大気・水・環境負荷分野の環境影響評価技術検討会中間報告書
大気・水・環境負荷分野の環境影響評価技術(II)<環境影響評価の進め方>(平成13年9月)

大気・水・環境負荷分野の環境影響評価技術(II)TOPへ戻る

2 ケーススタディ

図2-2-1 ケーススタディの流れ

 

図2-2-2 事業実施区域とその周辺の広域地形(水質・底質のケーススタディ)

 

2)地域特性の設定
ケーススタディの地域特性を以下のように想定した(「1-1 水質・底質」【留意事項 2-4)】参照)。
   (1)自然的状況
   [1]地形及び地質の状況
埋立予定地の位置する湾は、南東側の幅15km程度の開口部により外海とつながっている。水深は湾の中央部で最も深く水深20m程度であり、埋立予定地の位置する湾奥は水深5m~10mの浅海域が広がっている。
海岸線は埋立予定地の位置する湾奥や湾の北側は、埋立地の直立護岸よりなる直線的な海岸線となっている。湾口部や湾の南側には、岩礁や海浜からなる自然海岸線が残されており、湾の南側の河口部には河口干潟が存在している。
   [2]水環境の状況
  (ア)流況
   (a)河川
本湾に流入する主要な1級河川は○○川、△△川であり、湾奥及び湾の南側に位置している。また2級河川及び準用河川は湾奥部に集中しており、これらの河川及びその流況をまとめて表2-2-1に示す。

 

表2-2-1本湾に流入する主要な河川の流況

河川名

流量観測所名 流量年平均(m3/s)
1級河川 ○○川 ○○ 184.2
△△川 △△ 104.2
2級・準用河川 ××川 ×× 75.6
**川 ** 19.3
++川 ++ 23.9

出典:「○○年日本河川水質年鑑」(平成○○年△△月、建設省河川局)
「○○年度 ○○県河川一覧表」(平成○○年 ○○県土木部)

 

 

(b)海域
 湾内及び埋立予定地周辺で事業者が平成○○年に実施した流動調査によると、湾内の流れは半日周潮の潮流が卓越するが、湾の南側に流入している1級河川○○川からの淡水により表層は河口部から湾口に向かう密度流が特に夏季に発達していることが確認された。また、既往資料によると海水交換は250日程度である。
 本湾の朔望平均の干満差(朔望平均満潮位と朔望平均干潮位の差)は当該海域に設置されている検潮所の観測結果によると202.0cm、平均海面は、観測基準面上180.0cmとなっている。
  (イ)水質
 本湾における○○県公共用水域水質測定計画に基づく水質測定結果によると、健康項目については環境基準を満足しているが、化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T-N)、全燐(T-P)の環境基準が達成されていない状況にあり、これらの項目はここ5年間で横這い傾向にある。
また、埋立予定地周辺では夏季に底層水の溶存酸素量(DO)が0に近くなり、貧酸素状態となっている。
(ウ)底質
 湾内及び埋立予定地周辺で事業者が平成○○年に実施した底質調査によると、底質は浅海域では概ね砂泥質であり、やや深くなると泥質となっている。
 埋立予定地周辺の強熱減量は9%前後と高く、硫化物は1mg/g程度となっている。
[3]動植物の生息又は生育、植生及び生態系の状況
  (ア)プランクトン
 埋立予定地及びその周囲の海域で事業者が平成○○年に実施した調査結果によると、夏季・冬季とも植物プランクトンが珪藻類のSkeletonema costatum、動物プランクトンが甲殻類のOithona davisae等の本州中部内湾域に普通にみられる種が多く出現している。
  (イ)魚卵・稚仔
 埋立予定地及びその周囲の海域で事業者が平成○○年に実施した調査結果によると、サッパ、イシガレイが卵・稚仔とも出現したほか、卵ではカタクチイワシ、稚仔ではハゼ科、アイナメ、メバル、スズキ、マコガレイ等が出現している。
  (ウ)底生生物
 埋立予定地及びその周囲の海域で事業者が平成○○年に実施した調査結果によると、環形動物のゴカイ、ドロクダムシ、ヨツバネスピオ等であり、本州中部内湾の有機物量の多い泥底ないし砂泥底に普通にみられる種類が多く出現している。
  (エ)付着生物
 埋立予定地及びその周囲の海域で事業者が平成○○年に実施した調査結果によると、動物ではムラサキイガイ、イワフジツボが多く、植物では、夏季に緑藻のアナアオサ、ボタンアオサ、冬季に紅藻のオゴノリ、褐藻のワカメが多く出現している。

