お待たせいたしました。
それでは、これからディスカッションを始めさせていただきます。パネリストは本日、基調講演をお願いいたしました小野先生、清水先生、並びに関係者のコメントをいただきました吉田さん、青木さん、そして渡辺調整官でございます。本パネルディスカッションのコーディネーターには岩手県立大学の幸丸政明先生をお願いしております。では、これからの進行は幸丸先生にお願いいたしたいと存じます。幸丸先生、よろしくお願いします。
ご紹介いただきました幸丸でございます。私もこの技術検討会の末席に連なっておりまして、その関係で最後のプログラムコーディネーターを仰せつかっています。どうぞよろしくお願いいたします。
このパネルディスカッションでございますけれども、本当は会場においでの皆さんと直接お話をすることがあっても良いと思いますけれども、この1時間半弱という時間、有効に活用したいと思いますので、先ほど、おいでの皆様方からご質問やご意見をいただいております。それを幾つかに分けまして、まず、このシンポジウムの主なテーマでありますスコーピングの問題とか、それから、その後に来る本アセスといいますか、準備書、評価書の作成の仕方とか、さらに、アセスメント全体の将来展望とか、そういうところにご質問が分かれたように思いますので、それぞれについてご質問に答えたり、あるいはパネリストの間で議論いただいたりという形で進めさせていただきたいと思います。ご質問の量としては、スコーピングに係るところが多くございますので、時間的にもその辺に少し重点を当ててまいりたいと思います。
それで、まず1つ、ご質問の中に、アセスメント会社の方ですけれども、スコーピングの段階では非常に情報が足りないのではないか、どういうふうにしたら、より的確なスコーピング、絞り込みができるかと。例えば、注目種や注目群集の抽出においても、今のところ、県レベルでもレッドデータブック辺りまではつくられているところもあると思いますけれども、生態系という観点からは国のレベルでも少ないと思いますが、どうしたら良いでしょうかということです。これは質問者の方は小野先生にというふうに書いてありますけれども、どちらかというと、環境庁の渡辺さんの側からお答えいただければと思います。
お配りした資料の中間取りまとめ案の9ページにスコーピングのフローをつけています。ご質問の趣旨は、スコーピングの段階ではどうしても既存資料中心で、それを材料に方法を考える。その段階ではあまり情報が得られなくて、例えば、注目種の選定についてもなかなかきちんとできないのではないか、その辺をどう考えたら良いのかという趣旨のご質問かと思います。9ページのフローにもありますように、スコーピング段階の後に、実際のアセス段階の本調査があるわけで、その前の段階であります。このフローの一番頭に地域概況調査というのがありますが、ここは既存の資料を中心に情報を集めていく。それに加えて8ページから10ページにかけて地域概況調査の中身の説明をつけています。既存資料中心なのですが、加えて、この段階でできる範囲でその地域の事情に詳しい専門家の方にヒアリングをしていく。それから現地の調査。本格的な調査は後からになりますけれども、この段階でも現地に足を運んで、現地の雰囲気というか、どんな環境が大事なのだろうかということを概略踏査して現地の環境の特徴をつかむ。これはぜひやってほしいということを10ページの[3]のところに書いております。そういったこの段階でできる範囲での情報収集をした結果を基に、先ほどの講演の中で説明していただいたような生態系の特性の整理をしながら、注目種の選定ということになるわけです。
注目種の抽出について、15ページの(3)のところに出しております。これの3つ目の段落に、方法書の段階では詳細な情報はないわけですけれども、方法書の段階で集められた情報を基に、想定であっても、どんなふうに注目種を選定していくかという考え方や、こういう種を候補にしていくことが適当と考えているということをできるだけ具体的に示す方が効果的ですと。それによって、方法書に対して具体的な意見が跳ね返ってくるということを述べております。
ただ、(3)の最後の段落にありますように、これは対象とする地域の情報がどのぐらいあるかによって千差万別で、全く手がかりもないという場合もあろうかと思います。スコーピングの段階で注目種の選定ができないという場合には、注目種の選定はしないまでも、どういう方法で注目種や群集を選んでいくかという考え方を示してください。例えば、この対象地域では上位性は大体こんなものだということが想定できても、典型性は本調査で調べてみないとわからない。その場合には、環境としてクヌギ林に着目して本調査でよく調べて、典型的な種を選んでいきますということを方法書に示していくことが良いと書いております。
アセス段階の調査・予測・評価を進める中で、データをとって、典型性についてはこの種を選びましたということを準備書の中で選んだ理由も含めて記載していくことになる。スコーピングの段階でできる範囲で行って、柔軟に考えて進めていただければ良いのだということを、この中で説明しております。
どうもありがとうございました。自然に関しては本当にわかってないことが大半でありますから、これまで、特に行政などでは、無謬性といいますか、行政は何でも知っている、誤ってはいけないんだという考え方がありましたけれども、そうではなくて、情報が少ない、わからないということも躊躇しないで出していく。それで、計画に反対する側からもいろいろな意見を出していって、お互いに賢明な態度で切磋琢磨していくということが新しい法律の1つの眼目だろうと思います。そういうことで、これがなければできないとかではなくて、ない中でいろいろ工夫していくことが大切なのではないかと思います。
私についての質問を、渡辺さん、ありがとうございました。おっしゃるとおりでよろしいと思うんですが、1つ注意しておきたいのは、上位性、典型性、特殊性と3つ並ぶと、全部3つ並べないといけないのではなかろうかと思う。それは、私は間違いだと思っているんです。場所によっては上位性を欠くことがあるだろうと思います。私は、変なことを聴かれたのですが、「ニホンカモシカは上位性ですか」と言われた。あれは、草を食べている。それ以上はないのですね。そういう場合には、無理して上位性と呼ばなくても、その地域を特徴づける典型性の方で取り上げれば、それで良いのではないですかと言ったのですけれども、「そういうことで環境庁は許してくれますか」と言うから、許すも許さないも、それはとにかく方法書の案だから、そういうものを書けばよろしいと。だから、方法書の段階ではあるだけの情報を集め、その中でそのときに得られる最良解を得ておけば、その次の段階でもっと絞り込みができると思います。
もう1つ言いたいのは、そういう場合に、私が述べましたような生活形というものがありますので、例えば、鳥ではオオタカが出てきたり、イヌワシが出てきたりするかもしれませんけれども、それでは、昆虫やクモなどではどうなのかと言われたときに、非常に変わったクモが大事なものとして言われておりますということが後から出てきても、それは構わないのですね。しかし、最初から判っていたのにもかかわらず、それを無視するということは、明らかにそういう生活形のグルーピングを初めから無視しているということでありますので、そこは注意して、できるだけ拾ってほしいというのが希望であります。
