海外における戦略的環境アセスメントの技術手法と事例(平成13年9月)

目次へ戻る

(6)廃棄物処理施設(オーバーアイセル州廃棄物処理施設の建設)のEIA

 前項までは、廃棄物管理計画に対するSEAであるが、本事例のみは事業に対する環境影響評価(EIA)である。本事例は、前述(3)から(5)の各種計画の中に位置付けられている事業ではない。本事例を取り上げた理由は、計画レベルに適用されるSEAと事業レベルに適用されるEIAの違いを具体的な事例の分析を通じて明確にすることを目的としたためである。

1 )オーバーアイセル州廃棄物処理施設プロジェクトの概要

トエンテ(Twente)地方政府とオーバーアイセル(Overijssel)州の地域電力会社が廃棄物処理施設の建設を提案した。これはヘンゲロ(Hengelo)市とエンスヘデ(Enschede)市に隣接したブルデルスフック(Boeldershoek)の廃棄物処分場の近くに廃棄物処理施設を建設するものであった。提案されたプロジェクトは、廃棄物処理施設の建設であり、廃熱を発電に活用し、可能であれば、廃熱は住宅用としても供給しようとするものである。

提案された廃棄物処理施設は、年間230,000tの処理能力を有するものであった。事業の公告は1993年4月に行われ、EISは、1993年9月に完成した。その後、1994年3月に決定がなされた。オランダ環境影響評価委員会が廃棄物処理施設に対するEISに関する提言を行うものである。

 2 )オランダ環境影響評価委員会のアドバイザリーガイドライン

 オランダ環境影響評価委員会では、事業者の公告に対して専門的な見地からの提言を取りまとめたアドバイザリーガイドラインを提出している。同ガイドラインでは、事業の背景、提案されたプロジェクトの概要、検討すべき複数案の考え方及び考慮すべき環境影響に関して、提言が行われている。

 

表3.2.21アドバイザリーガイドラインの提言の概要(廃棄物処理施設)

項目

内容

事業の背景

 

  • EISの中で、州の廃棄物問題の原因本質、経緯、背景、また国家レベル、州レベルの短期的・中期的・長期的な廃棄物管理政策及び廃棄物管理の状況を取り巻く将来予測を踏まえ、提案されたプロジェクトの必要性を明記する必要がある。
  • EISは、地域計画に基づき処理される廃棄物量の最大値及び最小値の値を予測し、また、廃棄物フロー量の増加、廃棄物発生の抑制や、再使用及び廃棄物の有効利用等の各種条件を踏まえ、前提を明らかにする必要がある。これらをもとに、現状推移型と対策型のシナリオを検討しなければならない。
  • 提案プロジェクトの処理能力は、設備容量とコスト(建設及び運用コスト)を十分検討し、処理費用との兼ね合いについて考慮する必要がある。

提案プロジェクト

  • 建設予定地の選定過程及びその理由を記述する必要がある、また、プロジェクトの実施に伴う環境への影響及びその緩和措置を記述する必要がある。

複数案

複数案としては、ゼロ代替案と環境に最も優しい案を検討するが、レイアウト等を考慮した複数案も検討するものとされた。

レイアウトの多様性

    • 設備を分割して建設
    • 有機廃棄物が多い場合の生物学的プロセスの使用
    • 燃料ガスの冷却
    • 排水処理対策
    • エネルギーマネジメント
    • 残留物に関する処理
    • 輸送手段の複数案
    • 冷却システムの複数案

環境に最もやさしい案

  • 最も環境に優しい案は、プロセスの選択、設備のデザイン、適用技術、環境保護のための予防策などに関連する。最も環境に優しい案は、複数案の多様性や環境保護対策の組み合わせによって作成可能である。オランダ環境影響評価委員会では、下記の事項を考慮すべきとした。
    • 処理対象廃棄物の事前分別や均質化
    • 汚泥や煙道排ガスの処理
    • 環境汚染物質生成を最小化する技術
    • 処理や排ガス除去のための最新技術
    • 汚染をもたらさない排水処理技術もしくは最小化する排水処理技術
  • <

ゼロ代替案又は参照ケース

  • ゼロ代替案は、提案プロジェクトが実施されない結果として、最終処分場が活用されること、及び別の場所に処理施設を設置する可能性を考慮するものである。ゼロ代替案が参照ケースもしくは完全な複数案の一つとして考慮されるべきであるとアドバイザリーガイドラインでは提言した。

環境影響

  • EISの中に現在の環境と環境影響の状況を記述しなければならない。
  • 一般的状況、土壌、地表水、地下水、大気汚染、騒音、外的な安全性等

複数案の比較

  • 複数案による環境影響は、参照ケースとして当該活動が行われなかった場合に想定される環境への影響と比較が行われなければならない。

出典:EIA Commission, ’Advisory guidelines for the environmental impact statement on a waste incineration plant in the region of Twente’よりMRI作成

3 )環境影響評価の記述事項

 提案されているプロジェクトの目的やその必要性について取りまとめる必要がある。特に、当該立地場所の廃棄物問題の概要、既存の廃棄物管理政策との整合性を評価し、地域の将来計画に基づき、将来の廃棄物発生・管理の予測を行うものとされた。これらを踏まえ、必要とされる廃棄物処理施設容量を検討するものとされた。 

