生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会
環境影響評価シンポジウム~生態系と環境アセスメント~の記録

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7 シンポジウムの記録

6)関係者のコメント(吉田氏)

司会:

次のコメントは、アセスメントにつきまして深い関わりを持っております環境問題に携わるNGOの立場から、財団法人日本自然保護協会保護部長の吉田正人さんにお願いいたしたいと存じます。吉田様、お願いします。

吉田:

皆さん、こんにちは。日本自然保護協会の吉田でございます。本日、こういうコメントを述べてほしいという依頼がありましたときに、今までアセスメントで新しい環境影響評価を先取りしたものとしては、私どもの団体としては愛知万博、2005年日本国際博覧会の環境影響評価、もう1つは吉野川第十堰の環境影響評価、その2つに取り組んでおりますので、その2つをお話しすれば、陸域と、水域と、両方お話しできるかと思います。吉野川第十堰の方は、私ども、こういう方法書にすべきであるという提言も出しておりますけれども、只今、住民投票などが進められておりまして、意見を聴いてから方法書が出るということで、まだ出ておりませんので、とりあえず、陸域の国際博覧会の方を題材にしてコメントを述べさせていただきたいと思います。

次、お願いします。(OHP

2005年日本国際博覧会の環境アセスメントについてですけれども、博覧会事業というのは、明後日から施行される新しい環境影響評価法でも対象事業にはなっておりません。どうしてこれが対象事業になってきたかといいますと、95年12月に閣議了解を経て、日本が博覧会に立候補すると、そういう段階になりましたときに、幾つか、自然環境への配慮、その中でも環境影響評価を適切に行うことという条件がつきまして、それであれば、これから環境影響評価法がスタートするわけであるから、それを先取りして行っていこうということになったわけです。

研究者の方の意見も聴いて、手法検討委員会というのを通産省の方でもつくりまして、基本的な考え方をまとめていかれた。その1つが環境影響評価法の趣旨を先取りする新しい環境影響評価のモデル、それから、人と自然の共生という理念の実現に資する環境影響評価、それから、博覧会の会場計画と連動した環境影響評価、それから、その博覧会が行われる場所には新住宅市街地開発事業と都市計画道路が予定されておりますが、それと連携を図った環境影響評価と、そういうことが求められております。

次、お願いします。(OHP

この環境影響評価で評価できる点。当然、先取りして取り組んできたわけですから、まだ事例も少なくて充分でない点があるのはもっともなんですけれども、1つは市民参加の機会が増えたということはあります。今までは、準備書への意見の提出の機会のみだったのが、方法書の段階に意見を提出することができた。この博覧会の場合には計画書という名前でございました。それから、その計画書の説明会も開かれて、そこでも意見。これは、計画書のときは聴きおくだけで意見が述べられないという市民からの反発もかなりありまして、その辺も大分、意見交換に今変わってきておりますけれども、そういうチャンスもできた。準備書にも意見を言うことができる。方法書には500通以上ありました。それから、インターネット、ホームページ等を使って情報公開もされたし、それから、かなりのデータが、私が持っておりますのは準備書の要約ですが、本物はもっと厚いもので、その中に図も入っておりますので、それをもとに分析もできる。そういうことが評価できる点です。

それから、科学的アセスメントに1歩近づいてきた。今までは、1つは、そこに書いてありますが、受託者の名前が書いてないということで、いい加減なアセス、誰が行ったんだということでしたけど、これからは少なくとも会社名は書かれる。いい加減なアセスをすればその会社は評判が落ちるというわけで、そういうことがきちんとされるようになっただけでも相当違うと思うんですね。

それから、それぞれの部署で、事業者も、それから県なども、研究者による助言組織をつくっている。そういった点については、今までのアセスにない部分が随分あると思います。

