生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会
環境影響評価シンポジウム~生態系と環境アセスメント~の記録

目次へ戻る

7 シンポジウムの記録

4)基調講演2「海域の生態系と環境アセスメント」

司会:

それでは、引き続き、日本大学教授の清水誠先生から「海域の生態系の環境アセスメント」をテーマにご講演をいただきます。清水先生、よろしくお願いいたします。

清水:

ご紹介いただきました清水でございます。只今、小野先生からお話がございましたし、それから、最初に大島先生から本日の趣旨、あるいは環境庁で今検討していることがどんなことであるかというようなお話をいただきました。特に小野先生からは水の中の話も随分たくさんしていただきましたので、私はもう何もしなくていいのではないかと思うのですが、若干、海域生態系とアセスメントについて、こんなことを考えておかなければいけないのではないだろうかというようなことを、少しお話をしてみたいと思います。

お話をしてみたいと思いますと言っても、これは断るまでもありませんけれども、私がこう考えているということでありまして、環境庁の今回の取りまとめも引用はいたしますけれども、私が勝手に考えているだけで、当たり前ですが、環境庁のお墨付きの意見というわけではありません。

最初に大島先生からお話がございましたように、今回の影響評価は環境基本法を受けております。昔の公害対策基本法と比べますと、要するに、環境保全の対象として従来は人の健康保護と生活環境保全であったけれども、それだけでは具合が悪いということで、生態系が入ったわけです。それを踏まえて考えていかないといけない。そうであれば、生態系の保全というのは一体何であろうか。あまり上段に振りかぶってものを言っても仕方がないのですが。

OHPをお願いいたします。

これも再々出ておりますように、大島先生のお話にもありましたように、今まで植物、動物だけを行っていたけれども、それに加えて生態系を行う。その場合に生態系をまるごと評価することは難しいから、その中から何かを選んで考えないといけない。そこのところが、先ほどの小野先生のお話にもありました上位性、典型性、特殊性という言葉で表されている中身であります。ただ、今日、ここで申し上げたいのは、小野先生も強調なさいましたけれども、こういうことだけに捕らわれるのではなくて、他の考えられることはいろいろ行ってくださいということが、一番の趣旨であろうと思います。

上位性、典型性、特殊性ということでもって生態系を考えようということでございますけれども、何で生態系をまるごと考えるのが難しいかということになるわけで、難しいのは承知の上で、それでは、生態系を本当に丸ごと考えるとすれば、どんな考え方があるだろうかということになるわけです。もちろん、これは診断というよりは予測でありますから、何らかのモデルを考えないといけない。生態系の仕組みを理解して、それを表すようなモデルをつくって、それを動かしてみて、シミュレーションの結果から何かを言わないといけないわけです。

今までそういうモデルがないかと言えば、必ずしもそうではありませんで、数にすればかなりのモデルがありました。それはいろいろな場面で、どうしてもこういうことが必要ではないかということで提案されたものであります。

次をお願いいたします。(OHP

例えば、これはアメリカがベーリング海で水産資源の評価を行う際に使ったモデルであります。200海里制を敷きまして、その中の資源の評価をして、それに基づいて諸外国への漁獲の割り当てを決める。その一環としてこういうものが出てきました。ベーリング海を幾つかの水域に分けて、そこにありますような対象のものについて計算をしていこうと。

次をお願いいたします。(OHP

ここでは細かい話はいたしませんけれども、いずれにしても、食う、食われる関係を中心に据えまして、それぞれの種類が一体どういう変化をするかということの繰り返し計算を行って、安定したところで見ていこうということでございます。アメリカがこういうモデルを使うんだそうだ、それに基づいて日本への割り当ても決まるんだというような話で、水産庁なんかも慌てまして、当時、随分これに関する勉強を行ったわけですけれども、実際にはこれがそんなに使われなかった。本当に必要なパラメータが、どうも充分には得られていなかったからであります。

次をお願いいたします。(OHP

生態系モデルと言った場合に、実は2通りありまして、今のような、対象とする生物の個体数でありますとか、あるいは生物量、そういうものを記述して、その変化を予測するものと、もう1つ、生態系の中を物質が動いていく、その移行を表現しようというモデルがあります。ここに出しましたのは、日本がまだ低レベルの放射性固体廃棄物の深海投棄を考えていた時代に、その評価を行うために、実際に低レベル廃棄物を深海に捨てた場合に、放射性の核種が出てきまして、それが生物に取り込まれて人間にまで達するという道筋を考えた、そのときのモデルであります。