次に取り上げようとしたご質問は、まさに、カモシカというのは上位性の選定の中で取り上げるべきものではないでしょうかというご質問でしたけれども、それは今、そういうお答えでございます。それからもう1つ、同じ質問の中で、イヌワシなどの貴重種と言われるものは、当然、種のレベルで動物の項目で対象になっている。それに対して、生態系の上位種なりで取り上げる場合と、どこが違うのか。
皆さんに質問を申し上げたいと思うのですが、ここでは、生物多様性という言葉と、それから生態系という言葉がごっちゃに使われております。実は内容は違うことです。生態系というのは、あくまでもエネルギーと物質の流転、流れというものを中心とした考え方であります。だから、当然、そういうものの担い手になるものが一番大事な中心になっていきます。生物多様性という場合には何が中心になるかというと、種が中心になります。種というのは繁殖単位であります。繁殖単位が中心になったものが生態系の単位になり得るかというと、そんなもの、違うわけであります。そこのところはしっかり区別してかからないといけない。生態系を特徴づけているものの中に、生物の種類が上がってくる。それがイヌワシであり、クマタカであるわけですけど、それは生物多様性の側面から考えてみると、違うかもしれない。そこのところはよく区別して考えていかないと、私どもは環境影響評価の検討会の中では、生物の多様性分野の環境影響評価技術となっておりますけど、やったのは生態系の環境影響評価をやったわけであります。書いているのは、実は表と中身が少しばかり違っておりますので、その辺はよくお考えいただきたい。「生物多様性分野」でありますので、「生物多様性の」ではありませんので、その辺は読み分けていただきたいと思います。よろしくお願いします。
猛禽類については、それを保護運動の武器にしたり、あるいはそれに悩まされている吉田さんや青木さん、何かご意見ございますか。
今、小野先生から生物多様性と生態系の区別を伺って、すっきりと解ったような気もするのですけれども、猛禽類の場合には、今、繁殖をし続けられるように残していくことが非常に大事だと思うのです。そのときに、単に営巣木や営巣林だけ残れば良いというのではなくて、高頻度利用域とか、繁殖期の行動圏まで含めていくと、やはり生態系とのつながりはすごく大きくて、そこで上位性と典型性というものの接点があるような気がするのですけれども、どうも典型性ということがいつも解らなくて、上位性、典型性、特殊性を行うときには、それぞれ別々に、ただ指標種を選んでやれば良いというのではなくて、関係づけて行ってもらわないと、生態系の中で3つの側面から行っていることが意味がないような気がするのですね。その点、むしろ私は小野先生への質問でもあるのですけれども、そういう観点で、生物多様性という意味での猛禽と生態系の上位性での猛禽というのをつなげないといけないのではないかという気がします。
おっしゃるとおりだと思います。だた、上位性、典型性、特殊性というものは私の責任においてつくった言葉ではなくて、他のところから出てきて、無理やり押しつけられたわけであります。しかし、そうは言っても、きちんと法律の中でうたっているのだから、生態学者らしく、そのバックアップをやれと言われているわけで、無理してバックアップしている部分もあります。だから、先ほど私の講演の中で、生物の世界を特徴づけるのは、別なインデックスの使い方もあるという例をお示ししたのは、創意工夫性を使ってくれという意味なのです。
例えば、今、イヌワシ、クマタカというものは、生物多様性の方で出てきた言葉だと思うのですね。それがたまたまエコシステムの生態系の食物連鎖を取り上げたら、トップに来てしまった。トップに来ているものは、少なくとも下の方が支配されるだろうから、相当影響が強いだろうということで、割合象徴的に、確かに吉田さんがおっしゃるように両方の象徴だと思うのですけど、象徴的に扱われている。それでは、イヌワシとクマタカさえいれば、あとはどうでもいいのかというと、そういうことでは絶対にないということを申し上げているわけです。つながりがないことは、絶対にありません。皆、つながっています。
特殊性のところは、そういう面では大変に特殊だと考えても良いのではないかと思っております。海などは、やはり上位性、特殊性、典型性というのは機能的につながりがありますから。
難しいですね。検討会の中でも、生態系とか、上位性、特殊性、典型性とか、所与のものとして議論したので、非常に苦しい。そこは、お二方の講演の中にも出てきたと思いますけれども、本当にこれから、いろいろと実際にアセスメントを進める中でも、もっともっとブラッシュアップしていく必要があるのではないかと思います。
それでは、次に、類型区分についてご質問が幾つか来ております。1つは、これは自治体の方からのご質問なのですけれども、生態系の類型区分ですか。環境庁で行っている10区分、大きな国土区分の試案がありますけれども、これだけでは大き過ぎて適当でないのでは、というご質問があります。この点、渡辺さんの方から、もう少し細かい部分もありますから。
それでは、中間報告案の9ページのフローをご覧ください。地域特性の把握の右側の箱のところで、全国的な生態系区分における位置づけ、つまり南北に非常に長い多様な日本ということで、その中でどういうところに位置づくのかというステップと、もう1段階、対象地域の陸域の環境の類型区分の2段階をここでフローとして示しております。
ご質問の環境庁の自然保護局で作業を進めている全国の区分は、11~12ページに示したように国土区分試案ということで10区分がなされ、その中から重要な生態系を選定するために、12ページの29の生物群集タイプを拾い上げているわけです。このようなものも参照としながら、対象地域の生態系が全国的にどういう位置にあるのかということを、まず第1段階で見てください。
もっと細かい区分をしていかないとアセスには使えないのではないかということをお尋ねだと思うのですが、それが13~14ページに示した陸域の環境の類型区分で、対象地域や対象事業の影響要因によっても区分の仕方はいろいろあろうかと思いますが、例えばのイメージということで、陸上であれば地形、植生、土地利用、水系などの情報を基に、図2-6にあるような区分をしてみるのも1つの方法かと思います。対象地域にどんな環境があるのか、どんな環境で構成されていて、先生方のお話にもあるように、対象地域には単一の生態系だけではなくて、複数の生態系があること。これと事業のインパクトの影響範囲がどんなふうに重なるかを見ることから始めることが、必要であるという整理をしております。
他の先生から何か補足するようなことはございますか。
特にありませんけど、区分をあまりかたく考えない方が良いのではないかと、私は思っております。ただ大まかに所番地を示すぐらいのつもりでやって、その中で自分達が対象にしているものは、どういう群集があるのかというふうに考えれば良い。その群集を考える、言うならばインデックスにこの区分を使っているということで、11ページと12ページで大体カバーできるような区分の仕方になっているのではないかと私は思っているのです。10が少なければ、12に増やして、自分のところは12番目だと言っても、それが論理的にきちんとしていれば、僕はそれでかまわないとは思っております。むしろ大島先生にそれは聴いたほうが良い。
大島先生、上がっていらっしゃいますか。どうぞ。コメントがございましたら、お願いいたします。
私は何もしなくていいと思って、にこにこしながら聴いていたんですけれども、突如回ってきました。
