実行可能なより良い技術の検討による評価手法検討調査報告書TOPへ戻る
II.欧米諸国におけるより良い技術の導入等の状況
1.各国におけるより良い技術の導入等の現状
オランダにおけるBACT(Best Available Control Technology 以下BATと呼ぶ)とは、製造工程中に組み込まれたものであれ、製造工程外に付け加えられたものであれ、発生源からの排出抑制に適用されて良い結果を残してきている技術や、他の製造工程や商業スケールの実証プラントで良い結果を残しており、対象となる上記の工程へ原理的に適用可能な技術を指している。それら技術は、コスト効率がよい、オペレーティングが容易で技術的に実現可能、故障に対する感受性(susceptibility)がある等の条件を有している。
(1)総合環境法(Environment Act)におけるBATの位置づけ
オランダでは、各種汚染に対する規制の主たる手段は、施設の存在する州当局による許認可制度によっている。その許認可制度においては、強制モニタリングや視察等が含まれており、必要に応じた対策を立案することが可能となっている。許認可に当たっては複数の環境法に基づき実施されているが、手続きの共通の枠組みを定め、許可が複数必要とされる場合の調整等を規定しているのが総合環境法である。この総合環境法においては、より適用可能な最新技術の利用(BAT)が示されており、例えばBATにより大気への排出抑制を行うことが規定されている。また、各地方政府においては、地域ごとの独自の基準で許認可を行っているが、これらの基準のガイドラインとして策定されたのがオランダ環境規則(NeR)である。なお、ヒアリングによると、このNeRは、中央政府、州等地方自治体、企業の協力のもと策定されており、個別の排出基準を決定するためのガイドラインとして位置づけを持っている。
(2)IPPC指令以降
EUによるIPPC指令(1996年)以降では、BATの適用をこの指令にもとづき実施している。EUによるIPPC指令におけるBATその定義及び内容は、本編EU(49ページ)に示すとおりである。
EUのIPCC指令では、BATに関する情報交換が義務づけられており、これまでオランダ政府は、「Dutch Notes on BAT for Production of Primary Iron and Steel」等の報告書をEUに提出している。
「Dutch Notes on BAT for Production of Primary iron and Steel」(1997年)によると、BATについては以下のようなプロセスによる抽出が行われている。
これらBATの抽出においては、政府、業界、学識者等による共同作業により実施されている。
図表 BAT抽出の流れ
具体的な内容は次のようである。
<事例:鉄精錬等におけるBAT抽出の流れ>
「Dutch Notes on BAT for Production of Primary iron and Steel」(1997年)では、鉄及び鋼鉄の生産へのBATの抽出の内容は次のように示されている。
[1]概要の記載
この文書では、まず、主要な鉄鋼製造に関して述べられている。つまり、鉄鉱石から銑鉄や鋼を製造する工程について示されている。鉄鉱石から鋼を製造するに際し、(製鉄所によって)様々な生産ラインが操業しているが、この文書ではシンターやペレット・コークス炉といったプラント・溶鉱炉・塩基性酸素製鋼炉・連続鋳造機について言及している。
BAT抽出を含め報告書の内容は次の5点が示されている:
さらに、鉄製造に関する代替技術について、数種類の新しい製鉄工程について説明されている。
[2]主要鉄鋼生産の工程についての記載
最初に工程の説明として次の内容が記載されている。
主要鉄鋼生産では、溶鉱炉がその主要工程となる。溶鉱炉の操業度を最適化し、また(製鉄に)あまり適していない鉄鉱石や不純物を含んだ鉄も最大限利用するため、鉱石準備プラントも操業している。このようなプラントには、シンタープラント及びペレットプラントがある。
溶鉱炉の主燃料はコークスである。コークスは、コークス炉で石炭の乾留によりつくられる。 溶鉱炉では鉄鉱石が還元され、炉の下に液化鉄及びスラグが集められる。溶鉱炉からできたスラグは粒状・ペレット状にされるか、スラグ坑へ排出される。溶鉱炉からの液化鉄(銑鉄)は塩基性酸素炉へ輸送され、そこで炭素比率(約4%)が1%以下に下げられ鋼となる。塩基性酸素炉から液化鉄は鋳造される(大抵は連続鋳造)。場合によっては鋳造前に真空脱ガス法により鉄の質がさらに高められる。
