大気・水・環境負荷分野の環境影響評価技術(II)TOPへ戻る
1)温室効果ガス等の環境影響評価の基本的な考え方
(1)温室効果ガス等の分類及び対象とする環境要素
前述のとおり、温室効果ガス等として対象とする環境要素は以下のように分類できる。
[1]温室効果ガス
[2]オゾン層破壊物質
[3]有害化学物質
[4]その他(熱帯材の使用)
これらのうち、本検討では、各主務省令において標準項目として定められている二酸化炭素を含む温室効果ガスを対象として調査・予測・評価手法をとりまとめる。
温室効果ガスの削減については、1992年に「国連気候変動枠組み条約」が採択され、我が国も署名して1994年から発効している。我が国では「地球温暖化対策の推進に関する法律」(以下「地球温暖化対策推進法」という)第二条第3項において温室効果ガスとして下記の物質が定められている。
[1]二酸化炭素(CO2)
[2]メタン(CH4)
[3]一酸化二窒素(N2O)
[4]ハイドロフルオロカーボン(HFC)
[5]パーフルオロカーボン(PFC)
[6]六ふっ化硫黄(SF6)
これらの物質の地球温暖化係数及び主な排出源は表4-1-1に示すとおりである。
表4-1-1 「地球温暖化対策推進法」の対象の温室効果ガスの排出源
温室効果ガス | 地球温暖化係数注) | 排出源の例 |
---|---|---|
二酸化炭素 | 1 | 建設機械稼働、自動車・船舶・飛行機等の運行 発電所、工場での燃料の燃焼 等 |
メタン | 21 | 燃料の燃焼 廃棄物処分場、下水処理場 等 |
一酸化二窒素 | 310 | 燃料の燃焼、自動車・船舶・飛行機等の運行 廃棄物処分場 等 |
ハイドロフルオロカーボン (HFC) |
HFC-134a: 1,300等 |
工業製品の洗浄、発泡剤 等 |
パーフルオロカーボン (PFC) PFC-14: |
6,500等 | 半導体工業、アルミニウム工業 等 |
六ふっ化硫黄 | 23,900 | 半導体工業、軽金属工業 等 |
注)地球温暖化係数はIPCC(1995)による積分期間100年の値
本検討では、以下の状況を考慮して、[1]から[3]の3物質(二酸化炭素、メタン及び一酸化二窒素)を対象とする。
・これまでの実績として二酸化炭素排出量のみを対象とした事例が多い。
・環境影響評価の対象となる事業行為により、必然的に排出される物質である。
・メタン、一酸化二窒素は、影響要因となる行為が二酸化炭素と共通の部分が多い。
(2)事業の影響要因の整理
対象事業の影響要因の抽出については、「地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく地方公共団体の事務及び事業に係る温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン」(平成11年8月
環境庁地球環境部環境保全課地球温暖化対策室)において、温室効果ガスの種類毎に活動の区分が設定されており、影響要因の抽出の参考となる(表4-1-2参照)。
検討対象とする影響要因の範囲は表4-1-2に示す活動を参考として、事業者が他の要因(例えば、前述の環境負荷の小さい原材料の採用等)によって環境配慮を行った場合等に、随時、対象範囲を広げることを検討する。
表4-1-2 二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の排出量算定の対象範囲とする行為の例
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環境庁地球環境部(1999)
(3)予測・評価の対象とする時期・行為等の範囲の考え方
[1]予測・評価の対象とする時期・行為等の区分
予測・評価の対象とする時期や領域の設定は、以下の3側面から考えることができる。
(ア)事業段階による時期の区分 ・建設段階 ・供用段階 ・解体・廃棄段階 (イ)環境負荷発生要因と事業との関わりによる行為による区分 環境負荷を発生・排出させる要因の事業との関わりとしては、事業そのものの行為となる工事や施設の稼働に伴う直接的な行為と、事業で消費される資材等の製造等の行為及び製品の輸送や廃棄物の処理等の間接的に誘発される行為に区分できる。 ・消費資材の原料採取・製造・輸送(入力、誘発負荷) ・事業者・施設利用者が行う行為(施設の稼働・工事等、直接負荷) ・製品の輸送及び廃棄物の輸送・処理・処分(出力、誘発負荷) (ウ)環境負荷量の予測・評価期間または時期による区分 予測・評価の対象となる環境負荷の算定期間または時期としては、ピーク値のような一時点の値にするか、全体量のような積算値とするかにより算定対象範囲や算定方法が相違する。 ・ピーク時または供用段階における定常状態を代表させて一時点の値として表示する方法 ・環境負荷の経時変化量を予測し、対象とした事業段階の区分または全体の積算値として表示する方法 |
[2]予測・評価の期間・時期または行為等
上記の区分に対して供用時の直接負荷については最低限算定の必要がある。その他の区分については、事業者が環境配慮として実施した対策がある場合に、その効果を表示するために範囲設定が必要な場合等は、事業者の判断で可能なかぎり範囲を広げることが望ましい。
