環境影響評価法の概要

1.環境影響評価法の制定の経緯

1-5 国会における審議

 環境庁では、中央環境審議会の答申で示された基本原則を受けて、政府部内の調整を行い、平成9年3月28日に「環境影響評価法案」を閣議決定し第140回国会に提出した。
 この際、発電所に関しては、環境影響評価法案の対象とするが、環境影響評価法案の規定する手続に加えて、手続の各段階における国の関与を電気事業法に規定することとなった。電気事業法の一部を改正する法律案は、環境影響評価法案と同日付けで閣議決定され、国会に提出された。

 衆議院においては、4月10日に本会議において趣旨説明及び質疑が行われた後、同日環境委員会に付託された。環境委員会では、翌11日に石井道子環境庁長官から提案理由の説明を行い、質疑に入り、21日には審査の一環として京都府で地方公聴会を開催し、22日には橋本内閣総理大臣に対する質疑を行うなど、慎重かつ熱心な審査が行われた。 この審査の過程では、特に、環境庁の役割の重要性及び環境庁長官意見の形成に当たって学識経験者及び審議会等を活用する必要性、地方公共団体の環境影響評価制度と本法制度との関係のあり方、環境保全対策のための複数案に関する規定のあり方、事業実施後の事後調査及び環境保全措置の実効性の確保並びにモニタリングの必要性、発電所の環境影響評価を本法において統一的に行う必要性、いわゆる計画アセスメントあるいは戦略的環境アセスメントの早期導入の必要性、本制度見直しの検討時期のあり方、環境影響評価の適正な運用の前提となる関係情報の公開の必要性等、各般の問題点にわたり熱心な論議が交わされた。
 4月22日に委員会における質疑を終了したが、25日に、新進党、民主党及び太陽党の共同提案による、市町村長の意見の尊重、地方公共団体が定める条例との関係、環境庁長官が行う意見の尊重、本法施行状況の検討時期の短縮等を内容とする修正案が、また、日本共産党から、対象事業の追加、公聴会の開催、評価後の調査、資料の開示等を内容とする修正案が提出され、採決の結果、両修正案はいずれも賛成少数をもって否決され、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと議決された。この際、以下の附帯決議が付された。
 その後、本法案は、5月6日に衆議院本会議において可決され、同日付けで参議院に送付された。

○環境影響評価法案に対する附帯決議(衆議院環境委員会:平成9年4月25日)