こういうふうな安全評価を行うときには、一般に最も単純には、水の中にどのくらいあれば生物の中にどのくらい取り込まれるかというのを、濃度の比をとりまして、濃縮係数を使って行う。ただし、この場合には深海に捨てるものですから、上から下まで濃度の違いがあるわけです。ですから、例えば、ここである魚が上の方の魚、下の方の魚といったものを食べますと、この層で濃度が違いますから、単純に1つの濃縮係数でものを言うわけにはいかない。そうなると、1つ1つ積み上げていってというようなことがあるわけで、このときに考えたのは、太平洋の真ん中辺、あるいはもう少し北の親潮の辺で、どんな連鎖が考えられて、そのそれぞれでどういうふうになるかということを行ったわけです。この図は小さ過ぎて、後ろの辺からは見えないと思いますけれども、これは感度解析的に使われまして、セシウムやストロンチウムはそんなに違いはないけれども、コバルトの場合だと数倍の違いも出る可能性があるという結果も一応出した。こういうふうに実際に使われた例もありますし、それから、水産側から今までにも、環境アセスメントにこういうモデルを使ったら良いのではないかという提案は幾つもなされております。

次をお願いします。(OHP

これはその1つの例ですけれども、いろいろなファクターがどんなふうに絡まり合っていくのか。それを構造モデルと言っていますけれども、この場合に結局問題になるのは、何かが起きたときに、その次のものに、何がどういうふうな変化を生ずるかという関係が必要になってまいります。この関係が充分に得られているかどうかが問題になってきまして、実際にいろいろやってみると、なかなかそれがうまくいかない。うまくいかないものをたくさんお見せしても仕方がないんですけれども、一応、水産側もこんな努力をしてきた。具体的に幾つもの試みを行いましたけれども、現実には、なかなかうまくいってない。これが1つの例です。

次をお願いします。(OHP

これは、小型底引き網の操業にどんな影響があるかというのを、今のお話でもって行う仕組みの図でございます。

次をお願いします。(OHP

これは、また別のマトリックスをつくって行ったら良いのではないか。ただのマトリックスではなくて、その間の量的な関係をいろいろ考えて、必要なパラメータを求めて、影響を予測していこうというものでございます。

次をお願いします。(OHP

これは、もう1つ別の、今度は生活史を考える。それで、やはり生物のいろいろな段階でどういう問題が起きるのかということがあるわけです。

次をお願いします。(OHP

最終的には、それぞれのインパクトからパラメータへの経路を考え、それから、そのそれぞれの具体的な影響関係の形が必要になってまいります。こういうものが、実は今までにそんなに得られていないわけです。水生生物へのいろいろな環境要因の影響は、実験ではなかなか出ないわけです。実験で、もちろん、LC50とか、毒性の評価は行いますし、他のものもできるわけですけれども、現場で本当にそうなるかというのはなかなか難しい。現場で一体どういうふうになるのかというのは、本来ならば、日本は沿岸開発がこんなに盛んですから、そこで起こったことをきちんと後づけておけば、多少はこういう情報も得られていたはずですけれども、ほとんどはやりっ放しで、その後の追跡がなくて、必要なデータはほとんど集まっていないということで、考えられるんだけれども、実際に使えるモデルはなかなかできないということになります。

次をお願いいたします。(OHP

それならば、生態系の影響評価ということで一体何ができるのかということになりますけれども、実際は、先ほどお話ししたような代表的な種類を選んで、その種類にどんな影響があるかをできるだけ考えようということになるわけです。ただ、陸域の場合にはまだ多少イメージがつかめるかなという感じもするのですけれども、海の中ですと、なかなかそういったもののイメージもつかみにくい。それは、陸の生態系と海の生態系が、かなり性格が違うというところから来ております。ただ、後ほどお話をいたしますけれども、結局のところは、まずは環境がどういうふうな変化をするか、環境というのは、水質、底質、その他がどういうふうな変化をするかということをきちんと予測しないといけない。そこから始まるんだということになりまして、そういうものに絞ったモデルだったら、今でも使えるものがある。