例えば、二酸化炭素を削減するために製造過程において二酸化炭素排出の少ない部品を選択するという対策は有効な場合があるが、このような対策の効果を表現するためには検討段階として原材料の製造段階((イ)の区分の誘発負荷)を含む必要がある。
なお、温室効果ガスにおいては評価の対象に合わせて、予測・評価の期間を使い分けることが望ましく、各期間設定において評価する事項としては以下のとおりである。
(ア)発生・排出等の最大時及び発生・排出等の定常時 ・削減量の評価(年排出量での評価) ・目標との整合に係る評価 (イ)事業開始から供用の終了に至るまで ・削減量の評価(積算量での評価) (ウ)建設材料等の調達から事業終了後 解体・廃棄を含むことは建設段階の既存工作物の撤去を検討に加えた場合、二重カウントとなる可能性が大きいが、特に解体・廃棄段階を考慮して資材等の選択を行った場合の評価を行う場合は事業者の環境配慮として記述するのが望ましい。 |
2)スコーピングから環境影響評価の実施段階への手順
対象とした温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素)におけるスコーピングから調査・予測・評価の実施の手順を図4-1-6に示す。
図4-1-6 スコーピングから調査・予測・評価の実施手順
3)温室効果ガス等の環境影響評価の手法
(1)調査
[1]調査における対象地域・範囲の考え方
温室効果ガス等については、「1 2)
(2) 調査の考え方」に述べたように、環境の状態を把握するための地域設定の必要はない。調査はシステム全体としての環境負荷低減の寄与を検討するためのシステム境界(地域社会、業界等)を設定し、そのシステムの範囲を検討範囲として調査を行うことができる。
この場合のシステムの範囲としては、温室効果ガスの削減対策の計画が定められている地域の範囲(国、都道府県、市町村)や当該事業の業種の範囲(電気事業者全体、企業内等)等が考えられる。
[2]調査項目の検討
調査は、主に文献資料により地域範囲に関わる事項及び工業系や業務・商業系の開発であれば当該業種全体に関わる事項について把握する。
(ア)地域情報に関する事項 ⅰ)温室効果ガス排出量の状況 ・全体量 ・部門別(産業部門、民生部門、輸送部門、エネルギー転換部門等)排出量 ⅱ)温室効果ガスの削減に係る計画等 ⅲ)温室効果ガス削減のために実施されている対策等 ・地域冷暖房等の地域におけるエネルギー利用の効率化のための設備等の整備状況 ・未利用エネルギーの有効利用設備等の整備状況 ・温室効果ガス削減に寄与する住民活動等 (イ)業種者(企業)または事業者団体に関する事項 ⅰ)温室効果ガス排出量の状況 ・全体量 ・活動区分別排出量 ⅱ)温室効果ガスの削減に係る計画等 ・事業者(企業における計画) ・事業者団体 ⅲ)温室効果ガス削減のために実施されている施策等 ・エネルギー利用効率化設備の状況 ・製造工程の改善等 |
(2)予測
[1]予測における検討事項
温室効果ガスの予測における検討事項としては、表4-1-3にまとめる事項が挙げられる。
表4-1-3 温室効果ガスの予測における検討事項
予測事項 | 予測内容 |
温室効果ガスの排出量 | 種類別排出量 |
温室効果ガス総排出量 | |
環境保全措置 の内容 |
対策の内容 |
対策の実施者 | |
対策の確実性 | |
環境保全措置による削減量 | 種類別排出量 |
温室効果ガス総排出量 |
[2]温室効果ガスの排出量
(ア)基本的手法
温室効果ガス排出量の算定方法の基本的な手法としては以下の計算式がある。
(各温室効果ガス排出量)=Σ{(活動量)×(排出係数)}
(活動の種類について和をとる)
(1)
(温室効果ガス総排出量)=
Σ{(各温室効果ガス排出量)×(地球温暖化係数)}
(2)
各温室効果ガス排出量の予測には排出係数に関する情報を整理するとともに、活動量を算定する必要がある。以下に活動量の算定手法の例を示す。
(イ)二酸化炭素
人為的な二酸化炭素の排出は、基本的に燃料等の燃焼や原料の化学反応に伴うものである。二酸化炭素の排出量の予測は、これら燃料や原料の消費量から直接求める方法のほかに、各種活動に伴う燃料消費量を求める方法、ライフサイクルアセスメント(LCA:Life
Cycle Assessment)注)のために用意された資材の製造での排出量等の予測の方法等がある。
注)「ライスサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)」
製品に係る資源の採取から製造、使用、廃棄、輸送など全ての段階を通して、投入資源あるいは排出環境負荷及びそれらによる地球や生態系への環境影響を定量的、客観的に評価する手法
(a)燃料等の消費量から直接排出量を求める方法 この方法では基本的に(1)式の考え方によるが、燃料使用量が活動量となる。 (二酸化炭素の排出量)=Σ{(各種燃料消費量)×(排出係数)} (3) この方法では、燃料に含まれる炭素分が燃焼により二酸化炭素に変化するとして排出係数が設定されている。また、原料の化学反応による二酸化炭素も考え方は同様であり、セメント製造においては炭酸カルシウムから化学反応によって放出される二酸化炭素分をカウントする。 なお、平成11年4月に制定された「地球温暖化対策の推進に関する法律施行令」において、温室効果ガス排出量の算定に必要な活動区分毎の排出係数について政令で定め、毎年度公表することとされている。従って、予測に用いる排出係数の設定にあたっては、毎年度定められる排出係数に留意し、最新の値を用いるものとする。 <参考文献>
