海外における戦略的環境アセスメントの技術手法と事例(平成13年9月)

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(2)サンホアキン郡総合計画プログラム2010のSEA

1 )サンホアキン郡総合計画プログラム2010の概要

カリフォルニア州中部のサンホアキン郡は、約373,600ヘクタールを占める地域である。カリフォルニア州法により全ての郡や市は5年毎に総合計画を策定することになっており、サンホアキン郡では1991年に、2010年に向けての総合計画の検討が開始された。総合計画の内容は土地利用等を記述するものであり、郡の将来ビジョンを示し、このビジョンを実現するための目的や方針等が定められる。また、2010年時点での人口や雇用を想定しつつ、新規住宅・商業・工業の開発と、マウンテンハウス地域開発を含む5つの新規/拡張した住宅地を確保する提案がなされており、これについてカリフォルニア環境質法(CEQA:California Environmental Quality Act)に基づくSEAが行われた。

なお、本SEAは郡全体を対象にして行われた全体的なものであり、個々の開発に伴う影響などの詳細な分析が行われているわけではない。このため、特に5つの新規/拡張地域開発については、それぞれ将来事業が実施される段階で、CEQAのもとで環境影響評価手続が求められることとなっている。1994年には、その一つであるマウンテンハウス地域開発について、マスタープラン等を対象に環境影響評価手続が行われ、環境影響評価書のドラフトが作成されている。

 SEAの対象であるサンホアキン郡総合計画プログラム2010の提案内容について以下に整理した。

[1] 対象地域

サンホアキン郡全域を対象としており、郡内をThornton Planning Area, Lodi Planning Area, Lockeford Planning Area等の11の計画区域に分けている。

[2] 市の総合計画との関係

カリフォルニア州の総合計画策定ガイドラインでは、郡の総合計画の立案に当たって、市の総合計画を考慮することとされている。このため、サンホアキン郡総合計画においても、郡の管轄下にある各市(Stockton, Tracy, Manteca, Escalon, Lodi, Ripon, Lathrop)の総合計画を考慮して作成されており、特に、将来の人口や雇用の想定はこれら各市の総合計画がベースとなっている。

[3] サンホアキン郡総合計画プログラム2010の提案内容

 サンホアキン郡総合計画では、1990年から2010年にかけて80%の人口増、64%の雇用増を見込んでいる。サンホアキン郡総合計画は、そのうちの70%を郡の管轄下にある7つの市もしくはその周辺において吸収し、残り30%を5つの新規/拡張地域開発(宅地開発)により吸収するという内容である。

 以下に、a.人口および雇用、b.土地利用のそれぞれの区分における規制、c.5つの新規/拡張地域開発について概要を示した。

a .人口及び雇用

 サンホアキン郡総合計画プログラム2010における人口や雇用の将来想定は以下の通りである。

表3.3.1人口・戸数・雇用の将来予測(1990年及び2010年の将来予測)

 

1990

2010

1990-2010の増加

人口

480,628

864,200

383,572

戸数

166,340

304,656

138,316

雇用

182,237

298,794

116,557

出典:San Joaquin County Community Development, ‘Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3’, Baseline Environmental Consulting, 1992 よりMRI作成

b .土地利用のそれぞれの区分における規制

 サンホアキン郡総合計画プログラム2010にはそれぞれの用途地域ごとの規制に関する内容も含まれている。以下に住居地域についての例を示した。

表3.3.2主な土地利用規制(住居地域についての例)

住居地域の

用途地域(ゾーニング)区分

(密度)

一区画面積

下限値

(平方フィート*)

一戸当たり面積
(平方フィート*)

建築物の高さ

上限値
(フィート*)

郊外

特に低密度

低密度

中程度

やや高密度

高密度

43,560

17,500

6,000

6,000

6,000

6,000

43,560 (下限値)

17,500-35,000

6,000-17,500

3,500-6,000

2,300-3,500

875-2,300

35

35

35

35

35

35

*1フィート=約30cm、1平方フィート=約0.1m2

出典:San Joaquin County Community Development, ‘Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3’, Baseline Environmental Consulting, 1992 よりMRI作成

c .5つの新規/拡張地域開発

 サンホアキン郡総合計画プログラム2010では5つの新規/拡張地域開発が提案されている。これらの地域開発の概要は以下の通りである。

図3.3.15つの新規/拡張地域開発の位置図

出典:San Joaquin County Community Development, ‘Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3’, Baseline Environmental Consulting, 1992 よりMRI作成

