前項までは、廃棄物管理計画に対するSEAであるが、本事例のみは事業に対する環境影響評価(EIA)である。本事例は、前述(3)から(5)の各種計画の中に位置付けられている事業ではない。本事例を取り上げた理由は、計画レベルに適用されるSEAと事業レベルに適用されるEIAの違いを具体的な事例の分析を通じて明確にすることを目的としたためである。
1 )オーバーアイセル州廃棄物処理施設プロジェクトの概要
トエンテ(Twente)地方政府とオーバーアイセル(Overijssel)州の地域電力会社が廃棄物処理施設の建設を提案した。これはヘンゲロ(Hengelo)市とエンスヘデ(Enschede)市に隣接したブルデルスフック(Boeldershoek)の廃棄物処分場の近くに廃棄物処理施設を建設するものであった。提案されたプロジェクトは、廃棄物処理施設の建設であり、廃熱を発電に活用し、可能であれば、廃熱は住宅用としても供給しようとするものである。
提案された廃棄物処理施設は、年間230,000tの処理能力を有するものであった。事業の公告は1993年4月に行われ、EISは、1993年9月に完成した。その後、1994年3月に決定がなされた。オランダ環境影響評価委員会が廃棄物処理施設に対するEISに関する提言を行うものである。
2 )オランダ環境影響評価委員会のアドバイザリーガイドライン
オランダ環境影響評価委員会では、事業者の公告に対して専門的な見地からの提言を取りまとめたアドバイザリーガイドラインを提出している。同ガイドラインでは、事業の背景、提案されたプロジェクトの概要、検討すべき複数案の考え方及び考慮すべき環境影響に関して、提言が行われている。
表3.2.21アドバイザリーガイドラインの提言の概要(廃棄物処理施設)
項目 |
内容 |
事業の背景
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提案プロジェクト |
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複数案 |
複数案としては、ゼロ代替案と環境に最も優しい案を検討するが、レイアウト等を考慮した複数案も検討するものとされた。 レイアウトの多様性
環境に最もやさしい案
ゼロ代替案又は参照ケース
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環境影響 |
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複数案の比較 |
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出典:EIA Commission, ’Advisory guidelines for the environmental impact statement on a waste incineration plant in the region of Twente’よりMRI作成
3 )環境影響評価の記述事項
提案されているプロジェクトの目的やその必要性について取りまとめる必要がある。特に、当該立地場所の廃棄物問題の概要、既存の廃棄物管理政策との整合性を評価し、地域の将来計画に基づき、将来の廃棄物発生・管理の予測を行うものとされた。これらを踏まえ、必要とされる廃棄物処理施設容量を検討するものとされた。
4 )複数案
当該EIAの中では、様々な視点から複数案が検討された。廃棄物処理施設の処理方法等に関する技術的な複数案や、廃棄物輸送、廃棄物処理施設の容量等に関する事項が検討された。環境に最も優しい案は、これらの複数案を組み合わせて作成された。
表3.2.22複数案の概要
複数案 |
内容 |
ゼロ代替案 |
トエンテ地域に新規廃棄物処理施設を建設しないもの。 |
容量案 |
新規の廃棄物処理施設の容量が200,000ton/年以下(最低容量)又は265,000ton/年(最大容量)の場合。 |
供給案 |
廃棄物の輸送に関する複数案であり、海上輸送や鉄道輸送を考慮するもの。 |
機械分別及び生物プロセス活用案 |
機械的分別処理装置を導入し、家庭廃棄物を分別処理する。その一部は、生物プロセスを活用して処理する。 |
熱利用案 |
廃棄物燃焼に伴いエネルギー回収を行う。 |
その他 |
等 |
環境に最も優しい案 |
上記の異なる複数案を組み合わせて環境に最も優しい案が作成された。 |
出典:DIT MILIEU-EFFECTRAPPORT IS IN OPDRACHT VAN AVI-Twente BV,’ MILIEU-EFFECTRAPPORTAGE VOOR DE OP RICHTEN AFVALVERBRANDINGSINSTALLATIE(AVI-TWENTE)TEBOELDERSHOEK,1993 よりMRI作成
5 )スコーピングと指標の設定
現在の環境と環境影響に関しては、以下の事項を記述するものとされた。
次表は、オランダ環境影響評価委員会のアドバイザリーガイドラインの中で、EISの中で記述すべき環境の現状及び環境影響の項目を整理したものである。当該EISの中では、下記の環境項目の分析が行われているものと考えられる。
表3.2.23環境の現状と環境影響
現状 |
現状推移 |
環境影響 |
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土壌、表面水、地下水 |
・既存地下水、土壌汚染 等 |
等 |
等 |
大気汚染 |
等 |
等 |
等 |
騒音 |
等 |
等 |
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外的安全性 |
等 |
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沈着に敏感な地域と対象 |
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等 |
等 |
出典:EIA Commission, ’Advisory guidelines for the environmental impact statement on a waste incineration plant in the region of Twente’よりMRI作成
6 )_評価及び複数案の比較
各複数案に対して各環境項目の視点からマトリックス形式の比較検討が行われた。最終的に、複数案を組み合わせて作成された環境に最も優しい案が採用された。