  (オ)魚介類
 埋立予定地及びその周囲の海域で事業者が平成○○年に実施した調査結果によると、アカエイ、イシガレイ、スズキ等内湾の浅海域を主な生息場とする魚類や、クルマエビ、シャコ、アカガイ等主に内湾の砂泥底に生息する甲殻類や貝類等が出現している。
  (カ)干潟生物
 埋立予定地西側にある干潟部で事業者が平成○○年に実施した調査結果によると、動物としては、ゴカイ類、甲殻類等が出現しており、特にアサリ、シオフキ、バカガイ等の貝類が多いのが特徴的である。植物としては、アマモ、コアマモ、アオサ属及びオゴノリ等が分布していた。
  (キ)藻場
 埋立予定地内には、藻場は存在しない。湾全体では、湾南側の河口干潟及び砂浜の前面海域にアマモ場が存在している。
 [4]景観及び人と自然との触れ合い活動の状況
 埋立予定地北西側5km程度の場所に親水公園が位置しており、湾を眺望することができる。
 また、この親水公園は、釣りや散策等に利用されている。
(2)社会的状況
  [1]人口及び産業の状況、土地利用の状況、海域の利用の状況
 埋立予定地の背後地域は、○○港の物流・生産拠点となっており、大規模な工場・倉庫等が分布している。さらに内陸側は○○県××市の中心部となっており、都市機能が集中し、人口も多くなっている。
 埋立予定地周辺の水域は、○○港の港湾区域に位置しており、航路や泊地の分布する水域となっている。水産活動は、湾南側の河口干潟及びその前面海域において、アサリ等の採貝、底曳き網漁、巻き網漁等が行われている。
  [2]下水道の整備の状況
 埋立予定地背後の○○県では、下水道の普及率は90%を超えている。湾全体では、湾北側の△△県での普及率が60%程度と相対的に低くなっている。
   [3]環境の保全を目的として法令等により指定された地域その他の対象及び当該対象に係る規制の内容その他の状況
 埋立予定地周辺海域は、環境基準B類型に指定されており、全窒素・全燐の環境基準Ⅳ類型に指定されている。また、埋立予定地の位置する○○湾は化学的酸素要求量に係る総量削減基本方針の定められた海域となっている。
3)環境影響評価項目の選定
 公有水面埋立事業の実施による水質・底質への影響を想定する際に、影響要因と水質・底質等の環境要素との関連について、マトリックスでは表現しにくい影響の伝達経路(影響フロー)が明らかになるよう検討した。ここで示した環境影響フロー及びマトリックスは、以下に示すような視点により作成した。

・工事が水質・底質へ及ぼす影響に関する視点

・埋立地の存在による地形的な変化に関する視点


 上記の視点から作成した水質・底質への影響フローを図2-2-3に、影響マトリックスを表2-2-2に示す。
 埋立工事による影響については、掘削等の土工事及び浚渫等による濁りの発生が想定される。埋立予定地周辺に藻場等の水生生物の生息場が存在していることを踏まえ、環境影響評価項目としては浮遊物質量(SS)を選定した(「1-1 水質・底質」【留意事項 2-2)】参照)。
 埋立地の存在による影響については、埋立地及び埋立地に付随する外郭施設としての防波堤の存在によって流動が変化し、水質・底質が変化することが想定される。埋立予定地の位置する海域が富栄養化の進んだ海域であり有機物、栄養塩濃度に関する環境基準が達成されていない海域であること、また夏季に底層水が貧酸素化することを踏まえ、環境影響評価項目としては化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T-N)、全燐(T-P)、溶存酸素量(DO)を選定した(「1-1 水質・底質」【留意事項 2-3)】参照)。

 

図2-2-3(1) 埋立工事に係る環境影響フロー


注)本ケーススタディでは、干潟等の消滅は想定していないため、埋立地の存在による影響としては、海岸形状の変化による流動の変化を想定している。干潟等の消滅を伴う場合には、干潟の消滅による浄化量の減少が想定される。