それからもう1つは、これも後でお話をいたします海域生態系の特徴と関係いたしますけれども、海域生態系というのは大変に変化の速度が速いというか、いろいろなとんでもないことが起きる。とんでもないことというのは、例えば、水の中の酸素が無くなって、無生物域ができてしまう。これは富栄養化の極端な行き過ぎの結果ですけれども、そういうことはあまり陸上では考えられないと思います。陸上で酸素が無くなって生物がいなくなるところができるなんていうことはとても考えられない。それに相当することと言えば、足尾銅山の被害がひどかったときの周りのはげ山みたいな感じのところがあろうかと思いますけれども、ああいった鉱山の鉱害みたいなことはあろうかと思いますけれども、とても海の中のようなことは考えられない。

海の中でそんなことが起きるというのは、要するに物質循環に問題が生ずることがかなり多いわけです。だから、代表的な種類の予測をして、その構造的な面だけを行っていれば良いわけではなくて、やはり機能的な面も含めて検討しないといけないということになります。

ですから、海域生態系の場合には、代表種を選んで、それについて行っていれば良いということではなくて、生態系に関して求められることは行わなければいけませんし、できることはやらなければいけないというふうになろうかと思います。

OHPをお願いいたします。

先ほど、現在でも使えるモデルと言いましたが、波浪、高潮、津波、あるいは流動の関係、それから水質の関係といったようなものに関しては、その予測のためのモデルが随分できていまして、もちろん、条件によって使える、使えないはありますけれども、こういったことで相当の生物の環境がどう変わるかという予測はできるわけです。ですから、こういうものが使える条件であれば、できるだけ使って、環境質の変化を、まず、きちんと押さえる必要があろうかと思います。

次をお願いします。(OHP

それから、先ほど無酸素なんていうことを言いましたけれども、酸素がどうなるかということ、あるいは干潟の浄化能はどうなんだろうかというふうな物質循環に絡む話も、海域生態系の場合には随分と問題になります。そういうことに応じられるモデルがたくさんあるとは言いませんけれども、今言ったようなことに関しては、ここに挙げてあるような低次の生態系モデル、せいぜい植物プランクトンか、あるいは場合によっては動物プランクトンまでを含むことで生態系と言うわけですけれども、そういったモデルが一応はあります。藻場もありますし、三番瀬などでも随分使われました浅海域の生態系モデルもありますから、できる場合、あるいは必要な場合には、こういうものを使って、きちんとした予測をしないといけないと思います。

今、物質循環という話をしましたけれども、これは海域生態系が持っている特徴と関係がありますので、少しここで、別に生態学の教科書的なお話をしようというわけではありませんけれども、一応、陸域と海を比較して、どんな違いがあるかを見ておきたいと思います。

次をお願いいたします。(OHP

これはオダムの古い教科書に出ていた昔の研究で、あまり新しいデータではありませんけれども、上の方が確かブナ林か何かのそんなに古くない林、下の方は沿岸の海域及び外洋というか、沖合の海域であります。これは何を言っているかというと、ここにバイオマスとありますけれども、バイオマスと基礎生産がそれぞれのところでどうなっているのかというお話でありまして、陸と海で一番基本的に生態系として違うのは、基礎生産を担うものが大型の植物であるか、小型の植物プランクトンであるかという違いから生じてまいります。ここにありますように、1平方メートル当たりのバイオマスがここで、グラム単位ですから、10キロぐらい、それに対して年間の生産は同じく1平方メートル当たりのグラム数が1200。これは単純に比較いたしますと、大体8分の1か、9分の1ぐらいでしょうか。それを更新というふうに考えると、9年か10年経たないと、一回りしない。

それに対してこちらは、これが沿岸の水で、これが沖合の水ということになっておりますけれども、沖合の水ではバイオマスが、こっちの場合はエネルギーであらわされておりますけれども、1平方メートル当たり2キロカロリー。それに対して基礎生産が、この場合には日の単位ですけれども、1日で1平方メートル当たり1ですから、バイオマスの半分ができている。そうすると、ここでは2日に1回、回転していることになります。こちらの方は、バイオマスが多くて、プロダクションもそれなりに多いですけれども、この場合は40と11ということですから、4日に1回ぐらい回転しているということになります。