次、お願いします。(OHP

これは博覧会事業のアセスメントですけれども、上から順番に、先ほど渡辺さんから見せていただいたものをもうちょっと詳しく書いたものですが、ここが準備書に関わる手続。準備書がつくられ、2月に公開されまして、4月6日にこの意見書提出を締め切られるわけです。そして、意見集約をして、それに対する事業者の見解書がつく。そして、県知事と市町村長の意見がつきまして、評価書となるわけですが、ここがちょっと、今、問題になっておりまして、うわさによりますと、12日より前に出してしまおうなんて、これは駆け込みじゃないかという批判も随分出ております。今、こういう段階に来ているわけです。

次、お願いします。(OHP

問題点はたくさんございます。たくさん言いたいことがあるわけですが、これについては、環境影響評価法でもカバーできない点もありますし、この評価法の中で頑張れば カバーできる点もあるわけです。難しいところとしては、複数案を比較検討する計画アセスになっていない。これは、環境影響評価法自体がそういうところまで行ってないので、そこに準じてやっているので、やれというのが無理というご意見もありますが、準じてやっているんだから、必ずしもそのとおりやっているわけじゃないわけですから、21世紀のモデルとなるアセスというふうに通産省でおっしゃっているからには、法で求めているもの以上、やっても良いと思うのです。

といいますのは、今、オオタカの問題が出てきております。それでは、そこの営巣地の周辺を避けるとなると、どうしてもある程度外側に会場候補地を考えざるを得ない。そうすると、どこがいいか考えていったとき、外側は全然調査してないわけですね。これはおかしなことで、やはり外側に代替地、複数の候補地のようなものを考慮して、そういったところも調査していないと、もしこういった事態が起きて、全部ないし一部を移すといった場合にどこに移したら良いのか、そういうことが検討できないわけです。

それから、次に問題になるのは、これも現在の環境影響評価法では難しいところですが、住宅、道路も含めた事業の複合的影響が評価できていない。これについては、連携を図るということで、例えば、方法書、それから準備書を出すタイミングは合わせられた。それから、ここに黄色い小さいペーパーで統一資料というのがありますけれども、こういった形で、3事業の関連が解るような資料を出された。これは今までにない画期的なことではあると思います。

ただ、私たちが求めていたのは、複合的な影響がわからないと困るわけです。例えば、1つの町にゴルフ場が4つも5つも計画されている。ここのゴルフ場のアセスメントは、このサンショウウオは他の谷にも住んでいるから、ここは潰しても大丈夫だと書いてある。隣のアセスメントでもそう書いてある。隣のアセスメントでもそう書いてある。それを全部合わせると、サンショウウオが住むところはどこにもなくなってしまうと、そういう問題があったわけですね。

今回の場合は、時間的に重複しているわけです。平成13年までの間に道路や住宅でかなりの影響が出てくる。そして、平成14年から万博の事業に入っていくわけです。万博のこのアセスメントの準備書を見ますと、直接改変による影響はないと書いてありますが、それは当たり前のことで、平成13年までの間に住宅や道路の基盤整備のところでほとんど潰してしまうわけですね。実際上、少しこの先に行きますが、生物多様性の項目では、例えば、ムササビの全行動圏の26%が影響を受けるとか、それから、カワセミが営巣可能な崖地の34%が直接改変を受けるとか、それから、沢筋で繁殖するサンコウチョウ、サンショウクイ、ヤブサメ、オオルリなどの夏鳥の個体数が20%から50%ぐらい消失する。こういった明らかな影響が出てきているわけです。それにもかかわらず、住宅・道路では、例えば、ムササビなんかですと、ムササビが住める巣箱をつけるとか、植物ですと、移植をする。移植といっても、ここに書いてある植物は、シケシダ類とか、水の供給を必要とするもので、そんなに簡単に移植が可能なものとは思えないのですけれども、移植ですとか、巣箱ですとか、そういった環境保全措置で回避するというふうになっているわけです。