この区分につきましては、まず、気候区分で分けて、12ページにありますように、区域内の環境要因の違いにより、特徴づけられる重要な生態系、伝統的な土地利用により形成された注目すべき二次的自然と、そういうふうな分け方をして、最初、54区分に分けていたのですけれども、幾つか類似したものはまとめたほうがいいということで、この検討会ではとりあえず29の区分にまとめたわけです。小野先生の言われるように、これは1つの例示でありまして、さらに細かく、例えば、岩角地生物群集25、これはいろいろなケースがあるわけで、これをさらに分けて書いた方がいいということであれば、お分けいただいて一向に差し支えないと思います。
以上です。
また、時と場合によってよろしくお願いいたします。
それでは、今度は類型区分で海に関してのご質問でございます。ご質問された方は海関係のアセスメントをやっている方のようでございますけれども、1つは、先ほど清水先生の方から海底の基質に基づく区分ということのご説明がありましたけれども、プランクトンのように浮遊性の、基質に依存しない生物群集を考える場合は水界の類型区分も必要ではないでしょうかというご意見なんですけど、いかがでしょうか。
あそこで例を挙げて基質によって類型の区分をするのが良いでしょうと言ったのは、1つは、まずは、浅海域というのは一番、開発の対象になりやすいということがありまして、そうすると、主な開発の対象地域というのはそういうところであろう。そこでは多分、基質によって分布が制約されるような生き物が一番問題になるだろうということで、ああいう類型区分を出しました。
それからもう1つ、当然、プランクトンなんかみたいに、ウォーターカラムといいましょうか、そことは切り離されたところに住んでいるもの、それも当然対象にはなって、水界区分を行うということはありますけれども、その場合には、実は、今まで行われている親潮系であるとか黒潮系であるとか、あるいは沿岸系であるとか沖合系であるとかいう程度にしか多分分けられないだろうと思う。そういうことに関しては今までもそういう知見があるわけです。
それで、プランクトンに関して申し上げると、実はプランクトンをどういう形で取り上げるかが非常に問題になるだろうと思います。今までは動物、植物の調査で、プランクトンを行わなければいけないというので、非常に膨大なエネルギーを使ってプランクトンの調査をやって、何がいるというようなことを行っているのだと思うのですけれども、あれが本当にこれからも必要かどうかということは、充分にお考えいただいたほうが多分良いだろうと思います。
こういうことを言うと、今までのプランクトン調査は一体何だったのだと怒られるかもしれないのですけれども、そこのところは、再々繰り返して言っているように、マニュアルから離れて、本当に対象としている地域で何を問題とすべきかということをご自分でお考えになって行っていただかないといけないのではないかと。何か逃げのお答えみたいですけれども、一応そういう…。
スコーピングというのが、とにかく資料だけは膨大に集めて、何の分析もされないままといういうことが往々にしてあったという反省が出てきたようなところもあると思いますから、逃げというふうにとられる面があるかもしれませんが、それぞれ調査をする側のご判断ということにならざるを得ないのではないかと思います。
それからもう1つ、これは答えが今出てきたことだと思いますけれども、海の類型化でも例として挙げられていますけれども、質問者はこれだけでは不十分だろうとお考えになっていらっしゃいます。その際には新たなものがあれば各自、その都度ということでしたけれども、その新たに設定する場合の基準は何かあるのでしょうかという話と、もう1つ、ダイヤグラムとしてはいろんな類型化された環境が示されていますけれども、単純な砂浜、砂底がずっと続くような場合がある。この場合、それは単に単純な砂浜、砂底というので良いのでしょうかというご質問です。
仮想的な話で、どういう砂浜を想像すれはいいのかというのがありまして、単調な砂浜が続いているんだったら、それはそれだけで結構だろうと思います。先ほど、例としてこんな絵を画いてみたらというところには、無理をして、とにかく考えられるいろんなものを詰め込んであるわけですけれども、必ずしもそういうところばかりではないわけで、当然、今、アセスの対象としなければいけないところが砂浜だけであれば、砂浜だけを対象として全くよろしいだろうと思います。
それから類型区分、他にもあり得るでしょうということですけれども、基質に関係した類型区分としては網羅的になっていると思いますので、これから外れるようなところがあれば、かなり特殊なところという気もしないではないです。ですから、ベーシックなところというか、基質と関係ない、ウォーターカラムを含めて類型区分をつくりたいというのであれば、それはそれで工夫をなさっていただきたいと思いますけれども、基質に関係したところであれば、かなり網羅しているのではないかという気はいたします。
ありがとうございました。
それでは、もう1つ、スコーピング段階でのご質問で、潜在植生図についてご質問がございます。植物の現況調査結果によって現存植生図、それから潜在植生図を作成し、準備書に記載することになりますが、この潜在植生図について、これはずっと昔からの議論であると思いますけれども、推定方法が不充分、あるいは概念そのものの不備が指摘されている。ご質問の方もそういうふうに思っているのだと思いますけれども、これを記載する必要があるのでしょうかというこ質問です。これについては、まず、壇上の、県でいろいろ関わっておられる植生と動物のロートル専門家の1人、絶滅のおそれのある秋田県の青木さん、何かご意見ありますか。
私も草屋で、相当昔に勉強したことなので、コメントする立場にはないんですが、基本的には典型性という生態系の概念をより具体化、具象化しているのが植生図だろうというふうに理解していますし、それでかなりの部分のカバーリングが、現実の生態系のアセスを行う場合でもできるのではないかと思っています。それを補足するのが多分、潜在自然植生ということになるのでしょうけれども、改変部分についてそんなに、どういう管理をするかという部分とはある程度は関連してくるのですが、大体は、潜在自然植生といっても、造成地とか、そんなところになるので、基本的には、潜在自然植生で将来のそこを予測するという局面は、非常に長いスパンでものを考えないといけない。むしろ現存自然植生で、ある程度間に合うのかと個人的には思っていますけれども、その辺は大島先生とか、より専門の方に私自身、お聴きしたいと思います。
それでは、先生、お願いします。
急激に、例えば人手がかかって、従来の植生から壊れたようなところでは潜在植生は非常に大事になってくると思うんです。しかし、例えば、里山というか、農村の古くから維持されてきたため池だとか、谷津だとか、田んぼだとか、畑だとか、里山林だとか、そういうものの複合した、モザイク状にいろんな生態系が組み合わさったところは、それなりに新しい環境をつくり、そして、新しい生物層が安定した状態でそこに存在しているわけで、そういうところで、昔はこれはタブ林だったからタブを植えたほうがいいということにはならないだろうという気がするのですね。ですから、そこの持っている、人手が入ってきても、それが長い間、維持されてきたそれなりの生態系の特性を、環境保全機能も含めてそれなりに評価していくことが非常に大事なことだと思っております。
そういうことで良いのですか。
ありがとうございました。
先生、こちらに上がっていていただきたいんですが、椅子がないので、またお願いするかと思いますけれども、よろしくお願いします。
小野先生、その辺については、何かご意見ございますか。
潜在自然植生というものをわざわざ考えなければならないというのはどういう理由だろうと考えている。僕は不要だと思っているんですけど。
