海外における戦略的環境アセスメントの技術手法と事例(平成13年9月)

目次へ戻る

(7)廃棄物処理に関するSEA・EIAの事例分析のまとめ

オランダの国家廃棄物計画は、オランダ環境影響評価制度の対象ではないため、第1次国家廃棄物管理10カ年計画及び第2次国家廃棄物管理10カ年計画のSEA自体は、環境影響評価制度の手続きに従った自主的な環境影響評価として実施された。一方、地方廃棄物管理計画のSEA及び廃棄物処理施設のEIAは環境影響評価制度に基づいて実施された。

本分析の結果を踏まえ、計画のレベルの違いによるSEAの違い(国と地方)及び計画に対するSEAと事業に対するEIAの環境影響評価の違いについて以下に取りまとめた。

国レベルの計画と地方レベルの計画では、計画自体の意思決定のレベルが異なるため、SEAの中で設定される複数案の考え方や対象とする環境項目の分析のレベルなどが異なる。国家レベルの計画は、地方を一つの単位とした大きなレベルの「廃棄物管理地域」を対象に、最も適切な廃棄物処理容量や効率性を国レベルの視点で検討するものである。このため国家レベルの計画においては、複数のシナリオを設定することで、廃棄物管理の将来を予測している。特に、第2次国家廃棄物管理10カ年計画では、ライフサイクルアセスメントの手法を活用し、具体的な処理方式の選定に関する環境影響の評価が行われている点に特徴がある。一方、地方政府は、廃棄物管理に関連するプロジェクトの許認可権限を有し、具体的な廃棄物行政を推進する役割がある。地方レベルの計画は、目標自体は国の計画に基づくものであり、そのもとで地方における廃棄物処理施設の具体的な実施を定めるものである。このため、地方レベルのSEAでは、対象とする環境の範囲も国レベルの計画よりは、詳細に定められているようである。

国レベルの計画、地方レベルの計画におけるSEAと廃棄物処理施設のEIAとは、環境影響を評価する視点や分析のレベルが異なる。計画に対するSEAは、将来予測シナリオの設定などを踏まえた廃棄物管理全体の政策方針に関する複数案が設定されている。個別の廃棄物処理施設に関連するEIAは、施設建設に焦点を当てたEIAであるため、設定される複数案や対象環境項目のレベルも必然的に詳細なものとなる。廃棄物処理施設のEIAでは、具体的な処理技術や、廃棄物輸送方法、廃棄物処理施設の容量などに関する様々な複数案が提示され、それをもとに最も適切な案の選定が行われた。更に、対象となる環境項目に関しても、非常に細かい項目の分析が実施されている。これは、SEAとEIAの分析のレベルが大きくことなることを示している。

表3.2.24廃棄物処理に関するSEA及びEIAの事例分析のまとめ

SEA

事業に対するEIA

国家レベルの廃棄物管理計画

地方レベルの廃棄物管理計画

廃棄物処理施設の設置

第1次国家廃棄物管理10カ年計画(1992-2002)

第2次国家廃棄物管理10カ年計画(1995-2005)

 第3次ゲルトランド廃棄物管理5カ年計画

オーバーアイセル州の廃棄物処理施設

廃棄物管理計画

or事業の概要

計画の特徴・役割

  • オランダ初の国家廃棄物管理計画。
  • 国家レベルでの廃棄物処理能力の計画やそれを具体的に実現する基礎的な条件を示すもの。
  • 廃棄物発生量、廃棄物処理能力との関係、投棄場所選定のための基礎的条件、その他補足的措置のパッケージ、廃棄物除去に関して将来必要となる様々な施設等を記述。
  • 既存棄物発生抑制政策が成功する場合(抑制政策順調シナリオ)と失敗する場合(抑制政策失敗シナリオ)の2種類のシナリオを設定し、各シナリオの2000年の廃棄物発生量の推計を行っている。
  • 第1次国家廃棄物管理10カ年計画の見直し版。
  • 第1次国家廃棄物管理10カ年計画の影響予測手法の批判に応えるため、新たにLCAを導入して予測が行われた。
  • オランダでは州政府が廃棄物管理5カ年計画を策定するものとされており、本計画は州レベルの廃棄物管理計画として策定されたもの。
  • 基本原則は下記の通り

