本事例分析では、一連の流れとして採択された総合開発計画及び地域開発においてそれぞれ行われた環境影響評価の事例を取り上げ、SEA(サンホアキン郡総合計画プログラム2010のSEA)とEIA(マウンテンハウス地域開発のEIA)に求められる役割の違いを明らかにすることを目的とした。
このSEAとEIAの事例では、評価している環境項目はほぼ共通しているものの、それぞれの分析手法・分析内容を比べると、SEAでは、主に原単位法などの簡便なマクロ的分析手法を用いて、各項目について幅広く分析が行われているのに対し、EIAでは、分析手法の基本的考え方はSEAと共通する項目が多いものの、「生物資源」等の地域性の大きな項目についてはSEAでは行われていない具体的な調査・分析が実施されているなど、項目によって重点の置き方が異なるという特徴がある。
マウンテンハウス地域開発のEIAではより限定的な地域における具体的で詳細な検討が必要とされているのに対し、より上位のサンホアキン郡総合計画プログラム2010のSEAでは、郡全体という広い地域における環境影響全般を幅広くチェックする役割が期待されているものと考えられる。また、両者の環境影響評価書の内容を比較検討すると、EIAでは、先行事例であるSEAで構築した分析手法の基本的考え方を援用し、その上で重点を置くべき項目についてメリハリの効いた評価を行っているものと推察され、SEAが実質的に後続のEIAの作業の簡略化に寄与しているものと考えられる。
表3.3. 26事総合開発計画に関するSEA及びEIAの事例分析のまとめ
サンホアキン郡総合計画プログラム2010のSEA |
マウンテンハウス地域開発のEIA |
|
環境影響評価の対象 |
・サンホアキン郡総合計画プログラム2010 |
・マウンテンハウスマスタープラン ・マウンテンハウス事業計画Ⅰ ・サンホアキン郡総合計画プログラム2010の修正等 |
評価項目 |
土地利用・農業、水、廃水、雨水浸透性、教育、 消防・警察・医療施設、レクリエーション施設、 固形廃棄物・有害廃棄物、図書館、交通、大気質、騒音、 地質・土壌・地震、水文学・水質、考古学・歴史的資源、生物資源、景観、エネルギー、公衆衛生及び安全、住宅及び雇用 |
SEAでの評価項目に以下の2項目を追加 ・サンホアキン郡総合計画プログラム2010との整合性 ・電話
|
分析手法 |
原単位法を用いたマクロ的な分析が中心。 |
分析手法の基本的考え方はSEAと共通する項目が多いが、以下に示した項目については、EIAにおいてより具体的で、実際の位置関係も考慮した調査・分析が行われており、特に「生物資源」などについては営巣地の確認も行われているなど、重点的な検討がなされている。 |
以下、採用されている分析手法について、SEAとEIAとで比較的大きな違いが見られた項目について整理した。 SEAで採用されている分析手法の概要 SEAとEIAとで採用されている分析手法の違い EIAで採用されている分析手法の概要 土地利用、農業 現行の土地利用とサンホアキン郡総合計画プログラム2010における土地利用計画との比較 分析手法は概ね同様であるが、EIAでは、農業用地と住宅地の境界において具体的にどのようなバッファーを設けるか(バッファーとしての道路の構造、後退線 (セットバック)、街路樹)など、より詳細な検討が行われている。 現行の土地利用とマウンテンハウス地域開発の提案内容における土地利用計画との比較 公園、レクリエーション施設 単位人口あたりの公園面積を指標とした現在と将来との比較 分析手法はSEAのときと概ね同様であるが、EIAでは計画地周辺の現在ある公園の配置を地図上に示し、どの公園の利用の増加が予想されるかなど、より詳細な検討が行われている。 サンホアキン郡総合計画プログラム2010で目標とされた単位人口あたりの公園面積の値を満たすかどうかのチェック 学校 学生数の将来予測と現行の教育施設との比較 分析手法は概ね同様であるが、EIAでは高圧線、天然ガス輸送ライン等危険物との位置関係など、より具体的な検討が行われている。 マウンテンハウス地域開発で想定している教育施設が将来の学生数の増加を受け入れるのに十分かどうかのチェック
