大気・水・環境負荷分野の環境影響評価技術(II)TOPへ戻る
1)環境影響評価における土壌環境の捉え方と視点
(1)土壌環境の捉え方
土壌環境は、鉱物や有機物といった固形物の他、水や空気を含んでおり、植物の生育基盤となるとともに、多くの動物の生息する空間となっており、陸域の生態系や水循環系において重要な役割を果たしている。
従来の環境影響評価においては、土壌環境については、鉱工業の活動や農薬散布等に起因する有害物質による土壌の汚染といった観点から捉えられることが多かった。
しかし、土壌環境が環境中で果たしている多様な機能を考えると、環境影響評価を行うにあたって、有害物質による汚染という視点の検討では十分でないことも考えられる。
(2)土壌環境の視点
[1]土壌環境の機能
植物による有機物の生産や生産された有機物、動物の死体や排泄物の分解などは、土壌や土壌に生息する生物が多くの役割を担っており、土壌環境は陸域の生態系における物質循環の最も基盤的な役割を果たしているといえる。
また、大気中から地上にもたらされる水分は、地上においてはその多くが地表を覆う土壌により受け止められ、保水される他、大気中への蒸発、地下への浸透といった水の循環、さらには、土壌によるろ過・吸着や植物・土壌生物等による浄化作用というような水循環系において重要な役割を果たしている。
さらに、土壌環境は、物質収容の場としての機能も有している。
<土壌環境の機能>
水循環における機能:保水、通水、地下水浄化 等 生態系の構成要素としての機能:保水、有機物等の分解・蓄積、生物の生息場 等 生産機能:農作物等の生産 等 物質収容機能:物質の収容 等 |
[2]土壌環境の環境影響評価の考え方
土壌環境の有する物質収容機能並びに土壌環境が自然の生態系や水循環の中で果たしている役割を考えると、土壌は有害化学物質等を蓄積しやすく、また、土壌が有害化学物質等を蓄積するということは、循環系全体の汚染につながりかねないため、土壌汚染という観点からの検討は不可欠である。
しかし、土壌汚染の視点だけで、土壌環境への影響を捉えることは不十分であり、水循環系や生態系にとっての役割にも注目した環境影響評価が求められると考えられる。
例えば、開発事業において、土壌の掘削や移動が行われ、土壌の持つ機能や構造が変化するような場合には、水循環の観点や生態系の観点からの土壌の機能についても環境影響評価の項目として取り上げられるべきであると考えられる。
また、土壌の中には、学術的・希少性の見地から重要なものがあり、これらの土壌の保全についても環境影響評価においては考慮される必要がある。
以上のことを考慮すると、土壌の環境影響評価に当たっては、次の事項に留意する必要があると考えられる。
<環境影響評価にあたって留意すべき事項>
●土壌汚染の観点 ・事業による汚染土壌の搬出入や土壌の汚染 ・事業による地下水への汚染物質の注入 ・事業による水収支バランスの変化に伴う地下水位の変化等による地下水汚染 ●土壌の機能の観点
●その他 |
2)他分野との関わり
土壌環境は、「水環境」の総論において整理したとおり、水循環系において重要な構成要素となっており、また、生態系においても重要な役割を担っているなど、「水環境」、「生態系」といった他の環境影響評価項目で対象とする環境要素と密接に関係している。従って、土壌の調査・予測・評価は他の項目の調査・予測・評価の前提条件となる場合が多いことを踏まえ、関係が想定される環境影響評価項目との作業を統合して検討することも必要である3-1)。
例えば、土壌と地下水等は相互に密接な関係があり、地下水汚染は多くの場合有害化学物質等が地下水に溶入することにより発生することから、環境影響評価においては相互の関係に配慮した検討が必要である。また、土壌は高等植物から土壌動物、土壌微生物にいたる陸上生態系の重要な基盤的要素であるため、生物多様性分野に係る環境影響評価を行うような事業の場合には、土壌への環境影響と生物の生息に係る環境影響との相互関係に配慮した検討が必要である。
【留意事項】 ・3-1) 土壌との関わりの想定される環境要素
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3)本検討における対象範囲
土壌環境は、水環境や生態系等、他の環境影響評価項目において対象とする環境要素と密接な関係があり、その関係を抜きにして、単独の環境要素として捉えることは適切とはいえない。
