海外における戦略的環境アセスメントの技術手法と事例(平成13年9月)

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2.オランダ

(1)-オランダにおけるSEAの参考図書の作成状況

オランダでは、法制度上、事業実施段階での環境アセスメント(EIA)とSEAとの区別がないため、特にSEA用の技術手法等について記載した資料はないが、オランダ環境影響評価委員会がオランダ環境影響評価制度に基づき、案件毎に公表するアドバイザリーガイドラインは、個別事例単位で詳細な記述が行われており、第3章の事例の詳細分析とも関連が深いことから、ここで紹介した。

(2)オランダの技術的手法等に関する参考図書の概要

1)オランダ環境影響評価委員会のアドバイザリーガイドラインとは

オランダの環境影響評価制度では、環境影響評価の専門家として、オランダ環境影響評価委員会が大きな役割を担っている。環境影響評価制度に基づき、環境影響評価委員会は、各計画・事業の“事業の告知”において記述された環境影響評価の方法に対して、専門的見地からアドバイザリーガイドラインを作成する。事業者は、アドバイザリーガイドラインの助言に従い、環境影響評価を実施する。アドバイザリーガイドラインは、環境影響評価書(EIS)の作成に当たっての具体的な調査・予測項目やその方法、検討すべき複数案などについて、環境影響評価委員会の見解を示したものである。主務官庁は、環境影響評価委員会のアドバイザリーガイドラインのほか、環境省及び農業省等のアドバイザーの意見、公衆の意見などを考慮し、評価書の中で扱われなければならない複数案と環境影響をできる限り具体的に示したガイドラインを決定することとなっている。しかし、環境影響評価委員会が作成した助言がそのまま用いられる例も多い。

オランダ環境影響評価委員会は、このアドバイザリーガイドラインを事業内容別に公表している。以降では、下記に示した代表的な計画・事業に関するアドバイザリーガイドラインの概要を整理した。

<オランダ環境影響評価委員会の代表的アドバイザリーガイドライン>

2)オランダ廃棄物処理施設に関するアドバイザリーガイドラインの概要

トエンテ(Twente)地方政府とオーバーアイセル(Overijssel)州の地域電力会社が廃棄物処理施設の建設を提案した。ヘンゲロ(Hengelo)市とエンスヘデ(Enschede)市に隣接したブルデルスフック(Boeldershoek)の廃棄物処分場の近くに廃棄物処理施設(処理能力年間230,000t)を建設するものであった。プロジェクトは、廃棄物処理施設を建設するものであるが、廃熱を発電に活用し、また住宅用としても供給しようとするものでもあった。事業の公告は1993年4月に行われ、環境影響評価書(EIS)は、1993年9月に完成した。

 オランダ環境影響評価委員会は、当該プロジェクトの実施に当たり、事業の公告に対して、専門的な見地からの提言をアドバイザリーガイドラインとして取りまとめている。アドバイザリーガイドラインでは、事業の背景、提案されたプロジェクトの概要、検討すべき複数案の考え方及び考慮すべき環境影響に関して、提言が行われた。(詳細は、第3章参照)

3)オランダ第1次国家廃棄物管理10カ年計画(1992-2002)に関するアドバイザリーガイドラインの概要

廃棄物協議機構(WMC)は、8つの廃棄物フローに関する第1次国家計画(計画期間1992-2002年)を作成した。第1次国家廃棄物管理10カ年計画は、3年ごとに見直しが行われることとされた。第1次国家廃棄物管理10カ年計画は、オランダ環境影響評価法の環境影響評価の対象計画ではないが、WMCでは自主的にオランダ環境影響評価制度の手続きに基づいた環境影響評価を実施した。WMCは、提案者であるとともに、所管官庁であった。

