最後のコメントは、アセスメントにかかわる様々な主体の中で、非常に大きな役割を担っております地方公共団体の立場から、秋田県生活環境部自然保護課主幹の青木満さんにお願いしたいと思います。青木さん、よろしくお願いいたします。
秋田県の青木と申します。私の履歴を書いてまして、この場に立つのが相応しいのかどうか、私の血筋に若干疑問がありますが、最近、サ行とタ行の発音が大分もとに戻ってまいりましたので、そういう意味からは、地方自治体の立場を代表してこの場で意見を述べさせていただいて構わないのかなと感じております。
それからもう1つ、国、それからNGO、それから地方自治体という立場からそれぞれ意見を述べる形になるわけですけれども、もう1つ、実際にアセスメント制度を担う上で一番重要な部分が欠落しているわけで、それは実際に調査を行う業者の方々だろうと思います。しかしながら、立場上、こういう場ですから、なかなか参加しづらいという部分があろうかと思いますので、そういう方々と地方自治体というのが一番、日常業務を通じてアセスに関わっておりますので、その辺の視点も入れながら、2~3コメントをしてまいりたいと思います。
まず、新しいアセスメント制度に転換していくわけですけれども、現状でもそうなんですが、今回の改正というか、新しいアセスメント制度の中に取り込まれてきた生態系という問題について、実際にアセス制度を運用していく上で、地方自治体としてどういう問題に現在直面しているかという点から触れてみたいと思います。
一番の問題点は、やはり、実際にそういう生態系に関わる調査をする分類技術者といいますか、そういった技能集団の圧倒的な不足の問題があるのではないか。例えば、秋田県内で現在、閣議要綱に基づきますダムアセスをこの6月に-今週ですが-全ての手続を終わったばかりなわけですけど、そういう中で、閣議アセスでない、いろいろな調査を含めまして、様々なアセスメントが行われているわけですが、どういう事態が生じているかと言いますと、4~5カ所でアセス調査を実施しますと、調査者がいなくなってしまう。実際にいろいろな相談が来まして、小さい事業についても調査を進めるために紹介をしてほしいという話になるわけですが、やれるところがない。これが現在の実態だろうと思います。
その不足の中身を少し考えてみますと、1つは物理的な不足、もう1つは社会制度的な人材の不足、この2つがあろうかと思います。どうしても上位性ということでイヌワシとか、クマタカが注目されていますし、最近のバードウォッチングブームで鳥類の分類をする方は結構、若手も含めて多くはなってきているわけですが、それでも、先ほど言ったような実態が地方ではある。それでは、実際に作業をする上で、もっと習熟に時間のかかる植物ですとか、私が草屋だから植物について言うわけではないんですけれども、研究の少ない小型哺乳類ですとか、両生類、爬虫類、こういう分野になってくると、ほとんど絶滅危惧技能者集団状態だということではないかと思います。それから、特に地方でやる場合にどういう問題があるかというと、若手が育ってない。要するに、少子・高齢化が技能者集団の中で進んでいる。あるいは若手を育てる社会的な基盤が無くなりつつある。言ってみればトキ状態、野生絶滅状態。これが第2の問題だろうと思います。少子・高齢化が進むと、どういうことになるかというと、調査条件が厳しいと、調査不能ということになります。
さらにもう1つ問題なのは、社会的な問題。これは、特に秋田県という特殊な面があろうかとは思いますが、地方においてそういったいろいろな生物の分布情報等を所有している研究者というのは、ほとんどが高校の先生です。大学というのは非常に規模が小さくて、高校の先生、あるいは、水産関係とか、農業関係とか、そういう県の付属研究機関の方々なわけです。この方々が日常の仕事の合い間に蓄積したデータというのがほとんど地方が有しているデータなわけです。そういう方々が実際にアセスをやるわけではないのですが、どうしても頭脳としてはそこを活用せざるを得ないというのが実態だろうと思います。ところが、最近の学校の先生というのは土日ごとに運動部の何とかとか、生物の先生が野球部の監督をやっているわけですから、そういうことになるわけです。あるいは、地方の研究機関はといいますと、最近のいろいろな社会情勢の変化で、兼業規定の厳格化といったような形で、そういった指導業務ができないということになってきています。これが技術者不足の地方における実態ではないかと思います。
