実行可能なより良い技術の検討による評価手法検討調査報告書TOPへ戻る
II.欧米諸国におけるより良い技術の導入等の状況
1.各国におけるより良い技術の導入等の現状
EUでは、IPPC指令(Council Directive 96/61/EC of 24 September 1996 concerning integrated pollution prevention and control)の中でBATに関する定義を示している。
この指令は、汚染者負担の原則に基づき産業活動ができるだけ環境に影響を与えないために必要な内容について示しており、その中でBATの定義及びその適用等について示されている。
それによると、第2条 定義 11項において、「礎est available
techniques秩i最も利用可能な最善のテクニック;BAT)とは、(産業)活動の発展及びその操業方法の最も効率的ならびに高度な段階で、環境全体に影響を与える排出物の防止(それが困難な場合は削減)のため特定のテクニックに関して原則としての排出物制限値を設けるに際しての実践的適用性を示したものを意味する:
BATを判断する際、IPCC指令のAnnex IVで列挙された項目に関しては「特別の配慮がなされるべきである。」と定義されている。 文中で示されているAnnex IVには、次の内容が上げられている。
Annex IV
それぞれの措置の費用・便益ならびに注意事項及び予防措置の原則を念頭に置いた上で、第2条(11)で定義された利用可能な最善のテクニック(BAT)を判断する際に一般的又は特定の場合において考慮すべき内容:
このBATの適用は、第3条の 運営者の基本的義務を管理する一般原則において、「(a)汚染に対し、特にBATの適用を通じて全ての適切な防止策がとられること」とされており、さらに第10条において、BAT(利用可能な最善の技術)及び環境の質に対する基準が、また、第11条においては、各加盟国の所轄官庁がBATの開発状況を追跡調査あるいは情報提供を受けることを保障することが示されている。
最新の技術等BATに関する内容については、IPPC指令第16条において、EUが各加盟国と関係産業との間でBATに関する情報交換の機会をもち、3年ごとにこの情報交換の結果を公表することが義務づけられている。
BATについては、Best Available Techniqueと定義されており、技術並びに操作方法・処理方法など工程管理手法等についても言及している点が注目される。そのため、必ずしも新しい施設の導入のみが対象ではなく、設備・施設が古くても操作等の変更があれば対象となる。
ただし、BATの適用は、基本的には、新規設備等の導入の際に導入されるべき環境への負荷・影響が少なく現在利用が可能な技術・工程管理手法を指しており、特に、許認可等の際に利用されることが多いとされる。また、適用においては、導入のためのコストも考慮することとされ、検討時点で最も優れた技術・工程管理手法であっても、現実として導入が費用面から可能であるかも評価項目として加味されている。
ヒアリングによると、EU及び加盟国は、過去において、IPCC指令の制定にあたって相当なの議論を行ってきた。
その経緯からみると概ねEU内は3つのグループに意見が分かれていた。
(1)ドイツ、オーストリア、オランダなど先進諸国
国レベルの規定をもっており、BATについても法律に詳しくその適用内容が示されている。産業界に対しても適用の透明性が貫かれており、高いレベルの環境保護を達成するように努力している。ただし、アプローチの柔軟性がややかける面があり、原料、テクニック、場所による柔軟な対応が難しいという課題をもっている。
(2)イギリス、スウェーデン、アイルランド
イギリスのBATNEECという規定に応じている。これも国レベルでの規定はあり、ガイドラインなども作成している。なお、BATNEECにおけるTはテクノロジーとしている。
過剰なコストがかからないようなBATの適用が示されている。対象は施設導入の許認可時に行われているが、出先機関(Agency)が担当している。ドイツなどの規定よりかなり柔軟な対応が可能となっているが、逆に環境保護に対する保証が少ないと考えている。
(3)主として南ヨーロッパ諸国(スペイン、ポルトガル、ギリシャ、イタリア南部)
イタリア北部は工業集積があるためこのグループから外れる。
これら地域は基本的にはまだ産業集積がなく、むしろ経済発展を主体としている国々である。そのため、環境に対する関心は薄く、また汚染度も低い地域であることからBATの導入については積極的ではなかったとされる。
EUでは、以上の3タイプの国々との議論の結果、IPPC指令のBATは上記2番目のグループでいうようなBATに近い概念となった。すなわち、経済的な考慮したでのもっともよいテクニックの導入という概念となっている。
また、許認可の具体的な内容も各国の方針にゆだねるという内容にとどまっている。