ねばならないと書いてあるわけですか。
いや、そんなことは書いてない。
潜在自然植生まで考えなければならないということは、法律の技術指針などでは書かれていない。今回のレポートの中でも潜在自然植生を必ず把握すべき調査項目として挙げているわけではないのですが、植物群落のアセスをする中で、例えば、ミティゲーションで新しい場所に樹林を造成するようなときに、潜在自然植生も参考にしながらやるというようなことはあろうかと考えられる。どんなケースでも潜在自然植生を調べるということではない。まさに、インパクトと、その事業において何を問題にしているのか、どういう保全措置を考えるかということに応じて、必要があれば調べていくという位置づけで、この報告の中でも取り上げております。
それでは、同じ方のご質問で、先ほど吉田さんのお話の中で、愛知万博の中に沼沢林についてのお話がありました。自然保護協会のRDBの第1リストにアセスメントに盛り込む群落としてその沼沢林が挙げられています。このリストの取り扱いは最終的にどうなるでしょう。最終的にというのは、要するに回避するのか、あるいは影響を低減するのか、そういうミティゲーションの問題になると思いますけれども、どうなのでしょうかということ。それから、改変地域に群落が発見された際には、対応として代替地を探す、群落ごと移植する、一部を移植するという幾つかの対策が考えられると思いますけれども、どういう対策をとるべきだと考えておられるのか、そんなことも少しお話しいただければと思います。
植物群落の第1リストというものをつくった理由は、96年に植物群落のレッドデータブックという、こういう分厚いものを出したわけです。今の段階では植物群落はまだサイトレベルといいますか、例えば、特定植物群落だとか、天然記念物に指定されている何々神社の何群落とか、そういう情報としてあるに過ぎないわけです。ですから、そういうふうにサイトレベルで、これは重要と何かに書いてあれば、それは情報として使えるわけです。ですけれども、この神社の何林は非常に有名だから指定されているけれども、実は、同等か、それ以上のものが隣にあるとか、そういう場合が往々にしてあるわけなのです。そういうものをきちんと救わなければいけない。そういう面で、でき得れば植物群落名のレベルが、要するに植物種のレッドデータブックと同じように使えるようなところまで持っていきたいと思って、96年のレッドデータブックから整理をし始めたのですけれども、植物群落のレベルまで分けてしまうと、情報量がまだまだ少なくて、そこまでいかないのです。ですから、それを一まとめにした植物群系レベルということで沼沢林というふうにしたわけです。そうすると、ハンノキの場合とサクラバハンノキの場合とか、そういうふうに行っていくと、自ずと違ってきますし、それから、場所によってもそれが持つ意味が違ってきます。だから、一概には言えなくて、やはり、それが含まれている特定植物群落とか、あるいは天然記念物に指定されている群落とか、そういうサイトレベルの情報と見比べながら、ここに挙がっているリストのものは、ごく近くではこんなに重要に扱われているのだから、似たものも重要に考えなければいけないなとか、そういう使い方をとりあえずはしていかざるを得ないだろうと。でき得れば2次リストの時にはもっときちんと群落別に行いたいのですが、そのときは地域別も含まなければいけないし、これは大変な時間がかかることだと思っています。
群落レベルという話になると、まさにその地域、地域でそれぞれ、全く同一の群落があるとも思えませんし、非常に複雑になってくると思いますが、その辺は、アセスを進めていく過程で、その地域にとって何が重要なのかということが明らかに浮かび上がってくるような、そういう進め方であってほしいと思うわけでございます。
それから、予測・評価の考え方についてご質問がございます。植物群落の変化を予測する場合、種と数量、つまりバイオマスということでしょうか、それ以外に、時間と空間スケールの把握と予測が必要ではないかという非常に難しい生態学的なご質問なのですけれども、小野先生、この辺は。
ちょっと質問の意味が頭の中にまだ、もう一つとれてないんですが、どういうことですか。時間と空間の分布を予測するのですか。
ご質問をそのまま読み上げますと、「植物群落の変化を予測する場合には、種と数量以外に、時間と空間スケールの把握と予測も必要ではないでしょうか」。
サクセッションを予測しろということですか。質問の焦点がつかめてないのですが。サクセッションの話をしたいのか、ある特定の群落の拡散とか、収斂とか、そういう問題をしようとされているのか。
もしよろしければ、ご質問された方。
それでは、改めて質問します。内容は、時間軸の問題は、例えば、短期間で群落形態が変化することで多様性が保たれているような群落が、長期間をかけて変化し成立するような生育基盤になるような場合、その持続群落としての特性が失われるような現象に対する評価の視点が欠けているということです。先ほど、エネルギーの流れということで、エネルギーは空間的なものと時間的なもので変化しながらバランスをとっていると説明がありましたが、時間軸に与える変化は、空間的な影響とあわせて考える必要があると思います。また、植物群落の回復能力を想定した場合、再生力を上回るような影響を及ぼすような規模の大きい開発か、規模が小さく影響は解消できるようなものなのか、という空間的な評価も重要だと思います。インパクトを受ける生態系側の設定ができないと予測しにくいため、スコーピングの段階でそこまで押さえるのかどうかという難しいですが、そういう視点が抜けてしまうと問題があると思います。
大体わかりました。大島先生、お先に。僕は別なときに言います。
お願いします。
私がお話し申し上げたところで、2枚目の私の写真の載っているところの3行目をご覧いただくと、「また、生態系は常に部分的に破壊と修復を繰り返しながら、系内の生物と環境の相互作用、食物連鎖などによる物質やエネルギーの流れによって動的に維持されている」ということをここで触れていますので、それも考慮しながらスコーピングを行って、その上で調査項目を選定するという配慮も必要であるということを私はここで述べているつもりでございます。よろしゅうございますか。
モデル的な話もされているようですけれども、確かにおっしゃるように、時間分布でモデルをつくった場合は空間再現性は非常によくないのが今までのモデルのあり方です。しかし、現在はモデル屋さんたちも空間分布から時間分布を逆に考えていくというやり方を行っていますので、将来はそういうことをできると思うのですが、ただ、方法書の段階でそこまで書くかというと、これは無理だろうと思います。だから、それは考えに入れながら、ある程度直観的に判断することは必要かもしれませんけど、モデル的に行うことは私はできないと思いますので、行う必要はないのではないかと感覚的には思っています。
これは基本的にその後のアセスの問題でしょうね。
ええ。モニターに類する部分が相当多いだろうと思います。モニタリングの後の。
そのことで、1ついいですか。私たちのほうで話題になったのは、吉野川第十堰のアセス、方法書もまだ出てない段階ですけど、結局、ああいう構造物ができると、今までは、洪水が起きたりとか、川原の植物なんていうのはそういう川のダイナミズムとかに依存して繁殖しているものが多いわけです。そういうものが無くなることの影響は考えなければいけないのではないかと。そういう面で、今おっしゃった時間・空間スケールの問題というのは、もし事業自体がそういうダイナミズムを失うものであれば、やはりそういう項目も方法書の段階で入れておくべきではないかと思います。
