イギリスでは交通分野の10年計画として”Transport 2010 The 10 Year Plan”が策定されており(最新版は2000年策定)、そのもとに道路、鉄道などの分野別計画が存在する。
”Transport 2010 The 10 Year Plan”では、計画を実施することにより期待される二酸化炭素排出削減効果等のいくつかの数値を例示し、この計画が環境保全に寄与することを表しているが、それ以上の環境影響評価の取組は特段行われていない。一方、分野別計画については、1998年に策定された”A New Deal for Trunk Roads in England”:幹線道路の新政策(以下、イギリス道路計画)において、初めての取組として、環境影響を評価する仕組みNATA(the new approach to appraisal)が導入された。
NATAは、環境影響をその他の社会的経済的な影響とともに客観的な基礎情報として取りまとめ、意思決定者に提供する取組であり、意思決定のためのツールの一つである。イギリスでは政策評価に環境面や経済面への影響を統合することが重視されており、そのための取組が進められている背景がある。このため、NATAでは、[1]環境影響と他の社会的経済的影響とが同等に取り扱われており、特段環境影響に焦点が当てられていない、[2]国全体の道路計画という戦略的レベルで実施されているものの、内容を見ると計画全体に対する評価ではなく個々の道路事業に対する評価であるなど、やや特殊な傾向が見られるが、EUの行った交通分野のSEAに関するアンケート調査(European Commission, DG Environment, Strategic Environmental Assessment in the Transport Sector: An Overview of legislation and practice in EU Member States, 2000)では、イギリス政府の見解として、交通分野におけるSEAの取組としてNATAが位置付けられている。このため、本調査では、交通分野における上位計画の環境影響評価の取組の事例として、NATAを導入したイギリス道路計画を取り上げることとした。
1 )イギリス道路計画の位置付け
1998年に公表されたイギリス道路計画は、幹線道路事業についての政府の戦略的な展望を示したものであり、交通分野の白書である”A New Deal for Transport: Better for Everyone”(1998)の考え方を幹線道路についてより具体化したものである。
計画の策定過程において公衆関与が行われ、約14,000の意見が提出された。またイギリス各地において大臣による会議も開催された。
この計画では新しい取組として、アクセス性、安全性、経済性、環境影響、総合交通政策との整合性(土地利用計画、その他の交通政策との統合が図られているかどうか)の5つのクライテリアを取り上げて評価を行うNATAを導入しており、67事業について評価を行っている。
2 )イギリス道路計画の内容
イギリス道路計画における主な指摘事項の概要をとりまとめると以下の通りである。
表3.5.1イギリス道路計画における主な指摘事項の概要
ハイウェイエージェンシーへの新たな目標 |
ハイウェイエージェンシーを、以下の責務を有する幹線道路網管理者(ネットワークオペレーター)として位置付ける。
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コアネットワーク | 既存の幹線道路の60%を重要なルートの核(コアネットワーク)として位置付け、これまで通りハイウェイエージェンシーの管轄下に置く。残りの40%については、地方政府への移管を目指す。 |
プランニングの新しい考え方 |
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投資にあたっての優先順位 |
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よりよいメンテナンス |
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よりよい利用 |
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よりよいドライバーへの情報提供 |
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よりよい安全性 |
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経済性 |
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環境保護 |
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騒音 |
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道路利用料 |
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新たな評価手法 |
投資の判断を行う際の新たな評価手法を開発した。この評価手法は、環境庁などの様々な主体との協議を経て開発された。
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的を絞った改良プログラム | 前政府から6,000百万ポンド規模の約150事業(1990年にそれまでの500事業からスケールダウン)を引き継いだが、このうち1,400百万ポンドの37事業に的を絞り、これらについて7年以内に着工することとした。 |
