1)事業特性の設定
図2-2-12 事業実施区域とその周辺の広域地形(地下水等のケースⅠ)
図2-2-13 工事及び存在・供用時の模式断面図
2)地域特性の設定
ケーススタディの地域特性を以下のように想定した。
[1]大気環境の状況
気象庁○○地域気象観測所(AMeDAS)における過去20年間の日降水量及び日平均気温の収集・整理による年間降水量は○○mmであり、ソーンスウェイトの式から求めた年間の蒸発散量は○○mmである。
また、月降水量及び月実効雨量(降水量-蒸発散量)は図○-○-○に示すような状況にある。
[2]水環境の状況
事業実施区域の西方約1km付近をA川が北流し、東方約1km付近をA川水系B川が北流する。また事業実施区域近傍では、B川の支川であるC川が北流する。
なお、C川は環境基準E類型に指定されている。
地形・地質状況から、地下水帯水層は沖積砂質土層(As)、洪積砂質土層(Ds)の2つに区分される。
・As層の地下水(沖積層地下水):GL-2~-4m(不圧地下水)
・Ds層の地下水(洪積層地下水):GL-2~-3m(被圧地下水)
As層及びDs層ともにA~C川によって形成された堆積層であり、地下水はこれらの堆積層を流動することから、大局的には南→北方向への地下水流動が想定される。
洪積層を対象とする井戸で水道法基準を超える鉄が検出された経緯が確認された。
[3]土壌・地盤の状況
事業実施区域周辺では、地盤沈下は生じていない。
[4]地形及び地質の状況
事業実施区域周辺は、沖積平野の縁辺部に位置し、既存の地盤図等及び自治体のボーリング調査結果等によると、地盤標高は10~15mである。
地層構成は表2-2-9のような状況にあり、地下水の帯水層としては、沖積砂質土層(As)、洪積砂質土層(Ds)が想定される。
表2-2-9 事業対象地の地質層序表
地層名 |
略 号 |
概 要 |
盛土層 |
b |
造成盛土、性土~砂質土 |
沖積砂層 |
As |
砂質土主体、レンズ状に粘性土層挟む |
洪積粘土層 |
Dc |
沖積層と洪積層を境して、広く分布 分布深度はGL-5~7m |
洪積砂質土層 |
Ds |
砂質土主体 |
基盤岩 |
Br |
硬岩、分布深度はGL-25~40m以深 |
[5]動植物の生息又は生育の状況
事業実施区域一帯は住宅地であり、地下水や地表水と密接に関係する水生動植物等は確認されていない。
事業実施区域周辺は、人口○○万人の○○市近郊部に位置し、都市のベッドタウンとしての位置づけにある。
事業実施区域周辺においては、ほぼ全域が住宅地であり、わずかに点存する畑地で兼業農家による畑作が行なわれている。
昭和30年代後半~昭和40年代前半にかけて宅地化が進み、事業実施区域周辺はほぼ全域が住宅地であり、わずかに畑地が点在する。
○○市における既存資料により、以下の状況を把握した。
近年の都市化に伴って上水道が整備されたが、それ以前に各戸で利用されていた井戸水源が残存する。
工業用水、農業用水等の許認可を伴う利用は確認されていない。
また、現地踏査及び有識者等へのヒアリング結果から、地域特性把握の調査の段階で現地調査が必要と判断し、ルート両側500m以内の範囲を対象に水利用状況調査を実施した。現地調査の結果、表2-2-10に示すような水源の存在と利用状況を把握した。
なお、上水道整備事業が比較的最近行なわれたことから、井戸水源が多数残存しており、井戸水・地下水に対する関心が高い地域といえる。
表2-2-10 事業実施区域周辺における水源の分布と利用状況
水源種別 |
水源の利用状況(用途)注) |
井戸深度・取水対象層 |
||||||
専 |
飲 |
雑 |
畑 |
事 |
不 |
計 |
||
素掘り井戸 |
10 |
7 |
17 |
3 |
0 |
2 |
39 |
深さ4~6m以下 →沖積砂質土層から取水 |
ボーリング井戸 |
4 |
6 |
32 |
0 |
2 |
5 |
49 |
深さ15~20m以上 →洪積砂質土層から取水 |
注)専:井戸だけを利用(上水道未配管)、飲:生活用水として飲用する。
雑:飲用以外の生活用水に利用する、畑:畑作用水として利用する。
事:事業所で洗浄用水等として利用、不:現在は不使用。
既存資料に基づき、上水道・工業用水道等の水源井戸の有無について確認を行なったが、事業実施区域近傍2km以内の範囲には、これらの水源は確認されなかった。
事業実施区域周辺においては、地下水等に係わる諸事項については、法令による環境基準(「地下水の水質汚濁に係る環境基準」、「排水基準」等)が適用される。