 
図2-2-3(2) 埋立地の存在に係る環境影響フロー

 

表2-2-2(1) 埋立工事に係る影響マトリックス

   影響要因の区分 

 

環境要素の区分

工事の実施

掘削等の土工事 工作物の建設 浚 渫
埋立ての工事 地盤改良工事 護岸の工事 浚渫の工事等
水質 生物化学的酸素要求量(BOD)
化学的酸素要求量(COD)
水素イオン濃度(pH)
水の濁り(SS等)
溶存酸素量(DO)
大腸菌群数
全窒素(T-N)
全燐(T-P)
健康項目
要監視項目
その他
底質 有機物
有害物質
水底の泥土
その他

   注)表中○印は、影響を受けるおそれがあるものであることを示す。

 

表2-2-2(2) 埋立地の存在に係る影響マトリックス

  影響要因

 

環境要素の区分

土地又は工作物の存在

水面の消滅 工作物の存在
埋立地又は干拓地の存在等    外郭施設の存在
水質 生物化学的酸素要求量(BOD)
化学的酸素要求量(COD)
水素イオン濃度(pH)
水の濁り(SS等)
溶存酸素量(DO)
大腸菌群数
全窒素(T-N)
全燐(T-P)
健康項目
要監視項目
底質 有機物
有害物質
水底の泥土
注)表中○印は、影響を受けるおそれがあるものであることを示す。

 

 

4)調査・予測手法の検討
  (1)調査・予測手法検討の流れ
  調査・予測手法検討の流れを図2-2-4に示す。
  調査・予測手法の検討にあたっては、工事の実施に係る環境影響フロー及び埋立地の存在に係る環境影響フローを踏まえ、事業特性及び地域特性を勘案し、事業の実施による影響要因及び影響が想定される環境要素を設定した上で、適切な予測手法を選定した。

図2-2-4(1) 調査・予測手法検討の流れ(工事の実施)

 

図2-2-4(2) 調査・予測手法検討の流れ(埋立地の存在)

 

  (2)予測手法の検討
   工事の実施及び埋立地の存在による水質・底質の影響予測手法の検討内容を表2-2-3~2-2-4に示す。

表2-2-3 影響予測手法の検討内容(工事の実施)

影響要因

想定される影響と予測手法

埋立の工事、防波堤及び護岸の工事

○想定される影響 

埋立工事による濁りの発生により、埋立予定地周辺海域の水質に影響が及ぶ可能性がある。

○水質予測手法

<予測モデル> 

流動モデルは埋立予定地周辺の水理構造を表現できると共に 、濁りの拡散を抑えるための汚濁防止膜も表現できる多層モデルとした。また水質は浮遊物質量(SS)を予測項目として、多粒径群を対象とした沈降拡散モデルを用いる。

<予測範囲> 

予測範囲については埋立予定地は○○湾の湾奥に位置するため、広域影響を検討するため湾全域を対象とした大領域と、埋立地周辺の詳細な検討をするための埋立地周辺△km×◇kmを対象とした小領域の2領域とする(「1-1 水質・底質」【留意事項 2-11)】参照)。

<予測格子間隔>

   大領域及び小領域の格子間隔は、地形の表現できる大きさとし、大領域が○m小領域が○mとする。

<予測層数>

   躍層を表現できるように4層モデルとする。

<予測時期> 

予測時期は、工事による濁りの発生量が最大となる○年○月と、埋立予定地近傍に位置する砂浜及び藻場に最も近い△護岸工事に係るSS発生量が最大となる◇年◇月の2時点とする(「1-1 水質・底質」【留意事項 2-3)】参照)。

<SS発生負荷量> 

工事計画に基づき1日当たりの工事施工量を設定し、工種毎にSS発生原単位を既存資料をもとに設定し、工種毎のSS発生量を算定し、1か月単位で同時稼働の可能性を考慮して積算する。SS発生原単位の適用に際しては、現地底質の粒度分布、現地流速による補正を行う。

<沈降速度> 

現地底質の沈降試験結果に基づき、SSの沈降速度を設定する。

 

 

表2-2-4 影響予測手法の検討内容(埋立地の存在)