そのため、現在、ドイツ、オランダの企業からはもっと厳しい基準を他の国でも適用してほしいという要望が出されている。
IPPC指令では、Commission DGXI Chairman for Information Exchange Forumの設置を明文化している。このフォーラムは、BATに関する情報交換の場として位置付けられている。フォーラムには、各国の担当、企業代表(UNICE)、ヨーロッパ環境局(EEB)が参加し、各国内で検討・指定されているBATについて情報提供を行っている。そして、最終的には、EUとしてとりまとめ、各国でのBAT導入による許認可の際参考となるような情報提供が行われている。情報交換の全体の流れは次図の通りである。
図 BATの情報交換に関する仕組み
その流れは、次のようである。
各国からBATに関する報告書が提出された後、第1段階として、TWG(各国担当者、専門分野の企業、NGO等)により検討を行い、上部組織のフォーラムへEU全体としてのBATに関する報告書案を作成する。ついで、第2段階として、上部のフォーラムは最終報告書を作成し、EU委員会での議決を得る。
なお、このフォーラムの傘下にあるTWG(Technical Working Group)の活動目的は、[1]EU内の技術の平等化、[2]世界的にEUで行っているこのような行為の価値を広めること、[3]各国がこの指令を効果的に実施することの3つにある。
また、BATについては、将来的には、日本、アメリカ等で実施されているより良い技術についても広く情報を収集し、EU域内への導入も図っていきたいと考えられている。
ヒアリングによれば、現在のところBATは操業に係わる範囲に限定しているのに対して、環境影響評価は開発行為(面的な計画や建設そのものの行為等)を対象としている違いがあること、EUによる環境影響評価の指令は手続きを示す内容にとどまっていることから、環境影響評価の仕組みとして直接的にBATを導入するという考え方はないとされた。
しかし、一方で、すでに環境影響評価とBATを一緒に適用できないかという意見もあり、例えば、環境影響評価に関する指令に基準そのものも位置付けられるか、計画の許認可と操業の許認可を一緒に実施するようになれば、今後その扱いが統一される可能性もあるとされた。
Annex I 第1条で挙げられた産業活動の分類
1.研究開発ならびに新製品及び新手法の検査に利用される設備及びその一部はこの指令書には含まれていない。
2.一般的に以下の初期値は、製品の処理能力及び産出量についてのものである。一運営者が、同じ副項目内にあてはまる設備及び場所により数種類の異なる活動を行っている場合、それらの活動による処理能力は合算するものとする。
1. | エネルギー産業
|
1.1 | 燃料設備で、熱出力が50MWを超えるもの |
1.2 | 鉱物油及びガス精製装置 |
1.3 | コークス炉 |
1.4 | 石炭気化・液化プラント
|
2. | 金属製造及び加工
|
2.1 | 金属鉱石(硫化物の鉱石を含む)焙焼・焼結プラント |
2.2 | 銑鉄または連続鋳造を含む鋼(第一次・第二次融解)生産設備で、生産能力が毎時2.5トンを超えるもの |
2.3 | 鉄金属加工のための機械設備で: |
(a) | 粗鋼を毎時20トン町処理する能力を持つ熱間圧延機 |
(b) | 一打毎に50kJ超のエネルギーを消費する槌を用いる鍛冶場で、発熱量が20MWを超えるもの |
(c) | 粗鋼を毎時2トン超処理する能力を持つ保護ヒュージング膜塗布設備 |
2.4 | 処理能力が一日20トンを超す鉄金属鋳造工場 |
2.5 | 機械設備で |
(a) | 鉱石、濃縮物、もしくは冶金的・科学的又は電気的プロセスによる二次原料から非鉄金属を生産するもの |
(b) | 鉛とカドミウムを1日4トン以上あるいはその他の金属を1日20トン以上を使って、還元生成物を含む非鉄金属の精錬するもの
|
3. | 鉱物産業
|
3.1 | 回転窯でのセメント焼塊については一日当たり500トン、回転窯での石灰については一日当たり50トン、その他の炉については一日当たり50トンを超える生産能力を持つ機械設備 |
3.2 | アスベスト製造及びアスベスト関連製品の製造設備 |
3.3 | ガラス繊維入りのガラス製造装置で、溶解能力が一日当たり20トンを超えるもの |
3.4 | 鉱物溶解用の設備で、溶解能力が一に当たり20トンを超えるもの |
3.5 | 特に屋根瓦、煉瓦、耐火煉瓦、タイル、石器、磁器などの陶製品の焼成による製造設備で、一日当たりの生産能力が75トンを超え、また窯の処理能力が一つ当たり4m3、凝固密度が一つ当たり300kg/m3のものあるいはその両方
|
4. | 化学産業 |
この項に含まれる活動の分類で、ここで意味する生産活動に含まれるものとして、4.1及び4.6で挙げられた物質及び物質群の産業レベルでの科学的加工(精製)を指す。