なるほど。私が、実例に挙げましたアダプティブマネジメント、つまり順応的な管理というのはそういう考え方なのです。最初に方法を考えるときからそのことも考えに入れなさいということをアメリカあたりではやっているのですけど、今度の方法書にはそれは別にあまり強くは書いてありません。というのは、日本はアメリカと違って、予測のしにくい傾斜地が多いですから、そこまで書いてしまうと、どうしようもなくなるので、やめておりますけど、考え方としては理解できます。
今、小野先生の言われたアダプティブマネジメントなのですけれども、これは、実際に本調査をし、予測評価をする段階でフィードバックを行うときに非常に大事な問題になってくる。そこで効いてくるだろうという気がいたします。
それから、これは方法書から、さらに準備書あたりに進む話だと思いますけれども、評価の基準についてご質問があります。ご質問は、生態系の評価結果等の適否を現時点では、というのは事例が少ない状況ということですけれども、どのような基準や判断で行うのかということ、それから、評価方法等は事業者の判断でと言っておりますけれども、準備書あるいは評価書を審査する側からそのことが問題にされるのではないかというご懸念なのですけれども、いかがでしょうか。
今回の中間報告案ですが、これはスコーピングの段階なので、調査・予測・評価計画の立案のところまでですけれども、陸域、海域、それぞれ最後の部分で、例えば、陸域ですと25~28ページ(P108~111)です。評価手法の選定のところでは、要するにこのアセスの中でどういう視点で陸域の生態系の評価をするのか、海域の生態系の評価をするのか、その視点を考えることがまず大事ですよということで、陸域、海域、それぞれ、評価の視点の例を括弧の中に幾つか挙げています。スコーピングの際に、このアセスの中でどういう視点で評価をしていくのか、どういう物差しを当てていくのかということを事業者なりに考えて、それを方法書の中に書いてくださいということを、それぞれ挙げております。
これは検討会の中でも、まさに2年目以降の検討で、さらに調査・予測・評価、あるいは環境保全措置の検討についてご議論を進めていただくことになります。その中で、それぞれの生態系への影響を考えるときにどういう評価の視点を挙げ、どういう物差しで測っていけば良いのか、そして回避、低減についてどう評価していけばよいのかということについて、まとめていくことが重要な課題かと思っています。この辺はまだスコーピングの段階ということで、中間報告案にはあっさりとしか出しておりませんけれども、2年目の検討でさらに議論を進めて、また、議論の結果を皆さんにお伝えしていきたいと思っております。
ありがとうございました。
今まではスコーピング、それから方法書の段階から、さらに進んで準備書、評価書と、どう評価するかというところまで含めて、ご質問に対していろいろコメントをいただいたのですけれども、さらに、最後の青木さんのお話の中にもありました、今後、アセスメントを進めていくためにはどうしたら良いかということで幾つかご質問が来ています。1つは、まさに青木さんのおっしゃった、植物プランクトンや底生生物等を分類できる専門家の方があまりいらっしゃらないと。これについて、どういうふうにしていくのか。それから、これは、清水先生のお話があって、もうそれでこの質問の答えになっていると思いますけれども、典型性の種として取り上げることも出てくるのではないでしょうかということです。青木さんからの問題提起としてございましたけれども、専門家が少ない。これについて、先生方のほうからコメントをいただけますか。
絶滅危惧種の話なんですが、実は非常に憂慮すべき事態が1つあります。それは、次の高等学校の指導要綱の改訂が出ます。この中で、生態部門というのは勉強しなくてもいい部分に入っております。生物の中で完全に外されたんです。今までは僅かながらも入っていたのです。私は今、生態学会の会長をしているのですが、それを非常に憂慮しまして、今度、要望を出すことにしております。何とか復活してくれ、そうしないと、世間でこれだけ環境の問題の中に生態学が取り入れられている時代にもかかわらず、高等学校の教育ですっぽ抜けると、後はおそらく大学まで影響してしまうだろうということを、私ども、非常に現在でも心配しております。これは1つ、状況報告であります。
それから、絶滅危惧の問題でもう1つ大きいのは、大学にそういう教育施設がないということも当然でありますけれども、ある面で言うと世間的に生態学に対して強い要望が今までほとんどなかったのです。私達が学生の頃は夜の蝶の生態ぐらいしか言葉がありませんで、「生態学って何ですか」というのが普通だった。だけど、現在はそんなもの知らないことがおかしいというぐらいの時代に入っていますが、それがまだなかなか文部省という雲の上の方まで響いていないというのが今の実態でありますし、世間的にもそういうことをするのは相当変わり者で、「生態が好きというのは、おまえ、変わってるな」というぐらいのところがまだまだあるだろうと思います。それがやはりそういう形で表れておりますので、青木さんのような自治体にいらっしゃる方が大いに悩んでいただくというのが、ある面で言うと、そういうものに対する力づけになっていくと思います。
もう1つあります。それは、博物館というものは、現在そういうものの唯一の逃げ込み場になっております。博物館をみんなで大事にして、そこで学芸員の人が、単にそこに来てボーッと座っているのではなくて、少なくともそこの地域の自然史に関しては完璧な知識を持てるように、皆さんで育てていくということも非常に大きな仕事ではないかと思っております。これが、次に10年後に文部省が指導要綱を出したときに大きな力になるポイントではないかと、そんな感じであります。
絶滅危惧は仕方がないので、しばらくはどんどん減っていくだろうと思いますが、それをバックアップしていくのは、今のようなことを行っていくことだと思っております。
今、小野先生の言われた最後のところは、青木さんの絶滅危惧種に対して非常に重要なポイントだと思うのです。博物館は最近、あちこち、非常にたくさんできまして、小野先生が学術会議会員とやられたときにそれを調査して、幾つでしたか。
1997年度では全館数は7,300余りで、うち自然史系は生物館や園を入れて900余りです。
7300の内の900が自然系だそうです。その方たちがその地域の自然史について熟知することも大事なのですけれども、もう1つ、そういう人たちがもう1歩先に進んで、その地域の人たちにそれを教育していくことが、文部省でやらない、そういう問題を解決する現在の唯一の道かという気がしておりますので、申し添えておきます。
環境アセスメントの会社の方が大いに博物館をこき使うことだと思っています。それをやらないものですから、そんなに困っているかどうか、博物館の人は知らないのです。単なる同定では結局のところ、どこかに高いお金を払ってやってもらって、あまりたいした貢献にならないということが結構多いのではないかと、私は端から思っています。
この点について清水先生、いかがでしょうか。
