1 )第2次国家廃棄物管理10カ年計画1995-2005策定の背景と内容
1995年6月に、廃棄物協議機構(WMC)では、第2次国家廃棄物管理10カ年計画の草案とその環境影響評価書(EIS)を発表した。第2次国家廃棄物管理10カ年計画では、最終処理される廃棄物の量に関するデータが更新されるとともに、数種類の最終処理技術の比較検討が行われ、最終処理計画の複数案作成に活用された。本SEAでは、新たな分析手法としてライフサイクル分析法(LCA)を用いた分析が行われた。
表3.2.11第2次国家廃棄物管理10カ年計画の概要
項目 |
内容 |
計画策定の背景 |
1992年に策定された第1次国家廃棄物管理10カ年計画の見直しが3年後の1995年に行われた。廃棄物協議機構によって、国家廃棄物管理10カ年計画は3年毎に見直しが行われることとされていたためである。第1次国家廃棄物管理10カ年計画のSEAで適用された影響予測手法に対する批判に応えるために、WMCではライフサイクル分析法(LCA)を用いて第2次国家廃棄物管理10カ年計画を策定した。 1995年時点では、廃棄物問題は以下のとおり改善が進んでいた。
|
計画の 問題点 |
第2次国家廃棄物管理10カ年計画案の問題点は、将来、長期的に廃棄物供給量が減少するようになった場合に備え、処理容量の規模を長期にわたりうまく調整できるかどうかであった。従って、供給される廃棄物を望ましい形で処理するための誘導方法、供給量や処理容量の変動への対応、処理容量への代替的な投資の調整、新しい処理技術の導入などについて十分検討する必要がある。 |
EISで とりあげるべき 問題点 |
環境影響評価書の問題は、第2次国家廃棄物管理10カ年計画案の問題点から派生するものであり、問題となるのは下記の点であった。
|
対象 廃棄物 |
|
出典:Afval Overleg Orgaan,’MILIEU-EFFECTRAPPORT Tienjarenprogramma Afval 1995-2005’,April 1995よりMRI作成
2 )環境影響評価の手続き的事項
国家廃棄物管理計画の環境面からの評価は、制度的に義務付けられているものではないが、第1次国家廃棄物管理10カ年計画策定に際してSEAで用いられた影響予測に対する批判に応えるために、WMCは1995年~2005年を対象とする第2次国家廃棄物管理10カ年計画を策定した。1995年6月に、WMCでは、第2次国家廃棄物管理10カ年計画の草案とその環境影響評価書を発表した。新計画では、最終処理される廃棄物量が更新されるとともに、最終処理計画の政策に関する複数案の前提として、複数の最終処理技術とその比較検討の結果が示された。
3 )オランダ環境影響評価委員会によるアドバイザリーガイドライン
オランダ環境影響評価委員会では、事業者の公告に対して専門的な見地からの提言を取りまとめたアドバイザリーガイドラインを提出した。同ガイドラインでは、事業の背景、検討すべき複数案の考え方及び考慮すべき環境影響に関して、提言が行われた。
表3.2.12アドバイザリーガイドラインの提言の概要
(第2次国家廃棄物管理10カ年計画(1995-2005))
項目 |
内容 |
事業の背景
|
等 |
複数案 |
等 |
環境影響 |
等 |
複数案の比較 |
等 |
出典:EIA Commission, ’A guidelines for the environmental impact statement on Ten Years Programme Waste of the Waste Management Council 1995-2005’よりMRI作成
4 )複数案
EISでは、下記の4つの複数案が検討された。これらの複数案に投入される技術と環境への影響についての検討が行われた後に、具体的な複数案の作成が行われた。
表3.2.13複数案の内容
項目 |
内容 |
ゼロ代替案 |
<第1次国家廃棄物管理10カ年計画の対策の継続>
|
複数案Ⅰ |
<新しい総合的技術の適用>
|
複数案Ⅱ |
<バイオ技術の導入> ・複数案Ⅱは以下のような前提に基づいている。
|
複数案Ⅲ |
<分離技術の導入>
|
出典:Afval Overleg Orgaan,’MILIEU-EFFECTRAPPORT Tienjarenprogramma Afval 1995-2005’,April 1995よりMRI作成
5 )スコーピングと指標の設定
EISでは、各複数案について、下記の4つの廃棄物フロー(可燃性廃棄物、不燃性廃棄物、可燃性の部分フロー、有機廃棄物)の廃棄物処理技術を選択し、その技術についての環境への影響をライフサイクル分析(LCA)により検討している。LCAが適用できない技術は、環境への影響を定性的に分析している。
