皆様、お待たせいたしました。それでは、次のプログラム、関係者のコメントを始めさせていただきます。
まず、環境庁環境影響評価課評価技術調整官の渡辺綱男からコメントをさせていただきます。
環境庁の渡辺でございます。先ほど、小野先生、清水先生から、陸域、海域の生態系のとらえ方、また、その特性を考慮したアセスメントの進め方ということでご講演をいただきました。私からは、新たな制度の中での生態系あるいはスコーピングの位置づけにつきまして、何点かコメントしたいと存じます。
OHPをお願いします。
まず初めに、アセス法の基本理念、及び従来のアセスからの変更点、それと生態系やスコーピングの位置づけです。大島先生が述べられましたように、今回のアセス法は環境基本法に対応ということで、持続可能な発展を基本理念として、それを受けまして、まず、よりよい環境配慮、すなわち、事業活動の中によりよい環境配慮を積極的に組み込んでいくことのできる仕組みとしております。また、新たなニーズということで、生物の多様性、生態系、身近な自然、里地の自然、地球環境の保全、そういった新たな環境保全のニーズにも積極的に応えていくことのできる仕組みとしているところです。
そうしたことを受けまして、さらに具体的な制度の面で従来のアセスと大きく異なる点が図1の一番右側の2つ、すなわち、評価の考え方、そして、スコーピングということになります。
まず、評価の考え方ですが、全国一律の絶対に守るべき基準をクリアできているかどうか、○か×かという従来の基準クリア型の評価から、そういった基準をクリアするだけではなくて、事業ごとに「よりよい」を追求して、その事業の環境影響の回避・低減のために最善の努力ができているかどうかで評価しようという、いわばベスト追求型の評価への転換というのが第1点でございます。
それからもう1つは、スコーピング、早期段階からの手続ということです。従来のアセスメントでは、アセスの結果を事業計画の修正に反映させることのできる幅がどうしても狭いという面がありました。そこを改善すべく、今回のアセス法ではスコーピングを通じて少しでも早い段階からいろいろな意見を聴いて、事業計画の検討の幅がより広い段階から環境配慮の検討が始められるようにしようというのが、第1のスコーピングのねらいです。
また、先ほど申し上げましたように、アセスの対象項目も、新たなニーズも受けて大幅に拡大されております。そのようになりますと、全国どこの場所でも同じ項目、全ての項目ということではなくて、事業ごとに、事業のインパクト、また、インパクトを受ける側の環境の特性を検討して、このアセスで一体何が重要な対象なのかということを絞り込んで、メリハリの効いたアセスを行っていくことが必要になります。すなわち、定型的なアセスメントから、創意工夫をしたオーダーメイドのアセスメントへの転換、これがスコーピングの第2のねらいになろうかと思います。まずは、こうした点を理解しながら、スコーピングを行うことが大切と考えております。
(OHP)
次に、アセスメントの対象項目の範囲に関してでございます。従来の閣議決定のアセス、図2の左側からアセス法のアセスの対象範囲は図2の右側へと随分広がっております。具体的には、環境基本法第14条に掲げられた環境保全施策の3つの指針を受けて、一番目の環境の自然的構成要素の良好な状態の保持、2つ目の生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全、3つ目の人と自然との豊かな触れ合い、この3つの区分をまずは設けております。さらにプラスして、4つ目の区分として、環境への負荷の程度そのものを把握していくべき項目ということで、環境への負荷という項目を加えております。2つ目の生物の多様性の区分の細区分として、従来の植物、動物という項目に加えて、生態系という項目が加えられた意義につきましては、冒頭、大島先生から述べていただきました。本日、生物の多様性分野の検討会の中間報告案の抜粋をお配りしておりますが、この検討会では、このアセスの対象項目の中で図2右側の2つ目の分野を検討していただいております。新たな項目であります生態系を中心に、植物、動物、さらに関連の深い地形・地質、そういった項目を併せて技術手法の検討を進めていただいているところでございます。また、他の分野、自然との触れ合いの分野、あるいは自然的構成要素の分野、負荷の分野についても、同様に環境庁におきまして検討会を設け、技術手法の向上のための検討を進めていただいていております。
(OHP)
次に、アセスの全体の流れの中でのスコーピングの位置づけでございます。図3のフローには、一番左の事業計画を煮詰めていく流れ、それから、真ん中が事業者が実際にアセスの作業をする流れ、右側の部分が情報交流のための外部手続の流れという、大きく3つの流れを示しております。具体的には、まず、スコーピングの中で、事業者がアセスの実施方法を考えて、それを方法書に案としてまとめて公告縦覧をし、一般の意見、自治体の意見を聴いて、適切な項目、手法を選んでいく。その選んだ手法で調査・予測・評価を行うわけですが、この過程で得られた情報でまた柔軟に項目、手法も見直しながら、調査・予測・評価を進めていくということをここで示しております。
また、調査・予測・評価と並行して、環境影響を回避・低減するための環境保全措置の検討を進めていくことになります。この作業の結果を準備書という形にまとめて、再び公告縦覧をして、ここでいま一度、一般の意見、自治体の意見を聴く。その結果、必要に応じて追加調査、環境保全措置の再検討をして評価書にまとめていく。その後、次の段階で主務大臣、環境庁長官という国の側からの意見を出して、それに応じて必要な調査、再検討を行った上で、評価書の補正をして、最終的な評価書が公告縦覧をされる。これが一連のアセスの流れで、その後、許認可等の審査が行われ、事業がスタートということになります。アセスメントは事前に予測するということで、大なり小なり不確実さを伴いながら行う作業になります。その不確実さを補うためのフォローアップの措置として、事業実施後に事後調査を位置づけているというのが全体の大きい流れになるわけです。