事業実施区域周辺においては、既設の地下構造物等の周辺の地下水等に影響を及ぼす施設・状況は確認されない。
対象事業の実施による地下水への影響を想定する際に、影響要因と環境要素との関連について、マトリックスとともに以下に示すような影響の伝達経路(影響フロー)を用いて検討を行なった。
対象事業の工事に係る影響フロー及び存在に係る影響フローを図2-2-14に、マトリックスを表2-2-11に、それぞれ示した。
(実線:直接的に発生する影響、破線:間接的に波及する影響)
図2-2-14(1) 対象事業の工事に係る環境影響フロー
(実線:直接的に発生する影響、破線:間接的に波及する影響)
図2-2-14(2) 対象事業の存在・供用に係る環境影響フロー
表2-2-11 工事及び存在に係る影響マトリックス
影響要因の区分 環境要素の区分 |
工事 |
存在 |
||
地下水止水工法の実施 |
止水壁の撤去 ・ 引抜き |
半地下構造物の存在 |
||
1次的な要素 |
地下水流動形態(地下水の流向) |
○ |
○ |
|
地下水位 |
○ |
○ |
||
地下水・地表水の量 |
○ |
○ |
||
地下水の水質 |
○ |
|||
2次的な要素 |
水利用 |
○ |
○ |
○ |
土壌水分 |
○ |
○ |
||
粘性土の圧密沈下(地盤沈下) |
○ |
○ |
||
(生態系) |
○ |
○ |
○ |
注)表中○印は、影響を受ける可能性があるものであることを示す。
表中()は考慮すべき要素であるが、本ケーススタディでは考慮していないものを表す。
工事による影響については、地下水止水工法の実施に伴う地下水流動形態の変化や、止水壁撤去時の地下水混合に伴う水質の変化が想定される。地下水流動形態の変化は地下水位や水量の変化をもたらすほか、それに起因して、水利用や土壌水分への影響、地盤沈下の発生、生態系への影響も想定されることも踏まえ、これらを環境影響評価項目として選定した。また、止水壁撤去に伴う地下水の混合に関しては、地下水の水質変化を環境影響評価項目として選定した。
構造物の存在よる影響については、地下水流動形態の変化や水位・水量の変化、それに起因する水利用や土壌水分への影響、地盤沈下の発生、生態系への影響を環境影響評価項目として選定した。
調査・予測手法検討の流れを図2-2-15に示す。
調査・予測手法の検討にあたっては、先に整理した環境影響フローを踏まえ、事業特性及び地域特性を勘案し、事業の実施による影響要因及び影響が想定される環境要素を設定した上で、適切な予測手法を選定した。
図2-2-15(1) 調査・予測手法の検討の流れ(工事の実施)
図2-2-15(2) 調査・予測手法の検討の流れ(半地下構造物の存在)
工事の実施及び半地下構造物の存在による影響予測手法の検討内容を、表2-2-12に示す。
表2-2-12(1) 影響予測手法の検討内容(工事の実施)
影響要因 |
想定される影響と予測手法 |
|||
地下水止水工法の実施 |
○想定される影響 地下水流動が止水壁によって完全に遮断されるため、地下水位や流向の変化が生じる可能性がある。 また、地下水位の低下に起因して、粘性土層の圧密沈下が発生する可能性がある。 ○予測手法 以下の理由により、飽和-不飽和三次元浸透流解析によって地下水流動の変化を予測する。 ・沖積層及び洪積層の地下水それぞれを対象に、予測を行なう必要がある。 ・地下水流動形態の変化を定量的に予測し、地下水位の変化量として評価する必要がある。 粘性土層の圧密沈下についても同様に、上記の浸透流解析結果に基づき、「道路土工要綱」の方法による予測を行なう。 ○浸透流解析における諸条件の設定 〈予測範囲〉 工事の実施による影響を受けない範囲も含めた解析領域を設定する必要があることから、構造物中央から両側700mの範囲を予測範囲とした。 〈予測モデル〉 解析領域における要素分割は、工事区間の形状や地質構造を反映することを考慮に入れた上で決定した。 平面分割については、工事区間からの距離(離れ)を考慮し、以下のとおりとする。 |
|||
構造物中央 からの離れ |
要素分割の基準 (X:平行方向、Y:直交方向) |
|||
|
|
0 ~ 50 m |
構造物の幅 等 を考慮 |
|
|
|
50 ~ 100 m |
X:50m × Y:25m |
|
|
|
100 ~ 700 m |
X:50m × Y:50m |
|