廃棄物収集前に行う事前分別とは異なり、収集された廃棄物を処理施設内において、大きさ、重さ、金属/非金属、あるいは乾燥による水分除去といった方法で分離すること。
表3.2.14各廃棄物について選択された処理技術
廃棄物フロー |
選択された処理技術 |
可燃性廃棄物 |
・火格子施設での焼却 |
・回転炉施設での焼却 |
|
・熱分解・焼却 |
|
・熱分解・気化 |
|
・分離・堆肥化・焼却 |
|
・(乾燥/含水分の)分離・酵素分解・焼却 |
|
・分離・投棄・熱分解 |
|
・分離・投棄・気化 |
|
・セメント炉内での分離・投棄・焼却 |
|
・選択的な分離・焼却 |
|
不燃性の廃棄物 |
・投棄 |
可燃性の部分フロー |
・発電施設での木炭による熱分解と二次燃焼 |
・古い材木と残存材 |
・発電施設での粉炭による二次燃焼 |
・回転炉施設での焼却 |
|
・気化と事後燃焼 |
|
・プラスチック |
・気化 |
・原料リサイクリング |
|
有機廃棄物 |
・堆肥化処理 |
・酵素分解 |
表の註:太文字で示された技術については、環境に及ぼす影響をLCAにより分析したもの。その他の技術は定性的に分析された。
出典:Afval Overleg Orgaan,’MILIEU-EFFECTRAPPORT Tienjarenprogramma Afval 1995-2005’,April 1995よりMRI作成
6 )環境負荷の推計
技術に関して検討された結果を利用して、4つの複数案について検討が行われた。複数案の検討に当たっては、環境への影響の程度をLCAによりチェックした技術のみが取り上げられている。
[1] 想定される廃棄物の総供給量
検討に当たって、既存政策に基づき想定した廃棄物の総供給量をそれぞれの複数案に当てはめている。下表はその結果を示している。
表3.2.15複数案ごとの各種廃棄物処理技術の適用割合(2005年:単位Mton(100万t))
処理技術 |
ゼロ代替案 |
複数案Ⅰ |
複数案Ⅱ |
複数案Ⅲ |
|
(単位Mton) |
(単位Mton) |
(単位Mton) |
(単位Mton) |
||
火格子焼却 |
4.1 |
2.6 |
2.6 |
||
熱分解・焼却 |
1.2 |
||||
乾燥分離・酵素分解・焼却 |
1.2 |
||||
選択的分離・焼却 |
4.1 |
||||
分離・堆肥化焼却 |
0.9 |
1 |
1 |
1 |
|
古材・残存材の二次燃焼 |
0.1 |
0.1 |
0.3 |
||
投棄 |
不燃性廃棄物の投棄 |
3.1 |
3.1 |
3.1 |
3.1 |
可燃性廃棄物の投棄 |
0.2 |
||||
焼却灰、不活性物質、有機廃棄物処理残滓の投棄* |
0.3 |
0.4 |
0.5 |
0.3 |
|
有機廃棄物の堆肥化 |
1.5 |
1.5 |
1.5 |
0.1 |
|
有機廃棄物の酵素分解 |
0.1 |
0.1 |
0.1 |
1.5 |
* 廃棄物処理、不活性物質、有機物等の残留物の投棄による環境への影響は、その他の処理技術の環境への影響にも計上されている。
出典:Afval Overleg Orgaan,’MILIEU-EFFECTRAPPORT Tienjarenprogramma Afval 1995-2005’,April 1995よりMRI作成
[2]複数案毎の環境影響
各複数案による環境への影響の程度を検討した。まず、複数案に含まれる技術で1キロトンの廃棄物を処理する際に生じる環境への影響を評価し、排出原単位とする。排出原単位と各技術で処理する廃棄物量を積算することにより環境影響を算出した。
表3.2.16廃棄物(2005年時点)をゼロ代替案に基づき各処理技術を活用
して処理した際の環境への影響,
(単位秒/年)
処理量(Mton /年) |
4.1 |
0.9 |
0.1 |
3.1* |
1.5 |
0.1 |
|
処理技術 |
火格子焼却 |
分離・堆肥化・焼却 |
古材・残存材の二次燃焼 |
投棄 |
有機廃棄物 の堆肥化 |
有機廃棄物の酵素分解 |
|
環境問題 |
合計 |
|
|
|
|
|
|
人間への環境毒性 |
-132,250 |
-90,200 |
-48,600 |
930 |
4,340 |
1,050 |
230 |
土壌への環境毒性 |
1,200,120 |
328,410 |
25,740 |
1,140 |
4,030 |
790,500 |
50,300 |
水質への環境毒性 |
-83,640 |
-12,300 |
-113,400 |
3,560 |
13,330 |
300 |
270 |
温室効果の促進 |
-105,460 |
-53,300 |
-22,500 |
-7,700 |
4,340 |
-24,000 |
-2,300 |
オゾン層の破壊 |