(b)各種活動に伴う燃料消費量等
なお、各種統計量としては、敷地面積、延べ床面積、製造品出荷額、従業員数等が考えられ、以下の統計資料が利用できる。
(d)LCAのために用意された資材製造での排出量等の予測方法 また、これらの原単位としては、以下の資料が利用できる。
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(ウ)メタン及び一酸化二窒素(及び他の温室効果ガス)
メタン及び一酸化二窒素の排出量の算定は活動量に対して設定された排出係数を乗じる方法が採用されており、以下の資料が利用できる。なお、以下の資料については、他のハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)、六ふっ化硫黄の排出量についても算定方法及び排出係数がまとめられている。
なお、算定式については前述した二酸化炭素排出量の算定式(1)式と基本的に同様である。
[3]環境保全措置
(ア)検討内容
温室効果ガス等では環境保全措置による環境負荷削減の努力が環境影響の回避・低減に係る評価において不可欠であるが、その対策の実施及び効果の確実性が必ずしも確保されていない場合がある。そのため、環境保全措置そのものが予測の対象と考えることができ、以下の事項について検討する。
(イ)検討事項
温室効果ガスの環境保全措置としては以下の事項を参考に検討する。
(a)温室効果ガス発生要因となる活動の削減に関する事項
エネルギー消費量の抑制等の温室効果ガスの発生原因となる資源や資材の消費等の活動を抑制する対策。
(b)温室効果ガス発生原因となる活動等の効率化・合理化に関する事項
発電における発電効率の向上策等、設備の改善による環境負荷発生の削減対策。
(c)未利用エネルギーの活用等リサイクル的な対策に関する事項
コージェネレーションや廃棄物焼却廃熱等の未利用エネルギーを利用した一次エネルギーの消費量の削減等、リサイクルや未利用資源を活用する対策。
(d)温室効果ガス発生原因となる現象の予防に関する事項
廃棄物の埋立処分場でのメタン発生は埋立層が嫌気的状態になっているためであり、準好気性埋立等の嫌気的状態を抑制する対策がある。このような一定の反応条件下において発生する温室効果ガスについて、反応条件を制御することにより発生を抑制する対策。
[4]環境保全措置による削減量
環境保全措置に基づき、削減量あるいは設定したシステム範囲内での総削減量を算定する。
(3)評価
[1]回避・低減に係る評価
(ア)評価事項
温室効果ガス等における環境影響の回避・低減に係る評価としては、複数の環境保全措置の比較及び設定したベースラインとの比較によって、予測段階において検討した環境保全措置を前提に次の事項について記述する。
(a)実行可能な範囲での最大限の回避・低減措置 前提とした回避・低減措置について以下の観点から実行可能な範囲で最大限の措置となっているかどうかを評価する。
(b)ベースラインからの削減量
(d)環境保全措置の実施と効果の確実性 |
(イ)温室効果ガス等におけるベースライン設定
(a)ベースライン設定に採用する原単位 温室効果ガス等の排出に関わるエネルギー消費のうち、一般家庭の生活に係る原単位は現在でも上昇傾向にあるが、製造業や輸送等産業部門の原単位は減少傾向にある。 従って、ベースラインを設定する場合には単純に現在の値を設定するのではなく、基準年を設定して、その年次における原単位を採用して排出量を算出することも考慮する。 (b)システム全体で評価する場合の検討範囲 システム全体で評価を行う場合のシステム境界としては、地域的なものについては、行政区域を検討範囲として設定することができる。 ただし、現状では業界や、企業単位で温室効果ガス削減対策の目標を設定することが多く、当該事業における業界または個別企業の範囲をシステム全体として設定することも重要である。 【システム境界設定の考え方の例】
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[2]目標との整合に係る評価
国や地方公共団体においては、環境基本計画や地球温暖化対策等の計画において温室効果ガスの削減目標等が定められており、その整合性を検討する。
なお、現在「気候変動に関する国際連合枠組み条約」の目的達成のためにCOP3注)で採択された「京都議定書」の発効に向けた国際的な取り組みがなされている。「京都議定書」が発効した場合、批准した各国は定められた削減目標達成の義務を負うことになり、我が国においても達成のために法律による規制等を含む対応が検討されている。その内容は現在では明らかでないため具体的な対応の方針を示すことはできないが、温室効果ガスの評価の指標については、このような社会的状況の変化を踏まえて考えることが重要である。
注)「COP3:気候変動枠組条約第3回締約国会議」
1997年12月に161カ国の参加のもと京都にて実施された国際会議。地球温暖化防止のための先進国における温室効果ガスの削減目標等の国際的な取り組みについて議論され、議定書が採択された。