また深度方向については、各層の境界面等高線図を作成し、その節点標高を読み取ってモデルを作成する。 〈予測内容〉 工事による影響が最大となる時点として止水壁による完全閉め切り時について、予測を行なう。 〈予測時期〉 地下水位低下に伴う水利用への影響や粘性土層の圧密沈下が想定されることから、事業実施区域において最も地下水位が低下する冬季渇水期を対象とする。 |
||||
止水壁の撤去 ・引抜き |
○想定される影響 止水壁(鋼矢板)引抜き後の空隙を通じて、沖積層・洪積層の地下水が混合し、地下水の水質が変化する可能性がある。 ○予測手法の選定 既往調査資料による粘性土の物理・力学特性及び既往施工事例に基づく経験的手法によって、予測を行なう。 |
表2-2-12(2) 影響予測手法の検討内容(半地下構造物の存在)
影響要因 |
想定される影響と予測手法 |
半地下構造物 の存在 |
○想定される影響 地下水流動が構造物で遮断されることによって、地下水位の変化が生じる可能性がある。 また、地下水位の低下に起因した粘性土層の圧密沈下が発生する可能性がある。 ○予測手法 以下の理由により、地下水流動の変化については 飽和-不飽和三次元浸透流解析によって予測を行なう。 ・沖積層及び洪積層の地下水それぞれを対象に、予測を行なう必要がある。 ・地下水流動形態の変化を定量的に予測し、地下水位の変化量として評価する必要がある。 また、粘性土層の圧密沈下については、上記の浸透流解析結果に基づき、「道路土工要綱」の方法による予測を行なう。 ○浸透流解析における諸条件の設定 〈予測範囲〉 工事中の予測と同様とした。 〈予測モデル〉 要素分割についても、工事中の予測モデルと同一とした。 〈予測内容〉 工事完了後、止水壁が撤去された時点について、予測を行なう。 〈予測時期〉 地下水位低下に伴う水利用への影響や粘性土層の圧密沈下が想定されることから、事業地において最も地下水位が低下する冬季渇水期を対象とする。 |
予測手法の検討の結果、地下水流動形態の変化の予測手法として浸透流解析を選定したことから、特に地質や地下水の状況について詳細な情報が必要と判断された。
これに基づいて、表2-2-13のとおり、現地調査手法の検討を行なった。
表2-2-13 現地調査手法の検討内容
調査項目 |
調査項目と調査内容の検討結果 |
水理地質構造 |
○調査項目の設定根拠 事業実施区域周辺における詳細な地層分布の詳細を把握するとともに、地下水流動の基礎となる水理地質特性を把握するために実施した。 ただし、近隣の別事業による既往調査資料が充実していることから、事業実施区域近傍における確認を目的とした。 ○調査方法 機械ボーリング及び現場透水試験、室内土質試験(物理試験、力学試験)を実施。ボーリング完了後は、沖積層地下水・洪積層地下水の各々を対象とする観測孔にした。 ○調査地点 既存資料による地層分布・地下水分布状況を考慮するとともに、事後調査における地下水観測を想定し、事業実施区域近傍に設定した。 |
地下水の 流動形態 |
○調査項目の設定根拠 各地層の水理特性(水理定数、地下水頭、流動区間の垂直分布や規模、地下水流動方向・流速等)を把握するために実施した。 ただし「水理地質構造」と同様の理由から、事業区間近傍における確認を目的とした。 ○調査方法 機械ボーリングにあわせて、現場透水試験を実施した。 ○調査地点 「水理地質構造」の項 参照。 |
地下水の変動 |
○調査項目の設定根拠 地下水位の季節変動を含めた把握のために実施した。 ○調査方法 調査期間は1年間とし、下記のとおり実施した。 (地下水継続観測) 月1回の定期観測を基本としたが、代表地点については自記水位計を用いた連続観測を行なった。 (地下水一斉観測) 地下水位上昇期(夏季)のデータを地域特性把握の調査で把握したことを考慮し、地下水位低下期(冬季)のデータ取得を目的に、全地点の一斉水位測定を実施した。 ○調査地点 地下水観測孔、地域特性把握の調査で把握された井戸とした。 |
現地調査結果の概要を表2-2-14に示す。
表2-2-14 現地調査結果の概要
調査項目 |
現地調査結果の概要 |
||||||
水理地質構造
|
ボーリング調査や現場透水試験結果から、事業区間における水理地質区分と地下水区分は下表のように把握された。 表 事業区間周辺の水理地質区分と地下水区分 |
||||||
|
地層名 |
略号 |
水理地質 区分 |
地下水区分 |
透水係数 |
|
|
沖積砂質土層 |
As |
Ⅰ |
[1]不圧地下水 |
4.5×10-2cm/s |
|||
洪積粘土層 |