問題解決に向けて | 「的を絞った改良プログラム」では解決できない重要な課題が残されている。これらについては長期的な課題として対応する。 |
期待される効果 | 政策及びプログラムについての定量的・定性的評価を行った。 |
出典:Department of the Environment, Transport and the Regions, A New Deal for Trunk Roads in England, 1998よりMRI作成
イギリス道路計画の構成は以下の通りであり、今後の幹線道路政策の方向性についての記述がその中心である。具体的な道路事業はB編の第7章で位置付けられており、1,400百万ポンドの37事業に的を絞って7年以内に着工することとされた。この37事業は、前政府から引き継いだ6,000百万ポンドの約150事業から、5年以内に着手される見込みのないもの等を除いた67事業を対象に評価を行って、選定されたものである。
表3.5.2イギリス道路計画の構成
3)イギリス道路計画におけるSEA(NATA:the new approach to appraisal)
1 )目的
幹線道路に対する投資の優先順位について評価し、情報提供するため、透明性の高い開かれた枠組みが必要とされてきた。NATA(the new approach to appraisal)はこの目的のために1998年に開発され、イギリス道路計画の策定に際して、的を絞った改良プログラムの選定に用いられた。
2 )手法の概要
NATAは環境影響、安全性、経済性、アクセス性、総合交通政策との整合性(土地利用計画、その他の交通政策との統合が図られているかどうか)の5つの評価指標について広く考慮するものであり、具体的にはAST(Appraisal Summary Table)とよばれる1枚の総括表に、幹線道路事業に伴う経済影響、環境影響、社会影響などについて記述するものである。イギリス道路計画の策定に際して、的を絞った改良プログラムの候補となる67事業についてそれぞれASTが作成された。なお、いくつかの複数案が考えられる事業は、あらかじめ、的を絞った改良プログラムの候補となる67事業から除外されたため、複数案の比較はここでは行われていない(理論的には、考えられる複数案ごとにASTを作成して比較評価することが可能である)。
ASTは、意思決定主体に対し、透明で、一貫して、信頼できる基礎情報を与えるもので、どの事業を優先的に進めるべきかを決定するのに有用であり、ASTを作成することで評価プロセスをより透明性の高いものとすることができるとされている。
なお、ASTは、道路事業に伴う主要な影響を漏れなくリストアップすることに主眼が置かれており、それぞれの評価指標の相対的な重要度をどのように評価するかについては意思決定者の判断に委ねられている。
3 )ASTの様式
ASTは、以下に示すように、交通分野における政府の5つ目標に対応するように作成されている。それぞれの目標に対応する指標は、評価の対象となる事業の特性を踏まえ、最も直接的な影響を受けるものとして選定されている。現在の様式は、騒音や大気質、景観など、道路事業を想定した指標が選定されている。
表3.5.3交通分野における政府の目標及びそれぞれに対応するASTの評価指標
政府の目標 |
ASTの評価指標 |
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環境影響 | 人工及び自然の環境を保全し、より一層の向上を図る。 | 騒音、大気質、景観、生態系、文化的遺産、水質 |
安全性 | すべての旅行者の安全性を改善する。 | 安全性 |
経済性 | 経済的効率性の向上に寄与し、適切な地域の持続的な経済成長を支援する。 | 所要時間及び自動車交通に伴う経済性、事業費、所要時間の正確性(混雑状況)、地域振興 |
アクセス性 | すべての人に日常的な施設へのアクセス性を高める(特に車を用いないもの)。 | 公共交通機関へのアクセス、コミュニティの分断、歩行者等への影響 |
総合交通政策との整合性 | すべての輸送手段、土地利用計画の統合を促進し、より良い、より効率的な交通システムを目指す。 | 総合交通政策との整合性 |
出典:Department of the Environment, Transport and the Regions, Guidance on the new approach to appraisal, 1998よりMRI作成
ASTでは、事業が行われない場合と比べどのような環境影響があるかを記載する。ASTの様式及び記載内容は以下の通りである。また、あわせてASTの例を示す。
ASTは様々な影響を公平に偏りなく1枚のシートに表現するものであり、いずれかの影響側面を協調したり、貨幣換算できるものを貨幣換算できないものよりも目立たせるようなことはない。
評価指標それぞれについて、影響の方向(プラス/マイナス)及び影響の大きさを総合的に示すのが、右の「評価」の欄である。貨幣換算できる場合には貨幣単位で示され、できない場合にはそれに代わる定量的数値が示される。定量的な評価が困難な場合は、定性的に7段階程度で評価される。
表3.5.4ASTの様式及びそれぞれの記載内容
プロジェクト名(道路の番号及び事業の行われる位置の記述) |
プロジェクトの概要(道路延長、車線数、現在供用中か否か、現在の財務コスト、その他) |
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問題点 |