図3.3.2新規/拡張地域開発の土地利用の詳細(フォレストオークの例)

出典:San Joaquin County Community Development, ‘Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3’, Baseline Environmental Consulting, 1992 よりMRI作成

 

表3.3.3 5つの新規/拡張地域開発における土地利用

単位:エーカー(=約4,000m2)

土地利用

フォレストオーク

リバティ

マウンテンハウス

ニュー

エルサレム

リバー

ブルック

住居地域:

郊外1

特に低密度2

低密度3

中程度4

やや高密度5

高密度6

0

0

633

86

67

0

622

595

2,099

193

0

0

0

0

1,202

995

164

37

0

242

906

312

0

35

0

0

490

0

0

0

622

837

5,322

1,586

231

72

住居地域計

786

3,509

2,398

1,495

490

8,678

商業地域:

コミュニティ

居住区

一般

高速道路サービス

オフィス

13

12

0

0

4

20

50

0

0

10

105

47

36

27

60

61

12

107

41

0

0

5.3

0

0

6.4

199

114.3

143

68

80.4

商業地域計

29

80

275

221

12

617

工業地域:

制限つき

一般

38

0

90

0

317

110

330

0

0

0

775

--

工業地域計

38

90

427

330

0

885

学校:

小・中学校

高等学校

24

--

50

40

180

80

40

40

10

0

280

160

学校計

24

90

260

80

10

464

オープンスペース及びレクリエーション:

居住区公園

コミュニティ公園

地域公園

資源保護

その他

オープンスペース7

 

13

20

--

50

182

 

3

40

0

1,443

645

 

62

129

70

40

449

 

55

64

0

0

712

 

0

0

0

0

362

 

132

253

70

1,543

4,125

オープンスペース及びレクリエーション計

265

2,131

750

831

362

6,123

農業

0

1,702

--

--

--

1,702

公共施設・道路計

236

258

557

268

35

1,179

総計

1,378

7,960

4,667

3,225

909

17,864

1 5エーカー当たり1~5戸

2 1エーカー当たり1~2戸

3 1エーカー当たり2~6戸

4 1エーカー当たり6~10戸

5 1エーカー当たり10~15戸

6 1エーカー当たり15~40戸

7 ゴルフコース、マリーナ、湖などを含む

出典:San Joaquin County Community Development, ‘Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3’, Baseline Environmental Consulting, 1992 よりMRI作成 

表3.3.45つの新規/拡張地域開発における人口・雇用(2010)1

新規/拡張地域開発

人口(2010)

雇用(2010)2

フォレストオーク

リバティ

マウンテンハウス

ニューエルサレム

リバーブルック

12,890

24,772

43,924

22,193

8,008

111,787

1,014

2,300

8,583

4,007

371

16,275

1 1990年当時に既に存在していた人口及び雇用(ともに若干)を含む。

2 サンホアキン郡総合計画プログラム2010で予定されている商業・工業地域開発の約40%は5つの新規/拡張地域において予定されているものである。

出典:San Joaquin County Community Development, ‘Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3’, Baseline Environmental Consulting, 1992 よりMRI作成

2 )環境影響評価手続

 CEQAでは、環境に重大な影響を及ぼすことが見込まれる全てのプロジェクト(行政機関により行われる行為を含む)に環境影響評価の実施を定めている。本SEAは、このCEQAの手続に基づいて行われたものであり、住民の意見聴取などの手続が行われている。

作成されたFEIRの構成は以下の通りである。

表3.3.5FEIRの構成

項目

概要

1.Introduction EIRの目的、EIRの構成、EIRの検討プロセス
2.Summary 要約
3.Project Description サンホアキン郡総合計画プログラム2010の概要
4.Environmental Setting, Impacts, and Mitigation Measures 環境の現状、環境影響の分析と緩和措置(20の環境項目ごと)
5.Alternatives サンホアキン郡総合計画プログラム2010での提案内容との比較評価(それぞれの複数案ごと)
6.CEQA Consideration 累積的影響の評価等
7.Mitigation Monitoring Program 緩和措置及びモニタリング計画
8.References and Persons Consulted 参考文献等
9.Persons Involved in Report Preparation EIR作成者

出典:San Joaquin County Community Development, ‘Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3’, Baseline Environmental Consulting, 1992 よりMRI作成