 「政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずべきである。

 環境影響評価に関する手続が適切かつ円滑に行われ、事業の実施に際し環境保全について適正な配慮がなされるよう、本委員会での論議等を踏まえ、事業者、地方公共団体及び国民に対し、あらゆる手段、機会を通じて本法の趣旨の周知、徹底を図ること。
 第二種事業に係る判定は、科学的かつ客観的な基準に基づき、法の趣旨を踏まえ、適切に行われるよう努めること。この場合、地域の特性を踏まえた運用が行われるよう、都道府県知事が意見を述べるに際して必要に応じ市町村長の意見を求めることができることなど法の趣旨の徹底に努めること。
 準備書及び評価書に複数案の検討状況、実施すべき事後調査事項等をわかりやすく記載されるようにすること。
 また、評価書へ記載された環境保全措置、事後調査措置が法律に違反して実行されなかった場合には適切な措置を講ずること。
 事業者が実施する環境影響評価の結果を的確に審査し、制度の信頼性を高めるため、環境庁における審査体制の充実・強化を図ること。
 また、環境庁長官の意見形成に当たっては、当該事業について専門的な知識、科学的知見等を有する学識経験者及び審議会等を積極的に活用して環境保全に万全を期すとともに、その過程及び結果の透明性の確保に努めること。
 免許等を行う者等が審査等を行うに際しては、環境庁長官の意見を十分反映させること。
 本法による環境影響評価の実効ある運用を確保するためには、関連する法律の適正な運用と十分な情報公開が必要であることにかんがみ、環境影響評価のそれぞれの段階に係る情報の公開に努めること。
 地方公共団体において定着し、相応の効果をあげている環境影響評価制度の運用の実績を尊重し、知事意見の形成に際し公聴会や審査会の活用が可能であることなど法の趣旨を徹底し、地方公共団体の意見が十分に反映され、地域の実情に即した環境影響評価が行われるよう、地方公共団体との適正な役割分担による総合的な環境影響評価制度の運用に万全を期すこと。
 環境庁長官が定める基本的事項及び主務省令で定める指針については国民に理解されやすい内容となるように作成するとともに、技術の進展に即応して最新の科学的知見を踏まえた環境影響評価が実施されるよう、基本的事項及び指針を柔軟に見直していくこと。また、本制度全般に関して、その実施状況を見ながら、法施行後一〇年以内であっても、適宜適切に制度の改善を図ること。
 上位計画や政策における環境配慮を徹底するため、戦略的環境影響評価についての調査・研究を推進し、国際的動向や我が国での現状を踏まえて、制度化に向けて早急に具体的な検討を進めること。
 環境影響評価の適切かつ円滑な実施には、技術手法、過去の実例、地域環境の現状などの情報の活用が極めて重要であることにかんがみ、電子媒体の活用等、環境影響評価に関する情報の収集・整理・提供に努めること。
一 我が国の事業者が海外において実施する事業については、環境基本法及び本法の趣旨を尊重しつつ適切な環境配慮がなされるよう指導するとともに、政府開発援助に係る事業など海外における事業についても、国際協力事業団等が策定したガイドラインに沿ってなお一層的確な環境影響評価を実施し、適正な環境配慮がなされるように努めること。
二 本決議事項及び本委員会での論議を十分踏まえて、政令、省令及び基本的事項を制定すること。
三 地球温暖化の防止に関し、西暦二〇〇〇年以降に先進国が講ずべき政策等について国際合意を目指す地球温暖化防止京都会議(気候変動枠組条約第三回締約国会議)が実質的な成果を収めるよう、政府は、国内での取組及び国際合意形成に最大限努めること。」

 参議院においては、5月14日に本会議において趣旨説明及び質疑が行われた後、同日環境特別委員会に付託された。環境特別委員会では、同日に石井道子環境庁長官から提案理由の説明を行い、21日から質疑に入った。30日には審査の一環として公聴会を開催し、6月6日には橋本内閣総理大臣に対する質疑を行うなど、慎重かつ熱心な審査が行われた。
 この審査の過程では、特に、環境庁長官の役割の強化、対象事業の拡大、環境保全措置についての複数案の明確化、フォローアップ措置の内容、第三者審査期間の必要性、本法律案と条例との関係、諫早干拓問題等の諸問題について、熱心な論議が交わされた。
 6月6日に委員会における質疑を終了し、同日、新進党、民主党及び自由の会の共同提案による、市町村長の意見の尊重、地方公共団体が定める条例との関係、環境庁長官が行う意見の尊重、本法施行状況の検討時期の短縮等を内容とする修正案が、また、日本共産党から、対象事業の追加、公聴会の開催、評価後の調査、資料の開示等を内容とする修正案が提出され、採決の結果、両修正案はいずれも賛成少数をもって否決され、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと議決された。この際、以下の附帯決議が付された。
 その後、本法案は、6月9日に参議院本会議において可決成立し、6月13日に公布された。

○環境影響評価法案に対する附帯決議(参議院環境特別委員会:平成9年6月6日)