ここでは、土壌環境の調査、予測・評価にあたっての基本的考え方を示したが、調査、予測・評価の考え方については、今年度の水環境や生物多様性分野等の成果を踏まえ、次年度において総合的に検討を行う予定としている。
1-2 地盤環境
1)環境影響評価における地盤環境の捉え方
(1)地盤環境の捉え方
地盤環境は、人が建設や防災等で対象とする範囲の地層の状態を表す概念であり、鉱物や有機物といった固体と水から構成されるものである。
従来の環境影響評価では、地下水の取水に伴う地盤の圧密による地盤沈下や掘削工事等に伴う局所的な地盤変形が対象とされることが多かった。
しかし、大深度の地下利用が行われるようになってきている現在、環境影響評価にあたっても、これまでと同じ視点の検討では十分ではないことも考えられる。
(2)地盤環境の視点
[1]地盤環境の機能
地盤は、自然のもの、人工のものを問わず、地表面に存在する全てのものを物理的に支えているものであり、環境の観点からだけではなく、安全や防災といった観点からも、その機能の保全は重要である。
また、地盤は、地下水を流下させたり、貯留したりする場ともなっており、水循環系の中でも重要な機能を有している。
<地盤環境の機能>
水循環における機能:貯留、流下 等 その他の機能:地表面の支持 等 |
[2]地盤環境の環境影響評価の考え方
従来の環境影響評価では、地盤環境に係る項目として地下水の取水による地盤の圧密沈下や掘削工事等による地盤変形が対象とされる場合が多かった。
地下水の取水による影響については、従来取り上げられていたように地下水位の低下に伴う圧密沈下の影響が考えられるが、その他に地盤への空気の侵入に伴う風化についても留意する必要がある。
なお、地盤環境を構成する要素においては、地質構造等は比較的安定しているのに対し、地下水等は人為的に変化を引き起こされやすい可能性があり、水循環と地盤環境に密接な関係があることに留意する必要がある。特に、水循環の変化に伴う地盤環境の変化は、仮に水循環が元の状態に戻ったとしても、地盤環境は元に戻らないことから、その回復がきわめて難しい環境要素であるとの認識に立って考えることが重要である。
また、近年においては、大深度において地下構造物が設置されるなど、従来にはなかったような地下の利用が行われるようになってきている。このような大深度地下の環境については、科学的知見が十分ではないものも多いが、嫌気状態にあった地盤が空気に触れることによる風化というような現象についても、留意していく必要があると考えられる。
その他にも、地すべり、斜面崩壊等の危険度増加や液状化、地盤陥没といった地盤変動の原因となる開発行為による土地の安定性変化についても、広く環境影響評価の項目としてとらえるべきであろう。
以上のことを考慮し、地盤の環境影響評価に当たっては、次の事項に留意する必要がある。
なお、地盤環境は地域に固有のものであること、すでに人為的な改変を受けているものもあることを踏まえ、その成り立ちや地域性、気候に留意して考えることが重要である。
<環境影響評価にあたって留意すべき事項>
2)他分野との関わり
地盤は、「水環境」、とりわけ、水循環の視点に立った「地下水等」と密接に関係し、地盤環境の調査・予測・評価を行う上で、「地下水等」の調査・予測結果が前提条件となる場合が多いことに留意する必要がある3-2)。
【留意事項】 ・3-2)地盤との関わりが想定される環境要素 地下水等からなる水循環は、地盤沈下や土地の安定性を左右する重要な要素となる。また、地盤の状況は、振動の伝播特性とも関わりがあり、振動の予測条件ともなる。 |
3)本検討における対象範囲
地盤環境は、水循環の変化による地下水の変化と密接な関係があり、しばしば、地下水等の調査、予測・評価の結果が地盤環境の調査、予測・評価の前提条件となる。
ここでは、地盤環境の調査、予測・評価にあたっての基本的考え方を示したが、地盤環境の調査、予測、評価の考え方については、今年度の水環境の成果を踏まえ、次年度において総合的に検討を行う予定としている。
1-1 土壌環境
1)環境影響評価における土壌環境の捉え方と視点
(1)土壌環境の捉え方
(2)土壌環境の視点
2)他分野との関わり
3)本検討における対象範囲
1-2 地盤環境
1)環境影響評価における地盤環境の捉え方
(1)地盤環境の捉え方
(2)地盤環境の視点
2)他分野との関わり
3)本検討における対象範囲