|
|
4.1 | 以下のような基本的有機化学物質の製造設備 |
(a) | 単純炭化水素(鎖状・環状、飽和・不飽和、脂肪族・芳香族) |
(b) | アルコール、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、エステル、アセテート、エーテル、過酸化物、エポキシ樹脂などの酸素を含む炭化水素 |
(c) | 硫黄を含む炭化水素 |
(d) | アミン、アミド、三価の窒素を含む化合物、ニトロ化合物、硝酸化合物、ニトリル、シアン化物、イソシアニンなどの窒素系炭化水素 |
(e) | リンを含む炭化水素 |
(f) | ハロゲンを含む炭化水素 |
(g) | 有機金属化合物(h)基本プラスチック原料(ポリマー、合成繊維、セルロース繊維) |
(h) | 基本プラスチック原料(ポリマー、合成繊維、セルロース繊維) |
(i) | 合成ゴム |
(j) | 染料及び色素 |
(k) | 界面活性剤・表面活性剤 |
4.2 | 以下のような基本的無機化学物質の製造設備 |
(a) | アンモニア、塩素又は塩化水素、フッ素又はフッ化水素、酸化炭素、硫黄酸化物、水素、二酸化硫黄、塩化カルボニルなどのガス |
(b) | クロム酸、フッ化水素、リン酸、硝酸、塩酸、硫酸、発煙硫酸、亜硫酸などの酸 |
(c) | 水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、硫化アンモニウム、などの塩基 |
(d) | 塩化アンモニウム、塩素酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、過ホウ酸、硝酸銀などの塩 |
(e) | 非金属、金属酸化物、及び炭化カルシウム・ケイ素・炭化ケイ素などの他の無機化合物 |
4.3 | リン、窒素、及びカリウムを原料とする肥料(単一及び合成肥料)製造のための化学設備 |
4.4 | 植4.5 物の健康に関する基本的製品及び殺虫剤の生産に関する化学設備 |
4.6 | 基本長座医薬品の生産において科学的又は生物的工程を用いる設備 |
爆薬の生産に関する化学設備
|
|
5. | 廃棄物管理 |
指令書75/442/EEC第11条あるいは1991年12月12日の有害廃棄物に関する審議会指令書91/689/EEC第3条の権利を侵害することなく、
|
|
5.1 | 指令書91/689/EEC第1条(4)、指令書75/442/EECのAnnex IIA及びIIB(R1、R5、R6、R8、R9)及び石油の廃棄に関する1975年6月16日の審議会指令書75/439/EECで定義された、有害廃棄物の廃棄及び再生に関する設備 |
5.2 | 郡による新規の廃棄物焼却プラントによる大気汚染防止に関する1989年6月8日の審議会指令書89/369/EEC及び郡による既存の廃棄物焼却焼却プラントによる大気汚染削減に関する1989年6月21日審議会指令書89/429/EECで定義された郡の廃棄物の焼却設備で、処理能力が毎時3トンを超えるもの |
5.3 | 指令書75/442/EECのAnnex IIAのD8及びD9で定義された非有害廃棄物の廃棄設備で、処理能力が一日当たり50トンを超えるもの |
5.4 | 不活性廃棄物を除いた容量が25000トンを声、一日当たりの受け入れ量が10トンを超える埋立地 |
6. | その他の活動 |
6.1 | 以下の産業生産プラント: |
(a) | 材木及びその他の繊維質からのパルプ生産 |
(b) | 紙及びダンボールの生産量が一日当たり20トンを超えるもの |
6.2 | 繊維の下処理(洗浄、漂白、マーセル処理等)及び染色のためのプラントで処理能力が一日当たり10トンを超えるもの |
6.3 | 処理能力が一日当たり12トンを超える皮革製革プラント |
6.4 | |
(a) | 処理能力が一日当たり50トンを超える屠殺場 |
(b) | 食品生産のための処理加工プラントで、 |
― | 動物性原料(牛乳を除く)を用いるもので生産能力が製品を基準として一日当たり75トンを超えるもの |
― | 植物性原料を用いるもので生産能力が製品を基準として一日当たり300トンを超えるもの |
(c) | 牛乳の処理加工においては、用いる牛乳の量が一日当たり200トンを超えるもの |
6.5 | 一日の処理能力が10トンを超える動物の死体及び廃棄物の廃棄及び再利用設備 |
6.6 | 家禽類及び豚の養育設備で、容量が以下を超えるもの: |
(a) | 家禽類については40000頭 |
(b) | 豚(体重30kgを超えるもの)については2000頭 |
(c) | 雌豚については750頭 |
6.7 | 有機溶剤を用いた物質の表面加工、特に仕上げ・印刷・コーティング・脱脂・防水加工・にじみ止め(礬砂)加工・塗装・洗浄・充填などを行う設備で、(有機溶剤の)消費量が毎時150kg超あるいは一年当たり200トンを超えるもの |