鋳造後の品(インゴット、厚版、鋼片、塊鉄)はつづいて圧延機や最終仕上げラインにのせられ、その後販売される。
[3]主要生産設備からの環境負荷の記載
次いで、主要生産設備におけるエネルギー消費・空気への排出物・排水物についての概略が示されている。これらの排出物は、unabated situations(改善不可能な工程)に関連したものである。また、本文において定量的データが与えられている。
元来、主要鉄鋼生産における有害物質のほとんどは浮遊性のものである。これらに低減技術を応用することにより、(これらが)排水として排出されたり、廃棄物が発生する(”cross-media effect”;相互作用)と表現されている。
[4]利用可能なテクニークについての記載
各製造工程で技術水準の適用が可能な多くの環境管理技術が存在している。その内容は、工程に統合されたもの(process-ntegrated
techniques, PI)と工程に付け足されるもの(end-of-pipe techniques, EP)とに分類されている。現在確認されている環境管理技術は、ペレットプラントについては5種類、コークス炉については18種類あるとされる。
これらの技術については、技術の説明・応用可能性・排出量削減達成度・(実際に)適用されているプラントの一覧(”reference
plants”)である。さらに
”cross-media effects”(相互作用)・”operational data”
(操業データ)・
”economics”(経済性)など追加情報も含まれている。
ある技術が”available”(利用可能)であるかどうかの基準は、IPPC-Directiveの定義に則っている。すなわち「経済的・技術的に可能な状況の下で、費用及び利点を考慮した上で、加盟国内で利用・開発された技術であるかを問わず業者が無理なく利用可能であるもので、関係する産業分野で実行可能であるという尺度で開発されたもの」つまり、操業されているレベルでの産業として利用が行われるあるいは見込まれ、通常の経済下で利用可能なものを「利用可能」な技術という。
なお、BATの抽出は、(ある技術に対して)IPPC-DirectiveによるBATの定義の全ての側面についての体系的比較に基づき行われ、抽出に当たっては立法や許可制度に関わるオランダ政府機関の見解も加味されることになる。
[5]開発中あるいは将来の開発可能な技術に関する記載
関連生産設備への応用がなされてない開発途上の新しい技術もある。これらの技術を「利用可能な」技術には含めることはできない。しかしながら、BATの検討においてはこれら開発途上の技術についてもふれられている。
[6]鉄製造代替技術
主要鉄鋼生産における主工程は未だに溶鉱炉である。そのため、溶鉱炉の工程改善の必要性が強く指摘されている。特に次の点についての指摘がある:
そのため、溶鉱炉の環境・経済面や代替工程(直接還元方式:MIDREX,HyL,FIOR, Iron Carbide, FASTMETや還元精練方式:Corex, Hismelt, DIOS, AISI-DOE/CCF,ROMELT)の開発が進んでいる。直接還元方式は既に商用化されているが、還元精練方式で商用化されているのは1種類(Corex)のみである。しかし、他の還元精練方式技術の(一部)応用も数年のうちに進むとした点が記載されている。
(1)BATの国内での導入
国内への製造工程等のBAT導入については、いくつかの過程を経る。
基本的には、環境が悪化ないしは今後悪化することが予想される場合、環境基準あるいは目標排出基準(ELV:Emission Limited Values)の改正が進められる。
企業に対しては、この環境基準及び排出基準の遵守が求められる。設備面・操業面へのBATの適用は、施設の導入あるいは操業方法の変更における許認可の際に、その条件とされることで行われる。
通常は、新しい製造工程の導入あるいは改変に関する許認可申請時に、企業側に対してその立地場所周辺の環境質の状況を考慮して、遵守すべき排出基準を当局から示し、その達成のためのBAT導入を当局と企業とで協議する。その結果、具体的なBATが決まり、その条件のもと、許認可が決定されることとなる。
(2)大気汚染への適用例
