参加型アセスの手引き

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2.評価書の記載内容にみるコミュニケーションの現状

 閣議アセス段階の評価書の記載内容から読み取れる範囲で、情報の提供者(保有者)としての住民等とのコミュニケーションがどのように図られていたかを、住民意見手続きの運用状況などに着目して調査項目を設定し、整理を試みたものの概要を紹介します。

[1]調査対象

 (社)日本環境アセスメント協会に閲覧図書として登録されている評価書(426件)のうち、314件分について調べました。なお、同協会の閲覧図書には発電所関係のアセスは含まれていません。

 

[2]調査内容

イ、意見の手続きはどのように扱われてきたのか。

a.説明会の開催に関する記述

 閣議アセスでは、事業者は準備書の縦覧期間内に関係地域内において説明会を開催することとされています。ただし、事業者の責めに期することができない理由で開催できない場合は、他の方法による周知に努めることとなっています。

   ○説明会の開催状況に関する記述の有無

   ○開催しなかった場合、他の方法による周知に関する記述の有無

b.住民意見に関する記述

 閣議アセスでは、関係地域内に住所を有する者から意見を聞くこととされています。そこで、住民意見に関して以下のことを調べました。

   ○住民意見の提出状況に関する記載の有無

   ○住民意見と事業者見解の記載方法

ロ、住民の関心事が把握されているか 

a.地域固有の情報の活用

 住民等が発信している環境情報などについてあらかじめ把握されていることは、住民等の関心に応えるアセスを行う上で重要な取組みです。そこで、現況調査などにおいて、以下のような文献が活用されているかどうかを調べました。

   ○地元市町村(政令市を除く)が発行している文献が活用されているか

※都道府県や政令市を除いたのは、地域社会により密接な自治体の単位で発行されている文献に配慮しているかどうかを知るため。

   ○市民団体等が発行している文献が活用されているか

※ここでいう市民団体等は、環境NGO、住民団体、自然観察会や高校生物部、民間有志の研究会などを指している。

b.調査段階への関与について

 調査の一端に住民が関わることは、地域に即した環境情報を得たり、アセスへの理解を高める上で有効な手段であると考えられます。そこで以下の内容を調べました。

     ○地域関係者への聞き取り調査の有無

     ○地域関係者の協力による調査の有無

[2]結果の概要

イ.住民意見の手続きについて

 a.説明会の開催状況(表25

 説明会の開催状況の記載があるものは64件(20.4%)、そのうち開催件数がわかるものは38件(12.1%)で、回数の記載がないものが26件(8.3%)ありました。

 開催状況の記載がないものが最も多く248件(79.6%)ありました。そのうち、他の方法による周知について記載しているものはありませんでした。しかし、住民意見欄を読むと、説明会の再度開催を要望する意見、説明会での説明方法等への意見、説明会の開催回数が不十分とする意見も見られることから、説明会を開催しているものの、それを記載していないものもあると類推されます。

 なお、公告縦覧や説明会の開催状況、住民意見件数などを時系列に掲示しているのは7件(2.2%)、住民意見に関する項目そのものがないものは4件(1.3%)ありました。その具体例を表28に示しました。

 b.住民意見に関する記載(表26

 評価書に、住民意見の件数を記載しているものは170件(54.1%)あり、意見なし(0件)は119件(37.8%)ありました。うち、住民意見の件数を記載せずに意見を掲載しているものは140件(44.6%)を占めています。また、前項を同様に、住民意見に関する項目そのものがないものが4件ありました。

 なお、住民意見があった191件(60.8%)の内、個々の意見を一件ずつ記載しているものが146件(76.4%)、いくつかの類似意見を一括して記載しているものが45件(14.6%)ありました(表27)。

c.事業者見解に関する記載(表27

 住民意見が記載されている191件について事業者見解の記載方法を調べました。その結果、個々の意見に対して個別に見解を記載しているものは71件(32.2%)、類似意見を一括して見解を記載しているものは120件(62.8%)ありました。

ロ.住民の関心事が把握されているかについて

 a.文献の活用(表29

 地域固有の環境情報の活用状況を把握するために、評価書に記載されている参考文献の中に、地元市町村(県・政令市のものをのぞく)発行の文献等や市民団体等が発行する文献等が含まれているかどうかを調べました。

 その結果、多くの評価書では、環境庁などが発行する全国的な環境情報は使われていますが、市町村でまとめた文献を引用しているものは20.1%と多くなく、自然愛好会や市民団体、民間の研究団体等による文献を引用しているものは10.5%でした。

 b.地元関係者からの協力(表29

 地元関係者の協力による環境情報の収集について、評価書の記載の中から、地元関係者への聞き取りや調査への協力に関する記載があるかどうかを調べました。

 その結果、地元関係者からの聞き取りは、自然環境調査(特に哺乳類、爬虫類・両生類が多い)における学識経験者や地元住民への聞き取りが散見され、26.8%ありました。地元関係者からの調査実施への協力では、「魚類調査で漁協支部の協力を得た」とする記述が1件ありました。

 


 表25 説明会の開催状況に関する記載

開催状況の記載あり

64

20.4

回数の記載あり

38

12.1

回数の記載なし

26

 8.3

開催状況の記載なし

246

78.3

他の方法による周知の記載:0件

住民意見に関する項目なし:4件

314

100

 

 

 表26 住民意見に関する記載

件数の記載あり

意見なし

119

37.8

170

54.1

 

意見あり

51

16.2

意見ありの合計

191件(60.8%)

件数の記載なし

140

44.6

住民意見に関する項目なし

  4

 1.3

 

314

100

 

 

 表27 住民意見及び事業者見解の記載方法

住民意見

事業者見解

個別に記載

146

76.4

個別に記載

 71

32.2

一括して記載

  45

14.6

一括して記載

 120

62.8

191

100.0

191

100.0

 

 表28 検討過程や意見募集方法等を記載しているもの

区 分

件数

内 容

検討過程や意見募集方法等を記載しているもの

7件

2.2

専門委員会提出資料、開催状況、委員名の記載あり

縦覧場所、PR方法を記載

「まえがき」に準備書縦覧以後の経緯、PR方法、説明会の開催状況、公聴会の要請がなかったこと、市長意見の日付等の記載あり

縦覧場所、PR方法、説明会の場所・回数等を記載

専門委員会提出資料、開催状況、委員名の記載あり

「評価書作成までの経緯」の項があり、縦覧以後の経緯(説明会回数等)の記載あり

「手続きの概要」があり、専門委員会答申書や審議経過、委員名簿、公聴会の開催状況、公述意見の概要と事業者の見解等の記載あり

 

 表29 評価書の記載から読み取れる調査段階への反映

文献の活用

市町村の文献を活用

63

20.1

市民団体等の文献を活用(注)

33

10.5

地元関係者の協力

地元関係者に聞き取り

84

26.8

地元関係者の協力で調査を実施

1件

 0.3

特記事項なし

173

55.9

   注:日本自然保護協会「我が国における保護上重要な動植物種の現状」については市民団体等の文献としてはカウントしていない