影響要因

想定される影響と予測手法

埋立地の存在、外郭施設の存在

○想定される影響 

埋立地の存在・外郭施設の存在により海岸形状が変化することにより、埋立予定地周辺の流動が変化し、水質及び底質に影響が及ぶ可能性がある。○水質予測手法

<予測モデル> 

埋立予定地周辺海域の水理構造は既往文献によると、明確な躍層が存在していることから、流動を再現できるモデルとして多層モデルを用いる。水質は埋立予定地周辺海域の環境特性を踏まえ化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T-N)、全燐(T-P)、溶存酸素量(DO)を予測項目とすることから、これらの項目を表現できる低次生態系モデルを用いる(「1-1 水質・底質」【留意事項 2-5)】参照)。

<予測範囲> 

予測範囲、予測格子間隔、予測層数等は、工事の実施による影響の予測モデルと同一とする。

<予測時期>

  予測時期は、夏季の水質と年間75%値との相関が高いこと及び夏季に底層水の貧酸素現象が発生していることから、夏季平均について予測した。また、冬季は湾奥部を中心としたのり養殖が活発であり、栄養塩の拡散状況の変化がノリ養殖に及ぼす影響が考えられるため冬季についても予測した(「1-1 水質・底質」【留意事項 2-2)、2-3)、2-12)、2-13)】参照)。

<淡水流入量・流入負荷量> 

予測対象海域に流入する河川、下水処理場、特定事業場からの排水について、夏季及び冬季の現況年次及び将来年次の淡水流入量及び流入負荷量を算定する。将来年次の算定にあたっては、人口の伸び、下水道計画等を踏まえる。

 

(3)現地調査手法の検討
予測手法の検討結果をもとに、現地調査手法を検討した結果を表2-2-5及び図2-2-5に示す。

表2-2-5(1) 現地調査手法の検討内容

調査項目 調査項目の設定根拠と調査内容
水質(SS) ○調査項目の設定根拠 

   予測におけるバックグラウンド濃度として使用する。 

   既存データがないため、現地調査により把握する。

○調査地点

  埋立予定地周辺海域(工事予定海域及びその周辺)に設定する。

○調査時期 

季節的な変化が想定されるため、4季とする。

○調査方法 

   バンドン型採水器を用いて上層と下層の試料水を採水し、室内分析を行う。

水質(水温、塩分) ○調査項目の設定根拠 

予測モデルにおける計算層厚の設定等に使用する。

○調査地点 

小領域の埋立予定地周辺海域に設定する。

○調査時期 

埋立地の存在に係る予測対象時期は夏季及び冬季であるが、工事の実施に係る予測対象時期はそれ以外の時期となることも考えられることから、季節変動を考慮して4季とした。

○調査方法 

水温・塩分計を用い、1mピッチで観測する(「1-1 水質・底質」【留意事項 2-7)】参照)。

底質(粒度組成、沈降試験) ○調査項目の設定根拠 

粒度組成及び沈降速度は、SSの予測条件として使用する。 埋立予定地では、既往の調査結果がないため、現地調査により把握する。

○調査地点 

工事により海底土の浚渫作業等を行う埋立予定地周辺海域(工事予定海域)に設定する。

○調査時期 

   季節的な変化は考えにくいため、1季とする。

○調査方法 

   スミスマッキンタイヤ型採泥器を用いて表層泥を採取し、室内分析を行う。

 

表2-2-5(2) 現地調査手法の検討内容

調査項目 調査項目の設定根拠と調査内容
溶出速度等 ○調査項目の設定根拠 

予測に用いる低次生態系モデルにおいて、対象海域の水質汚濁機構に関する条件に使用する。

○調査地点 

予測対象海域を代表する地点とし、埋立予定地周辺を密に設定する。

○調査時期

  対象海域の水質汚濁機構による水質への影響が最も大きくなる夏季及び影響の小さな冬季とする。

○調査方法 

室内実験により測定する。なお、溶出速度は水温、DO等の関数型とする。

流況 ○調査項目の設定根拠

  水質予測に先立ち行う流況予測において、境界条件の設定、現況再現性の検討に用いる。

○調査地点

  予測対象海域の流況を代表する地点とし、湾の形状や河川の流入位置を勘案し湾口、湾央、湾奥に設定する(「1-1 水質・底質」【留意事項 2-6)】参照)。

  調査層は、既往文献より埋立予定地周辺海域の水理構造により、明確な躍層が存在し、上層と下層で流れの状況が異なっていることを踏まえ、上下2層とする。

○調査時期 

埋立地等の存在に係る予測対象時期は、夏季及び冬季であるが、工事の実施に係る予測対象時期は、それ以外の時期となることも考えられることから、季節変動を考慮して4季とする。