この流れの中で、事業者のアセス作業の流れと、事業計画を煮詰めていく、つまり、熟度を高めていく流れ、これがバラバラではなくて、それぞれの段階で連携を密にしながら、フィードバックをしながら、環境配慮の検討をそれぞれの段階で事業計画の中に織り込んでいく、事業実施の段階でも事後調査の結果を織り込んでいくということが大切な点であろうかと思っております。
また、情報交流をスタートする時期は、従来は調査・予測・評価をした後でつくる準備書で初めてオープンになって、公告縦覧がスタートする。今回は方法書の段階でオープンにして情報交流がスタートするということで、早い段階からスタートということになります。
検討会でも、まず初年度はスコーピングの段階に焦点を当てて、その効果的な進め方について検討していただきました。お配りしている報告書の2ページにフローがついています。これが初年度の検討会の報告のおおよその範囲でございます。このフローの流れに沿って、地形・地質、植物、動物という項目について、そして、新しい項目の生態系について、スコーピングの進め方ということでまとめていただいているところです。その内で、本日の資料は、生態系の項目の部分について抜粋してお配りしております。具体的には、先ほどお二人の先生に話していただいた陸域と海域に分けて、まずは対象地域の生態系の特性をどうとらえるのか、想定される事業のインパクトを踏まえて、どんな環境、どんな生物に注目すればいいのか、あるいはどんな生態系の機能に注目していけば良いのかといった点、さらに、先ほど考え方を示していただいた上位性、典型性、特殊性の3つの視点の考え方、あるいはその考え方に基づいた注目される種や群集の拾い出し方、そして、それらの作業を受けてアセスの実施計画をどんなふうに立案していけばよいかといった流れで報告をまとめていただいております。6月中をめどに、報告書の形で、検討会中間報告を公表する予定でおります。
この検討会の報告については、実際のアセスメントに際して様々な主体がかかわることになりますが、様々な主体の方々に参考としてもらえるようにということで取りまとめているわけです。併せて、法に基づく基本的事項、あるいは技術指針の今後の見直しにも役立てていきたいと考えております。
さて、スコーピングでは、本調査を行う前の段階ということで、基本的には既存の資料が中心で、それにプラスして、この段階でできる専門家の人たちへのヒアリング、あるいは現地を概略踏査する、そういった作業を加えて情報を集めていくことになります。それをもとに、事業によるインパクト、インパクトを受ける環境の全体像を概略ながら把握・整理して、その結果に基づいて、対象地域に相応しいアセスの実施方法を検討していく。
その際に大切なポイントを2点ほど申し上げたいと思います。まず第1のポイントは先生方の話にも出た点でございます。アセスを行う方が、まず、自らの目で現地を確かめながら、その地域の生態系の特徴をつかんでほしいということであります。また、それを受けて、対象事業のインパクトの内容、インパクトの範囲を概略想定しながら、今回のアセスでどのような環境、どのような生物に注目すればいいのか、どのような生態系の構造や機能に注目すればいいのか、どんな方法でアセスをやるべきか、それを自らの頭で考えてほしいという点です。中間報告にも注目種・群集の該当例を載せておりますが、あくまでも考え方をつかんでもらうための例ということで、事業ごとに、対象となる生態系に最も相応しい種や群集を自ら考えて選んでいってほしいというのが1点目です。
第2のポイントですが、方法書を出していろいろな人たちの意見を聴くことを恐れずに、積極的にスコーピングを活用してほしいということが2点目です。この段階で多くの具体的な意見、具体的な情報をできるだけたくさん引き出すことは、次の段階でアセスの手戻りを防ぐことになりますし、効果的なアセスにもつながりますので、よりよい環境配慮のためにスコーピングを積極的に活用して、意見を聴くことを恐れずに臨んでほしいと思います。そのためには、事業者が対象地域の生態系をどんなふうにとらえて、どんなプロセスを経てこのアセスの方法を検討したのかということを、方法書の中で、できるだけ一般の人にもわかりやすく、かつ、抽象的ではなく、具体的に示していくことがとても大切な点であるというのが2点目でございます。
本年度、スコーピングの範囲について報告をまとめていただくわけですけれども、次年度、つまり今年ですが、今度はその次の段階、調査・予測・評価、さらに環境保全措置という段階について検討を進めていただく予定にしております。その中で、注目種への影響、あるいは生態系の多様性、あるいは、その機能への影響をどんなふうに客観的に予測・評価していくのか、評価の視点をどう設定するか、そのためにどんな物差しを当てていくか、そういったことが検討課題になると思っております。また、環境保全措置の検討、いわゆるミティゲーションの検討も今回のアセスの要であろうかと思います。生態系のタイプ、あるいはその重要性に応じて、また、小野先生の述べられた自然の時間のスケールということも踏まえながら、ミティゲーションをどんなふうに検討していけば良いのかということも大切な課題と思っております。
最後に、我が国は非常に南北に長く、多様な生態系を有するというお話がありました。その多様な生態系を保全していく上で、1つには、やはり保護地域の設定などの対策が必要になりますが、そういった対策と併せて、アセスを通じて、生態系に及ぼす事業の影響を回避・低減するための最善の努力がなされることが、不可欠だと思います。まさに、両者が車の両輪としてうまく機能していくことが必要であります。また、新たに生まれたアセス法が、いよいよ明後日から動き出すわけですが、よりよいアセスをしていくためには、技術手法についてもよりよいものへ育てていくことが大変に重要かと思っております。そういう意味におきまして、環境庁といたしましても、本日、たくさんの分野の方にお集まりいただいておりますが、いろいろな分野の人たちからご意見、ご提案を聴かせていただきながら、アセスの技術向上のための取り組みを進めていきたいということを申し上げまして、私からのコメントを終わりたいと思います。
どうもありがとうございました。