問題点の記述 |
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複数案 |
複数案の記述 |
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評価指標 |
評価指標(細目) |
定性的影響 |
定量的影響 |
評価 |
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環境影響 |
騒音 |
定性的記述 |
・改善される住居地域の物件数 ・悪化する住居地域の物件数 (騒音レベルが3dB以上変化する住居地域の物件数を記載) |
(差し引きして求めた騒音レベルの悪化住居地域の物件数を記載、+:悪化、-:改善) |
|
CO2排出量の増加量を記載 |
大気質 |
定性的記述 |
・改善される住居地域の物件数 ・悪化する住居地域の物件数 (道路端より200m以内の住居地域について、大気質の変化の方向により区分し、その物件数を記載) |
(濃度変化によって重み付けして求めた大気質の悪化住居地域の物件数を記載、+:悪化、-:改善) |
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景観 |
定性的記述
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- |
・7段階評価(定性的記述をもとに、neutral:変化無しを中心とした7段階でその程度を評価) |
||
生態系 |
定性的記述 |
- |
・7段階評価(同前) |
||
文化的遺産 |
定性的記述 |
- |
・7段階評価(同前) |
||
水質 |
定性的記述 |
- |
・7段階評価(同前) |
||
安全性 |
定性的記述 |
・事故件数の削減数 ・死亡件数の削減数 ・重傷件数の削減数 ・軽傷件数の削減数 (期待される削減数(30年間当たり)を記載) |
・PVB(便益) ・PVBがPVC(費用)に占める割合 |
||
経済性
|
所要時間及び自動車交通に伴う経済性 |
定性的記述 |
・ピーク時の削減時間 ・オフピーク時の削減時間 (期待される所要時間の削減量を記載) |
・PVB(便益) ・PVBがPVC(費用)に占める割合 |
|
事業費 |
定性的記述 |
- |
・PVC(費用) |
||
所要時間の正確性(混雑状況) |
定性的記述 |
・事業実施前の混雑度 ・事業実施後の混雑度 |
・混雑解消度合いの4段階評価(混雑度の変化×走行台数を指標として4段階でその大きさを評価) ・混雑解消度合いとPVC(費用)との比較 |
||
地域振興 |
定性的記述 |
・地域振興に役立つか ・地域振興は事業の実施に依存するか |
(左の質問に対しYes、Noで記載) |
||
アクセス性
|
公共交通機関へのアクセス |
定性的記述 |
- |
・7段階評価(同前) |
|
コミュニティの分断 |
定性的記述 |
- |
・7段階評価(同前) |
||
歩行者等への影響 |
定性的記述 |
- |
・7段階評価(同前) |
||
総合交通政策との整合性 |
定性的記述 |
- |
・2段階評価(定性的記述をもとに、neutral:変化無し、positive:寄与の2段階でその程度を評価) |
||
費用便益分析 |
・PVB(the present value of benefits):便益 ・PVC(the present value of costs):費用 ・NPV(the net present value):価値=PVB-PVC ・BCR(the benefit to cost ratio):費用に対する便益の比=PVB÷PVC (費用便益分析結果を記載) |
出典:Department of the Environment, Transport and the Regions, Guidance on the new approach to appraisal, 1998よりMRI作成
表3.5,5ASTの概要(A1(M)Ferrybridge-Hook Moorの例)
A1(M)Ferrybridge-Hook Moor |
・道路延長:16.3km(非供用中) ・事業の概要:自動車用片側3車線道路に更新 ・現在の財務コスト:160百万ポンド |
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問題点 |
・日交通量72,000台。うち27%が重量車。 ・見通しが悪いなどにより安全性が低い。 ・特にメンテナンス期間中は長期にわたる渋滞が見られる。 ・Ferrybridge及びFairburnは、騒音及び大気汚染の問題が深刻であり、コミュニティの分断が見られる。 |
||||
複数案 |
・A1道路は長距離輸送に主に使われ、重量車も多い。 ・公共交通機関でこの問題を解決するのは困難。 ・供用しながらの拡幅では地域への影響が大きい。 |
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評価指標 |
評価指標(細目) |
定性的影響 |
定量的影響 |
評価 |
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環境影響 |
騒音 |
・事業を実施しなければ2,500物件が騒音の増加の影響を受けることになる。 |
・改善される住居地域:680物件 ・悪化する住居地域:10物件 |
・騒音レベルの悪化する住居地域の物件数(差し引き):-670物件 |
