生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会
環境影響評価シンポジウム~生態系と環境アセスメント~の記録

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7 シンポジウムの記録

2)意義とねらい

司会:

 続きまして、本日のシンポジウムの開催のねらいを、環境庁「生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会」座長の大島康行先生からお話しいただきます。それでは、大島先生、お願いいたします。

大島:

ただいま紹介をいただきました大島でございます。開会に先立ちまして、生態系の環境アセスメントの意義と本シンポジウムのねらいについて、少々お話をさせていただきます。

今、岡田局長が申されましたように、新しい環境影響評価法が明後日実施されることになりまして、大変に画期的なことだと喜んでおります。

環境影響評価法は、環境基本法を受けまして、持続可能な発展を基本理念として制定されたものでございます。環境基本法第14条第2号には、「生態系の多様性の確保、野生生物の種の保存、その他の生物の多様性の確保が図られるとともに、森林、農地、水辺地等における多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて体系的に保全されることを確保するため、環境の保全のための施策が実施されなければならない」とされております。環境影響評価法においても生物の多様性とこれらの多様な生物からなる生態系の視点が盛り込まれることになりました。

人間が自然の生物圏に与える影響は、急速な人間活動によって劇的に増大しました。生態系は改変され、破壊が続いております。その結果、生物の種の絶滅は非常に早い速度で増加し、個体群は減少し、生態系によって維持された人間の生存の基礎である良好な環境は変容されつつあります。このため、生物多様性に関する条約が92年、リオの国際会議におきまして157カ国の国々によって署名され、93年にこれが発効いたしました。これを受けて我が国でも、この国際条約の基本方針による生物多様性の保全とその持続可能な利用の実施促進を図るため、95年10月に生物多様性国家戦略を決定したところでございます。既に述べましたように、環境基本法にも生物多様性と多様な生物からなる生態系の保全の必要性が示されており、環境影響評価法において、環境アセスメントの対象として、従来の植物、動物に加えて、生態系の項目が盛られたのは、まさにこの理由からであります。

生物の多様性に関する条約は、単に生物多様性や種を守るということ、これは一般的によく考えられていることでございますけれども、それだけではございません。生態系を構成する生物群集の生物間の関係や、それぞれの生物群集によって形成される構造と機能が環境を変え、この環境保全機能が多様な生物の生活を維持しております。この点から生態系の保全は重要であり、また、生態系の持つこのような環境保全機能、サービスと、多様な生態系の中に含まれております資源は、人間の健全な持続ある生活の発展に欠くことができないものであることを示しているということを注意しなければならないと思っております。我々と自然との好ましい関係、あるいは可能な関係はどのようなものか、また、生態系の持つ豊かな財とサービスの機能を高めつつ、持続ある利用をしていくためにはどのような自然を保全していくのか、あるいは、財とサービスによる公平な恩恵をどのようにしていくのかという重要な課題がこの条約には含まれていることを申し上げておきます。

さて、日本という国は、ご承知のように、南は亜熱帯の沖縄から、北は亜寒帯の北海道まで、非常に長く広い地理的環境に位置しております。そして、地形や地質、土壌、さらに人間による土地利用の違いもありまして、このために生物はきわめて多様であります。また、それぞれの地域環境に対応して、それぞれの環境にすむ特有な種組成を持つ生物群集が環境と相互に作用しながら、地域環境に特有な多様な生態系を形成していることも、非常に大きな特徴の1つでございます。

これらの生態系は環境条件に対応して連続的に分布しておりまして、気候的要因による大規模な生態系、例えばブナ林に代表されるような冷温帯夏緑林から、特異な地形、地質、土壌、水条件などに対応して成立する規模の小さな生態系、例えば洞窟、湧水地等の生態系まで、その規模は様々であります。この点は大変注意してやっていく必要があろうかと思います。

生態系内の生物群集が基本的に垂直的な構造を形成していることは、皆さん、よくご存じのことです。

OHPをお願いします。

これは森林生態系の1つの模式でありますけれども、このように垂直的な階層構造を持っています。階層内では、生物群集の機能と構造、それから環境との相互作用によって、微環境は複雑に変化しております。例えば、光環境をとりましても、樹冠の上と中、さらに下では、かなり違った環境条件を形成している。水や二酸化炭素、あるいは、そこに住む生物群集の種も違っているわけで、その点を特に注意してこれを扱っていくことが非常に大切なことだと思っております。

そして、もう1つ大事なことは、生態系は常に部分的に破壊と修復-大きな木が寿命が来て倒れる。そこに新しいものが生まれ、そして成長していくということを繰り返しながら、生物と環境との相互作用、食物連鎖などによる物質循環やエネルギーの流れによって動的に維持-されていることも、生態系を見ていく場合に重要な要素の1つであります。

したがって、生態系の環境アセスメントをするためには、これらの生態系の特性を踏まえて、主要な生態系における生物群集と環境との相互作用の関わりと、生態系の環境保全機能が把握、評価できる調査項目を選定し、調査することが必要であります。

次をお願いします。(OHP

一般に、事業対象地域は1つの生態系によって覆われているということは極めてまれでありまして、対象地域の周辺には様々な生態系の複合があるわけでございます。これらの生態系は相互に関連し合っているため、まず、地形と植生の関係を示す断面図や、植生、地形、地質、土壌、気象等の概要を示した平面図を作成して、重ね合わせ、対象地域の生態系の特性の概況をつかむことも必要かと思われます。

また、生態系は複雑な構造、機能、相互作用を持つことから、事業地の生態系の持つ構造と機能による環境保全機能を含めた特性を調査・把握し、適切な評価をするためには、基本的事項の例示のように、生態系の上位性、典型性、特殊性に注目し、それらを支える種と群集を抽出することも1つの方法でしょう。この際、階層構造や食物連鎖を示す概略図の作成も有効でありますし、上位性、典型性を示す種は各階層ごとに、また、生活様式の同じグループごとに、それぞれ検討することが望ましいと思われます。先ほども申し上げましたように、生態系の各階層によって環境が違い、そこにはそれぞれ特有な生物が住んでいるわけで、階層ごとの上位性、典型性にも注意する。それから、今、申し上げましたように、いろいろなグループの生物がここに住んでおりますけれども、生活様式の同じグループごとにそれぞれ検討していくということも大変必要なことであります。

環境庁では、生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会を昨年設置いたしまして、基本的事項を踏まえ、生態系など、生物多様性分野の環境影響評価技術の検討を3年計画で進めてきております。

まず、最初の課題といたしまして、環境影響評価法に新たに導入されたスコーピングの重要性については、先ほど岡田局長が言われたとおりでありますけれども、それを効果的に進めることが非常に重要になってまいりまして、生態系を中心に、本年度は陸域と海域について検討したところであります。生態系を大きく分けますと、陸域と、海域と、もう1つは陸水域がございますが、陸水域につきましては本年度、検討を始める予定でございます。

今回のシンポジウムでは、この陸域と海域のスコーピング段階での考え方と問題点について、小野、清水、両座長代理にお話をこれからお願いすることになっております。参加者の皆さんと意見の交換をしながら、これからの生態系の環境アセスメントについて考えていきたいと思います。

以上で、私の最初のあいさつを終わります。

司会:
大島先生、ありがとうございました。