 オランダ環境影響評価委員会は、当該プロジェクトの実施にあたり、事業者が提出した公告に対して、専門的な見地からの提言をアドバイザリーガイドラインとして取りまとめている。アドバイザリーガイドラインでは、事業の背景、提案されたプロジェクトの概要、検討すべき複数案の考え方及び考慮すべき環境影響に関して、提言が行われた。(詳細は、第3章参照)

4)オランダ第2次国家廃棄物管理10カ年計画(1995-2005)に関するアドバイザリーガイドラインの概要

廃棄物協議機構(WMC)では、第1次国家廃棄物管理10カ年計画を見直し、第2次国家廃棄物管理10カ年計画(1995-2005)の作成をすることとなった。第2次国家廃棄物管理10カ年計画は、1995年から1998年までの3年間に実施されるべき廃棄物管理に関する政策を定めることを目的としたものであった。第2次国家廃棄物管理10カ年計画の策定過程においても、自主的にオランダ環境影響評価制度と同様の環境影響評価手続きが行われた。

 オランダ環境影響評価委員会は、当該プロジェクトの実施にあたり、事業者が提出した公告に対して、専門的な見地からの提言をアドバイザリーガイドラインとして取りまとめている。アドバイザリーガイドラインでは、事業の背景、提案されたプロジェクトの概要、検討すべき複数案の考え方及び考慮すべき環境影響に関して、提言が行われている。(詳細は、第3章参照)

5)オランダの都市開発計画に関するアドバイザリーガイドラインの概要

アイントホーベン(Eindhoven)市とヘルモンド(Helmond)市に隣接する複数の市に渡る地域に12,500戸の住宅と500haの工業用地を建設する都市開発計画が提案された。事業の公告は、1993年6月9日に行われ、EISは1994年6月に完成した。なお、ノールトブラバント(Noord-Brabant)州の地方政府は、都市開発計画の決定を行うために環境影響評価を実施するとともに、プロジェクトの提案者でありかつ所轄官庁でもあった。本都市開発計画に対して、オランダ環境影響評価委員会の提出したアドバイザリーガイドラインでは、事業の背景、検討すべき複数案の考え方及び考慮すべき環境影響に関して、提言が行われた。以下にその概要を整理した。

アドバイザリーガイドラインの提言の概要(都市開発計画)

項目

内容

事業の背景

  • 対象地域の計画及び将来見通しに基づき、新たな住宅及び産業地域の必要性について、その目的と問題点を明確に記述する必要がある。
  • 提案プロジェクト及びその他の複数案に何らかの関連ある政府の決定事項等について記述する必要がある。当該地域で行われた他の環境影響評価の結果についても、必要に応じて言及する必要がある。
  • 環境影響を判断し複数案を比較するために、環境法や環境政策計画に基づき、国全体の政策目的に適合した基準を作る必要がある。
  • 環境影響評価の目的及び、州と各自治体間での意思決定手続き等に関して記述する必要がある。

提案プロジェクト

  • 建設する住宅戸数及び開発する産業用地面積、潜在的候補地の調査内容、比較検討の結果について記述するものとする。

複数案

 

  • 複数案の設定に当たっては、当該地域の空間的な構造(例:生態学的な側面、自然を保全すべき地域、自然を保護すべき地帯等)、候補地の有する文化的・景観的な価値等を踏まえるものとする。また、その他必要と考えられる要素を踏まえ、適切な複数案を作成するものとする。

環境影響

 

<考慮すべき環境影響>

  • 土壌、地表水、地下水
  • 植物群・動物群および生態学的関係
  • 景観および文化遺産
  • 交通
  • 騒音および安全性
  • 環境面から見た生活条件および公衆衛生等

複数案の比較

  • 複数案による環境影響は、当該活動が行われなかった場合に想定される環境への影響と比較が行われなければならず、各環境項目に対するランク付けによる比較を行うものとされた。

出典:EIA Commission, ’Advisory guidelines for the environmental impact statement on large-scale residential and industrial building sites in the area of Eindhoven and Helmond’よりMRI作成

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