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CO2排出量の増加量 :2,000~5,000CO2t |
大気質 |
・事業を実施することにより国家大気質戦略のNO2目標値を上回り、PM10についても2μg増加する。ただし住民が影響を受ける物件は近傍にはない。 |
・改善される住居地域:94物件 ・悪化する住居地域:0物件 |
濃度変化によって重み付けして求めた大気質の悪化する住居地域の物件数 ・PM10:-236物件 ・NO2:-994物件 |
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景観 |
・事業予定地の北部に景観の重要地域とされた地域があるが、特に重要な影響はない。 |
- |
若干のマイナス影響 |
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生態系 |
・特に重要な直接的影響はないが、Micklefieldの南方500mのFairburnの生態系に関する特別地域の近傍では、生態系に影響が及ぶ可能性もある。 |
- |
若干のマイナス影響 |
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文化的遺産 |
FerrybridgeのAire川にかかるOld Bridgeにはプラスの影響。Ferribridge Hengeにはマイナスの影響。後者には緩和措置が必要。 |
- |
変化無し |
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水質 |
効果的な緩和措置を前提とすれば、水環境に及ぼす影響はほとんどない。 |
- |
変化無し |
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安全性 |
安全性の向上による便益は要する費用の約半分である。 |
・事故件数の削減数:700 ・死亡件数の削減数:60 ・重傷件数の削減数:510 ・軽傷件数の削減数:590 |
・PVB(便益):39百万ポンド ・PVC(費用)の43%相当 |
||
経済性
|
所要時間及び自動車交通に伴う経済性 |
メンテナンスの遅延は250百万ポンドに相当。 |
・ピーク時の削減時間:3.1分 ・オフピーク時の削減時間:1.4分 |
・PVB(便益):300百万ポンド ・PVC(費用)の330%相当 |
|
事業費 |
- |
- |
・PVC(費用):91百万ポンド |
||
所要時間の正確性(混雑状況) |
- |
・事業実施前の混雑度:142% ・事業実施後の混雑度:53% |
・混雑解消度合い:大 ・PVC(費用)に比べれば混雑解消度合いの便益は小さい |
||
地域振興 |
ヨークシャーなどの地域振興に寄与する。 |
・地域振興に役立つか ・地域振興は事業の実施に依存するか |
・Yes ・- |
||
アクセス性
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公共交通機関へのアクセス |
本地域ではもともと公共交通機関がほとんど利用されていない。 |
- |
変化無し |
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コミュニティの分断 |
Fairburn、Brotherton、Ferrybridgeにおけるコミュニティの分断が大きく解消される。 |
- |
大きなプラス影響 |
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歩行者等への影響 |
ほとんど影響はない。 |
- |
変化無し |
||
総合交通政策との整合性 |
西ヨークシャー交通政策などと整合している。 |
- |
変化無し |
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費用便益分析 |
・PVB(便益):337百万ポンド ・PVC(費用):91百万ポンド ・NPV(価値=PVB-PVC):245百万ポンド ・BCR(費用に対する便益の比=PVB÷PVC):3.7 |
出典:Department of the Environment, Transport and the Regions, Understanding the new approach to appraisal, 1998よりMRI作成
4 )分析手法ASTに記載される情報は、環境、経済、社会への影響を評価する既存の技術を用いて求められるものである。その主要な技術は、費用便益手法と事業実施段階の環境影響評価で用いられる手法である。
項目 |
分析手法 |
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環境影響 | 騒音 | ・事業実施段階の環境影響評価と同じ手法*(交通量、走行速度、道路配置、道路を見る角度、防音壁、建物からの反射などを考慮し、距離に応じた騒音レベルを数値計算する)を用いる。 |
大気質 | ・事業実施段階の環境影響評価と同じ手法*(モデルを用いたシミュレーション分析を行う)を用いる。 | |
景観 |
・地域の景観の特徴及び道路事業がそれに及ぼす影響の洗い出し。 ・関係機関と協議の上、7段階で影響の程度について評価。 |
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生態系 |
・地域の生息地、動植物種などの現状及び道路事業がそれらに及ぼす影響の洗い出し。 ・関係機関と協議の上、7段階で影響の程度について評価。 |
