海外における戦略的環境アセスメントの技術手法と事例(平成13年9月)

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第2章 諸外国のSEA制度における参考図書等

第1章で取り上げた諸外国のSEA制度について、評価の技術手法等の実務的な内容についてとりまとめられている資料(ここではこれらを「参考図書」と称する)の整備状況について情報収集を行った。その結果、必ずしもすべての国でSEA用に特化した参考図書が用意されている状況ではなかったが、我が国が今後SEAを導入するに際して参考になるものという視点で最もふさわしいものをいくつか取り上げ、その詳細を整理した。以下に各国において取り上げた参考資料等を一覧に示した。

2.1.  本調査で取り上げた各国の参考図書等

国名

参考図書等の名称

備考

アメリカ

  • “Considering Cumulative Effects Under the National Environmental Policy Act”(1997):「国家環境政策法における累積的影響の考え方について」
  • 法制度上、事業実施段階の環境影響評価(EIA)とSEAとの区別が行われておらず、参考図書も、特にEIA用、SEA用などと分かれてはいない。
  • 今後我が国でSEAを導入するに際して参考になるものという視点で、累積的影響の評価に関する参考図書を取り上げた。

オランダ

  • 個々の事業ごとに環境影響評価委員会が作成するアドバイザリーガイドラインの代表例
  • 法制度上、EIAとSEAとの区別が行われておらず、参考図書も、特にEIA用、SEA用などと分かれてはいない。
  • アドバイザリーガイドラインは個々の事業ごとに作成されるものであって普遍的な参考図書ではないが、環境項目の選定や、複数案設定などについて具体的に記述されており、今後我が国でSEAを導入するに際して参考になるものとして取り上げた。

カナダ

  • “Cumulative Effects Assessment Practitioners Guide”(1999):「累積的影響の評価に関する実務家向けガイド」
  • SEA用の参考図書は、現在のところ作成されていない。
  • この資料はEIA用に用意されている参考図書であるが、今後我が国でSEAを導入するに際して参考になるものとして取り上げた。

EU

  • “Handbook on environmental assessment on Regional Development Plans and EU Structural Funds programmes”(1998):「地域開発計画等における環境アセスメントハンドブック」
  • ”Manual on Strategic Environmental Assessment of Transport Infrastracture Plans”(1999):「交通基盤整備計画のSEAマニュアル」
  • 両者ともSEA用に用意されている参考図書。

イギリス

  • “Review of Technical Guidance on Environmental Appraisal”(1998):「環境政策評価の技術手法に関する概観」
  • SEA用に用意されている参考図書。ポリシー(政策)の評価に焦点を当てて作成されている。
  • 出典:MRI作成

     

    1.アメリカ

    (1)アメリカにおけるSEAの参考図書の作成状況

    技術手法等について記載されたものとして、分野別などで様々な資料が用意されているが、法制度上、事業実施段階の環境影響評価(EIA)とSEAとの区別がないため、特にSEA用のものがあるわけではない。

    我が国におけるSEAの導入に際して参考になりそうな資料として、CEQが作成した累積的影響についての考え方を示した資料(Considering Cumulative Effects Under the National Environmental Policy Act(1997))を取り上げ、以下に整理した。

    (2)アメリカの技術的手法に関する参考図書の概要

    “Considering Cumulative Effects Under the National Environmental Policy Act”(1997):「国家環境政策法における累積的影響の考え方について」は、国家環境政策法(NEPA)に基づいて累積的影響を評価する際の法的拘束力のないハンドブックである。累積的影響を評価することはNEPAと不可分の要素として認識されているが、中でも、政策やプログラムなどの連邦政府の広範な行為を対象とする環境影響評価は、累積的な環境影響についての価値ある必要な分析として役立つとされており、SEAの役割の一つとして累積的影響の評価が期待されていると言える。

    ハンドブックでは、スコーピングから予測、評価、緩和措置の検討まで順を追って、どのようなステップで検討すればよいかが示されており、最後に以下の11の技術手法が、それぞれの長所・短所とともに紹介されている。また、付属Aにおいて、技術手法の概要について、ケーススタディや参考文献も含めてそれぞれ数ページ程度で簡単にまとめられている。

    なお、各技術手法がどのような分野の評価に適しているかなど、どのような場合にそれぞれの技術手法を採用すべきかといった点については特に示されていない。

     

     

     

    環境影響評価実施のために設置される大統領府直属の機関(Council on Environmental Quality)。

    施行規則に関する40の質疑応答集(1981)(Forty Most Asked Questions Concerning CEQ's National Environmental Policy Act Regulations)の24(b)を参照のこと

     

     