特別につけ加えることはありません。先ほど青木さんが既におっしゃった幾つかの条件が、これから満たされなければいけないだろうということはありますけれども、一番重要なのは、社会的にどう、そういう人たちを評価するのかということなのです。やはり必要であれば当然生まれるわけだし、みんなが生き物が嫌いかというと、必ずしもそうではない。今、私のところで一番困るのは、みんなが水族館に行きたがるのです。入ってくる学生を面接すると、みんな、入ったら水族館へ行きたいと言う。ところが、水族館というのがまた、今や、なかなか狭き門でありまして、ある水族館が2人か何人か募集したら、何百人も行ったという話もあるくらいです。逆に言うと、そういうところが社会的要請でいろいろな仕事をして、もっとたくさん人間が要るようになれば、当然、そこに入る人はいるでしょうし、増えてくるだろうと思う。だから、どれだけ社会的に評価をするか。これは金銭面の問題ももちろんありますけれども、そういう状態ができるかどうかということだろうと私は思います。
ありがとうございました。生物多様性条約とか、生物多様性の国家戦略などができたときには、まさに、もう、文部省の頭の中からは全く絶滅危惧ではなくて、絶滅してしまったと思われる分類学に光が当たるのではないかと思っていたのですけど、なかなかそういうふうにはなりそうもない。その点については、自然環境研究センターのほうで何か、やむにやまれずというか、資格らしきものを…。
実は私、自然環境研究センターの理事長をやっておりまして、そういう危惧を大変感じたものですから、いろいろ努力してみたのですが、公的に生物の種の検定制度みたいなものはなかなかつくりにくいということで、センター独自で3段階の種の検定制度を始めることにしました。上級になりますと、種の検定制度だけではなくて、それがどういうふうに使われ、全体として、例えば、環境アセスにどういう役割を果たさなければならないかという問題まで含めて、1級から3級までの検定制度をつくりまして、今年の秋、2級と3級から始めることにしております。こういうことが本当に活きるかどうかは、受ける側の人が受かったときに、それをどう活かしてくれるかという問題にかかっております。その成果を心配しながら、とにかくやってみようということで出発することにいたしましたので、もしそういうものを利用してやっていただけるならありがたいと思っております。
これでここに名前を挙げた効果はありますね。宣伝をしましたので。
それから、あと1つ、アセスメントというのは、生態系に関して言えば、応用生態学の壮大な実践の場ということになるかと思いますけれども、この費用を実は環境庁などは大体ボランティアでやってきたわけです。これは本当にアセスとしてやればものすごい膨大な、それこそ桁が幾つも違う費用がかかると思うのですけれども、それをこれからどうしていったら良いのか。調査の費用について、何か環境庁のほうとしてお考えがあればという趣旨だと思いますけれども、どうぞ。
調査の費用は、やはり調査する人に負担してもらうということが基本になります。アセスメントでどこまでやるか、アセスメントを支えるいろいろな基礎的な情報の蓄積をどこまで高めていくかという2つの側面があって、アセスメントプロパーで情報を拾うところは、やはりアセスを行う人が負担してもらうことになります。しかし、肝心な点は、そこだけに努力を負わせるのではなくて、環境保全サイドとして、研究者サイドも含めて、生態系への影響をより良く、より的確にとらえていくために、それを支える基盤としての環境情報の蓄積を相当に力を入れていかなければならないと思っております。それも、国レベル、例えば、自然環境保全基礎調査といった全国レベルの調査も進めていかなければならないし、本日、たくさんおいでいただいている都道府県、市町村レベルでも、より地域の特徴をとらえたデータ蓄積が必要になると思います。NGOレベルでも、経年的なデータを観察調査の中で蓄積して、それを積極的にアセスにも情報提供していただくというような関わりをつくることが、情報を蓄積していく上では大切かと思っております。
それから、アセスとなれば既存のアセスの情報を使わない手はないわけでありまして、既存のアセスで収集したデータ、あるいは、これから自然の分野では事後調査で得られるデータが相当に大事になってくると思います。小野先生の自然の時間のスケールなり、アダプティブに考えていかなければいけないということを考えていけば、自然の反応を見ながら事業を進めていくことが大変に重要で、その自然の反応をみるということが事後調査でデータをとっていくことになると思います。そういうデータをきちんと、みんなが共有して使えるような形にしていくことも情報整備の中では大変に重要かと思います。
もう1つ、生態系ということになってくると、単に全国的な動植物の分布というレベルだけではなくて、まさに生活史の問題とか、この地域では何を食べているという食性のデータですとか、その種を存続させるためにどういう環境条件が決定的に不可欠なのかというような生態的な知見、基礎的な知見の蓄積も必要です。アセスをする際に、いつもなかなか無くて困ってしまうと、コンサルタントの方はそういう思いを持っていると思うのです。これは行政だけではなくて、研究の分野の方々にも、そういった生態に関する基礎的な知見の蓄積を期待するところもあろうかと思います。
そういったいろいろなレベルでの、いろいろな情報の整備が必要だと思うのですけど、それがアセスをする人だけではなくて、様々な主体によりいろいろな形で展開されていくこと、またそれらの情報をアセスに関わる様々な主体の人が共有できることが大事かと思っています。
自然環境の情報では、自然環境保全基礎調査を実施している環境庁の生物多様性センター、これは調査を実施するだけではなくて、自然環境の情報を収集して、それをGIS化して提供していくというような取り組みも進めております。また、今日お配りした資料の中に、こんな水色のパンフレットを入れています。これは、アセスの情報支援ネットワークということで、アセスに非常に関係の深い情報について昨年の6月から環境影響評価課のほうでインターネットによる情報提供を始めたものです。この中でも既存のアセス情報が検索できるようにしており、こうした情報を共有するための取り組みも併せて進めていくことが大変に重要かと思っております。
環境影響評価法が制定されたときに、その1つの課題として、個別の事業に対するアセスメントだけでなくて、もっと上位レベルの、国家的なレベルのいろいろな国土利用に関する制度、法律、計画、そういったものにも対応できるようなシステムが必要なのではないかという話があったと思います。これは、一方で環境庁のほうで進めている自然環境保全基礎調査がそのベースになると思いますけれども、それをベースにして、保護区であるとか、あるいは避けるべきところ等、いろいろ出てくると思いますけれども、全国レベルの調査であれば精度も低い。やはりそれはそれぞれの、まさにこのシンポジウムで繰り返し言われていますように、北から南まで非常に多様な、地域ごとに違う自然、生態系がある日本では、地域ごと、少なくとも都道府県ごと、レッドデータブックなどはそれぞれ整備されつつありますけれども、もっともっといろいろな面でそういうデータを整備して、さらに、開発事業が出てきたときに対応するだけではなくて、事前の対応というか、そういったものも、それこそ自然を守っていくための両輪だと思いますけれども、必要なことではなかろうかと思います。
ここで、一応、いただいたご質問、個々に全部を取り上げたわけではございませんけれども、主だった質問については取り上げさせていただきましたので、今までの議論を踏まえて、いろいろな形で自治体としてかかわる青木さん、それから、NGOとしてこれからお目付役をやっていく吉田さんも含めて御登壇いただいた方々に、きょうの感想なり、コメントなり、一言ずつお願いしたいと思います。青木さんの方から。