 「政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずべきである。

 環境庁長官は、本法による環境影響評価の適切かつ円滑な実施の確保に第一義的な責任があることを強く認識し、その実施状況を十分に把握しつつ、関係行政機関の環境影響評価に関する事務について必要な総合調整を積極的に行うなど、主体的な役割を果たしていくこと。
 対象事業については、事業の実態、環境問題の動向等を踏まえ、また地方公共団体の環境影響評価制度の現状等を考慮しつつ、必要に応じ追加等の見直しを行うこと。
 第二種事業に係る判定は、科学的かつ客観的な基準に基づき、法の趣旨を踏まえ、適 切に行われるように努めること。この場合、地域の特性を踏まえた運用が行われるよう、都道府県知事が意見を述べるに際して必要に応じ市町村長の意見を求め、また住民等の意見を聴くことができることなど法の趣旨の徹底に努めること。
 なお、判定の結果、本法の対象事業とならなかった事業についても、地方公共団体の制度で必要に応じ環境影響評価を実施できることについて周知徹底するなど適正な環境配慮がなされることを確保するよう努めること。
 準備書及び評価書においては、環境保全措置についての複数案の検討状況、実施すべき事後調査事項等が明確かつ分かりやすく記載されるようにすること。
 また、評価書に記載された環境保全措置、事後調査措置が法律に反して実行されなかった場合には適切な措置を講ずること。
 準備書について事業者が開催する説明会は、住民等が適切な意見を形成するために極めて重要な場であることにかんがみ、その開催日時及び場所等が適切に定められ、その周知徹底が図られるようにするとともに、説明会において住民等から意見が述べられたときには、事業者がこれに適切に対応するよう指導すること。
 事業者が実施する環境影響評価の結果を的確に審査し、制度の信頼性を高めるため、環境庁における審査体制の充実・強化を図ること。
 また、環境庁長官の意見形成に当たっては、当該事業について専門的な知識、科学的知見等を有する学識経験者及び中央環境審議会等を積極的に活用して環境保全に万全を期すとともに、その過程及び結果の透明性の確保に努めること。
 免許等を行う者等は、その審査等の体制を適切に整備するとともに、審査等を行うに際しては、環境庁長官の意見を反映させること。
 本法による環境影響評価の実効ある運用を確保するためには、関連する法律の適正な運用と十分な情報公開が必要であることにかんがみ、環境影響評価のそれぞれの段階に係る情報の公開に努めること。また、事業者に対しては、積極的な情報の提供を行うよう指導すること。
 地方公共団体において定着し、相応の効果を上げている環境影響評価制度の運用の実績を尊重し、知事意見の形成に際し公聴会や審査会等の活用が可能であることなど法の趣旨を徹底し、地方公共団体の意見が十分に反映され、地域の実情に即した環境影響評価が行われるよう、地方公共団体との適正な役割分担による総合的な環境影響評価制度の運用に万全を期すこと。
 環境庁長官が定める基本的事項及び主務省令で定める指針については国民に理解されやすい内容となるように作成するとともに、技術の進展に即応して最新の科学的知見を踏まえた環境影響評価が実施されるよう、基本的事項及び指針を柔軟に見直していくこと。また、本制度全般に関して、その実施状況を見ながら、法施行後十年以内であっても、適宜適切に制度の改善を図ること。
一 上位計画や政策における環境配慮を徹底するため、戦略的環境影響評価についての調査・研究を推進し、国際的動向や我が国での現状を踏まえて、制度化に向けて早急に具体的な検討を進めること。
二 環境影響評価の適切かつ円滑な実施には、技術手法、過去の実例、地域環境の現状などの情報の活用が極めて重要であることにかんがみ、電子媒体の活用等、環境影響評価に関する情報の収集・整理・提供に努めること。
 また、質の高い調査予測等が行われるためには、幅広い知識と技術を備えた調査等の従業者の育成・確保が必要であり、調査等に従事する者や組織に関する資格制度の導入についての検討、人材の能力の確保のための研修等の推進、人材情報の提供に努めること。
三 本決議事項及び本委員会での論議を十分踏まえて、政令、省令及び基本的事項を制定すること。
四 本法の施行前に環境影響評価が行われる事業については、本法制定の趣旨を踏まえ適正な環境配慮を徹底するよう指導すること。
五 我が国の事業者が海外において実施する事業については、平成三年四月二十四日の本委員会の決議を踏まえ、また環境基本法及び本法の趣旨を尊重しつつ、適切な環境配慮がなされるよう指導するとともに、政府開発援助に係る事業など海外における事業についても、なお一層的確な環境影響評価を実施し、適正な環境配慮がなされるように努めること。
 右決議する。」