こういう具合に、陸と海では回転の速度が全く違うわけですね。ですから、あえて言えば、こちらはストックの系、こちらはフローの系である。これは一例です。

次をお願いいたします。(OHP

よく引用されますホイッタカーの生態学の教科書に出ている地球状の一次生産と、それから植物の生物量というのがありまして、ここに出ているのはここまで、世界の生物量というところまでが出ております。それに、今、お話しした回転速度というのをつけ加えてみますと、この数字がこの平均同士の比率ということになりますが、陸の場合には多雨林で0.049ですから、0.05ということは20年に1回、回るということです。一番低いので0.04ぐらい。かなり高くなってきても0.4。この中で1つ、非常に桁外れに大きいのがありますけれども、これは何かというと、湖沼河川で、水の中です。いずれにしても、陸地の平均が大体0.063ということですから、1回りするのに十何年はかかる。

それに対して海洋はどうかと言いますと、先ほどお話ししたように、外洋はバイオマスが非常に小さくて、生産はそこそこある。よく外洋は陸の砂漠と同じだと言いますけれども、実はこの辺はかなり違うところでありまして、40という数字が出ています。年間に40回、回るということですね。それから、湧昇流海域、あるいは大陸棚というふうなことになってきまして、結局は、今、回転速度でお話をしておりますけれども、生物量が少ないときは少ないなりに基礎生産が行われている。生物量が少ない分、回転速度が上がってくるということになります。いずれにしても、ここに出ている数字を機械的に使いますと、全体としては15という数字になりまして、0.06に比べて桁違いの値になってきます。

先ほどお話ししたように、ストックの系とフローの系ということになりまして、海の場合にはフローがどのくらいであるかということがかなり重要なパラメータになってくる。そうすると、その生態系の変化予測をする場合にも、フローが一体どうなるのか。もちろん、開発の規模、あるいは場所によって随分違いますけれども、多くの場合にそういったことも必要になるのではないだろうかと考えられます。

次をお願いいたします。(OHP

同じことですけれども、今のものを、縦に基礎生産をとって、横にバイオマスをとってみると、こんな図になります。どこでもそこそこの基礎生産があると言ったのは、この範囲は、陸も水の中もあまり変わらないわけです。それに対して、バイオマスが陸の方は圧倒的に多い。ですから、同じような基礎生産をするのに、陸上の方は随分大きなバイオマスでやっているのに対し、水の方では、少ないところで、一番外側にあるこれがオープンオーシャンで、外洋ですけれども、こんなところで、ですから、こことこことを比べてやれば、同じような基礎生産をするのに何桁か違うようなバイオマスで行っているわけです。こういったことを頭に置いてやる必要が多分あるでしょう。

海と陸の生態系のもう1つの違い、これもやはり、基礎生産を担っているものが大型の植物であるか、プランクトンであるかということで違ってくることの説明です。これは別のところでつくったものですから、重複しておりますけれども、要するに、エネルギーの流れ、あるいは物質の移行に関しては、食う、食われるの関係を通じて行われていくわけですけれども、その場合に、グレージングフードチェーンか、デトリタスのフードチェーンかということがあります。グレージングというのは生きているものがそのまま食べられるということでありまして、デトリタスは、陸上で言えば葉っぱが落っこちたり、枝が落っこちたり、落葉、落枝、あるいは枯死したりする。そこから分解されて、そのものがまた使われていくという系。先ほど小野先生が糞の話をなさって、糞というのは、ただ糞ではなくて、微生物が寄ってきて、そこで栄養が高まるというお話をされましたけれども、デトリタスも全くそうで、分解されて、そのまま、だんだんしなびていくのではなくて、バクテリアがついて、場合によっては、タンパクが高まったりもいたしますので、そういう状態で使う。陸上の場合にはデトリタスの方の連鎖が非常に大きいのに対して、グレージングの方はそんなに大きくない。それに対して、小型の植物プランクトンが基礎生産を担っている海、水の中では、グレージングのフードチェーンの方がデトライタスのフードチェーンよりも大きいということがありまして、これも陸域と海域の生態系の1つの違いであろうと思います。

ただ、ここで気をつけておかないといけないのは、実は、混乱させるようなことを言いますけれども、開発の対象になるような岸近く、浅いところは比較的、陸に似た面も持っています。というのは、大型の海草なんかも基礎生産に寄与してくる。そうすると、デトリタスのフードチェーンもそれなりの大きさを持ってくるわけで、ここに整理されておりますように、沖合では植物プランクトンから始まって、この白抜きの矢印がグレージングのフードチェーンで、そういうものが多いけれども、大型の植物から出発するところは、黒い矢印がデトリタスフードチェーンですけれども、そういうものも卓越している。ですから、浅いところは陸と少し似たところがあって、デトリタスのフードチェーンも存在しているわけです。