いきなり振られてちょっと…。先ほど、時間の関係で言おうかと思って割愛した部分があったのですが、それを感想というか、私なりのまとめとして述べさせていただきたいと思います。
1つは、生態系をアセスメントの中で位置づけ、定着させるというのが最終目的なのですが、一般の方がとらえている生態系がアセスの中に入った意義づけと、実際に今持っているいろいろな情報の中で行い得るアセスメントは、大きな乖離があるだろうと思うのです。現実問題、例えば、私がこの前出くわしたものでは、バクテリアに関する生態系のアセスが欠落しているということで、不備ではないか、県はそういうものを認めるのかと、こういう問われ方まで秋田の田舎でもされているわけです。それでは、本当にこの方が生態系なり、生態というものを知っているのかというと、きわめて表層的にしか多分知らないだろう。おそらく生態系という言葉が一人歩きして、アセスの中で、今までのアセス制度で果たし得なかった部分も全部、生態系というキーワードに期待しているのが実態だろうと思う。ところが、アセスメント制度の中で取り扱う生態系というのは、これは私の完全な個人的な考えですけれども、その地域に生息する生物からなる地域個体群で形成されている複数、複合の生態系がはたして安定的に存続するのか、あるいはどの程度存続可能なのか、極論すると、最低限残るというレベルになるのか、そういう判断材料を客観的な資料として出すこと、多分それがアセスの中に生態系という言葉が含まれた理由ではないかという気がしているんですけれども、そこの部分のギャップをどう埋めていくかというのは、これから、国もそうでしょうし、住民サイドあるいはアセス業者を直接いろいろな形で結果的には指導せざるを得ない地方自治体なり、そういう窓口に求められている大きな課題だろうと思うのです。それが私が今、明後日からアセス法が施行される中で一番危惧していることですし、それは、全国の自治体の方も、あるいは実際の業務を行う業者の方も、一番危惧している点ではないかと思います。
それでは、その件に関連して大島先生のほうから。
関連するような、関連しないような話になりますけど、先ほど小野先生が生態系と生物多様性がごっちゃになっているというお話をされたんですが、基本的には生物の多様性というのは種の多様性だと私も思っております。ただし、そればかりではありませんで、生物多様性条約の中に盛られているように、遺伝子の多様性もあり、生態系の多様性もあると、3つが挙げられているわけです。それはどういうことかというと、地域の環境によって、そこにいろいろな生物が住むようになる。群集ができ上がる。そうすると、ある特定の種構成を持った群集ができ上がって、それと環境との関係で生態系ができ上がる。ですから、その中で種が多いとか、少ないとかという問題ではなくて、その生態系特有の種構成を持って、ある機能と構造をつくって、エネルギーの流れあるいは物質循環が成り立って、生態系として環境保全機能を果たしているということがある。ここで使っている生物の多様性というのは、それぞれの地域に特有な種構成からなる群集でできている生態系であるという理解は、日本というのは北から南まであって、いろいろな地形が箱庭のようになっており、非常にたくさんの生態系がそこにある。それを考えることが必要であるということなのではないかという気がします。
それから、今、青木さんの言われた、実際に事業予定地の中には1つの生態系ではなくて複合された生態系がある。複合された生態系の持つ機能と構造によってつくられる環境が相互に作用し合って、全体のより大きなくくりでの生態系の生存と、それから、それによる環境保全機能が果たされているわけです。例えば、先ほど例に申し上げました里地のようなところでは、まさにそういうものができている。先ほど、吉田さんのお話になった海上の森などもまさにそれであって、それぞれの小さな生態系が複合されたものが、どう総合して環境保全機能を果たしているかということが大事です。ですから、まさにいい点を指摘されたと思うのですけど、吉田さんが複合されたものとして見てこられたものの影響が、生物だけではなくて、環境保全機能にどう及ぼされているか、それがわかれば、どういう生物が住めるかということはわかるわけですから、そういうアプローチで生態系を見ていくことは基本的に非常に大事なことだろうという気がします。
そのことだけ少し。
それでは、吉田さん、お願いします。
それでは、2つだけ、専門家が少ないということについてなのですけど、私たち団体に手伝いに来てくれるボランティアの学生には、多分、大島先生、こういう資格制度ができていれば、受けたいというような、そういう学生が実は潜在的にはたくさんいるのです。ですけれども、一方で、私たちのNGOの仲間には、アセスメント会社を辞めてNGOをやっているという人も結構いるのです。というのは、やはり虚しさがあるというか、一生懸命調べても、それが反映されない。だから、多分、自治体の方も大分いらっしゃると思うので、せっかく環境影響評価法ができたわけですから、ぜひ、○か×かではなくて、とにかく調べた結果が反映されていくようなアセスメントにしていただきたい。そういうふうにしていただくことが、結果的にはそういう専門家が社会的な評価を得ることだと思いますので、いくら私たちがやっても、ただ単に技術者として使われているだけだとなってしまったら、辞めてNGOに入るということになってしまうと思うのです。
次に、費用問題ですが、直接のアセスメントの費用は事業者が払うというのはそれで良いと思うのですけれども、それでは、行政が負担していただく部分はどこか。1つは環境情報の提供・蓄積ということです。環境庁では植生図のGIS化に11億円ぐらいかけて、立派なものをつくられた。これはそれでいいのですけれども、もう1つ大事なことは、壊してしまったところはどうなったのだと、それをきちんとモニタリングしないと、反映されないのです。今までそれは全然なかったのです。ようやく、さんざん長良川河口堰の問題で批判されて、環境庁から私どもが委託を受けて、利根川河口堰の影響調査を850万ぐらいでやりました。それから、長良川河口堰のモニタリング調査は5年ぐらいかけて、これは私たちは寄付金で5年間で750万ぐらいかけてやりまして、もう少しで報告書ができますけれども、そういった形でやっていくと、影響モデルができてくる。影響モデルがないと、ただ単に個別に項目を調べているだけで、生態系への影響は評価できないのです。そのモデルづくりを行わなければいけないのですけれども、やはりモデルづくりにはモニタリングが必要で、モニタリングにはあまりにもお金が出てない。そこがすごく問題だと思います。
その2点挙げて、最後に少し、これは言っておかないと、私は会の仲間からあれなのですけど、1つは、先ほど自然との触れ合いのことはあまり今日は言えなかったのですけれども、自然との触れ合いについては、つい最近、人と自然の豊かな触れ合いを考えるということで、私たちの団体で検討会をつくって、こういう報告をまとめました。見本が置いてありますので、そういうこともぜひご検討いただけたらと思います。あと、万博については、制度の批判ばかりだったではないかということがありましたので、生態系の問題について、6月13日に1時半から国立教育会館で私どもとWWFと野鳥の会で共催のシンポジウムを開きますので、興味ある方はぜひ参加してください。チラシも置いてありますので。
どうもありがとうございました。それでは、小野先生、どうぞ。
3点ほど申し上げます。