4 )複数案

 当該EIAの中では、様々な視点から複数案が検討された。廃棄物処理施設の処理方法等に関する技術的な複数案や、廃棄物輸送、廃棄物処理施設の容量等に関する事項が検討された。環境に最も優しい案は、これらの複数案を組み合わせて作成された。

表3.2.22複数案の概要

複数案

内容

ゼロ代替案

トエンテ地域に新規廃棄物処理施設を建設しないもの。

容量案

新規の廃棄物処理施設の容量が200,000ton/年以下(最低容量)又は265,000ton/年(最大容量)の場合。

供給案

廃棄物の輸送に関する複数案であり、海上輸送や鉄道輸送を考慮するもの。

機械分別及び生物プロセス活用案

機械的分別処理装置を導入し、家庭廃棄物を分別処理する。その一部は、生物プロセスを活用して処理する。

熱利用案

廃棄物燃焼に伴いエネルギー回収を行う。

その他

  • 排ガス処理システム案
  • 煙突の高さやガス温度に関する案
  • 廃棄物処理残留物の処理技術に関する案
  • 冷却システムに関する案

環境に最も優しい案

上記の異なる複数案を組み合わせて環境に最も優しい案が作成された。

出典:DIT MILIEU-EFFECTRAPPORT IS IN OPDRACHT VAN AVI-Twente BV,’ MILIEU-EFFECTRAPPORTAGE VOOR DE OP RICHTEN AFVALVERBRANDINGSINSTALLATIE(AVI-TWENTE)TEBOELDERSHOEK,1993 よりMRI作成

5 )スコーピングと指標の設定

 現在の環境と環境影響に関しては、以下の事項を記述するものとされた。

次表は、オランダ環境影響評価委員会のアドバイザリーガイドラインの中で、EISの中で記述すべき環境の現状及び環境影響の項目を整理したものである。当該EISの中では、下記の環境項目の分析が行われているものと考えられる。

表3.2.23環境の現状と環境影響

現状

現状推移

環境影響

土壌、表面水、地下水

・既存地下水、土壌汚染

  • 既存地下水、土壌汚染
  • 地下水使用による環境影響
  • 残留物の保管による環境影響
  • 処理済み排水の地表水への放出に伴う環境影響

  • 雨水地下浸透や大気汚染物質の降下による土壌や地下水汚染と環境影響
  • 地下水使用による環境影響
  • 一時的地下水レベルの低下
  • 残留物の保管による環境影響
  • 処理済み排水の地表水への放出に伴う環境影響

大気汚染

  • 大気汚染(CO、SOX、NOx、PAHs、PCDDs、PCDFs、ダスト、臭気等)の状況
  • 導入施設又は産業輸送からのCO、SOX、NOxの排出等
  • 煙道排ガス中の重金属濃度
  • HCLやHFの排出
  • PCDDs、PCDFs、PAHs、アンモニア、HC等の排出
  • HCL、HF、重金属、PAHs、PCDDs、PCDFs等の蓄積や沈着
  • 周辺環境の酸性化への寄与(HCL、HF、SO2、NOx等)
  • 臭気物質の放出、蓄積
  • 霧の発生と社会環境や安全性への影響

  • 大気汚染(CO、SOX、NOx、PAHs、PCDDs、PCDFs、ダスト、臭気等)の状況

  • 導入施設又は産業輸送からのCO、SOX、NOxの排出等
  • 煙道排ガス中の重金属濃度
  • HCLやHFの排出
  • PCDDs、PCDFs、PAHs、アンモニア、HC等の排出
  • HCL、HF、重金属、PAHs、PCDDs、PCDFs等の蓄積や沈着
  • 周辺環境の酸性化への寄与(HCL、HF、SO2、NOx等)
  • 臭気物質の放出、蓄積
  • 霧の発生と社会環境や安全性への影響

騒音

  • 住居地域や埋立地への導入道路での現在の音の状況(等高線地図の作成)

  • 周辺の想定しうる開発や等高線地図に影響するような産業の立地可能性

  • 事業に伴う騒音、導入道路の騒音等

外的安全性

  • 不慮の事故の発生可能性
  • 想定される事故やその影響
  • 廃棄物の供給や除去に伴う危険性

沈着に敏感な地域と対象

  • 敏感なエリアや対象のリスト(住居地域、病院、耕作地、家畜飼育地、園芸、自然保護、レクリエーション地、地下水保護地域、土壌保護地域等)等
  • 敏感なエリアや対象のリスト(住居地域、病院、耕作地、家畜飼育地、園芸、自然保護、レクリエーション地、地下水保護地域、土壌保護地域等)

    • 居住環境や健康面への影響
    • 大気汚染による動植物への影響、土壌や地表水への沈着、地表水汚濁。

    出典:EIA Commission, ’Advisory guidelines for the environmental impact statement on a waste incineration plant in the region of Twente’よりMRI作成

    6 )_評価及び複数案の比較

    各複数案に対して各環境項目の視点からマトリックス形式の比較検討が行われた。最終的に、複数案を組み合わせて作成された環境に最も優しい案が採用された。

    目次へ戻る