それでは、中央で全部それをカバーすればいいじゃないかというふうになるわけですが、実態は必ずしもそうではない。私がここに呼ばれたもう1つの理由は、閣議アセスの最後のダムのアセスを指導したということが選抜された理由だと思いますが、ご存じの方はご存じなんですが、大きなミスをアセス業者が行ってしまった。ミスを行った方を私は個人的に存じ上げているわけではないんですが、西日本の大学を出た人で、具体的な大学まで私は当てたんですが、そういう実態が中央にはある。要するに、地方には地方の特色ある分類群が当然あるわけで、そこに中央は必ずしも精通してない。生物には中央も地方もなくて、全部地方だということだと思います。
それからもう1つは、先ほど言ったような研究者の文献を行政できちんと整備していればよろしいのですが、今までそういった分野というのは非常に県庁の中でも弱いですし、ましてや市町村ではもっと弱い。先月、知事のところに先ほどのアセスメントの最終意見をどうするかということで呼ばれ、雑談になりまして、うちの部長が、秋田県庁には動物、植物が何とか解るのが2人しかいないと。1人が私のことだったのですが、2人とも大分年をくってきたので、後継を育成しないといけないというのを直談判していました。そういう実態が実はアセス業者さんだけではなくて、行政の内部にもあるということが、今後、アセスを進める上で大きな問題点ではないかと考えています。
それから、お金のことはあまり言いたくはないのですが、やはり、それなりの正当な評価を、社会的な立場だけではなくて、お金の面からも整えていかざるを得ないのではないか。そうしないと、アセス制度の中で生態系などを扱っていく人材はなかなか育っていかないのではないかと考えております。
それから、短期的な立場ではそういうことだろうと思いますが、中・長期的にどうすればいいかといえばこれは私が申し上げるよりは、むしろ基調講演をなさった先生方の分野だろうと思いますがまずは地方、あるいはどこでも同じでしょうけれども、長期的には初等教育における自然史分野を重視した教育が必要でしょうし、中期的には中等あるいは高等教育機関に、基礎研究をやる技術者集団じゃなくて、こういう応用面を担う養成機関なり、そういう組織を早急につくる必要性があるのではないかと考えております。
最後に、生態系について、アセスメントの中に位置づけられた場合に地方においてどういった問題が懸念されるかということを述べて、私のお話を終わりたいと思います。アセスメントに関する一般の理解というのは、まだまだイエスかノーかの判断をアセスに求めている、これが実態だろうと思います。要は、アセスメントで県が求められているのは、そのアセスに対してイエスを言うか、ノーを言うか、二者択一を求められています。イエスを言えば、吉田さんを含め、NGO等に相当責められます。事実、私も某ダムでマスコミにきのうの夕方までとっちめられておりましたけれども、そういう事態になる。アセスメントの制度は、必ずしもそういうことではなくて、特に今回改正された新しい制度では、○×型アセスと先ほどどなたか、おっしゃっておりましたけれども、○×アセスから住民参加型アセスへ転換させた、これが最大の特徴だろうというふうに私個人としては理解しておりますが、そういったものに対して参加してくる方々は告発型の姿勢を持ったまま参加してきているということが大きな問題点で、これをどう新しいアセス制度の趣旨を理解させ、定着させるかというのが地方における最大の課題だろうと認識しております。そのためには、当然、国からの支援も必要ですし、今日、多数の方がこの中にもお入りであろうアセス関係業者の方々、あるいは研究者の方々の応援がどうしても必要なのではないかと考えております。
時間になりましたので、これだけ述べさせていただきまして、私のコメントを終了したいと思います。
ありがとうございました。
それでは、次のパネルディスカッションに移ります前に、ここでまた若干の休憩をとりたいと思います。休憩は約10分間ということで、では、4時5分から次のプログラムに入りたいと存じます。それでは、休憩に入ります。