1つは、今の吉田さんに賛意を表しますが、地球上のあらゆる自然は人の影響下にある。私は要旨のところにテラインコングリアという不思議な言葉を書いてございますが、これは探検してない土地という意味です。テラというのは陸地で、インコングリアというのは占領とか、調査、探検を含むのですが、そういうものはもう地球上にはないわけです。必ず何らかの形で人間の影響が及んでおります。速度ということを私は申し上げましたけれども、人が自然を改変してきた歴史を自然のあらゆる面で歴史記録としてとどめておくということは、今、非常に大事な時期に来ているだろうと思います。天然の川というものは我が国にはまずありません。海岸も天然の海岸というのはないのです。それでは、昔はどうだったのかというと、きちんとした記録が残っていない場合が多いわけです。そういうものをデータベースとして残していくことが必要ではないかと思います。
例えば、私達の現在の文明というのは、これは稲作文明に影響されているのですが、稲作文明というのは、北部九州に上陸して、北部日本にずっと浸透しながら文明をつくってきたわけでありますけれども、その間、やはり、ものすごいこと、自然を変革してきているわけです。そういうものは歴史として評価されているわけですけど、自然の歴史としてどう評価されたかというのは全く記録が残ってない。そういう面で、これから環境影響評価といったときには、そういうヒストリーも考えられるようにしておきたいというのが、もう1つの私の提案であります。
それから2点目は、大島先生からおしかりを受けましたので、少しエクスキューズを申し上げておきますと、大島先生は大変理論的な説明をなさって、そのとおりなのですが、私が言いました生物多様性というのは、現在の議論の焦点がほとんど種の多様性のところに来ているということです。そういう意味で、種の多様性と生態系の機能の関連について述べたわけであります。生物多様性という場合は、明らかに、大島先生もおっしゃるように、生態系多様性と遺伝子多様性というものも全部含みます。しかし、それは今の議論の直接の対象になってないので、種多様性という意味で申し上げたのです。
第3番目は、私どもがこうしてまとめ上げたのは、これは考え方の枠組みをつくっているわけでありますので、その枠の中をどういうふうに考えていくかは皆さんの自由だと申し上げたいと思います。ただ、自由にしていく場合に、金がかかる。その金はどうしてくれるのだというのが先ほどからありました。これは1つは省庁間の問題もあろうかと思いますが、私は原理的には工事にかかる費用の1%から5%は環境にかけるべきだと思っております。1%から5%というのは、安い工事であれば5%ぐらいかけてくれ、高い工事であれば1%ぐらいかけてくれという意味で、逆に考えています。例えば、10億であれば2000万ぐらいはかけてもらっても良いのではないか、100億の工事で5%もかけたら、調査するほうが死んでしまいますので、それは1%ぐらいでも良いかもしれない。ただ、そういう枠組みは法律では決められないのですけど、何となく考えていても良いと思っておりますので、その辺は環境庁さんにぜひお願いしたいんですが、環境庁は事業団体ではないものですから、事業をやっているところに、それだけの金は事業のほうから出すべきではないかということを脅迫していただきたいとお願いをいたします。
今の問題と関連して、私は大学におりましたときに、二次林と耕地を含む新しい校地に新しい建物を建てた経験がございまして、アセスをやりました。同時に埋蔵文化財をやったわけです。埋蔵文化財にかかった費用は、建物の費用の半分かかっているわけです。ところが、私のほうは、私の知っている研究者にお願いしてボランティアをやったせいもありますけど、1%以下で済んだ。おそらく、かなりしっかりした組織をつくって環境影響評価をやっても、埋蔵文化財の2%あるいは5%で済むだろうということを申し上げておきます。
清水先生、どうぞ一言。
もう皆さんがおっしゃったので、私が言いたかったこともほとんど出ております。ただ、多分、ここに来ていらっしゃる方は、生態系の影響評価をやらなきゃいけないけれども、何をやればいいんだ、情報が無いということだろうと思います。情報が無いという話は随分、今まで出てきて、それをどうやって補っていくのかということは、渡辺さん、吉田さんから既にお話があった。しかも、この場合は現場でとらなければいけないという問題が実はあります。ただ、本当に情報が無いのかどうかということは、もう1度お考えいただきたいと思います。今現在では使えない情報が結構眠っている可能性があります。おそらく、我々よりも、ここに来ていらっしゃる環境コンサルタントの方のほうがデータを持っているのではないかと思う。それは、いろいろなことで調査をやっている。ただし、現状ではそれは出ないデータになっている。例えば、私が関係したことだけでも、これもしょっちゅう、あちこちで言っているのですけれども、東京湾などでいろいろな委員会があるわけです。運輸省がやり、環境庁もやり、いろいろなところがやるわけです。それぞれのデータを環境コンサルタントの方は取っていらっしゃるのですけれども、こっちでとったデータはこっちで使えないというふうなことがあるわけです。ですから、その辺のところはできるだけ情報の公開を行って、しかも、それをきちんとした形で蓄積していくということが必要だろうと思います。
それからもう1つは、それでは、本当に情報が無かったらどうするのかということになります。「何もわからないのに、そこをいじるの?」という話になってしまうわけですけれども、そこのところは、それこそ小野先生がおっしゃた、どう判断するかは自由なわけですから、自由に絵筆をふるって行うということになりますけれども、私がレジメに書いた、できることはやると、できることしか実際にできないわけですから、そこのところは創意工夫でお願いしたいと思います。できることはやるというのは、できることがあるのにやらないと批判されますよという逆の言い方でありますので、情報の掘り起こしから方法のところまで、全てできるだけ努力、つまり、どれだけの努力を払ったかということがその影響評価書の、あるいは方法書の評価につながってくると思いますので、そこは頑張っていただきたい。
どうもありがとうございました。最後の方は、老人力に圧倒されてしまいました。もう時間も来ましたので、ここでまとめをしなければいけないのですけれども、今のパネリストの皆さんのご発言で充分だろうと思います。
この法律は、とにかくアセスメントを開かれた存在にした。行政の側、それから事業者側も今までの閣議アセスの世界と違って格段にオープンな対応を迫られるようになった。これは一方で事業の影響を受ける側、住民であり、あるいは保護しようとする側、さらにはそれを支援しようとする研究者も含めて、これら関係者に、環境基本計画の柱、循環・共生・参加のうちの参加をより強く求めています。推進側が初めに実施ありきの硬直的な姿勢で臨み、住民側はそれにやはり硬直的な異議申し立てのみで対応するという関係、構図でなく、あらゆる主体がそれぞれの立場で循環・共生を維持するため、保全するため責任を果たす。
先ほど清水先生が「エンバイロメント・インパクト・アセスメント」という本をご覧になったとおっしゃいましたけれど、私が見たものも多分同じものだと思いますが、その中の事例にも文献にも日本のものは登場していませんでしたが、今後はこのアセスメントを進める中で類書に頻繁に登場するような、世界の範となりうるような事例を積み重ね、環境の保全ということを実現できれば良いというふうに思っております。それをひとつまとめの言葉とさせていただいて、このパネルディスカッションを終わりたいと思います。どうもありがとうございました。
パネリストの皆様、それから幸丸先生、さらに大島先生、どうもありがとうございました。