Dc |
Ⅱ |
遮水層 |
3.1×10-6cm/s |
|||
洪積砂質土層 |
Ds |
Ⅲ |
[2]被圧地下水 |
8.1×10-3cm/s |
|||
基盤岩 |
Br |
Ⅳ |
不透水層 |
1.0×10-7cm/s |
|||
なお、各層の透水係数については、現場透水試験や揚水試験、粒度試験結果を基に検討を行ない、上表に示すとおり設定した。 また、飽和-不飽和三次元浸透流解析の解析領域を含む範囲について、各層境界面の等高線図を作成した。 |
|||||||
地下水の 流動形態 |
予測対象時期とした冬季(渇水期)の観測結果をもとに、地下水面等高線図を作成した(図2-2-19参照)。 |
||||||
地下水の変動 |
地下水継続観測結果をもとに、地下水位変化図を作成した(図2-2-17参照)。 |
図2-2-19 地下水面等高線図(上:沖積層地下水、下:洪積層地下水)
[2]予測結果の概要
予測結果の概要を表2-2-15に示す。
表2-2-15(1) 予測結果の概要(工事の実施)
項目 |
予測結果の概要 |
地下水流動形態の変化 (地下水位の変化) |
(沖積層地下水) 上流側で最大1.0mの水位上昇、下流側で最大1.4mの水位低下が発生する。 また、0.2m以上の水位変化は、上流側で360m、下流側で500m離れの範囲にまで拡がる。 (洪積層地下水) 上流側で最大0.8mの水位上昇、下流側で最大1.2mの水位低下が発生する。 また、0.2m以上の水位変化は、上流側で360m、下流側で480m離れの範囲にまで拡がる。 |
粘性土層の 圧密沈下 |
各土層に作用する増加応力は、各粘性土層の圧密降伏応力以下の値であり、地盤沈下は発生しないと予測される。 |
地下水質の変化 |
洪積粘性土層は塑性が低く、止水壁を引き抜いた場合、沖積層地下水と洪積層地下水との遮水性が損なわれる可能性が高い。 この場合、沖積層地下水と洪積層地下水の混合が生じるが、洪積層地下水には鉄分が多く含まれているため、沖積層地下水の鉄イオン濃度が高くなる可能性があると予測される。 |
表2-2-15(2) 予測結果の概要(掘割区間の存在)
項目 |
予測結果の概要 |
地下水流動形態の変化(地下水位の変化) |
(沖積層地下水) 上流側で最大0.9mの水位上昇、下流側で最大1.1mの水位低下が発生する。 また、0.2m以上の水位変化は、上流側で500m、下流側で500m離れの範囲にまで拡がる。 (洪積層地下水) 上流側・下流側とも、水位変化は生じない。 |
粘性土層の 圧密沈下 |
各土層に作用する増加応力は、各粘性土層の圧密降伏応力以下の値であり、地盤沈下は発生しないと予測される。 |
〈沖積層地下水〉 〈洪積層地下水〉
図2-2-20 工事の実施時(止水壁による完全止水時)における地下水位(水頭)の
変化量予測平面図
図2-2-21 工事の実施時(止水壁による完全止水時)における地下水位の
変化状況予測断面図(上:沖積層地下水、下:洪積層地下水)
〈沖積層地下水〉 〈洪積層地下水〉
図2-2-22 半地下構造物の存在時(止水壁撤去後)における地下水位(水頭)の
変化量予測平面図
図2-2-23 半地下構造物の存在時(止水壁撤去後)における地下水位の
変化状況予測断面図
回避・低減に係る評価の視点からは、事業者による環境影響の回避・低減への努力や配慮を明らかにし、評価するものであり、選定された工法や使用機械の工事計画において、複数の環境保全措置の比較検討結果や、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて検討し、評価を行なう。
基準又は目標との整合に係る評価の視点からは、環境基準等の基準又は目標は設定されていないため、周辺水利用や既存構造物に対する影響の観点から評価を行なう。
回避・低減に係る評価の視点からは、事業者による環境影響の回避・低減への努力や配慮を明らかにし、評価するものであり、構造物の形状や構造物敷地内における回避・低減施設(流動保全工法、復水対策工法)等について、複数の環境保全措置の比較検討結果や、実行可能なより良い技術が取り入れられているか否かについて評価する。
基準又は目標との整合に係る評価の視点からは、地下水流動や地下水位等について環境基準等の基準又は目標が設定されていないため、周辺水利用等に対する影響(利用上支障をきたさない湛水深が確保されるか等)や既存構造物等に対する影響(既存構造物に影響を与えない、地表に変状をもたらさない等)の観点から評価を行なう。