オランダでは、大気汚染の削減を目標に現在政策を推進しているが、その実効性を高めるため、対象を工業、農業、交通、一般住民の4つのグループに分け、今後20年間で汚染物質を70-80%削減することを目標とした。
この削減にBATの適用を行った。企業側への適用の具体的な流れは、次図に示すようである。
図 産業公害に対する目標排出基準の導入と基準達成のための段階的対応
目標排出基準の達成のための許認可側にとっての戦略的手法を段階的に示すと次の3つの段階がある。
第1には、協定、合意による削減である。
第2には、NeRによる削減である。
第3には、法的な手段による削減の実施である。
第1の方法では、例えば国内の40の企業に対して、政府目標の実施について要望し、協議を行った。これは企業の自発的な取組を容認する方法であり、一社ごとには達成できないものを40社で対応できるとしたものである。従って、基準を越えた企業は他の企業の削減を享受できる。いわば排出権取引のような仕組みが導入された。
仮に企業が反対した場合には、当局としては第3段階の法的な規定へ進むこととされ、オランダ国内の企業にとっても第1段階の手法により削減努力をしたほうが有利と考えられている。
企業側の事情としても、以前は新しい環境装置が開発されれば環境負荷の改善が単純に進められてきた。これに対し、現在のプロセスは複雑となってきているため、対応が容易ではないと考えられており、上記の第1の手法による全体としての環境負荷低減への取り組み手法の受け入れを歓迎する傾向が強まっているといわれる。
この背景には、オランダ政府の策定した国家環境政策計画の存在がある。この計画は2010年までの長期的排出量削減目標等が示されているが、これらの目標を達成するための方法として、新しい環境法の制定、経済インセンティブを利用した手段、企業の自主協定が上げられている。特に、オランダ政府は、行政側のみの方法では目標が達成できない可能性があり、企業の協力、自主協定による環境保全に重点をおいている。この点から、環境負荷の改善においては、第1段階として協定・合意による改善が上げられている。
しかし、第1段階の方法による改善が進まない場合、州当局の許認可の際に基準となるNeRの改定等に踏み切ることとなる。前述のようにこのNeRは、中央政府、地方自治体、企業の協力により策定することとなるが、その基準は各企業にとって一律の基準となるため、「相互の融通」という方法は否定される。その点ではより厳しい基準が設定されることとなる。
さらに、改善が見られない場合には、法制度による規制となる。法制度により改善すべき基準が設定された場合は、守るべき最も厳しい基準となる。
オランダの環境影響評価の法的根拠は環境管理法(Environmental
Management Act)である。法では環境に深刻な影響を与える事業には環境影響評価書が義務づけられ、事業案と代替案を比較することが定められている。環境影響評価書の作成義務のある事業及び許認可等の規定は環境影響評価令に定められており、その中で代替案について「環境への悪影響を防止し、最小限に抑制した方法を記述した代替案を記載すること」が求められている。
環境影響評価書の審査は、EIA委員会によって行われるが、まず評価書に不足する点が抽出される。不足点の検討に際しては、スコーピングガイドラインによって示された事項、類似の既存環境影響評価書の検討結果に加えて、一般的なクライテリアとして技術水準の現状が考慮される。
ヒアリングによると、環境影響評価はBATの概念を強化するような位置づけにあるとされた。どのような選択があるのかまた一番いいオプションはなんであるかを選ぶことはすなわちBATの概念に近いものとなる。
とくに環境影響評価の代替案の選択においては、技術的な面との関連が非常に強い。そのため、例えば、法的に保護が規定されているところの開発が社会的に必要となった場合、BATによる技術の適用などがありうると考えられる。
また、BATについてはEUで指令(上記IPCC指令)が作成されており、将来的にはこの指令に基づく国内法の改正も必要となってくる。国内法の改正が行われた場合、このBATの考え方や導入される技術によって、従来型の環境アセスメントにおける代替案の選択においても、より環境に配慮した案の選択が多くなると期待されている。さらに、理想的にはBATの徹底により、環境影響評価自体を実施しなくてもよくなる可能性もあるとの指摘がある。