     ⋆廃棄物発生抑制とリサイクル

     ⋆可能な限りの熱回収を伴う適切な焼却処理の実施、及び埋立処分のための十分な容量の確保
  • 州内500工場は、5年以内に廃棄物防止計画を策定する必要あり。
  • 発生抑制、リサイクル、効果的な利用の可能性が推計される。
  • 残存廃棄物(焼却、コントロールされた投棄)の取扱に関して必要な容量の決定。
  • 規模と場所の選定に関するクライテリアが大まかに決定される。
  • トエンテ地方政府とオーバーアイセル州の地域電力会社が廃棄物処理施設の建設を提案した。これはヘンゲロ市とエンスヘデ市に隣接したブルデルスフックの廃棄物処分場の近くに廃棄物処理施設を建設するもの。提案プロジェクトは、廃熱を発電に活用し、可能であれば、廃熱は住宅用としても供給しようとするもの。提案された廃棄物処理施設は、年間230,000tの処理能力を有する。

     

    対象廃棄物

    • 家庭一般廃棄物
    • 家庭粗大ゴミ
    • 建築廃棄物、機械解体廃棄物
    • 工業廃棄物
    • オフィス、商店、工場廃棄物
    • クリーニング関連廃棄物
    • シュレッダー廃棄物
    • 医療廃棄物
    • 可燃性廃棄物(家庭一般廃棄物、家庭粗大ごみ、オフィス・商店・サービス廃棄物、シュレッダー廃棄物、建設廃棄物の一部、工業廃棄物の一部、クリーニング廃棄物の一部)
    • 非可燃性廃棄物(建設廃棄物の一部、工業廃棄物の一部、クリーニング廃棄物の一部、土壌)
    • 特殊廃棄物(木材、合成樹脂)、有機廃棄物
    • 家庭廃棄物
    • 工場廃棄物(建築廃棄物、下水汚泥を含む)
    • 有害廃棄物
    • 港湾廃棄物
    • 対象外(自動車スクラップ、肥料)
  • (廃棄物処理施設)

  • 策定時期

    • 1992年策定
    • 策定主体は、廃棄物協議機構(国土計画・環境省、州際協議会、自治体連合等の協定により設立した機関)。
  • 1995年策定
  • 策定主体は廃棄物協議機構。
  • 1993年
  • ・1994年

    国家計画と州計画との関連

    • 計画策定に当たり、国家廃棄物管理計画やその他の関連する国家レベルの戦略を尊重する。
  • 既存の廃棄物管理政策との整合性を評価。
  • SEA

    SEAの根拠等

    • 自主的に環境管理法の要件に即したSEAが実施された。
    • SEA実施に当たり、環境関連部局及び公衆関与が行われた。
    • 自主的に環境管理法の要件に即したSEAが実施された。
    • SEA実施に当たり、環境関連部局及び公衆関与が行われた。
  • 環境管理法に基づき実施。
  • 州政府が所管官庁となり、スコーピングガイドラインの作成、公衆の意見聴取、評価書の受理及び審査等を行う。
  • 環境管理法に基づき実施。

  • 複数案

    • 計画の中で設定された2種類のシナリオに基づき、廃棄物最終処理に関して複数案を設定。
    • 複数案の考え方:
      • 既存政策:自然投棄を最小化し、焼却
      • 複数案1:焼却処理抑制、投棄増
      • 複数案2:投棄最小化、事前分別最大化
      • 複数案3:焼却処理最小化、事前分別最大化
    • ゼロ代替案:第1次国家廃棄物管理10カ年計画の対策の継続
    • 複数案1:新しい総合的技術の適用
    • 複数案2:バイオ技術の導入
    • 複数案3:分離技術の導入
  • 現状政策維持
  • 計画に示されている政策導入
  • 最も環境に優しい政策導入
    • ゼロ代替案 :トエンテ地域に新規廃棄物処理施設を建設しないもの。
    • 容量案 :新規の廃棄物処理施設の容量が200,000ton/年以下(最低容量)又は265,000ton/年(最大容量)の場合。
    • 供給案 :廃棄物の輸送に関する複数案であり、海上輸送や鉄道輸送を考慮するもの。
    • 機械分別及び生物プロセス活用案 :機械的分別処理装置を導入し、家庭廃棄物を分別処理する。その一部は、生物プロセスを活用して処理する。
    • 熱利用案 :廃棄物燃焼に伴いエネルギー回収を行う。
    • 排ガス処理システム案
    • 煙突の高さやガス温度に関する案
    • 廃棄物処理残留物の処理技術に関する案
    • 冷却システムに関する案
    • 環境に最も優しい案 :上記の異なる複数案を組み合わせて環境に最も優しい案が作成された。