3 )スコーピングと環境項目の設定

 CEQAの規定に基づき、スコーピング手続を経て、以下の環境項目が選定された。また、CEQAの規定に基づき、サンホアキン郡及び周辺の郡で計画されているすべてのプロジェクトを考慮した累積的影響(評価項目は同じ)などについても簡単に示されている。

なお、環境影響の分析は、2010年までに計画されているすべての人口や雇用の増加に伴う累積的影響や郡全体にまたがる影響に重点を置くとされており、個々の事業の影響について詳細に分析するものではない。

表3.3.6環境項目

項目

内容

土地利用、農業 新規/拡張地域開発に伴う影響、農業用地の潜在的減少量 等
水供給は十分か 等
廃水 廃水処理施設は十分か、廃水処理の程度は十分か 等
雨水浸透性 洪水誘発の可能性 等
教育 教育施設は十分か 等
消防、警察、医療施設 消防施設は十分か、警察サービスは十分か 等
レクリエーション施設 レクリエーション施設は十分か、レクリエーション施設へのアクセス 等
固形廃棄物、有害廃棄物 最終処分場の容量と廃棄物排出量の増加、有害廃棄物排出量の増加 等
図書館 図書館施設は十分か 等
交通 道路交通への影響、道路の改良/新設の必要性、輸送機関に対する需要の増加、自転車施設の必要性 等
大気質 大気環境基準超過の可能性、悪臭 等
騒音 交通騒音の増加の可能性 等
地質、土壌、地震 地震に伴う液状化などの可能性、地盤沈下の可能性、がけ崩れの可能性、土壌への影響、侵食の可能性 等
水文学、水質 堤防決壊に伴う洪水の可能性、有害物質の流出、浸透域の減少に伴う地下水の減少 等
考古学、歴史的資源 歴史的、考古学的資源への影響 等
生物資源 貴重な動植物への影響、水産資源への影響 等
景観 水辺の景観、丘や山並みに沿った開発による影響 等
エネルギー エネルギー消費への影響、運輸部門のエネルギー需要増、電気及び天然ガスへの需要増 等
公衆衛生及び安全 有害物質使用量の増加と環境への放出、過去に汚染された地域を開発することによる影響 等
住宅及び雇用 雇用の増加と住宅開発とのバランス 等

出典:San Joaquin County Community Development, ‘Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3’, Baseline Environmental Consulting, 1992 よりMRI作成

4 )環境影響の分析及び緩和措置の検討

 それぞれの環境項目について、環境の現状がまとめられた後、サンホアキン郡総合計画プログラム2010の提案内容に対する分析が行われ、その結果に基づき緩和措置が検討されている。以下に、大気質についての概略を示した。

表3.3.7環境影響の分析及び緩和措置の検討(大気質の例)

(環境の現状)

  • 広域的な特徴
  • 大気環境基準と汚染物質の特徴(PM10、一酸化炭素、オゾン、二酸化窒素、二酸化硫黄、鉛等)
  • 地域の大気質に関する計画
    • 連邦政府の計画
    • 州政府の計画
  • 大気質の現状
    • 既存のモニタリング観測による測定結果
    • 各プロジェクト実施地域の大気質の状況

(環境影響の分析と緩和措置)

  • 環境影響の分析

この検討は、郡全体、及び必要に応じて特定の計画地域を対象に行われている。将来的な開発による累積的影響や、5つの新規/拡張地域開発に伴う環境影響に焦点を置いた分析が行われた。特に次の問題が重視されている。

    • 将来的な開発による、オゾン及びPM10の汚染レベルへの影響(いずれも環境基準未達成)
    • 将来的な開発による、一酸化炭素環境基準未達成地域(Stockton)への影響
    • 土地利用の変化による大気質への影響

分析に際しては、1991年に策定された地域の大気質環境基準達成計画において用いられた郡全域の排出目録(インベントリ)を改良して用いている。

表 大気汚染物質の排出量予測

 なお、分析に用いられた排出目録(インベントリ)とは、具体的には次のような予測手法である。

    • 排出源ごとに、成長ファクターとコントロールファクターの2つのファクターを乗じて、将来の排出量を予測する。
    • 成長ファクターとは、大気汚染物質の排出への直接的な影響を計る変数である。例えば、自動車からの排出の場合は、自動車交通量、家庭からの排出の場合は人口、工業からの排出の場合は工業成長率がそのファクターとなる。分析にあたっては、サンホアキン郡総合計画の想定に基づく成長ファクターを用いる必要がある。

