実行可能なより良い技術の検討による評価手法検討調査報告書TOPへ戻る
II.欧米諸国におけるより良い技術の導入等の状況
1.各国におけるより良い技術の導入等の現状
ドイツにおいては、EUによるIPPC指令(EUの章で内容を示す)以前から、より良い技術(BAT)に類する言葉として、連邦インミッション規制法(F.I.C.A(1994年))によって定められる粘tate of the art・Stand der Techink:以下技術水準と呼ぶ)と呼ばれる言葉が定義されている。
この技術水準とは、本規制法第3条6項に「進歩した工程、施設又は操業方法の開発水準であって、排出濃度抑制ための措置の実際上の適合性が保障されると認められたものをいう。技術水準を定めるにあたっては、特に操業の結果検証されている比較対照されるべき工程、施設又は操業方法を参照するものとする。」と表現されている。
ヒアリングによると、この考え方は、原則として技術を利用するすべての場合に適用されることとなるとされた。
(1)IPPC指令以前の技術水準適用状況
ドイツにおいて、技術水準は、大気、水質、廃棄物分野での適用が見られている。例えば、大気分野においては、1986年に導入された大気汚染防止にかかわるガイドライン(TA-Luft)で適用が見られている。このTA-Luftは、連邦インミッション規制法の行政規則の1つであり、排出基準を定めているものであるが、排出基準の設定においては、上記の技術水準の進歩に伴って変更されるとされる。
大気環境基準については、[1]人への健康影響の観点、[2]動植物への影響の観点から対象物質が設定されている。この環境基準の設定、物質の選定は連邦、州が毒性学者の意見を聞いて行っている。
その中で、排出口における濃度規制について、技術水準が適用されることにより達成できるレベルに設定されている。技術水準は、各分野の最新技術(state
of art)をもとに設定される。そのため、最新技術の開発・実用化状況については常にフォローする体制が構築されている。変更が必要と判断された場合、排出基準がそのつど変更されることとなる。なお、大気環境基準は人の健康面からの決定のため産業界からの意見を収集する場はないが、排出基準は技術的な観点から決定されるため、費用面等を含め産業界からの意見具申の場が設定されている。
関連法への適用については、水質管理法(1986年)へ1996年から導入が見られる。適用は、排水基準への規制、仕様等に関して行われている。
廃棄物に関する技術ガイドライン(1991年)では、特定の廃棄物の貯蔵、処理、焼却への適用が示されている。特に、一般廃棄物、建築廃材、下水道汚泥等国内の廃棄物の浄化、再利用、前処理、堆肥化への適用である。
(2)分野別の技術水準適用局面
(大気分野)
大気分野の重要な法である連邦インミッション規制法においては、実体規定の中にしばしば「技術水準(Stand der Technik)」という言葉が使われる。これは、例えば近隣への大気汚染の影響の許容数値などを決定する際に考慮することを要請される重要な要素と位置付けられている。
法律上この技術水準が関係する局面は、次の点が上げられている。
(水質分野)
水質分野においては、排水放出の規制において技術基準が適応されている。
すなわち、連邦の水質管理法上、排水の公共水域への放出に際しては、「一般に認められた技術基準に従い、前処理を行わなければならない」とし技術基準は、追って連邦政府が定めることとされた。また、危険物質を含む産業廃液の放出については、「入手可能な最善の技術」を用いて前処理を施すと用件が設定されている。
(環境影響評価分野)
環境影響評価においては、環境影響評価法で定められていない内容については個別法の規定に基づくものとされている。その中で、許可を要する施設のアセスにおいては、基本的には連邦排出物規制法の基準に従って判断されるが、「有害な環境影響に対する対策が特に、技術水準に適合した排出濃度軽減措置によって取られること。ここで技術水準とは、排出濃度軽減措置の実際的な適性を保障しうるように思われる進歩した工程、設備、操業の開発水準をいい、技術水準を決定する際には、とくに試験運転で成功したこれと比べうる工程、設備又は操業を参酌しなくてはいけない。」と環境影響評価法で示されている。