2,190 |
0 |
0 |
0 |
1,550 |
600 |
40 |
スモッグの形成 |
-36,600 |
-41,000 |
-20,700 |
-1,500 |
24,180 |
2,400 |
20 |
酸性雨 |
-303,320 |
-209,100 |
-93,600 |
-4,700 |
1,240 |
2,100 |
740 |
湖沼の富栄養化 |
232,840 |
-4,920 |
-80,100 |
-460 |
3,720 |
301,500 |
13,100 |
* 廃棄物処理、不活性物質、有機物等の残留物の投棄による環境への影響は、この処理技術の環境への影響に含まれる。
出典:Afval Overleg Orgaan,’MILIEU-EFFECTRAPPORT Tienjarenprogramma Afval 1995-2005’,April 1995よりMRI作成
表3.2.17廃棄物(2005年時点)を複数案Ⅰに基づき各処理技術を活
用して処理した際の環境への影響(単位秒/年)
処理量(Mton /年) |
2.6 |
1 |
1.2 |
0.1 |
3.3* |
1.5 |
0.1 |
|
処理技術 |
火格子焼却 |
分離・堆肥化・焼却 |
乾燥分離・酵素分解・焼却 |
古材と残存材の二次燃焼 |
投棄 |
有機廃棄物の堆肥化 |
有機廃棄物の酵素分解 |
|
環境問題 |
合計 |
|||||||
人間への環境毒性 |
-161,170 |
-57,200 |
-54,000 |
-57,600 |
930 |
5,420 |
1,050 |
230 |
土壌への環境毒性 |
1,147,530 |
208,260 |
28,600 |
64,440 |
1,140 |
4,230 |
790,500 |
50,300 |
水質への環境毒性 |
-109,800 |
-7,800 |
-126,000 |
-9,840 |
3,560 |
14,110 |
300 |
270 |
温室効果の促進 |
-102,940 |
-33,800 |
-25,000 |
-15,600 |
-7,700 |
5,460 |
-24,000 |
-2,300 |
オゾン層の破壊 |
3,890 |
0 |
0 |
0 |
0 |
3,250 |
600 |
40 |
スモッグの形成 |
-34,680 |
-26,000 |
-23,000 |
-16,800 |
-1,500 |
30,200 |
2,400 |
20 |
酸性雨 |
-342,500 |
-132,600 |
-104,000 |
-105,600 |
-4,700 |
1,560 |
2,100 |
740 |
湖沼の富栄養化 |
223,920 |
-3,120 |
-89,000 |
-2,160 |
-460 |
4,060 |
301,500 |
13,100 |
単位は秒。例えば人間に対する環境毒性が2000秒であるとは、所定量の廃棄物を処理する際の技術が、2005年にオランダでこの毒性の年間合計量(31,536,000seconds)に2000秒寄与していることを意味する。表の値が負の場合は、「避けられる環境への影響」が直接的な影響よりも大きいことを示す。算出された環境への影響の有効数字と処理技術ごとの処理量の有効数字を比べると、その桁数が異なるように見受けられるが、EISでは別途1つの項を割いて、評価方法自身及び複数案設定における仮定の不確実性、また処理技術間の不確実性の相違を採り上げ、予測の不確実性についてまとめて評価し、この評価がEIS全般に渡って適用されるとしている。このことから、本EISにおいては個々の図表の算出値はその有効数字を考慮して示されているものではなく、その信頼性については別途まとめて検討する
* 廃棄物処理、不活性物質、有機物等の残留物の投棄による環境への影響は、この処理技術の環境への影響に含まれる。
出典:Afval Overleg Orgaan,’MILIEU-EFFECTRAPPORT Tienjarenprogramma Afval 1995-2005’,April 1995よりMRI作成
表3.2.18廃棄物(2005年時点)を複数案Ⅱに基づき各処理
技術を活用して処理した際の環境への影響(単位秒/年)
処理量(Mton /年) |
2.6 |
1 |
1.2 |
0.3 |
3.1* |
1.5 |
0.1 |
|
処理技術 |
火格子焼却 |
分離・堆肥化・焼却 |
熱分解・焼却 |
古材と残存材の二次燃焼 |
投棄 |
有機廃棄物の堆肥化 |
有機廃棄物の酵素分解 |
|
環境問題 |
合計 |
|||||||
人間への環境毒性 |
-166,390 |
-57,200 |
-54,000 |
-63,600 |