○調査方法 

電磁流速計を用いて、15昼夜連続観測を行い、主要十分潮の調和解析及び恒流成分を解析する。

注) 予測項目であるCOD、T-N、T-P、DOについては、予測の現況再現性の検討等において現況データが必要であるが、○○県公共用水域水質測定計画に基づく測定結果により、埋立予定地周辺及び○○湾全域において上下2層の毎月調査が行われており、そのデータが使用可能であるため、現地調査は行わなかった。

 

 

図2-2-5 調査地点図

 

5)調査結果・予測結果の概要
   (1)現地調査結果の概要
現地調査結果の概要を表2-2-6に示す。

表2-2-6 現地調査結果の概要

調査項目 調査結果概要
水質(SS) 4季の調査結果は、上層で3~8mg/l、下層で3~10mg/lの範囲で変動していた。特に夏季は上層で比較的高い濃度がみられたが、植物プランクトンの発生によるものと考えられた。また、冬季では卓越する季節風により鉛直混合が大きくなり、浅海域の下層では巻き上げによる高い濃度がみられた。なお、年間平均は上層で5mg/l、下層で6mg/lであった。
水質(水温、塩分 4季の鉛直分布の傾向によると、調査対象海域では冬季以外は概ね海面下3mに密度躍層が存在している。冬季は湾奥の1級河川○○川河口部周辺では弱い成層がみられるが、その他の海域では鉛直混合が発達している。

   水平分布をみると、夏季の湾奥は高温、低塩分であり河川水の影響が大きいことを示唆している。

底質 粒度分析結果によると、埋立予定地周辺の底質はシルト・粘土分の割合が高い。
溶出速度等 既存のデータと同様に底質の性状にほぼ対応した値を示していた。
流況   上層の恒流は湾奥に流入している1級河川○○川及び湾の南部に流入している1級河川△△川の淡水流入量により湾口へ向かう密度流が卓越している。この傾向は特に夏季に顕著である。また、上層から中層にかけては湾奥に時計回りの環流がみられる。 

潮流に関しては、調和解析によると半日周潮のM2分潮成分が卓越しており、潮流楕円の長軸の大きさは概ね20~30cm/sである。

 

(2)予測結果の概要
予測結果の概要を表2-2-7~2-2-8及び図2-2-6~2-2-11に示す。

 

表2-2-7 予測結果の概要(工事の実施)

項目 予測結果の概要
SS

濁りの発生量が最大となる○年○月の予測結果では、干潮時から満潮時にかけて護岸工事における床掘工事地点から湾奥へ濁りが拡散し、満潮時に最も湾奥へ等濃度線が拡がる。逆に満潮時から干潮時にかけて濁りは徐々に湾口に向かって拡がり、干潮時が最も湾口方向へ拡散する。これらの等濃度線を重ねて包絡線を作成した日最大濃度分布をみると、2mg/lの等濃度線は工事地点を中心に長軸が○km、短軸が○kmの楕円形をしている。

工事区域の北側に位置する親水公園の前面に存在するアマモ場における寄与濃度は1~2mg/lである。

なお、△護岸の工事による濁りの予測結果も護岸工事最盛期とほぼ同様であり、親水公園の前面のアマモ場付近での寄与濃度は1~2mg/lである。


 

護岸工事最盛期                 親水公園に近い△護岸の工事

図2-2-6 SS拡散計算結果(護岸工事)

 

表2-2-8 予測結果の概要(埋立地の存在)

項目 予測結果の概要
流況

流況計算の結果、埋立地の北側で流入している河川水による表層の平均流は埋立地を迂回するようなパターンとなり、埋立地及び防波堤周辺では現況と比較して○cm/s程度流速が減少する。逆に防波堤と前面の親水公園の間の海域は○cm/s程度流速が増加している。 

以上のように湾南部に拡がる河口干潟周辺については、埋立地による流速変化の影響が及ばず、流速変化域は埋立地周辺に限られている。

水質(COD、T-N、T-P、DO)