ヒアリングによると、具体的なケースとしては、道路のトンネル化工事の環境影響評価において特に、交通量の予測、流れの予測およびその結果からの大気汚染濃度の予測を行った際、どの値を基準にするべきかで技術水準を適用した事例があるとされた。
このケースの場合、規制対象として、ベンゾール、煤塵、NOx、SOxの基準のうち、ベンゾールおよび煤塵については排出基準(限界値)がなかったため、当面の排出基準をEU水準により決定した後、努力目標として他のテスト等で得られた値を設定した。この目標値の設定という方法については、より良い技術を導入したことによる排出基準の設定をおこなうこととなるため、技術水準の考え方が踏襲されていると言える。
具体的な技術水準の適用は、許認可手続きにおいて地域の主務省庁により実施され、排出基準は、TA-Luft等法的な規制により決定される。
また、技術水準については、VDI(ドイツ技術者協会)から最新の技術水準に関する情報が提供されているとされる。ヒアリングによるとこのドイツ技術者協会は、国内の技術開発等において権威ある組織とされ、ドイツ技術者協会で提供されるこの情報は、ほぼBAT(利用可能な最も良い技術)の内容に近いものとドイツ国内では位置づけられている。
技術水準の抽出の具体的な検討のプロセスは、下図のようである。
手続きとして、現在の技術水準の改正を行おうとする動きの最初の「きっかけ」は、環境省内の技術トレンドを追跡している担当者、技術に関する学識者、新規技術の開発企業等による申請とされる。
ついで、常設されているドイツ技術委員会や技術審議会、州との定期協議会などの検討を経て、導入の検討が行われる。
その結果については、連邦による公聴会が開催され、産業界や住民からの意見を収集し、最終的に技術水準としての位置づけを連邦が決定する。
技術水準の裏付けとなる最新技術は、[1]実証プラントレベルでの結果が得られていることや、[2]特定の技術であっても将来性のあるものなどである。また、利用が少ない場合には国が補助を行うなどの普及促進索をとる場合もある。なお、他の場所で効果が見られる類似施設の状況は、技術水準適用の際のベンチマークとして活用される。
図表 技術水準(BAT)の検討プロセス
なお、ヒアリングによると、最新の技術水準の適用については、例えば事業者は法的な水準(環境基準)を守ればよいと考え、行政は地域ごとに政策的に示している最新の排出基準を適用させたいと考えているためしばしば対立が起こる。
この対立を解決し、より良い環境質の達成のためには、許認可行政において申請者と許認可権者がしばしば議論を行う。その議論を通じて申請者は法的な排出基準以上の水準を達成する努力を約束する。
しかし、この議論が不調となった場合には、法的な争議を行うこととなり、司法の判断を仰ぐこともある。ただし、裁判となった場合、申請の許認可は相当期間伸びることとなるため、申請者は事業をすぐに立ち上げられなくなるというデメリットが生じる。
なお、この議論は、個別協議となるため、行政サイドとしては、同様な案件については平等性を失わないように努力しており、基本的には申請者の合意を得ることによって問題が起きないようにしている。
(1)技術水準に関する基準の問題点
ドイツでは、IPPC指令以前から、最新技術の導入についての制度が実施されていたが、この制度においては、費用面の考慮があまり重要視されていなかった。そのため、ドイツの産業にとって、新規設備等の許認可を受けるに当たっての排出時の処理への技術水準の適用は、コスト高につながるという批判がある。
この点については、ヒアリングでは、ドイツとしてEUのIPPC指令の検討時に、[1]コストを考えることによる最新技術の導入の遅れがあること、[2]技術水準を含め国ごとの指針について強弱があった場合、企業の創設などの点で不利益が生じることなどを指摘してきたとされる。
(2)環境影響評価手続きと技術水準に関する基準との関係
ヒアリングによると、ドイツにおいては、環境影響評価は許認可手続きの一環であるためかならずしもBATが適用されることはないとされる。しかし、環境影響評価手続きとの関係については、前述のように具体的な排出基準が無い場合の目標値の設定等で活用されていることもあり、法制度上に明記はされていないが、間接的な関係を有しているともいえる。