表 成長ファクター(人口)

表 成長ファクター(自動車交通量)

    • コントロールファクターとは、排出量をコントロールするプログラムの有効性を計るファクターである。例えば自動車からの排出については、州の排出量コントロールプログラムが該当する。コントロールファクターは、サンホアキン郡総合計画による影響は受けない。
  • 緩和措置

環境影響の分析結果に基づき、政策、規制、土地利用の3つの分野に分けて、具体的な緩和措置が記載されている。以下にその例を示した。

    • 政策:500トリップ(移動数)/日以上の交通需要を創出するすべての新規開発に、大気質緩和計画の策定を義務付けるといった新たな政策の導入 等
    • 規制:500トリップ(移動数)/日以上の交通需要を創出するすべての新規開発に、大気質緩和計画の策定を義務付けることを開発規制に盛り込む 等
    • 土地利用:その他の開発に関する認可がおりるまで、新規/拡張地域開発については認可を行わない 等

出典:San Joaquin County Community Development, ‘Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3’, Baseline Environmental Consulting, 1992 よりMRI作成

なお、それぞれの環境項目ごとの分析手法について概要をまとめると以下の通りである。

表3.3.8分析手法

項目

分析手法の概要

土地利用、農業 現行の土地利用とサンホアキン郡総合計画プログラム2010における土地利用計画との比較。
 住居戸数や商工業地域面積についての将来予測に水利用原単位を乗じて求めた水需要予測と現行の水供給との比較。
廃水  人口や商工業地域面積についての将来予測に、規制も考慮した廃水原単位を乗じて求めた廃水予測と現行の廃水処理との比較。
雨水浸透性  土地利用の変化を考慮した定性的分析。
教育  学生数の将来予測と現行の教育施設との比較。
消防、警察、医療施設  現行の施設配置や開発に伴う人口増を考慮した定性的分析。
レクリエーション施設  単位人口あたりの公園面積を指標とした現在と将来との比較。
固形廃棄物、有害廃棄物  人口や世帯についての将来予測に廃棄物の排出原単位を乗じて求めた排出予測と埋め立て残容量との比較。
図書館  人口の将来予測に図書館必要面積原単位を乗じて求めた図書館面積予測と現行の図書館施設との比較。
交通  交通量の想定とモデルを用いた定量的分析(詳細についての記載なし)。
大気質 1991年に策定された地域の大気質環境基準達成計画(オゾン、一酸化炭素、PM10)において用いられた郡全域の排出目録(インベントリ)を改良して利用した定量的分析。
騒音  交通に関する予測結果に基づいた、道路交通騒音の騒音レベルの変化に関する定量的分析(詳細についての記載なし)。
地質、土壌、地震  現行の地質図、土壌図等とサンホアキン郡総合計画プログラム2010における土地利用計画との比較。
水文学、水質  「水」、「雨水浸透性」、「地質、土壌、地震」の分析結果を考慮した定性的分析。
考古学、歴史的資源  5つの新規/拡張地域計画の予定地における資源分布状況を考慮した定性的分析。
生物資源  生息地の分布状況とサンホアキン郡総合計画プログラム2010における開発予定地との比較。
景観  現状の景観資源分布状況を考慮した定性的分析。
エネルギー  世帯数などについての将来予測に電気やガスの消費原単位を乗じて求めたエネルギー需要予測と現行の供給施設との比較。
公衆衛生及び安全  有害廃棄物発生量と現行の処理施設との比較、過去に汚染された地域とサンホアキン郡総合計画プログラム2010における土地利用計画との比較。
住宅及び雇用  地域別人口の将来予測と一世帯当たり世帯人員の想定に基づき求められた必要住宅戸数とサンホアキン郡総合計画プログラム2010における新規住宅供給戸数との比較、地域別雇用の将来予測と地域別就業人口の将来予測との比較。

出典:San Joaquin County Community Development, ‘Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3’, Baseline Environmental Consulting, 1992 よりMRI作成

それぞれの環境項目についての分析の結果、サンホアキン郡総合計画プログラム2010の提案内容については、特に農業用地、交通、大気質、生物資源の各項目について、その環境影響が著しいと評価された。