6.8 | 焼却及び黒鉛化による炭素(hard-burnt coal)及び導電性黒鉛の生産設備 |
Annex II 第18条(2)及び第20条で挙げられている指令書一覧表
1. | アスベストによる環境汚染の防止及び削減に関する指令書87/217/EEC |
2. | クロロアルカリ電気分解産業からの水銀排出量及び排出物の質を制限する指令書82/176/EEC |
3. | カドミウム排出量及び排出物の質を制限する指令書83/513/EEC |
4. | クロロアルカリ電気分解産業以外から排出される水銀排出量及び排出量の質を制限する指令書84/156/EEC |
5. | ヘキサクロロシクロヘキサン排出量及び排出物の質を制限する指令書84/491/EEC |
6. | 指令書76/464/EECのAnnex(改正版は指令書88/347/EEC)及び指令書90/415/EEC(改正版は指令書86/280/EECのAnnex II)にあるList1に含まれている特定の有害物質 |
7. | 郡の新規廃棄物焼却施設からの大気汚染防止に関する指令書89/369/EEC |
8. | 郡の既存廃棄物焼却施設からの大気汚染削減に関する指令書89/429/EEC |
9. | 有害物質の焼却に関する指令書94/67/EC |
10. | 二酸化チタン産業から出る廃棄物から引き起こされる汚染の削減及び段階的撲滅計画の調整手順に関する指令書92/112/EEC |
11. | 大規模燃焼施設から大気へ排出される特定有害物質の制限に関する指令書88/609/EEC;最新改訂版は指令書94/66/EC |
12. | ECの水環境に排出される特定の危険物質により引き起こされる汚染に関する指令書76/464/EEC |
13. | 廃棄物に関する指令書75/442/EEC;最新改訂版は指令書91/156/EEC |
14. | 石油廃棄に関する指令書75/439/EEC |
15. | 有害廃棄物に関する指令書91/689/EEC |
Annex III 排出物制限値に関連がある場合考慮に入れる必要がある主要汚染物質の一覧表
空気中 | |
16. | 二酸化硫黄及び他の硫黄化合物 |
17. | 窒素酸化物及び他の窒素化合物 |
18. | 一酸化炭素 |
19. | 揮発性有機化合物 |
20. | 金属類及びそれらの化合物 |
21. | 粉塵 |
22. | アスベスト(浮遊粒子及び繊維) |
23. | 塩素及びその化合物 |
24. | フッ素及びその化合物 |
25. | ヒ素及びその化合物 |
26. | シアン化物 |
27. | ガン又は突然変異を引き起こす性質が確認されているか、大気を通じて生殖機能に影響を及ぼすことが確認されている物質及び調合物 |
28. | ポリクロロジベンゾダイオキシン及びポリクロロジベンゾフラン |
水中 | |
29. | 有機ハロゲン化合物及び水中で化合物を生成する物質 |
30. | 有機リン化合物 |
31. | 有機スズ化合物 |
32. | 発ガン性及び突然変異性が確認された物質及び調剤品で水中において生殖機能に影響を及ぼす可能性のあるもの |
33. | 安定性炭化水素及び生物の体内に蓄積する安定性有害物質 |
34. | シアン化物 |
35. | 金属類及びその化合物 |
36. | ヒ素及びその化合物 |
37. | 殺虫剤及び植物の健康に関する製品 |
38. | 浮遊物質 |
39. | 富栄養化をもたらす物質(特に硝酸塩及びリン酸塩) |
40. | 酸素のバランスに悪影響を与える物質(またBODやCOD等のパラメータを用いて測定可能なもの) |
Annex IV
それぞれの措置の費用・便益ならびに注意事項及び予防措置の原則を念頭に置いた上で、第2条(11)で定義された最も利用可能なテクニック(BAT)を判断する際に一般的又は特定の場合において考慮すべき内容:
41. | 廃棄物削減技術の利用 |
42. | 有害物質削減 |
43. | 工程で生成又は使用した物質もしくは適切な場合は廃棄物の再生及び再利用の促進 |
44. | 産業レベルで試用され製鋼した工程・施設・及び手順 |
45. | 科学の学問分野及び了解事項における技術的進歩及び変化 |
46. | 当該排出物の性質・効果・及び排出量 |
47. | 新規及び既存施設へ(権限を)委任した日付 |
48. | 最も利用可能なテクニックの導入に必要な期間 |
49. | 工程で消費される原料(水を含む)の性質及びエネルギー効率 |
50. | 排出物の環境全体への影響及び悪影響を及ぼす可能性を予防又は最小化する必要性 |
51. | 環境全体への災難を予防し(万一起こった場合)その結果を最小限に食い止める必要性 |
52. | 委員会が第16条(2)に基づいて公表する又は国際機関による情報 |