平成10年度 実行可能なより良い技術の検討による評価手法検討調査報告書(平成11年3月)

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II.欧米諸国におけるより良い技術の導入等の状況
1.各国におけるより良い技術の導入等の現状

D.イギリス

1)定義

 イギリスにおけるBATNEECとは、Best Available Technique Not Entailing Excessive Costの略語であり、過大なコスト負担なく汚染物質の排出の防止、もしくは現実的に可能な範囲で汚染物質を抑制しうる最善の技術を指す。
 イギリスでは、環境保護法により、汚染物質の排出限度について許可制をとっている。許可を与える際の条件に汚染の抑制技術として、この「過大なコスト負担なく利用可能な最善の技術(Best Available Technique Not Entailing Excessive Cost, BATNEEC)」を利用することが義務づけられることとなった。
 また、許可にあたっては大気、水、土壌各々の汚染の総合的な影響を考慮することが規定されている。

 

2)適用の局面

(1)法的な位置付け

 イギリスでは古くから大気、水、土壌汚染を規制する法律が存在していた。しかし、その内容は必ずしも統一性がなく、また適用が十分機能していなかった。その点を踏まえた上で、1990年環境保護法(The Environmental Protection Act 1990)が制定された。
 環境保護法における主な特徴は、以下の通りであるが、この第2の特徴にBATNEECの適用があげられる。

[1]総合的汚染規制と特定工程に関する許可制の導入
1990年環境保護法では、総合的汚染規制(Integrated Pollution Control, IPC)という概念を用い、最大の汚染源である産業施設から大気、水、土壌へ排出される汚染物質を一元的に管理することにより全体量を抑制しようというものである。
[2]許可の条件にBATNEECを適用
[3]廃棄物に関し法的注意義務を導入
[4]汚染の浄化責任
[5]汚染された土地および特定施設の登録制度
[6]公共・個人の快適な生活を守るための行政手続きや裁判所への差し止め請求の規定

 環境保護法においては、総合的汚染規制のシステムの実施が特徴とされているが、この総合的汚染規制は、従来個別に規制していたものを、汚染源である産業施設から大気、水、土壌へ排出される汚染物質を一元的に管理することを目的としている。規制対象は、次の6つの産業である。

(2)適用の方法

 許可申請手続きは、環境庁(Environment Agency、以前のイギリス汚染検査局(Her Majesty痴 Inspectorate of Pollution, HMIPと廃棄物規制局が統合されたもの)が管轄しており、標準的申請書の受付時に、申請者へのガイドノートを作成している。
 申請者は、総合的汚染規制に基づく許可を取得するためには、工程、排出物質、環境への影響、汚染削減のための方策等々、非常に詳細な資料の提出を求められることとなる。 なお、環境庁に提出された情報は、一般市民が閲覧可能となっている。
 許可に当たっては各種の条件が設定されるが、その中で最も重要なのがBATNEECとされる。総合的汚染規制(Integrated Pollution Control)のガイドラインでは、BATNEECに関し、次の内容が示されている。(注:()内はガイドラインの条項番号をさす)

 なお、「最善の技術」について、環境保護法ではbest available techniqueとなっている。同法が定める最善の技術には、単に適用される技術(ハード)に止まらず、当該技術の適用方法(ソフト)も含まれる。
 また、この技術は「過大なコスト負担なく」とされ、これは費用対効果の観点から判断される。例えば、ある技術により有害廃棄物の抑制を90%出来る場合に対して、抑制を95%まで高めるために、更に4倍の費用が必要となる場合は、追加費用は「過大な負担」と判断される。ただし、排出物の有害性が極めて高い場合、この費用が過大とはいえないといった判断も行われる。

 上記のように、BATNEECの適用は各地域ごとに設置されている環境庁が、ガイドラインにもとづき申請者と協議の上、導入を促進する仕組みがとられている。

 BATNEECの導入促進のため、このガイドラインは4年ごとに見直しされることとなっている。企業側はこの見直しに基づいて、その都度施設などのチェックを受けることとなり、改善の余地が見られる場合には、環境庁と導入するべき技術(テクニーク)について改めて協議を行う必要が生じる。環境庁はさらに、査察等の権限も有している。なお、地方自治体は、このガイドラインをもらってから対応を行うこととなっている。
 環境庁の査察等に対しては、企業が訴訟を起こすこともあるが、その場合、基本的には企業側がBATNEECに基づいて行っていることを明確にする義務がある。
全体の許認可申請の流れとBATNEECとの関係は次図に示すとおりである。

図表 BATNEECの適用の具体的な適用例

 

4)今後の課題

 1995年環境保護法により、既存の大気汚染対策に加えて、新たに全国レベルの大気汚染戦略の策定が制度化された。環境庁は、同戦略を策定するために、大気アセスの実施が急務となっている。そのため、ヒアリングによるとBATNEECの適用の局面も増加する可能性があるとされる。

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