 

表3.3.9著しい環境影響を与えるおそれのある項目の概要

基本情報

環境影響の分析

緩和措置

農業用地 郡は、良好な気候と米国屈指の良好な土壌を有する。半分が最高級に指定されている プロジェクトの推進上、必要以上の土地が使用されないかの評価が必要。推計人口値に関わらず、新住宅やビジネス用地の必要面積の土地が必要なのかを確認することが必要。

 この結果、15,100ヘクタールの最上級農地が、2010年までに住宅地となる。最上級農業地が失われることの影響は重大である。

  • 「影響緩和費」の導入
  • 都市部の農地を併合する場合、代替用地の提供を推奨
  • 居住、商業地域指定から「農業都市保留」指定へ
  • 農業用最小区画単位の拡大
  • 隣接都市と土地利用の調整
交通 道路の「サービスレベル」はAからFまで。Aは流れのよい状態で、Fは渋滞の状態。ピーク時のサービスレベルの不足を評価。自転車ルートや路線バスや旅客鉄道の基本データも含む。  計画の交通影響は、全郡道でCレベル以下、高速道路でDレベル以下。

 分析の結果、全郡の自動車旅行は1990から2000の間に84%増加する。移動システムの能力に悪影響を及ぼしてサービスレベルを悪化させ、事故の増加を招く。予測の結果、さらなる主要道路が必要とされたが、財政および環境的制約により実行性を制限される可能性がある。

  • 自動車移動の削減と公共交通機関の推進政策
  • 公共移動サービスの開発
  • 全郡的な移動の抑制、特にオフピーク通勤の推進
  • 成長制御対策
  • 新地域や開発区への車以外の移動手段の推進
  • 郡内の公共輸送システム拡大
  • 道路幅拡大など、必要な改善
大気質 郡の大気質は、交通の増加により、悪化。地理的、気候的環境により、郡ではオゾン、一酸化炭素、PM-10が高レベルにあり、カリフォルニア州やUSの基準を上回る。  大気質への「重大な影響」の基準は、計画の進行が、現在又は将来の大気質に寄与するかどうかに基づく。州や国の大気質基準は既に上回っているため。

 結論は、2010年までに推定成長は、地域のオゾンやPM-10に重大な影響を及ぼす。予測では、大気汚染制御地域の地域計画の推定を遙かに上回る。これらの計画は、オゾンや一酸化炭素やPM-10が基準を満たすには、どれだけの排出低減が必要かを確認している。

  • 計画概要と大気質緩和計画関連要求への新規政策
  • 大気汚染を最小限にするための移動機関、地域計画機関、土地利用、雇用形態の隣接郡との協力協定への新規政策
  • カリフォルニア大気法に沿い、郡内の成長を段階的に計画するような成長管理政策
生物資源 拡大する農業により郡の天然の生物の大半は無くなった。しかし、居住区では野生種や生息地が見られる。データを用い、5つの新規住宅地の詳細な生物学的情報も含む。データは、フィールド調査により補強された。 生物資源に対する重大影響は以下を含む。

・特別状況下の動植物の数や生息地影響

・居住区や野生種の移動による実質的な障害

・魚や野生の動植物の生息地の実質的減少

最も重大な影響の一つは、約15,000ヘクタールの現在の生息地が都市部に変わること。

  • 景観のため、特に自然の樹木の使用を促進する政策
  • 広い生息地域を保護する政策
  • 湿地や、特別な状態にある種や、貴重樹木の保護
  • 特別な状況下の種の生息地の回復計画の補助や種の生息分類のデータベースの使用
  • 新規開発を遅らせ、既存の町の郊外を集中開発

出典:San Joaquin County Community Development, ‘Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3’, Baseline Environmental Consulting, 1992などをもとにMRI作成

 なお、それぞれの環境項目について、別途、サンホアキン郡総合計画プログラム2010に含まれていない進行中のプロジェクトや周辺郡におけるプロジェクトも加味した累積的影響についても分析が行われている。考慮すべき郡内及び周辺郡におけるプロジェクトを列挙し、それらを踏まえた累積的影響に関する定性的評価が簡単に示されている。

5 )複数案の設定

CEQAの規定に基づき複数案が設定され、その比較評価が行われた。サンホアキン郡総合計画プログラム2010での提案内容と下表の5つの複数案(プロジェクトなし、市中心成長型、分散発展型、供給追加型、2つの新規住宅地と市中心型)が検討された。