    表2・1・1の手法の概要と長所・短所

    累積影響を分析するための主な手法

    主な手法

    長所

    短所

    [1]質問、インタビュー、審査会

    ・柔軟である

    ・主観的な情報の取り扱いが可能

    ・定量化できない

    ・複数案の比較が主観的になる

    [2]チェックリスト

    ・体系的である

    ・簡潔である

    ・柔軟性がない

    ・相互関係および因果関係を扱えない

    [3]マトリックス分析

    ・分かりやすく提示できる

    ・複数案の比較が可能

    ・多様なプロジェクトを扱える

    ・空間・時間を扱えない

    ・煩雑である

    ・因果関係を扱えない

    [4]ネットワーク

    及び系統図

    ・概念化が容易である

    ・因果関係を扱える

    ・間接的影響を確認できる

    ・副次的効果を扱えない

    ・比較可能な単位で表すことが困難

    ・空間・時間が扱えない

    [5]モデル分析

    ・明快な結果が得られる

    ・因果関係を扱える

    ・定量化できる

    ・時間・空間を併せて扱える

    ・大量のデータが必要

    ・費用がかさむ

    ・多くの相互影響が伴い扱いが困難である

    [6]傾向分析

    ・経年的な累積を扱える

    ・問題の識別が可能になる

    ・ベースラインが決定できる

    ・関連システムにおける大量のデータが必要

    ・システムの閾値の推定は主観的になる

    [7]オーバーレイマッピング及びGIS(地理情報システム)

    ・空間的パターンと影響の距離的関係を扱える

    ・効果的な視覚的プレゼンテーション

    ・開発オプションを最適化できる

    ・位置に基づく影響に限定される

    ・間接的な影響は明示的に扱えない

    ・影響の大きさを扱うのは困難である

    [8]環境容量分析

    ・閾値に対する累積影響を厳密に測れる
    ・システムの流れの中で影響を扱える
    ・時間的要因を扱える

    ・容量を直接的に測ることはほぼ不可能
    ・複数の閾値になりがち
    ・必要不可欠な地域データが欠けていることがよくある

    [9]エコシステム分析

    ・地域的な規模で、すべての構成要素及びそれらの相互関係を扱うことができる
    ・時間・空間を扱える
    ・生態系の持続可能性を扱える

    ・自然系に限られる
    ・代理種を当てはめることがある
    ・徹底したデータが必要
    ・景観指標が未だ開発中

    [10]経済影響分析

    ・経済問題を扱える
    ・モデルから明確で定量化された結果が得られる

    ・結果の有意性・正確性はデータの質とモデルの前提の適否に依存する
    ・通常は市場価値のみを扱う

    [11]社会影響分析

    ・社会問題を扱える
    ・モデルから明確で定量化された結果が得られる

    ・結果の有意性・正確性はデータの質とモデルの前提の適否に依存する
    ・社会的価値とは曖昧である

    注:このうち、[1]~[7]までが一次手法、[8]~[11]までが特別な手法とされている

    出典:Council on Environmental Quality, ‘Considering Cumulative Effects Under the National Environmental Policy Act’, 1997よりMRI作成

     以下に[5]のモデル分析及び[6]の傾向分析を例にとり、付属Aで紹介されている内容を簡単に示した。

    1. モデル分析に関する記載内容

    累積的影響に至るまでの因果関係を定量化する際に、モデル分析が強力な手法として使える。モデル化は累積の過程を記述する数式の形、あるいは、論理的決定を行うプログラムに基づいて様々なプロジェクトのシナリオの影響を計算する専用システムという形をとる。

    プロジェクトに固有のモデルを構築するには相当なリソースと時間を要する。このため、実際の分析に当たっては、既存のモデルをそのまま使用したり、修正して用いることが多い。基準となるデータやプロジェクト固有のデータが不足する場合には、より高度なモデルを用いることができなくなるという問題はあるものの、累積的影響を分析する上で、モデル分析はかなり期待できる手法である。一般的にモデルを用いる際には、[1]モデルあるいは手法の開発、[2]既存のモデルで用いるための基準データの入手などに労力が必要となる。

    累積的影響のモデルには以下のような例が挙げられるが、その使用にあたっては、科学的に一般に認められているものを用いるべきである。

    一般にモデル分析においては多くの前提を置くことになり、公衆の理解度は低く、受け入れられにくいという面がある。

    1. 傾向分析に関する記載内容

     傾向分析とは、資源、生態系やコミュニティの状態を時系列的に評価し、過去あるいは将来の状態に関して図解により予測するものである。時系列的な事象の変化や負荷の程度の変化も予測できる。傾向分析は、提案プロジェクトのもたらす累積的影響を評価する際に非常に重要な経年変化を明らかにすることができる。特に、傾向分析は以下の点において累積的影響の分析に資することができる。

    資源あるいは生態系の変化は単純にも複雑にも表現することができる。その種類は、線グラフから、3次元グラフ、動画シミュレーション、時系列的な航空写真・衛星画像まで多岐にわたる。

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