次をお願いいたします。(OHP

先ほど、無酸素になるというようなことを言いましたけれども、これは東京湾の70年代から80年代ぐらい、ここのところに無生物海域があります。これは夏場に底層の水の中の酸素が全く無くなってしまうところです。東京湾で言えば、70年代の半ばからしばらくの間はそういう状態が続きました。実は、しばらくではなくて、最近でもそれが、それほど改善はされておりません。

次をお願いいたします。(OHP

私はこの20年近く、東京湾の中を底引き網を引いて歩いて、生き物がどんな様子であるかを見てきたんですが、生き物から見て、東京湾というのは大きく分けると、南北2つに分かれます。ここの2という線は、私どもが調査を始めたのが1977年、昭和52年ですけれども、その頃はこの辺に境目がありました。それが数年で、1980年代の初めにはこの辺に移ってまいりました。これは一体何を意味するかというと、この南北の境目というのは、この境目の北側に大きく、さっき示したような無生物域があった。それは底層の酸素が夏場になると、無くなるところです。それが一番ひどかった1970年代の半ばから少しずつ改善されて、無酸素になる水域が縮小していって、この線が上に動いていったわけです。ただし、最近また少しこれが広がっているような様相も示している。水の中というのはこういう具合に陸では考えられないようなことも実は起きているし、それが起きると、なかなか回復しないということもあるものですから、先ほどの繰り返しになりますけれども、こういった物質循環絡みの予測もどうしてもやらなければならない場合があるということをお話ししたかったわけです。

次をお願いいたします。(OHP

今は機能のお話をしたわけですけれども、構造のお話に関して言えば、先ほどの小野先生のお話にあったような代表的な種を選んでというふうなことがあろうかと思います。その場合に一番問題になるのは、これも大島先生からも小野先生からもお話がありましたように、日本というのは南北に長くて、地理的な条件で周りの環境が随分違ってくるということを頭に置かないといけないということが、まず、大前提としてあります。その場合に一番問題になるのは暖流、寒流がどういうふうになっているのかという問題と、もう1つは、外海か、内湾かということがありまして、基本的な条件としては、そういうことを頭に置いた上で代表的な種類を選ばなければいけない。

代表的な種類を選ばなければいけないといったときに、先ほど、海の方ではなかなかイメージがつかめないと言ったのは、さっき、陸がストックの系で、海がフローの系だと言ったのと関連いたしまして、陸上では植物群落が形成されておりまして、これは、温度と水というようなことで気候帯が形成されていて、その植物群落がそんなに短時間に変化することはないというふうな、比較的安定な支持基盤というか、動物を支える機構になっている。そうすると、そういうところにはおのずからこういう生き物がいるだろうという想像がつきますし、したがって、代表種もイメージしやすい。しかし、海の場合には安定した植物群落みたいなものが考えられないものですから、なかなかイメージしにくいということになります。

実は、もう1カ月ぐらい前かな、本屋から「エコロジカルインパクトアセスメント」という本が届きまして、「これはうまい本がいいときに来た。この本をタネにしてしゃべればいいや」と思ったら、中を開いてみたら、ほとんど陸のことしか書いてなくて、がっかりしたのですが、それほど海の方はなかなか扱いが難しいところがどうもある。

海の場合には、基礎となっている植物群落というよりは、むしろ、もっと直接的な物理的環境に生き物の分布が支配されるということがあります。したがって、さっき、環境質の予測をきちんと評価することが重要であると言いましたけれども、それはこの辺のこととも関係しております。特に浅いところは、どういうところに住んでいるか。基質、つまりサブストレートの問題ですけれども、サブストレートが硬いか軟らかいか、要するに、岩か砂か泥かで、住んでいる生き物が変わってきますから、その問題が1つ。それから、先ほど申し上げました、外海か内湾かということ。そういうものを組み合わせていって、どういった特徴を持った生態系あるいは環境が考えられるかということが、まず、基本になりますので、今、アセスをしようとしている対象がどういうところに属するのかを考えることが重要になってまいります。