表3.3.10複数案の概要と人口及び雇用者数の比較

 

概要

 

2010年人口:人 2010年雇用:人

市街地・郊外

新/拡張住宅地

その他

合計

市街地・郊外

新/拡張住宅地

その他

合計

提案 サンホアキン郡総合計画プログラム2010での提案内容。

 662,200

 111,800

 66,700

 840,700

250,000

  16,300

32,600

298,900

プロジェクトなし案 既存の開発プロジェクト以外の新規プロジェクトは行わない案。既存の環境を変えない前提である。この案は、人口と雇用者数を2010年総合計画の提案の86%、91%に抑制するものであった。

 659,800

  -

  60,900

 720,700

249,800

24,800

274,600

市中心成長型案 総合計画案で提案されている5つの新規/拡張の住宅地は作らない案である。この案は市及び周辺部のみに環境影響がある案で、新規/拡張住宅用地は農用地のまま残すものであった。

659,800

67,700

727,500

249,800

32,600

282,700

分散発展型案 2010年の人口を740,400人と推計しているが、将来の発展が市及び周辺部と新規/拡張住宅地の双方で分散されると想定した案である。これゆえに、市中心成長型案に比べて、市及び周辺部の成長が低く抑えられている。この案は、総合計画案の提案よりも新規/拡張の住宅用地の開発面積が縮小された案である。

605,000

68,600

66,800

740,400

241,100

9,000

32,600

282,700

 

供給追加型案 この案では、2010年の将来人口を814,200人と推計しており、新規/拡張の住宅地の人口は総合計画案の提案より縮小しているが、トレイシー市の西南部郊外に6400戸が建設されると想定した案である。本案の開発面積は、総合計画案の提案面積にトレイシー市郊外部の面積が追加されたものとなる。

678,800

68,600

66,800

814,200

 

252,900

9,000

32,600

294,500

2つの新規住宅地と市中心型案 5つの新規/拡張の住宅地をマウンテンハウスとフォレストオークの2地区のみを建設し、それと市中心型の成長を行うことを想定した案である。

702,900

40,800

67,300

811,000

254,400

5,900

32,600

292,900

出典:San Joaquin County Community Development, ‘Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3’, Baseline Environmental Consulting, 1992 よりMRI作成

fig3-3-3.jpg

図3.3.3分散発展型案

注:将来の発展が市および周辺部と新規/拡張住宅地の双方で分散されると想定した案である。市中心成長型案より市および周辺部の成長が低く抑えられている。総合計画案の提案よりも新規/拡張の住宅用の開発面積が縮小された案である。

出典:San Joaquin County Community Development, ‘Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3’, Baseline Environmental Consulting, 1992 よりMRI作成

fig3-3-4.jpg

図3.3.4供給追加型案

注:新規/拡張の住宅地の人口は総合計画案の提案より縮小しているが、トレイシー市の西南部郊外に新規住宅地が建設されると想定した案。本案の開発面積は、総合計画案の提案面積にトレイシー市郊外部の面積が追加されたものとなる。

出典:San Joaquin County Community Development, ‘Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3’, Baseline Environmental Consulting, 1992 よりMRI作成

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図3.3.5 2つの新規住宅地と市中心型案

注:5つの新規/拡張の住宅地をマウンテンハウスとフォレストオークの2地区のみに限定し、それと市中心型の成長を行うことを想定した案である。

出典:San Joaquin County Community Development, ‘Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3’, Baseline Environmental Consulting, 1992 よりMRI作成

 6 )複数案の比較

それぞれの複数案の及ぼす環境影響について、サンホアキン郡総合計画プログラム2010における提案内容との比較評価が行われた。以下に、市中心成長型についての評価の概略を示した。

環境影響評価書では、比較評価の結果、プロジェクトなし案と市中心成長型案が環境上優れていると評価された。

表3.3.11複数案の比較評価(市中心成長型案の例)

項目

サンホアキン郡総合計画プログラム2010の提案内容(以下、「比較ケース」)