一方、万博の方は、そこから先は、平成14年からその影響を調べますので、影響はないと書いてある。これは私たち、1+1+1=0のアセスメントと呼んでいるのですけれども、それぞれでは影響があるだろうと思うのですが、それぞれのアセスメントの中で影響を四捨五入してしまって足すとゼロという、そういうおかしなアセスメントになっています。こういうことは吉野川第十堰でも河口堰から干潟に与える影響-干潟の周辺には橋が上下に高速道路と都市計画道路が1本ずつ、それから県が計画する埋め立て地-そういったものが計画されております。そういった複合的なアセスメントを行わないと、自然の立場に立ったら、これからいろいろな影響が来るわけですから、1つの事業の影響だけ、それで影響がないと言われても困るわけです。1つの生態系に対して複合的な影響が出るものはたくさんあるわけで、そういったものをこれからきちんと評価できるようにしてもらわないと困る。ですけど、これはできてないわけですね。

それから、方法書、スコーピングという段階を大いに活用してくださいと渡辺さんの方からお話がありました。これは、残念ながら、私どもとしては受けとめてもらえなかったなと思っています。何故かといいますと、500通近くの意見書が出たんですけれども、その意見書に対して見解が発表されたのが2月10日で、2月24日に準備書が発表される2週間前です。2週間前といったら、もう準備書の本はできているわけです。そんなときになって皆さんの意見についてはこう考えていますよと言われても、もう遅い。調査は終わっているわけです。ですから、調査に入る前に方法書に対する意見を聴いて、どう変えたのか、それはぜひ発表していただきたいと思います。これはこの法の中で、はっきり書いてないんですけど、私たちNGOがこれから関わっていくに当たっては、そういったものがないと、だんだんこのプロセスに参加していく人が無くなってしまうのじゃないかと思っています。

最後に、里山の景観、つまり、自然との触れ合いの価値が十分評価されていないということがあります。

次、お願いします。(OHP

これは環境影響評価技術指針に盛り込むべき重要な植物群落というので昨年6月に発表したもので、希少性ですとか、それから、危機の度合いだとか、保護管理状態だとか、そういったものを考慮して選んだもので、貧栄養湿地というのが一番危ない植物群型に入っています。その他、沼沢林ですとか、こういった湿原、水ものが多いんですね。水ものに関係する貧栄養湿地の部分というのは、この中でもBゾーンということで、95年の閣議了解のときに除かれて、ここの部分、Aゾーンを利用するということになりました。ところが、今、これが生態系の中で上位性、典型性、特殊性の特殊性に当たる部分です。それから飛んできて営巣を始めたオオタカというのは上位性に当たる部分です。こちらは典型性に当たる部分です。

次、お願いします。(OHP

こういうふうに万博の計画、それから道路、今、こちら側に曲がっておりますけれども、こういう道路の計画がある。Bゾーン(砂礫層)の特殊なところだけ守ろうと思っても、その他、ギフチョウですとか、サンコウチョウですとか、サワガニですとか、いろいろな生物について調べると、ほとんどBゾーンは特殊なもので、典型的なものはみんなAゾーン(花崗岩地帯)の方にいるわけですね。そういうことを考えなくてはいけない。

それから、実はこの特殊なものの基盤に典型的なものがあるということで、例えば、Bゾーンを守ろうと思うと、湧き水がずっと出てないとだめなのですね。ところが、その湧き水は、Bゾーンに降った水の量より、湧いてくる水の方が多いのです。ということは、集水域全体に降ったものがBゾーンから湧き出ているということになるわけです。それから、オオタカについても、たまたま営巣が新しく見つかりました。でも、ここの典型的な里山全体を守っていかないと、特殊なものが守れない。ですから、典型的なものの上に特殊なもの、それから上位性のものが乗っかっているという、そういう構造になっているわけです。そういった形のものが充分調査できてないということです。

もう時間がありませんので、人と自然との触れ合いについてとか、まだ不充分な点があると思うのですけれども、それはまたディスカッションの中でお話ししたいと思います。どうもありがとうございました。

司会:
吉田さん、どうもありがとうございました。

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