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文化的遺産 |
・地域の歴史的建造物の特徴及び道路事業がそれに及ぼす影響の洗い出し。 ・関係機関と協議の上、7段階で影響の程度について評価。 |
|
水質 |
・道路事業が水環境に及ぼすマイナス影響の洗い出し。 ・マイナス影響に対する緩和措置の検討。現在あるマイナス影響に対する緩和措置の検討。 ・両者を総合し、関係機関と協議の上、7段階で影響の程度について評価。 |
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CO2 | ・交通量の増加分及び燃費を想定し、CO2排出量の増加分を算出。 | |
安全性 | ・COBA、URECA、QUADROなどの既存のプログラムを用いて、事故発生件数の削減数や便益を算出。 | |
経済性 |
所要時間及び自動車交通に伴う経済性 |
・所要時間は交通モデルにより算出。 ・便益はCOBA、URECA、QUADROなどの既存のプログラムを用いて算出。 |
事業費 |
・土地取得からメンテナンスまでを含む事業費を算出。 | |
所要時間の正確性(混雑状況) |
・所要時間の正確性を評価する手法はまだ確立されていないため、混雑度(日交通量の年間平均値と交通容量との比)を代わりに用いて評価。 ・混雑度の解消程度に日交通量の年間平均値を乗じた値を用いて、4段階で影響の程度について評価。 |
|
地域振興 |
・地域振興との関係について、貨幣換算あるいは別の方法で定量的に評価する手法はまだ確立されていないため、地域振興との関係に関する2つの質問にyes/noで回答する形式とする。 | |
アクセス性 |
公共交通機関へのアクセス |
・アクセスに要する時間及び質の変化に、影響を受ける人数を乗じた値を用いて、7段階で影響の程度について評価。 |
コミュニティの分断 |
・コミュニティの分断についての変化(分断の拡大及び解消の総和)により、7段階で影響の程度について評価。 | |
歩行者等への影響 |
・徒歩等に要する時間及び快適性の変化に、影響を受ける人数を乗じた値を用いて、7段階で影響の程度について評価。 | |
総合交通政策との整合性 | ・土地利用計画、その他の交通政策との統合が図られているか、統合性の向上に寄与するかどうかについて、2段階で定性的に評価。 |
*:Design Manual for Roads and Bridges: Volume11 Environmental Assessmentに記載されている手法による。
出典:Department of the Environment, Transport and the Regions, Guidance on the new approach to appraisal, 1998よりMRI作成
5 )NATAによる事業の選定的を絞った改良プログラムの候補となる事業について作成されたASTの概要を整理すると次の通りである。これらのASTをもとに検討した結果、7年以内に着工すべき事業として網掛けされた37事業が選定され、道路計画に位置付けられた。ASTはそれのみで何らかの決定を行うものではなく、事業が様々な側面に及ぼす影響を要約して整理することにより、より明確で透明性の高い基礎情報を意思決定者に提供するものである。表から読み取れるように、必ずしも費用便益に優れているものが選定されているわけではない。
表3.5.7ASTの概要一覧
注:本表においては、以下のように、定性的な段階評価を行っているものについても、それぞれの段階評価を数値に置き換えて示した。
環境影響【景観、生態系、文化的遺産、水質】 アクセス性【公共交通機関へのアクセス、コミュニティの分断、歩行者等への影響】 |
大きなプラス影響 :+3 プラス影響 :+2 改善 若干のプラス影響 :+1 変化無し :0 若干のマイナス影響:-1 マイナス影響 :-2 悪化 大きなマイナス影響:-3 |
所要時間の正確性(混雑状況)【混雑解消度合い、PVC(費用)との比較】 |
大きい :+3 中程度 :+2 改善 小さい :+1 変化無し:0 |
出典:Department of the Environment, Transport and the Regions, Understanding the new approach to appraisal, 1998よりMRI作成
NATAは1998年に開発され、イギリス道路計画(1998)における的を絞った改良プログラムの選定に適用された。今後はすべての幹線道路計画にNATAが適用される予定であり、また、道路だけではなく他のあらゆる交通手段に適用できるよう、NATAの改良が行われているところである。
NATAは環境影響を含む様々な基礎情報を客観的に整理する取組であり、それぞれの影響側面を相対的にどの程度重要視するかの判断は意思決定者に委ねられている。このため、NATAの結果事業が選定された理由あるいは選定されなかった理由について個々に明らかにされることはないが、環境影響に関する情報を意思決定に統合するための手法として注目される取組と言える。その分析手法は、主に、費用便益手法と事業実施段階の環境影響評価で用いられる手法であり、NATAの実施は、事業実施段階の環境影響評価の簡略化にも寄与すると評価されている。
本事例は環境アセスメントというよりも政策アセスメントとしての側面が強く、我が国の道路分野のSEAにこのまま適用するのは難しい面があるが、複数案を評価する手法として参考になるものと考えられる。
(完了)