じて予備的な試験を行うことなどにより環境保全措置の効果を出来る限り客観的に考察する必要がある。
 なお、技術的に確立されておらず効果や影響に係る知見が十分に得られていない環境保全措置を採用する場合には、特に慎重な検討が必要である。そのような場合には、保全措置の効果や影響を事後調査により確認しながら進めることも必要である。

(5)評価

1)評価の考え方

 評価は保全措置の検討対象、検討目標に対して、採用した環境保全措置を実施することにより予測された影響を十分に回避、低減し得たか否かについて、事業者の見解を明らかにすることにより行う。事業者の見解はその根拠を示し、保全対象に関する環境保全措置の妥当性の検証結果を整理して示した上でできる限り客観的に示す。妥当性の検証結果については複数の案の比較をできる限り客観性の高い定量的な比較結果により示すことが望ましい。また、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについてわかりやすく示すことが望ましい。環境保全の効果が得られる技術のうち、科学的側面において実用段階にある、近い将来に実用化されるもので、技術的側面においても当該事業に適用可能なものの中から、最も大きな効果を持つものが先ず選択されたことを示すことが望ましい。
 なお、事業地の所在地である地方自治体などが環境保全のために定めた環境基本計画や環境保全条例、各種指針などにおいて、地形・地質の保全に関わる目標や方針が定められている場合には、それらとの整合性についても見解の根拠の一つとして言及しておく必要がある。

2)総合的な評価との関係

 準備書や評価書においては、生物の多様性分野に関する各環境要素ごとの評価結果は、大気・水環境分野、自然との触れ合い分野、環境負荷分野などに関するそれぞれの環境要素ごとの評価結果とあわせて、「対象事業に係る環境影響の総合的な評価」としてとりまとめて示す必要がある。
 それぞれの環境要素間には、トレード・オフの関係が成立するものがあることから、これらの環境要素間の関係や優先順位について事業者はどうとらえて対応したのかについて明確にした上で評価する必要がある。
 総合評価の手法及び表現方法には一覧表として整理するのみならず、得点化する方法や一対比較による方法などが知られているが、確立した方法はない。いずれにせよ合意形成の手段としての環境影響評価の目的達成に向け、住民等に、対象事業による環境影響に関する事業者の総合的な見解とその根拠をわかりやすく伝えられるよう、個別案件ごとに創意工夫を重ねていく必要がある。

(6)事後調査

 事後調査は、予測の不確実性の程度が大きい選定項目について環境保全措置を講じる場合、又は効果に係る知見が不十分な環境保全措置を講じる場合において、環境影響の程度が著しいものになるおそれがあるときに実施する。予測の不確実性が小さい場合であっても、予測結果の確認の観点から事後調査を行なう事が望ましい。
 事後調査では事業実施後の環境の変化を追跡し、環境保全措置の効果を把握する。このため、事後調査によって何をどのように比較するのか、その対象と方法を明示し、必要な項目と調査方法をあらかじめ具体的にあげておかなければならない。その際には、できる限り変化を明確に把握できるような調査対象種・項目・場所に絞り込むことが必要である。したがって、事後調査では必ずしも本調査と完全に同一の調査項目が必要とは限らない。また、事業の実施又は環境保全措置の実施による環境要素の変化を比較するには、実施前の環境要素の状態を把握しておく必要があるため、環境影響評価における調査など事前の調査段階から事後調査を考慮した調査を実施しておく必要がある。

●事後調査実施の考え方

○予測の不確実性の程度が大きい場合

○効果に係る知見が不十分な環境保全措置

1)事後調査項目と方法

[1]事後調査項目

 事後調査項目の選定にあたっては、まず把握すべき影響要因と環境要素の関連を整理し、調査の視点を明確にすることが重要である。事後調査の項目の例を以下に挙げた。

・重要な地形・地質の状況
・事業計画・造成計画の実施状況
・土地の安定性の状況
・湧水等水環境の状況

[2]事後調査手法

 事後調査手法は、環境影響評価に係る調査など事前に行われた調査手法の中から選定する事を基本とするが、環境の変化を追跡できるよう、できる限り比較が可能な定量的な手法を選定する。事後調査手法の選定に際しては特に以下の点に留意する。 ・一般的、客観的な調査手法であること。 ・調査に従事する技術者の能力により左右されない調査手法であること。 ・手法が複雑でなく、再現することが容易であること。

2)事後調査範囲、地点、期間等の設定

[1]事後調査地点、範囲
 事後調査は調査・予測の範囲を対象に行う。  事後調査地点は環境影響評価の調査に用いた地点の中から設定することを基本とし、調査対象とする環境要素の変化を定量的に評価することを念頭において選定する。

[2]事後調査期間、時期
 事後調査の期間、時期については、調査対象の特性を考慮し適切に設定するものとする。他の環境要素の変化等によって徐々に変化する可能性のある場合は継続観察を行い、対象とする環境要素の変化が収束するまで継続することが望ましい。土地の安定性などについても、安全確認のため工事完了後の適切な時期に行うことが望ましい。
 また、中間的な時期に予測を行った場合には、その時期も事後調査の対象とする。
 調査を実施する期間・時期の考え方としては次のような例があげられる。
・重要な地形・地質・自然現象において、その成立環境要因が事業実施によって直接的もしくは間接的に影響を受ける場合、その環境要素の変化が収束するまでを調査期間とする。
・重要な自然現象等は、その現象が生じる季節・時間に設定するのが基本であるが、その成立に関わる環境要因が影響を受ける期間・時期も考慮し、また、それらの変化が収束するまでを調査期間とする。
・湧水等では、造成工事や地下工事の進捗状況にあわせて、適宜もしくは定期的に設定し、変化が生じた場合、迅速に保全対策を講じられるような時期とする。

第3部目次へ戻る