これは環境庁の今回取りまとめた報告の中にも出ております類型区分の例ですけれども、ここにありますように、海域と汽水域、それから、外か中か、波浪が高いかそうではないかというようなことが関係してきます。そういうところで、いつも水にかぶっているかそうではないか、それから、今お話しした基質が軟らかいか硬いかというようなことに合わせまして、いろいろな区分ができます。ここで一般的名称が1と2とありますけれども、かなり細かく分けると、こんなふうな呼び方になるのかと思います。

これをもう少し一般的なジェネラルな言葉にすると、こういう言葉になりますけれど、さらにそれを大きく括れば、こういった類型区分になる。これは必要に応じて、自分の対象としている地域がどんなところに相当するのかということを分けておいて、さらに、その中で典型的なそれぞれを代表するものというふうに考えていくと、考えやすいだろうと思います。

具体的に上位種、典型種、特殊種を選び出す手法は、陸も海も共通でございますので、先ほど小野先生がお示しになったような考え方に基づいて出したらいかがかと。中間取りまとめには例も出ております。もちろんこれはあくまで例でありまして、再三強調しておいた方が良いと思いますけれども、ご自分でお考えになって、最も適当だと思うものを選ばれるのがよろしいだろうと思います。

こういうものを使って、さらに対象をよく把握する、あるいは場合によっては他の人に理解してもらうということに関して言えば、対象とする地域がどんなことになっているかを図に書いてみたらどうだろうか。

これも取りまとめ案の中に出ているですけれども、こんなものを書いてみたらどうでしょうかということが提案してあるわけです。一応ここは、中部というか、この辺の太平洋岸を頭に置いて考えてみると、こんなことがあるかしらということで出てくるわけです。

大島先生からは中間取りまとめ案の説明もというようなお話があり、小野先生と同じことを言いますけれども、これはやはり自分で読んでいただいた方がよくわかると思いますので、細かい説明は省略いたします。

最後に、レジメにも少しつけた余計なことのお話を申し上げますと、アセスメントで評価は一体どういうふうにするかというのがご関心がおありだろうと思います。今年はスコーピングのところということで、評価に関しては方法論だけという話になっておりますけれども、評価はやはり一番関心があろうかと思います。どういうふうに評価したらよろしいかというのは、私から申し上げることではありませんけれども、何れにしても、アセスメントというのは何のためにやるのかということが基本になろうかと思います。

そこに余計なことを書いておきましたけれども、もう何十年か昔ですけれども、アセスメントというのを英語の辞書で引いてみたことがあります。そうしたら、課税をするために財産目録をつくることであるというのが1つ出ておりました。

よく評価、評価と言いますけれども、評価の中にはアセスメントとエバリュエーションが入っているわけですね。アセスの方は実態を明らかにして提供する。それを基にして誰かが何かを考えるということで、アセスメントとエバリュエーションを区別した方が解りやすいのではないか。ただ、日本語では推定という言葉もありますけれども、推定と言うと、また別の意味を持ってしまって、一般には評価と言われるわけですね。逆に言うと、評価という言葉が場合によっては誤解を招くおそれは多分にあるだろうと思います。ですから、その中身は注意して、アセスメントというのは一体何をやるのかということでお考えいただければ良いと思います。

OHPはもう結構です。

一番問題なのは、結局、アセスメントというのは、関係者という言葉でまた曖昧になりますけれども、関係者の合意形成に重要な役割を果たす。その場合に、実際に開発事業を行おうとする人が、そこの環境を、あるいは生態系をどのように考えているのかということが明らかになるような資料を提示することが一番重要だろうと思います。それに対していろいろな人がいろいろなことを言って、そこで議論をしながら合意が形成されていくということになろうかと思いますけれども、そのための資料づくりであると考えていただければ、良いのではないかと思います。

先ほど小野先生から水の中のことで点数法の話がありましたけれども、その辺に関して触れ出すと長くなりますので、一応、私のお話はこの辺で終わりにさせていただきます。ありがとうございました。

司会:

清水先生、どうもありがとうございました。

それでは、只今から約10分間の休憩とさせていただきます。なお、この休憩時間の間にお配りいたしました質問用紙を受け付けにご提出いただければありがたいと考えております。質問用紙のほうは会場内の係の者へお渡しください。それでは、約10分間と申し上げましたけれども、午後3時に再開させていただきたいと思います。それでは、休憩時間に入ります。

目次へ戻る