埋立により埋立地と親水公園の間の海域の閉鎖性が強まると予想され当該海域の水質濃度の増加が懸念された。

  予測結果では、CODについてみると現況に比較して湾の北側で等濃度線がわずかに沖合に拡がり、逆に湾の南側では湾奥へ移動している。すなわち、埋立地により湾奥の流入負荷の拡散が湾の北側に迂回するようになることを表している。現況と将来の濃度変化は、埋立地及び防波堤により親水公園前面の閉鎖性が強まるため0.1mg/l程度濃度が増加している。

  栄養塩についても同様に、湾の北側を迂回するような傾向がみられるが、濃度変化はT-Nで0.05mg/l、T-Pで0.005mg/l程度である。

DOについては同海域の底層の貧酸素化が懸念されたが、DO濃度の減少はみられなかった。ただし、埋立地及び防波堤の南側海域では内部生産の減少によると考えられるDOの低下がみられ、第1層では0.5~1.5mg/l程度の減少であった。


埋立地なし

 

埋立地あり

図2-2-7 流況計算結果(夏季、表層、平均流)

 

  凡例:+(流速増加)、-(流速減少) 単位:cm/s
図2-2-8 埋立地による流速変化(夏季、表層、平均流)

 

図2-2-9 水質予測結果(夏季、表層、COD)

 

 

凡例:+(濃度増加)、-(濃度減少) 単位:mg/L
図2-2-10 埋立地による水質変化(夏季、表層、COD)

  凡例:+(濃度増加)、-(濃度減少) 単位:mg/L

図2-2-11 埋立地による水質変化(夏季、表層、DO)

6)評価の考え方
  (1)工事の実施
  回避・低減に係る評価の視点からは、事業者による環境影響の回避・低減への努力・配慮を明らかにし、評価するものであり、選定した工法や使用機械や汚濁防止膜の設置等の工事計画において実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて評価を行う。
   また、基準又は目標との整合に係る評価の視点からは、対象海域の水質(浮遊物質量(SS))については環境基準が設定されていないが、水産用水基準等との対比を行い整合がとれているかどうか評価する。
  (2)埋立地の存在
  回避・低減に係る評価の視点からは、事業者による環境影響の回避・低減への努力・配慮を明らかにし、評価するものであり、埋立地の形状や外郭施設の構造等について複数案の比較検討結果や実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて評価する。
  基準又は目標との整合に係る評価の視点からは、対象海域の水質(化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T-N)、全燐(T-P)、溶存酸素量(DO))について環境基準が設定されていることを踏まえ、予測結果と環境基準との対比を行い整合がとれているかどうか評価する。その際、環境基準との整合性に係る評価は化学的酸素要求量(COD)では年間75%値、T-N、T-Pでは上層の年平均値で行われることに留意し、予測結果をそれぞれ換算した上で比較する。なお、溶存酸素量(DO)については、予測結果は平均的な状態の値であることを踏まえ、参考値として考える。
   なお、対象海域は現状で化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T-N)、全燐(T-P)、溶存酸素量(DO)の環境基準を達成できていない状況にあることを踏まえると、現状において環境基準との整合が図られない内容及び将来予測結果に基づく将来の環境基準の達成状況を明らかにした上で、将来においても環境基準の達成が困難であると予測される場合には、回避・低減の措置による事業の実施に伴う付加分の低減の程度(低減率等)及び現況に対する変化の程度の観点から、その回避・低減の措置に関する実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かを検討し評価を行う。


2 ケーススタディ
   1)ケーススタディによる検討のねらいと方法 
   (1)検討のねらい
   (2)対象とする地域と事業の想定 
   (3)ケーススタディの作業手順
2-1 水質・底質のケーススタディ 
   1)事業特性の設定
   (1)対象水域
   (2)事業内容 
   (3)基本条件
   2)地域特性の設定
   (1)自然的状況
   (2)社会的状況
   3)環境影響評価項目の選定 
   4)調査・予測手法の検討 
   (1)調査・予測手法検討の流れ
   (2)予測手法の検討 
   (3)現地調査手法の検討
   5)調査結果・予測結果の概要
   (1)現地調査結果の概要
   (2)予測結果の概要
   6)評価の考え方
   (1)工事の実施 
   (2)埋立地の存在

大気・水・環境負荷分野の環境影響評価技術(II)TOPへ戻る