との比較評価の概要

土地利用、農業 比較ケースに比べ環境影響はより小さい。他の用途に転用される農業用地は少なくすむ。飛行場、埋立地、工業用地の建設に伴う影響も、これらの開発面積が少ないため、比較ケースに比べより小さい。
人口の増加及びそれに伴う水需要の増加は、比較ケースの70%ですみ、環境影響はより小さい。
廃水  人口の増加が比較ケースに比べ小さく、廃水による環境影響はより小さい。
雨水浸透性  5つの新規/拡張地域開発がいずれも行われないため、比較ケースに比べ、雨水浸透性に与える影響はより小さい。
教育  市中心成長型案では5つの新規/拡張地域開発は行われないが、その他の地域については、比較ケースと同様に教育施設不足の問題が生じる。
消防、警察、医療施設  市及びその周辺部においては、消防、警察サービスの需要が高まるが、警察サービスについては、5つの新規/拡張地域開発が行われない分、比較ケースに比べ需要の程度は小さい。郡全体の人口の想定が比較ケースに比べ小さい分、海上巡回サービスの需要は小さい。
レクリエーション施設  市及びその周辺部において中心的に開発が行われる場合、市及びその周辺部におけるレクリエーション施設のニーズが高まる。市及びその周辺部のレクリエーション施設数は限られており、影響は大きい。
固形廃棄物、有害廃棄物  比較ケースに比べ固形廃棄物、有害廃棄物の発生量は小さいが、それでも既存の施設でまかなえる量ではない。
図書館  比較ケースに比べ図書館施設の必要量は小さいが、それでも現在に比べ5つの新たな図書館が必要となる。
交通  郡全体の人口の想定が小さいため、郡内の発生交通量は比較ケースに比べ12%小さく、平均移動距離も小さいため、両者を掛け合わせた走行距離数は比較ケースに比べ14%小さい。走行時間は18%減少し、渋滞の程度も50%減少する。渋滞のひどいEあるいはFの路線は、比較ケースの700マイル*に比べ、市中心成長型ケースでは550マイルに減少する。
大気質  人口及び雇用の想定が小さいため、比較ケースに比べ大気質への影響も小さいが、それでも1991年に策定された地域の大気質環境基準達成計画の想定を数%超過している。
騒音  騒音の程度は比較ケースに比べ小さいが、それでも現状より騒音の程度は大きくなる。
地質、土壌、地震  開発が行われる地域が震源地から離れているため、地震活動の影響を受ける人口は、比較ケースに比べ小さい。浸食やがけ崩れの可能性も、それらの危険性が高い地域での開発が少ないことから、比較ケースに比べ小さい。
水文学、水質  洪水の危険性の高い地域での開発が行われないことから、比較ケースに比べ、洪水による影響の程度は小さい。比較ケースに比べ開発面積が小さいため、不浸透域も小さく、地下水への影響もより小さい。
考古学、歴史的資源  比較ケースに比べ、考古学、歴史的資源への影響は小さい。
生物資源  5つの新規/拡張地域開発が行われないため、それらの地域では、農業用地、草地、その他の生息地が他の用途に転用されることがない。生物資源及び生息地に与える影響は小さい。
景観  比較ケースに比べ開発面積が小さいため、景観に与える影響は小さい。景観への影響が考えられるのは、市及びその周辺部において周辺景観に適合しない高いビルが建つ場合である。
エネルギー  人口及び雇用の想定が小さいため、比較ケースに比べ、エネルギーに与える影響も小さい。また、市内の開発が中心となるため、交通部門におけるエネルギー需要も比較ケースに比べ小さい。
公衆衛生及び安全  比較ケースに比べ開発面積が小さいため、過去に汚染された地域をそれと認識せずに開発する可能性は小さい。また、比較ケースに比べ、農業地域での開発が特に小さいため、住民が農薬にさらされる可能性も小さい。
住宅及び雇用  雇用と住宅のバランスは、比較ケースに比べ改善されているが、それでも雇用が不足しており、改善策が必要。

*1マイル=約1.6km

出典:San Joaquin County Community Development, ‘Final Environmental Impact Report on the San Joaquin County Comprehensive Planning Program ER91-3’, Baseline Environmental Consulting, 1992 よりMRI作成

7 )SEAの成果

 本SEAは、サンホアキン郡総合計画プログラム2010により開発用地に指定された土地の広さは、将来想定人口及び雇用数の増加を吸収するために必要な広さの2倍以上であると指摘し、5つの新規/拡張地域開発を承認しないことを求めるものであった。

このSEAが行われた後、最終的に郡は5つの新規/拡張地域開発のうち2つのみを認める計画を採用した。

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