2,790 |
4,340 |
1,050 |
230 |
土壌への環境毒性 |
1,126,030 |
208,260 |
28,600 |
40,920 |
3,420 |
4,030 |
790,500 |
50,300 |
水質への環境毒性 |
-238,820 |
-7,800 |
-126,000 |
-145,200 |
10,680 |
13,330 |
300 |
270 |
温室効果の促進 |
-139,860 |
-33,800 |
-25,000 |
-36,000 |
-23,100 |
4,340 |
-24,000 |
-2,300 |
オゾン層の破壊 |
2,190 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1,550 |
600 |
40 |
スモッグの形成 |
-55,700 |
-26,000 |
-23,000 |
-28,800 |
-4,500 |
24,180 |
2,400 |
20 |
酸性雨 |
-367,820 |
-132,600 |
-104,000 |
-121,200 |
-14,100 |
1,240 |
2,100 |
740 |
湖沼の富栄養化 |
121,620 |
-3,120 |
-89,000 |
-103,200 |
-1,380 |
3,720 |
301,500 |
13,100 |
* 廃棄物処理、不活性物質、有機物等の残留物の投棄による環境への影響は、この処理技術の環境への影響に含まれる。
出典:Afval Overleg Orgaan,’MILIEU-EFFECTRAPPORT Tienjarenprogramma Afval 1995-2005’,April 1995よりMRI作成
表3.2.19廃棄物(2005年時点)の複数案Ⅲに基づき各処理技術に配分
した場合の環境に対する標準化された影響(単位秒/年)
処理量(Mton/年) |
1 |
4.1 |
3.1* |
0.1 |
1.5 |
|
分離・堆肥化・焼却 |
選択的分離・焼却 |
投棄 |
有機廃棄物の堆肥化 |
有機廃棄物の酵素分解 |
||
環境問題 |
合計 |
|||||
人間への環境毒性 |
-263,440 |
-54,000 |
-217,300 |
4,340 |
70 |
3,450 |
土壌への環境毒性 |
985,790 |
28,600 |
145,960 |
4,030 |
52,700 |
754,500 |
水質への環境毒性 |
-641,600 |
-126,000 |
-533,000 |
13,330 |
20 |
4,050 |
温室効果の促進 |
-163,360 |
-25,000 |
-106,600 |
4,340 |
-1,600 |
-34,500 |
オゾン層の破壊 |
2,190 |
0 |
0 |
1,550 |
40 |
600 |
スモッグの形成 |
-96,760 |
-23,000 |
-98,400 |
24,180 |
160 |
300 |
酸性雨 |
-505,620 |
-104,000 |
-414,100 |
1,240 |
140 |
11,100 |
湖沼の富栄養化 |
-204,880 |
-89,000 |
-336,200 |
3,720 |
20,100 |
196,500 |
* 廃棄物処理、不活性物質、有機物等の残留物の投棄による環境への影響は、この処理技術の環境への影響に含まれる。
出典:Afval Overleg Orgaan,’MILIEU-EFFECTRAPPORT Tienjarenprogramma Afval 1995-2005’,April 1995よりMRI作成
するという整理がなされているようである。以降、数表中の数値は中の個々の数表の表記に倣う。
7 )評価及び複数案の比較
前述6)の各複数案の相互比較に基づき、複数案Ⅲ(分離技術の導入)が最も環境問題の発生が少ない案との結論が得られた。ゼロ代替案における焼却処理能力を廃棄物の供給量に応じて加減する柔軟性は、全ての複数案の中で最も小さい。他の複数案の場合は、廃棄物供給量に応じて焼却処理量を調節できる余地が大きい。廃棄物処理能力が維持できることは、既に実証済みの技術が使用されるゼロ代替案においてこそ最も保証されている。費用の面から見ると、どの複数案もほぼ同様である。
8 )意思決定への反映
SEAでは、廃棄物処理の過程での直接的な汚染物質の排出よりも間接的な影響の方が重要であるとし、これが意思決定に大きな影響を及ぼす可能性を示唆している。SEAの結論では、廃棄物の再利用につながる分離技術を重視する複数案Ⅲが最も好ましい案としており、この結果を踏まえ、廃棄物の選択分離を重視する長期的な政策を採ることが決定された。