|
||
サンホアキン郡総合計画プログラム2010のSEA |
マウンテンハウス地域開発のEIA |
|
分析手法(続き) |
SEAで採用されている分析手法の概要 SEAとEIAとで採用されている分析手法の違い EIAで採用されている分析手法の概要 景観 現状の景観資源分布状況を考慮した定性的分析 分析手法は概ね同様であるが、EIAでは計画地の境界において具体的にどのようなバッファーや植栽を施すかなど、より詳細な検討が行われている。 道路から眺望される郊外の景観などを計画地の景観資源と捉え、マウンテンハウス地域開発に伴うそれら景観資源への影響を定性的に分析 公衆衛生及び安全 有害廃棄物発生量と現行の処理施設との比較、過去に汚染された地域とサンホアキン郡総合計画プログラム2010における土地利用計画との比較 分析手法は概ね同様であるが、EIAでは現在及び過去の活動が今後汚染源となりうる可能性も考慮し、より詳細な現地の情報に基づく分析が行われている。 計画地内における、公衆衛生及び安全に影響を及ぼしうる現在・過去の活動を考慮した定性的分析 生物資源 生息地の分布状況とサンホアキン郡総合計画プログラム2010における開発予定地との比較 SEAとは異なり、EIAではより詳細な現地の情報(貴重種の営巣地の確認など)に基づく分析が行われている。 過去2回の環境影響評価で行われた現地調査の結果等を活用した詳細分析 交通 交通量の想定とモデルを用いた定量的分析 モデルの基本的なところはSEA、EIAとも同じだが、EIAではピーク時や輸送手段(モード)選択なども考慮できるよう改良されている。また、SEAでは主要道を対象に予測評価が行われていたが、EIAでは計画地内の細かい道路も考慮されている。 サンホアキン郡総合計画プログラム2010のときと同じモデルを用いた定量的分析 大気質 1991年に策定された地域の大気質環境基準達成計画(オゾン、一酸化炭素、PM10)において用いられた郡全域の排出目録(インベントリ)を改良して利用した定量的分析 SEAでは排出量の分析が行われていたのに対し、EIAでは、排出量予測のみならず、道路沿道7地点における濃度分布の予測(CO)も行われている。 モデル用いた定量的分析(排出量予測、濃度分布の予測) 騒音 交通に関する予測結果に基づいた、道路交通騒音の騒音レベルの変化に関する定量的分析(詳細についての記載なし) 分析手法は概ね同様であるが、EIAでは道路から距離が離れることによる減衰を考慮し、60dB(騒音に対する配慮が必要な学校等施設での上限値)及び65dB(住居地域での上限値)に減衰するまでに必要な距離の算出も行われている。 交通に関する予測結果を用いた道路交通騒音に関する定量的分析(詳細についての記載なし)
|
|
サンホアキン郡総合計画プログラム2010のSEA |
マウンテンハウス地域開発のEIA |
|
著しい環境影響のおそれ |
農業用地、交通、大気質、生物資源の4項目 |
農業用地、交通、大気質、生物資源の4項目 |
複数案の設定 |
サンホアキン郡総合計画プログラム2010での提案内容に加え、以下の5つの複数案を設定 ・プロジェクトなし案 ・市中心成長型案 ・分散発展型案 ・供給追加型案 ・2つの新規住宅地と市中心型案 |
マウンテンハウス地域開発での提案内容に加え、以下の6つの複数案を設定 ・プロジェクトなし案 ・トレイシー立地案 ・北リバーモア立地案 ・設計変更案 ・開発規模縮小案 ・新規緩和案 このうち、上の5つは過去2回行われたマウンテンハウス地域開発のEIAでも検討されており、今回のEIAで新たに検討されたのは新規緩和案のみ |
複数案の評価 |
5つの複数案それぞれについて、サンホアキン郡総合計画プログラム2010での提案内容との比較評価を実施 |
マウンテンハウス地域開発での提案内容、プロジェクトなし案、新規緩和案の計3案について比較評価を実施 |
出典:MRI作成