第140回国会における環境影響評価法案の審議経緯



我が国における環境影響評価制度の経緯

47. 6. 6 公共事業における環境影響評価の実施を閣議了解 「各種公共事業に係る環境保全対策について」閣議了解
47. 7.24 四日市公害訴訟判決 開発事業者に環境影響評価を行う注意義務があることを指摘
47~48 個別法改正等による環境影響評価の導入 港湾法・公有水面埋立法、瀬戸内海環境保全臨時措置法の制定等
49. 7. 1 環境庁組織令の改正 環境庁の所掌事務に環境影響評価を明記
50.12.23 中央公害対策審議会へ諮問 環境庁長官から「環境影響評価制度のあり方について」諮問
51. 9 大規模工業開発に係る環境影響評価の実施の指針作成 環境庁「むつ小川原総合開発計画第二次基本計画に係る環境影響評価の実施についての指針」提示
51.10 初の環境影響評価条例の制定 「川崎市環境影響評価に関する条例」制定
52. 7. 4 通商産業省省議決定 通産省「発電所の立地に関する環境影響調査及び環境審査の強化について」通達
53. 7. 1 建設事務次官通達 建設省「建設省所管事業に係る環境影響評価に関する当面の措置方針について」通達
54. 1.23 運輸大臣通達 運輸省「整備5新幹線に関する環境影響評価の実施について」通達
54. 4. 1 中央公害対策審議会答申 「環境影響評価制度のあり方について」答申
56. 4.28 環境影響評価法案の閣議決定・国会提出(第94回国会)  
56~58 法案が国会で継続審議  
58.11.28 法案廃案となる(第100回国会) 衆議院の解散に伴い、審議未了・廃案
59. 8.28 環境影響評価実施要綱を閣議決定 「環境影響評価の実施について」閣議決定
59.11.21 手続に関する共通的事項を決定 環境影響評価実施推進会議「環境影響評価実施要綱に基づく手続等に必要な共通的事項」決定
59.11.27 調査等に関する基本的事項を決定 環境庁長官「環境影響評価に係る調査、予測及び評価のための基本的事項」決定
60. 1.14 相当手続条例等の指定 環境庁長官「相当手続等(経過措置)に係る条例等」指定
60. 3.29~
 6. 5
対象事業の規模等の決定 主務大臣が環境庁長官に協議して対象事業の規模等を決定
60. 4. 1~
 12.12
基本通達等 国の行政機関が、環境影響評価実施要綱に基づき事業者に対して指導等を実施
60.12. 1~
62.12.22
技術指針の策定 主務大臣が環境庁長官に協議して、対象事業の種類毎の技術指針を策定
5.11.19 環境基本法公布・施行 第20条に環境影響評価の推進に関する規定を設ける
6. 7.11 環境影響評価制度総合研究会第1回会合 総合的な調査研究の開始
6.12.28 環境基本計画の策定・公表 環境影響評価制度のあり方に関する総合的な調査研究の推進を位置づけ
8. 6. 3 環境影響評価制度総合研究会報告書公表 報告書のとりまとめ・公表
8. 6.28 中央環境審議会への諮問 内閣総理大臣より「今後の環境影響評価制度の在り方について」諮問
9. 2.10 中央環境審議会の答申 内閣総理大臣に対して「今後の環境影響評価制度の在り方について」答申
9. 3.28 環境影響評価法案閣議決定・国会提出(第140回)  
9. 5. 6 環境影響評価法案衆議院可決  
9. 6. 9 環境影響評価法案参議院可決・成立  
9. 6.13 環境影響評価法公布