    スコーピング

    次の各環境指標が設定された。
      • 拡散(重金属、多重芳香属炭素、ダイオキシン、有機物質)影響
      • 酸性雨(SO2、NOx)
      • 生活影響(悪臭)
      • 気候変動(CO2、CH4)
      • エネルギー
      • 除去(投棄残存物質、投棄化学廃棄物、再利用可能残存物質)
      • 空間の占拠
    以下の4つの廃棄物フローに対して廃棄物処理技術を選択し、各技術について環境影響をLCAにより検討。
    • 可燃性廃棄物のフロー
    • 不燃性廃棄物のフロー
    • 可燃性廃棄物の部分フロー
    • 有機廃棄物のフロー

    対象とする環境影響の範囲として下記の項目が評価された。

    • 人間への環境毒性
    • 土壌への環境毒性
    • 水質への環境毒性
    • 温室効果の促進
    • オゾン層の破壊
    • スモッグの形成
    • 酸性雨
    • 湖沼の富栄養化
    環境指標は、廃棄物量、リサイクル量、焼却量及び埋立量が採用された。下記の環境項目に対する影響評価を実施する必要があるとされた。
    • 対象環境範囲
    • 大気、土壌、地下水、表流水、騒音、浮遊粒子状物質、臭気、土地利用、人の健康及び安全
    • 自然及び歴史的環境
    • 景観及び歴史的景観

    現在の環境と環境影響に関しては、以下の事項を記述するものとされた。

    • 一般的状況
    • 土壌、地表水、地下水
      • 雨水地下浸透や大気汚染物質の降下による土壌や地下水汚染と環境影響
      • 地下水使用による環境影響
      • 一時的地下水レベルの低下
      • 残留物の保管による環境影響

    • 大気汚染
      • 大気汚染(CO、SOX、NOx、PAHs、PCDDs、PCDFs、ダスト、臭気等)の状況
      • 導入施設又は産業輸送からのCO、SOX、NOxの排出等
      • 煙道排ガス中の重金属濃度

    • 騒音
      • プロセス活動による騒音、導入道路の騒音等
    • 外的な安全性等

    環境影響の評価

    • 廃棄物量の推計値と、処理方法別の環境負荷原単位から、各複数案の環境項目別の環境負荷を推計
  • 各複数案に対し、廃棄物総供給量予測値から想定される環境への影響の程度を検討。
    • 複数案について、廃棄物発生量、リサイクル、処理、埋立の影響が評価された。アセスメントは、専門家の判断に基づく評価及び特に協議が必要なグループとの協議の結果を踏まえて行われた。
    • 最終的に、最も環境に優しい政策を行う案が採用された。

    複数案の評価

    • 各環境負荷項目単位で複数案の比較が実施された。
    • 最小焼却、最大事前分別と酵素分解の組み合わせ(複数案Ⅱ)が最も望ましいと結論された。
    • 複数案の相互比較により、分離技術の導入(複数案Ⅲ)が最も環境問題の発生が少ないものと結論された。

    各複数案に対して各環境項目の視点からマトリックス形式の比較検討が行われた。最終的に、複数案を組み合わせて作成された環境に最も優しい案が採用された。

    意思決定への反映

    地域及び地元関係機関の十分な参加を得て実施されたため、SEAの結果や結論は広く受け入れられた。
    • 特に協議が必要なグループ、所管官庁、関連企業との協議を踏まえて実施されたため第3次ゲルトランド廃棄物管理5カ年計画の実行可能性を大きくする効果があった。

    出典:MRI作成

    目次へ戻る