戦略的環境アセスメントに関する総合研究会
(1)戦略的環境アセスメント(SEA)とは
○戦略的環境アセスメント(SEA)とは、「政策、計画、プログラム」を対象とする 環境アセスメントである。
・戦略的環境アセスメント(Strategic Environmental Assessment、以下「SEA」という。)とは、政策(policy)、計画(plan)、プログラム(program)の3つのPを対象とする環境アセスメントである。即ち、
を定めたものである。
・諸外国では「戦略的環境アセスメント」と呼ばれているが、これは事業に先立つ上位計画や政策等のいわば「戦略的な」意思決定を行うことのできる段階で行うためである。
・事業に先立つ上位計画や政策等の「戦略的な意思決定」には、例えば、以下のようなものがある。
・なお、上記のうち、[1]~[3]はいわゆるprojectに対する事業の実施段階での環境アセスメントとそもそも対象を異にするのに対し、[4]は対象としては同一であるが、その環境配慮を早期段階で行うというものであって、事業の実施段階での環境アセスメントとの間に明確な区別がなく、事業の実施段階での環境アセスメントの体系においても運用により一定のSEA的検討が可能であることに注意を要する。
「政策policy」「計画plan」「プログラムprogram」とは?
「政策(policy)」「計画(plan)」「プログラム(program)」という抽象概念を定義することは、国や用い方によってその範囲は異なることから容易ではないし、SEAの検討を行う上で必ずしも必要ではない。一方でSEAに関する諸制度や文献では、特に「政策」と「計画、プログラム」にはある程度の差があることが前提とされているのも事実である。このため、「政策」と「計画、プログラム」の違いについて、それぞれ具体的にどのようなものが当てはまるのか若干の説明を試みてみたい。
まず、「政策」であるが、主要先進国の協力に行われた環境アセスメントの有効性に関する国際研究の一環としてオランダ政府の資金提供を受けて行われた報告書「戦略的環境アセスメント」(1996)によれば、「政府が、現在若しくは将来遂行する行為の一般的な道筋、又は提案される全体的な方向で、政府の一連の継続的な意思決定を導くもの」とされている。もう少し分かりやすく言うと、「政策」とは、政府の「施政の方針」であって、当該施策体系の中で計画や個々の事業等に対して方向を指し示すもの(拘束力を有するものもあれば、ないものもある。)であって、個々の事業の必要性やその具体的な内容等を決定するものではない。例えば、「道路整備の長期構想」に示されている「交流ネットワークの充実」「地域集積圏の形成」は、道路整備の体系における下位計画や事業の実施に方向を差し示すものであり、「政策」と言えよう。このほか、法律に基づく基本的事項や基本方針、例えば、「再生資源を原材料として一層利用する」(再生資源の利用の促進に関する基本方針)等も「政策」に該当する。「政策」は、個々の事業の必要性やその具体的な内容等を決めるものではないため、概して抽象的である。
一方、「計画」と「プログラム」は、上述の報告書では「政策目的を達成する手段を評価、選択して、事業や諸活動をいつ、どこで、どのように実施するかを明確にするもの」とされている。即ち、「計画」と「プログラム」は、政策に示された目標を達成するための諸事業を体系的かつ計画的に行うために、どのような事業を、いつ、どこで、どのように実施することが必要であるかを示すものである。例えば、「高規格幹線道路網計画」、「首都圏整備計画」、「河川整備計画」は、それぞれの対象とする地域(全国、首都圏、流域)内に一定の計画期間にどこでどのような事業を行うことが必要であるかを明らかにするものであり、「計画」「プログラム」に該当する。「計画」と「プログラム」は、「政策」よりは具体的であるが、事業の詳細が決まっているものではなく、事業に比べれば抽象的である。
(2)SEAの意義
○SEAには、[1]環境に著しい影響を与える施策の策定・実施に当たって環境への配慮を意思決定に統合すること、[2]事業の実施段階での環境アセスメントの限界を補うことの2つの意義がある。
・SEAには、以下の2つの意義がある。
・[1]については、環境基本法でも第19条に規定されている。SEAは同条の考え方に基づき、環境配慮が政策や計画等の策定に当たって適切に行われるようにするためのツールである。
環境基本法第19条(国の施策の策定等に当たっての配慮)
国は、環境に影響を及ぼすと認められる施策を策定する策定し、及び実施するに当たっては、環境の保全について配慮しなければならない。
・なお、環境基本法第19条に基づき、各省庁では一部の案件について環境庁や限られた専門家の意見の聴取するほか、各省庁内部の検討により環境面からの早期の配慮を行っている。しかし、現状では、環境面からの配慮が内部の検討に留まっており、透明性に欠けるとともに、公衆や専門家から質のよい環境情報や提案がインプットされていないという問題がある。SEAは、従来行政内部で行われていた検討について適切な手続を経ることにより評価の質を高めるとともに、評価の透明性を高め、アカウンタビリティを向上させる意義がある。
・[2]について、SEAでは、事業の実施段階での環境アセスメントに比べてより広範な環境保全対策を検討することが可能である。例えば、立地に関する複数案を検討することにより、環境影響を受けやすい地域を計画の策定過程で避けることは、諸外国では数多くの事例でみられる。また、自然保全地域やレクリエーション地域を新たに設定する積極的な取組や計画等の具体化を管理する管理計画を策定したり、下位の計画や事業の立案・実施に制約を課すことも可能である。
・また、計画等では、個々の事業についての構想や基本計画を対象とする場合を除けば、総合開発計画や土地利用計画に代表されるように、対象地域で予定される主要な開発事業や土地利用がほぼ網羅的に包含される。このため、[1]事業の実施段階での環境アセスメントの対象とならない小規模な事業が全体として大きな影響をもたらす累積的な影響や、[2]複数の事業者が一定の地域において集中的に事業を行うことを計画している場合において、その地域の環境への累積的な影響を評価することが可能であるし、これらの影響を評価することに最も適した段階である。このため、これらの政策や計画等に対する環境アセスメントでは、累積的な影響を積極的に取り扱うことが重要である。
(3)国際的動向
○米国は既に1969年に導入。その他の先進国では1990年前後から急速にSEAの導入 が進んでいる。EUの共通制度化が本年中に図られる予定であり、主要先進国では数年以内に導入が図られることになる。
・諸外国においても、SEAの導入が進んでいることを各国の例をひきながら紹介。